≪友ヶ島2016≫海辺で夏の思い出を
●
和歌山県、友ヶ島。
そこは普段は無人島となって静かな場所だが、この季節だけは違う。
夏とゴールデンウィークになれば、観光客が押し寄せ、往復船に乗るのに列をつくる観光客すらいるほどだ。
観光客のマナーの悪さに島が怒りとして放ったのか、至る所で妖化減少が発生し、つい先日まではFiVEによる討伐作戦が展開されていた程である。
しかし、覚者達の迅速な対応によって島の文化遺産は守られたのだ。
こうして作戦完了の報酬として、ここはFiVEの避暑地として貸し出されるようになり、今に至る。
「お疲れ様、今日はゆっくり楽しんでいってね」
戦い終えた彼等を『Murky Prophet』西園寺・護(nCL2000129)が、燦々と輝く太陽と共に笑顔で出迎える。
浜辺はゴミ一つ無く、彼等の活躍で元の綺麗な海岸を取り戻していた。
そんな大仕事を終えた彼等を労うためにと、護は警備員をしている社員を集め、浜辺におもてなしの準備をしていた。
ご案内した綺麗な浜辺には、グループごとに囲めるような大きなグリルが幾つもあり、既に肉や野菜のプレートもいっぱいに並べられている。
各グリルの側には、氷をいっぱいに詰めたクーラーボックスがあり、酒やソフトドリンクもたっぷりとつめ込まれていた。
至れり尽くせりなバーベキューセットとは別に、既にいい匂いを立てているものもある。
大きなグリルで焼かれるTボーンステーキや、チキン、大きなハンバーグまで焼かれていた。
バーベキューといえば肉、本能を直撃する肉の美味そうな香りこそが猛暑の夏でも食欲を促す。
特に戦い疲れた身体はタンパク質を求め、一層食欲をそそるだろう。
「食材と飲み物は沢山準備したから、遠慮無くね? 泳ぐならそこの海の家で着替えができるようにしたから、そっちを使ってね」
ボロボロだった海の家も、そこそこ綺麗に見えるように清掃され、温水が使えるようにシャワールームも整備済みである。
今日まで命がけの戦いを切り抜けてきた覚者達。
またこの夏を迎える為にもゆっくりと楽しんで貰いたいと、珍しく穏やかな気持ちで護は微笑んでいた。
和歌山県、友ヶ島。
そこは普段は無人島となって静かな場所だが、この季節だけは違う。
夏とゴールデンウィークになれば、観光客が押し寄せ、往復船に乗るのに列をつくる観光客すらいるほどだ。
観光客のマナーの悪さに島が怒りとして放ったのか、至る所で妖化減少が発生し、つい先日まではFiVEによる討伐作戦が展開されていた程である。
しかし、覚者達の迅速な対応によって島の文化遺産は守られたのだ。
こうして作戦完了の報酬として、ここはFiVEの避暑地として貸し出されるようになり、今に至る。
「お疲れ様、今日はゆっくり楽しんでいってね」
戦い終えた彼等を『Murky Prophet』西園寺・護(nCL2000129)が、燦々と輝く太陽と共に笑顔で出迎える。
浜辺はゴミ一つ無く、彼等の活躍で元の綺麗な海岸を取り戻していた。
そんな大仕事を終えた彼等を労うためにと、護は警備員をしている社員を集め、浜辺におもてなしの準備をしていた。
ご案内した綺麗な浜辺には、グループごとに囲めるような大きなグリルが幾つもあり、既に肉や野菜のプレートもいっぱいに並べられている。
各グリルの側には、氷をいっぱいに詰めたクーラーボックスがあり、酒やソフトドリンクもたっぷりとつめ込まれていた。
至れり尽くせりなバーベキューセットとは別に、既にいい匂いを立てているものもある。
大きなグリルで焼かれるTボーンステーキや、チキン、大きなハンバーグまで焼かれていた。
バーベキューといえば肉、本能を直撃する肉の美味そうな香りこそが猛暑の夏でも食欲を促す。
特に戦い疲れた身体はタンパク質を求め、一層食欲をそそるだろう。
「食材と飲み物は沢山準備したから、遠慮無くね? 泳ぐならそこの海の家で着替えができるようにしたから、そっちを使ってね」
ボロボロだった海の家も、そこそこ綺麗に見えるように清掃され、温水が使えるようにシャワールームも整備済みである。
今日まで命がけの戦いを切り抜けてきた覚者達。
またこの夏を迎える為にもゆっくりと楽しんで貰いたいと、珍しく穏やかな気持ちで護は微笑んでいた。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.目一杯楽しんでください。
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
初めましての方はお初にお目にかかります、再びの方はご愛好いただきありがとうございます。
常陸 岐路です。
夏の思い出作りということで、バーベキューと海水浴のイベントです。
これと絞って貰えると描写しやすくなりますので、よろしくお願い致します。
【イベント内容】
[バーベキュー]
真新しいアウトドアセットで準備されたバーベキューの卓が幾つもあります。
とりあえずということで卓分けしてますが、お好きに移動していただいても大丈夫です。
既にテーブルに牛、豚、鳥に色んな野菜類などが盛られた皿がありますが、おかわり自由です。
ごはんがないと食べれない人用におにぎりもあるので、ご安心を。
同じく、各テーブルに大きなクーラーボックスが置いてありますが、缶ジュースと缶ビールが詰まってます、同じくおかわり自由です。
冷えた缶って飲むときにとても冷たくて、夏には堪りませんよね。
各テーブルとは別に、炊き出しにでも使いそうな大きなグリルで、欧米チックな大物を焼いてます。
ステーキやハンバーグ、大きなチキンステーキから、でかい肉のアレを回しながら焼いてケバブとか作ったりしてます。
[海水浴]
近くにある海の家で着替えとシャワーが浴びれるようになっています、シャンプーなどのアメニティも準備済み。
海は透き通った綺麗な水が打ち寄せ、水温もちょうどよくなっています。
ビーチボールや浮輪等の遊具も置いてあるので、ご自由にどうぞ。
バーベキューをしているところと、波打ち際までは少し離れているので、ビーチボールで遊んだりしても大丈夫です。
勿論スイカも準備済みなので、スイカ割りされたい方はバーベキューのところにいる社員さんからもらってきてください。
【海辺にいる人】
[西園寺 護]
大きなグリルの方で社員のお手伝いをしようとしていますが、社長だからと断られてパラソルの下でゆっくりしています。
パラソルは、大きなグリルの側なので、気になる方はどうぞお声掛けてあげてください。
いつもの格好とは違い、フリル飾りの多い白いビキニ姿に腰にパレオを巻いてます。
目元の眼帯も白色のすっきりした防水デザインのものと、髪を緩めのポニーテールにまとめています。
……ぁ、一応男です。
[西園寺工業の社員]
何時もは警備員などをしている肉体労働派の方々、若い人が多くガッチリした体付きのいい人達。
大きなグリルで色んなのを焼いたり、おかわりの食材や飲み物を準備したりしています。
遊具などの準備も彼等が行っています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
相談日数
7日
7日
参加費
50LP
50LP
参加人数
20/30
20/30
公開日
2016年09月13日
2016年09月13日
■メイン参加者 20人■

●
「さあお前ら、覚悟はいいか! 中途半端は許されないぞ!」
晴天に響く気合十分の掛け声は、鹿ノ島・遥が発したものだ。
ブルーシートの上には西瓜が一つ、それを指さし、バーベキューを楽しむ一度へとその指先をずらす。
「綺麗に砕いて、バーベキューしてる人たちにデザートとして供給するんだからな! できるだけ木っ端微塵にするんだぞ! 」
木っ端微塵にしたら食べるところがはじけ飛ぶのだが、そこは考えられているのか。
「正々堂々! 遊びでも全力勝負だ!」
「遊びとはいえ真剣勝負だもんね!」
「がんばるぞー!」
天堂・フィオナ、御影・きせき、鐡之蔵 禊の三人も気合十分の声で応え……SUIKA SLAYER、西瓜が叩き割られるどころか抹殺される夏の戦が幕を開けた。
そしてトップバッターは遥、20回も回転し、目隠ししたままふらふらと歩き出す。
「もうちょっと右だ!」
ライバルとはいえ、正々堂々を貫くフィオナは遥に的確な指示を飛ばす。
「ここかぁっ!」
振り下ろされる正拳突き、西瓜の左側面が削げるように粉砕された。
鹿ノ島・遥 芸術点 7/10 割れ具合 4/10 合計11点。
「僕も負けないよ!」
遥に負けじと二番手のきせきは、目隠しのまま勢い良く回る。
ハイバランサーまで働かせて、何一つ抜かりがない……と思ったが、目が回るのは足場が悪いとは異なった。
ふらふらと千鳥足で近づいていき、足に感じる砂の感触がシートへと変わっていく。
「そこだー! 当たれー!」
振り下ろされた西瓜は左側へと斜めに直撃し、遥が抉った部分が輪切りになったように崩れ落ちた。
御影・きせき 芸術点 4/10 割れ具合 7/10 合計11点。
今年こそはいっぱいの思い出を作ろうと、禊は何時も異常に元気に溢れている。
大学最後の夏、青い春は二度と訪れないのだ。
目一杯楽しむ、だから回転数も倍に増えて勢いも着けてしまう。
終わるときには右に左にたたらを踏み、そのままの勢いで歩き出す。
「もう少し直進だ!」
「少し左へ!」
「そう、そのままだよ!」
友の声に導かれながら進んだ先、そこだと聞こえた瞬間に棒が振り下ろされた。
がつりと西瓜の手前側に棒がめり込み、そこの表面が削れ落ちていく。
鐡之蔵 禊 芸術点 6/10 割れ具合 3/10 合計10点。
「大丈夫?」
「さ、流石にぐるんぐるんするが……」
砂に足がめり込みそうなほどに回転し、風切る音に禊の心配するも、フィオナは大丈夫だとサムズアップする。
皆の指示に右に左によろけながらも接近すると、ゆっくりと息を吸い込みながら振りかぶる。
「ここだっ!」
中央ど真ん中、真っ直ぐな彼女の力が綺麗に西瓜に直撃したことで西瓜はまっぷたつだ。
棒の部分だけ粉砕された果肉がシートでワンバウンドし、赤い飛沫となって彼女の顔へぶちまけられる程に。
天堂・フィオナ 芸術点 8/10 割れ具合 9/10 合計17点。
皆と一緒に食べる不揃いの西瓜の味は、夏のいい思い出となったことだろう。
「いやあ、海は去年泳いだきり……って言っても、それが当たり前か」
のんびりと日差しの下へ繰り出した酒々井千歳(CL2000407)は、青空を仰ぐ。
その隣を駆け抜けていく酒々井 数多(CL2000149)は、千歳とは対照的に最初からトップギアのテンションではしゃいでいた。
バニーガールのような水着姿で彼に振り返ると、満面の笑みを浮かべる。
「えへへ、つかまえてにーさま」
甘い感情が溢れかえり、背景は薄桜色とハートで埋め尽くされていそうな程。
何時もよりも割増の元気に妙な違和感を覚えながらも、彼女へと近づいていく。
「こらこら、あんまりはしゃぎ過ぎちゃダメだよ。まずは準備運動から……」
波打ち際を駆けまわる二人、やっと千歳の手が届いても数多は止まらない。
水をかけてすり抜け、夢のように幸せと心の中で呟いた瞬間、世界が回った。
そして千歳の予感は的中し、目を回す彼女をお姫様抱っこに抱えるとパラソルの下へと向かう
「あの、にーさまごめんなさいね、はしゃいじゃって」
せっかくの海なのに熱中症で倒れるなんて、先程までとは打って変わってその表情は曇っていく。
しかし、千歳は緩く頭を振って数多へ微笑みかける。
「様子が変だと思ったら……しばらくはちゃんと影で休みなよ」
大事に至らなくてよかったと安堵する千歳の優しさに、彼女らしい明るい微笑みが浮かぶ。
「このまま結婚式に連れて行ってもらっても構わないわ! にーさま」
「はは、冗談を言う元気があるなら大丈夫かな。ちゃんと傍にいてあげるから、しっかり休むんだよ」
彼が傍に居てくれるなら、ずっとパラソルの下でも幸せだった。
経口補水液のボトルを差し出す千歳の手ではなく、その体に両手を伸ばしながら思うのだった。
●
「海! 海水!! 美味しいかな!?」
鳴神 零は海辺へと元気いっぱいにたどり着くと、しゃがみ込んで救い上げた海水を口に運ぶ。
勿論結果はその塩辛さに、不味いと吐き出していた。
「お前本当に馬鹿だな」
彼女の後についてきた諏訪 刀嗣が、呆れ顔で呟いた。
「馬鹿じゃないし、聞こえてるわよ! ほら、暑いんだからちょっとくらい海に入りなさいよ!」
そんなところで澄まし顔でいるんじゃないと言わんばかりに、彼の手を掴もうとする。
しかし触れ合うことを嫌う彼の性格を思い出し、駄目だったと その寸前で手が止まってしまう。
「はゎ、ぎゃあ!?」
「涼しくなっただろ」
止めた手を刀嗣が掴んで足を引っ掛け、派手に回転させて海に叩き込んだのだ。
憎たらしい笑みがみえると、女の子ぐらい大切に扱えと起き上がり、掴みかかろうと空振っては、水辺で二人がじゃれあう。
「お前さっきからもぞもぞ何やってんだ?」
「うん、なんかちょっと小さいのよね水着が」
ビキニで派手に動き回れば、それだけ身体の凹凸に食い込むことになる。
平然と直そうとする彼女に、刀嗣が小さくため息を零す。
「水着を直すのは良いけどよ、ちったぁ人目を気にしろよな」
自分以外に見られたら面白く無い、そんな悪態とは違う感情に彼は気づくだろうか。
「じゃー次食い込んだら、諏訪くんが直してよ」
きょとんと呟く零に、何故俺がと声を張り上げて取り乱してしまう。
だが、零はその瞬間に目を輝かせて彼を海に叩き込んで、先ほどの恨みを晴らすのであった。
「日光浴で良いじゃない、全く」
バーベキューを堪能した後、黒崎ヤマトに誘われるがまま、砂浜へと向かう鈴駆ありす。
とはいえ、見上げる空は青く、気分もいい。
まぁいいかと彼のお願いに応じ、ピンクのパーカーを脱ぎ、白地に赤い星柄の可愛らしい水着姿を晒す。
寒がりな彼女の水着姿が見れるかどうか、それに落ち着きのなかったヤマトだが、彼女の艶姿に小さなガッツポーズをしていた。
「ありすの水着、やっぱり可愛いな。似合ってる!」
どの女性の水着姿より彼女から目が離せず、心臓は高鳴った。
彼の熱い視線に薄っすらと頬を赤らめながら、ありすは視線をそむける。
「や、やめなさいよ。そんな、恥ずかしいじゃない」
彼の真っ直ぐな言葉は嫌ではなく、もやっとする気持ちを誤魔化すように浜辺へと急かした。
風船のようなボールを、器用に弾きあう二人。
トスをしつつ、ヤマトは彼女の水着姿に視線が向かっていく。
(「無いと思ったけど」)
細い体の胸元、年頃の少年なら弾むボールよりそっちの弾みが気になる。
少しニヤけた表情に、感じ続けた視線が間違いでないとわかると、ありすはボールへと腕を振りぬく。
「もう、見すぎよ!」
「ぶっ!?」
鋭いスパイクが顔面へ直撃し、ぱたりとヤマトが後ろへ倒れていく。
「あっ……だ、大丈夫?」
駆け寄る彼女が彼の隣に両膝をついて覗き込むと、零れ落ちたボールの影から楽しげな笑みが現れた。
安堵の微笑みをみせるありす、ヤマトも季節のように変わる表情に見惚れての笑顔だった。
(「学園で他の皆と一緒に楽しくやっている仲だけど、女の子と二人で海なんて、僕にそんな日が来るとは」)
着替え終えた宮神 羽琉は、落ち着かぬ様子で海の家の前で誰かを待っていた。
夏の海で女の子と二人で遊ぶという、高いフラグの緊張に気弱な彼の脳内はパニック状態である。
「お待たせ! どうかしら?」
暖簾を潜って姿を表した姫神 桃の水着姿を見るや、羽琉はぴしっと固まった。
普段の和装と同じ紫色を主体にしたビキニは、大胆に白い肌が晒されている。
それだけではない、二つ結いにされた髪型に飾りのリボンと普段と異なる可愛らしさ、色も交えた仕上がり。
感無量とはまさにこのことだが、幸せすぎて呼びかける声に反応できないのは残念なところか。
「羽琉くん?」
「……! あの、とてもいい、ですよ」
羽琉は覗きこむ橙の瞳にはっとすると、精一杯の感想を絞りだす。
「ありがとう、さ、遊びましょ♪」
お褒めの言葉にご満悦な笑顔を見せ、桃は彼の手を取って海へと誘う。
何時も生徒会で支えてもらっているのだから、今日はしっかりと休んで欲しいと願って。
夢見心地な表情な羽琉は、その熱から逃れられず、海で泳いでも熱は抜けずビーチボールはぽとりと落とすこともしばしば。
(「どうしよう、海に入っても暑いです……」)
「大丈夫?」
少し呆けていた彼の頬にぴたりと冷えた缶ジュースを当てる桃。
前かがみになって覗きこむ彼女が、間近に見え、彼の熱は早々冷めないだろう。
●
「たまきちゃんの水着、本当によく似合ってます」
守衛野 鈴鳴の率直な感想に、そうですか? といいながら緑と白のチェック柄のチューブトップの胸元に手を当てて、賀茂 たまきは少し頬を赤らめていた。
「鈴鳴ちゃんのも似合ってますよ」
鈴鳴の紫色の水玉模様の水着姿も可愛らしく、鈴鳴もお褒めの言葉に恥じらい、一層日差しが暑く感じながら浅瀬へと向かう。
「えいっ!」
「きゃっ!? えへへ、私だって負けませんよっ!」
海へ踏み込むと、たまきの水かけの悪戯に、鈴鳴が笑顔で水を掛け返す。
「負けませんよ……! 鈴鳴ちゃん!」
張り切って派手に水を巻き上げながら、甘くはしゃぐ声が響きあう。
泳げない鈴鳴が海に慣れてきたところで、たまきはゴーグルを彼女へ差し出す。
「肩くらいの深さの所まで入るのに挑戦です!」
「はいっ!」
繋いだ互いの手から流れる、自身とは異なる体温。
それが程よく冷たい水の中で一入強く感じ、たまきは鈴鳴をちらりと見やり、胸の鼓動を強める。
視線が重なり、微笑む鈴鳴も暖かさと優しさに安らぎのひと時を感じていた。
そして肩ぐらいまでの深さまで来ると、二人はゴーグルを掛けて水中を覗き込む。
薄っすらと見える砂の波模様と泳ぎまわる小魚の群れは、神秘的な景色だろう。
手を繋いだまま、鈴鳴はそっと泳ぎまわる魚達へ手を伸ばし、指先が触れると花火の様に群れが散っていった。
顔を上げ、満面の笑みで顔を合わせる二人には最高の思い出となって刻まれたことだろう。
「夏やー! 海やー! 海水浴やー!! 」
「時雨ぴょん、砂浜を走るわんこみたいだなぁ……」
お姉さんぶった楠瀬ことこは、日陰から海へ叫ぶ榊原 時雨にローテンションでしみじみと呟く。
「なんやテンション低いなぁ?」
「だって暑いんだもんー」
気心しれた友人の前だからか、ビーチチェアの上でぐったりと伸びることこ。
「いやほら、暑いから海水浴なんよ? っと、ことこさんは日焼け止めぬったやろか?」
「日焼け止め? 勿論対策は万全だよっ」
それがどうしたのと首を傾げることこに、時雨は気恥ずかしそうな笑みを浮かべる。
「べたで悪いんやけど、うち背中の方だけ届かんくてやね……」
「はいはい。ちょっと髪の毛持ち上げててね?」
時雨はありがとなとお礼を告げると背中を向け、彼女に促されるがままチェアに腰を下ろす。
日焼け止めを塗り広げていくと、ことこは唐突に指先で背中をつぅっとなぞりあげた。
「っ……なんでつーってするん!?」
「お約束だよね? 期待されてたよね?? ことこ悪くないよ?」
それを期待したのは、画面越しの紳士方だけだ。
「別にそんな期待してへんわ! 普通に塗ればえぇんよ!!」
「ぇー怒られた」
不満気に唇尖らせることこに、驚きを抑えこみつつ時雨が海へと引っ張りだす。
「って、わ、ちょ、危ない落ちるやないか!」
「武人たる者いかなる時も気を抜いちゃ駄目なんだよ?」
浮き輪に浮かぶ時雨を落とそうとすることこ、漫才の様な賑やかな掛け合いが海に景気よく響いていた。
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田場 義高も海へと繰り出したのは、彼の前ではしゃぐ妻子を見れば分かることだろう。
女神のような妻の美しさに、姫君のような娘の愛らしさに、幸せを感じる彼こそ愛妻家の子煩悩だろう。
「そうだ、その調子で足を動かしてごらん?」
泳ぎの覚束ない娘の手を取り、バタ足の練習。
補助なしに沈まずこちらへと進む娘の成長に微笑み、抱き上げたり。
「うぉっ、やったな~!」
悪戯に水を浴びせられ、子供のように妻と二人で水飛沫を掛けあったり。
家族揃ってバーベキューを突っついたりと、そんなありふれた夏の思い出がとても幸せなのだ。
視線を二つ感じたが、それに構う余裕なんてない。
また事件で非現実的な現実に戻るまで……遠慮無く幸せを噛みしめる。
貸し切りの浜辺には美少女、美女が多く、切裂 ジャックの若い好奇心を満たすには十分だった。
ただ、好奇心は満ちても実りはなく、色香に彷徨い、腹の鳴る音にすごすごと時任・千陽の元へ戻る。
「丁度いいところに戻りましたか、切裂」
千陽は酢を網に塗りこみ、焼き付かないように下準備を終えたところだ。
後は着火すればバーベキューが始められる。
そして、皿に追加された食材にジャックが気づいた。
「魚捌けんの? すごいやん!」
下処理済のアジに、ジャックが感心したように呟く。
「流石に魚を捌く程度でしたら普通にできますので」
「マジか! ときちかが釣って、ときちかが捌いて、きっとおいしいぜ! ぁ、俺の育てたソーセージも、食べてみる?」
では遠慮無くと千陽が皿を差し出すと、ジャックが程よく焼けたソーセージをそこへ乗せていく。
「そういえば、切裂はちゃんと食べていますか? 割りと細い方ですし、しっかりと食べて筋肉をつけたほうがいいかもしれませんね」
色白に華奢な体付きをしたジャックを一瞥しつつ千陽が呟く。
「うおぉぉ、俺は後衛系男子だからいーの!」
ポジション柄だと答えながらも、彼が更に乗せていく食材に表情が少し引きつった。
緑色の悪魔を見つけるやいなや、こっそりと彼の皿へ戻そうとする。
「ピーマンもきちんと食べてください。好き嫌いなく」
「ひっ、バレたか。今日は無理、今日は駄目!!」
楽しいひと時に苦い思い出はいらないと、緑の奴が二人の皿を何度も行き交うのであった。
パラソルの下で何気なく義高達に視線を向けていた護は、自身にかかる別の影に気づいた。
「……どうしたの?」
「あぁ、前の件、あれからどうなったかと気になってな」
坂上 懐良は、レタルを襲った連中の調査結果を護へ問いかける。
「花山院、もしかしたらその名前をこの先聞くかもね?」
それ以上はまだと苦笑いを浮かべる護に、そうかと懐良も薄っすらと笑みを浮かべた。
「せっかくの夏のバカンスだ、護も楽しもうぜ?」
ほらと差し出された手に、ありがとうと護の手が重なり、引き起こされていく。
「一緒に泳ごうぜ、泳げないならオレが泳ぎを教えてやるぜー!」
ぐいぐいとエスコートする彼に、薄っすらと微笑みを浮かべながら護は海へと誘われる。
そして日も傾き掛けた頃、予想通りにシャワールームは混雑していた。
「男同士一緒にあびよーぜー」
どことなく下心混じりな笑みを見せる懐良に、護は濡れた髪をさらりと揺らし、首を傾けてブラトップに指先を掛けた。
「見たい?」
「ははっ。護、オレはいつでも協力してやるからな。お兄ちゃんとか言って甘えたくなったら、なんでも頼っていいぞ!」
ぺちりと肩を軽く叩く懐良を、少し呆けたように見上げる。
「お礼とかしたくなったらレタルちゃんのプライベート情報とかでいいぜ! 」
冗談めかした一言に、クスッと微笑みながら瞳を伏せた。
「ありがとう」
でも妬けちゃうなと、心の中に呟いた一言を飲み込んで夏の海は終わっていく。
「さあお前ら、覚悟はいいか! 中途半端は許されないぞ!」
晴天に響く気合十分の掛け声は、鹿ノ島・遥が発したものだ。
ブルーシートの上には西瓜が一つ、それを指さし、バーベキューを楽しむ一度へとその指先をずらす。
「綺麗に砕いて、バーベキューしてる人たちにデザートとして供給するんだからな! できるだけ木っ端微塵にするんだぞ! 」
木っ端微塵にしたら食べるところがはじけ飛ぶのだが、そこは考えられているのか。
「正々堂々! 遊びでも全力勝負だ!」
「遊びとはいえ真剣勝負だもんね!」
「がんばるぞー!」
天堂・フィオナ、御影・きせき、鐡之蔵 禊の三人も気合十分の声で応え……SUIKA SLAYER、西瓜が叩き割られるどころか抹殺される夏の戦が幕を開けた。
そしてトップバッターは遥、20回も回転し、目隠ししたままふらふらと歩き出す。
「もうちょっと右だ!」
ライバルとはいえ、正々堂々を貫くフィオナは遥に的確な指示を飛ばす。
「ここかぁっ!」
振り下ろされる正拳突き、西瓜の左側面が削げるように粉砕された。
鹿ノ島・遥 芸術点 7/10 割れ具合 4/10 合計11点。
「僕も負けないよ!」
遥に負けじと二番手のきせきは、目隠しのまま勢い良く回る。
ハイバランサーまで働かせて、何一つ抜かりがない……と思ったが、目が回るのは足場が悪いとは異なった。
ふらふらと千鳥足で近づいていき、足に感じる砂の感触がシートへと変わっていく。
「そこだー! 当たれー!」
振り下ろされた西瓜は左側へと斜めに直撃し、遥が抉った部分が輪切りになったように崩れ落ちた。
御影・きせき 芸術点 4/10 割れ具合 7/10 合計11点。
今年こそはいっぱいの思い出を作ろうと、禊は何時も異常に元気に溢れている。
大学最後の夏、青い春は二度と訪れないのだ。
目一杯楽しむ、だから回転数も倍に増えて勢いも着けてしまう。
終わるときには右に左にたたらを踏み、そのままの勢いで歩き出す。
「もう少し直進だ!」
「少し左へ!」
「そう、そのままだよ!」
友の声に導かれながら進んだ先、そこだと聞こえた瞬間に棒が振り下ろされた。
がつりと西瓜の手前側に棒がめり込み、そこの表面が削れ落ちていく。
鐡之蔵 禊 芸術点 6/10 割れ具合 3/10 合計10点。
「大丈夫?」
「さ、流石にぐるんぐるんするが……」
砂に足がめり込みそうなほどに回転し、風切る音に禊の心配するも、フィオナは大丈夫だとサムズアップする。
皆の指示に右に左によろけながらも接近すると、ゆっくりと息を吸い込みながら振りかぶる。
「ここだっ!」
中央ど真ん中、真っ直ぐな彼女の力が綺麗に西瓜に直撃したことで西瓜はまっぷたつだ。
棒の部分だけ粉砕された果肉がシートでワンバウンドし、赤い飛沫となって彼女の顔へぶちまけられる程に。
天堂・フィオナ 芸術点 8/10 割れ具合 9/10 合計17点。
皆と一緒に食べる不揃いの西瓜の味は、夏のいい思い出となったことだろう。
「いやあ、海は去年泳いだきり……って言っても、それが当たり前か」
のんびりと日差しの下へ繰り出した酒々井千歳(CL2000407)は、青空を仰ぐ。
その隣を駆け抜けていく酒々井 数多(CL2000149)は、千歳とは対照的に最初からトップギアのテンションではしゃいでいた。
バニーガールのような水着姿で彼に振り返ると、満面の笑みを浮かべる。
「えへへ、つかまえてにーさま」
甘い感情が溢れかえり、背景は薄桜色とハートで埋め尽くされていそうな程。
何時もよりも割増の元気に妙な違和感を覚えながらも、彼女へと近づいていく。
「こらこら、あんまりはしゃぎ過ぎちゃダメだよ。まずは準備運動から……」
波打ち際を駆けまわる二人、やっと千歳の手が届いても数多は止まらない。
水をかけてすり抜け、夢のように幸せと心の中で呟いた瞬間、世界が回った。
そして千歳の予感は的中し、目を回す彼女をお姫様抱っこに抱えるとパラソルの下へと向かう
「あの、にーさまごめんなさいね、はしゃいじゃって」
せっかくの海なのに熱中症で倒れるなんて、先程までとは打って変わってその表情は曇っていく。
しかし、千歳は緩く頭を振って数多へ微笑みかける。
「様子が変だと思ったら……しばらくはちゃんと影で休みなよ」
大事に至らなくてよかったと安堵する千歳の優しさに、彼女らしい明るい微笑みが浮かぶ。
「このまま結婚式に連れて行ってもらっても構わないわ! にーさま」
「はは、冗談を言う元気があるなら大丈夫かな。ちゃんと傍にいてあげるから、しっかり休むんだよ」
彼が傍に居てくれるなら、ずっとパラソルの下でも幸せだった。
経口補水液のボトルを差し出す千歳の手ではなく、その体に両手を伸ばしながら思うのだった。
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「海! 海水!! 美味しいかな!?」
鳴神 零は海辺へと元気いっぱいにたどり着くと、しゃがみ込んで救い上げた海水を口に運ぶ。
勿論結果はその塩辛さに、不味いと吐き出していた。
「お前本当に馬鹿だな」
彼女の後についてきた諏訪 刀嗣が、呆れ顔で呟いた。
「馬鹿じゃないし、聞こえてるわよ! ほら、暑いんだからちょっとくらい海に入りなさいよ!」
そんなところで澄まし顔でいるんじゃないと言わんばかりに、彼の手を掴もうとする。
しかし触れ合うことを嫌う彼の性格を思い出し、駄目だったと その寸前で手が止まってしまう。
「はゎ、ぎゃあ!?」
「涼しくなっただろ」
止めた手を刀嗣が掴んで足を引っ掛け、派手に回転させて海に叩き込んだのだ。
憎たらしい笑みがみえると、女の子ぐらい大切に扱えと起き上がり、掴みかかろうと空振っては、水辺で二人がじゃれあう。
「お前さっきからもぞもぞ何やってんだ?」
「うん、なんかちょっと小さいのよね水着が」
ビキニで派手に動き回れば、それだけ身体の凹凸に食い込むことになる。
平然と直そうとする彼女に、刀嗣が小さくため息を零す。
「水着を直すのは良いけどよ、ちったぁ人目を気にしろよな」
自分以外に見られたら面白く無い、そんな悪態とは違う感情に彼は気づくだろうか。
「じゃー次食い込んだら、諏訪くんが直してよ」
きょとんと呟く零に、何故俺がと声を張り上げて取り乱してしまう。
だが、零はその瞬間に目を輝かせて彼を海に叩き込んで、先ほどの恨みを晴らすのであった。
「日光浴で良いじゃない、全く」
バーベキューを堪能した後、黒崎ヤマトに誘われるがまま、砂浜へと向かう鈴駆ありす。
とはいえ、見上げる空は青く、気分もいい。
まぁいいかと彼のお願いに応じ、ピンクのパーカーを脱ぎ、白地に赤い星柄の可愛らしい水着姿を晒す。
寒がりな彼女の水着姿が見れるかどうか、それに落ち着きのなかったヤマトだが、彼女の艶姿に小さなガッツポーズをしていた。
「ありすの水着、やっぱり可愛いな。似合ってる!」
どの女性の水着姿より彼女から目が離せず、心臓は高鳴った。
彼の熱い視線に薄っすらと頬を赤らめながら、ありすは視線をそむける。
「や、やめなさいよ。そんな、恥ずかしいじゃない」
彼の真っ直ぐな言葉は嫌ではなく、もやっとする気持ちを誤魔化すように浜辺へと急かした。
風船のようなボールを、器用に弾きあう二人。
トスをしつつ、ヤマトは彼女の水着姿に視線が向かっていく。
(「無いと思ったけど」)
細い体の胸元、年頃の少年なら弾むボールよりそっちの弾みが気になる。
少しニヤけた表情に、感じ続けた視線が間違いでないとわかると、ありすはボールへと腕を振りぬく。
「もう、見すぎよ!」
「ぶっ!?」
鋭いスパイクが顔面へ直撃し、ぱたりとヤマトが後ろへ倒れていく。
「あっ……だ、大丈夫?」
駆け寄る彼女が彼の隣に両膝をついて覗き込むと、零れ落ちたボールの影から楽しげな笑みが現れた。
安堵の微笑みをみせるありす、ヤマトも季節のように変わる表情に見惚れての笑顔だった。
(「学園で他の皆と一緒に楽しくやっている仲だけど、女の子と二人で海なんて、僕にそんな日が来るとは」)
着替え終えた宮神 羽琉は、落ち着かぬ様子で海の家の前で誰かを待っていた。
夏の海で女の子と二人で遊ぶという、高いフラグの緊張に気弱な彼の脳内はパニック状態である。
「お待たせ! どうかしら?」
暖簾を潜って姿を表した姫神 桃の水着姿を見るや、羽琉はぴしっと固まった。
普段の和装と同じ紫色を主体にしたビキニは、大胆に白い肌が晒されている。
それだけではない、二つ結いにされた髪型に飾りのリボンと普段と異なる可愛らしさ、色も交えた仕上がり。
感無量とはまさにこのことだが、幸せすぎて呼びかける声に反応できないのは残念なところか。
「羽琉くん?」
「……! あの、とてもいい、ですよ」
羽琉は覗きこむ橙の瞳にはっとすると、精一杯の感想を絞りだす。
「ありがとう、さ、遊びましょ♪」
お褒めの言葉にご満悦な笑顔を見せ、桃は彼の手を取って海へと誘う。
何時も生徒会で支えてもらっているのだから、今日はしっかりと休んで欲しいと願って。
夢見心地な表情な羽琉は、その熱から逃れられず、海で泳いでも熱は抜けずビーチボールはぽとりと落とすこともしばしば。
(「どうしよう、海に入っても暑いです……」)
「大丈夫?」
少し呆けていた彼の頬にぴたりと冷えた缶ジュースを当てる桃。
前かがみになって覗きこむ彼女が、間近に見え、彼の熱は早々冷めないだろう。
●
「たまきちゃんの水着、本当によく似合ってます」
守衛野 鈴鳴の率直な感想に、そうですか? といいながら緑と白のチェック柄のチューブトップの胸元に手を当てて、賀茂 たまきは少し頬を赤らめていた。
「鈴鳴ちゃんのも似合ってますよ」
鈴鳴の紫色の水玉模様の水着姿も可愛らしく、鈴鳴もお褒めの言葉に恥じらい、一層日差しが暑く感じながら浅瀬へと向かう。
「えいっ!」
「きゃっ!? えへへ、私だって負けませんよっ!」
海へ踏み込むと、たまきの水かけの悪戯に、鈴鳴が笑顔で水を掛け返す。
「負けませんよ……! 鈴鳴ちゃん!」
張り切って派手に水を巻き上げながら、甘くはしゃぐ声が響きあう。
泳げない鈴鳴が海に慣れてきたところで、たまきはゴーグルを彼女へ差し出す。
「肩くらいの深さの所まで入るのに挑戦です!」
「はいっ!」
繋いだ互いの手から流れる、自身とは異なる体温。
それが程よく冷たい水の中で一入強く感じ、たまきは鈴鳴をちらりと見やり、胸の鼓動を強める。
視線が重なり、微笑む鈴鳴も暖かさと優しさに安らぎのひと時を感じていた。
そして肩ぐらいまでの深さまで来ると、二人はゴーグルを掛けて水中を覗き込む。
薄っすらと見える砂の波模様と泳ぎまわる小魚の群れは、神秘的な景色だろう。
手を繋いだまま、鈴鳴はそっと泳ぎまわる魚達へ手を伸ばし、指先が触れると花火の様に群れが散っていった。
顔を上げ、満面の笑みで顔を合わせる二人には最高の思い出となって刻まれたことだろう。
「夏やー! 海やー! 海水浴やー!! 」
「時雨ぴょん、砂浜を走るわんこみたいだなぁ……」
お姉さんぶった楠瀬ことこは、日陰から海へ叫ぶ榊原 時雨にローテンションでしみじみと呟く。
「なんやテンション低いなぁ?」
「だって暑いんだもんー」
気心しれた友人の前だからか、ビーチチェアの上でぐったりと伸びることこ。
「いやほら、暑いから海水浴なんよ? っと、ことこさんは日焼け止めぬったやろか?」
「日焼け止め? 勿論対策は万全だよっ」
それがどうしたのと首を傾げることこに、時雨は気恥ずかしそうな笑みを浮かべる。
「べたで悪いんやけど、うち背中の方だけ届かんくてやね……」
「はいはい。ちょっと髪の毛持ち上げててね?」
時雨はありがとなとお礼を告げると背中を向け、彼女に促されるがままチェアに腰を下ろす。
日焼け止めを塗り広げていくと、ことこは唐突に指先で背中をつぅっとなぞりあげた。
「っ……なんでつーってするん!?」
「お約束だよね? 期待されてたよね?? ことこ悪くないよ?」
それを期待したのは、画面越しの紳士方だけだ。
「別にそんな期待してへんわ! 普通に塗ればえぇんよ!!」
「ぇー怒られた」
不満気に唇尖らせることこに、驚きを抑えこみつつ時雨が海へと引っ張りだす。
「って、わ、ちょ、危ない落ちるやないか!」
「武人たる者いかなる時も気を抜いちゃ駄目なんだよ?」
浮き輪に浮かぶ時雨を落とそうとすることこ、漫才の様な賑やかな掛け合いが海に景気よく響いていた。
●
田場 義高も海へと繰り出したのは、彼の前ではしゃぐ妻子を見れば分かることだろう。
女神のような妻の美しさに、姫君のような娘の愛らしさに、幸せを感じる彼こそ愛妻家の子煩悩だろう。
「そうだ、その調子で足を動かしてごらん?」
泳ぎの覚束ない娘の手を取り、バタ足の練習。
補助なしに沈まずこちらへと進む娘の成長に微笑み、抱き上げたり。
「うぉっ、やったな~!」
悪戯に水を浴びせられ、子供のように妻と二人で水飛沫を掛けあったり。
家族揃ってバーベキューを突っついたりと、そんなありふれた夏の思い出がとても幸せなのだ。
視線を二つ感じたが、それに構う余裕なんてない。
また事件で非現実的な現実に戻るまで……遠慮無く幸せを噛みしめる。
貸し切りの浜辺には美少女、美女が多く、切裂 ジャックの若い好奇心を満たすには十分だった。
ただ、好奇心は満ちても実りはなく、色香に彷徨い、腹の鳴る音にすごすごと時任・千陽の元へ戻る。
「丁度いいところに戻りましたか、切裂」
千陽は酢を網に塗りこみ、焼き付かないように下準備を終えたところだ。
後は着火すればバーベキューが始められる。
そして、皿に追加された食材にジャックが気づいた。
「魚捌けんの? すごいやん!」
下処理済のアジに、ジャックが感心したように呟く。
「流石に魚を捌く程度でしたら普通にできますので」
「マジか! ときちかが釣って、ときちかが捌いて、きっとおいしいぜ! ぁ、俺の育てたソーセージも、食べてみる?」
では遠慮無くと千陽が皿を差し出すと、ジャックが程よく焼けたソーセージをそこへ乗せていく。
「そういえば、切裂はちゃんと食べていますか? 割りと細い方ですし、しっかりと食べて筋肉をつけたほうがいいかもしれませんね」
色白に華奢な体付きをしたジャックを一瞥しつつ千陽が呟く。
「うおぉぉ、俺は後衛系男子だからいーの!」
ポジション柄だと答えながらも、彼が更に乗せていく食材に表情が少し引きつった。
緑色の悪魔を見つけるやいなや、こっそりと彼の皿へ戻そうとする。
「ピーマンもきちんと食べてください。好き嫌いなく」
「ひっ、バレたか。今日は無理、今日は駄目!!」
楽しいひと時に苦い思い出はいらないと、緑の奴が二人の皿を何度も行き交うのであった。
パラソルの下で何気なく義高達に視線を向けていた護は、自身にかかる別の影に気づいた。
「……どうしたの?」
「あぁ、前の件、あれからどうなったかと気になってな」
坂上 懐良は、レタルを襲った連中の調査結果を護へ問いかける。
「花山院、もしかしたらその名前をこの先聞くかもね?」
それ以上はまだと苦笑いを浮かべる護に、そうかと懐良も薄っすらと笑みを浮かべた。
「せっかくの夏のバカンスだ、護も楽しもうぜ?」
ほらと差し出された手に、ありがとうと護の手が重なり、引き起こされていく。
「一緒に泳ごうぜ、泳げないならオレが泳ぎを教えてやるぜー!」
ぐいぐいとエスコートする彼に、薄っすらと微笑みを浮かべながら護は海へと誘われる。
そして日も傾き掛けた頃、予想通りにシャワールームは混雑していた。
「男同士一緒にあびよーぜー」
どことなく下心混じりな笑みを見せる懐良に、護は濡れた髪をさらりと揺らし、首を傾けてブラトップに指先を掛けた。
「見たい?」
「ははっ。護、オレはいつでも協力してやるからな。お兄ちゃんとか言って甘えたくなったら、なんでも頼っていいぞ!」
ぺちりと肩を軽く叩く懐良を、少し呆けたように見上げる。
「お礼とかしたくなったらレタルちゃんのプライベート情報とかでいいぜ! 」
冗談めかした一言に、クスッと微笑みながら瞳を伏せた。
「ありがとう」
でも妬けちゃうなと、心の中に呟いた一言を飲み込んで夏の海は終わっていく。

■あとがき■
お待たせしました、如何でしたでしょうか?
MVPは切裂 ジャックさんへ、夏の色香に彷徨うけど塩っぱい気持ちで戻ってくる感じが短いフレーズから伝わって、嗚呼…といいたくなる気持ちになりました。
皆様の夏の思い出に色を添えられれば嬉しく思います、ではではご参加いただきありがとうございました!
MVPは切裂 ジャックさんへ、夏の色香に彷徨うけど塩っぱい気持ちで戻ってくる感じが短いフレーズから伝わって、嗚呼…といいたくなる気持ちになりました。
皆様の夏の思い出に色を添えられれば嬉しく思います、ではではご参加いただきありがとうございました!
