水着と百合と熱い肌を重ねて
水着と百合と熱い肌を重ねて



 じりじりと焼けるような日差し、真夏日のプールは大賑わいだ。
 五麟市にあるこのプールも同様で、そんなひと目の付かない場所で、出来事が発生していた。
「……っ!!」
 ウォータースライダーへ向かう途中にある螺旋階段、その影に隠れた二人の少女。
 まだ女性というには青い体付きをした二人だが、その様子は少女と言うには難しいかもしれない。
 薄茶のくせ毛を揺らす少女が、長い黒髪の少女を壁際へ押しやるようにしながら身体を重ね、軽く爪先立ちになって唇を奪っているのだから。
「――は、ふふっ……香菜ちゃん、赤くなって可愛い」
 唇が離れ、ゆっくりと開かれた茶色い瞳が妖しく僅かに伏せられて、愉悦の微笑みを浮かべていく。
 香菜と呼ばれた少女は、少し赤みがかった黒の瞳を開き、困惑に目を回しながら小さく体を震わせる。
「菜緒ちゃん……ど、うして……?」
 わからない? と言いたげに首を傾げて微笑む香菜から、何時ものような無邪気で安堵するような雰囲気は感じられない。
 まるで獲物を前に舌舐めずりされるような心地になり、堪らず香菜はその場を離れようと彼女を両手で突き飛ばそうとする。
 しかし、びくともしなければ、逆にその両手を小さな片手で捕まえてしまい、力で捩じ伏せるように、ゆっくりと床へと寝かせてしまう。
「だって、香菜のこの目が……他の娘を追いかけるのが、凄く……苦しいんだもん。私以外をなんで見るの? 私は……こんなに香菜の事が好きで堪らないのに」
 唐突な告白、まさかそんな想いを向けられているとは思わず、ぶぁっと顔が赤色に染まっていく。
 どうして? 女の子なのに? いつから?
 色んなフレーズが浮かぶものの、それはまた掻き消されてしまう。
「ふ……っ!?」
「ん……っ、はふ……」
 ぴたりと白い肌を重ねあわせながら、唇が重なりあう。
 最初のキスとは異なり、何度も唇を啄んで広げれば、口内へと舌が滑り込んでいく。
 自分とは違う熱、動きが舌を追いかけ回す。
 じたじたと身体を捩って暴れ、どうにかそこから抜けだそうとするもまるで動かない。
 それどころか、頭を抱え込むようにしてキスを深く深く重ね、ぬるりとした感触が混じりあう。
 息をするのすら苦しくて、僅かに唇が離れても酸素を求めて逃げることを忘れてしまう。
 それをいいことに、互いの唾液が分からなくなるほど融け合わせ、いつの間にかゾワゾワとした何かが背筋を登っていく。
 ぴくりと何度か体を震わせる頃、満足気な微笑みを浮かべる菜緒が顔を上げる。
 つぅ……と伝い落ちる、少し白くなった銀糸が伸びていき、ぷつりと途切れて宙に消えていく。
「誰にも渡さないんだから」
 その一言が反響するように耳に残りながら、香菜は意識を失うのであった。


「戦況予報するよ」
 涼しい空気に満たされた会議室で、薄っすらと微笑みながら西園寺・護(nCL2000129)が一同を出迎える。
 早速説明にと部屋の明かりを落とすと、プロジェクターがプールの写真を投射していく。
「五麟市にある大きなプール施設なんだけど、ここに古妖が出るって夢で見たよ。強さはそれほどではないんだけど視認しづらい能力を持ってるんだ、程々に攻撃して頭を冷やしてあげてくれるかな?」
 戦闘能力は覚者が6人で囲めば、難なく倒せてしまうぐらいだという
 だけど と、護は苦笑いを浮かべながら言葉を続ける。
「問題は攻撃が通るまで一定の条件があるみたい。古妖が放つオーラを直撃した人間が、一定の行動を成功させる度に攻撃が通るようになっていくの」
 それまでは幾ら攻撃してもろくなダメージにならないし、探すのも一苦労だ。
 多少相手の攻撃を受けて条件を満たし、おびき出すのが良いというのが護の考えである。
 集まった覚者達が、その攻撃について話を進めるように視線が促す。
「特にダメージも痛みもない。異常をきたす事もないから大丈夫だよ? ただ、その攻撃を受けた女性が、近くにいる見知った同性を見た瞬間、キスをしたくなるだけ」
 それは したくなるだけ という言葉で片付ける内容ではない。
 呆気にとられた彼らをよそに、困ったように微笑みながら護は掌を頬に添えた。
「レタルでも連れて行って、自分と適当に遊んでるところで尻尾出したら皆にお願いしようかなって思ったんだけど、そんな危ない事させられないって怒られちゃったよ」
 属の因子は未だに謎が多い、稀有な存在を囮に使うのは、流石に無理があるだろう。
 一層静まり返った空気に、クスクスと沸き立つような笑い声を溢しながら護は目を細める。
「ふふっ、今のは冗談だよ。あと、男の人には問題ないはずだけど、心が男の人じゃない場合、対象にされちゃうから気をつけてね?」
 所謂男の娘というやつだろう、それは対象になるらしい。
 夏の日に湧いた悪霊退治がいま始まる。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:常陸岐路
■成功条件
1.熱き臨界点に攻撃が通るようにする。
2.熱き臨界点を攻撃し、熱を冷まして説得する。
3.なし
【ご挨拶】
 初めましての方はお初にお目にかかります、再びの方はご愛好いただきありがとうございます。
 常陸 岐路です。
 お色気です、大事なことなのでもう一度言いますがお色気です。
 度合いについては、それとなくプレイングに書いていただければ調整できますので、お気兼ねなくお伝え下さい!

【戦場情報】
[概要:五麟市のプール]
 五麟市にあるプールの一つです、全体として流れるプールと中央にある25mプール、ウォータースライダーがメインのプール施設となります。
 その他に冷えた身体を温めるジャグジーバスや、シャワールーム(個室だが二人ぐらいは入れる)などもあります。
 ひと気が少ないと現れないため、周囲にはFiVEの関係者が一般客を装って点在しているので、戦闘になれば直ぐに逃げるのでご安心を。


【敵情報】
 ・古妖「熱き臨界点」×1

[概要:熱き臨界点]
最初は全く見ることが出来ない透明な状態で出現します。
その後、一定の条件を満たすと徐々に見えるようになっていきます。
完全に可視化できた時は人のような半透明な全裸姿に黒いベルトのようなものを色々巻きつけた、奇妙な姿となって見えます。

[能力]
妖精と夏の支配:完全に気配を消し、透明になって夏の騒がしさに溶けこむことが出来ます。完全に消えている状態では攻撃が当たりませんが、下記の「熱風の誘い」が直撃しキスまで完了する度に、透明度が下がり、徐々に気配が感じ取れるようになります。
「冷めた葡萄酒と寒い戯言」を使われると、透明度と気配の消え具合が少し回復します。


[攻撃方法]
熱風の誘い:遠距離攻撃、ダメージはありません。命中率が極めて高い攻撃で、直撃すると女性(心が女性も含む)が同性を見た瞬間、異様なほど情熱的な気持ちが沸き立ち、キスからのボディランゲージで伝えようとしますが、キス以降どれぐらいで解けるかは直撃した人次第です。

冷めた葡萄酒と寒い戯れ言:自分のみ。ひんやりとした空気を一瞬だけ周囲に放ち、自信の透明度と気配の薄れ具合を回復させ、認識しづらくさせます。

熱き夜の花火:遠距離、単体攻撃。命中と攻撃力は並です。水面を爆発させて攻撃したり、陸上であれば花火のようなオーラを当てて攻撃します。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
5日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2016年09月07日

■メイン参加者 6人■



 8月某日、護はプールに出現した古妖への対応依頼の報告書を手にしていた。
 なかなか面倒な古妖だったが、大事なかっただろうか?
 物思いに耽りながら角を曲がると、お目付け役の初老の男とぶつかり、書類が舞い散った。


(「忍びたる者、いついかなる時も平常心よ。これくらいで惑わず、受けて立つわ! 」)
 もし術に掛かるなら……同性と初めて唇を交わすことになるが、ほんの少し引っ掛かりを感じながらも気合充分な姫神 桃(CL2001376)は、フリルスカート付きの水着姿でプールの水流と戯れる。
(「キスで姿を現すですかっ、なんだか愛の力で姿を現すみたいですねっ! 」)
 クリームイエローのビキニに身を包んだ『独善者』月歌 浅葱(CL2000915)は、桃の傍で違う方向で気合充分に心の中で呟いた。
 彼女にとって桃の傍に居たかったのは、もしもの時のとても大切な意味があったから。
 一方、その直ぐ側で不安げに辺りへ視線を向ける『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)は、真隣の水端 時雨(CL2000345)を含めた中学生少女達の保護者といったところだ。
 保護者というには、少々頼りないが身の危険がある以上仕方ないだろう。
 しかし透明な古妖は人知れず彼女達に熱気をそっと置いていく。

(「ミュエルさん、すらっとしてて綺麗……お姉さまみたい」)
 熱の篭った吐息を溢しながら、桃は隣りにいる彼女を見上げた。
 柳のような美しさを持つ彼女へ惹かれ、上気した顔を背伸びするように近づけていく。
「っ、桃さん……?」
 熱気に当てられ、ドグンと心臓が跳ね上がり、体温が上がっていく心地。
 少し意識がふらついた瞬間に近づいてきた桃に、驚くミュエルだが戸惑うばかりで動けない。
 小さな手が控えめな胸元に添えられ、年下の少女に唇を奪われる。
「んっ……!」
 紫の瞳が一層大きく開かれ、ほんの数秒の口吻が長く感じるほど意識を惑わす。
「っ、ふ……」
 僅かに唇の隙間が開き、桃の熱の篭った蕩けた瞳がミュエルを見つめる。
「もっと声を聞かせて、お姉さま」
 唇の合間から零れた掠れた音、それを求める桃は頬をすり寄せながら、おねだりした。
 貪られる側だというのに、ミュエルも彼女の熱い視線に素肌から痺れるような何かが走る。
「ひゃ……っ、ぁ……っ」
 小さな舌が陶器のような首筋の肌をなぞりあげ、こそばゆい刺激に小さな悲鳴が溢れる。
 ぎゅっと目をつぶり、総身を震わせるミュエルを見つめる桃は、その声は自分だけのものと淡い嫉妬で胸が締め付けれてしまう。
 わがままな葛藤に動きを止めた彼女を、ミュエルが熱を帯びた視線で見つめる。
「――ねぇ、してくれないの……?」
 唇を待ちわびるミュエルの問いかけが、唐突に桃を現実に引き戻した。
 この状況をどうにかできる思考は働かず、手を離そうとした瞬間……白い手が細い手首を捕まえてしまう。
「次は、こっちの番……なんて、ね?」
 冗談めかしているのに、濡れた目元は笑っていない。
「ご、ごめんなさいっ!!」
 ばっと手を振り払うと、プールの縁から勢い良く陸へ上がり、湿った足音を立てて逃げ出していった。

「ミュエルさん、どうしたんっすか?」
 時雨に振り返ったミュエルの瞳は、悲しげに伏せられていた。
 彼女も熱気に当てられ、少々思考回路が曖昧になってしまえば、少々的はずれな問いになる。
 きょとんとした表情で近づく時雨を見つめるミュエルは、本当に桃の欲望が移ったように感じた。
「時雨さんはどこにも行かない?」
 朗らかで愛らしい姿は妹の様に思えるほど可愛らしく、その半面どこまでも一人で行ってしまいそうな不安に堪らず、その手を握りしめた。
「時雨ちゃんはそんなに何処かに行ったりしないと思うっすけど? それに、手握ってたら大丈夫っすね! 」
 同意を求めるように、花咲くような微笑みを見せる時雨。
 そう、その筈、その筈なのに。
「なんかミュエルさんってお姉ちゃんみたいっすね? ……ミュエルお姉ちゃん」
 危ないところへ行かないようにと握ってくれてるのだろう手の理由。
 クスクスと微笑みながら妹らしく彼女の名を呼べば、なんちゃって と、冗談にしようとした。
 ぱつり と、何かがはじけ飛ぶような音が脳裏に響く。
 心の赴くままに手を引き寄せ、腕の中へ時雨を引きずり込むとぎゅっと抱きしめた。
 唐突の行動に少し驚く時雨だが、自分とは異なる体温の心地よさに目を細める。
 それも顎に掛けられた指で、ミュエルにその表情を覗き込まれていく。
 言葉はなく、唇が重なりそうなほど顔を近づけ、滑り落ちるように首筋へ、鎖骨へとキスを繰り返す。
 誰にも渡さない、私だけが独り占めしたい。
「んんっ、くすぐったいすよ……。お姉ちゃん、時雨ちゃんもお返しするっすよ」
 気質なのか、重なる肌も、身体へのキスも嬉しさと心地よさでいっぱいになり、それが自然というように気配が変わらない。
 かがんだ彼女へ首を傾ければ、うっすらと桜色のかかった耳殻へ舌を這わせた。
 ひゃっ と悲鳴が溢れても止まる様子はなく、身体から唇を話したミュエルの耳をなぞり、吐息を吹きかけて擽りながら頬へと唇を押し付けていく。


 少し時を遡ること数分前、桃が逃げ出した後のことだ。
 エルフィリア・ハイランド(CL2000613)は、『デウス・イン・マキナ』弓削 山吹(CL2001121)と少し後ろにいたものの、その宴に出遅れてしまう。
(「合法的に女の子を襲ってOKな任務なんてね」)
 発現によって若さを保つ身体も、可愛らしい女子にじゃれ合える機会も、全て彼女にとってはメリット以外の何者でもない。
 出遅れた理由、それは4人に攻撃を当てて直ぐに山吹にも熱気を当てたからだ。
 年上の彼女を遠慮無く白い腕が抱き寄せると、ぎゅっと豊かな胸元を彼女の身体へと押し当てる。
 柔らかに拉げていく胸元、眠そうだった瞳は熱気に気だるそうに変わった濡れ方。
 じぃっと見つめる瞳に何も言わずに、エルフィリアは顔を近づけて応える。
 額に重なる大人の唇、ウォータープルーフの薄紅色が僅かにそこに移り、きらりと光を宿す。
「もっとしましょう?」
 お互いの胸元が重なりあい、鼓動が直ぐ側に感じる。
 言葉もなく僅かに頷いた山吹の頬へと唇を押し付けながら、エルフィリアよりも少し背の高い彼女の背へ腕を回す。
 包むというよりは、まるで捕まえたと言わんばかりにぎゅっと引き寄せられてしまう。
 遠慮のない意思表示に、鼓動が高鳴ると貪られるより貪りたいと熱気が胸の中で爆ぜる。
 その体を抱きかかえるようにして持ち上げると、プールの縁へと座らせれば、その足元へと唇を寄せていく。
「んっ……凄いじゃない」
 いつの間にかエルフィリアも熱気を当てられていたらしく、ぞわりと身体を熱が駆け上る。
 太腿へ押し当てられた唇は、啄むように何度も重ねられ、内股を這うように滑らせていく。
 餌に夢中になる子猫のように、唇が押し付けられた後に淡い鬱血の印が残ってしまう。
「もっと、いくよー……」
 山吹も水から上がると、エルフィリアへ跨るように上になり、胸元に顔を埋める。
 黒と白の合間に生まれる小さな赤いライン、リップノイズが幾つも重なって悪戯に舌を這わせるほど。
「っは……ふふっ、上手ね……?」
 でも、と一言をつぶやくと同時にぐいっとその体を横へ転がす。
 唐突に世界がぐるりと変わり、目を白黒させる山吹の視野へ、妖艶に目を細めたエルフィリアが映り込む。
 今度はこちらの番と首筋に顔を埋めれば、薄っすらとではなく遠慮無く紅を刻む。
 びくりびくりと総身を震わせる山吹に、愉しげに微笑み、指先が脇腹をなぞりあげる。
 触れるか触れないかのギリギリのタッチで登り、肩へ指を回して肘へ、手の甲へと這わせていく。
 一番擽ったそうに身を捩る一瞬を求め、首筋に無数の跡が残る彼女を見下ろす。
「……そう、ここ?」
「ひっ……んっ……!」
 擽るよりは撫でているように見える仕草だが、指に引かれる様にガクガクっと山吹が振るえて踊る。
 そろそろ熱が溶けてしまいそうだが、甘いじゃれあいが終わる様子はない。


 古妖のせいとはいえ、ミュエルの唇を奪って迫った現実は変わらず、羞恥の火照りが消えない。
 桃は逃げ出すように走り去り、ジャグジーの傍までやってくると、足がもつれ、派手に転んでしまう。
 咄嗟に庇い手をしたが、僅かに指に擦過傷が生まれていた。
「桃さん、大丈夫ですかっ?」
 彼女の後を追ってきた浅葱が、眉をひそめ、心配そうに手を伸ばす。
「ありがとう、……大丈夫よ」
 苦笑いを浮かべ、差し出された掌を握りしめる桃。
 身体を引き起こしてもらうと、くしゅっと浅葱がくしゃみをする。
「ふふっ、少し冷えちゃった?」
 そうみたいですと頷く浅葱には、照れ隠しのような微笑みが浮かび、先程までの恥じらいの熱が引いていく。
 桃がそれとなく指し示す仕草に、浅葱も頷けば体を温めようとジャグジーへ足を伸ばす。
 階段状の部分を下り、膝まで浸かった瞬間。
 仲睦まじい二人に、古妖は熱気を放った。

 不意にその手を引き、こちらへとよろけた桃の体を抱きしめる。
「ふっ、どうするか、言わなくても伝わってますかっ?」
 少し赤い頬、何時もと変わらない嬉しそうな微笑みに交じる艶っぽさ。
 ほんの少し違うだけなのに、先程の一瞬が脳裏に蘇ると、桃はみるみるうちに真っ赤になる。
 その合間に、浅葱は無遠慮に顔を近づけると、ぎゅっと目を閉ざした桃の頬へキスをした。
「……ぇ」
「――期待しちゃいましたか? 続きは……可愛い姿を見た後ですよっ」
 呆気にとられた声だったのか、それとも彼女の言うとおり唇を無意識に求めたのか。
 見透かされたような言葉に、背筋を駆け抜けるような痺れを覚えて力が抜けていく。
 握った手を顔の前まで運ぶと、傷ついた指を伸ばしていき、唇へと導いた。
 何の躊躇いもなくその指を口へ含むと、淡い鉄の味がする傷口に吸いつく。
「っ……」
 淡い痛みと共に擽ったさが幾つも指に這いまわり、言い知れぬ熱気が蘇る。
 身体と足元から浮かぶ熱気のせいか、ふらりと意識が揺れると、湯の中に尻餅をついてしまう。
 同時に浅葱の身体が彼女の身体へと覆いかぶさると、思考力は崩れ落ちた。
 金色の瞳を見つめて、それから言葉もなく額へキスをすれば、不意の反撃に今度は彼女の頬が赤くなり、はにかんだ微笑みを浮かべる。
「……不意打ちは照れますねっ」
 いつもの笑顔、違うのは紅の掛かった頬。
 それだけなのに、感情が抑えきれない。
「浅葱はほんと、無邪気ね」
 背中に回した掌を静かに後頭部へと滑りこませると、引き寄せるようにして唇を奪った。
 重なる唇、けれど浅葱もその唇から逃げようとはしない。
(「初めてだったけど、桃さんならいいかな」)
 もしもを覚悟した時に真っ先に浮かんだのは、彼女だった。
 唇を重ね直す度に、ほんの僅かに離れる瞬間にだけ空気を吸い込む。
(「ほんと、ズルいわ」)
 ほんの少し違うだけで、ここまで心が乱される。
 そんな彼女を逃したくないと、今度は唇が耳たぶへと吸いつく。
「んっ……!」
 そして滑らせるようにして頬へ。
 深く息を吐いて、淡くのけぞった姿をじっと見つめる。
 なにしてるんだろうと、思うことも出来ない。
 今ただ、もっともっと見てみたいと泡の音に異なる水音を交えて肌を重ねていた。

「二人共大丈夫っすか?」
 二人の様子を確かめにやってきた時雨が、彼女達を目にする頃には真っ赤になった桃を抱きしめる浅葱という妙な様子になっていた。
 いない間に何かあったのだろうかと、きょとんとした様子で小首を傾げる時雨。
 そんな彼女に満面の笑みを浮かべる浅葱は桃を開放し、ジャグジーから上がると同時に唐突に飛びついた。
 胸へ飛び込むと、その体を抱きとめる時雨は身動きができなくなり、勢いが消えた瞬間、熱気冷めぬ浅葱の瞳が彼女を見上げた。
 ミュエルの時と同じ眼の色に気づいた時には遅く、額へと背伸びする浅葱の唇が押し付けられる。
 やわらかな感触にびくりと、こそばゆさと驚きに身体が震える。
「ふっ、びっくりしましたか? その可愛い顔ゲットですよっ」
 先程までの甘ったるい空気とは異なり、子供がじゃれつくような微笑み。
 少しばかり目を丸くしていた時雨も、悪戯な微笑みを浮かべると、踵を床に下ろした浅葱へ唇を寄せる。
「びっくりしました、時雨ちゃんも反撃するっすよ!」
 このっと言わんばかりに頬に唇を重ねると、弾ける愛らしい悲鳴が零れた。
 こっちこそと、頬へ、額へ、鎖骨へとキスの応戦が繰り返されるが、子供の戯れのように甲高い笑い声が溢れ、擽ったそうに身を捩る。
 それを見ながら、桃は彼女へ示す親愛と、自分へ見せた何かを交えたような親愛の違いを改めて感じ、隠れるようにジャグジーに沈んでいた。

 その頃、恥じらいを誤魔化すために浅葱を送り出したミュエルは、一層のピンチに陥っていた。
「今日の私は素足で魅せるマーメイド、ということで……熱風に負けて不祥事しちゃおうか?」
 マイペースな口調で、サラリと不吉な言葉を宣う山吹は、ミュエルを背中越しに抱き寄せて、ほっそりとした腹部へと白い指を這わせる。
 たわわに育った双丘を無遠慮に背中へと押し付けながら、擽るように臍から鳩尾の辺りまでをつぃっとなぞり、脇腹から腰までも爪先でなぞりあげていく。
 しかし返事はない。
「んっ……!? ぅ、ふ……っ、は……っ!?」
「っは……ふふっ、そんなにじぃっとみて、混ざりたかったんでしょう?」
 正面から彼女を挟んでいるのはエルフィリアだ。
 首元へ腕を回し、両の掌が後頭部へと添えられて逃げ道を塞いでの口吻。
 長く重ね合わされた唇が、やっと酸素を吸い込むことが出来たが、ミュエルは違うと反論を紡ぐ余裕はない。
(「確かに、どうしよう……って見ちゃったけど……」)
 何気なく振り返った先では、大人の二人が激しく抱き合ってのキスを繰り返していたのだ。
 不意に熱気まで当てられ、真っ赤になって思わず視線を逸らしたものの、それを逃がす二人ではなかったらしい。
「違うなら、逃げるでしょう?」
 クスクスと艶やかに微笑むエルフィリアに、ミュエルは視線を彷徨わせるばかり。
 本当に嫌がるなら、その寸前で逃げられるように手の力はいつでも抜けるようにしていた。
 しかし、重なる寸前まで掌の中に抵抗の感触はなく、すんなりと重ねてしまっている。
「それは……ひゃっ!?」
 見透かした言葉に反論できずにいると、耳元に掛かる吐息に素っ頓狂な悲鳴が溢れる。
 後ろからそんな様子を眺めていた山吹が、悪戯に耳へ吐息を吹きかけると、びくりと震えた首へと顔を埋めていく。
 うなじの辺りへ、ちゅくりとリップノイズを響かせ、鼓膜へ直接響くような水音がぞわりと電気のような痺れとなり、上へ上へと駆けていった。
「ん……それは?」
 うっすらと微笑みを浮かべる山吹の追い打つ声が、ミュエルの逃げ場を奪っていく。
 前後から柔らかな感触に挟まれた彼女に、元々逃げ場所がないといえばそれまでだが。
「ふふっ、じゃあもっとしちゃいましょうね」
 顎に掛けた指がぐいっとこちらを向かせた瞬間、横に少し傾いた顔を近づけて重ね直す。
 啄むように繰り返される唇、広がる隙間がまるで彼女の理性のように溶けていく。


「いたわよ!!」
 一番早く正気を取り戻した桃の声に覚者達は正気を取り戻す。
 慌てふためいた古妖は、接近する浅葱を迎撃しようと水面を爆破した。
「ふっ、乙女の唇の代価は幾らでしょうっ!?」
 答えは身体に教えてやると言わんばかりに、水飛沫のヴェールから飛び出した浅葱は相手を掴み、揺さぶりをかけてから、懇親のストレートを腹部に叩きつけ、ま地面へ振りぬく。
「殺さないけど、乙女心を弄んだ分は痛い目にあってもらうわよ……!」
 入れ違いに接近した桃が、念を込めた指突による追撃を放つ。
 喉仏というとてつもなく痛そうなポイントに指がめり込むと、古妖はボールのように弾み、空を仰ぐ。
「恥ずかしかった分、いっぱい痛くするから……!」
 この羞恥を亡き者にせんと、ありったけの感情を込めたミュエルの種弾が。
「欲望を渦巻かせすぎだよ」
 言葉遊びに淡い微笑みを浮かべる山吹が放つ、炎が宿った念弾が。
「これでプールを楽しめるっすよ!」
 無自覚にこの状況に馴染んでいる時雨の水の弾丸が。
 体力をあっという間にえぐられた古妖だが、音速の音が遮る。
「別に楽しんでもいいわよね?」
 にっこりと微笑むエルフィリアの微笑みに、古妖が凍てつく。
 自由自在にうねるネビュラビュートが、ベルトの金具だけを器用に叩き壊し始めた。
「性別ぶっちぎりの存在でも情熱をぶつけてあ・げ・る」
 最後の三言は立てた人差し指を右に左に傾けながら。
 彼女達が味わった甘い痺れとは異なる電気が、古妖を十分に反省させたのは言うまでもない。


「……袋田さん」
「ん?」
「6人にお詫びの品、送っておいてくれるかな?」
「何か間違った情報でも渡したのかぁ?」
 そうじゃないよと苦笑いを浮かべる護は、散らばった報告書を纏めて廊下を進む。
 不可抗力とはいえ報告書を見てしまった。
 想定以上の結末に対し、護なりのお詫びなのだろう。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『S.T.M メディカルポーチ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員



■あとがき■

お待たせしました、如何でしたでしょうか?
想定以上に……甘ったるかったです、甘みで脳が思考停止するとはきっとこんな感じなのでしょう。
是非夏の思い出に、しっかりと記憶に刻んでいただけると幸いです。
ではでは、ご参加いただきありがとうございました!




 
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