インダストリアル・パニック!
インダストリアル・パニック!


「ふぅ……」
 大きく息を吐くと、男――鮫島浩介(さめじま こうすけ)はかぶった帽子のひさしに手を当てた。少しだけ持ち上げ、目の前の建物を見上げる。
『鮫島製作所』
(この看板も、今日で見納めか……)
 感慨深いかと問われれば、自分でもよく分からない。正直、自身の気持ちすら整理できていないのが現状だ。
 既に亡くなった父の時代から親子二代で築き上げた、小さな町工場。しかし海外の安価な製品や同業他社とのコストダウン合戦、そして後継者問題にも見舞われ、とうとう廃業する事になってしまった。
 二人の息子はそれぞれに自分の職を持ち、家庭を築いているのが救いだろうか。後を継いでくれなかったのは残念だが、これも時代というものだろう。ここが潮時だったというわけだ。
 この工場も今日をもって人手に渡り、金になる物は全て売り払った後、更地になる予定なのだそうな。
 寂しくないと言えば嘘になる。しかしそうも言っていられない。
(明日からどうやって生きていこうか……)
 そんな事をぼんやりと考えた時だった。
 ――ゴゴゴゴ……――
 地鳴りのような衝撃に足下が大きく揺さぶられる。「な、何だ!?」、手近な手すりをつかんで堪える鮫島の目の前で、「そいつ」は工場の壁を大きく崩しながら現れた。
 所々に錆の浮いた肌が薄闇に浮かび上がる。
 「それ」は鮫島が長年見慣れた――しかし複雑に絡み合い、異様な姿となった機械の存在であった。全長5メートルを超える巨体が、足となっているフォークリストのタイヤを回転させて重苦しく前進する。
「な、な……!?」
 目の前の出来事に思考が追い付かず、鮫島は金魚のようにパクパクと口を動かすだけだった。それでも頭の片隅に「逃げなければ」という思いがよぎり、ほうほうの体でその場を後にする。
 最後に一度だけ振り返る。
 相棒とも言える存在達の変わり果てた姿が、土煙の中に消えていった。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:杜乃クマ
■成功条件
1.妖を撃破する
2.なし
3.なし
 町工場をブレイクしちゃっている妖をブレイクして下さい。

●妖について
 町工場にあった機械や工具に妖気が宿り、巨大な一塊となった存在です。物質系の妖(ランク2)と判断されました。見た目はかなりずんぐりむっくりした人型といった感じです。
 以下の武装情報は戦闘中に分かるものとして扱って頂いて構いません。

・クレーン
 右腕に相当。鉄球をぶら下げており、複数の敵(一列)を一度に薙ぎ払う。
・グラインダー
 左腕に相当。高速回転する円盤を相手に押し当て、大ダメージを与える。
・ネイルガン
 複数箇所に存在。釘を高速で撃ち出す。威力は低めで射程も短いが、発射速度が速く回避が困難。

 金属の塊の為、熱や冷気に強く、電気で動いているわけでもないので回路がショートするような事もありません。術式の類は通じにくいでしょう。動きは速くありませんが、表情等から行動を予測するのも難しいです。

●現場について
 工業団地の一角にある町工場。この人数で戦うだけのスペースはありますが、距離を取ったまま逃げ回るには手狭な感じです。また、暴れるままにさせておくと、敷地内から出てしまう懸念もあります。
 キャットウォークもあり、そこを利用すれば高所からの攻撃も可能です。しかし幅は狭く、立ち回りに難が生じます。
 近隣住民は既に避難済みの為、そちらへの対処を考える必要はありません。

 最後に、第一発見者である鮫島より一言伝言が。
「世間に迷惑を掛けて終わったんじゃ、あいつらも報われない。頼む、思い切りやってくれ」

 それでは、皆様のご参加を心よりお待ちしております。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
7/8
公開日
2016年09月16日

■メイン参加者 7人■

『天を舞う雷電の鳳』
麻弓 紡(CL2000623)
『Overdrive』
片桐・美久(CL2001026)
『影を断つ刃』
御影・きせき(CL2001110)
『戦場を舞う猫』
鳴海 蕾花(CL2001006)
『侵掠如火』
坂上 懐良(CL2000523)

●激突
「おおぉおぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」
 甲高い機械音と共に高速回転する円盤を、交差させた二本の刀ががっちりと受け止める。
 火花を上げながらそのまま得物をへし折らんと迫る妖の攻撃を、『巖心流継承者』獅子王 飛馬(CL2001466)は渾身の力で押し返した刹那の隙間に身体を滑り込ませる事でかわしていた。
 工業用の巨大なグラインダーがコンクリートの床を砕き、飛馬は背後から盛大に土埃をかぶる事になる。
 見た目は年端も行かない少年にしか見えない彼はしかし、そんな事には構いもせずに駆け出していた。金属の肌を持つ妖の懐に飛び込み、果敢に刃を振るう。
(ちっ……この図体に外で暴れられると町が大変なことになるな。何とかこの場所で食い止めねーと。ここできっちり決着をつけさせてもらうぜ)
 己とは比べ物にならない小さき存在を見下ろす妖は、何を思うのか。

 その威容を前に、反応は様々だった。
「うわー、すごーい! なんかゲームの悪役ロボみたい!」
 最も無垢な反応を示したのは『鬼籍あるいは奇跡』御影・きせき(CL2001110)だろう。新しい玩具を前にした子供のように目を輝かせ、「こんなヘンテコな機械より僕たちのほうが強いってこと、思い知らせてやろうね!」と息巻いている。
 「そうですね。それに、妖化してしまったとはいえ、元々は鮫島さんと長年一緒に頑張ってきた相棒同然。元に戻せないまでも、人を傷つける前に止めてあげなくては」
 きせきより年下であるはずの『Overdrive』片桐・美久(CL2001026)の言葉は随分と達観したように聞こえる。暴れる妖を見上げる瞳は真っ直ぐで、確固たる決意に満ちていた。
 そんな美久の様子にうんうんと頷いているのは『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)だ。
「偉い! 偉いなぁ、ミクにゃんは。勤勉さはニポンの誇りだよね。この妖もまだまだ働きたくてこんなになっちゃったのかね? 余なんて九時五時の定時と言わず、毎日だって休みたいのに!」
「……殿は実際、年中夏休みを実行してるじゃん」
「僕をミクと呼べばどうなるか……分かっていますよね?」
 『彼誰行灯』麻弓 紡(CL2000623)に呆れられ、美久にはにっこりと喉元に刃を当てられ。戦う前に王子の命、風前の灯火である。
 巻き込まれないように若干距離を取りながら、『侵掠如火』坂上 懐良(CL2000523)は思案する。
「グレイブルの言う事にも一理あるかもしれないな。あるいは、鮫島っつーおっさんの想いが呼び水になったか。大事にされた道具には魂が宿るとか聞く事もある」
 研究は進められているものの、妖化のメカニズムには謎が多い。考察してみるのも一興だろう――が。
 弾き飛ばされた瓦礫の一部が懐良の頬をかすめる。
「ま、やる事は単純だよな。がーって倒して、ばーってやって、ザックリやるだけだ!」
 得物を抜き放った彼に頷き、他の者達も一斉に戦場へと散らばっていくのだった。

「派手にやってくれるね。これなら解体工事の手間も省けるんじゃない?」
 飛馬を襲った一撃の激しさを眼下に見ながら、『戦場を舞う猫』鳴海 蕾花(CL2001006)は思わず冗談交じりに言葉を零していた。鮫島が聞いたら涙ぐみそうな台詞だ。
 視線は常に妖の姿を捉えながら、髪の間から覗く猫耳はピクピクと動き周囲の警戒に余念が無い。攻撃の衝撃は蕾花のいるキャットウォークも揺らしていたが、彼女は不安定な足下をものともせずに駆け抜けていく。
(下の連中が狙いにくい上半身を攻められそうなのはいいけど、ちょっと距離があるか……)
 常に攻撃の届く距離に敵がいるわけではない。見極めが重要になる。
(けど――)
 四の五の考えあぐねるのは彼女のガラではなかった。
(チャンスを目の前にして大人しくしているのも癪だしね!)
 しなやかな足が地面を蹴る。
 獣が獲物に襲い掛かるような動きで、蕾花は妖の頭部を斬りつけた。
 あれが妖の「目」なのだろうか? 空洞の奥で球状の光が怪しい色を帯びる。
(来る!)
 視界の隅に一瞬光るものが見えたかと思うと、飛来した鉄釘が蕾花の服を切り裂いた。肌に走った赤い筋に表情をしかめながらも、彼女はすぐにキャットウォークへと離脱していく。攻撃は見えたが、発射点が分からなかった為に反応が少しだけ遅れてしまった。
 その彼女に向かって、妖が体の正面を向けた。狙いを定めたのだろう。
 鉄球をぶら下げたクレーンを持ち上げようとするその向こうで、小さな影が宙を舞った。
「こっちだよ!」
「御影?」
 普段の引っ込み思案な雰囲気とは異なり、赤い瞳で刀を振るう姿は少しだけ大人びて見える。とはいえ、元が幼い彼では年相応と言ったところではあるのだが。
 腕の関節部分に斬りつけたのだが、組み合った部品に傷を作るだけで、一撃で断ち切るには至らなかった。妖の頭が人間ではあり得ない動きで振り向くのを見て、深追いはせずに蕾花と同じように退避していく。
「ダメかー。でもまだまだ!」
 刀を構えてみせるきせきと目が合った。それだけで言いたい事は伝わる。
「……生意気」
 それでも、蕾花は口元に笑みすら浮かべて再び攻撃の機会をうかがうのだった。
 一方、下の方でも激戦が続いている。
「ぃよいしょぉっ!」
 弧を描きながら迫る鉄球を敢えて受け止め、グレイブルの身体が一瞬宙に浮いた。紡の背に冷や汗が流れるも、何とか堪えたのを見て安堵の息を零す。
 何故彼が攻撃を避けなかったのか。その理由は明白である。
「動きが止まったな。仕掛けるぞ、片桐!」
「はい!」
 懐良と美久が別々の方向から距離を詰め、一斉に得物を振るった。薄暗い空間に剣閃が走り、金属を削る不快な音が響き渡る。
「ハアァァッ!」
 裂帛の気合と共に美久が大上段からの一撃を放ち、妖の身体の一部が弾け飛んだ。やはり分厚い金属板よりは、接合部を狙った方が脆いようだ。
 と、刀を振り抜いた姿勢の彼を庇うように飛馬が立ちはだかった。目の前に構えた刃が盾となって鉄釘を弾く。
「助かりました」
「俺に出来るのはこれくらいだしな。その分攻撃に専念してくれれば報われるというものだ」
 飛馬はそのまま妖の注意を惹くように駆けていく。そんな彼に向けて心の中で感謝しつつ、美久は目の前の戦いに集中した。
 ようやく勢いの衰えた鉄球を脇へ放り投げたグレイブルに、宙に浮いたままの紡が近づく。
「殿、大丈夫ー?」
「腕がもげるかと思ったよね、うん。ニポン製はやっぱり何でも品質がいいなぁ」
「や、そんなところで感心されても」
 肩をぐるぐる回すグレイブルの言葉は、どこまで本気でどこからが冗談なのか難しい。あるいは、自分に心配させない為のものではないのか、とも。
(恰好つけちゃって……まったく)
 紡の手のひらに湧き出た光が雫となって零れ落ち、グレイブルの鎧に当たった途端にその全身へと広がっていった。
「それそうと、殿。今の術でボクの気力がイエローゲージです」
「おぉっと、余とした事が。それじゃ、姫にとっては雀の涙程度かもしれないけど……」
 お返しとばかりにグレイブルの体から力が流れ込んでくる。霧の掛かった頭がすっきりしていくのを感じながら、紡は妖の巨躯を改めて見上げた。
「まだまだ先は長そうだね」
「サービス残業は嫌だし、ミクにゃん達の体力も心配だから、そろそろ本気出しちゃおうかなー」
「ご心配は有り難いですけど、ミクって呼ぶなー!」

●鋼の魂
「これでどうだー!」
 刀から放した左手をきせきが床に叩きつければ、妖の足元から突如として生えてきた無数の蔓がその全身へと絡まりついた。
 しかしそれらは全て、妖が身じろぎしただけで簡単に引き千切られてしまう。
「ま、隙を作ってくれるだけで充分さ」
 もう何度目になるかも覚えていない。蕾花の身体が宙を舞った。空中で不自由な姿勢のまま器用に得物を振るい、妖を傷つけたかと思えば次の瞬間には天井に張り巡らされた配管をつかんで軌道を変えている。
 くるりと宙返りして別のキャットウォークへと着地していく鮮やかな曲芸を、地表の懐良は真下から見上げていた。ほう、と感心した吐息が零れる。
「絶景だな」
 何が、とは言わないが。揺れる胸元を見てしきりに頷いている懐良と蕾花の視線がぶつかった。
 蕾花がジェスチャーと共に思念を飛ばしてくる。距離があるので肉声では届かないと踏んだのだろう。
 あんた
 ぜったい
 ころす
「よし、上も順調なようだ。さっさと片付けるぞ」
 そして全力で逃げるんだよォ!
 懐良の脳内が高速回転を始めた。人間は追い詰められて初めて本領を発揮する事もあるのである。
(攻め手に欠けるな……俺も前に出て獅子王と一緒に敵を足止めするか。グレイブルの火力が欲しいところだ)
 そのグレイブルから全員に向かって思念が飛んできた。
(あー、あー。こちら余だよ。現在マイクのテスト中。本日は晴天なりー、晴天なりー。ただいまのお時間、国産豚バラ肉が驚きの超特価――)
(殿、話を進めて)
 思念が一瞬途切れた。おそらく紡が物理的にツッコミを入れたのだろう。
(キセ姫から情報が入ったよ。敵の妖気がだいぶ弱ってる。でも嫌な感じもするんだって。『急須猫を食べる』って諺もあるから、気をつけようね)
 やだ、何それ怖い。
 思わず絵面を想像してしまい、美久は気持ち悪そうな表情を浮かべている。平然な顔を取り繕っているが、実は蕾花の背筋には悪寒が走っていた。
(窮鼠猫を噛む、だね)
 そろそろ紡一人ではツッコミが追いつかないかもしれない。まぁそれはともかく。
 戦況と自分の考えが合致した。その旨を伝えると、グレイブからは肯定の思念が飛んできた。
「それじゃあ早速――」
 グレイブルがハンマーを構えたところで、甲高い金属音が頭上から聞こえてきた。
「あっ……!」
 グラインダーの一撃をかわしたきせきの表情が凍りつく。
 鋼鉄をも捻じ曲げる工業用のグラインダーは、錆の浮いたキャットウォークをいとも容易く断ち切ったのだ。支えを失った足下が大きく傾き、バランスを失ったきせきは崩れるキャットウォークを転がり落ちていく。
「御影!」
 脚には自信があるが、蕾花の位置からでは到底間に合わない。
「くそっ……!」
 飛馬は丁度クレーンの攻撃をさばき切ったところだ。
 汚れた工場の床に自由落下していくきせきの下に、さらに小柄な影が回り込んだ。二つの影はもつれ合うようにして地面にぶつかり、土埃を巻き上げる。
「危な、かったね……」
 苦痛に顔をしかめる紡の上から、きせきは慌てて飛び退いた。
「紡さん、大丈夫!?」
「ほら、回復もあるしさ。それよりも、切り替えて次いってみ――」
 紡が笑顔を作りながらそう言いかけたところで、二人を大きな影が覆った。
 反動をつけたクレーンが最大出力で旋回する。
「させるかよぉっ!」
 それを阻止したのは飛馬だった。身体ごとクレーンの根元に体当たりし、その小さな体躯からは想像もつかない力で押さえつける。
「片桐ィっ!」
「せやあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 飛馬の声に応え、美久が疾(はし)る。狙いは一点のみ。何度も刃を打ち付けて傷だらけにしたクレーンの接合部分!
 急所を守るように配されたネイルガンから放たれた鉄釘が美久の肩を貫いた。
「うがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」
 だが美久の勢いは止まらない。獣の雄叫びを上げながら全身全霊の一撃を放つ。
 全ては、ここで終わらせる為に。
 決意を込めた刃は鉄塊を打ち砕き、妖の巨体が大きく傾いだ。斬り落とされたクレーン部分はただの鉄屑となり、土煙の中へと沈んでいく。
「随分とバランスが悪そうじゃない。手伝ってあげるよ」
 妖の肩に跳び移った蕾花がにやりと笑い、クレーンとは反対側の根元に刃を突き立てた。全体重を乗せ、ぶら下がるような格好で一気に接合部を破壊していく。
 それまで猛威をふるっていたグラインダーも力を失い、重苦しい音と共に地面に横たわるのだった。
 グレイブルがハンマーを振り上げる。
「姫を傷つけた罪は重いよ。覚悟するんだね」
 正面からの一撃は妖の中心に亀裂を生み、次の瞬間には見事な大穴を開けていた。埃だらけの空気の中に、妖気の中心部が露わにされる。
 妖の全身から発せられる軋んだ駆動音は、まるで断末魔の叫びのようだ。
 懐良の足が地面を蹴る。
「妄執、悔恨、悲哀……。存分に出し切ったか? オレが全て断ち切ってやる。だから、もう休め」
 限界まで引き絞られた腕から放たれた突きが妖気を霧散させ、戦いの終わりを告げたのだった。

●残されたもの
 やはりいてもたってもおられず現場を訪れた鮫島が見たのは、廃墟同然になった工場の中で動き回る覚者達の姿だった。
「これは一体……」
 呆然と立ち尽くす鮫島に気づいた覚者の一人が近づいてくる。
「何だいあんた、避難してなかったのかい?」
 尋ねる蕾花に「いや、どうしても気になって今来たところなんだが……」と答えると、彼女は「ふぅん」と素っ気無い様子で視線を送るのだった。
「それより、君達こそ何を……戦いは終わったように見えるんだが……」
「似たような事を考える奴が多かったみたいでね」
 放り投げられたものを慌てて受け止めると、それは一枚のプレートだった。それには見覚えがある。クレーンに貼り付けられていた、この工場の物である事を示す標章だ。
「やあ、マイスター鮫島だね? 適当に見繕う形になっちゃったけど、これ」
 驚いている鮫島に今度はグレイブルが歩み寄り、真新しいサッシュの包みを差し出した。
 まるで勲章を与えられるようでおずおずと中を開くと、そこには磨かれたネジやナットといった部品の数々が収められていた。
「うっかり妖になっちゃったけど、アレも多分貴公にこういう事したかったんじゃないかな」
 今やただの骸となり果てた妖の残骸を一緒に見上げる。
「この機械さんって、今までずっと頑張ってきたんだよね。 ずっと頑張ってきた機械さんが、一般の人を傷付けちゃう前に止められてよかった」
 きせきの言葉にとうとう堪えられなくなり、鮫島の瞳から人目もはばからず涙が溢れた。「本当に、本当に有難う……!」、深々と頭を下げられ、今度は覚者達が狼狽える番である。
 鮫島が落ち着いたところで、蕾花が口を開いた。
「ねぇ、もしあんたに行く場所もやりたい事も無いなら、ウチらの組織に来ない?」
 F.i.V.Eの研究は確かに特殊なものだが、現代科学や工学の流用も多い。特に戦う為の武具を作っている部門では、精度の高い部品を作れるというだけで引く手は数多だろう。
 鮫島は一瞬考える素振りを見せるものの、すぐに首を横に振ってみせた。
「先にやる事ができたんでね。それが終わってまだ話があるようなら考えてみるよ」
 やる事? 覚者達の視線を受け、鮫島は照れ臭そうに頭を掻くと、
「妻が行きたがっていた旅行に、ね。残った貯金を使い果たす事になるが、今やっておかないと絶対後悔する」
 別れはいつ突然にやって来るとも限らないから。
「それを、こいつ等が教えてくれたんだ」
 西日に照らし出されるその姿は、まるで墓標のようで。
 そっと添えた手を、紡は静かに放した。
「おつかれさまね、ゆっくりおやすみ」

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
ここはミラーサイトです