カーヴァ生体工学研究所
【攫ワレ】カーヴァ生体工学研究所


●人身売買の先は
 以前、『F.i.V.E.』の覚者達は、とある人身売買組織を壊滅に追いやっている。
 ガラの悪い隔者の若者ばかり集まるその集団は、『テイク』と名乗っていた。
 夢見の力を通し、『テイク』の活動を目の当たりにした覚者達は、隔者達の活動内容を知り、事件ごとに彼らの活動幅を狭めていく。結果、そのメンバーのほとんどを捕縛するに至っている。
 彼らは自分達の思うように振る舞い、力の弱い覚者を攫って捕らえ、いくつかの組織へと販売を繰り返して活動資金を得ていた。
 『テイク』メンバーすら知らなかったようだが、彼らは知らぬうちに別の大きな組織に操作されていたようなふしがある。最後に現れた霧山・譲なる男がそれを示唆していた。
 この男については、まだ分からないことも多い。簡単に尻尾を出す様子も見られないので、今は如何ともし難い状況だ。
 しかし、その間にせねばならぬことがあると、覚者達は考えている。
『攫われた者達の行く末を調べること』。
 どれだけいるのかは分からないが、『テイク』のメンバーによって売られた人々がいるはずなのだ。
「以前、『テイク』のアジトに乗り込んだとき、発見した領収書を持ち帰ったメンバーがおっての」
 『薄幸の男の娘』菜花・けい(nCL2000118)が示す資料には、領収書の宛名に組織名が書かれてある。残念ながら、架空の組織名も多いが、実在の組織名もその中にはあった。
『カーヴァ生体工学研究所』。
 生体工学というのは、生物学の考え方を工学に活かすという物である。
 蚊の口の構造を模して作られた無痛注射針。サメの肌を真似して作られた特殊な模様の入った競泳用水着などは記憶に新しい。
 医学的な分野では、器官や部位を機械的な部品に置き換えるなどして、生体工学が役立てられている。
「この分野は、覚者としての力を別の何かに役立てようと研究している、『カーヴァ生体工学研究所』もそうじゃな」
 淡々と説明をするけい。ただ、彼は終始表情を曇らせている。調べれば調べるほど、この組織からは胡散臭い部分がにじみ出ているのが分かったからだ。
 その活動内容については表向き、覚者の力を研究していることは論文として提出されている。研究した技術を企業などに販売することで、収益を上げているようだが……。
 普通、被験者は公募するのが一般的。長期間の拘束、場合によっては治験などは重度のリスクを背負うこともあり、高額な報酬が発生することもあるのだ。
「おそらく、そういった理由から、研究所が人身売買組織から覚者を買っていたようじゃな」
 夢見の力では何も感じられないが、嫌な予感がするのだとけいは言う。それは、虐げられ、拘束されていた過去を持つけいの勘だ。
「じゃから、今回は潜入調査をお願いしたいのじゃ」
 研究所に潜り込み、資料などの確認。人身売買の決定的な証拠を集め、実際の活動内容を確認するのが今回の依頼だ。捕らわれた覚者がいるかもしれないので、接触を試みたい。
「じゃが、この研究所は表向き、一般企業じゃからの。下手に事を大きくするわけにはいかぬのじゃ」
 できるだけ密かに、そしてスムーズに調査を行いたい。発見されれば、研究員や警備員に囲まれる危険がある。
「何をしてくるか分からぬから、できるだけ見つからずに行動してほしいのじゃ」
 ともあれ、敵の活動実態を速やかに掴み、脱出。これを最優先事項として任務に当たりたい。仮に見つかっても、素性が割れてしまう前に研究所を離れたい。
「あくまで、潜入調査じゃからの。間違っても力技で解決しようとはせぬことじゃ」
 けいは覚者達へとそう釘を刺す。場合によっては、皆が攫われた覚者と同じことになるかもしれないから、と。


■シナリオ詳細
種別:シリーズ
難易度:普通
担当ST:なちゅい
■成功条件
1.研究所の活動実態を探ること
2.発見された場合、素性を悟られぬよう速やかに脱出すること
3.なし
初めましての方も、
どこかでお会いしたことのある方もこんにちは。なちゅいです。

人身売買組織によって攫われた覚者達。
ただ、彼らは様々な組織に売られていることが分かっています。
彼らは一体どうなっているのか……。

●状況
 『カーヴァ生体工学研究所』へ、潜入調査を願います。
 研究所は滋賀県某所。街中の大きな敷地に、建てられています。
 夜は最低限のスタッフだけしか詰めてないこともあり、侵入は夜中に行います。
 建物は地上3階から地下2階。地上部は研究員個別の研究室や、会議室、事務室などがあります。
 地下にも普通に通行は可能ですが、ロックが掛かって一般スタッフが通行できない部屋が数部屋あります。廊下や部屋には、侵入者避けのセンサーが所々に張られていますので、注意が必要です。
 発見された場合、研究員などと交戦することとなります。対応が後手になるほど、敵が増えて身動きが取れなくなります。ご注意ください。

●敵
 見つかった場合、以下の敵と交戦する可能性があります。
 数の表記は、最大で現れる可能性のある人数です。
○研究員×6……ごく普通の一般人です。
 一応、妖に備えてハンドガンなどを持ってはいますが、
 基本は普通の一般人です。
○警備員×5……武装した民間の警備員。
 一般人であり、ハンドガン、ライフルを所持しています。
○覚者×3……捕らえられた覚者達。能力は不明です。
 ただ、一般人以上の力を持っているのは間違いありません。

 それでは、よろしくお願いいたします。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年09月03日

■メイン参加者 8人■

『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)
『BCM店長』
阿久津 亮平(CL2000328)
『独善者』
月歌 浅葱(CL2000915)
『マジシャンガール』
茨田・凜(CL2000438)

●人攫い事件が残したモノ
 滋賀県某所の街中、大きな敷地を構える『カーヴァ生体工学研究所』。
 表向きは覚者の研究を行っているとされる場所だが……。その覚者の人身売買に関わっている可能性があると知った、『F.i.V.E.』の覚者チームがこの建物へと近づいていく。
「ふっ、潜入捜査ですねっ」
「何か怪盗みたいな感じで、ワクワクするんよ」
 自称、正義の味方の『独善者』月歌 浅葱(CL2000915)だが、胸を躍らせる茨田・凜(CL2000438)が怪盗という言葉を出すのに、やや複雑な表情をしていた。
「お宝はないかもしれないけど、できるだけ情報をGETしてくるんよ」
「敵方の施設に忍び込むからには、何があるかわかんねーよな。いつも以上に注意しとかないと」
 今回は何より情報を持ち帰ることを最優先とし、無事に帰りたいと『巖心流継承者』獅子王 飛馬(CL2001466)は語る。他にも色々気になることはあるが、二の次として考えるべきだろう。
「あの『テイク』の起こした事件、まだ終わってはいないのですね」
「そうね、まだ『テイク』の影は残っているわ」
 『二兎の救い手』秋津洲 いのり(CL2000268)がそう話すのに、『霧の名の鬼を咎める者』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)が応える。彼女が追うあの男もこの一件に関与しているのかどうか……。
 いずれにせよ、放置できる相手ではない。この研究所が大事な仲間へと手を出す可能性もあるのだ。
「ずっと『テイク』と戦って、やっと皆と一緒にここまで突きとめる事が出来たんだ」
 覚者達がこの研究所を知るに至ったのは、人身売買組織『テイク』の殲滅において、『BCM店長』阿久津 亮平(CL2000328)が領収書を回収したことがきっかけだ。
「『テイク』に攫われた人の行き先、か」
 『ファイブレッド』成瀬 翔(CL2000063)が何気なく言葉を受け、亮平がさらに意気込む。
「情報を1つでも多く持ち帰って、また皆と次に繋げられる成果を出したいな」
「誘拐された人の行方が分かるような物を、見つけられればいいんだけどな」
 それにしても。翔としては、『生体工学研究所』という名前が気になっている。
「まさか、人体実験とか……マンガの見過ぎか、オレ」
 だが、それを否定する者はいない。その可能性も十分にありうるのだ。
「今の世の中、こういう輩はゴキブリ並にいくらでもいるだろうけど……。仮にここが壊滅しても、また出てくるだろうな」
 遠目でその研究所の建物を見つめる石和 佳槻(CL2001098)は、自身も一歩間違えたなら、こういう場所にいたかもしれないと呟く。立場についてはどちらと名言はしなかったが。
「もっとも、どうせまた出てくると放置すれば更に増える。とりあえず目に見えるところから何とかしないと」
「既に売られてしまった方々を、一刻も早く保護しませんと……。頑張りましょう!」
 佳槻は落ち着きながらも眼鏡を吊り上げ、いのりも仲間に気合を入れるよう声をかける。
 この研究所内で行われていることを探る為。覚者達はそっと敷地内へと忍び込んでいく……。

●研究所上層
 研究所に踏み込むメンバー達。
 先頭をいのりが歩き、暗視を使って先導する。また、守護使役の力を使い、職員の接近なども警戒していた。
 また、赤外線センサーなども張り巡らされている為、浅葱、飛馬が危険予知を使ってそれらを避けて進む。
(『F.i.V.E.』と繋がるような物は持ってないよな?)
 念の為、飛馬が仲間へと尋ねる。とはいえ、あったとしてもこの場での対処は難しいが……。
 ところで、覚者達は声を出してはいない。亮平が送受心・改を発動させていたのだ。
(静かに確実に、しっかりと調べ上げちゃいましょう)
 意気込む浅葱。殴りこむにも作法があり、力技はその後と彼女は語った。
 その浅葱は、仲間達へと建物の見取り図を見るよう促す。それを眺め、しばし、覚者達は怪しい場所を推測する。
(ここ、地下2階まであるんですよねっ、確か)
 浅葱が指摘するように、そこには地下1階までしか記載されていない。外部向けの地図に従業員専用通路などが描かれないのは珍しくないが、それもまた怪しさを覚えさせる情報に見えてくる。
(何となくだけど、下は研究中のデータとか、上は研究レポートとかがありそうな気がするんよ)
 建物内を見回す凜は、そんな予感を語った。
 また、入り口そばに警備員が詰めているのを、翔が透視で発見する。それをいのりの魔眼で対処し、研究所の偉い人と暗示をかけ、何が起きても通報しないよう命じていた。
 また、凜は警備室で、センサーなどの防犯装置を解除できないかと眺めていた。ほとんどのセンサーを解除できたが、いくつかは面倒な操作が含まれており、全ての解除には至らなかったようだ。
 その後、メンバーは地上1階の探索を始める。事務室や食堂、給湯室に仮眠室などがあったが、ここで行われる研究について直接的な情報は得られなかった。

 そして、メンバーは2班に分け、2、3階の探索へと移る。
(石和さん、秋津洲さん、茨田さんっ。よろしくおねがいしまーすっ)
 浅葱が改めて、2階を探索するA班メンバーに挨拶する。彼女は気配を消すべく、しのびあしを使って移動する。
 2階は個人の研究室、所長室や会議室、応接室などがあるようだ。それらを、佳槻の透視を使って一部屋ずつ覗き込んでいく。
 所々の空き部屋、そして、今なお研究の為残る職員2名の部屋を避け、他の職員の部屋へと立ち入る。
 その際は、凜のスキルで鍵を開いて中に入る。カメラの位置を確認し、警報が作動しないかと凜はチェックも怠らない。
 パソコンはパスワードロックもあって調べられなかったが、メンバー達は棚に並ぶ研究資料を1つずつチェックする。
(一見、普通の研究に見えますねっ)
 浅葱を含め、まだ小中学生といったメンバーも多い班だ。その内容の把握はかなり難しいが、どうやら、覚者の力を日常生活に活かす為の研究だ。表向きに発表する為の資料らしく、人身売買に繋がる情報を見つけることができなかった。
 B班となる4人は、3階を探索する。
 主に飛馬が罠、センサーを感知しつつ進む。安全に気をつけながらも、翔が各部屋を透視してした。
(3階って普通、あんまり外部の人行かない場所だよな)
 こちらの部屋は、そのほとんどが職員の研究室のようだ。
 その2ヶ所に職員がそれぞれ1人ずつ詰めていた。対処の都合で明かりのついた2つの研究室を避け、残りの部屋を調査する。鍵の掛かった部屋には亮平が物質透過で忍び入り、開錠してから中へと入った。
 状況は2階とさほど変わらない。ただ、個別の研究室の数がこちらの方が多かったこともあり、時間がそれだけ掛かっていたようだ。
(私も神秘の研究家として人間、特に覚者の研究はしているから、とても中身が気になるわね)
 エメレンツィアは自らの博覧強記のスキルも合わせ、可能な限り研究資料を確認する。これだけでは、人身売買と直接の関係を見出すことは難しい。
(覚者の力を活かした研究……表向きのものばかりね)
 それでも、自分達の新たな可能性を探っていることに違いはない。どのような方向性に力を活かすことができるのか、彼女は自身の知識へと加えていく。
 資料を持ち帰ることもエメレンツィアは考え幾つかの資料を抜き出していたようだ。
(それにしても、上に警備員はいないのかしら)
 エメレンツィアは2階の仲間の報告も聞きつつ考える。地上には1階に詰めていた2人のみ。やはり、目指すは地下だろうか。
 メンバー達は一旦合流の後、地下へ向かう。この研究所の本当の姿を暴く為に。

●地下にあるモノは……
 地下に向かった覚者達。
 まずは、地下2階に立ち塞がる警備員を対処する。こちらは1階同様にいのりが魔眼を使って無力化した上、B班をさらに下の階へと向かわせた。
 こうして、A班、B班に再び分かれたメンバー達は、それぞれ地下1、2階の探索に当たる。
(この調査で、不正な事を行っている者達の罪が暴ければよいのですが)
 それだけのことをしている可能性は高いが、現地点では推測の域を出ないと、A班のいのりは考える。
 地下1階は実験室やその為の設備が用意されており、臨床実験を行う為の部屋が並ぶ。また、資料室もこの場所にあるようだ。
 佳槻は何か証拠写真が撮れればと、カメラを握る。地上部でも資料を撮ってはいたが、ここではその回数も多くなる。資料となるよう、佳槻はできるだけシャッターを押していた。
 浅葱が鋭聴力を使って物音を探る。事前情報によれば、敵対する覚者がこの地下にいる可能性が高い……が、この階には、先ほど対応した警備員以外にスタッフはいないようだ。
(この階にはいないんよ……)
(なら……)
 凜の言葉を聞いて、佳槻は思う。
 覚者にいのりの魔眼は効かない。その為、覚者と出くわした場合の対策もとっていたのだが。
(こういう場所だから、洗脳とか脅迫とかあるかもしれないし)
 非覚者組織のようだが、覚者が糸を引いている可能性だって否定できない。 彼らは資料室などで調べ物を進めつつ、さらに下へ向かったメンバーを気遣うのである。

 地下2階。
 B班メンバーが担当するが、その入り口は厳重に施錠されていた。
 そこもまた亮平のスキルで突破して進んでいくと、そこにも実験室らしきものが幾部屋か並んでいるが、妙な器具が設置され、棚には怪しげな薬品が小瓶に並んでいる。
 そのうちの一室には、明かりがついていた。そこでは……。
「いや、止めて、助けて……!」
 かしゃりかしゃりと繋がれた鎖の音が、少女の叫び声と一緒に暗い地下の通路に響き渡る。
「大人しくしろ」
「誰も来ない。いい加減諦めるんだな」
「いや、いやあっ……!」
 おそらく、残る2人の研究員に抑え付けられ、泣いて抵抗する少女の声がメンバー達にも聞こえた。
 その身を怒りで震わせるこの場の4人。だが、現地点で騒ぎを起こすのはまずい。
(……行こう)
 亮平は奥へ向かうよう、仲間達に促す。
 その奥、厳重な扉の先。手前に警備室が設置され、奥の牢屋をチェックできるカメラがある。ここには2人の警備員が詰めていた。
(やっぱり、怪しいよな……)
 翔が正面を見れば、その奥は地下牢のようになっていた。彼らはここを監視していたのだろう。
「頼むわね」
 そこへと向かう為に、エメレンツィアが亮平に眠らせるよう頼む。
「な、何だ……!?」
 亮平が警備員の周りに眠りへと誘う。上手く2体とも眠らせることができたようだ。
 そうして、牢へと立ち入るメンバー達。
 時刻は夜半近く。牢の中にいる者達は眠っているようだ。できるだけ、その接触をと考えるのだが、ここのカメラやセンサーは独立している上、かなりの数設置されている為、迂闊に立ち入ることができない。
 それでも、ゆっくりとセンサーを潜り抜けていき、そして……。
「助けに来たぜ」
「…………」
 時間は掛かったが、その手前に捕まる覚者へと声をかける翔。そこには、10歳くらいの少年の姿があった。腕、足の関節が球体となっていることから、械の因子持ちだろう。
「今、どういう状況なんだ?」
 飛馬が尋ねるが、少年は首を大きく振って答えようとはしない。
 亮平、エメレンツィアが警備員を眠らせたことを説明すると、彼はようやく口を開く。
「ここに……売られて……、捕らわれてる」
 答えていいものかどうか戸惑いながら、特に外に気を払い、少年は言葉を紡ぎだす。
 少年の名は、南里・昌樹。山梨に住んでいた彼は隔者に囚われ、売り飛ばされてきたという。残念ながら、それが『テイク』のメンバーかどうかは分からなかったが。
 その間、亮平が地下1階のA班メンバーと連絡を取る。
(洗脳されたりとかは大丈夫なん?)
 凜は少年の身を案じる。昌樹本人はおどおどしてはいたものの、正気ではあるようだ。
(できれば、『F.i.V.E.』に連れ帰りたいですわ)
 そんないのりの主張もあり、昌樹についてくるよう誘いかけるのだが……。彼はまたも大きく首を振った。
 その首には、金属製の枷がつけられている。おそらくは、逃げ出すなどすれば、爆発する仕様のものだ。いわゆる、口封じの為の首輪。それは、彼らがモルモット同様に扱われ、人としてすら扱われていない可能性すら窺がわせた。
「他の皆も、どうなるか……」
 自分が逃げることで、他に捕らわれている仲間の身も彼は案じていたのだ。
「おい、お前ら!」
 そのとき、どうやら眠らせた警備兵が目覚める。こちらの状況に気づいたらしい。
 翔は舌打ちした後、昌樹の顔を忘れぬ為にしっかりと見据えた。
「絶対に助けに来るから」
 そう告げた翔を最後尾として、覚者達は研究所からの脱出を図る。
 邪魔をしてくるのは、警備員2名。そして、脇の実験室にいた研究員2名だ。銃を手にした彼らは弾丸を発射して威嚇し、立ちはだかる。2本の刀を手にした飛馬がその銃弾を受け止めようとした。
 そこで、亮平が再び艶舞・寂夜を使って眠らせようとしたが、残念ながら、研究員1人が抵抗して見せる。
「相手は覚者だ、てめぇも戦え!」
 研究員は鎖で縛り付けていた覚者の少女を解放しようとした。
(恐らく、『テイク』から買い取った覚者なのでしょうけど)
 エメレンツィアは思う。だが、背に翼を生やした少女の首にはやはり、首輪がついていた。その為、メンバー達はその解放を諦め、出口目掛けてダッシュする。
「撃て、撃て!」
「ひっく、ごめんなさい、ごめんなさい……」
 涙を流す翼人の少女は研究員に銃を手渡され、研究員と共に発砲してくる。それが、メンバーの体へと何発か当たってしまう。
 途中で、A班と合流して地上へと出て行く覚者達。佳槻が逃走の為にと、風の祝詞を強く念じて仲間の速度を高めていると、正面入り口からは、新手の覚者らしき者の姿が2人見えた。
「こっち、こっちですよっ!」
「早く逃げるんだ!」
 予め、脱出ルートを抑えていた浅葱が手引きすると、飛馬も遅れる仲間に急ぐよう声をかける。そうして、覚者達は裏手側から研究所を脱出していった。

 入れ替わるように正面玄関から所内へと駆けつけたのは、研究所所属の覚者らしい。
「ホワーイ、一体ドウシタコトデスカ?」
「覚者のようですが、族が入ったようですね……」
 1人は金髪中年の男性、もう1人は若い職員らしき男だ。
「最悪、捕らえた覚者に戦わせるよう指示していたのですがね」
「産業スパイデスカネ……、困リマスネ」
 所長と呼ばれた中年男性は両手を上げ、対策を練らねばならないと考えるのである。

●得られた情報は……
 安全な場所まで逃げてきた覚者達は、改めて状況確認を行う。
 地下1階で資料を確認していたメンバー達は結局、いくつかの資料を拝借していた。それは、覚者としての力を、非覚者が得られないかどうか。また、覚者としての力を高める為の実験だ。
「……外道の集まりであることは間違いないようね」
 エメレンツィアは険しい表情で、調べた資料について仲間へと語る。
 10数分では、満足に情報を引き出すことは難しかったが……。
 体力測定といった計測はまだしも、過酷な環境適応実験。場合によっては、毒やガス、細菌への適応実験、部位摘出など、非人道的な行為も散見された。
「地下2階では、薬品投与されかけた覚者がいたな」
 飛馬も鎖に繋がれていた少女が、職員の指示でこちらへと発砲してきたことを思い出す。
 捕まっていた少年、鎖で繋がれた少女。おそらくは、首に取り付けられた首輪で、職員に脅されているのだろう。その首輪は、彼らを人として扱っていない可能性すら窺わせた。
「次は絶対、助け出してーな……」
 翔がすでに遠くなった研究所の方角を見て、本音を口に出す。皆、同じ気持ちだ。
 捕らわれた覚者達を必ず救い出す。メンバー達はそう誓いながらも、研究所を後にしていくのだった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

潜入調査、お疲れ様でした。

やはり、怪しい研究所のようです。
囚われた覚者を助けるにも、
障害がいくつかあるようです。
なんとかして助け出したいところですが、
人の道から外れた組織だと確信できたことは
前進と捉えるべきでしょう。

ともあれ、今回はお疲れ様でした。
ゆっくりお休みくださいませ。




 
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