失踪事件での隧道内における救出作業の経緯又被害報告
●線路はどこまでも続いている。それがどこかは知らないが。
蝉の声と日差し。
風のぬるい山のトンネル前。
あなたはファイヴの依頼を受け、仲間たちと共にあるトンネルの調査に訪れていた。
電車の通行に用いられるトンネルで、付近に頻繁に行方不明者が出るということで調査の依頼が発生したというのだ。
これに真剣に取り組んでいてもいいし、不真面目に流していてもいい。
だが現場に着いて、あなたと仲間は三つのことを発見した。
第一に、地図情報や振動検査によれば線路は正常にトンネル内を通過し、向こう側へと通じていること。
第二に、トンネル周辺にエネミースキャンを放ったが妖の気配は一切無いこと。
第三に、足跡調査の結果覚者や武装した非覚者の存在も見られないということだ。
『中に入ってみるしかない』
それはあなたに限らず、皆が思ったことだった。
トンネル内部に照明はなく、懐中電灯を要した。
暫く進むうち、あなたは電車を発見する。
複数両編成の普通列車だ。
しかも車内照明がついている。
中を確認しようとよじのぼり、窓から覗き込むと。
車両内には人間の死体が腐ったようなものが数体『歩いて』いた。
死体は歩かない。妖でも覚者のたぐいでもない。
ならばなぜと考える暇も無く反対側の車両先端から男の声がした。
「そこの人、助けてくれ! ゾンビどもに殺される!」
声に反応したのか、車両内の死体たちが車両先端に向けて走り出した。
と同時に、トンネル内の闇から死体のようなうめき声が響いてくる。
さあ、どうする。
蝉の声と日差し。
風のぬるい山のトンネル前。
あなたはファイヴの依頼を受け、仲間たちと共にあるトンネルの調査に訪れていた。
電車の通行に用いられるトンネルで、付近に頻繁に行方不明者が出るということで調査の依頼が発生したというのだ。
これに真剣に取り組んでいてもいいし、不真面目に流していてもいい。
だが現場に着いて、あなたと仲間は三つのことを発見した。
第一に、地図情報や振動検査によれば線路は正常にトンネル内を通過し、向こう側へと通じていること。
第二に、トンネル周辺にエネミースキャンを放ったが妖の気配は一切無いこと。
第三に、足跡調査の結果覚者や武装した非覚者の存在も見られないということだ。
『中に入ってみるしかない』
それはあなたに限らず、皆が思ったことだった。
トンネル内部に照明はなく、懐中電灯を要した。
暫く進むうち、あなたは電車を発見する。
複数両編成の普通列車だ。
しかも車内照明がついている。
中を確認しようとよじのぼり、窓から覗き込むと。
車両内には人間の死体が腐ったようなものが数体『歩いて』いた。
死体は歩かない。妖でも覚者のたぐいでもない。
ならばなぜと考える暇も無く反対側の車両先端から男の声がした。
「そこの人、助けてくれ! ゾンビどもに殺される!」
声に反応したのか、車両内の死体たちが車両先端に向けて走り出した。
と同時に、トンネル内の闇から死体のようなうめき声が響いてくる。
さあ、どうする。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.最終車両を切り離し、列車を再発進させる。
2.最終車両ごとトンネルを脱出する。
3.なし
2.最終車両ごとトンネルを脱出する。
3.なし
一般人は自力では逃げ切れないため、車両ごと逃げる必要があるでしょう。
流れとしては以下の三ステップを踏むことになります。
一、列車に突入し、最初の8体と戦闘に入ります。
二、トンネル内から無限に沸いてくるゾンビから逃げるため、車両の奥へと戦闘しながら逃げます。
三、最終車両を切り離して列車を再発進。脱出します。
このとき列車の走行手順を知っていることにして構いません。
●ゾンビ
妖でない以上、古妖であることは間違いないのですが、今はどちらでも一緒です。そのため『ゾンビ』という俗称で呼びます。
ゾンビは一般人を追いかけるように移動を開始しています。
あなたは車両の窓や扉を利用して割り込み、これを撃退しつつ車両の切り離しと再発進を行ないます。
ゾンビの初期数は8。
この8体は武器を装備し、他のゾンビに比べて知能や性能が高くなっています。
この後もトンネル内の闇から無限に沸きだし、列車内にどんどん入ってきます。ですがこの無限沸き個体は行動が近接格闘能力のみに限定され、戦闘能力も低いようです。
システム的にはこれらで前・中・後衛が常に補充され続ける状態となります。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
7/8
7/8
公開日
2016年08月27日
2016年08月27日
■メイン参加者 7人■

●8月2日 13:00:xx
後ろを振り返った時、知っている景色が見えることを当然と思っていませんか?
今あなたの後ろから覗き込んでいる人は、知っている人ですか?
砂利道を蹴る足と反響。
『使命を持った少年』御白 小唄(CL2001173)は身長よりも高い列車の車体を駆け上がると、窓の縁をつぱるように身を固定。一度反動をつけると、両足を使って窓を蹴破った。
列車内に転がり込む。
それは奇しくも、反対側の窓をローリングタックルで突き破ってきた『独善者』月歌 浅葱(CL2000915)と同時だった。
クロスするように転がって、立ち上がる二人。
(ドアも閉まってた。列車に人が入れるような隙間もないのに、こいつらどうして中に……)
わいた疑問も後回しだ。首を振る。
一方で浅葱は目をりんと光らせ、光と共に名乗りを上げた。
「天が知る地が知る人知れずっ――さあ、救出のお時間ですよ!」
「そういうこと、逃げて!」
一度振り向いて叫ぶも、一般人の男はこちらを振り向きもせず一目散に奥の車両に走って行く。好都合だ。
「まずはこの八体、一気に倒すよ!」
「――!」
ゾンビが何か言った気がした。言語ですらない奇声だが、明らかな敵意を感じて身構えると、鉄板を両手に持ったゾンビが突撃を仕掛けてきた。
目配せは一瞬。小唄と浅葱は同時にパンチとキックを叩き込む。
が、ゾンビはそれらを鉄板によって受け止めた。
受けきられた。
だが終わりでは無い。
反動をつけてコンパクトにバク転した小唄は車両のつり革につかまってターン。その間に浅葱が身を翻して座席側へダッシュ。壁と窓を駆け上がると、相手の死角になるように上方両サイドからの同時攻撃を仕掛けた。
が、それすらも反応。鉄板によって受けきった。
予想しなかった分けでは無い。浅葱は鉄板をあえて掴んで固定。ゾンビの背後へと回り込んだ小唄は後ろ回し蹴りによってゾンビを蹴り倒した。
硬い。
テレビゲームに出てくる雑魚敵みたいにばーっとやってがーっと潰せると思っていた小唄は、あまりの手応えの堅さに僅かな焦燥に駆られ始めた。
一拍遅れて窓から飛び込んできた東雲 梛(CL2001410)が扉を手動でこじ開け、僅かな隙間に棍棒を差し込んでてこの原理で更に押し開く。
(嫌な感じがする。『同族把握』で感じた限り古妖には違いないが……)
「次の車両に移れ。闇の中からゾンビが来る!」
棍の先端からツルをはやし、攻撃の準備。ゾンビの一体が拳銃を連射してきた。
素早く棍棒を回転させて弾を弾き、流れるように鞭を放つ。
「武装って、このレベルの武装か! 少々、甘く見ていたかもしれないな」
咄嗟に立てたものとはいえ、作戦も軌道修正が必要になるだろう。
小唄と浅葱についてくるように指示しつつ奥の車両へダッシュ。
入れ替わりに赤坂・仁(CL2000426)と『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が扉から車両内へと飛び込んできた。
駅のホームから線路を見下ろせば分かるように、列車の扉はかなり高い場所に位置している。一度内側から開いてからジャンプで飛び込むのが一番早いのだ。
かくしてごろごろと床を転がった仁は伏姿勢のまま機関銃を乱射。
追いすがろうとするゾンビたちに牽制射撃を仕掛けた。
対するゾンビたちも次々に形容不明な物体を投擲してくる。
それらをかわすように更に転がり、膝立ち姿勢からのバックステップ、アンドダッシュ。
機関銃の反動も助けて、仁は素早く奥の車両へと移り始める……が、仲間の通行を確認してからだ。奏空は早速逆手二刀流でゾンビに斬りかかるが、同じく二刀流で斬りかかるゾンビと激しい打ち合いになっていた。それに鉄板で味方を守るゾンビがとにかく面倒くさい。集中攻撃をかけようとすれば必ず割って入るのだ。
「深追いするな。侵入を確認し次第引くぞ」
「分かってますけど……!」
奏空は歯を食いしばった。
ゾンビと打ち合っている現状を例えるなら、激しく漏電したスタンガンをお互いの首筋につきつけあっている状態だ。ギリギリ抵抗するが、一瞬でも気を抜けば落とされる。
引けば斬られる。押せば斬られる。
ならば無茶をするのみだ。
奏空は息を止め、全身の筋肉をこわばらせた。
通常の二倍の速度で腕を振るう。
残像を残すほどの速度で繰り出された刀を、相手のゾンビが高速で打ち払っていく。その合間合間にこちらの急所を容赦なく狙った筋を打ち込んでくるので、それを高速で打ち返す。
が、勿論敵はゾンビ一匹ではない。それに、恐るべきことに、このゾンビはきわめて知的な連携をとってくるのだ。互いを守りながら適切に戦うのだ。それに……。
「「――!」」
半数以上のゾンビが奏空たちを無視して奥の車両へ走り出した。仲間が、それ以上に一般人が狙われている。
このままじゃヤバイ。
そこへ駆けつけたのは『巖心流継承者』獅子王 飛馬(CL2001466)と赤祢 維摩(CL2000884)だった。
車両内へ乗り込んだ維摩はまず飛馬に戦巫女之祝詞をかけてからエネミースキャンを開始。その間に飛馬は奏空と二刀流ゾンビの間に割り込むように刀を差し込んだ。
飛馬も同じ二刀流。しかし守りの二刀流である。
ゾンビの刀に絡みつくように打ち込んで行くと、奏空に走るよう合図を送った。
飛び込む前の会話を思い出す。
『この状況、行方不明者がゾンビになってるみたいじゃんか!』
『だったら被害は増える一方ってことだ。この場で潰さねーとな!』
見たところ、そんなことを言っている場合ですらなさそうだ。
奏空が走り出したのを確認して、飛馬もバックステップをかけながら防御行動を開始。
相手の斬撃速度が速すぎて全てをはねのけきれないが、ギリギリ致命傷を避けるように動き続けている。
そうこうしている間に、先程開けた扉から次々とゾンビが這い上がってきた。
維摩へ振り返る。
「これ、いつまでやってるべきだ?」
「俺が知るか。精々死ぬまでやっていろ」
「お前、嫌な奴だな!」
「それこそ知るか。優しい言葉なら親にでもかけてもらえ」
そう言いながらもさっさと先に行かないのは、維摩がゾンビの観察を続けているからだ。
維摩の観察方法はエネミースキャンと肉眼での通常観察の二つのみ。その上で(現時点までで)分かったことを脳内でまとめた。
まず最初に発生していた八体のゾンビと後から沸いてきたゾンビの差は異常なほど大きい。奏空がゾンビと一進一退の状態になっていたように、最初の八体は覚者と同等の戦闘力を持っていると思っていいだろう。殲滅を考えるなら相打ち覚悟か命数を犠牲にしての特攻ということになるが、後から沸いてくる雑魚どもが加わると確実に潰される。
急いで最奥の車両へ走るのが賢明だろう。
観察はここまでだ。これ以上は戦闘に影響する。
「行くぞ。精々壁として役に立てよ」
「本当に一言多いな、お前は!」
維摩と飛馬は二刀流ゾンビを蹴り飛ばし、一目散に奥の車両へと走り出した。
●8月2日 13:0x:8x
目が覚めたら知らないベッドだったことはありますか? 知らない家族がおはようと言い、知らない職場に通勤し、知らない同僚と知らない上司が知らない仕事をよこしてきて夜には知らない恋人と約束をしていたことは? そうですか。ところで、あなたは誰ですか?
自分たちを無視して男を追いかけるゾンビを処理するのは恐ろしく大変な作業だった。
ゾンビが目の前の自分たちだけを狙うことが当たり前だと思っていたこともあって、状況は混乱を極めた。
なにせ咄嗟にたてた作戦だ。穴も抜けもあって然るべきだろう。だが逆に言えば、途中で切り替えることもそう難しくは無い。
「そこをどけ! 道を塞ぐな!」
小唄は追いすがってくる雑魚ゾンビの先頭に足払いをかけると、ドミノ倒しにしてから駆けだした。
そんな雑魚ゾンビを蹴り倒し前へと出てくるゾンビ。拳銃の弾が小唄の足に命中し、激しく転倒。
庇うように飛び出した飛馬を形容不明の濁流が包んだ。
刀をクロスさせ、必死に小唄へのダメージを庇う。が、気づいたときには飛馬の身体が所々焼けていた。まるで酸をバケツでひっかけられたような有様だ。
「退くぞ! つかまれ!」
小唄を引っ張り上げ、互いに肩を貸し合う形で走り出す。
そんな彼らを追いかけるゾンビがいた。凄まじいスピードでゾンビたちの肩から肩へと飛び移り、とてつもない跳躍力で飛びかかってくる。
そこへ滑り込む浅葱。
繰り出されたゾンビの剣を腕ごと掴むと、相手の力を利用して反転。地面へ思い切り叩き付ける。
「今のうちにっ――!?」
顔を上げた浅葱の視界が180度回転。
気づいたときには自分が列車の地面に顔面を強打していた。
何かに投げられたようだが、気づけなかった。
だがそのまま伏せていれば死ぬだけだ。現に自分の腕や足に無数の雑魚ゾンビたちが掴みかかってくる。
ぐわりと開いた口が、浅葱の表情をごくごく僅かに曇らせた。
瞬間。
ゾンビの顔面が切断され、一斉に崩れ落ちた。脱力した無数の手を振り払い離脱する浅葱。
割り込んだのは奏空だった。
「こっちだゾンビ! かかってこい!」
少しでも戦って時間を稼ぐ。それが奏空の考えである。
雑魚ゾンビはさして恐ろしくない。一撃で殺せるほどもろくは無いが、仲間の回復でこらえられる程度のダメージ量だ。
恐ろしいのは最初の八体。武装したゾンビである。
剣をまるで棒きれのごとく乱暴に握ったゾンビが立ち上がる。落ちていたフルフェイスヘルメットを被り、奏空へと襲いかかった。
慌ててよける。
(何か分かるかも知れない)
ヘルメットのゾンビを送受心の対象に選択。チャンネルを開いて呼びかけ――ようとした瞬間、相手の意識が流れ込んできた。
『おいしそう』
(――!?)
非捕食者の気分を一瞬にして理解した奏空はヘルメットのゾンビを蹴り飛ばし、一目散に走った。
「仁さん! 急いで! 早く列車を出して!」
●8月2日 1x:0x:54
お前なんか知らない。お前なんか知らない。お前なんか知らない。お前なんか知らない。お前なんか知らない。お前なんか知らない。お前なんか知らない。お前なんか知らない。俺を知っているような口ぶりで話すな、やめろ。
奏空の叫びを受け、仁は適切に動いていた。
傷だらけで最端車両へ転がり込んできた小唄たちを確認してから、梛に車両の切り離しを言いつけ運転席の鍵を破壊。
発進レバーに手をかけると、可能な限り最高速度で走り出せるように調整した。
長い経験から様々な乗り物の運転技術を学んできた仁ならではの手際である。
「急げ、追いつかれるぞ」
「奏空がまだだ! つかまってる!」
飛馬の声に、梛は連結部分への攻撃を一瞬躊躇した。
「俺が――」
「いや、俺が行く。すぐに戻る!」
仁は素早くかけだした。
維摩に目配せをしたが、維摩は鼻で笑うような反応を返すのみだ。
「倒れた壁ほど無意味なものはない。回収するのも面倒だ。精々手足を動かせ」
「……」
組織には色々な人間がいる。異常に辛辣な者や精神のタガが外れた者。仁はそれらとのコミュニケーションの取り方を心得ていた。
黙って動く。それのみである。人間はどうしたって、動物であるという点に行き着くのだ。
やがて肩を食いちぎられた奏空を抱えて戻ってくる仁。
梛は破眼光を乱射し、連結部を破壊した。
●8月2日 不明
子供の頃、こんな想像をしたことはないか。今居る親は偽物で、住んでいる家も偽物で、自分の経歴は全て偽物で、世界中が偽物でできているという、そんな妄想。
それがもし妄想でないとして、どうやって証明するんだ。
運転席に飛びつき、仁は発車レバーを押し込んだ。
列車を飛び降り、追いかけてくるゾンビたち。
最初から速度をつけた列車に追いつけるものは少ないが、顎から大量の血をながしたゾンビが猛スピードで追いついてくる。
「サンプルが自分からやってくるとはご苦労だな。だが、邪魔なだけだ」
雷を放って牽制する維摩。
しかしゾンビは攻撃をよけもせずに車両に飛びついてきた。
窓を剣でたたき割り、身を乗り出してくる。
「それ以上入ってくるな!」
天井を反射した小唄が頭部を蹴りつけ、浅葱がパンチによって押しのける。
それでも粘ろうと窓に手をかけた所で飛馬が刀を叩き付け、手ごと枠を粉砕。
振り払われたゾンビは地面を回転しながらバウンドし、遠く遠く闇の中へと消えていった。
それを確認し、仁はため息をついた。
光が見える。出口の光だ。
念のためブレーキをかけつつトンネルの出口を抜ける。
線路が途中で途切れることも、対向車両が来るようなこともなく、開けた景色だけがある。
列車をとめ、仲間の無事を確認した。
「全員いるな」
「ああ……」
梛は車両に残っているメンバーを指折りで数えた。
「俺と、御白、月歌、赤坂、工藤、獅子王、赤祢、そして保護した……これで全員だ」
「ああ、全員だな」
七人と一人。
で、全員。
その場にいる全員が頷き合った。ほっとため息をつく小唄。
「さて、サンプルでも取りに行くか。せいぜい使えるサンプルになればいい」
立ち上がり、車両の扉を開く維摩。
梛もそれを手伝って、車両の外に出た。
その時。
ばくん、という音がした。
トンネルを振り返る。
そこにはトンネルなんてなかった。
車両を振り返る。
そこに保護した一般人なんていなかった。
古妖の気配は、もう無くなっていた。
「トンネル自体が、古妖だったのか」
梛の呟きに、誰もが納得した。そうだ、不思議なことなんてなにもない。
自分たち七人だけがここにいて、戦って、生き残った。それだけのことだ。
ややあって、一両だけの列車は再び走り出す。
景色に見覚えがないまま、線路は続く。
完。
後ろを振り返った時、知っている景色が見えることを当然と思っていませんか?
今あなたの後ろから覗き込んでいる人は、知っている人ですか?
砂利道を蹴る足と反響。
『使命を持った少年』御白 小唄(CL2001173)は身長よりも高い列車の車体を駆け上がると、窓の縁をつぱるように身を固定。一度反動をつけると、両足を使って窓を蹴破った。
列車内に転がり込む。
それは奇しくも、反対側の窓をローリングタックルで突き破ってきた『独善者』月歌 浅葱(CL2000915)と同時だった。
クロスするように転がって、立ち上がる二人。
(ドアも閉まってた。列車に人が入れるような隙間もないのに、こいつらどうして中に……)
わいた疑問も後回しだ。首を振る。
一方で浅葱は目をりんと光らせ、光と共に名乗りを上げた。
「天が知る地が知る人知れずっ――さあ、救出のお時間ですよ!」
「そういうこと、逃げて!」
一度振り向いて叫ぶも、一般人の男はこちらを振り向きもせず一目散に奥の車両に走って行く。好都合だ。
「まずはこの八体、一気に倒すよ!」
「――!」
ゾンビが何か言った気がした。言語ですらない奇声だが、明らかな敵意を感じて身構えると、鉄板を両手に持ったゾンビが突撃を仕掛けてきた。
目配せは一瞬。小唄と浅葱は同時にパンチとキックを叩き込む。
が、ゾンビはそれらを鉄板によって受け止めた。
受けきられた。
だが終わりでは無い。
反動をつけてコンパクトにバク転した小唄は車両のつり革につかまってターン。その間に浅葱が身を翻して座席側へダッシュ。壁と窓を駆け上がると、相手の死角になるように上方両サイドからの同時攻撃を仕掛けた。
が、それすらも反応。鉄板によって受けきった。
予想しなかった分けでは無い。浅葱は鉄板をあえて掴んで固定。ゾンビの背後へと回り込んだ小唄は後ろ回し蹴りによってゾンビを蹴り倒した。
硬い。
テレビゲームに出てくる雑魚敵みたいにばーっとやってがーっと潰せると思っていた小唄は、あまりの手応えの堅さに僅かな焦燥に駆られ始めた。
一拍遅れて窓から飛び込んできた東雲 梛(CL2001410)が扉を手動でこじ開け、僅かな隙間に棍棒を差し込んでてこの原理で更に押し開く。
(嫌な感じがする。『同族把握』で感じた限り古妖には違いないが……)
「次の車両に移れ。闇の中からゾンビが来る!」
棍の先端からツルをはやし、攻撃の準備。ゾンビの一体が拳銃を連射してきた。
素早く棍棒を回転させて弾を弾き、流れるように鞭を放つ。
「武装って、このレベルの武装か! 少々、甘く見ていたかもしれないな」
咄嗟に立てたものとはいえ、作戦も軌道修正が必要になるだろう。
小唄と浅葱についてくるように指示しつつ奥の車両へダッシュ。
入れ替わりに赤坂・仁(CL2000426)と『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が扉から車両内へと飛び込んできた。
駅のホームから線路を見下ろせば分かるように、列車の扉はかなり高い場所に位置している。一度内側から開いてからジャンプで飛び込むのが一番早いのだ。
かくしてごろごろと床を転がった仁は伏姿勢のまま機関銃を乱射。
追いすがろうとするゾンビたちに牽制射撃を仕掛けた。
対するゾンビたちも次々に形容不明な物体を投擲してくる。
それらをかわすように更に転がり、膝立ち姿勢からのバックステップ、アンドダッシュ。
機関銃の反動も助けて、仁は素早く奥の車両へと移り始める……が、仲間の通行を確認してからだ。奏空は早速逆手二刀流でゾンビに斬りかかるが、同じく二刀流で斬りかかるゾンビと激しい打ち合いになっていた。それに鉄板で味方を守るゾンビがとにかく面倒くさい。集中攻撃をかけようとすれば必ず割って入るのだ。
「深追いするな。侵入を確認し次第引くぞ」
「分かってますけど……!」
奏空は歯を食いしばった。
ゾンビと打ち合っている現状を例えるなら、激しく漏電したスタンガンをお互いの首筋につきつけあっている状態だ。ギリギリ抵抗するが、一瞬でも気を抜けば落とされる。
引けば斬られる。押せば斬られる。
ならば無茶をするのみだ。
奏空は息を止め、全身の筋肉をこわばらせた。
通常の二倍の速度で腕を振るう。
残像を残すほどの速度で繰り出された刀を、相手のゾンビが高速で打ち払っていく。その合間合間にこちらの急所を容赦なく狙った筋を打ち込んでくるので、それを高速で打ち返す。
が、勿論敵はゾンビ一匹ではない。それに、恐るべきことに、このゾンビはきわめて知的な連携をとってくるのだ。互いを守りながら適切に戦うのだ。それに……。
「「――!」」
半数以上のゾンビが奏空たちを無視して奥の車両へ走り出した。仲間が、それ以上に一般人が狙われている。
このままじゃヤバイ。
そこへ駆けつけたのは『巖心流継承者』獅子王 飛馬(CL2001466)と赤祢 維摩(CL2000884)だった。
車両内へ乗り込んだ維摩はまず飛馬に戦巫女之祝詞をかけてからエネミースキャンを開始。その間に飛馬は奏空と二刀流ゾンビの間に割り込むように刀を差し込んだ。
飛馬も同じ二刀流。しかし守りの二刀流である。
ゾンビの刀に絡みつくように打ち込んで行くと、奏空に走るよう合図を送った。
飛び込む前の会話を思い出す。
『この状況、行方不明者がゾンビになってるみたいじゃんか!』
『だったら被害は増える一方ってことだ。この場で潰さねーとな!』
見たところ、そんなことを言っている場合ですらなさそうだ。
奏空が走り出したのを確認して、飛馬もバックステップをかけながら防御行動を開始。
相手の斬撃速度が速すぎて全てをはねのけきれないが、ギリギリ致命傷を避けるように動き続けている。
そうこうしている間に、先程開けた扉から次々とゾンビが這い上がってきた。
維摩へ振り返る。
「これ、いつまでやってるべきだ?」
「俺が知るか。精々死ぬまでやっていろ」
「お前、嫌な奴だな!」
「それこそ知るか。優しい言葉なら親にでもかけてもらえ」
そう言いながらもさっさと先に行かないのは、維摩がゾンビの観察を続けているからだ。
維摩の観察方法はエネミースキャンと肉眼での通常観察の二つのみ。その上で(現時点までで)分かったことを脳内でまとめた。
まず最初に発生していた八体のゾンビと後から沸いてきたゾンビの差は異常なほど大きい。奏空がゾンビと一進一退の状態になっていたように、最初の八体は覚者と同等の戦闘力を持っていると思っていいだろう。殲滅を考えるなら相打ち覚悟か命数を犠牲にしての特攻ということになるが、後から沸いてくる雑魚どもが加わると確実に潰される。
急いで最奥の車両へ走るのが賢明だろう。
観察はここまでだ。これ以上は戦闘に影響する。
「行くぞ。精々壁として役に立てよ」
「本当に一言多いな、お前は!」
維摩と飛馬は二刀流ゾンビを蹴り飛ばし、一目散に奥の車両へと走り出した。
●8月2日 13:0x:8x
目が覚めたら知らないベッドだったことはありますか? 知らない家族がおはようと言い、知らない職場に通勤し、知らない同僚と知らない上司が知らない仕事をよこしてきて夜には知らない恋人と約束をしていたことは? そうですか。ところで、あなたは誰ですか?
自分たちを無視して男を追いかけるゾンビを処理するのは恐ろしく大変な作業だった。
ゾンビが目の前の自分たちだけを狙うことが当たり前だと思っていたこともあって、状況は混乱を極めた。
なにせ咄嗟にたてた作戦だ。穴も抜けもあって然るべきだろう。だが逆に言えば、途中で切り替えることもそう難しくは無い。
「そこをどけ! 道を塞ぐな!」
小唄は追いすがってくる雑魚ゾンビの先頭に足払いをかけると、ドミノ倒しにしてから駆けだした。
そんな雑魚ゾンビを蹴り倒し前へと出てくるゾンビ。拳銃の弾が小唄の足に命中し、激しく転倒。
庇うように飛び出した飛馬を形容不明の濁流が包んだ。
刀をクロスさせ、必死に小唄へのダメージを庇う。が、気づいたときには飛馬の身体が所々焼けていた。まるで酸をバケツでひっかけられたような有様だ。
「退くぞ! つかまれ!」
小唄を引っ張り上げ、互いに肩を貸し合う形で走り出す。
そんな彼らを追いかけるゾンビがいた。凄まじいスピードでゾンビたちの肩から肩へと飛び移り、とてつもない跳躍力で飛びかかってくる。
そこへ滑り込む浅葱。
繰り出されたゾンビの剣を腕ごと掴むと、相手の力を利用して反転。地面へ思い切り叩き付ける。
「今のうちにっ――!?」
顔を上げた浅葱の視界が180度回転。
気づいたときには自分が列車の地面に顔面を強打していた。
何かに投げられたようだが、気づけなかった。
だがそのまま伏せていれば死ぬだけだ。現に自分の腕や足に無数の雑魚ゾンビたちが掴みかかってくる。
ぐわりと開いた口が、浅葱の表情をごくごく僅かに曇らせた。
瞬間。
ゾンビの顔面が切断され、一斉に崩れ落ちた。脱力した無数の手を振り払い離脱する浅葱。
割り込んだのは奏空だった。
「こっちだゾンビ! かかってこい!」
少しでも戦って時間を稼ぐ。それが奏空の考えである。
雑魚ゾンビはさして恐ろしくない。一撃で殺せるほどもろくは無いが、仲間の回復でこらえられる程度のダメージ量だ。
恐ろしいのは最初の八体。武装したゾンビである。
剣をまるで棒きれのごとく乱暴に握ったゾンビが立ち上がる。落ちていたフルフェイスヘルメットを被り、奏空へと襲いかかった。
慌ててよける。
(何か分かるかも知れない)
ヘルメットのゾンビを送受心の対象に選択。チャンネルを開いて呼びかけ――ようとした瞬間、相手の意識が流れ込んできた。
『おいしそう』
(――!?)
非捕食者の気分を一瞬にして理解した奏空はヘルメットのゾンビを蹴り飛ばし、一目散に走った。
「仁さん! 急いで! 早く列車を出して!」
●8月2日 1x:0x:54
お前なんか知らない。お前なんか知らない。お前なんか知らない。お前なんか知らない。お前なんか知らない。お前なんか知らない。お前なんか知らない。お前なんか知らない。俺を知っているような口ぶりで話すな、やめろ。
奏空の叫びを受け、仁は適切に動いていた。
傷だらけで最端車両へ転がり込んできた小唄たちを確認してから、梛に車両の切り離しを言いつけ運転席の鍵を破壊。
発進レバーに手をかけると、可能な限り最高速度で走り出せるように調整した。
長い経験から様々な乗り物の運転技術を学んできた仁ならではの手際である。
「急げ、追いつかれるぞ」
「奏空がまだだ! つかまってる!」
飛馬の声に、梛は連結部分への攻撃を一瞬躊躇した。
「俺が――」
「いや、俺が行く。すぐに戻る!」
仁は素早くかけだした。
維摩に目配せをしたが、維摩は鼻で笑うような反応を返すのみだ。
「倒れた壁ほど無意味なものはない。回収するのも面倒だ。精々手足を動かせ」
「……」
組織には色々な人間がいる。異常に辛辣な者や精神のタガが外れた者。仁はそれらとのコミュニケーションの取り方を心得ていた。
黙って動く。それのみである。人間はどうしたって、動物であるという点に行き着くのだ。
やがて肩を食いちぎられた奏空を抱えて戻ってくる仁。
梛は破眼光を乱射し、連結部を破壊した。
●8月2日 不明
子供の頃、こんな想像をしたことはないか。今居る親は偽物で、住んでいる家も偽物で、自分の経歴は全て偽物で、世界中が偽物でできているという、そんな妄想。
それがもし妄想でないとして、どうやって証明するんだ。
運転席に飛びつき、仁は発車レバーを押し込んだ。
列車を飛び降り、追いかけてくるゾンビたち。
最初から速度をつけた列車に追いつけるものは少ないが、顎から大量の血をながしたゾンビが猛スピードで追いついてくる。
「サンプルが自分からやってくるとはご苦労だな。だが、邪魔なだけだ」
雷を放って牽制する維摩。
しかしゾンビは攻撃をよけもせずに車両に飛びついてきた。
窓を剣でたたき割り、身を乗り出してくる。
「それ以上入ってくるな!」
天井を反射した小唄が頭部を蹴りつけ、浅葱がパンチによって押しのける。
それでも粘ろうと窓に手をかけた所で飛馬が刀を叩き付け、手ごと枠を粉砕。
振り払われたゾンビは地面を回転しながらバウンドし、遠く遠く闇の中へと消えていった。
それを確認し、仁はため息をついた。
光が見える。出口の光だ。
念のためブレーキをかけつつトンネルの出口を抜ける。
線路が途中で途切れることも、対向車両が来るようなこともなく、開けた景色だけがある。
列車をとめ、仲間の無事を確認した。
「全員いるな」
「ああ……」
梛は車両に残っているメンバーを指折りで数えた。
「俺と、御白、月歌、赤坂、工藤、獅子王、赤祢、そして保護した……これで全員だ」
「ああ、全員だな」
七人と一人。
で、全員。
その場にいる全員が頷き合った。ほっとため息をつく小唄。
「さて、サンプルでも取りに行くか。せいぜい使えるサンプルになればいい」
立ち上がり、車両の扉を開く維摩。
梛もそれを手伝って、車両の外に出た。
その時。
ばくん、という音がした。
トンネルを振り返る。
そこにはトンネルなんてなかった。
車両を振り返る。
そこに保護した一般人なんていなかった。
古妖の気配は、もう無くなっていた。
「トンネル自体が、古妖だったのか」
梛の呟きに、誰もが納得した。そうだ、不思議なことなんてなにもない。
自分たち七人だけがここにいて、戦って、生き残った。それだけのことだ。
ややあって、一両だけの列車は再び走り出す。
景色に見覚えがないまま、線路は続く。
完。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
