骸骨劇団。或いは、真夜中の劇場。
●月が昇って、幕が開ける
日が沈み、ゆっくりと、空に昇っていった月が丁度頭上に見える頃。
森の奥の、沼の傍。湿気た土を掻き分けて、真白い腕が突き出した。
真白い腕に肉はなく、そして奇妙なほどに短いようだ。
カタカタ、カタカタと音を鳴らして、沼の傍から都合4つの死体が這い出た。
白骨死体。それも、かなり古いものだろう。
真白い身体は、土に汚れて黒に染まって、ぼたりぼたりと泥を零す。
沼を背にした死体は4つ。どれも小さな、子供の死体だ。
沼の傍で円陣組んで、暫く愉快に骨を鳴らして。
やがて、月の光が沼を白く照らす頃。
カタカタ、カタカタ。
8体の骨が軽快な音を鳴らして、辺りに散らばっていた木枝や倒木、岩や蔦を集め始めた。
一斉に、骨達は何かを組み立て始め、あっという間に沼の真上に大きな舞台を作り上げた。
沼の大きさは、半径7メートルもない程度だろう。
月の光を浴びながら、4体の白骨死体は、それぞれ木や石で作った武器を、鎧を、王冠を身に纏い、カタカタ、カタカタ、骨を鳴らして舞台を上で何かを演じる。
観客は居ない。
これは、小さな小さな白骨死体の演じる、真夜中の、演劇。
●演目名は……。
「演目名は“月夜のロンド”だよっ! 演じるは生物系・妖怪(骸骨劇団)ですっ!」
なんて、適当な名前を付けてから久方 万里(nCL2000005)は指令室へ集まった面々の顔を見渡し、得意気に鼻を鳴らして見せる。
万里によって配られた資料には、森の中の、目的地である沼への地図と、ターゲットである(骸骨劇団)の絵らしきものが載っていた。
「骸骨のサイズはどれも120センチ前後。子供の骨だと思うけど、古すぎて詳細は不明。動きが素早くて、沼の底から骨で作った武器や道具を引っ張りよせる能力を持っているよ」
つまり、実際に戦ってみるまでは相手がどんな武器でどんな攻撃を仕掛けてくるかは不明ということだ。
とはいえ、骨で作られた武器である。当然ながら物理攻撃である。
「遊んでいるだけに見えるけど、このまま放置しておくわけにもいかないし、とりあえず現地に行って討伐して来てねー」
少し、可哀そうだけどね。
そう言った万里の表情が、ほんの僅かに雲って見える。
しかし、すぐに表情を笑顔に切り変えて万里は告げる。
「攻撃には(毒)か(痺れ)と(出血)の状態異常が付与されているからそれなりに注意が必要かも」
怪我すると痛いよね。
と、万里は告げる。
敵の数は4体と比較的多く、連携を取った行動も得意のようだ。
沼の周り以外は、木々が鬱蒼と生い茂っていて視界も足場も悪い。現状、骸骨達のいる舞台は丁度沼の真上にあるため、近接戦闘中に沼へと落下してしまうことも考えられるだろう。
沼の中では、身動きをとることも難しいだろう。そうなってしまっては、戦線復帰まである程度の時間がかかることが予想される。
「もしかしたら、戦っているうちに彼らが何者なのかも分かるかもねー」
余裕があれば、それも調べてくれると嬉しいかも。
そう言って、万里は仲間達へと出撃の指示を下した。
日が沈み、ゆっくりと、空に昇っていった月が丁度頭上に見える頃。
森の奥の、沼の傍。湿気た土を掻き分けて、真白い腕が突き出した。
真白い腕に肉はなく、そして奇妙なほどに短いようだ。
カタカタ、カタカタと音を鳴らして、沼の傍から都合4つの死体が這い出た。
白骨死体。それも、かなり古いものだろう。
真白い身体は、土に汚れて黒に染まって、ぼたりぼたりと泥を零す。
沼を背にした死体は4つ。どれも小さな、子供の死体だ。
沼の傍で円陣組んで、暫く愉快に骨を鳴らして。
やがて、月の光が沼を白く照らす頃。
カタカタ、カタカタ。
8体の骨が軽快な音を鳴らして、辺りに散らばっていた木枝や倒木、岩や蔦を集め始めた。
一斉に、骨達は何かを組み立て始め、あっという間に沼の真上に大きな舞台を作り上げた。
沼の大きさは、半径7メートルもない程度だろう。
月の光を浴びながら、4体の白骨死体は、それぞれ木や石で作った武器を、鎧を、王冠を身に纏い、カタカタ、カタカタ、骨を鳴らして舞台を上で何かを演じる。
観客は居ない。
これは、小さな小さな白骨死体の演じる、真夜中の、演劇。
●演目名は……。
「演目名は“月夜のロンド”だよっ! 演じるは生物系・妖怪(骸骨劇団)ですっ!」
なんて、適当な名前を付けてから久方 万里(nCL2000005)は指令室へ集まった面々の顔を見渡し、得意気に鼻を鳴らして見せる。
万里によって配られた資料には、森の中の、目的地である沼への地図と、ターゲットである(骸骨劇団)の絵らしきものが載っていた。
「骸骨のサイズはどれも120センチ前後。子供の骨だと思うけど、古すぎて詳細は不明。動きが素早くて、沼の底から骨で作った武器や道具を引っ張りよせる能力を持っているよ」
つまり、実際に戦ってみるまでは相手がどんな武器でどんな攻撃を仕掛けてくるかは不明ということだ。
とはいえ、骨で作られた武器である。当然ながら物理攻撃である。
「遊んでいるだけに見えるけど、このまま放置しておくわけにもいかないし、とりあえず現地に行って討伐して来てねー」
少し、可哀そうだけどね。
そう言った万里の表情が、ほんの僅かに雲って見える。
しかし、すぐに表情を笑顔に切り変えて万里は告げる。
「攻撃には(毒)か(痺れ)と(出血)の状態異常が付与されているからそれなりに注意が必要かも」
怪我すると痛いよね。
と、万里は告げる。
敵の数は4体と比較的多く、連携を取った行動も得意のようだ。
沼の周り以外は、木々が鬱蒼と生い茂っていて視界も足場も悪い。現状、骸骨達のいる舞台は丁度沼の真上にあるため、近接戦闘中に沼へと落下してしまうことも考えられるだろう。
沼の中では、身動きをとることも難しいだろう。そうなってしまっては、戦線復帰まである程度の時間がかかることが予想される。
「もしかしたら、戦っているうちに彼らが何者なのかも分かるかもねー」
余裕があれば、それも調べてくれると嬉しいかも。
そう言って、万里は仲間達へと出撃の指示を下した。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.ターゲットの全滅
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
今回は、森奥の沼に現れた、子供のものらしき骸骨達がターゲットです。
この沼に、何かしらの因縁があるようなので、戦闘中に何か分かることもあるかもしれません。
では、以下詳細。
●場所
森の奥の沼地。
沼の周辺には木々が生い茂っていて、視界は悪い。
沼の上に作られた舞台のみ、月の光に照らされていて視界は良好である。
足場はぬかるんでいて、余り良くない。
沼に落下した場合、戦線復帰に時間がかかる。
●ターゲット
生物系・妖(骸骨劇団)×4
ランク1
子供のものらしき白骨死体。
沼の底から、骨で出来た武器や道具を引き寄せ使用する。
動きが素早く、こちらを挑発するような行動をとることが多い。
攻撃力は高くないが、連携をとるのが上手いようだ。
(白骨創造)→遠距離単体[出血]&[毒]or[痺れ]
沼の底から引き上げた骨で、武器や道具を作成する能力。
以上になります。
それでは、よろしくお願いします。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2015年09月12日
2015年09月12日
■メイン参加者 8人■

●月夜のロンド
沼の上には、急ごしらえの粗末な舞台。スポットライトは月光で、劇を演じるは4体の骸骨。
喜劇か、悲劇か、骨で作った王冠や剣を手にとって、彼らは踊る。カタカタ、カタカタ、小気味よく骨が鳴る。
どれも子供の骨だ。沼の底から這い上がってきた、妖と化した子供の骸骨。
森の奥で開催される、月夜の演劇を眺める観客の数は8。
「さて、さて。骨相手とはなんとも『声』が聞こえぬ相手ですが、いいでしょう」
くすり、と小さく微笑んで。
『名も無きエキストラ』エヌ・ノウ・ネイム(CL2000446)は、腕を大きく広げて見せた。
●ショー・ダウンッ!
落雷。閃光。森が揺れて、木の葉が舞った。沼の水分が蒸発し、生臭い霧が周囲を覆う。
エヌの召喚した雷が舞台を焦がす。
骸骨達は素早い動作でこれを回避。即座に、骨で作った大槍をエヌに向かって投げつけた。
4本の骨槍が、次々と地面に突き刺さる。回避の為、纏まっていた陣形が崩された。意図した結果か、それとも偶然か。子供の骨と見て、油断していては大怪我を負う危険もあると見て『傭兵』しまむら ともや(CL2001077)はハンドガンを構え、舞台の上へと弾丸を撃ち込んだ。
「可哀想なのはわかるが、今のままなのは、あまりにも不幸だろう? 今ここで戦うのは、正しい事さ」
舞台の上で、踊るように骸骨が跳ねる。銃弾を回避し、カタカタと骨を鳴らして手を叩く。
ともやの構えたハンドガンに興味を持ったのか、骸骨のうち1体が腕を振り上げともやへと視線を注ぐ。
ゴボ、と沼が音をたてて波打った。骸骨の腕の動きに吊られるようにして沼の中から無数の骨が姿を現す。泥に塗れた大量の骨は空中で組み合わさると、巨大な棍棒を形作る。
轟音と共に、棍棒が振り下ろされた。
棍棒が命中する寸前、ともやの身体を『直球勝負の田舎侍』神祈 天光(CL2001118)が後ろから突き飛ばす。自身も、地面を滑るようにして棍棒の攻撃範囲から脱出し、小さな舌打ちをこぼした。
「……しかし、こやつらの目的はなんでござろうか」
棍棒の攻撃を回避するため、沼に近づきすぎた。泥と共に沼へと引き戻される大量の骨に足をとられて、ともやと天光の姿勢が崩れる。
天光が刀を地面に突き立てることで姿勢の立て直しを計るが、沼の近くということもあってか、地盤が緩い。さらに追い打ちをかけるように、新たな骨槍が天光の肩へと突き刺さった。
骨と共に、2人の身体が沼へと沈む。
「それなら、敵も沼に落としてやればいい! 浅葱組次期組長、浅葱枢紋! 推して参る……ッ!!」
舞台へ向かって、跳び出す影。『極道【浅葱組】の若様』浅葱 枢紋(CL2000138)の周囲に霧が渦巻く。濃霧は、押し寄せる波のように骸骨達の身体へ纏わり付いた。骸骨達の動きが鈍る。
急に重たくなった身体に戸惑っているのか、4体の骸骨は首を傾げていた。
枢紋の接近に気付いた骸骨が1体、舞台の端まで身を乗り出した。腕を振り上げ、沼の中から骨を数本引き上げると、舞台の手前に即席の柵を組み上げた。
柵を破壊すべく、枢紋が槍を構える。
だが、枢紋が柵へと辿り着くよりも早く、後方から放たれた火炎弾が柵の中央を撃ち抜いた。支点を砕かれた骨柵が崩れ、沼へと沈んで行く。長い年月、沼底に沈んでいたせいか、骨の強度はさほど高くないようだ。
「その、私、骸骨とかゾンビとか、ほんとはあんまり得意ではないんですが……お仕事ですもんね。頑張ります!」
火炎弾を放った姿勢のまま『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は、頬を引きつらせている。子供のものとはいえ、動き周り、襲ってくる骸骨と対面したのは初めてだ。
「おっしゃ!」
崩れて行く骨の中を、枢紋が駆け抜ける。舞台端に寄っていた骸骨を、槍の先端で掬い上げ、そのまま後方へと投げ飛ばした。
直後、後衛にいた骸骨の投げた骨の短刀が枢紋の腹部に突き刺さる。
バランスを崩した枢紋へ向かって、残り2体の骨が接近。
「子供の骨か……。力や立場の弱い子供はいつの世でも訳もわからず踏みつけられていくものだからな」
風切音。スリングショットから放たれた高速の銀弾が、骸骨の額を撃ち抜いた。砕けた骨の欠片が宙を舞う。骸骨達の隙を窺っていた、石和 佳槻(CL2001098)の援護射撃は、正確に骸骨の行動を阻害してみせた。
残る1体の骸骨の手には骨で出来た剣。西洋の剣だ。
「このような場所は童の遊び場には相応しくなかろう。……せめて安らかに逝くがよい」
空気が爆ぜる。骸骨の眼前に現れた黒雲から、紫電が迸った。
沼から遠く離れた後方、由比 久永(CL2000540)はじっと舞台を見つめている。骸骨達に対し、何か想う所があるのだろう。
骸骨が後方へと弾き飛ばされたその隙に、枢紋は姿勢を立て直し着地。その傍では、エヌが沼に落下した2人を引き上げている所だった。
一方、枢紋が後方へと弾き飛ばした骸骨の真下には禁花 咲穂子(CL2000894)が待ち構えていた。薙刀を握る手に力を込めつつも、何かを考え込んでいるようだ。
「誰かに何かを伝えたくて、4人で「劇」をしてるのかな?」
長い時間ではなかったが、骸骨達の劇を観て彼女はそう感じたようだ。
落下してくる骸骨の手元には、既に武器となる骨はない。
一度、静かに目を閉じると咲穂子は薙刀を腰の位置で構え直す。
「倒すしかない相手だってことくらい、わかってる」
それでも。
彼らは既に死者であり、今更彼らが何故死んだのかを知っても意味などないと知りつつも。
それでもせめて、理由が知りたい。少しだけでも、彼らの事を理解したい。
人間は、死んだら終わりだ。
それでも彼らは、妖として蘇った。そこには何か、意味がある筈。強い想いがある筈と。
せめてもの弔いに、心の中で手を合わせ、しっかと瞳を見開いた。
薙刀の一閃。月光を反射し、きらりと光る。
まっすぐ、吸い込まれるように刃は骸骨の首へと命中し、その身は宙で力を失う。バラバラになって、落下する骨の中に、咲穂子は、キラリと光る何かを見つけた。
「先ほどの……。動物や、人間の子供の骨でござった。全てが終わったら骨子は皆きちんと弔ってやれぬだろうか。沼に沈んでいる者も、全てきちんとすくい上げてやって……」
沼から這いあがった天光が、呟くようにそう言った。
そんな彼の様子を、どこか楽しげに眺めながらエヌは言う。
「おや、おや。……何時果てたかすらも解らぬ存在に無意味にも情でも沸きましたか」
「……そういう訳ではないでござるが。この様な淀んだ場所では、魂が何時まで経っても還れないでござろう?」
「まぁ、いつらみたいに大人になれないまま死んじまうのは可哀想だよな。俺達は先に進むぞ。こいつらが生まれ変わる前には、戦いの無い世界にしなくちゃいけないからな」
泥塗れになったスーツを脱ぎ棄て、ともやはハンドガンのマガジンを入れ変える。泥に塗れたハンドガンでも、どうにかまだ使えそうだ。無論、早急な手入れが必要となるが、まずは目先の骸骨討伐が先だ。
舞台の上には3体の骸骨。
踊るように、歌うように、腕を振り回し、骨で作った杖を掲げ、まるで何かの儀式のように、沼から骨を引き上げる。
「どうせ中身なんてない、きっと刷り込まれたものを繰り返しているだけだ」
泥を滴らせながら浮きあがった骨が、武器の形に組み合わさったその瞬間、佳槻の撃ち出した銀弾がそれを打ち砕く。音もなく、殺意もなく、ただ淡々と骸骨達の行動を阻害し続ける。
しかし、流石に数と量が多い。
佳槻1人では対処しきれるものではなく、次々と降り注ぐ骨槍のせいで前衛の仲間は舞台へと近づけないでいる。
「人数的にはこちらが有利だが、地の利は向こうにある。せめて、沼に落とせれば良いのだがなぁ」
佳槻をサポートするように、久永の呼び出した雷が舞台を撃ち抜く。急ごしらえの舞台は、落雷の度に激しく震え、その度に骸骨達の身体が宙に舞った。
攻撃の手が止んだその間隙を縫って、ともやの放った弾丸が骸骨に命中。
素早く、枢紋と天光が舞台の上へと跳び乗った。
流石に自分達の足場を壊すわけにはいかないようで、骸骨達も舞台の上に骨槍を降らせるような真似はしないようだ。或いは、彼らにとってこの舞台は何か大事なものなのかもしれない。
骨で作った盾と大剣。枢紋と天光は、骨の鎧を纏った3体の骸骨と激しく打ち合う。
「……しかし、武器に、鎧に、王冠に、舞台。何とも興味深い場ではありませんか。一舞台役者として、命も頭脳も持たぬ、怨恨と言うなの本能のみに揺り動かされるだけの存在たる彼らが何を演じようとしたのか気になりますなあ」
エヌは、懐中電灯片手に舞台を見上げてそう呟いた。
西洋風の装いや装備、王冠に杖と、それから舞台。子供である彼らが、なにゆえこのような森奥の沼に沈んでいたのか。
首を傾げ、もっとよく舞台を観ようと足を前へと踏み出した。
コツン、と。
エヌの爪先が、何かを蹴飛ばす。
「ん? これは……?」
泥と、木片と、骨の欠片の散らばる足元。エヌが拾い上げたそれは、金属のようだ。
いくつかの、金属の輪が連なったそれは、鎖であった。鎖の先は沼の中。スタンロッドに変異した右腕に鎖を引っ掛け、沼から引き摺り出す。
鎖の先には、小さな鉄球が繋がれていた。
「うぅ……。この子達に私にしてあげられることは何もないのでしょうか?」
涙目のラーラは、空中へ火炎弾を撃ち込むことで、骨槍による攻撃を弾く。
ラーラが後衛の守護を。佳槻と久永、それからともやの3人で舞台上の仲間の援護を続けている。
万が一、前衛の仲間が沼へと落下した場合のことを考えると、後衛である彼女達は迂闊に前へ出るわけにもいかない。戦線が崩されてしまえば、逃亡される恐れもある。
月の光や、久永の呼び出す雷、エヌの懐中電灯のおかげで視界には苦労しない。灯の届かぬ空中も、ラーラの火炎弾で光源は確保できていた。
もっとも、それも今のうちだけだ。戦いが長引けば、MPが尽き光源の確保も難しくなるだろう。
それを見越したわけでもないのだろうが、ラーラの傍へ歩み寄った咲穂子は、ラーラの小さな肩に手を置き、囁く。
「終わらせてあげよう……。頭使うの苦手だけどね、分かったの。あの子達は、生贄だよ」
ラーラの手に握られているのは、龍の模様が刻まれた石の首飾りだ。先ほど彼女が倒した骸骨の首から下げられていたものである。
「そのようですね。沼の中に、重りのついた鎖がありました。奴隷か何かでしょうかね? 故郷から連れて来られて、生贄に捧げられたのでしょう」
と、沼の傍から戻って来たエヌは言う。
だとすれば、彼らの演じる劇は祖国での思い出であろうか。
或いは、奴隷として連れて来られる以前、祖国では劇団にでも所属していたのかもしれない。
古く、災害の原因は、山の神の怒りであると考えていた地域がこの国には存在する。
その度に人は、沼や川へと人を沈めることで、神への供物としたという。
「運が悪かったのか、良かったのか。生贄にされずとも、待っていたのは奴隷としての人生だったのでしょうね」
「でも、劇を演じている間は楽しそうに見えたから」
骸骨達の演目は、故郷での思い出。
生憎と、彼らの故郷を確かめる術はない。その躯を、祖国へと返してやることはできそうもない。
だったら、せめて。
「せめて、静かに眠らせてあげよう」
そう言って咲穂子は、舞台へ向かって駆け出した。
●大舞台の幕は降り
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
経典を広げ、精神集中。ラーラの周囲を熱波が焦がす。放たれた火炎の弾丸が、舞台の足へ命中した。轟音と共に、舞台の足に炎が燃え移り、火柱と化す。業火に焼かれ、舞台が大きく手前側へと傾いた。
舞台の上にいた骸骨と、仲間達が姿勢を崩す。
「僕たちの役割は、援護ですかね」
「せっかく舞台が傾いたのだから、徹底的に追い込むかの」
地面を蹴って、舞台に跳び乗る咲穂子の傍で紫電が爆ぜた。エヌと久永の召喚した雷が、骸骨達の足元を打ち抜く。黒焦げになった木材が、端から順に崩れ落ちて行く。
傾いた舞台の上で、1体の骸骨が大きく跳ねた。その動きに合わせるように、沼底から巨大な骨の塔が浮かび上がる。体勢を崩しながらも、骸骨達は眼前の邪魔者を葬ることを諦めてはいないようだ。
「まだやる気か……」
ともやの第六感が激しく警鐘を鳴らす。スキルで強化された視力を駆使し、骸骨の動きを正確に追いかける。3体の骸骨のうち、最も危険なのは天光の足元にいた骸骨だ。骨で作った大鎌を構えている。
ハンドガンを構え、骸骨の手首へと銃口を向けた。
鎌を繰りだす、その瞬間。最も、隙の大きくなる一瞬を狙って、銃弾を放つ。
骸骨の腕が砕け散る。
舞台の上に取り落とされた鎌と骸骨が、傾いた舞台の上を滑り落ちる。
骸骨の身体が空中に投げだされた瞬間、その額を水の弾丸が撃ち抜いた。スリングショットで撃ち出された佳槻の水礫が、骸骨の命を終わらせる。
「もう終わったんだ。お休み」
崩れ落ちる骸骨に向け、佳槻はそっとそう告げた。
天光が、骨の塔を駆け上がる。塔の頂上には骸骨の姿。もう1体の骸骨の姿が見えない。
塔から次々と跳び出す、骨の槍が天光の身体を切りつける。
全身を血で赤く染めながら、天光は塔の頂上へと到着。
「あとで、きちんと墓標をたて、経を唱えてやるでござるよ」
刀による一閃が、塔の上部を切り崩した。それと同時に、天光の身体も塔から落下する。身体が痺れ、上手く動かせないでいるようだ。
落下する骸骨の真下に、枢紋が駆け寄り槍を構えた。
「天を裂き唸る天空、天駆ける迅雷の刃! 天行壱式召雷!」
骸骨目がけ、槍を突き出す。それと同時、上空に呼び出された雷が、骸骨の身体を射抜く。骸骨の胸を前後から刺し貫いた槍と落雷が、一瞬で骸骨の命を奪った。
残る骸骨は1体。
骨の塔の中ほどに埋もれるようにして、身を隠していた。それを発見したのは、久永だ。骸骨が沼から大量の骨を引きだした際、服が汚れるのを嫌って空へと逃避していたが故の発見だ。遠くから、広く戦場を睥睨することで、骸骨全員の動きを把握することができていたのである。
久永の指示で、咲穂子は塔へと跳びかかる。
「っ!!」
咲穂子の振り下ろした薙刀を、骨の塔から跳び出した無数の槍が受け止める。
カタカタ、と骸骨が顎を鳴らした、その瞬間。
「良い子は寝る時間だ。舞台の幕を下ろすとしよう」
空気が爆ぜる。骸骨の頭部が、見えない弾丸に撃ち抜かれ、砕け散った。上空から放たれた久永のエアブリドが、骸骨の意識が先穂子の薙刀へ向いているその隙を突き、骸骨の頭部へと叩きこまれた。
骸骨の身体から、力が抜ける。最後の力を振り絞るようにして、骸骨の腕が空を掻く。
遠く、空のかなたの月へと向けて。
伸ばされた手は、塵となって崩れて消えた。
舞台が燃える。業火に包まれた骸骨が、沼の底へと沈んで行く。
エヌと咲穂子が、その手に握っていた鎖と首飾りを炎の中へ投げ入れる。
やがて、炎は消えて骸骨も舞台も、なくなった。熱気と、霧、それから月光。
大きな石を、沼の傍へと運んできたのは天光であった。地面に膝をつき、手を合わせる。
誰も、一言も言葉を発しようとはしなかった。
最後に久永が、一輪の花を墓石に備えると、仲間達は1人、また1人とその場を立ち去る。
誰もいなくなった沼の上に、柔らかな月光が降り注ぐ。
沼の上には、急ごしらえの粗末な舞台。スポットライトは月光で、劇を演じるは4体の骸骨。
喜劇か、悲劇か、骨で作った王冠や剣を手にとって、彼らは踊る。カタカタ、カタカタ、小気味よく骨が鳴る。
どれも子供の骨だ。沼の底から這い上がってきた、妖と化した子供の骸骨。
森の奥で開催される、月夜の演劇を眺める観客の数は8。
「さて、さて。骨相手とはなんとも『声』が聞こえぬ相手ですが、いいでしょう」
くすり、と小さく微笑んで。
『名も無きエキストラ』エヌ・ノウ・ネイム(CL2000446)は、腕を大きく広げて見せた。
●ショー・ダウンッ!
落雷。閃光。森が揺れて、木の葉が舞った。沼の水分が蒸発し、生臭い霧が周囲を覆う。
エヌの召喚した雷が舞台を焦がす。
骸骨達は素早い動作でこれを回避。即座に、骨で作った大槍をエヌに向かって投げつけた。
4本の骨槍が、次々と地面に突き刺さる。回避の為、纏まっていた陣形が崩された。意図した結果か、それとも偶然か。子供の骨と見て、油断していては大怪我を負う危険もあると見て『傭兵』しまむら ともや(CL2001077)はハンドガンを構え、舞台の上へと弾丸を撃ち込んだ。
「可哀想なのはわかるが、今のままなのは、あまりにも不幸だろう? 今ここで戦うのは、正しい事さ」
舞台の上で、踊るように骸骨が跳ねる。銃弾を回避し、カタカタと骨を鳴らして手を叩く。
ともやの構えたハンドガンに興味を持ったのか、骸骨のうち1体が腕を振り上げともやへと視線を注ぐ。
ゴボ、と沼が音をたてて波打った。骸骨の腕の動きに吊られるようにして沼の中から無数の骨が姿を現す。泥に塗れた大量の骨は空中で組み合わさると、巨大な棍棒を形作る。
轟音と共に、棍棒が振り下ろされた。
棍棒が命中する寸前、ともやの身体を『直球勝負の田舎侍』神祈 天光(CL2001118)が後ろから突き飛ばす。自身も、地面を滑るようにして棍棒の攻撃範囲から脱出し、小さな舌打ちをこぼした。
「……しかし、こやつらの目的はなんでござろうか」
棍棒の攻撃を回避するため、沼に近づきすぎた。泥と共に沼へと引き戻される大量の骨に足をとられて、ともやと天光の姿勢が崩れる。
天光が刀を地面に突き立てることで姿勢の立て直しを計るが、沼の近くということもあってか、地盤が緩い。さらに追い打ちをかけるように、新たな骨槍が天光の肩へと突き刺さった。
骨と共に、2人の身体が沼へと沈む。
「それなら、敵も沼に落としてやればいい! 浅葱組次期組長、浅葱枢紋! 推して参る……ッ!!」
舞台へ向かって、跳び出す影。『極道【浅葱組】の若様』浅葱 枢紋(CL2000138)の周囲に霧が渦巻く。濃霧は、押し寄せる波のように骸骨達の身体へ纏わり付いた。骸骨達の動きが鈍る。
急に重たくなった身体に戸惑っているのか、4体の骸骨は首を傾げていた。
枢紋の接近に気付いた骸骨が1体、舞台の端まで身を乗り出した。腕を振り上げ、沼の中から骨を数本引き上げると、舞台の手前に即席の柵を組み上げた。
柵を破壊すべく、枢紋が槍を構える。
だが、枢紋が柵へと辿り着くよりも早く、後方から放たれた火炎弾が柵の中央を撃ち抜いた。支点を砕かれた骨柵が崩れ、沼へと沈んで行く。長い年月、沼底に沈んでいたせいか、骨の強度はさほど高くないようだ。
「その、私、骸骨とかゾンビとか、ほんとはあんまり得意ではないんですが……お仕事ですもんね。頑張ります!」
火炎弾を放った姿勢のまま『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は、頬を引きつらせている。子供のものとはいえ、動き周り、襲ってくる骸骨と対面したのは初めてだ。
「おっしゃ!」
崩れて行く骨の中を、枢紋が駆け抜ける。舞台端に寄っていた骸骨を、槍の先端で掬い上げ、そのまま後方へと投げ飛ばした。
直後、後衛にいた骸骨の投げた骨の短刀が枢紋の腹部に突き刺さる。
バランスを崩した枢紋へ向かって、残り2体の骨が接近。
「子供の骨か……。力や立場の弱い子供はいつの世でも訳もわからず踏みつけられていくものだからな」
風切音。スリングショットから放たれた高速の銀弾が、骸骨の額を撃ち抜いた。砕けた骨の欠片が宙を舞う。骸骨達の隙を窺っていた、石和 佳槻(CL2001098)の援護射撃は、正確に骸骨の行動を阻害してみせた。
残る1体の骸骨の手には骨で出来た剣。西洋の剣だ。
「このような場所は童の遊び場には相応しくなかろう。……せめて安らかに逝くがよい」
空気が爆ぜる。骸骨の眼前に現れた黒雲から、紫電が迸った。
沼から遠く離れた後方、由比 久永(CL2000540)はじっと舞台を見つめている。骸骨達に対し、何か想う所があるのだろう。
骸骨が後方へと弾き飛ばされたその隙に、枢紋は姿勢を立て直し着地。その傍では、エヌが沼に落下した2人を引き上げている所だった。
一方、枢紋が後方へと弾き飛ばした骸骨の真下には禁花 咲穂子(CL2000894)が待ち構えていた。薙刀を握る手に力を込めつつも、何かを考え込んでいるようだ。
「誰かに何かを伝えたくて、4人で「劇」をしてるのかな?」
長い時間ではなかったが、骸骨達の劇を観て彼女はそう感じたようだ。
落下してくる骸骨の手元には、既に武器となる骨はない。
一度、静かに目を閉じると咲穂子は薙刀を腰の位置で構え直す。
「倒すしかない相手だってことくらい、わかってる」
それでも。
彼らは既に死者であり、今更彼らが何故死んだのかを知っても意味などないと知りつつも。
それでもせめて、理由が知りたい。少しだけでも、彼らの事を理解したい。
人間は、死んだら終わりだ。
それでも彼らは、妖として蘇った。そこには何か、意味がある筈。強い想いがある筈と。
せめてもの弔いに、心の中で手を合わせ、しっかと瞳を見開いた。
薙刀の一閃。月光を反射し、きらりと光る。
まっすぐ、吸い込まれるように刃は骸骨の首へと命中し、その身は宙で力を失う。バラバラになって、落下する骨の中に、咲穂子は、キラリと光る何かを見つけた。
「先ほどの……。動物や、人間の子供の骨でござった。全てが終わったら骨子は皆きちんと弔ってやれぬだろうか。沼に沈んでいる者も、全てきちんとすくい上げてやって……」
沼から這いあがった天光が、呟くようにそう言った。
そんな彼の様子を、どこか楽しげに眺めながらエヌは言う。
「おや、おや。……何時果てたかすらも解らぬ存在に無意味にも情でも沸きましたか」
「……そういう訳ではないでござるが。この様な淀んだ場所では、魂が何時まで経っても還れないでござろう?」
「まぁ、いつらみたいに大人になれないまま死んじまうのは可哀想だよな。俺達は先に進むぞ。こいつらが生まれ変わる前には、戦いの無い世界にしなくちゃいけないからな」
泥塗れになったスーツを脱ぎ棄て、ともやはハンドガンのマガジンを入れ変える。泥に塗れたハンドガンでも、どうにかまだ使えそうだ。無論、早急な手入れが必要となるが、まずは目先の骸骨討伐が先だ。
舞台の上には3体の骸骨。
踊るように、歌うように、腕を振り回し、骨で作った杖を掲げ、まるで何かの儀式のように、沼から骨を引き上げる。
「どうせ中身なんてない、きっと刷り込まれたものを繰り返しているだけだ」
泥を滴らせながら浮きあがった骨が、武器の形に組み合わさったその瞬間、佳槻の撃ち出した銀弾がそれを打ち砕く。音もなく、殺意もなく、ただ淡々と骸骨達の行動を阻害し続ける。
しかし、流石に数と量が多い。
佳槻1人では対処しきれるものではなく、次々と降り注ぐ骨槍のせいで前衛の仲間は舞台へと近づけないでいる。
「人数的にはこちらが有利だが、地の利は向こうにある。せめて、沼に落とせれば良いのだがなぁ」
佳槻をサポートするように、久永の呼び出した雷が舞台を撃ち抜く。急ごしらえの舞台は、落雷の度に激しく震え、その度に骸骨達の身体が宙に舞った。
攻撃の手が止んだその間隙を縫って、ともやの放った弾丸が骸骨に命中。
素早く、枢紋と天光が舞台の上へと跳び乗った。
流石に自分達の足場を壊すわけにはいかないようで、骸骨達も舞台の上に骨槍を降らせるような真似はしないようだ。或いは、彼らにとってこの舞台は何か大事なものなのかもしれない。
骨で作った盾と大剣。枢紋と天光は、骨の鎧を纏った3体の骸骨と激しく打ち合う。
「……しかし、武器に、鎧に、王冠に、舞台。何とも興味深い場ではありませんか。一舞台役者として、命も頭脳も持たぬ、怨恨と言うなの本能のみに揺り動かされるだけの存在たる彼らが何を演じようとしたのか気になりますなあ」
エヌは、懐中電灯片手に舞台を見上げてそう呟いた。
西洋風の装いや装備、王冠に杖と、それから舞台。子供である彼らが、なにゆえこのような森奥の沼に沈んでいたのか。
首を傾げ、もっとよく舞台を観ようと足を前へと踏み出した。
コツン、と。
エヌの爪先が、何かを蹴飛ばす。
「ん? これは……?」
泥と、木片と、骨の欠片の散らばる足元。エヌが拾い上げたそれは、金属のようだ。
いくつかの、金属の輪が連なったそれは、鎖であった。鎖の先は沼の中。スタンロッドに変異した右腕に鎖を引っ掛け、沼から引き摺り出す。
鎖の先には、小さな鉄球が繋がれていた。
「うぅ……。この子達に私にしてあげられることは何もないのでしょうか?」
涙目のラーラは、空中へ火炎弾を撃ち込むことで、骨槍による攻撃を弾く。
ラーラが後衛の守護を。佳槻と久永、それからともやの3人で舞台上の仲間の援護を続けている。
万が一、前衛の仲間が沼へと落下した場合のことを考えると、後衛である彼女達は迂闊に前へ出るわけにもいかない。戦線が崩されてしまえば、逃亡される恐れもある。
月の光や、久永の呼び出す雷、エヌの懐中電灯のおかげで視界には苦労しない。灯の届かぬ空中も、ラーラの火炎弾で光源は確保できていた。
もっとも、それも今のうちだけだ。戦いが長引けば、MPが尽き光源の確保も難しくなるだろう。
それを見越したわけでもないのだろうが、ラーラの傍へ歩み寄った咲穂子は、ラーラの小さな肩に手を置き、囁く。
「終わらせてあげよう……。頭使うの苦手だけどね、分かったの。あの子達は、生贄だよ」
ラーラの手に握られているのは、龍の模様が刻まれた石の首飾りだ。先ほど彼女が倒した骸骨の首から下げられていたものである。
「そのようですね。沼の中に、重りのついた鎖がありました。奴隷か何かでしょうかね? 故郷から連れて来られて、生贄に捧げられたのでしょう」
と、沼の傍から戻って来たエヌは言う。
だとすれば、彼らの演じる劇は祖国での思い出であろうか。
或いは、奴隷として連れて来られる以前、祖国では劇団にでも所属していたのかもしれない。
古く、災害の原因は、山の神の怒りであると考えていた地域がこの国には存在する。
その度に人は、沼や川へと人を沈めることで、神への供物としたという。
「運が悪かったのか、良かったのか。生贄にされずとも、待っていたのは奴隷としての人生だったのでしょうね」
「でも、劇を演じている間は楽しそうに見えたから」
骸骨達の演目は、故郷での思い出。
生憎と、彼らの故郷を確かめる術はない。その躯を、祖国へと返してやることはできそうもない。
だったら、せめて。
「せめて、静かに眠らせてあげよう」
そう言って咲穂子は、舞台へ向かって駆け出した。
●大舞台の幕は降り
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
経典を広げ、精神集中。ラーラの周囲を熱波が焦がす。放たれた火炎の弾丸が、舞台の足へ命中した。轟音と共に、舞台の足に炎が燃え移り、火柱と化す。業火に焼かれ、舞台が大きく手前側へと傾いた。
舞台の上にいた骸骨と、仲間達が姿勢を崩す。
「僕たちの役割は、援護ですかね」
「せっかく舞台が傾いたのだから、徹底的に追い込むかの」
地面を蹴って、舞台に跳び乗る咲穂子の傍で紫電が爆ぜた。エヌと久永の召喚した雷が、骸骨達の足元を打ち抜く。黒焦げになった木材が、端から順に崩れ落ちて行く。
傾いた舞台の上で、1体の骸骨が大きく跳ねた。その動きに合わせるように、沼底から巨大な骨の塔が浮かび上がる。体勢を崩しながらも、骸骨達は眼前の邪魔者を葬ることを諦めてはいないようだ。
「まだやる気か……」
ともやの第六感が激しく警鐘を鳴らす。スキルで強化された視力を駆使し、骸骨の動きを正確に追いかける。3体の骸骨のうち、最も危険なのは天光の足元にいた骸骨だ。骨で作った大鎌を構えている。
ハンドガンを構え、骸骨の手首へと銃口を向けた。
鎌を繰りだす、その瞬間。最も、隙の大きくなる一瞬を狙って、銃弾を放つ。
骸骨の腕が砕け散る。
舞台の上に取り落とされた鎌と骸骨が、傾いた舞台の上を滑り落ちる。
骸骨の身体が空中に投げだされた瞬間、その額を水の弾丸が撃ち抜いた。スリングショットで撃ち出された佳槻の水礫が、骸骨の命を終わらせる。
「もう終わったんだ。お休み」
崩れ落ちる骸骨に向け、佳槻はそっとそう告げた。
天光が、骨の塔を駆け上がる。塔の頂上には骸骨の姿。もう1体の骸骨の姿が見えない。
塔から次々と跳び出す、骨の槍が天光の身体を切りつける。
全身を血で赤く染めながら、天光は塔の頂上へと到着。
「あとで、きちんと墓標をたて、経を唱えてやるでござるよ」
刀による一閃が、塔の上部を切り崩した。それと同時に、天光の身体も塔から落下する。身体が痺れ、上手く動かせないでいるようだ。
落下する骸骨の真下に、枢紋が駆け寄り槍を構えた。
「天を裂き唸る天空、天駆ける迅雷の刃! 天行壱式召雷!」
骸骨目がけ、槍を突き出す。それと同時、上空に呼び出された雷が、骸骨の身体を射抜く。骸骨の胸を前後から刺し貫いた槍と落雷が、一瞬で骸骨の命を奪った。
残る骸骨は1体。
骨の塔の中ほどに埋もれるようにして、身を隠していた。それを発見したのは、久永だ。骸骨が沼から大量の骨を引きだした際、服が汚れるのを嫌って空へと逃避していたが故の発見だ。遠くから、広く戦場を睥睨することで、骸骨全員の動きを把握することができていたのである。
久永の指示で、咲穂子は塔へと跳びかかる。
「っ!!」
咲穂子の振り下ろした薙刀を、骨の塔から跳び出した無数の槍が受け止める。
カタカタ、と骸骨が顎を鳴らした、その瞬間。
「良い子は寝る時間だ。舞台の幕を下ろすとしよう」
空気が爆ぜる。骸骨の頭部が、見えない弾丸に撃ち抜かれ、砕け散った。上空から放たれた久永のエアブリドが、骸骨の意識が先穂子の薙刀へ向いているその隙を突き、骸骨の頭部へと叩きこまれた。
骸骨の身体から、力が抜ける。最後の力を振り絞るようにして、骸骨の腕が空を掻く。
遠く、空のかなたの月へと向けて。
伸ばされた手は、塵となって崩れて消えた。
舞台が燃える。業火に包まれた骸骨が、沼の底へと沈んで行く。
エヌと咲穂子が、その手に握っていた鎖と首飾りを炎の中へ投げ入れる。
やがて、炎は消えて骸骨も舞台も、なくなった。熱気と、霧、それから月光。
大きな石を、沼の傍へと運んできたのは天光であった。地面に膝をつき、手を合わせる。
誰も、一言も言葉を発しようとはしなかった。
最後に久永が、一輪の花を墓石に備えると、仲間達は1人、また1人とその場を立ち去る。
誰もいなくなった沼の上に、柔らかな月光が降り注ぐ。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
