黒部ダム避暑ツアー ファイブ様特別ご招待!
●黒部ダムは富山県屈指の観光スポット
「ダムカレー三つ!」
「こっちもダムカレー四つ」
「うちはカレーパン」
「肉まんください」
「きみ可愛いね名前は?」
「コーヒーとコーラと……」
「スコップのスプーンいくら?」
「ダムカレー八つ大盛りで!」
「キエエエエエエエエエエエエエエエやってられるかああああい!」
ユアワ・ナビ子(nCL2000122)は注文用メモを窓の外にハイパーショットすると、店員用のエプロンを一瞬で脱ぎ捨て、そのまま窓をクロスアームでかちわって野外へと逃げ出した。
むろんナビ子は頭から落ちる。
ぐええと言ってコンクリートの地面を血まみれにしたかと思うと、ナビ子はむっくりと起き上がって走り出した。
「割のいいバイトだと思ったら行楽シーズンまっさかりの避暑地じゃねーか! 割に合わねー! このバイト辞めるぜおやっさーん!」
割れた窓から顔を出す店長。
「ナビ子ちゃーん! きみまだ三十分しかやってないよー!?」
「長すぎるくらいだぜえええええええええええ!」
ここは黒部ダムに併設されたレストランだ。
全国的にも有名な黒部ダムカレーを数量限定で販売する店で、夏場に限らず来場客が絶えない。
だが特に人気なのが夏休みシーズンで、避暑に最適な黒部渓谷はとにかく賑わうのだ。
とはいえ、そんな巨大観光スポットが営業を再開したのはつい最近だ。
人は来るが警備が薄かったこの土地は近年まで妖にガンガン占拠され、閉鎖の憂き目にあっていた。
そんな事態を救ったのが我らがファイブ。
発足してすぐにこの土地へ駆けつけたファイブの覚者たちは問題の妖をバンバンやっつけ、観光事業をパワーで復興させたのだ。
トロッコやバスなど様々な部分の修繕を終え、スタッフも揃え、黒部渓谷は観光地としてのリスタートを果たしたのだった。
「そういうわけで、黒部渓谷観光事業部からファイヴの皆宛に招待状が届いています。
バスやトロッコ、ロープウェイの無料乗車券とレストランの食券です。
是非楽しんでいってくださいね」
「ダムカレー三つ!」
「こっちもダムカレー四つ」
「うちはカレーパン」
「肉まんください」
「きみ可愛いね名前は?」
「コーヒーとコーラと……」
「スコップのスプーンいくら?」
「ダムカレー八つ大盛りで!」
「キエエエエエエエエエエエエエエエやってられるかああああい!」
ユアワ・ナビ子(nCL2000122)は注文用メモを窓の外にハイパーショットすると、店員用のエプロンを一瞬で脱ぎ捨て、そのまま窓をクロスアームでかちわって野外へと逃げ出した。
むろんナビ子は頭から落ちる。
ぐええと言ってコンクリートの地面を血まみれにしたかと思うと、ナビ子はむっくりと起き上がって走り出した。
「割のいいバイトだと思ったら行楽シーズンまっさかりの避暑地じゃねーか! 割に合わねー! このバイト辞めるぜおやっさーん!」
割れた窓から顔を出す店長。
「ナビ子ちゃーん! きみまだ三十分しかやってないよー!?」
「長すぎるくらいだぜえええええええええええ!」
ここは黒部ダムに併設されたレストランだ。
全国的にも有名な黒部ダムカレーを数量限定で販売する店で、夏場に限らず来場客が絶えない。
だが特に人気なのが夏休みシーズンで、避暑に最適な黒部渓谷はとにかく賑わうのだ。
とはいえ、そんな巨大観光スポットが営業を再開したのはつい最近だ。
人は来るが警備が薄かったこの土地は近年まで妖にガンガン占拠され、閉鎖の憂き目にあっていた。
そんな事態を救ったのが我らがファイブ。
発足してすぐにこの土地へ駆けつけたファイブの覚者たちは問題の妖をバンバンやっつけ、観光事業をパワーで復興させたのだ。
トロッコやバスなど様々な部分の修繕を終え、スタッフも揃え、黒部渓谷は観光地としてのリスタートを果たしたのだった。
「そういうわけで、黒部渓谷観光事業部からファイヴの皆宛に招待状が届いています。
バスやトロッコ、ロープウェイの無料乗車券とレストランの食券です。
是非楽しんでいってくださいね」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.黒部渓谷を楽しむ
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
本当は皆さん一通り見て回っていることになるのですが、クローズアップして描写して欲しい部分を以下の中から選んでプレイング冒頭に記載してください。
プレイングもクローズアップされているとよりエンジョイできるでしょう。
楽しみ方としては、景色を見ながらこれまでのファイヴでの活動をゆっくり思い返したり、写真をとってのんびりしたりといった具合です。
・湖畔遊歩道
黒部湖をそばに作られた遊歩道を歩きます。
ここはとてもいい風が吹き続けているので、夏の暑さも和らぐでしょう。
・遊覧船ガルベ
黒部湖の遊覧船にのって風と景色を楽しみます。
・ダムえん堤
凄まじい勢いで放水しているダムを上から見下ろします。
涼しい上昇気流がうまれ、避暑には最適だそうです。
・レストラン
休憩所でお食事です。
有名な黒部ダムカレーをはじめ、木イチゴソフトクリームなどのカフェメニューも充実。
・その他
黒部渓谷ツアーではシャトルバス、トロッコ、トロリーバス、ロープウェイといった特殊な乗り物を乗り継ぎます。これだけでも結構な楽しさなので、乗り物の中でわくわくするのもよいでしょう。
ちなみにトロリーバスの超涼しいトンネルや超ロングロープウェイは皆さんの活躍によって妖から開放されたエリアとなっております。
●ご注意
黒部渓谷には非常に希少な動植物が生息しています。
『過酷な環境で花が開くまでに数年かかりますが、踏めば一瞬で死んでしまいます』という車内ナレーションがかかるくらい大事にされているので、草花を踏んで歩いたり虫や動物をハントするのはよしましょう。
ここに生息する雷鳥に至っては特別天然記念物なので悪戯したらすごく怒られます。(ちなみにその雷鳥を妖化から救ったのもファイヴの覚者です)
●お友達との参加について
どなたかと一緒に参加する場合は、『チーム名』もしくはPCのIDつきフルネーム(例:ユアワ・ナビ子(nCL2000122))をプレイング冒頭あたりに記載してください。
また、八重紅友禅の管理NPCや過去の担当シナリオで登場したNPCを招待することができます(来ないこともあります)。その場合は1PC分の尺を分割する形で描写がなされます。
●関連シナリオ
この施設の開放のためにファイヴの覚者たちが活躍したシナリオです
/quest.php?qid=40
/quest.php?qid=41
/quest.php?qid=42
/quest.php?qid=43
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
相談日数
10日
10日
参加費
50LP
50LP
参加人数
29/∞
29/∞
公開日
2016年08月11日
2016年08月11日
■メイン参加者 29人■

●風の谷、黒部渓谷
国内は勿論世界的にも貴重な自然が残る黒部渓谷。中でも黒部湖は人気のスポットだ。
夏場でも谷を涼しい風が吹き抜け、海とはまた違った避暑地として愛されている。
「本当に涼しいな、びっくりだ!」
天堂・フィオナ(CL2001421)がリードを外した子犬のように湖畔道を走って行く。
後ろ姿を眺めて歩く八重霞 頼蔵(CL2000693)。
「いい時に来たな!」
「確かに……悪くないタイミングでの避暑だ」
フィオナは湖沿いの柵に手をかけ、身を乗り出した。
湖面が空と山々を描いて揺れている。
「思い出したことがあるんだ」
「……」
「もう会えなくて、けど会いたい人がいた……みたいだ。強盗事件の時も、守れなかったって記憶がこびりついてる。いつの、誰の記憶なのか分からないけど……」
「善し悪しは、ともかく」
頼蔵は同じく柵に手をかけた。
「忘れたままで居るよりは、マシだろう。君が君を知るために」
「頼蔵……」
胸ポケットから封筒を取り出す。
「記憶と言えば、記憶の調査費がこうなっている」
「をっ……?」
滑り出た領収書の金額に、フィオナはしばし沈黙した。
湖畔道を歩く人々は、その殆どが何かのグループでできている。
保護者と非保護者、カップルや家族。今を分かち合うための場所として、この細い道は機能していた。
「クー先輩、一緒に歩きませんか」
道の端で、御白 小唄(CL2001173)が手を翳した。
こっくりと頷くクー・ルルーヴ(CL2000403)。
「いいですよ。ちょうど、こちらも誘おうと思っていました」
手を取って、ゆっくりと歩いて行く。
沈黙を、どちらからともなく風に流していく。
「最近は色々ありましたね」
「本当に……七夕からもう一月たつのですね」
しばし、沈黙と風が二人の間を凪がれていく。
小唄がちらりとクーの横顔を見た。
「先輩と一緒にいる時間、好きです」
「……」
なんとも言わず、微笑んで返すクー。
小唄は一度目をそらしてから、再び笑いかけた。
「これからも、一緒に遊んでくれますか?」
「キミが望むなら」
流れる風と、沈黙。
クーは小さく首を振った。
「いいえ、私も」
「先輩?」
「キミと同じ気持ちですよ」
小唄は立ち止まり。
クーも立ち止まった。
二人の間に風が流れた。
かがんで目線を合わせたクーが、小唄の横顔を撫でた。
風は木の葉を乗せて湖を滑っていく。
華神 悠乃(CL2000231)はそんな葉のひとつを空中でつまんで止めた。
「これは?」
「どれ、見せてみろ」
天明 両慈(CL2000603)が彼女の手から葉をとってしげしげと観察した。
「薬草に使われることのある葉だ。国によっては嗜好品にもなっていて……」
会話が弾む、というよりは、悠乃が質問を楽しんでいるといった雰囲気だ。
次は何を聞いてみようか。
目に付いた花にかがみ込んだその背中に、両慈は不意に語りかけた。
「華神。お前、俺のことをどう思う」
「……え?」
振り返り、立ち上がる悠乃。
両慈は湖に視線を向けていた。
「俺はお前のことがどうやら……いや」
首を振って、視線を悠乃へと向ける。
「俺はお前のことが好きだ」
「……ん?」
「好きだ」
「えっと……」
悠乃は一旦目を覆い、再び両慈を見た。
互いに視線をそらさない。
「あの、同じ言葉で、もう一度押し込んでもらえますか」
「俺はお前のことが好きだ」
まるでノータイム。さしずめカウンター。
悠乃は後じさりしそうになった足を止めて、きょろきょろと周囲を伺った。
「男女の関係として付き合いたい」
「その念押しはしなくても大丈夫ですんで」
これ以上押されると困る。
両手を翳して、悠乃ははにかんだ。
「イエス、ですよ」
風に乗った木の葉が湖へと滑っていく。
茂みに身を隠していた向日葵 御菓子(CL2000429)は、安堵の息をついて道へと出た。
「ふう、あやうくお邪魔になっちゃうところだった」
「どうして隠れたの、お姉ちゃん?」
同じく茂みから顔を出す菊坂 結鹿(CL2000432)。
「なんとなくとしか……」
苦笑してみるが、どうやら結鹿は質問の答えは求めていないようだ。
「うーんっ、気持ちいい風だね!」
湖を抜ける風に背伸びをしている。
御菓子も一緒になって背伸びをしてみた。
「あのね、お姉ちゃん」
腕を下ろして、御菓子を見上げる。
「ずっとこうしてそばにして、またここにこられてたいいなって、わたしは思ってるよ」
「……うん」
そういえば、最近はゆっくりとした時間をとっていなかったかもしれない。
御菓子は頭を撫でてやりながら笑った。
「今度は二人でこようね」
「……えへへ」
結鹿は御菓子に抱きついて笑った。
湖畔道からも見える遊覧船は、普段に比べてずっとすいていた。
普段がどうなのかと言えば、それはもう座るところが無くて立ち見か順番待ちのどちらかを選ぶ程だそうで。
今日の乗客は、ファイヴ特別ご招待日ということで四人だけである。
「瑛太さんは、初めましてですね」
「おう、ヨロシクしてくれよな。おっさんとは血がつながってるんだぜ」
賀茂 たまき(CL2000994)に十河 瑛太(CL2000437)。緒形 逝(CL2000156)と工藤・奏空(CL2000955)という組み合わせである。
たまきが瑛太にクッキーを分けているそばで、奏空と逝はのんびりと湖を眺めていた。
「そういや、ここへ来たばかりの頃にダムの依頼を受けたな」
「な、懐かしいなー。まだ慣れた無い頃にいったっけ。妖化した雷鳥を倒しに」
それがもうすっかり平和に、みたいなおっさん臭いことを言いながら椅子にもたれる奏空。
「覚者って、おもしろいひとおおいよな。おっちゃんもいつもヘルメットだし」
「まあ顔が恐いからねえ」
フルフェイスのヘルメットを指で叩いて見せる逝。
「最初、おっちゃんは恐いひとなのかなーと思ってたんだけど。一緒に仕事していくうつにそんなことないって分かってさ」
「アハハ! おっさん、平等に接してるつもりよ」
一方で、瑛太とたまきは船から湖を眺めていた。
湖面の光が山々を映して揺れている。
「綺麗ですね。風がとっても気持ちよくて」
「船すげー! 水面すげー! うおおおすっげー!」
身を乗り出しすぎた瑛太を逝が引っ張って席に戻す。
そんな様子に、たまきと奏空はくすくすと笑いあった。
「あっちはダムだろ? 次あそこ行こうぜ!」
「そうですね。楽しみです」
ダムの放水側からの上昇気流が細かい水しぶきをあげた。
水しぶきと言っても直接ふりかかるわけではない。
細かく散った冷気がきわめて涼しい風となって身体を抜けていくのだ。
「こうしてのんびり眺めていられるのも、妖を払ったゆえか……」
檜山 樹香(CL2000141)は放水中のダムを眺めながら、一年前を連想していた。
丁度その場所に巨大な妖が陣取り、ダムの運用そのものを停止させていたのだ。
今では観光事業も復活し、水力発電による市民生活の安定も得られている。
「随分と昔のことのように思えるのう」
樹香の戦いは今も尚続いている。
出会いと別れをいくつも経験してきた。きっとこれからもするだろう。
「ここに出てきて、良かったよ。成長できたからのう……人としても、戦士としても」
その後ろを鼎 飛鳥(CL2000093)が蒼紫 四五九番(nCL2000137)の車いすを押しながら歩いていた。
「ふおおっ、すごい迫力! 虹がかかってキレイなのよ!」
車いすを手すりのそばまで寄せて、下を覗き込む飛鳥。
ホースで水を飛ばしていれば虹が出来るように、ダムの放水で虹はかかる。その放水量の大きさから、かかる虹もまた大きいのだ。巨大な虹をはるか上から見下ろすというのもまた、このスポットの醍醐味である。
「そうだ、よんのお姉さん。記念に事務局でカードを貰いましょうなのよ」
「そうしましょう。記念品はお好きですか」
「いい思い出は大好きなのよ」
飛鳥はにっこり笑って、車いすを押していく。
「セーゴ、カードだってカード。何カードかな」
「少し落ち着け。そして飛ぶな」
きょろきょろする天城 聖(CL2001170)を、水蓮寺 静護(CL2000471)が裾を掴んで止めていた。
「ねえ知ってる? 私セーゴを呼ぶとき一度もカタカナ表記されたことないんだよ!」
「ダムは心が落ち着くな。俺たちが解放した場所だというのも感慨深い」
「無視してる? ねえ無視してる?」
ちなみに、割とちゃんと表記されている。バトロワの時とか。ヒノマル決戦の時とか。
「それより、先日の妖との決戦は本当にご苦労だった」
「ああ、あのエクストリームなやつ?」
聖は先の妖大量発生事件を思い出していた。
高ランクの妖を相手に、五十人規模による戦いを繰り広げたばかりだ。
「思わず魂使ったよね。文字通り命を削るって感触だったよ」
「あの戦いは、久々に身体が震えた。強敵を相手にする喜びでだ」
てすりを強く握る静護。
「聖、戻ったら勝負だ」
「勝負? いいよ、やろう」
聖は静かな殺意を瞳の奥で光らせて、ほがらかに笑った。
その後ろを小走りにゆく月歌 浅葱(CL2000915)。
「ほらっ、桃さん! 端から端までこんなにありますよっ。おっきいですねえっ」
「そんなに走らないのよ」
後ろをゆったりとついていく姫神 桃(CL2001376)。
走る浅葱の後ろ襟を引っ張った。
思わず転んだ浅葱を受け止める。
「もう少し力を抜くことを覚えましょうか。怪我をするわよ」
「ふふっ、桃さんクッションで怪我一つ無いですよっ」
ため息をつく桃。
「疲れましたか? ふっ、では桃さんがこうしてっ……!」
桃を抱え上げようとした浅葱を、がっちりとホールドした。
「のんびりするのは浅葱も一緒よ。お散歩を楽しみましょう」
「つかまってしまっては仕方ないのですっ」
浅葱は諦めて、桃の手を取った。
「お散歩を楽しみましょうかっ」
手を握って歩き出す。
「桃さんとの時間、好きですからねっ」
「……ありがと」
桃はこっそりとはにかんで、浅葱と一緒に歩き出した。
東雲 梛(CL2001410)はえん堤から伸びる展望台へと、階段を上っていた。
「風が気持ちいい……」
黒部渓谷が避暑地として有名なのは、何もダムの放水が涼しげだからという理由では無い。
例えばロープウェー乗り場は標高ゆえにむしろ肌寒いくらいで、夏の日差しと冷たい空気という心地よさを楽しむことが出来る。ダム到着前のトロリーバスに至っては、いっそ寒いくらいのトンネルを抜けていくのだ。
ただ移動しているだけで既に暑さから開放されているという寸法である。
ダムをよりダイナミックに見るべく階段を上っている今も、吹き上がる風で涼んでいる。
「覚醒してからか、自然がある場所が落ち着く……それに涼しい、さいこー……」
梛な手すりによりかかり、とろーんと目を瞑った。
一方こちらはレストラン前。
藤 壱縷(CL2001386)はえん堤見物を一通り終え、売店の前に並んでいた。
ダムの端に作られたこの建造部は、一階が土産物屋と売店。二階がレストランという構造になっている。
レストランまで行かなくても、肉まんやらソフトクリームやらが食べられるのだ。
そのため家族連れはレストラン前のベンチで過ごしているケースが多い。
「木イチゴソフトクリーム……おいしそう。すみません、一つお願いします!」
食券を手にカウンターに身を乗り出す壱縷。
出てきたソフトクリームをくるくると回して、スプーンを探した。
「スプーンが無い……ですけれど……」
周囲を観察してみると、皆スプーンを使わずに舐めとっている。
壱縷も郷に入ってはの精神で、ソフトクリームを舌で舐めてみた。
「はあ、おいしい……」
そんな彼女が観察していた家族というのが、田場 義高(CL2001151)のファミリーである。
「随分賑わってるな」
黒部渓谷は別に駆け回って遊べるわけでも湖に飛び込めるわけでもない。基本的に揺られて見てちょっと歩いて終わりである。
しかし山岳地帯を移動するだけあって乗り物が一癖あって、日本最長のロープウェイだの貨物運搬に用いられていた斜面移動用トロッコだの、電気だけで走るバスだのは子供にとってなかなかの体験だったらしい。
それだけでなく、山頂付近へ登るためのバスからも普段は見られないような大自然の風景がたびたび垣間見える。
凄まじく高いブナの木や、谷から吹き上がる不思議なガスや、一年中とけずに残った雪やらだ。
ちなみに冬場に行くと十メートル近い雪の壁が左右を埋めるという絶景を見ることが出来る。
義高は家族が楽しげに笑う姿を見ながら、ほっと息をついていた。
仕事柄心配をかけることも多い身だが、やはり家族の笑顔は守っていきたい。
そんな想いを抱きつつ、義高は立ち上がる。
「さあ、レストランにでも行くか」
黒部渓谷の名物、黒部ダムレストラン。
山々の風景を眺めながら食事ができ、特に紅葉の時期などはきわめて美しい光景に囲まれるというこのレストランには名物メニューがある。
「やっぱ俺は、黒部ダムカレーかな!」
切裂 ジャック(CL2001403)は坂上 懐良(CL2000523)と一緒にカレーを囲んでいた。といっても注文したのはジャックだけだが。
「どんなの来るかなー。いやあ、お姉さんと一緒にご飯なんてラッキーだなあ!」
てれてれ笑うジャック。
八重さんの台詞がなんでかない理由は、その、察して!
代わりに黒部ダムカレーの特徴と魅力を説明するから!
「おおっ、なんだこの形!」
黒部ダムカレーはただダムと名の付いたカレーではない。
その名が体を表わすかの如く、ご飯がダムに、カレーが湖になっているのだ。
食べるにはスプーンでダムを決壊させる必要があるという、ある意味ひでえ体当たり商品だがこれが全国的にウケている。数量限定販売で売り切れ続出だそうだ。
商品名も黒部ダムのアーチ状のダム方式を模したことからアーチカレーと呼ばれている。
こいった盛り方を総じて『ダムカレー』と呼び、別のレストランでの話になるがご飯の量によってアースダム式、アーチ式、重力式という三種類のダム形式が再現されていたりもする。この黒部ダムカレーを起点にして全国数十箇所のダム観光スポットで同様のカレーが売られるようになったのはダムカレーファンにはあまりにも有名な話である。
以上、八重さんたちへのフォローパートである。
さておき。
時任・千陽(CL2000014)と麻弓 紡(CL2000623)はカレーとソフトクリームをそれぞれ注文してから、外の景色を眺めていた。
「黒部ダムの底に眠っているのは、なんでしたっけ」
「28号かしら」
「ブラックオックスだったかと」
ちなみに沈んでいるのはダムの湖底。つまり黒部湖である。
あんまり触れると何かの権利を邪魔しそうなのでここまでにしておくが。
「閉鎖されていた場所が開くというのは、いいものですね」
「キミや皆が頑張った結果、だもんね」
「また君は俺を子供扱いして……」
やがてやってきたカレーとソフトクリームに、二人は微笑んだ。
「ひとくちちょーだい?」
「君も頼めばよかったのに」
千陽のすくったスプーンを、紡はぱくりとくわえた。
「つららちゃーん、ダムカレーでもどうだい?」
「わーい! かれーたべます!」
坂上 懐良(CL2000523)が万札ひらめかせながら文鳥 つらら(nCL2000051)にカレーを振る舞っていた。
「おいしいですっ、カレーおいしいですっ!」
「ヒューッ! 勿論おごりさ、今日は君とオレが出会った記念日だからね!」
「おいしいですっ!」
「なにか悩みがあったらいつでもオレに言うといいぜ!」
「おかわりいいですか!」
「ヒューッ! オレと君との仲だろ? フゥーッ!」
「大盛りいいですか!」
「君にはオレがいるってことさ、ウェーイ!」
えらく盛り上がってる懐良を横目に店内へ入るラーラ・ビスコッティ(CL2001080)と九美上 ココノ(nCL2000152)。
「ロープウェイ楽しかったですね。ココノさんは乗ったことありましたか?」
「いえー、乗り物にのったのは生まれてはじめてですー」
めちゃくちゃ雑な嘘をつくココノに笑いながら、ラーラはロープウェイでのことを思い出していた。
日本最長というあのロープウェイは、眼下に広がるうっそうとした森を数分で抜けるための乗り物だ。普通に歩くと最低でも半日はかかるという森で、ぱっとみただの緑の地面だがその木々が十メートル級だというから驚きだ。
「あの時助けた雷鳥さんたちは、今もあの山で暮らしているんでしょうか」
ラーラはどうやら、ロープウェイの車内で流れていた放送だけで既にグッときていたらしく、その感想をしきりに呟いていた。
乗り場前で待っている間に『この写真集の売り上げが来年の雪かき代になるのでどうぞ買って行ってください』というぶっちゃけすぎたスタッフの宣伝タイムにも、ちょっとグッときていたらしい。観光事業の再開が嬉しいのか、四角い顔のおっさん軽く涙ぐんでたし。
「ところで、レストランにご用事って、なんだったんですか?」
「あー、あの人ですー」
指をさすココノ。
プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)が窓際の席で優雅にくつろいでいた。
「よく来たね、いまいち萌えない民ー」
「お招き頂いて光栄ですー」
「たべなよー。自腹でカレー食べなよー。貴公こういうの超嫌いそうだしさ!」
「そんなことないですー。とっても大好きですー」
「あっ、カレーください! 王子盛りで! あとカニ食べいこう! かに! 夜の町にくりだそ!」
その光景に、ラーラは軽く顔を覆った。
椅子に座り、ナプキンをかけ、フォークとスプーンを両手に持って構える橡・槐(CL2000732)。
「おごり、タダ券。なんといい響きでしょうか。まったく関わってない妖退治のお礼のご相伴にあずかれるとは! 組織に所属することの、利点!」
運ばれてきた黒部ダムカレーに手を合わせると、早速ダムの中央をがっつり決壊させていく。
「んー、元祖かつ本家。さすがに美味……」
槐はカレーにがっつきつつ、窓からえん堤をのぞき見た。
来場制限を解除したのか、多くの家族連れが歩いているのが見える。
黒部渓谷はこうして人々を潤し、土地を潤し、経済を潤し、ひいては日本社会を様々な意味で守っていくだろう。
だがそんな黒部渓谷を救ったのは他でもない、ファイヴの覚者たちなのだ。
そして今日も、明日も、どこかの誰かを救うだろう。
国内は勿論世界的にも貴重な自然が残る黒部渓谷。中でも黒部湖は人気のスポットだ。
夏場でも谷を涼しい風が吹き抜け、海とはまた違った避暑地として愛されている。
「本当に涼しいな、びっくりだ!」
天堂・フィオナ(CL2001421)がリードを外した子犬のように湖畔道を走って行く。
後ろ姿を眺めて歩く八重霞 頼蔵(CL2000693)。
「いい時に来たな!」
「確かに……悪くないタイミングでの避暑だ」
フィオナは湖沿いの柵に手をかけ、身を乗り出した。
湖面が空と山々を描いて揺れている。
「思い出したことがあるんだ」
「……」
「もう会えなくて、けど会いたい人がいた……みたいだ。強盗事件の時も、守れなかったって記憶がこびりついてる。いつの、誰の記憶なのか分からないけど……」
「善し悪しは、ともかく」
頼蔵は同じく柵に手をかけた。
「忘れたままで居るよりは、マシだろう。君が君を知るために」
「頼蔵……」
胸ポケットから封筒を取り出す。
「記憶と言えば、記憶の調査費がこうなっている」
「をっ……?」
滑り出た領収書の金額に、フィオナはしばし沈黙した。
湖畔道を歩く人々は、その殆どが何かのグループでできている。
保護者と非保護者、カップルや家族。今を分かち合うための場所として、この細い道は機能していた。
「クー先輩、一緒に歩きませんか」
道の端で、御白 小唄(CL2001173)が手を翳した。
こっくりと頷くクー・ルルーヴ(CL2000403)。
「いいですよ。ちょうど、こちらも誘おうと思っていました」
手を取って、ゆっくりと歩いて行く。
沈黙を、どちらからともなく風に流していく。
「最近は色々ありましたね」
「本当に……七夕からもう一月たつのですね」
しばし、沈黙と風が二人の間を凪がれていく。
小唄がちらりとクーの横顔を見た。
「先輩と一緒にいる時間、好きです」
「……」
なんとも言わず、微笑んで返すクー。
小唄は一度目をそらしてから、再び笑いかけた。
「これからも、一緒に遊んでくれますか?」
「キミが望むなら」
流れる風と、沈黙。
クーは小さく首を振った。
「いいえ、私も」
「先輩?」
「キミと同じ気持ちですよ」
小唄は立ち止まり。
クーも立ち止まった。
二人の間に風が流れた。
かがんで目線を合わせたクーが、小唄の横顔を撫でた。
風は木の葉を乗せて湖を滑っていく。
華神 悠乃(CL2000231)はそんな葉のひとつを空中でつまんで止めた。
「これは?」
「どれ、見せてみろ」
天明 両慈(CL2000603)が彼女の手から葉をとってしげしげと観察した。
「薬草に使われることのある葉だ。国によっては嗜好品にもなっていて……」
会話が弾む、というよりは、悠乃が質問を楽しんでいるといった雰囲気だ。
次は何を聞いてみようか。
目に付いた花にかがみ込んだその背中に、両慈は不意に語りかけた。
「華神。お前、俺のことをどう思う」
「……え?」
振り返り、立ち上がる悠乃。
両慈は湖に視線を向けていた。
「俺はお前のことがどうやら……いや」
首を振って、視線を悠乃へと向ける。
「俺はお前のことが好きだ」
「……ん?」
「好きだ」
「えっと……」
悠乃は一旦目を覆い、再び両慈を見た。
互いに視線をそらさない。
「あの、同じ言葉で、もう一度押し込んでもらえますか」
「俺はお前のことが好きだ」
まるでノータイム。さしずめカウンター。
悠乃は後じさりしそうになった足を止めて、きょろきょろと周囲を伺った。
「男女の関係として付き合いたい」
「その念押しはしなくても大丈夫ですんで」
これ以上押されると困る。
両手を翳して、悠乃ははにかんだ。
「イエス、ですよ」
風に乗った木の葉が湖へと滑っていく。
茂みに身を隠していた向日葵 御菓子(CL2000429)は、安堵の息をついて道へと出た。
「ふう、あやうくお邪魔になっちゃうところだった」
「どうして隠れたの、お姉ちゃん?」
同じく茂みから顔を出す菊坂 結鹿(CL2000432)。
「なんとなくとしか……」
苦笑してみるが、どうやら結鹿は質問の答えは求めていないようだ。
「うーんっ、気持ちいい風だね!」
湖を抜ける風に背伸びをしている。
御菓子も一緒になって背伸びをしてみた。
「あのね、お姉ちゃん」
腕を下ろして、御菓子を見上げる。
「ずっとこうしてそばにして、またここにこられてたいいなって、わたしは思ってるよ」
「……うん」
そういえば、最近はゆっくりとした時間をとっていなかったかもしれない。
御菓子は頭を撫でてやりながら笑った。
「今度は二人でこようね」
「……えへへ」
結鹿は御菓子に抱きついて笑った。
湖畔道からも見える遊覧船は、普段に比べてずっとすいていた。
普段がどうなのかと言えば、それはもう座るところが無くて立ち見か順番待ちのどちらかを選ぶ程だそうで。
今日の乗客は、ファイヴ特別ご招待日ということで四人だけである。
「瑛太さんは、初めましてですね」
「おう、ヨロシクしてくれよな。おっさんとは血がつながってるんだぜ」
賀茂 たまき(CL2000994)に十河 瑛太(CL2000437)。緒形 逝(CL2000156)と工藤・奏空(CL2000955)という組み合わせである。
たまきが瑛太にクッキーを分けているそばで、奏空と逝はのんびりと湖を眺めていた。
「そういや、ここへ来たばかりの頃にダムの依頼を受けたな」
「な、懐かしいなー。まだ慣れた無い頃にいったっけ。妖化した雷鳥を倒しに」
それがもうすっかり平和に、みたいなおっさん臭いことを言いながら椅子にもたれる奏空。
「覚者って、おもしろいひとおおいよな。おっちゃんもいつもヘルメットだし」
「まあ顔が恐いからねえ」
フルフェイスのヘルメットを指で叩いて見せる逝。
「最初、おっちゃんは恐いひとなのかなーと思ってたんだけど。一緒に仕事していくうつにそんなことないって分かってさ」
「アハハ! おっさん、平等に接してるつもりよ」
一方で、瑛太とたまきは船から湖を眺めていた。
湖面の光が山々を映して揺れている。
「綺麗ですね。風がとっても気持ちよくて」
「船すげー! 水面すげー! うおおおすっげー!」
身を乗り出しすぎた瑛太を逝が引っ張って席に戻す。
そんな様子に、たまきと奏空はくすくすと笑いあった。
「あっちはダムだろ? 次あそこ行こうぜ!」
「そうですね。楽しみです」
ダムの放水側からの上昇気流が細かい水しぶきをあげた。
水しぶきと言っても直接ふりかかるわけではない。
細かく散った冷気がきわめて涼しい風となって身体を抜けていくのだ。
「こうしてのんびり眺めていられるのも、妖を払ったゆえか……」
檜山 樹香(CL2000141)は放水中のダムを眺めながら、一年前を連想していた。
丁度その場所に巨大な妖が陣取り、ダムの運用そのものを停止させていたのだ。
今では観光事業も復活し、水力発電による市民生活の安定も得られている。
「随分と昔のことのように思えるのう」
樹香の戦いは今も尚続いている。
出会いと別れをいくつも経験してきた。きっとこれからもするだろう。
「ここに出てきて、良かったよ。成長できたからのう……人としても、戦士としても」
その後ろを鼎 飛鳥(CL2000093)が蒼紫 四五九番(nCL2000137)の車いすを押しながら歩いていた。
「ふおおっ、すごい迫力! 虹がかかってキレイなのよ!」
車いすを手すりのそばまで寄せて、下を覗き込む飛鳥。
ホースで水を飛ばしていれば虹が出来るように、ダムの放水で虹はかかる。その放水量の大きさから、かかる虹もまた大きいのだ。巨大な虹をはるか上から見下ろすというのもまた、このスポットの醍醐味である。
「そうだ、よんのお姉さん。記念に事務局でカードを貰いましょうなのよ」
「そうしましょう。記念品はお好きですか」
「いい思い出は大好きなのよ」
飛鳥はにっこり笑って、車いすを押していく。
「セーゴ、カードだってカード。何カードかな」
「少し落ち着け。そして飛ぶな」
きょろきょろする天城 聖(CL2001170)を、水蓮寺 静護(CL2000471)が裾を掴んで止めていた。
「ねえ知ってる? 私セーゴを呼ぶとき一度もカタカナ表記されたことないんだよ!」
「ダムは心が落ち着くな。俺たちが解放した場所だというのも感慨深い」
「無視してる? ねえ無視してる?」
ちなみに、割とちゃんと表記されている。バトロワの時とか。ヒノマル決戦の時とか。
「それより、先日の妖との決戦は本当にご苦労だった」
「ああ、あのエクストリームなやつ?」
聖は先の妖大量発生事件を思い出していた。
高ランクの妖を相手に、五十人規模による戦いを繰り広げたばかりだ。
「思わず魂使ったよね。文字通り命を削るって感触だったよ」
「あの戦いは、久々に身体が震えた。強敵を相手にする喜びでだ」
てすりを強く握る静護。
「聖、戻ったら勝負だ」
「勝負? いいよ、やろう」
聖は静かな殺意を瞳の奥で光らせて、ほがらかに笑った。
その後ろを小走りにゆく月歌 浅葱(CL2000915)。
「ほらっ、桃さん! 端から端までこんなにありますよっ。おっきいですねえっ」
「そんなに走らないのよ」
後ろをゆったりとついていく姫神 桃(CL2001376)。
走る浅葱の後ろ襟を引っ張った。
思わず転んだ浅葱を受け止める。
「もう少し力を抜くことを覚えましょうか。怪我をするわよ」
「ふふっ、桃さんクッションで怪我一つ無いですよっ」
ため息をつく桃。
「疲れましたか? ふっ、では桃さんがこうしてっ……!」
桃を抱え上げようとした浅葱を、がっちりとホールドした。
「のんびりするのは浅葱も一緒よ。お散歩を楽しみましょう」
「つかまってしまっては仕方ないのですっ」
浅葱は諦めて、桃の手を取った。
「お散歩を楽しみましょうかっ」
手を握って歩き出す。
「桃さんとの時間、好きですからねっ」
「……ありがと」
桃はこっそりとはにかんで、浅葱と一緒に歩き出した。
東雲 梛(CL2001410)はえん堤から伸びる展望台へと、階段を上っていた。
「風が気持ちいい……」
黒部渓谷が避暑地として有名なのは、何もダムの放水が涼しげだからという理由では無い。
例えばロープウェー乗り場は標高ゆえにむしろ肌寒いくらいで、夏の日差しと冷たい空気という心地よさを楽しむことが出来る。ダム到着前のトロリーバスに至っては、いっそ寒いくらいのトンネルを抜けていくのだ。
ただ移動しているだけで既に暑さから開放されているという寸法である。
ダムをよりダイナミックに見るべく階段を上っている今も、吹き上がる風で涼んでいる。
「覚醒してからか、自然がある場所が落ち着く……それに涼しい、さいこー……」
梛な手すりによりかかり、とろーんと目を瞑った。
一方こちらはレストラン前。
藤 壱縷(CL2001386)はえん堤見物を一通り終え、売店の前に並んでいた。
ダムの端に作られたこの建造部は、一階が土産物屋と売店。二階がレストランという構造になっている。
レストランまで行かなくても、肉まんやらソフトクリームやらが食べられるのだ。
そのため家族連れはレストラン前のベンチで過ごしているケースが多い。
「木イチゴソフトクリーム……おいしそう。すみません、一つお願いします!」
食券を手にカウンターに身を乗り出す壱縷。
出てきたソフトクリームをくるくると回して、スプーンを探した。
「スプーンが無い……ですけれど……」
周囲を観察してみると、皆スプーンを使わずに舐めとっている。
壱縷も郷に入ってはの精神で、ソフトクリームを舌で舐めてみた。
「はあ、おいしい……」
そんな彼女が観察していた家族というのが、田場 義高(CL2001151)のファミリーである。
「随分賑わってるな」
黒部渓谷は別に駆け回って遊べるわけでも湖に飛び込めるわけでもない。基本的に揺られて見てちょっと歩いて終わりである。
しかし山岳地帯を移動するだけあって乗り物が一癖あって、日本最長のロープウェイだの貨物運搬に用いられていた斜面移動用トロッコだの、電気だけで走るバスだのは子供にとってなかなかの体験だったらしい。
それだけでなく、山頂付近へ登るためのバスからも普段は見られないような大自然の風景がたびたび垣間見える。
凄まじく高いブナの木や、谷から吹き上がる不思議なガスや、一年中とけずに残った雪やらだ。
ちなみに冬場に行くと十メートル近い雪の壁が左右を埋めるという絶景を見ることが出来る。
義高は家族が楽しげに笑う姿を見ながら、ほっと息をついていた。
仕事柄心配をかけることも多い身だが、やはり家族の笑顔は守っていきたい。
そんな想いを抱きつつ、義高は立ち上がる。
「さあ、レストランにでも行くか」
黒部渓谷の名物、黒部ダムレストラン。
山々の風景を眺めながら食事ができ、特に紅葉の時期などはきわめて美しい光景に囲まれるというこのレストランには名物メニューがある。
「やっぱ俺は、黒部ダムカレーかな!」
切裂 ジャック(CL2001403)は坂上 懐良(CL2000523)と一緒にカレーを囲んでいた。といっても注文したのはジャックだけだが。
「どんなの来るかなー。いやあ、お姉さんと一緒にご飯なんてラッキーだなあ!」
てれてれ笑うジャック。
八重さんの台詞がなんでかない理由は、その、察して!
代わりに黒部ダムカレーの特徴と魅力を説明するから!
「おおっ、なんだこの形!」
黒部ダムカレーはただダムと名の付いたカレーではない。
その名が体を表わすかの如く、ご飯がダムに、カレーが湖になっているのだ。
食べるにはスプーンでダムを決壊させる必要があるという、ある意味ひでえ体当たり商品だがこれが全国的にウケている。数量限定販売で売り切れ続出だそうだ。
商品名も黒部ダムのアーチ状のダム方式を模したことからアーチカレーと呼ばれている。
こいった盛り方を総じて『ダムカレー』と呼び、別のレストランでの話になるがご飯の量によってアースダム式、アーチ式、重力式という三種類のダム形式が再現されていたりもする。この黒部ダムカレーを起点にして全国数十箇所のダム観光スポットで同様のカレーが売られるようになったのはダムカレーファンにはあまりにも有名な話である。
以上、八重さんたちへのフォローパートである。
さておき。
時任・千陽(CL2000014)と麻弓 紡(CL2000623)はカレーとソフトクリームをそれぞれ注文してから、外の景色を眺めていた。
「黒部ダムの底に眠っているのは、なんでしたっけ」
「28号かしら」
「ブラックオックスだったかと」
ちなみに沈んでいるのはダムの湖底。つまり黒部湖である。
あんまり触れると何かの権利を邪魔しそうなのでここまでにしておくが。
「閉鎖されていた場所が開くというのは、いいものですね」
「キミや皆が頑張った結果、だもんね」
「また君は俺を子供扱いして……」
やがてやってきたカレーとソフトクリームに、二人は微笑んだ。
「ひとくちちょーだい?」
「君も頼めばよかったのに」
千陽のすくったスプーンを、紡はぱくりとくわえた。
「つららちゃーん、ダムカレーでもどうだい?」
「わーい! かれーたべます!」
坂上 懐良(CL2000523)が万札ひらめかせながら文鳥 つらら(nCL2000051)にカレーを振る舞っていた。
「おいしいですっ、カレーおいしいですっ!」
「ヒューッ! 勿論おごりさ、今日は君とオレが出会った記念日だからね!」
「おいしいですっ!」
「なにか悩みがあったらいつでもオレに言うといいぜ!」
「おかわりいいですか!」
「ヒューッ! オレと君との仲だろ? フゥーッ!」
「大盛りいいですか!」
「君にはオレがいるってことさ、ウェーイ!」
えらく盛り上がってる懐良を横目に店内へ入るラーラ・ビスコッティ(CL2001080)と九美上 ココノ(nCL2000152)。
「ロープウェイ楽しかったですね。ココノさんは乗ったことありましたか?」
「いえー、乗り物にのったのは生まれてはじめてですー」
めちゃくちゃ雑な嘘をつくココノに笑いながら、ラーラはロープウェイでのことを思い出していた。
日本最長というあのロープウェイは、眼下に広がるうっそうとした森を数分で抜けるための乗り物だ。普通に歩くと最低でも半日はかかるという森で、ぱっとみただの緑の地面だがその木々が十メートル級だというから驚きだ。
「あの時助けた雷鳥さんたちは、今もあの山で暮らしているんでしょうか」
ラーラはどうやら、ロープウェイの車内で流れていた放送だけで既にグッときていたらしく、その感想をしきりに呟いていた。
乗り場前で待っている間に『この写真集の売り上げが来年の雪かき代になるのでどうぞ買って行ってください』というぶっちゃけすぎたスタッフの宣伝タイムにも、ちょっとグッときていたらしい。観光事業の再開が嬉しいのか、四角い顔のおっさん軽く涙ぐんでたし。
「ところで、レストランにご用事って、なんだったんですか?」
「あー、あの人ですー」
指をさすココノ。
プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)が窓際の席で優雅にくつろいでいた。
「よく来たね、いまいち萌えない民ー」
「お招き頂いて光栄ですー」
「たべなよー。自腹でカレー食べなよー。貴公こういうの超嫌いそうだしさ!」
「そんなことないですー。とっても大好きですー」
「あっ、カレーください! 王子盛りで! あとカニ食べいこう! かに! 夜の町にくりだそ!」
その光景に、ラーラは軽く顔を覆った。
椅子に座り、ナプキンをかけ、フォークとスプーンを両手に持って構える橡・槐(CL2000732)。
「おごり、タダ券。なんといい響きでしょうか。まったく関わってない妖退治のお礼のご相伴にあずかれるとは! 組織に所属することの、利点!」
運ばれてきた黒部ダムカレーに手を合わせると、早速ダムの中央をがっつり決壊させていく。
「んー、元祖かつ本家。さすがに美味……」
槐はカレーにがっつきつつ、窓からえん堤をのぞき見た。
来場制限を解除したのか、多くの家族連れが歩いているのが見える。
黒部渓谷はこうして人々を潤し、土地を潤し、経済を潤し、ひいては日本社会を様々な意味で守っていくだろう。
だがそんな黒部渓谷を救ったのは他でもない、ファイヴの覚者たちなのだ。
そして今日も、明日も、どこかの誰かを救うだろう。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
