偽鍛造機を破壊せよ
【カカシキ譚】偽鍛造機を破壊せよ


●明石隠しシェルター
 オールバックの髪を乱し、割れた眼鏡もそのままに、高級財布を放り出した絹笠はそれはそれは無様を晒していた。
「殺さないで! なんでもしますから! お金も全部あげます! 言うこと聞きますから、どうか殺さないで! 救急車を呼んでください! 骨が折れてるんです!」
 涙と鼻水を散らしながら、プリンスの足にすがりつく絹笠。
 頼んでも居ないのに靴をべろべろと舐めて必死に忠誠を主張する。
 その姿に、クーはまるで汚物を見たような顔で目を背けた。
「これがさっきまでの絹笠とは……」
「強さのために大事なものを犠牲になんてするからバチがあたったんだぜ!」
 腰に手を当てて胸を張る聖華。
「けど改心したなら救急車くらい呼んでやるよ。公衆電話どこかな」
 歩き出そうとした聖華の腕を、プリンスががしりと掴んだ。
「なんだ?」
「やめた方がいいかもね」

 彼らは絹笠を拘束し、例の隠れ家的喫茶店へと戻ってきた。
 仲間たちも合流し、喫茶店の中でくつろいでいる。
 成や遥たちの話を総合すると、作戦はどうやら成功したようだ。
「青羽さんは、どうやら何らかの賭に負けて感覚器官の一部を担保にさせられたそうです」
「依吹は騙されたんだってさ」
「なりふり構わず強さを求めていったら、最初の目的を失っちゃうなんて……可哀想だよね」
「慈悲をかける必要はあるまいて。それ以上に人から奪い続けた結果のようなものじゃ」
「チッ、だとしても哀れなもんだぜ」
「で? 結局その二人は殺したのよね」
 蓮華の一言に、クーは目を細め、聖華は目を見開いた。
「おい、殺すのはないんじゃないか? 妖刀を壊したら元に戻るかもしれないし……」
「無理よ。質流れした品が金を返したところで手元に戻らないのと同じ。そんな気軽な技術じゃないわよカカシキは」
 仏頂面でコーヒーをすする蓮華。殺人自体には深く追求するつもりはないようだ。
 そもそも、降りかかる火の粉である。火を哀れんで浴び続ける者はいまい。
「ま、いいんじゃない? 一人ゲットしてきたし」
 縄を引いて、絹笠を店内に連れ込むプリンス。
 その姿を見て蓮華は身を乗り出した。
「捕獲したの?」
「余のこと敬愛するらしいから」
 ずっとおびえたように身体を震わせている絹笠に敬愛ぶりは見られないが、とにかく降伏はしたようだ。
「話、聞いてみようか」

 絹笠は元々明石組の様々な財務を担当する管理人だったという。
 察するに人情の厚い、人に慕われる男だったと思われる。なぜなら『感情』を担保にした妖刀が非常に強力だったからだ。
「仕方なかったんです。妻や娘を人質にとられて、刀を作らないと……」
 手で顔を覆ってむせび泣く絹笠。
 彼の肩に手を置いて、成は低く唸った。
「明石という男……よほどの悪人と見えますね」
「お願いします。奴を潰してください。隠れ家を教えますから……」

 絹笠が語ったのは明石が所有する地下シェルターである。
 ノストラダムスの大予言ブームにあてられて制作した核攻撃にも耐えうるシェルターだそうだが、現在は偽カカシキの鍛造所兼明石の隠れ場所となっている。
 侵入には専用の暗証番号が必要だが、その番号を知っているのはごく一部の人間のみ。その一人が絹笠である。
 すぐに番号を言えと要求したが、用が済んだら殺されるとおびえてすぐには話さなかった。安全が保証されるまで話せないという。
「ではシェルター付近の公衆電話越しに聞くというのはどうでしょう。距離もありますから、聞いてすぐに殺すということはありません」
「それを採用するかどうかはもう少し話し合いましょう。それより……」
 肝心なのはシェルター前の警備である。
 15人ほどの偽カカシキで武装した覚者が配備され、それ以外にも拳銃で武装した非覚者も20人ほど配備されているらしい。
 これらを真面目に相手していればキリがない。戦って時間を稼ぎ、その間にシェルターに突入する必要があるだろう。
 シェルター内には同じく武装した覚者が3人。そして鍛造機が存在している。
 蓮華が声をあげた。
「私はシェルターの中に行かせて貰うわよ。それが今回の目的なんだし、そもそも鍛造機の適切な破壊方法が分かるのは今現在私だけだもの」
「それも……ちょっと相談させてくれ。俺たちだけの方が確実に事を運べるかもしれないしな」
 かくして、彼らの明石シェルター襲撃計画は着々と進んでいったのだった。


■シナリオ詳細
種別:シリーズ
難易度:普通
担当ST:八重紅友禅
■成功条件
1.明石を倒し、偽鍛造機を破壊する
2.なし
3.なし
 襲撃計画の大筋は決まっていますが、細かい部分の選択がまだ成されていません。
・絹笠からシェルターの暗証番号を電話越しに聞くか(YES/NO)
・蓮華をシェルター内ないしは戦場そのものに行かせるか(YES/NO)
 これらの選択を【プレイングの冒頭で】して下さい。
 全員の意見が一致していない場合は多数決となり、一致していないキャラクターに連携ペナルティが(ダイスロールに弱いマイナス補正として)かかります。

●シェルター周辺の警備
・覚者が15名
・非覚者が20名
 全部倒そうとするなら九人全員で襲いかかって二回ずつくらい死ねばなんとかなります。要するに相打ちです。
 ただし防御や回復などを駆使してシェルター入り口前ででひたすら粘るというのであれば(最初の突破ターンはともかく)6人くらいで暫くしのぐことができるでしょう。
 明石さえ確保できればこちらの勝ちなので、それまでの十ターン前後をしのぐことになるでしょう。
 勿論担当人数を増やせば楽になり、減らせばキツくなります。

●シェルター内部
・覚者2名
・明石(非覚者)
 これらを安全に倒すには各社2~3人を必要とします。
 鍛造機は複雑な装置なので適切な破壊方法をとらないと危険です。(神秘装置なのでエレクトロテクニカ対象外です)
 スタンダードに行けば、この覚者2名を倒し、明石を殺害ないしは一般逮捕、しかる後に装置を破壊します。

●九条蓮華について
 これまでのプレイングから、皆さんへの好感度や信頼度が設定されています。
 ちなみに蓮華の戦力は皆さんよりちょっと弱い程度(プレイング補正含め)です。
 また、彼女が戦闘不能状態になっていると色々な都合から鍛造機の破壊をその日じゅうに行なえません。
 彼女をひたすら守りながら戦うか、もしくは彼女をお留守番させて後から来させるというやり方もあるでしょう。

●絹笠について
 シェルターに入るための暗証番号を知っています。
 少なくとも作戦開始直前までには知る必要があるでしょう。
 本人は安全が保証されるまで話さないと言っています。
 時間をかけると明石組が戦力を増やしてしまう恐れがあるため、早急な決定が求められています。
 ちなみに、現在縄で両手を拘束しています。

●シナリオ予定
 このシナリオはスケジュール分岐点です。
 状況によっては最終回となり、場合によってはもう1シナリオ続きます。

 最後に。
 当シリーズはプレイング難易度を上げれば上げるだけ良い成果が得られるように設定されています。
 勿論失敗リスクも増えますし、失敗すると全てを失うこともありえます。その辺りは一切保証できませんのでご注意ください。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年08月22日

■メイン参加者 8人■

『天使の卵』
栗落花 渚(CL2001360)
『正義のヒーロー』
天楼院・聖華(CL2000348)
『ぬばたまの約束』
檜山 樹香(CL2000141)

●絹笠ソウエイと感情の天秤
「おねがいします! こわいんですっ! 安全を保証してください、でないと、しゃ、しゃべりませんから……!」
 うずくまってぶるぶると震える絹笠。
 彼の目線に合わせるようにプリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)がかがみ込んだ。
「無理だよ。だって貴公、嘘ばっかだもん」
「そ、そんな! 嘘じゃありません、本当に……」
「機を見て裏切る演技にしかみえぬのじゃ、ワシには」
「……」
 カカシキ妖刀、濡烏を顕現させる『樹の娘』檜山 樹香(CL2000141)。
「感情を担保にして、喪って折るのじゃろう?」
「知っていましたか。まあ、当然ですね」
 それまでの動作が嘘だったかのように絹笠は身体を起こした。
 いや、実際嘘だったのだろう。絹笠なりに最も殺されにくい動作をしたに過ぎない。
 彼の手錠に上から土蜘蛛の糸を巻き付ける『Queue』クー・ルルーヴ(CL2000403)。
「見たことの無い術ですね」
「強化された蜘蛛糸です。守護使役の力では破れませんよ」
 クーはカカシキ妖刀、Queueを顕現させて握り込んだ。
「引き延ばし工作なら、容赦しません」
「それじゃあ……お話しよっか」
 絹笠を囲むようにして立つ『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)。
 対して絹笠はその場に姿勢良く座ると、小首を傾げて見せた。
「条件は同じです。私の安全を確保してください。暗証番号を教えましょう」

 一方で、九条蓮華は彼らの様子を遠巻きに眺めていた。
 チョコスティックを噛み砕く。
「それで、私は一緒に行けるんでしょうね」
「まあな。大体、もとからお前の問題だろうが」
 アイスコーヒーの氷をがりがりと噛み砕く『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)。
(ヒトの生きがいを奪うやつは胸くそ悪ぃが、自分の技術をそんな風にねじ曲げられた九条のほうがずっとムカついてんだろう……)
「シェルターの中まで一番乗りで送ってやる。その代わり、機械もボスも確実に潰してこい」
「当然よ。金玉踏み潰して来てやるから」
「そこまで言ってねーよ!」
 本能的に震え上がる鹿ノ島・遥(CL2000227)。
「ま、オレは前回で強い奴とたたけたし、こっちは消化試合みたいなもんだな。張り切ってやらせてもらうぜ」
「……」
 『教授』新田・成(CL2000538)は静かにコーヒーを飲んでいたが、ちらりと絹笠の方を確認した。
「そろそろですかね」
 成は腰を上げた。

「ねえ絹笠さん。さっきシェルターの場所を教えてくれたよね? あれって、明石組に対する裏切りだと思うの。ここからは私たちに協力した方が賢いと思わない?」
 渚の問いかけに、絹笠は無表情に言った。
「思いませんね。殺すと脅されて、仕方ありませんでした」
「脅しに屈するとは思えんがの……」
 恐らく絹笠の脳内では複雑な計算機が走っている筈だ。ここで協力的になったところで、情報的価値を喪ったとして即座に殺されかねない。現に依吹と青羽は殺されたのだ。
 さて、次は樹香の番だ。
「ワシらは今からシェルターを襲撃する。この意味は分かるな?」
「ええ、シェルターにかき集めた兵隊と相打ちになるんですよね?」
「なぜそう思う」
「さあ? なぜでしょう」
 絹笠はとぼけている。やはり脅しには屈しないようだ。
「おぬしの狙いは分からぬが、ファイヴかAAAに保護されたほうがいいと思うがの」
「……ファイヴ、と言いましたか? 実在するんですか?」
 追撃をかけるクー。
「目の前にいるのがそうですよ。あなたはこの後拘束して収監します。聞きたいことがまだありますから」
「……」
 黙った絹笠に、プリンスが王子座りで問いかける。
「生き延びてやりたいことがあるなら、こっちについたことを死ぬ気で示すしかないよ?」「……いいでしょう。安全確保はして貰いますよ」
 絹笠と結んだ安全確保の方法は、車のトランクに詰め込んで現地まで行き、暗証番号をその場で聞くというものだ。その後は明石組を壊滅させ、トランクから回収した絹笠をファイヴの施設に収監するというものだ。
 話がまとまった頃、『想い受け継ぎ‘最強’を目指す者』天楼院・聖華(CL2000348)がちょこちょことそばまでやってきた。
「なあ、アンタ……何のために生きてるんだ?」
「は?」
「だからさ、その、妻子は生きてるのか? もし死んでるなら……」
「死んでいますが、何か」
 顔をくしゃりと歪める聖華。
「だったら俺が仇を取ってやるよ」
「結構です。無意味ですから」
「……」
 二の句も告げさせない絹笠の言い方に、聖華は首を振った。
「こんなのって……あんまりじゃないか」

●明石シェルター攻防戦
 偽カカシキで武装した黒服たちがならぶシェルターへ一台のフィアットが突っ込んだ。
 数名の非覚者戦闘員を撥ね飛ばし、ブレーキをかけるフィアット。
「いくよ!」
 渚と蓮華が地烈を繰り出しながら突撃。
 一旦遅れて飛び出した刀嗣が棍棒を振り上げた。
「要するに暴力でのしゃあいいんだろ? 得意分野だ、オラァ!」
 追撃の地烈によって更に黒服たちを振り切っていく。
 トランクをノックする聖華。
「なあ、もし自分が何のために生きてるか分からないなら、感情を取り戻すのを目指してみろよ。もし無くなったからって、再び感情が芽生えないなんて言い切れないだろ」
『……』
 返答は無い。代わりに、シェルターの暗証番号が帰ってきた。
 わざと聞こえるように声をはる成。
「私はここに残って、解錠に成功したら開放します。失敗したら殺害して駆けつけましょう」
『……』
 反応をみたが、何も帰ってこない。脅しは空振りだったようだ。
「急げ、シェルターまで突っ切る」
 薙刀を縦横無尽に振り回す樹香。
「ここで偽鍛造機を破壊できれば戦いも終わりじゃ。お前様方――ひとつ気合いを入れていこうではないか!」
 樹香の走りが黒い気の波を生み、遮ろうとした全ての黒服たちが押し流され、振り払われていく。
 その後ろにぴったりついていたプリンスがパチンと指を鳴らし艶舞・寂夜を発動。
 追いすがろうとした黒服のうち半数ほどががっくりと膝を突いた。
「いい調子だね。ドア開けちゃってくれる?」
「まかせとけ!」
 組み付いてきた黒服の腹に正拳を入れて払いのけた遥が、シェルターの壁に飛びついた。
 キーパッドに暗証番号を素早く入力……したが、ドアは開かなかった。
「あれ、押し間違えたかな」
「何してやがんだ、急げ!」
 偽カカシキによるラッシュを強引に叩き返した刀嗣が番号を入力。
 しかしそれでも開かなかった。
「あの野郎……嘘の番号を教えやがった! おいプリンス!」
「無理みたい。通心拒否されちゃった」
「それは……困ったことになったのう」
 左右から同時に繰り出される斬撃を跳躍によってよける樹香。自らをコマのようにスピンさせて敵を振り払うが、直後に打ち込まれた非覚者からの銃撃が命中。衝撃を受けてごろごろと転がった。
「クー、開けられるか」
「シェルターの特殊な電子ロックですからね。見たところ、『ピッキングマン』で対応可能なノーマルキーとは言えません」
 試しにドアの隙間に剣をねじ込んでみるが、まるで歯が立たなかった。核攻撃に耐えうるというだけはある。
 歯を食いしばる聖華。
「教授! ハッキングとかできねーのかよ!」
「これ(エレクトロテクニカ)はそういう技術ではありませんから」
「じゃあこう、なんか色々あれするやつとか!」
「……方法が無いわけではありませんが、最低でも十分はかかりますね。それに、専用の道具も材料もありません。一度大学に戻るなどすれば可能ですが」
「そんなに保たねえ!」
「仕方ありません。聞き出してきます」
 成は飛来する銃弾を仕込み杖の抜刀によって弾くと、車へと走りだした。
 途中で繰り出される一文字斬りを跳躍によって回避。刀の柄で殴り倒すと、転がるようにすり抜けていく。
 そして車の後部へ張り付き、キーを差し込んでトランクを開いた。
「なっ……絹笠さん!」
 慌てて後じさりする黒服たち。
 むくりと起き上がった絹笠。
「殺しますか? その場合、暗証番号は死体から聞いてください」
「……」
 成は自らの失策にほんの僅かな焦りを感じていた。
 このままでは消耗戦になる。短時間を耐え抜くことはできても、長時間は保たないだろう。よくて相打ち。明石は勿論絹笠も逃がすことになる。
「なぜ嘘の番号を教えたんです。AAAに行くなら減刑嘆願をしたためるつもりもあると……」
「どのみち殺すのでしょう?」
 絹笠は無表情だった。
「あなた方は依吹と青羽を殺しました。情報を獲得するには私一人で充分と考えて。なら、情報を獲得したら私を殺すでしょう。今更皆さんが刑法を守るとは思えません」
「……条件を聞きましょうか」
「これを」
 クーによって施された硬い拘束を翳した。
 成は迷いの末、糸を切断。
 しかる後に絹笠は手錠を自力で引きちぎると、車のトランクから下りた。
「ご苦労様でした。では、ごきげんよう」
「待ちなさい、番号を――」
「教えますよ。皆さんが死んだ後にね」
 手を翳すと、絹笠の手元に名刺用のメタルケースが現われた。彼の妖刀リスクマネジメントだ。
「脅された振りをして妖刀所持者を全員シェルター前に連れてくる。その全員が倒され、妖刀の枠と九条蓮華を確保する。いいシナリオだと思いませんか」
「教授! お前なんてこと――ぐわ!?」
 飛び込んできた蓮華の斬撃をカートで打ち払い、絹笠は後ろに回って首をロックした。
「あなたは本当に無駄なことをしますね」
 黒服たちに『囲め』と命じる絹笠。
 ゆっくりと成を取り囲む黒服たち。
 蓮華が叫んだ。
「なんでこんなことするんだよ絹笠! お前は確かに悪人だしヤクザだけど、被害者でもあるんだろ! 俺が助けてやる! 感情だって、取り戻してやるから!」
 彼らが一斉に斬りかかろうとした――その時。
「「ぐあっ!?」」
 黒服たちの首筋にメタルカードが次々と刺さり、激しいスパークを起こして気絶させた。
 刀を構えたままでいぶかしむ顔をする成。
 絹笠に開放されて、聖華は振り向いた。
「……おまえ」
「依吹が宿敵を、青羽が性感を喪いその代替対象を求めていたように……私にも感情の代替対象があります」
 どこからともなく取り出した眼鏡をかけると、絹笠はカードを天空へ投げた。演舞術式が発動し、聖華たちの身体が軽くなっていく。
「私は、感情で動く人間だけを信用しています。あなたのようにね、天楼院聖華さん」
「俺……?」
 聖華の胸になにか熱いものが生まれた。
 正確には懐。妖刀の種がどくんどくんと鼓動を打っていたのだ。
 にやりと笑い、手に取る聖華。
「当然だぜ。だって俺は……最強の正義の味方だぜ!」
 途端、聖華の手の中に美しい刀が生まれた。
 刀の閃きは光の白刃を生み、黒服たちを次々と薙ぎ払っていく。
 絹笠から投げられたカードを受け取る。
 そこにはシェルターの暗証番号が書かれていた。
「よし……!」
 聖華はプリンスからの送受心で暗証番号を伝えると、ぐるりと身を反転させた。
「ここからは、誰一人通さない。見てろ世親父……俺はもう、誰も泣かせない!」
 聖華の刀がまばゆい光を振りまいた。

●男なら掴み取れ
「聖華。あいつ、やりやがったぜ……!」
 遥は笑って空手の構えをとりなおした。
「ここは任せて中へ行け! オレもなんだか……妖刀が呼んでる気がするんだ!」
「キャノシマ……」
「行け!」
 プリンスたちを中へ走らせ、遥は黒服たちへと飛びかかる。
「燃え上がれ、俺の妖刀!」
 遥は脳内データベースにあるいろんなあれこれを総動員しつつ種を握り込む。すると、光に包まれた種が全く別の形を取った。
 二つに分かれた球状のそれを握り、構える遥。
「見ろ、妖刀おっぱい天国が……」
 なんか、シリコン製のおっぱい的なやつが鎖でつながっていた。
 もにもにと握ってみる遥。
「オゥ……」
「馬鹿野郎!」
 刀嗣に引っ張られて銃弾の嵐から逃れる遥。
 代わりに刀嗣が前へでて、銃弾を棍棒で打ち払った。
「かかってこいよ雑魚ども、テメェらじゃ満足にゃほど遠いが……アリ潰すよりは手応えあるんだろ!?」
 刀嗣は敵のど真ん中に飛び込み、棍棒を振り回した。
 彼の腹や背中に刀が刺さる。
 だが、刀嗣はギラギラとした笑みを崩さなかった。
「俺たちみたいな戦闘馬鹿にゃあ死ぬより我慢ならねえことがあんだよ。まずはテメェらに、何を敵に回したのか思い知らせてやる!」

●心臓は何でできている
 シェルターの外は激戦だった。
 茂たちが番号を聞き直している間のタイムラグでかなりの消耗を受けてしまったからだ。
 今は味方になった絹笠によって多少は盛り返しているが、減った命数までは戻らない。
 成や樹香が偽カカシキ持ちたちと激しく切り結んでいる光景をよそに、渚は傷ついた仲間を庇っていた。真っ先に飛び出し、大立ち回りを演じた聖華だ。
「私、守るって約束したんだよ。誰かが誰かを大切に抱きしめる、そんな未来を」
 刀が胸や腹に突き刺さる。
 歯を食いしばり、相手を蹴り飛ばす。
「だから、私が引き受けるんだよ。痛みも傷も悲しみも――誰かを抱きしめるとき、その人がちゃんと笑顔でいられるように!」
 飛来する無数の銃弾。
 渚は避けること無くうでを広げた。
 どくん、と。
 心臓が鳴った。
 全弾命中。よろめく渚がぎゅっと握った手の中に、小さなメタルケースが生まれていた。
 開くと、中には注射器が入っている。不思議なことに取り出せば取り出すほど無限に注射器が生まれた。
「ありがとう。約束、守るからね」
 渚は注射器にキスすると、十本まとめて指の間に握り込んだ。
「それっ!」
 投擲。
 放った先は仲間たちだ。
 注射器の中には自らの生命エネルギーが抽出され、願いと思いによってブーストされたそれらが仲間たちに注入されていく。
 渚はぐったりと膝を突いたが、顔はしっかりと笑っていた。
「守ってみせるよ。この場所も。もう誰の笑顔も……奪わせない!」

●鍛造機を破壊せよ
「ひいっ!? こ、殺せ! 追い出せ!」
 奥へと逃げ出す明石。代わりに襲いかかってくる黒服たち。
 対してクーの行動は早かった。
 繰り出された刀を妖刀で受け止めると、挟み込むようにロックしてホールド。
 仲間に目配せをした。
 一方で別の黒服が蓮華を狙って攻撃を繰り出す。
 それを、プリンスはハンマーで迎え撃った。
「行きなよ」
「……」
「ンゲ姫のチューより大事なものなんでしょ」
「悪いわね」
「謝らなくていいよ。あと妃になってもいいよ」
「考えとく!」
 蓮華は黒服たちの間を駆け抜けると、明石を追いかけて走って行った。
「少々厳しくなりますが……いいでしょう」
 クーは一旦防御を解除。
 黒服たちがここぞとばかりに繰り出した斬撃をわざと身体で受けると、凄まじい速度で黒服たちを切り裂いた。
 といっても、服や筋を切っただけだ。崩れ落ちる黒服たち。
 頷くクー。
 プリンスは頷き返し、走り出した。

 駆けつけた時には事態が終わっていた。
 偽鍛造機は煙を上げて崩れ、明石は灰になって消えていく種を必死にかき集めようとしていた。無駄なことだ。
 プリンスを見つけ、悲鳴をあげる明石。
 そして懐から財布を取り出した。
「や、やめろ! そうだお前を雇おう! いくらだ? そいつの倍払うから……!」
「余はね、嫌いなものが三つあるんだ」
 ハンマーを振り上げる。
「小銭の沢山はいった財布と、イギリスのおやつ。そして」
 全身の補助装置が激しい蒸気を吹き出し、プリンスは目を大きく見開いた。
「自分の民から大事なものを奪う人さ! ――拘束解除(クラウディングアウト)!」
 強烈に繰り出されるハンマーアタックが、明石――の肩ごしに背後の鍛造機を粉砕した。
「愛なき王にふりかかるはマッハパンチのみと知るがいい」
 あまりの恐怖に失神した明石。
 プリンスはフッと笑い、蓮華に向き直った。
「どうンゲ姫。やっぱり余の妃にな――む!?」

「そこまでじゃ!」
 黒服たちをジグザグに切り払い、薙刀を突きつける樹香。
「おぬしらのボス、明石は我らが手に落ちた! 抵抗は無駄じゃ!」
 状況を察して投降しはじめる黒服たち。
 樹香たちは頷きあい、シェルターの中へと走った。
 そして駆けつけたときには。
 クーが完璧な無表情だ突っ立っていた。
 同じ顔で停止する一同。
「……」
「……」
「……」
「……」
「あれ? なんて蓮華が王子にチューしてんの?」
 聖華だけが現状を述べてくれた。
 もにもにと妖刀をにぎる遥。
 そして、蓮華の手から妖刀ファーストキッスが砕けて消えた。

●カカシキ
 後日談を語る。
 明石組の残党と絹笠はAAAに出頭。
 全ての悪事は日のもとに晒された。
「蓮華さん。一緒に来ませんか。友達に、なりたいですし」
「本家の鍛造鬼を破壊してから考えるわ」
 クーの誘いに、蓮華は肩をすくめて応えた。
「本当は、全ての妖刀を消し去るつもりだったの。争いの種にしかならないと思ったから」
 車を降り、三歩あるき、ふりかえる。
「最後の妖刀はあなたたちに託すわ。なにか、別のものが咲くかもしれない。そう思うの」

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『妖書・四季割』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:新田・成(CL2000538)
『妖シリコン・おっぱい天国』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:鹿ノ島・遥(CL2000227)
『蓮華のメモ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:諏訪 刀嗣(CL2000002)
『婚姻届(蓮華)』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)



■あとがき■

アイテムドロップ

取得キャラクター:『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)
取得アイテム:妖器・インブレス

取得キャラクター:天楼院・聖華(CL2000348)
取得アイテム:妖刀・天楼院




 
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