うたかたのはざま
うたかたのはざま
●夢だったら
泣いている夢を見た。自分が泣いているのではない、女性が肩を細かく震わせて泣いている。
盛夏極まり、太陽は燦々と照り付け、網膜を焼く。夏だ。汗が玉のように浮かび、頬を伝う、暑いだけの夏。それなのに、常冬の空気すら生ぬるい悲しさで泣いている女性がいる。おそるおそる、その女性に久方相馬(nCL2000004)は近づいた。相馬がいたのは澄み渡る清流が流れる河原だ。先ほどまで、川に涼みに来ていたはずなのに、相馬の頬をじとりとした嫌な汗が伝う。そして、女性の肩に手をかけようとした。
「――……!」
相馬は驚きに目を見開いた。よく、似ていたのだ。自分の姉に。相馬が驚きに立ちすくんでいると、泣いている女性は、突如悪魔のようににたりと笑った。そこに最早姉の面影は欠片もなかった。
女性はにたにた笑いながら、すっと指を向けた。相馬が即座にそちらに振り替えると、そこには相馬と同じように河原で涼む子供たちがいた。女性が手を上げる、川の水が氾濫を起こす。子供たちが飲み込まれる。
そして――。
●夢は現実
「……以上が俺が見た夢だ」
相馬は、目の前に佇んで自分の話に耳を傾けてくれる人に告げた。自身の姉に身を似せ、相馬の興味を誘い、夢の中に入り込んだ。
あの川で殺された女性が悪霊となり、無差別に復讐しようとしている。その光景を見せ、堂々と犯行予告をしてきた。相当自分の強さに自信があるのか、相馬が戦えないと知っているのか。嘲るように。
「今回頼みたいのは、その妖……心霊系だな。そいつの撃退。ランクは1だ。数は一体だから多くはないけど、知性がない。それと、川辺での戦闘になる。時間は昼間だ……」
相馬の声がだんだん小さくなる。
ランク1といえど、川辺だと、足が滑る、砂利で阻まれる。動きづらい場所だ。しかも昼間。川辺に子供がいるのは確実、そして誰が来てもおかしくはない。誰かが来たらそれでもう標的になってしまう。それを相馬は憂慮している。
「川辺にいる妖だから、もちろん河川の水を操ってくる、火は効果が薄いと思う。火の術者はみんな以上に苦戦を強いられるかもしれない……それと、河川には子供がいる。妖は率先して子供を狙うから、子供を守りながらの戦いになる。それでもいいなら、討伐をお願いしたい」
相馬は目の前に佇む人の目をまっすぐ見据え、呟いた。
●夢だったら
泣いている夢を見た。自分が泣いているのではない、女性が肩を細かく震わせて泣いている。
盛夏極まり、太陽は燦々と照り付け、網膜を焼く。夏だ。汗が玉のように浮かび、頬を伝う、暑いだけの夏。それなのに、常冬の空気すら生ぬるい悲しさで泣いている女性がいる。おそるおそる、その女性に久方相馬(nCL2000004)は近づいた。相馬がいたのは澄み渡る清流が流れる河原だ。先ほどまで、川に涼みに来ていたはずなのに、相馬の頬をじとりとした嫌な汗が伝う。そして、女性の肩に手をかけようとした。
「――……!」
相馬は驚きに目を見開いた。よく、似ていたのだ。自分の姉に。相馬が驚きに立ちすくんでいると、泣いている女性は、突如悪魔のようににたりと笑った。そこに最早姉の面影は欠片もなかった。
女性はにたにた笑いながら、すっと指を向けた。相馬が即座にそちらに振り替えると、そこには相馬と同じように河原で涼む子供たちがいた。女性が手を上げる、川の水が氾濫を起こす。子供たちが飲み込まれる。
そして――。
●夢は現実
「……以上が俺が見た夢だ」
相馬は、目の前に佇んで自分の話に耳を傾けてくれる人に告げた。自身の姉に身を似せ、相馬の興味を誘い、夢の中に入り込んだ。
あの川で殺された女性が悪霊となり、無差別に復讐しようとしている。その光景を見せ、堂々と犯行予告をしてきた。相当自分の強さに自信があるのか、相馬が戦えないと知っているのか。嘲るように。
「今回頼みたいのは、その妖……心霊系だな。そいつの撃退。ランクは1だ。数は一体だから多くはないけど、知性がない。それと、川辺での戦闘になる。時間は昼間だ……」
相馬の声がだんだん小さくなる。
ランク1といえど、川辺だと、足が滑る、砂利で阻まれる。動きづらい場所だ。しかも昼間。川辺に子供がいるのは確実、そして誰が来てもおかしくはない。誰かが来たらそれでもう標的になってしまう。それを相馬は憂慮している。
「川辺にいる妖だから、もちろん河川の水を操ってくる、火は効果が薄いと思う。火の術者はみんな以上に苦戦を強いられるかもしれない……それと、河川には子供がいる。妖は率先して子供を狙うから、子供を守りながらの戦いになる。それでもいいなら、討伐をお願いしたい」
相馬は目の前に佇む人の目をまっすぐ見据え、呟いた。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.妖の撃退
2.子供の生存
3.なし
2.子供の生存
3.なし
季節は夏。晴れの日の昼間の川辺です。砂利で足場は悪いです。子供は3人です。
敵は水を使用して攻撃を行います。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
4/6
4/6
公開日
2016年08月09日
2016年08月09日
■メイン参加者 4人■

●まどろみのみず
本日は快晴なり。その言葉が実によく似合う日だ。それなのにどうして、とウル・イング(CL2001378)が悲しげにまつげを震わせた。
「……ここに、いるんですよね。子供たちに害をなす妖が」
ウルの言葉を聞き、そっと上月里桜(CL2001274)がウルの華奢な肩に手を置いた。
「大丈夫です。私たちがいるのですから」
里桜の言葉に工藤奏空(CL2000955)がうんうんと頷いた。
「そうそう! そのために俺たちがいるんだ! じゃあ俺は先に妖のもとへ行くよ!」
奏空が間髪おかず霞纏を行使し、妖のもとに駆け出していく。それに驚いたのは天乃カナタ(CL2001451)だった。
「ちょ、勝手な行動は……って……そういう作戦だったっけ」
ぼやくカナタに里桜はすっと手を前方に差し出し、自身が使役している「朧」に偵察を命じた。朧がそれに応じ小さく鳴き声を上げた。
「……子供三人の10m離れたところに、いますね」
里桜はそれをすかさず送受信・改で奏空に伝えた。少し離れた場所で奏空がありがとうと手を振っているのが見える。
「嘘、あと11m引き離さないとじゃん」
面倒なことになったとカナタは舌打ちする。
「は、早くいきましょう……!」
ウルの声にカナタと里桜が頷くと、三人は子供のいる方向へ駆け出した。
●苦悩は
奏空が里桜に教えてもらった位置に到達すると、たしかに、いた。
いかにも、水場で殺された風体の妖が。ずぶ濡れの長い髪の毛に青褪めた顔。そのくせ目だけは憎しみに爛々と燃えている。
妖の視線の先には三人の子供。そして子供を救出に向かう自分の仲間の姿が見える。奏空はそれに安堵し、天に向かって腕を上げた。
「悪霊のおねーさん! 俺が相手だよ!」
奏空のわかりやすい挑発に、妖の注意が奏空に向く。好機だ! 奏空はそのまま飛燕による攻撃を仕掛けた。
劈くような音を立て、奏空の攻撃は妖に当たる。
「……グゥ……」
妖は一撃をもろに受け、たたらを踏んだ。奏空はそれでも攻撃の手を緩めることはない。妖に攻撃させる隙を与えないつもりだ。
「みんなー! 今がチャンス! 子供たち、今すぐ避難させて!」
●よわいいきもの
「奏空さん……すごい……」
ウルは遠くで見事、妖を足止めした奏空を見て呟いた。
「ぼさっとすんな! 早く子供を避難させるぞ!」
「そうですね、じゃないと……」
里桜の言葉に、カナタは一番自分が早く動けるからと子供たちのいる場所へ急行した。
子供たちは近くに妖がいることに気づかずのんびりと水浴びを楽しんでいる。
「おーい、そこのがきんちょ」
カナタの声に、子供たちが顔を上げる。憎たらしいくらいなにも知らない顔をしている。少し離れた先で、戦闘が始まっているのにすら気づかないくらい遊びに夢中な子供。これだから子供は、とカナタは心の中で嘆息した。
「なあに、お兄ちゃん」
「ここは僕たちが先にきたんだよ。だから僕たちの場所!」
「……けどあと30分でお父さんとお母さんが迎えに来るの~」
子供たちの言葉に、カナタは舌打ちをした。30分以内に倒さなければ人が来る。それまでに妖を始末せねばこちらが圧倒的に不利になる。
遅れて駆け付けた里桜とウルが困った顔をしている。
「親の帰りを待っているとなると、ここから動いてくれそうにないですね……」
狼狽えるウルに、里桜は毅然とした態度で言い放った。
「私が子供たちを安全な場所へ避難させます。ウルさんは奏空さんの援護を頼めますか? カナタさんは私と一緒に避難のお手伝いを」
ごめんなさいね。と里桜が子供に声をかけ、子供を抱きかかえた。カナタも仕方ないといわんばかりだったが、子供を抱える。
「おーぼーだぞー! ここは僕たちが先に来たのにとるなんてー!」
「ちっが! お前らのためなんだよこれは!」
わめく子供にカナタはこれだから子供は嫌いなんだと嘆息した。
「私たちについてきてください。ご両親にはちゃんと会えますから」
「……? なにいってるかわかんなーい。ここにいないとお母さんとお父さんが迎えに来てくれないのに」
それでも里桜とカナタは子供を抱えて安全な場所へと移動を開始した。10m離れた先にいる奏空にウルは叫んだ。
「子供たちは避難させました! 奏空さん! やっちゃってください!」
ウルは妖の能力を特定しようとエネミースキャンをした。
「僕の力、必ず役立てて見せます……!」
●止まらない
ウルからの声を聞き、奏空はすぐさま雷獣を放った。
雷獣の一撃は見事に妖に当たり、妖は苦しそうに呻いた。
「……いけるか……?!」
奏空が固唾を飲む。このまま倒れてくれたらどんなにいいだろうか。しかし、そんな期待も淡く散る。
「グ、あああッ!」
妖が雷獣の一撃で怒り狂い、川の水を巻き上げる。川の水が濁流となり、奏空に襲い掛かる。水のまとわりつくような攻撃に、息ができない。
(……結構、弱ってたと思ったのに……!)
苦しい、このままではと奏空が思った瞬間、突如地面が隆起する。
大地が奏空と妖の間に食い込むように隆起し、奏空は濁流から解放された。
「すみません、遅かった、ですよね……」
少し離れたところで、里桜が隆槍で援護をしたのだ。奏空はありがとうと言おうとした瞬間、声が聞こえる。
「ちょっと、俺のことも忘れないでよね」
遠くからカナタの声が聞こえ、癒しの滴で回復を行ってくれた。
またありがとうと言おうとした奏空の声に今度はウルの声が重なる。
「みなさん! 妖の能力がわかりました! 体力も気力ももうわずかです……! もう、先ほどのような水を行使できる力は、ないと思います!」
「へえ、反撃開始じゃん」
カナタの声に、みんながうなずいた。
好機はこちらに味方したようだ。
●みずのゆめ
前列に奏空、中列に里桜、後列にカナタとウルがそれぞれ待機する。
「俺が雷獣で麻痺させるから、援護お願いします!」
奏空の声にウルが静止をかけた。奏空が首をかしげていると自分の体をあたたかなものに包まれる感覚を覚える。填気だ。
「あの、奏空さんの消耗が激しいと思って……! 僕の力、使っていただけますか……?」
「ありがとう! これでもっともっと俺は強くなるよ! いっけー!」
奏空が勢いよく雷獣を放つ。妖は二度も同じ手を食らうか、と水をまとい攻撃を仕掛けようとする。
「……ガッ……?」
妖が使役できたのは、ほんの少しの水だった。先ほどの攻撃が濁流なら、今度の攻撃は水飛沫程度の攻撃。そんな攻撃など奏空は容易に避けることができる。
妖の攻撃を軽々と避け、雷獣を放つ。
「追撃します! ――隆槍!」
里桜の攻撃が雷獣でひるんでいる妖の人間だったら腹部と呼ばれる場所に食い込む。それに続けと言わんばかりにカナタからの一撃。
「俺が攻撃しないでも勝てるって思ったけど、いいとこもっていけそうな感じ?」
カナタの水礫が飛ぶ。
「僕も……! 招雷!」
四人の攻撃が一斉に続く。妖は最後の力を振り絞ったのだろう。わずかな水をまき上げて、攻撃した。ばらばらな位置にいる四人にはかろうじで届く攻撃だったが、威力はそこになく、四人の体、あるいは服を濡らしたのみ。
「ああ、ぐああ……!」
妖は苦しげな声を上げている。もう、妖としてこの世界にとどまる力もないのだ。徐々に姿を失い、消えていく妖を見て、奏空は思う。
(もし、違う出会いがあって、違う生き方をしていたら、こんなことにはならなかったのかな……?)
奏空は自己満足かもしれないとわかっていてももうじき消え去るだろう妖にそっと手を合わせ、今度生まれ変わったら、だれも憎むことのない、優しい人生を歩めるように、と黙祷を捧げた。
●まなつのうたかた
「あー! 終わった!」
カナタは妖が消えたのを見届けると真っ先に大声を上げた。連携がうまくいき、人が来る前に倒し終わり、子供も避難済みで妖を視認せず、あの無残な最期を見てもいない。上出来としか言いようがない。しかしそれでも不満が残る。
「今日さあ! 俺の誕生日だったのにー! 任務だなんてついてなーい! しかもあっつい汗かいちゃった! 俺今から涼んでくるね~」
カナタがそそくさと川の水に足をつけ、涼しいと言いながら足をばたつかせる。それにウルが続く。
「あの、子供たちはみんな避難しちゃいましたけど、せっかくのご縁ですし、みんなで、西瓜わりでも、どうでしょう……? カナタさんの誕生日祝いもかねて……」
「あっそうだね~! せっかくの夏だし! 夏と来たら西瓜だよね! 賛成さんせーい! カナタさんも誕生日おめでとー!」
ウルの言葉に奏空がすかさず返事をする。
「ふふ、でも肝心の西瓜がないようですね? そして、私からも。カナタさん、うまれてきてくださり、ありがとうございます」
里桜の声に、ウルと奏空がはっとしたように顔を上げた。
「西瓜が……ないことを忘れていました……」
しょんぼりとするウルにカナタが遠くから声をかける。
「誕生日を祝ってもらえて機嫌がいい俺からのプレゼント~! 残念ながら西瓜はないけど、グミならあるよ。みんなで川で涼みながら食べる。これでよくない?」
カナタの言葉に誰も異論は唱えず、四人で並んで川の水に足をつけ、戦闘で火照った体を冷ますことにした。
よく見れば、もうすぐ夕暮れが訪れそうだ。
今日の出来事は一般人の誰にも知られることもなく、妖の無念も知られることもない。うたかたはざまの夢現のような出来事だった。
それでも、自分たちの成した達成感は失われることはない。四人はかすかな高揚とともに、夕暮れが訪れるまで語り合っていた。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
