【死者が蘇る薬】氷の雨
●
薬売りという古妖がいる。
奴の薬は服薬ではない。
服毒だ。
雷が落ち、空が一瞬猛烈な光に染まったとき。
龍の尾を持った少年の、赤色の瞳が怒りに震えた。
●
独りきりで寂しい事だけが、不幸なのでは無い。
崖から落とされて痛いって事だけが、地獄なのでは無い。
誰も話を聞いてくれないって事だけが、悲しい事なのでは無い。
本当に辛いのは、大事な人たちを悲しませてしまう事。
泣いて泣いて泣いても何も起こらない事は知っている。
負けて負けて負け続けても何も変わらない事は知っている。
私はなんの為に生まれ、死ぬのか。
今の先、夢の先、何処まで続くか判らない世界で、私は今日、全てを裏切る。
●闇黒蜂シリーズの延長線
ランク1の妖『芽殖孤虫』は『非覚者』に憑りつく妖である。
つまり覚者以上の存在にはほぼ、無意味な妖である。
憑りつかれていた『逢魔ヶ時氷雨』という少女は、その妖の呪いから脱却出来ていた。
兄の血と、『薬売り』という古妖の技術が作り出した薬を使った結果そうなったのだが。
暫く、氷雨は薬が効き過ぎて高熱を出して寝込んでいた。
その、氷雨が姿を消した。
荒らされた形跡は無く、しかし半開きの窓から出て行ったようだ。
恐らく、自らの意思で。
●
槍のような豪雨。
靴も履かず、パジャマ姿の上に薄いシーツを頭から被って姿を隠している少女は、息切れ切れに逃げていた。
明らかに不審な姿に、警官が一人、声をかけた。
瞬間。
警官の胸元がパックリと割れて、鮮血が飛び散っていく。
何故だか、『タイミングを合わせたように』救急車が止まり、警官が運ばれていく。
少女は絶望したように叫んでいたが、裸足で再び雨の中を駆けながら、少女は逃げ場を探していた。
逃げるのは己、しかしそれはこれからすれ違ってしまう誰かを傷つけない為。
まだ、自分がぎりぎり、自分であるうちに。
人のいない場所へ。あの古妖なら救ってくれるかもしれない。
……死ぬ勇気が無い自分を、甘い自分を、これほど呪ったことは無い。
きっと。
でも。
助けてくれると期待してしまう。
少女は足を止めた。視界さえ乏しい雨の中、道路の中央で学ランを着た少年が立っていた。
『……っ、神無木蝶花!!』
「薬売りを探しているんやろ。行かせへんからな」
『なによっ! 未来が見えるってだけでお兄ちゃんに大事にされてるくせに!!』
「今それ関係あらへんわ!!」
十秒後、少年は少女の無意識の攻撃に被弾し、少女は今度こそ自我を失くす。
●
事が起こる、数時間前。
「神無木蝶花という人物からの、依頼?」
FiVEへ一通の手紙が送られていた。
「破綻者を助けて欲しい、と?」
本当か、嘘か、分からない。
イタズラかもしれない。
「ふむ、一応、人を向かわせておこう。この雨の中だが、出動できる覚者を集めてくれ」
薬売りという古妖がいる。
奴の薬は服薬ではない。
服毒だ。
雷が落ち、空が一瞬猛烈な光に染まったとき。
龍の尾を持った少年の、赤色の瞳が怒りに震えた。
●
独りきりで寂しい事だけが、不幸なのでは無い。
崖から落とされて痛いって事だけが、地獄なのでは無い。
誰も話を聞いてくれないって事だけが、悲しい事なのでは無い。
本当に辛いのは、大事な人たちを悲しませてしまう事。
泣いて泣いて泣いても何も起こらない事は知っている。
負けて負けて負け続けても何も変わらない事は知っている。
私はなんの為に生まれ、死ぬのか。
今の先、夢の先、何処まで続くか判らない世界で、私は今日、全てを裏切る。
●闇黒蜂シリーズの延長線
ランク1の妖『芽殖孤虫』は『非覚者』に憑りつく妖である。
つまり覚者以上の存在にはほぼ、無意味な妖である。
憑りつかれていた『逢魔ヶ時氷雨』という少女は、その妖の呪いから脱却出来ていた。
兄の血と、『薬売り』という古妖の技術が作り出した薬を使った結果そうなったのだが。
暫く、氷雨は薬が効き過ぎて高熱を出して寝込んでいた。
その、氷雨が姿を消した。
荒らされた形跡は無く、しかし半開きの窓から出て行ったようだ。
恐らく、自らの意思で。
●
槍のような豪雨。
靴も履かず、パジャマ姿の上に薄いシーツを頭から被って姿を隠している少女は、息切れ切れに逃げていた。
明らかに不審な姿に、警官が一人、声をかけた。
瞬間。
警官の胸元がパックリと割れて、鮮血が飛び散っていく。
何故だか、『タイミングを合わせたように』救急車が止まり、警官が運ばれていく。
少女は絶望したように叫んでいたが、裸足で再び雨の中を駆けながら、少女は逃げ場を探していた。
逃げるのは己、しかしそれはこれからすれ違ってしまう誰かを傷つけない為。
まだ、自分がぎりぎり、自分であるうちに。
人のいない場所へ。あの古妖なら救ってくれるかもしれない。
……死ぬ勇気が無い自分を、甘い自分を、これほど呪ったことは無い。
きっと。
でも。
助けてくれると期待してしまう。
少女は足を止めた。視界さえ乏しい雨の中、道路の中央で学ランを着た少年が立っていた。
『……っ、神無木蝶花!!』
「薬売りを探しているんやろ。行かせへんからな」
『なによっ! 未来が見えるってだけでお兄ちゃんに大事にされてるくせに!!』
「今それ関係あらへんわ!!」
十秒後、少年は少女の無意識の攻撃に被弾し、少女は今度こそ自我を失くす。
●
事が起こる、数時間前。
「神無木蝶花という人物からの、依頼?」
FiVEへ一通の手紙が送られていた。
「破綻者を助けて欲しい、と?」
本当か、嘘か、分からない。
イタズラかもしれない。
「ふむ、一応、人を向かわせておこう。この雨の中だが、出動できる覚者を集めてくれ」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.破綻者の無力化
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
殺芽、厄病神、そして薬売り、3シリーズの最後の話を展開していきます
蜘蛛、蜂ときて、最後は蝶です
●状況
・FiVEで保護していた、七星剣幹部逢魔ヶ時紫雨の妹、氷雨。
彼女はとある妖に侵されていたが、それをFiVE覚者の尽力により打開することができていた。
しかし、彼女はあまりの薬の効き目に発現を通り越して破綻してしまった
その事実を隠すため、また、FiVE覚者に迷惑をかけないように勝手に逃げてしまう
彼女は発端でもある薬売りを探しながら、京都を徒歩で出た
そこに、神無木蝶花という『夢見』がきた
彼はFiVEに手紙にて依頼をしており、ここにFiVEが駆け付ける形となる
●破綻者:逢魔ヶ時氷雨(ランク2)
人であるときは、逢魔ヶ時紫雨の実妹
覚者優遇の故郷ではひどい扱いを受けたので逃げ、
イレブン所属していたがそこでも兄が兄なのでひどい扱いされ(拙作『負けて嬉しい花一匁』)、
精神系妖に憑りつかれたをの助け出され(拙作『氷雨』)、
動物系妖に憑りつかれてまた助けられ(闇黒蜂シリーズ)
最終的によくないお薬で破綻した人生です(当依頼)
通り名があるとして『世界に嫌われた少女』
単体です、そんな強くないです。さらっと勝てます
術式不明、種族不明、攻撃方法不明。現段階では、術式より体術より
●夢見:神無木蝶花(かんなぎ・ちょうか)
たまーに名前が出てきた(だけの)夢見の少年、逢魔ヶ時紫雨の友人
頭勝ち割って倒れてます、割とすぐに死にます、助けられます
(拙作『クリアブラック』の神無木という女の弟)
(拙作『クリアホワイト』で斗真を助けようとしていた少年)
●場所:山道
すごい雨がふってます、ペナルティはそれだけです
このカルマを打開できる方、ご縁がありましたらよろしくお願いします
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2016年12月24日
2016年12月24日
■メイン参加者 6人■

●
――例え世界が私のことを嫌っても、私のことを好きでいてくれる人がたった一人でもいるのなら、それでいいと思った。
でも、ごめんなさい。
ファイヴ覚者は到着した。
悪戯かと思われた依頼も、ふたを開けてみれば嫌な予感がした連中六人が、その虫の知らせのままに集まったのだろう。
的中しては欲しくないものであったが、どうやら依頼の内容は一瞬にして理解できた。
『きゃああああああああああああああああああああああああああ!!』
氷雨が叫び声を上げた瞬間、彼女の長い髪が鋭利な刃物のように変化し、周囲のアスファルトや標識や、木々をスライスした。
剣風に煽られ蝶花の身体が少しだけ後退し、人形のように無抵抗でバウンドしながら軌跡に血を撒いていく。
「氷雨さん……貴女の手は……もう汚させはしません!」
『水の祝福』神城 アニス(CL2000023)は蝶花へと回復をかけたいが、
「駄目だな、距離がな。奴に回復かけてぇなら氷雨を突破しねェと無理だ」
『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)が缶コーヒーの蓋を、自然な動作で開けた。雨が少しずつ缶の上に溜まっていくのを忌々し気に見つめながら。
アニスはそれまで真面目であった顔が豹変した。
「はい……って、なにのんびりしているんですか!」
「あ? 俺は戦いに来たんじゃねえ。家出した馬鹿を連れ戻しに来ただけだ」
アレを。
刀嗣は顎で氷雨を示した。
恐らく覚者が知っている彼女は、黒髪ロングツインテールで小柄ではあったが、今や彼女の兄と同じような白髪に赤目というカラーリングに変わっている。
長い髪も、今や触手のように浮き上がり、先端が鎌のように鋭利になっていた。近づくものは全て切り裂く心算なのだろう。心の防衛本能のようだ。
「また、傷ついてしまったのですか――」
『二兎の救い手』秋津洲 いのり(CL2000268)は瞳を一度地面に落としてから、しかし前向きに杖をかざす。
氷雨の姉は尊く美しい女性であった。もう多様な犠牲の一部になってしまったが、それでもいのりは常に姉の望みを継いできた。
そして今日も、その意志を裏切らない為に、此処に君臨す。
「いけそうですか?」
いのりの視線が『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)へ向いた。
まず、氷雨を救うならばその奥の蝶花と呼ばれた少年を助けなければならないだろう。それを担うのが飛馬なのだ。
「任せておけ。絶対になんとかする」
「頼もしいな」
『花守人』三島 柾(CL2001148)は薄っすらと笑いを浮かべていたが、その内心は煮えくり返る怒りを抑えるので精一杯であっただろう。
なんと己とは小さき存在か。きっとあの薬売りならばいうのだろう、『妖からは、助けてやった』と。確かに、そこだけを切り取れば、薬売りは一切の嘘をついてはいないのだから。
方法は、あまりにも強引であるが。
「時間が惜しい、参ります」
『アイティオトミア』氷門・有為(CL2000042)はオルペウスを構えた。絶えずオルペウスには、雨の雫がぶつかっては弾けて、その身体を濡らす。
そのたった一滴が、オルペウスの先からぽとりと地面に落ち、弾けた瞬間、氷雨はこちらへ前進す。
●
大きな高い金属音が響いた。有為のオルペウスが氷雨の髪に弾かれ、空中で回転しつつ飛んで、地面へと突き刺さる。後退した有為、素早く武器をとってから再び飛ぶように跳ねた。氷雨の無差別ともいえる攻撃が有為の軌跡を破壊するように彼女を追って行くのだ。
広範囲への切り裂く攻撃は有為だけを狙ったに留まらない。硬質化された氷雨の刃になった髪を飛馬が弾いたのだ。一撃が終われば、しかし、もう一撃、回し蹴りをしてきた氷雨の足が飛馬を吹き飛ばす。
しかしそれはそれで好都合だ。吹き飛ばされ距離を稼いだ飛馬はそのまま流れるように着地した刹那、蝶花のほうへ走った。
『ギ……!!』
氷雨は目で飛馬を追って行く。が、しかし、
「こっちを見ろ。俺の目を見るんだ、氷雨!!」
柾は回り込んで、飛馬のほうへ氷雨が駆けださないように、その身を挟み込ませる。案の定氷雨は追おうとして駆け出し、柾へとぶつかった。
氷雨を抱き込むような形で止めたが、刃の嵐が降り注ぐ。
「おーおー。さっきの蹴り、どこで覚えてきたよ」
刀嗣は空っぽの缶を放ってから、複数の刃を有象無象無茶苦茶に振るう氷雨へと飛び込んだ。刃もあえて、その身で受け、弾くことは一切しない。
「武器はどうしました!?」
いのりは叫ぶ。
「道場で留守番させてらァ」
いつもの刀は抜かない、絶対にだ。今日は殺しに来たのでは無い、連れ戻しに来たのだ。珍しいくらいに闘気と殺意が無い。これはまるで喧嘩である。
「コイツで十分だ」
利き手を拳にしてみせた。そこへ白炎が、握られた拳の中から吹き荒れ氷雨に叩き込まれた。
アスファルトの上に溜まった雨水に飛沫をあげさせながら、バウンドしていく氷雨。
「――っ」
いのりは胸が苦しく思えた。
何故傷つけたくない人へ武器を向けなければならないのか。小さな少女の葛藤はとても美しいものだが、世間とは常に残酷なものである。
降り注ぐ冬の雨に全身濡れ切ったいのりだ、その体温は低い。が、しかし、きっと氷雨の心はもっと寒いはず。
自分に言い聞かせるように、いのりの冥王の杖は天高く掲げられた。願う救いとは程遠い、攻撃という行動を以てして救いとする。
「いのりは貴方のお姉様を、智雨様をお救いしたかった。けれど叶いませんでしたわ」
いのりの足下に広がる、薄い黄金色の魔法陣は、空高く暗雲を呼び寄せ、一筋の雷撃の槍が氷雨を感電させていく。
「あの方は紫雨も、貴方も愛しておられた。助けたいと思っておられた」
えびぞりになってビクビク震える氷雨。
その頃、飛馬は蝶花へ到達していた。
「おい、しっかりしろ!」
返事は無い。
ぐだ、と眠る赤子のように力が入っていない蝶花の身体を持ち上げた飛馬。持ち上げた瞬間から、飛馬の手には彼の血が伝い、雨と混じって泥水のように流れていく。
「絶対に、死なせないからな!!」
飛馬は回復圏内へと走り出し、そこへ迎え撃つようにアニスが力を解放し始めていた。
「斗真さんの友達でもある貴方を……死なせたりはしません!」
アニスの手は震えていた。何度、ブイフォンを落としかけたことか。上手く制御できないのはこの寒さで指が冷たいのは関係ないだろうが、心の問題だ。
どうすれば、どうすれば氷雨を救えるのだろうか。
こんなとき、斗真なら、紫雨なら、どうしただろうか。顔を振ったアニス、今、いないものを考えても仕方が無い。
「私は氷雨さんを助けるのを諦めない……! 必ずこちら側に戻します!」
もう誰も失いたくない。その思いは形となって現れるもの。両手に淡い光を持ち、アニスはそれを振り払うような動作をした瞬間、仲間の傷はいえていく、そう、そして飛馬が抱える少年の傷も同じように。
●
攻撃を受け、荒い息を吐き始めた氷雨。どうやら体力はそんなに無いと見える。
破綻したとは言え、彼女はまだ深度は弐。僅かに残った人間としての氷雨の心が、開眼しかけていた。
『も、やめっ』
頭を抑えた氷雨。それでも彼女の持つ武器は触手のように蠢き、人を傷つける。
「お前は死なねえし元に戻す。悲しむ事なんざなんもねぇ」
刀嗣の拳が氷雨を穿つ。
彼からしてみれば氷雨は出来の悪い妹のようなものだ。家族に迷惑をかけることの、何がいけないことだというのか。攻撃も甘んじて受けた、その結果が刀嗣の全身に余すところなくついた傷だ。それがどうしたというのだ、家族一人連れ戻すのに犠牲が必要なのなら、傷程度、受ける。
吹っ飛んだ氷雨の身体、追った。
「――氷雨」
柾は攻撃するでもなく、氷雨の身体を抱きしめた。
夢見の手紙の話を聞いて嫌な予感に、雨の中傘もささずに出てきたのだ。今までも猪突猛進、危険へ突っ走る氷雨を何度止めてきたことか。今回も同じこと。
「世界が嫌おうが、誰が嫌おうが、俺はお前が大好きだよ。氷雨、だから生きてほしい。お前が望まないなら俺達が望む」
もう家族のようなものだから。突き刺さる雨に、氷雨の刃が柾を抉ったとしても柾は彼女を離そうとはしない。けして受ける傷は拒絶の意思では無いと理解していた。氷雨の刃は彼を傷つけながらも、どこか刃を辞めさせようと抗っているのだから、故に剣先は常に震えていた。
「お前が何者になったって構うものか」
氷雨は一度、柾を抱きしめた。しかし渾身の力で突き放す。
「氷雨!」
『違うの、拒絶じゃないの。お願い――破綻者の私を止めてええええええええええ!!』
氷雨の背後、オルペウスを最大限まで振り上げた有為。彼女は恐らく容赦はしない。逃げの選択をとった馬鹿娘に、いや、逃げなど選択にも入らない。後悔が残って結局は選択した逃げも、意味が無いものになるのだろう、いや、するのだろう覚者たちが。
「私は自分のしたいようにするだけです」
結果としてどうなろうと。
「貴女の事情とか私は斟酌しません」
言葉ではそういっても、それでも有為が優しい人であるのを氷雨はよくよく知っていた。きっと有為と氷雨はコインの裏表、まるで逆という存在。
有為のオルペウスが氷雨の背中を穿った、その武器には常に、救済の望みがつまっていた。
「氷雨さん! 今回も貴女をお助け致します! ……大丈夫。貴女は元に戻れる」
アニスは即座に動いていた。回復の力を手繰り寄せ、しかし氷雨に与えられぬことは重々承知ではあるのだが、しかし、せめて前衛のアタッカーが傷を埋められるように。
氷雨の硝子のような心を持っているが、アニスも似たようなものだろう。
「貴女の中には私の魂もあります。あの時に使った奇跡……あの奇跡がまだ貴女の中に残ってると信じています」
地面へどちゃりと頭から落ちた氷雨、雨飛沫がアニスの場所まで散り、しかし氷雨は再び唸り声を上げながら周囲の物体を切り裂き、飛び込んだ飛馬を切り裂いていく。
泥水に血が混じり、しかし飛馬は漆黒の瞳に光を燈し、まだ戦えると立っている。
「終わらせよう、氷雨ねーちゃん。蝶花のにーちゃんは、大丈夫だから」
飛馬は太刀を構えた。チラ、とみた蝶花はアニスに支えられながら、未だ意識を回復しないままとなっている――が、恐らくはあれは大丈夫なのだろう。
飛馬の両刃が、氷雨の刃をひとつ切り落とす。がら空きになった氷雨へ飛び込んだ彼の刃が、しかし彼のそれは氷雨を切り刻むことはしない。あくまで柾と同じく、守るためにここにいるのだから。
いのりは再び杖をかかげる。
「あの方の代わり等と烏滸がましい事は申しません。これはいのりの唯の我儘ですわ。あの時出来なかった事を今こそ成し遂げたい。氷雨様をお助けしたいのですわ!」
いのりの声はよく響いた。雨音に消し去ってしまう戦闘音なんかよりもよくよく響いた。彼女の中には常に智雨への敬意やそれに近い感情が芽生えていた。たとえ、身体は小さくとも、それでも智雨に負けぬ眼差しで氷雨を見つめているのだろう。
故に、これは攻撃では無く、祈り。再び雷撃が迸る――。
「あの時、俺はお前に一度命を救ってもらった。今度は俺がお前を救いたい」
柾は氷雨の腕を掴んで引き寄せた。
迫る雷鳴、共に白炎が吹き荒れ拳を振り上げている。
「FiVEへの迷惑がどーとか考えるんじゃねーぞ。居なくなられると困るから俺らはこうやって助けに来るんだ」
何度も。
何度でも。
衝撃がひとつふたつと響き、倒れた氷雨の身体を柾は受け止めた。
混沌とも純黒とも呼べる世界に沈んでいた。
めくるめく恍惚な滅亡である。
個というものから脱してしまった私は、恐らく、何かしら終わりを迎えて溶けて消えてしまうのだろう。
……もう、自分が何だったのかも思い出せないや。
しかし水面に波紋を作る雫のように、何度も、何度も声がした。
それはやがて波紋を広げ、波となり、波は彼女を揺らしていく。
誰?
「生きたい、願わくば、貴女の近くで」
私?
「誰が悲しむかボケ。俺様がお前を連れ帰りに来たんだ。なら連れ帰るだけだ」
聞いたことある声。
「氷雨様をお助けしたいのですわ! 氷雨様にとってはご迷惑かもしれませんが、どうか戻って来て下さいませ!」
氷雨って誰。
「大丈夫。みんな傍にいる。生きるのを、楽しいを続けよう」
生きたい。
「もうとっくに仲間だろ? 少なくとも俺はそう思ってるぜ。仲間を守るってのは当然のことだと思わねーか?」
当然。
「今度は貴女が手を伸ばして! 助けてって!! 勇気を持って手を伸ばして!! 必ず握り返すから」
本当――?
身体中を暑く巡る血と、背に異物の感触。薄っすら瞳を開けた氷雨の背に、純白の翼が花開くように咲いた。
「綺麗な天使ができたな」
柾の言葉に、氷雨はなんのことかわからないまま眠気のままに瞳を閉じた。まるでそれは、父親に甘える娘のように腕をまわし、暖を取るように身体を擦りつけていた。
瞳をあけた蝶花。
「――う」
アニスがぴくりと動いた。
「! 大丈夫ですか!?」
「あ、おおきに」
蝶花が目を覚ましたときには、すべてが終わったあとである。それくらい早く戦闘が終わったということではあるが。
不思議と天の雨雲は一斉にいなくなり、青空が差し込んでいる始末。
「オイ、夢見のガキ。あの救急車もテメェの手配だろ、七星には渡さねえぞ」
「俺は別に……」
チ、と舌を打った刀嗣。蝶花は氷雨を見て、口端が上に上がって笑っていた。
「蝶花さん?」
アニスは見上げて、蝶花は立ち上がり覚者から遠のいていく。
「助けてくれてありがとう、俺は、神無木蝶花――でも、あんちゃんたちとは敵やなあ」
蝶花は氷雨の無事を確認した後、一礼をしてまたどこかへと消えていった。
――例え世界が私のことを嫌っても、私のことを好きでいてくれる人がたった一人でもいるのなら、それでいいと思った。
でも、ごめんなさい。
ファイヴ覚者は到着した。
悪戯かと思われた依頼も、ふたを開けてみれば嫌な予感がした連中六人が、その虫の知らせのままに集まったのだろう。
的中しては欲しくないものであったが、どうやら依頼の内容は一瞬にして理解できた。
『きゃああああああああああああああああああああああああああ!!』
氷雨が叫び声を上げた瞬間、彼女の長い髪が鋭利な刃物のように変化し、周囲のアスファルトや標識や、木々をスライスした。
剣風に煽られ蝶花の身体が少しだけ後退し、人形のように無抵抗でバウンドしながら軌跡に血を撒いていく。
「氷雨さん……貴女の手は……もう汚させはしません!」
『水の祝福』神城 アニス(CL2000023)は蝶花へと回復をかけたいが、
「駄目だな、距離がな。奴に回復かけてぇなら氷雨を突破しねェと無理だ」
『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)が缶コーヒーの蓋を、自然な動作で開けた。雨が少しずつ缶の上に溜まっていくのを忌々し気に見つめながら。
アニスはそれまで真面目であった顔が豹変した。
「はい……って、なにのんびりしているんですか!」
「あ? 俺は戦いに来たんじゃねえ。家出した馬鹿を連れ戻しに来ただけだ」
アレを。
刀嗣は顎で氷雨を示した。
恐らく覚者が知っている彼女は、黒髪ロングツインテールで小柄ではあったが、今や彼女の兄と同じような白髪に赤目というカラーリングに変わっている。
長い髪も、今や触手のように浮き上がり、先端が鎌のように鋭利になっていた。近づくものは全て切り裂く心算なのだろう。心の防衛本能のようだ。
「また、傷ついてしまったのですか――」
『二兎の救い手』秋津洲 いのり(CL2000268)は瞳を一度地面に落としてから、しかし前向きに杖をかざす。
氷雨の姉は尊く美しい女性であった。もう多様な犠牲の一部になってしまったが、それでもいのりは常に姉の望みを継いできた。
そして今日も、その意志を裏切らない為に、此処に君臨す。
「いけそうですか?」
いのりの視線が『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)へ向いた。
まず、氷雨を救うならばその奥の蝶花と呼ばれた少年を助けなければならないだろう。それを担うのが飛馬なのだ。
「任せておけ。絶対になんとかする」
「頼もしいな」
『花守人』三島 柾(CL2001148)は薄っすらと笑いを浮かべていたが、その内心は煮えくり返る怒りを抑えるので精一杯であっただろう。
なんと己とは小さき存在か。きっとあの薬売りならばいうのだろう、『妖からは、助けてやった』と。確かに、そこだけを切り取れば、薬売りは一切の嘘をついてはいないのだから。
方法は、あまりにも強引であるが。
「時間が惜しい、参ります」
『アイティオトミア』氷門・有為(CL2000042)はオルペウスを構えた。絶えずオルペウスには、雨の雫がぶつかっては弾けて、その身体を濡らす。
そのたった一滴が、オルペウスの先からぽとりと地面に落ち、弾けた瞬間、氷雨はこちらへ前進す。
●
大きな高い金属音が響いた。有為のオルペウスが氷雨の髪に弾かれ、空中で回転しつつ飛んで、地面へと突き刺さる。後退した有為、素早く武器をとってから再び飛ぶように跳ねた。氷雨の無差別ともいえる攻撃が有為の軌跡を破壊するように彼女を追って行くのだ。
広範囲への切り裂く攻撃は有為だけを狙ったに留まらない。硬質化された氷雨の刃になった髪を飛馬が弾いたのだ。一撃が終われば、しかし、もう一撃、回し蹴りをしてきた氷雨の足が飛馬を吹き飛ばす。
しかしそれはそれで好都合だ。吹き飛ばされ距離を稼いだ飛馬はそのまま流れるように着地した刹那、蝶花のほうへ走った。
『ギ……!!』
氷雨は目で飛馬を追って行く。が、しかし、
「こっちを見ろ。俺の目を見るんだ、氷雨!!」
柾は回り込んで、飛馬のほうへ氷雨が駆けださないように、その身を挟み込ませる。案の定氷雨は追おうとして駆け出し、柾へとぶつかった。
氷雨を抱き込むような形で止めたが、刃の嵐が降り注ぐ。
「おーおー。さっきの蹴り、どこで覚えてきたよ」
刀嗣は空っぽの缶を放ってから、複数の刃を有象無象無茶苦茶に振るう氷雨へと飛び込んだ。刃もあえて、その身で受け、弾くことは一切しない。
「武器はどうしました!?」
いのりは叫ぶ。
「道場で留守番させてらァ」
いつもの刀は抜かない、絶対にだ。今日は殺しに来たのでは無い、連れ戻しに来たのだ。珍しいくらいに闘気と殺意が無い。これはまるで喧嘩である。
「コイツで十分だ」
利き手を拳にしてみせた。そこへ白炎が、握られた拳の中から吹き荒れ氷雨に叩き込まれた。
アスファルトの上に溜まった雨水に飛沫をあげさせながら、バウンドしていく氷雨。
「――っ」
いのりは胸が苦しく思えた。
何故傷つけたくない人へ武器を向けなければならないのか。小さな少女の葛藤はとても美しいものだが、世間とは常に残酷なものである。
降り注ぐ冬の雨に全身濡れ切ったいのりだ、その体温は低い。が、しかし、きっと氷雨の心はもっと寒いはず。
自分に言い聞かせるように、いのりの冥王の杖は天高く掲げられた。願う救いとは程遠い、攻撃という行動を以てして救いとする。
「いのりは貴方のお姉様を、智雨様をお救いしたかった。けれど叶いませんでしたわ」
いのりの足下に広がる、薄い黄金色の魔法陣は、空高く暗雲を呼び寄せ、一筋の雷撃の槍が氷雨を感電させていく。
「あの方は紫雨も、貴方も愛しておられた。助けたいと思っておられた」
えびぞりになってビクビク震える氷雨。
その頃、飛馬は蝶花へ到達していた。
「おい、しっかりしろ!」
返事は無い。
ぐだ、と眠る赤子のように力が入っていない蝶花の身体を持ち上げた飛馬。持ち上げた瞬間から、飛馬の手には彼の血が伝い、雨と混じって泥水のように流れていく。
「絶対に、死なせないからな!!」
飛馬は回復圏内へと走り出し、そこへ迎え撃つようにアニスが力を解放し始めていた。
「斗真さんの友達でもある貴方を……死なせたりはしません!」
アニスの手は震えていた。何度、ブイフォンを落としかけたことか。上手く制御できないのはこの寒さで指が冷たいのは関係ないだろうが、心の問題だ。
どうすれば、どうすれば氷雨を救えるのだろうか。
こんなとき、斗真なら、紫雨なら、どうしただろうか。顔を振ったアニス、今、いないものを考えても仕方が無い。
「私は氷雨さんを助けるのを諦めない……! 必ずこちら側に戻します!」
もう誰も失いたくない。その思いは形となって現れるもの。両手に淡い光を持ち、アニスはそれを振り払うような動作をした瞬間、仲間の傷はいえていく、そう、そして飛馬が抱える少年の傷も同じように。
●
攻撃を受け、荒い息を吐き始めた氷雨。どうやら体力はそんなに無いと見える。
破綻したとは言え、彼女はまだ深度は弐。僅かに残った人間としての氷雨の心が、開眼しかけていた。
『も、やめっ』
頭を抑えた氷雨。それでも彼女の持つ武器は触手のように蠢き、人を傷つける。
「お前は死なねえし元に戻す。悲しむ事なんざなんもねぇ」
刀嗣の拳が氷雨を穿つ。
彼からしてみれば氷雨は出来の悪い妹のようなものだ。家族に迷惑をかけることの、何がいけないことだというのか。攻撃も甘んじて受けた、その結果が刀嗣の全身に余すところなくついた傷だ。それがどうしたというのだ、家族一人連れ戻すのに犠牲が必要なのなら、傷程度、受ける。
吹っ飛んだ氷雨の身体、追った。
「――氷雨」
柾は攻撃するでもなく、氷雨の身体を抱きしめた。
夢見の手紙の話を聞いて嫌な予感に、雨の中傘もささずに出てきたのだ。今までも猪突猛進、危険へ突っ走る氷雨を何度止めてきたことか。今回も同じこと。
「世界が嫌おうが、誰が嫌おうが、俺はお前が大好きだよ。氷雨、だから生きてほしい。お前が望まないなら俺達が望む」
もう家族のようなものだから。突き刺さる雨に、氷雨の刃が柾を抉ったとしても柾は彼女を離そうとはしない。けして受ける傷は拒絶の意思では無いと理解していた。氷雨の刃は彼を傷つけながらも、どこか刃を辞めさせようと抗っているのだから、故に剣先は常に震えていた。
「お前が何者になったって構うものか」
氷雨は一度、柾を抱きしめた。しかし渾身の力で突き放す。
「氷雨!」
『違うの、拒絶じゃないの。お願い――破綻者の私を止めてええええええええええ!!』
氷雨の背後、オルペウスを最大限まで振り上げた有為。彼女は恐らく容赦はしない。逃げの選択をとった馬鹿娘に、いや、逃げなど選択にも入らない。後悔が残って結局は選択した逃げも、意味が無いものになるのだろう、いや、するのだろう覚者たちが。
「私は自分のしたいようにするだけです」
結果としてどうなろうと。
「貴女の事情とか私は斟酌しません」
言葉ではそういっても、それでも有為が優しい人であるのを氷雨はよくよく知っていた。きっと有為と氷雨はコインの裏表、まるで逆という存在。
有為のオルペウスが氷雨の背中を穿った、その武器には常に、救済の望みがつまっていた。
「氷雨さん! 今回も貴女をお助け致します! ……大丈夫。貴女は元に戻れる」
アニスは即座に動いていた。回復の力を手繰り寄せ、しかし氷雨に与えられぬことは重々承知ではあるのだが、しかし、せめて前衛のアタッカーが傷を埋められるように。
氷雨の硝子のような心を持っているが、アニスも似たようなものだろう。
「貴女の中には私の魂もあります。あの時に使った奇跡……あの奇跡がまだ貴女の中に残ってると信じています」
地面へどちゃりと頭から落ちた氷雨、雨飛沫がアニスの場所まで散り、しかし氷雨は再び唸り声を上げながら周囲の物体を切り裂き、飛び込んだ飛馬を切り裂いていく。
泥水に血が混じり、しかし飛馬は漆黒の瞳に光を燈し、まだ戦えると立っている。
「終わらせよう、氷雨ねーちゃん。蝶花のにーちゃんは、大丈夫だから」
飛馬は太刀を構えた。チラ、とみた蝶花はアニスに支えられながら、未だ意識を回復しないままとなっている――が、恐らくはあれは大丈夫なのだろう。
飛馬の両刃が、氷雨の刃をひとつ切り落とす。がら空きになった氷雨へ飛び込んだ彼の刃が、しかし彼のそれは氷雨を切り刻むことはしない。あくまで柾と同じく、守るためにここにいるのだから。
いのりは再び杖をかかげる。
「あの方の代わり等と烏滸がましい事は申しません。これはいのりの唯の我儘ですわ。あの時出来なかった事を今こそ成し遂げたい。氷雨様をお助けしたいのですわ!」
いのりの声はよく響いた。雨音に消し去ってしまう戦闘音なんかよりもよくよく響いた。彼女の中には常に智雨への敬意やそれに近い感情が芽生えていた。たとえ、身体は小さくとも、それでも智雨に負けぬ眼差しで氷雨を見つめているのだろう。
故に、これは攻撃では無く、祈り。再び雷撃が迸る――。
「あの時、俺はお前に一度命を救ってもらった。今度は俺がお前を救いたい」
柾は氷雨の腕を掴んで引き寄せた。
迫る雷鳴、共に白炎が吹き荒れ拳を振り上げている。
「FiVEへの迷惑がどーとか考えるんじゃねーぞ。居なくなられると困るから俺らはこうやって助けに来るんだ」
何度も。
何度でも。
衝撃がひとつふたつと響き、倒れた氷雨の身体を柾は受け止めた。
混沌とも純黒とも呼べる世界に沈んでいた。
めくるめく恍惚な滅亡である。
個というものから脱してしまった私は、恐らく、何かしら終わりを迎えて溶けて消えてしまうのだろう。
……もう、自分が何だったのかも思い出せないや。
しかし水面に波紋を作る雫のように、何度も、何度も声がした。
それはやがて波紋を広げ、波となり、波は彼女を揺らしていく。
誰?
「生きたい、願わくば、貴女の近くで」
私?
「誰が悲しむかボケ。俺様がお前を連れ帰りに来たんだ。なら連れ帰るだけだ」
聞いたことある声。
「氷雨様をお助けしたいのですわ! 氷雨様にとってはご迷惑かもしれませんが、どうか戻って来て下さいませ!」
氷雨って誰。
「大丈夫。みんな傍にいる。生きるのを、楽しいを続けよう」
生きたい。
「もうとっくに仲間だろ? 少なくとも俺はそう思ってるぜ。仲間を守るってのは当然のことだと思わねーか?」
当然。
「今度は貴女が手を伸ばして! 助けてって!! 勇気を持って手を伸ばして!! 必ず握り返すから」
本当――?
身体中を暑く巡る血と、背に異物の感触。薄っすら瞳を開けた氷雨の背に、純白の翼が花開くように咲いた。
「綺麗な天使ができたな」
柾の言葉に、氷雨はなんのことかわからないまま眠気のままに瞳を閉じた。まるでそれは、父親に甘える娘のように腕をまわし、暖を取るように身体を擦りつけていた。
瞳をあけた蝶花。
「――う」
アニスがぴくりと動いた。
「! 大丈夫ですか!?」
「あ、おおきに」
蝶花が目を覚ましたときには、すべてが終わったあとである。それくらい早く戦闘が終わったということではあるが。
不思議と天の雨雲は一斉にいなくなり、青空が差し込んでいる始末。
「オイ、夢見のガキ。あの救急車もテメェの手配だろ、七星には渡さねえぞ」
「俺は別に……」
チ、と舌を打った刀嗣。蝶花は氷雨を見て、口端が上に上がって笑っていた。
「蝶花さん?」
アニスは見上げて、蝶花は立ち上がり覚者から遠のいていく。
「助けてくれてありがとう、俺は、神無木蝶花――でも、あんちゃんたちとは敵やなあ」
蝶花は氷雨の無事を確認した後、一礼をしてまたどこかへと消えていった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
