無貌の影
●無貌の影
「―――やあ。また会ったね」
上下の別も昼か夜かも解らない場所で、声が聞こえる。
「ん、どうしました? 初対面? あらあら、そんな筈は御座いませんわ。私が貴方様とお会いするのは……はて、何度目でしたか」
ぐにゃりぐにゃりとマーブル模様を描く景色の中、聞いた事の無い筈の良く知った声がする。
「まあ良いじゃろう、本題に入るとするかの。いや、大した事ではない。少し遊ぼうかと思ってたんじゃ。招待状を渡しに来たのよ」
高いと思えば低く、若いと思えば年輪を感じさせる。決して一つに定まらず、印象を定めさせない。
「そぉうだぁ、楽しい楽しいパァーティーの始まりだぁ。参加者にはぁ、漏ぉれなく豪華賞品もあるぞぉ?」
ふわりふわりと浮いていた意識がストンと落ちる。落ちる、堕ちる、墜ちる、オチル、おちる。
「ではではそれでは皆々様方、『無貌の影』の催す宴を余す事無くお楽しみ下さいませ」
声は、愉しそうに嗤っていた。
●姿を変える者
貴方が目を覚ますと、枕元に一枚の手紙が置かれていた。そこには数日後の日付と「正午、五麟大学考古学研究所一般覚者通用門にて開催」とだけ書かれている。
貴方は寝惚けた目でそれを眺めていたが、ある事に気が付き跳び起きた。部屋には鍵がかかっている。無論窓もだ。部屋には自分以外誰も居ない。
―――では、どうやってコレは此処に?
「―――やあ。また会ったね」
上下の別も昼か夜かも解らない場所で、声が聞こえる。
「ん、どうしました? 初対面? あらあら、そんな筈は御座いませんわ。私が貴方様とお会いするのは……はて、何度目でしたか」
ぐにゃりぐにゃりとマーブル模様を描く景色の中、聞いた事の無い筈の良く知った声がする。
「まあ良いじゃろう、本題に入るとするかの。いや、大した事ではない。少し遊ぼうかと思ってたんじゃ。招待状を渡しに来たのよ」
高いと思えば低く、若いと思えば年輪を感じさせる。決して一つに定まらず、印象を定めさせない。
「そぉうだぁ、楽しい楽しいパァーティーの始まりだぁ。参加者にはぁ、漏ぉれなく豪華賞品もあるぞぉ?」
ふわりふわりと浮いていた意識がストンと落ちる。落ちる、堕ちる、墜ちる、オチル、おちる。
「ではではそれでは皆々様方、『無貌の影』の催す宴を余す事無くお楽しみ下さいませ」
声は、愉しそうに嗤っていた。
●姿を変える者
貴方が目を覚ますと、枕元に一枚の手紙が置かれていた。そこには数日後の日付と「正午、五麟大学考古学研究所一般覚者通用門にて開催」とだけ書かれている。
貴方は寝惚けた目でそれを眺めていたが、ある事に気が付き跳び起きた。部屋には鍵がかかっている。無論窓もだ。部屋には自分以外誰も居ない。
―――では、どうやってコレは此処に?

■シナリオ詳細
■成功条件
1.無貌の影を倒せ!
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
・正午、五麟大学考古学研究所一般覚者通用門から異空間に呼ばれます。所々に赤い線の走る不揃いな大きさの黒い切子面の内側の空間です。
・空間自体は広く、足場も平坦なので戦闘に支障はありません。前衛から10メートル地点に無貌の影が立っており、異世界に呼ばれると同時に戦闘が開始されます。
●目標
無貌の影:古妖:常に誰かの姿を借りる正体不明の古妖。顔面のパーツ以外は完全にコピーしてくる。能力の殆どが元になる者と同じだが、体力は変わらない。
・影溜り:P自:足元の影が体を包むように伸び、眼前の相手と同じ姿をとる。その姿は一分の差異も無いが顔面だけは黒く塗りつぶされたようになる。「無貌」の「影」故に。
●備考
・参加キャラクターの内1名と同じ姿の敵が現れます。誰の姿になって出てくるかはランダム(ダイスロールで決定)です。隔者と戦う際と同じように考えて下さい。
・毎ターン無貌の影の行動開始時にランダム(ダイスロールで決定)で妖の姿が変わり、副次ステータスと使用スキルが変化します。体力は変化しません。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2016年07月19日
2016年07月19日
■メイン参加者 6人■

●
ぐにゃり、と視界が歪む。ぐるぐるぐるぐる回りに回って、気が付けばそこは見た事も無い世界。黒く、狭く、閉じた世界。
何が起こるのか身構えては居た。けれど、これは―――いや、何をそんなに怖がっている。覚者ならばこの程度の事に遭遇するのは当たり前だ。
「以前のバクみたいな夢物語かと思ったけどどうやら違うみたいねん。まっ♪ でも折角のお誘いだし、乗らないとねん♪」
不揃いな切子面を見せる黒々とした世界の中、魂行 輪廻(CL2000534)は微笑む。艶然としたその様に臆している様子は無い。
「影ならば何処にでも居るものだ。故に寝所に手紙があっても不思議は無い、至極当然の話だ」
八重霞 頼蔵(CL2000693)もまた、明滅する赤い線を見ながら呟きを口にした。ジャケットを翻し、警戒はあれど恐怖は無い。
「もしかしたら、自分と戦えるかも知れないんだな。それも面白そうだ」
背すじを伸ばした椿屋 ツバメ(CL2001351)も普段通りの振る舞いだ。変幻自在の相手であれば、その姿が自分自身を模す事もある。むしろそれを願っているのか。
「戦うのは簡単だ。勝つことも、敵を侮る気は無いが、すべき事をして成すべき事を成せば百戦危うからずだろう」
坂上 懐良(CL2000523)の発言もその情報を知っての事だ。自身の事は知っている。仲間についても知っている。ならば勝てる、と。
「なんだか以前にも同じような仕事したな……お願いですから、輪廻さん。私に化けても調べないで下さいね」
「えー、どうしようかしらん♪」
一人後方で記憶を辿るのは向日葵 御菓子(CL2000429)である。同様の敵と相対した経験が余裕を持たせているのだろう。
「………。」
そして、常であれば誰よりもペースを崩さないであろう緒形 逝(CL2000156)だけは言葉を発する事なく、眼前の人影を捉えていた。
その眼には、いつになく強い光が灯っている。
●
「ふふ……始めましょう! 楽しい愉しいパーティーの始まりよん!」
笑っている。輪廻の姿を模し、火行弐式「灼熱化」によって生じた熱量によって着物を翻し、無貌の影が顔も無いのに嗤っている。
「敵の思惑に探りを入れねば、意味もあるまい。いやまさか思考パターンもコピーしてくるんだろうか。そうなると、これ以上考え続けるのも問題か……?」
懐良は手早く思考を纏め、腰に提げた「相伝当麻国包」に手をかける。そのまま腰の捻りを利用し一閃、更に刃を返す。二連撃を行う体術「飛燕」を居合いの形で放った。
「あら、真似されちゃったわねん。さてさて、どうなるか……楽しみねん♪」
姿を映し取られ、更に行動を先取りされながらも輪廻は表情を崩さない。鏡映しの様に灼熱化を使い、自身の強化を図る。
「自分の力量が、どれ程のものなのかも知りたいしな」
ツバメも続くように火行壱式「醒の炎」を使う。灼熱化に比べれば強化の度合いが大人しいが、その分デメリットも存在しない使い勝手のいい術式である。
「……1つ、お宅に聞きたい事が有るのよ。ずうっと考えてても答えが出なくてね。姿形とかは如何でも良いから教えておくれ」
降ろしていた腕に徐々に力が入り、やがて逝は地面を踏みしめる。その周囲の地面が土でも無いのに捲り上がり、逝の体を覆っていく。自己強化を行う土行弐式「蔵王・戒」だ。
「前のときも言ったけど、顔はコピーしないのに、なんでスタイルはコピーしてるんだろ?」
一方、御菓子は掲げた片手の先に水球を生み出し、そこからほどけるように伸びたベールを覚者達へと被せていく。こちらは水行弐式「海衣」である。
「問題は奴と遊ぶ理由も何も覚えが無いことだが……面白そうな状況ではあるから、まぁいいか」
強化を受け、炎を纏ったサーベルを振るう頼蔵。しかしその一撃は空を切り、無貌の影を怪しく照らすだけに留まった。
「招待客をもてなすのが主催者の役割だろう? 腹割って話してもらおうか」
懐良が再び刀を振るも、無貌の影は軽く下がる事で完全に間合いから外れてしまう。切り上げから頸を狙うおうとも、当たらなければ意味は無い。
「姿を替えぬもまた一興、さぁて次は何になるかしらぁん?」
しかし無貌の影は下がったと思えば飛び込んでくる。狙いは逝。顎を掠める拳は躱したものの、続いて跳ね上げられた脚が連続で弾けるような音を立てる。
仰け反った逝は更なる追撃を半ば意地で避けるが、フック、足払いと立て続けの攻撃からの回し蹴りはどうにもならない。直撃である。
「ぐっ……皆が見てるおっさんは幽霊なんだ。事情は省くがどういう訳か、とうの昔に死んでいたのさね。立派な墓も在った」
連撃を受けた逝は「癒力活性」で体力の回復を図る。他の覚者達もついでに回復するが、逝が受けたダメージはまだまだ残っていた。
「回復担当は居るから大丈夫だとは思うけど保険にねん♪」
未だ傷の深い逝に続き、輪廻も癒力活性で体力を回復させる。輪廻の姿を模しているだけはあると言う事か、半数を外してこの威力である。
「誰であろうと全力で倒すだけだ」
ここでツバメが額に開いた第三の眼から「破眼光」を発射する。当たり所が良かったのか、無貌の影はビクリと大きく震えていた。
「ほんとさ、能力のコピーは分かる……いや、それもどうやって分かるのかなって謎なんだけどね……」
御菓子はため息交じりにそう言うと右手に持っていたタラサの弓を軽く振るい、覚者達の頭上から水の塊を落とす。
水行弐式「超純水」である。術式により作られた水はすぐに蒸発するが、灼熱化で上気した輪廻の肌に艶が加わり非常に蠱惑的な姿へとなっていた。
「無貌、カオなし。だが本当にそうなのだろうか」
疑問を纏めながら攻撃を行う頼蔵だが、それは再び躱される。輪廻の身軽さそのままの無貌の影は攻撃を当てるのも一苦労である。
「倒れなさいなっ!」
輪廻は立ち振る舞いまで瓜二つの無貌の影へ掴みかかり、長時間衝撃を残して動きを制限する投げ「圧投」を仕掛ける。
が、習得している者の姿を取っているからだろうか。投げ飛ばされた無貌の影はその勢いのままに立ち上がる。動きの制限は失敗したようだ。
「これはパーティなんだろ? なら、それに全てを賭け、今出来る俺の最高の技を繰り出すのみだ」
構えを正眼に戻した懐良が三度斬りかかる。間合いの把握しやすい構えではあるが、踏み込みが甘かったのか袈裟懸けの一撃は外れてしまう。
しかしそこから一歩踏み込むと同時に手首を返した切り上げは、輪廻を模した豊満な肉体に見事に切創を加えていた。
「臆せず、どんな状況でも楽しんで戦えば、悪い結果にはならないだろう」
火行壱式「炎撃」によって燃え盛る「大鎌・白狼」が無貌の影を捉える。炎は瞬く間に皮膚を焦がし、肉の焼ける臭いを周囲へ充満させていった。
「それにもまして、スタイルはさ、戦闘に必要ないじゃない? なんでコピーしてるの? 顔と同じでただの人型でいいじゃない……ね?」
ぼやきながら逝へ水行壱式「癒しの滴」で回復を行う御菓子。やはり経験者としての余裕があるのだろうか。
「―――ふふっ、そんなにお気に召しませんか? 成程御立派な物をお持ちで……」
しかしそんな余裕を見せたせいか、無貌の影は御菓子へと姿を変える。顔は相変わらずの黒塗りだが、それを除けば見分けるのは至難の業である。
更には先程の破眼光で掛かった呪いは残っている様子は無い。火傷は残っているが、無貌の影はそれも気にせず自身に海衣を使う。
「……なあ、此処に居るのは誰なんだ? 故人でもなければ幽霊でもない、『これ』はいったい何かね」
逝の独白は続く。その間も圧投をかけようと手を伸ばすが、御菓子とて後衛型とは言え歴戦の覚者である。逝の手をヒラリと避けた。
「招待したからには目的があり、理由もある。遊ぶ、が其れにあたるのだろうが」
無貌の影が御菓子に姿を変えた事で攻撃方法を飛燕に切り替えた頼蔵は、サーベルの刃を無貌の影へと叩き込む。そこに追撃の銃弾も加え、着実にダメージを与えていった。
「以前は偽物がしっかりコピー出来てるか確認出来なかったから……今回はちゃんと確認しなきゃねん♪」
と、何やら輪廻の様子が一変する。攻撃方法は先と変わらず圧投なのだが、どうにも先程より接触時間が長い。
更には一度投げた無貌の影をもう一度投げ飛ばし、今度は隅から隅まで眺めているようだ。一体何を確認すると言うのか。
「姿を真似る技か……ラーニングでコピーできるか?」
輪廻に次ぐスピードを持っている懐良もまた連続で攻撃を叩き込んでいた。先程は向かって左上からであったが、今度は右上から切り下ろす。
返して跳ね上がった腕を止めず、中心線を両断するように切り下ろしては振り上げた。
「あら、キミも姿を真似たいの? この技、プレゼントしても良いけど―――姿を真似る事はもう可能でしょう?」
懐良の呟きに、輪郭が一度ぼやけ再び御菓子の姿を取った無貌の影が楽しげに有りもしない口を開く。確かに覚者達には「変装の達人」というスキルはある。しかし何故それを知っているのか。
「いけないけない、それはいけないよ? 敵を知るのも良いけど己を知ろう。孫子もそう言っているよ」
つい、とタラサの指板を抑えたまま振られた指先の軌道をなぞるように何処からともなく水の龍が現れ、前衛の輪廻と逝を襲う。水行弐式「水龍牙」だ。
「何より、一人きりで戦うわけでもないしな」
水の龍が過ぎ去った直後、ツバメは無貌の影へと飛び込む。急激に跳ね上がる軌道が特徴的な二連撃「地烈」だが、それは軽やかなステップで射程外へと逃げられる。
「是非とも教えて頂きたい。人ならざるモノの視点なら、人に見えないものが観えるかも知れんだろう?」
フルフェイスヘルメットから水を滴らせながら逝はまたも癒力活性を使う。相応に疲弊している筈だが、問いかけが止む事は無い。
「だから、何で体をコピーする必要があるのよっ!」
と、そこに自身をコピーされて激昂した御菓子が水龍牙を叩きつける。勢いよく振られた弓が握力に負けて嫌な音を立てているのだが良いのだろうか?
「まぁ聞いた所で答える訳もなし」
頼蔵は再び連撃を無貌の影へ叩き込むが、その表情はどこか浮かない。先程から続いている逝の問いかけにすらまともな返事が無いのだ。
それでいて興味のある事柄については頼んでもいないのにベラベラと喋る辺り、無貌の影の根底に潜む悪意が見え隠れしている。
「刀を使うと見せ掛けて拳、蹴り、蹴りの三連、てねん♪」
輪廻による三連撃「白夜」が無貌の影を襲う。しかし、無貌の影もそうだったが手に持った刀を使う気配はない。何故なのだろうか。
三連撃という事もあり些か命中率は低いが、それでも外した初撃を除く二発だけでも充分な威力であった。ダメージを想像したのか、後ろで御菓子が短い悲鳴を上げていた。
「全く、顔も無い奴に兵法について言われるとはな……思考が読まれている? いや、俺もまだまだという事か」
連撃に次ぐ連撃。こちらはキチンと刀を振るう懐良だ。下段と言うよりは脇構えに近い形から刀が振るわれる。二発目は外れるが、どこか肩の力が抜けたようにも見える。
「そこだっ!」
刀の次は大鎌が奔る。ツバメの「疾風切り」が無貌の影を捉えていた。予定通りの姿をしている時に合わせて放つ事が出来たようだ。
「まあ、悪食は喰らうためにあるさね。聞けなかったなら喰えば解るかも知れんね……それは、酷く寂しい事でもあるけどね」
癒力活性で少しずつ傷を癒す逝は無貌の影の悪意に気が付いているのだろうか。いや、それすらも喰らおうとしているのか。
「そう、私は何処にでも居るし何処にも居ない。この無貌こそがその証だ。名も顔も知らぬ者はその全てが私……かもな?」
頼蔵へと姿を変えた無貌の影は前衛から潰すつもりか、逝へと斬りかかった。大きく振りかぶった切り上げが過ぎれば、眼前には黒々とした銃口が現れる。
その動きに圧投による負荷はなく、咄嗟に顔を傾けなければ逝は額を撃ち抜かれていただろう。
「みなさん、無理は禁物です。怪我したら直ぐに教えてくださいね」
似姿が居なくなった事で平静を取り戻した御菓子は、消耗した逝を癒しの滴で回復させる。
「曖昧に見えて姿が不定というだけで、目的も確固たる存在。ならば弱点もありそうなものだが……」
同じ姿になった無貌の影を炎を纏った銃弾で攻撃する頼蔵。しかし長く続く考え事が集中を乱したか、炎の弾は回避されてしまった。
「回復します、癒しの滴っ!」
立て続けに御菓子の回復術式が逝へと向かう。ここまでしてようやく逝が充分に動けるまで回復していた。
「さあ、ノっていくぞ!」
珍しくダンサーらしい発言をしたツバメの大鎌が振るわれた。炎を纏った一撃が過ぎると、反転した所で石突が槍の様に襲い来る。重量を逆手に取った連続攻撃だ。
「ホントの連撃……教えてあげるわねん♪」
そして圧倒的スピードから繰り出される輪廻の六連続攻撃。無貌の影は最初の二発は躱せたものの、三発目の蹴撃が突き刺さればもう止まらない。胸に、腹に、そして頭に連撃が叩き込まれる。
「コハ―――ッ! そう、そうよん! もっとその力を見せて!」
連撃が収まる頃には、無貌の影は再び輪廻の姿へと転じていた。その狙いはやはり逝。狙う基準こそ不明だが、実際に狙われて速度差がある以上は連撃が入れやすくなる。
だが、六発中まともに当たったのは二発のみ。残りの体力は心許ないが、強力な攻撃を見事に切り抜けていた。
「やらせるかよっ!」
猛攻を凌いだ逝のリカバーに懐良が入る。あえて一度納刀していた所からの連斬が無貌の影を深く傷つけた。
「ハァ、ハァ―――まあ、そのカタチが何であれ、殺る事は変わらない……変わらないのよ。寂しいねえ」
懐良が作った隙を見逃さずに逝は下がり、癒力活性を行う。数多の攻撃を受けて無貌の影は満身創痍ではあるが、まだまだ油断できない。
「次があるならば、招待状は郵送にしてくれ給えよ」
頼蔵は片膝を立てて腰を下ろす。更にサーベルを逆手に持ち、その柄に拳銃を乗せて安定感を持たせていた。放たれた銃弾も無貌の影へと吸い込まれていく。
「これで……トドメッ!」
三度目の正直、と言わんばかりに下段からの切り上げに首薙ぎが繋がる。
そしてそこが無貌の影の限界だったのだろう。遂に首がコロリと落ち、無貌の影は地面に倒れる。そして、溶けるように消えてなくなるのだった。
●
無貌の影が消えると同時に謎の空間も消え、覚者達は五麟大学考古学研究所一般覚者通用門へと戻って来る。
「うんうん、変わった相手だったけど今回も問題無く行けたわねん♪」
周囲を見渡し、元の場所へ帰って来れた事を確認して輪廻は大きく頷く。
「センセー、たまに変な声出してたけど大丈夫か?」
「なんだか自分が叩かれてるような気分になっちゃって……ただ、それだけのことなんだよ……ね?」
げんなりした様子の御菓子を気遣う懐良。そう言われてもその辺りは本人次第なのでどうしようもないのだが。懐良も頭を捻る。
「結局自分自身とは戦えなかったか……顔が黒い理由も解らなかったな」
「ふむ。貌か、カオだけが変わらぬ……人を真似ても其処だけが変わらぬというのは、其れが奴の奴自身なのかも知れぬな」
大鎌を担いだツバメの言に、頼蔵もようやく納得のいく答えを見つけたらしい。
「あ、向日葵ちゃん、ちょっと答え合わせさせてねん♪」
「見ーせーまーせーんー!」
所で輪廻は一体何をしているのか。御菓子のスカートの裾を摘み上げて一体何を確認しようというのか。非常に気になる所である。
「……結局、答えは解らず仕舞いかね」
はぁ、と肩を落とした逝は他の面々に続いて学園内へと踵を返す。そして覚者達が完全に校門から背を向け、
「―――いえ、いえいえ。随分と奇怪なお悩みをお持ちの様子。思わず影に徹する事を忘れてしまいました」
優しい優しい、泥の様に甘い声が聞こえてくる。
「なっ!?」
思わず振り返れば、どこにでもいるような青年が立っている。顔立ちも体格も、特徴も何も無いような青年だ。
だが、だからこそ怪しい。何も無いヒトなどいないのだ。それに今の声は女性のものだ。何だコレは。
「しかし残念力が足りぬ、我に全ては見通せぬ。何故なら我は無貌の影よ、影は現身此れを映すよ?」
覚者達が混乱している間に男は姿を変える。服はカソック、長身痩躯に黒い肌の女だ。声は老人のように掠れていく。
「どんな時でも影が体に寄り添うように、どんな過去があれども貴方は今此処に居る。私に解るのはそれだけさ」
目の前のナニカはグニャグニャと姿を変える。時に見覚えのある、時に見たくも無いような姿へ。声も、仕草も、雰囲気すら瞬きの間に。
「此の世の全てを決める事が出来るのは、全てを知る者かお兄さん自身デース。私はただの『影』なのデース」
チクタク動く歯車へ、無定形の肉の塊へ、神経質そうな研究者へ、被り物をした黒い獣へ瞬く間に変わっていく。
「流石に限界だなぁ辛いなぁ楽しいなぁ! ではこれにて終幕オメデトウ。豪華賞品サヨウナラ。最後に我が名はナイ―――あ、」
パン、と風船かシャボン玉のように弾け飛ぶ無貌の影。黒く膨れ上がったその姿には、燃えるような瞳があったような、なかったような……。
ぐにゃり、と視界が歪む。ぐるぐるぐるぐる回りに回って、気が付けばそこは見た事も無い世界。黒く、狭く、閉じた世界。
何が起こるのか身構えては居た。けれど、これは―――いや、何をそんなに怖がっている。覚者ならばこの程度の事に遭遇するのは当たり前だ。
「以前のバクみたいな夢物語かと思ったけどどうやら違うみたいねん。まっ♪ でも折角のお誘いだし、乗らないとねん♪」
不揃いな切子面を見せる黒々とした世界の中、魂行 輪廻(CL2000534)は微笑む。艶然としたその様に臆している様子は無い。
「影ならば何処にでも居るものだ。故に寝所に手紙があっても不思議は無い、至極当然の話だ」
八重霞 頼蔵(CL2000693)もまた、明滅する赤い線を見ながら呟きを口にした。ジャケットを翻し、警戒はあれど恐怖は無い。
「もしかしたら、自分と戦えるかも知れないんだな。それも面白そうだ」
背すじを伸ばした椿屋 ツバメ(CL2001351)も普段通りの振る舞いだ。変幻自在の相手であれば、その姿が自分自身を模す事もある。むしろそれを願っているのか。
「戦うのは簡単だ。勝つことも、敵を侮る気は無いが、すべき事をして成すべき事を成せば百戦危うからずだろう」
坂上 懐良(CL2000523)の発言もその情報を知っての事だ。自身の事は知っている。仲間についても知っている。ならば勝てる、と。
「なんだか以前にも同じような仕事したな……お願いですから、輪廻さん。私に化けても調べないで下さいね」
「えー、どうしようかしらん♪」
一人後方で記憶を辿るのは向日葵 御菓子(CL2000429)である。同様の敵と相対した経験が余裕を持たせているのだろう。
「………。」
そして、常であれば誰よりもペースを崩さないであろう緒形 逝(CL2000156)だけは言葉を発する事なく、眼前の人影を捉えていた。
その眼には、いつになく強い光が灯っている。
●
「ふふ……始めましょう! 楽しい愉しいパーティーの始まりよん!」
笑っている。輪廻の姿を模し、火行弐式「灼熱化」によって生じた熱量によって着物を翻し、無貌の影が顔も無いのに嗤っている。
「敵の思惑に探りを入れねば、意味もあるまい。いやまさか思考パターンもコピーしてくるんだろうか。そうなると、これ以上考え続けるのも問題か……?」
懐良は手早く思考を纏め、腰に提げた「相伝当麻国包」に手をかける。そのまま腰の捻りを利用し一閃、更に刃を返す。二連撃を行う体術「飛燕」を居合いの形で放った。
「あら、真似されちゃったわねん。さてさて、どうなるか……楽しみねん♪」
姿を映し取られ、更に行動を先取りされながらも輪廻は表情を崩さない。鏡映しの様に灼熱化を使い、自身の強化を図る。
「自分の力量が、どれ程のものなのかも知りたいしな」
ツバメも続くように火行壱式「醒の炎」を使う。灼熱化に比べれば強化の度合いが大人しいが、その分デメリットも存在しない使い勝手のいい術式である。
「……1つ、お宅に聞きたい事が有るのよ。ずうっと考えてても答えが出なくてね。姿形とかは如何でも良いから教えておくれ」
降ろしていた腕に徐々に力が入り、やがて逝は地面を踏みしめる。その周囲の地面が土でも無いのに捲り上がり、逝の体を覆っていく。自己強化を行う土行弐式「蔵王・戒」だ。
「前のときも言ったけど、顔はコピーしないのに、なんでスタイルはコピーしてるんだろ?」
一方、御菓子は掲げた片手の先に水球を生み出し、そこからほどけるように伸びたベールを覚者達へと被せていく。こちらは水行弐式「海衣」である。
「問題は奴と遊ぶ理由も何も覚えが無いことだが……面白そうな状況ではあるから、まぁいいか」
強化を受け、炎を纏ったサーベルを振るう頼蔵。しかしその一撃は空を切り、無貌の影を怪しく照らすだけに留まった。
「招待客をもてなすのが主催者の役割だろう? 腹割って話してもらおうか」
懐良が再び刀を振るも、無貌の影は軽く下がる事で完全に間合いから外れてしまう。切り上げから頸を狙うおうとも、当たらなければ意味は無い。
「姿を替えぬもまた一興、さぁて次は何になるかしらぁん?」
しかし無貌の影は下がったと思えば飛び込んでくる。狙いは逝。顎を掠める拳は躱したものの、続いて跳ね上げられた脚が連続で弾けるような音を立てる。
仰け反った逝は更なる追撃を半ば意地で避けるが、フック、足払いと立て続けの攻撃からの回し蹴りはどうにもならない。直撃である。
「ぐっ……皆が見てるおっさんは幽霊なんだ。事情は省くがどういう訳か、とうの昔に死んでいたのさね。立派な墓も在った」
連撃を受けた逝は「癒力活性」で体力の回復を図る。他の覚者達もついでに回復するが、逝が受けたダメージはまだまだ残っていた。
「回復担当は居るから大丈夫だとは思うけど保険にねん♪」
未だ傷の深い逝に続き、輪廻も癒力活性で体力を回復させる。輪廻の姿を模しているだけはあると言う事か、半数を外してこの威力である。
「誰であろうと全力で倒すだけだ」
ここでツバメが額に開いた第三の眼から「破眼光」を発射する。当たり所が良かったのか、無貌の影はビクリと大きく震えていた。
「ほんとさ、能力のコピーは分かる……いや、それもどうやって分かるのかなって謎なんだけどね……」
御菓子はため息交じりにそう言うと右手に持っていたタラサの弓を軽く振るい、覚者達の頭上から水の塊を落とす。
水行弐式「超純水」である。術式により作られた水はすぐに蒸発するが、灼熱化で上気した輪廻の肌に艶が加わり非常に蠱惑的な姿へとなっていた。
「無貌、カオなし。だが本当にそうなのだろうか」
疑問を纏めながら攻撃を行う頼蔵だが、それは再び躱される。輪廻の身軽さそのままの無貌の影は攻撃を当てるのも一苦労である。
「倒れなさいなっ!」
輪廻は立ち振る舞いまで瓜二つの無貌の影へ掴みかかり、長時間衝撃を残して動きを制限する投げ「圧投」を仕掛ける。
が、習得している者の姿を取っているからだろうか。投げ飛ばされた無貌の影はその勢いのままに立ち上がる。動きの制限は失敗したようだ。
「これはパーティなんだろ? なら、それに全てを賭け、今出来る俺の最高の技を繰り出すのみだ」
構えを正眼に戻した懐良が三度斬りかかる。間合いの把握しやすい構えではあるが、踏み込みが甘かったのか袈裟懸けの一撃は外れてしまう。
しかしそこから一歩踏み込むと同時に手首を返した切り上げは、輪廻を模した豊満な肉体に見事に切創を加えていた。
「臆せず、どんな状況でも楽しんで戦えば、悪い結果にはならないだろう」
火行壱式「炎撃」によって燃え盛る「大鎌・白狼」が無貌の影を捉える。炎は瞬く間に皮膚を焦がし、肉の焼ける臭いを周囲へ充満させていった。
「それにもまして、スタイルはさ、戦闘に必要ないじゃない? なんでコピーしてるの? 顔と同じでただの人型でいいじゃない……ね?」
ぼやきながら逝へ水行壱式「癒しの滴」で回復を行う御菓子。やはり経験者としての余裕があるのだろうか。
「―――ふふっ、そんなにお気に召しませんか? 成程御立派な物をお持ちで……」
しかしそんな余裕を見せたせいか、無貌の影は御菓子へと姿を変える。顔は相変わらずの黒塗りだが、それを除けば見分けるのは至難の業である。
更には先程の破眼光で掛かった呪いは残っている様子は無い。火傷は残っているが、無貌の影はそれも気にせず自身に海衣を使う。
「……なあ、此処に居るのは誰なんだ? 故人でもなければ幽霊でもない、『これ』はいったい何かね」
逝の独白は続く。その間も圧投をかけようと手を伸ばすが、御菓子とて後衛型とは言え歴戦の覚者である。逝の手をヒラリと避けた。
「招待したからには目的があり、理由もある。遊ぶ、が其れにあたるのだろうが」
無貌の影が御菓子に姿を変えた事で攻撃方法を飛燕に切り替えた頼蔵は、サーベルの刃を無貌の影へと叩き込む。そこに追撃の銃弾も加え、着実にダメージを与えていった。
「以前は偽物がしっかりコピー出来てるか確認出来なかったから……今回はちゃんと確認しなきゃねん♪」
と、何やら輪廻の様子が一変する。攻撃方法は先と変わらず圧投なのだが、どうにも先程より接触時間が長い。
更には一度投げた無貌の影をもう一度投げ飛ばし、今度は隅から隅まで眺めているようだ。一体何を確認すると言うのか。
「姿を真似る技か……ラーニングでコピーできるか?」
輪廻に次ぐスピードを持っている懐良もまた連続で攻撃を叩き込んでいた。先程は向かって左上からであったが、今度は右上から切り下ろす。
返して跳ね上がった腕を止めず、中心線を両断するように切り下ろしては振り上げた。
「あら、キミも姿を真似たいの? この技、プレゼントしても良いけど―――姿を真似る事はもう可能でしょう?」
懐良の呟きに、輪郭が一度ぼやけ再び御菓子の姿を取った無貌の影が楽しげに有りもしない口を開く。確かに覚者達には「変装の達人」というスキルはある。しかし何故それを知っているのか。
「いけないけない、それはいけないよ? 敵を知るのも良いけど己を知ろう。孫子もそう言っているよ」
つい、とタラサの指板を抑えたまま振られた指先の軌道をなぞるように何処からともなく水の龍が現れ、前衛の輪廻と逝を襲う。水行弐式「水龍牙」だ。
「何より、一人きりで戦うわけでもないしな」
水の龍が過ぎ去った直後、ツバメは無貌の影へと飛び込む。急激に跳ね上がる軌道が特徴的な二連撃「地烈」だが、それは軽やかなステップで射程外へと逃げられる。
「是非とも教えて頂きたい。人ならざるモノの視点なら、人に見えないものが観えるかも知れんだろう?」
フルフェイスヘルメットから水を滴らせながら逝はまたも癒力活性を使う。相応に疲弊している筈だが、問いかけが止む事は無い。
「だから、何で体をコピーする必要があるのよっ!」
と、そこに自身をコピーされて激昂した御菓子が水龍牙を叩きつける。勢いよく振られた弓が握力に負けて嫌な音を立てているのだが良いのだろうか?
「まぁ聞いた所で答える訳もなし」
頼蔵は再び連撃を無貌の影へ叩き込むが、その表情はどこか浮かない。先程から続いている逝の問いかけにすらまともな返事が無いのだ。
それでいて興味のある事柄については頼んでもいないのにベラベラと喋る辺り、無貌の影の根底に潜む悪意が見え隠れしている。
「刀を使うと見せ掛けて拳、蹴り、蹴りの三連、てねん♪」
輪廻による三連撃「白夜」が無貌の影を襲う。しかし、無貌の影もそうだったが手に持った刀を使う気配はない。何故なのだろうか。
三連撃という事もあり些か命中率は低いが、それでも外した初撃を除く二発だけでも充分な威力であった。ダメージを想像したのか、後ろで御菓子が短い悲鳴を上げていた。
「全く、顔も無い奴に兵法について言われるとはな……思考が読まれている? いや、俺もまだまだという事か」
連撃に次ぐ連撃。こちらはキチンと刀を振るう懐良だ。下段と言うよりは脇構えに近い形から刀が振るわれる。二発目は外れるが、どこか肩の力が抜けたようにも見える。
「そこだっ!」
刀の次は大鎌が奔る。ツバメの「疾風切り」が無貌の影を捉えていた。予定通りの姿をしている時に合わせて放つ事が出来たようだ。
「まあ、悪食は喰らうためにあるさね。聞けなかったなら喰えば解るかも知れんね……それは、酷く寂しい事でもあるけどね」
癒力活性で少しずつ傷を癒す逝は無貌の影の悪意に気が付いているのだろうか。いや、それすらも喰らおうとしているのか。
「そう、私は何処にでも居るし何処にも居ない。この無貌こそがその証だ。名も顔も知らぬ者はその全てが私……かもな?」
頼蔵へと姿を変えた無貌の影は前衛から潰すつもりか、逝へと斬りかかった。大きく振りかぶった切り上げが過ぎれば、眼前には黒々とした銃口が現れる。
その動きに圧投による負荷はなく、咄嗟に顔を傾けなければ逝は額を撃ち抜かれていただろう。
「みなさん、無理は禁物です。怪我したら直ぐに教えてくださいね」
似姿が居なくなった事で平静を取り戻した御菓子は、消耗した逝を癒しの滴で回復させる。
「曖昧に見えて姿が不定というだけで、目的も確固たる存在。ならば弱点もありそうなものだが……」
同じ姿になった無貌の影を炎を纏った銃弾で攻撃する頼蔵。しかし長く続く考え事が集中を乱したか、炎の弾は回避されてしまった。
「回復します、癒しの滴っ!」
立て続けに御菓子の回復術式が逝へと向かう。ここまでしてようやく逝が充分に動けるまで回復していた。
「さあ、ノっていくぞ!」
珍しくダンサーらしい発言をしたツバメの大鎌が振るわれた。炎を纏った一撃が過ぎると、反転した所で石突が槍の様に襲い来る。重量を逆手に取った連続攻撃だ。
「ホントの連撃……教えてあげるわねん♪」
そして圧倒的スピードから繰り出される輪廻の六連続攻撃。無貌の影は最初の二発は躱せたものの、三発目の蹴撃が突き刺さればもう止まらない。胸に、腹に、そして頭に連撃が叩き込まれる。
「コハ―――ッ! そう、そうよん! もっとその力を見せて!」
連撃が収まる頃には、無貌の影は再び輪廻の姿へと転じていた。その狙いはやはり逝。狙う基準こそ不明だが、実際に狙われて速度差がある以上は連撃が入れやすくなる。
だが、六発中まともに当たったのは二発のみ。残りの体力は心許ないが、強力な攻撃を見事に切り抜けていた。
「やらせるかよっ!」
猛攻を凌いだ逝のリカバーに懐良が入る。あえて一度納刀していた所からの連斬が無貌の影を深く傷つけた。
「ハァ、ハァ―――まあ、そのカタチが何であれ、殺る事は変わらない……変わらないのよ。寂しいねえ」
懐良が作った隙を見逃さずに逝は下がり、癒力活性を行う。数多の攻撃を受けて無貌の影は満身創痍ではあるが、まだまだ油断できない。
「次があるならば、招待状は郵送にしてくれ給えよ」
頼蔵は片膝を立てて腰を下ろす。更にサーベルを逆手に持ち、その柄に拳銃を乗せて安定感を持たせていた。放たれた銃弾も無貌の影へと吸い込まれていく。
「これで……トドメッ!」
三度目の正直、と言わんばかりに下段からの切り上げに首薙ぎが繋がる。
そしてそこが無貌の影の限界だったのだろう。遂に首がコロリと落ち、無貌の影は地面に倒れる。そして、溶けるように消えてなくなるのだった。
●
無貌の影が消えると同時に謎の空間も消え、覚者達は五麟大学考古学研究所一般覚者通用門へと戻って来る。
「うんうん、変わった相手だったけど今回も問題無く行けたわねん♪」
周囲を見渡し、元の場所へ帰って来れた事を確認して輪廻は大きく頷く。
「センセー、たまに変な声出してたけど大丈夫か?」
「なんだか自分が叩かれてるような気分になっちゃって……ただ、それだけのことなんだよ……ね?」
げんなりした様子の御菓子を気遣う懐良。そう言われてもその辺りは本人次第なのでどうしようもないのだが。懐良も頭を捻る。
「結局自分自身とは戦えなかったか……顔が黒い理由も解らなかったな」
「ふむ。貌か、カオだけが変わらぬ……人を真似ても其処だけが変わらぬというのは、其れが奴の奴自身なのかも知れぬな」
大鎌を担いだツバメの言に、頼蔵もようやく納得のいく答えを見つけたらしい。
「あ、向日葵ちゃん、ちょっと答え合わせさせてねん♪」
「見ーせーまーせーんー!」
所で輪廻は一体何をしているのか。御菓子のスカートの裾を摘み上げて一体何を確認しようというのか。非常に気になる所である。
「……結局、答えは解らず仕舞いかね」
はぁ、と肩を落とした逝は他の面々に続いて学園内へと踵を返す。そして覚者達が完全に校門から背を向け、
「―――いえ、いえいえ。随分と奇怪なお悩みをお持ちの様子。思わず影に徹する事を忘れてしまいました」
優しい優しい、泥の様に甘い声が聞こえてくる。
「なっ!?」
思わず振り返れば、どこにでもいるような青年が立っている。顔立ちも体格も、特徴も何も無いような青年だ。
だが、だからこそ怪しい。何も無いヒトなどいないのだ。それに今の声は女性のものだ。何だコレは。
「しかし残念力が足りぬ、我に全ては見通せぬ。何故なら我は無貌の影よ、影は現身此れを映すよ?」
覚者達が混乱している間に男は姿を変える。服はカソック、長身痩躯に黒い肌の女だ。声は老人のように掠れていく。
「どんな時でも影が体に寄り添うように、どんな過去があれども貴方は今此処に居る。私に解るのはそれだけさ」
目の前のナニカはグニャグニャと姿を変える。時に見覚えのある、時に見たくも無いような姿へ。声も、仕草も、雰囲気すら瞬きの間に。
「此の世の全てを決める事が出来るのは、全てを知る者かお兄さん自身デース。私はただの『影』なのデース」
チクタク動く歯車へ、無定形の肉の塊へ、神経質そうな研究者へ、被り物をした黒い獣へ瞬く間に変わっていく。
「流石に限界だなぁ辛いなぁ楽しいなぁ! ではこれにて終幕オメデトウ。豪華賞品サヨウナラ。最後に我が名はナイ―――あ、」
パン、と風船かシャボン玉のように弾け飛ぶ無貌の影。黒く膨れ上がったその姿には、燃えるような瞳があったような、なかったような……。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
『悪意に打ち勝ちし者』
取得者:椿屋 ツバメ(CL2001351)
『悪意に打ち勝ちし者』
取得者:緒形 逝(CL2000156)
『悪意に打ち勝ちし者』
取得者:八重霞 頼蔵(CL2000693)
『悪意に打ち勝ちし者』
取得者:魂行 輪廻(CL2000534)
『悪意に打ち勝ちし者』
取得者:坂上 懐良(CL2000523)
『悪意に打ち勝ちし者』
取得者:向日葵 御菓子(CL2000429)
取得者:椿屋 ツバメ(CL2001351)
『悪意に打ち勝ちし者』
取得者:緒形 逝(CL2000156)
『悪意に打ち勝ちし者』
取得者:八重霞 頼蔵(CL2000693)
『悪意に打ち勝ちし者』
取得者:魂行 輪廻(CL2000534)
『悪意に打ち勝ちし者』
取得者:坂上 懐良(CL2000523)
『悪意に打ち勝ちし者』
取得者:向日葵 御菓子(CL2000429)
特殊成果
『青銅枠の手鏡』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員

■あとがき■
・いあ! いあ!
