織物を天に向かって捧げよう
織物を天に向かって捧げよう


●棚機津女信仰
 七夕。
 その起源は諸説色々あるが、その中に中国の行事だった『七夕』が、が日本の女性が織物をする『棚機女』と合わさったというものがある。
 天から降りてくる水神に捧げる布を、穢れを知らない女性が織るという伝承だ。七夕伝説の織姫と棚機女が融合し、今の形になったという。
 そして時を経て、祭の形は変わる。それが時代というもの。だが温故知新。古きを知りて新しきを知るという風習も、日本の在り方だ。
 そしてそのような風習を受け継いでいる神社があった。

●FiVE
「という神社があるのですが」
『安土村の蜘蛛少年』安土・八起(nCL2000134)は集まった覚者達を誘うように告げた。
「山の上の神社で行われている七夕のお祭りなんですけど、そこに『棚造りの小屋』っていうのがあります。そこで機織ができるとか。
 女性推奨だけど、男性でもいいみたいです」
 これも時代の流れである。
「別に機織をしなくても普通に夜空を見るのもいいですし、短冊に願いを書いてもいいと思います」
 夢見天気予報では、その日は雲一つなく満天の星が見えるという。
 戦いの最中の休息。英気を養うのも重要だろう。
「お暇なら楽しみませんか?」


■シナリオ詳細
種別:イベント
難易度:楽
担当ST:どくどく
■成功条件
1.七夕を楽しむ
2.なし
3.なし
 どくどくです。
「古事記にもそう書かれている。平安時代のST、ドクドクの言葉である」

●説明っ!
 場所は山の上にある神社。そこは古くから七夕の際に『棚機女』と呼ばれる機織を行っていた。
 水神に捧げる織物を織る『棚機女』。実際に織物を完成させる必要はなく、どちらかというと機織り機の練習教室みたいなところがあります。織物をする人は、『棚』と呼ばれる少し高い場所にある小屋で、織物をします。
 それ以外にも、短冊に願いを書いたり夜空を見たりと静かに七夕を楽しむことができます。なお食べ物を持ってきたり騒いでもいいですが、神社内は禁酒禁煙です。

 行動は主に三種類です。その他があれば【4】でお願いします。
 プレイングの頭か、EXプレイングに番号を付けてください。

【1】織物をする:『棚』に籠って織物をします。
【2】夜空を見る:天の川や牽牛星や織女星などを見ます。
【3】星に願いを:短冊に願いを書きます。

●NPC
『安土村の蜘蛛少年』安土・八起(nCL2000134)
 田舎から出てきた少年覚者です。基本的に【2】で星を見ています。ですが、呼ばれればどこにでも行きます。

●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】という タグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。

 皆様のプレイングをお待ちしています。  
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
(1モルげっと♪)
相談日数
8日
参加費
50LP
参加人数
30/∞
公開日
2016年07月23日

■メイン参加者 30人■

『居待ち月』
天野 澄香(CL2000194)
『涼風豊四季』
鈴白 秋人(CL2000565)
『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)
『聖夜のパティシエール』
菊坂 結鹿(CL2000432)
『囁くように唄う』
藤 壱縷(CL2001386)
『獣の一矢』
鳴神 零(CL2000669)
『桜火舞』
鐡之蔵 禊(CL2000029)
『在る様は水の如し』
香月 凜音(CL2000495)
『想い重ねて』
蘇我島 燐花(CL2000695)
『使命を持った少年』
御白 小唄(CL2001173)
『一縷乃』
冷泉 椿姫(CL2000364)
『落涙朱華』
志賀 行成(CL2000352)
『弦操りの強者』
黒崎 ヤマト(CL2001083)
『Queue』
クー・ルルーヴ(CL2000403)


 神社の境内にある『棚』と呼ばれる建物。地面より高い場所にあるのは、神様に捧げる為だとか。そういう意味では神棚と変わりない。
 水神に捧げる為に機織りをする穢れなき乙女。今年の七夕も多くの参加者がやってきた。
「……穢れを知らないというのが、少し気になりますけれど」
 不満を声に乗せつつ里桜が機織り機に座る。女性と穢れは良く結び付けられる。神道の『穢れ』は出産に至るまでの出血なども含まれる為、致し方ないのである。まあその、女性蔑視の考えがないとは言い切れないのも確かなわけで。閑話休題。
 説明を聞いて、最初は不慣れだった里桜も、少しずつ効率よく機を織れるようになってきた。最初に出来た者はガタガタだったが、それもすぐに整った織物が作り出せるようになってくる。
「機織りって一度やってみたかったんです」
 話を聞いた澄香は、笑顔で参加を決めた。七夕の織姫と彦星の伝承を思い出しながら、機を織る。一年に一度しか恋人に会えない織姫。彼女は大事な人の事を思って機を織ったのだろう。
(いつも気に掛けてくれる優しい叔父様と叔母様、元気な従兄弟、友人達、そして……家族同然に大切にしてくれるお世話になりっぱなしの弁護士さん)
 機織り機を動かしながら、澄香は自分の身の回りに居る大事な人の事を思って動かしていた。そしてそれは今はいない両親への思いも込めて。彼らの為に一つずつ、丁寧に糸を交差させていく。
「まぁ、綺麗には出来ないよね」
 出来上がったものを見ながら、禊はため息をついた。昔ながらの伝統の方法で七夕を迎えることができる。そう聞いてやってきた禊だが、機織りは初めてだ。上手く作れなかった物を見て、あちゃーと頭を掻いた。
「でもでも! こういうのは気持ちが大事だっていうからね! うん!」
 だが落ち込まない。奉納するという気持ちを大事にして、新たに織り始める禊。大事なのは気持ち。だけど次にこういう機会があるなら、少しだけでも良いから上手くなって、ちゃんとしたものを奉納したいな。そう思い、足を動かしていく。
「機織りは初めてだけど、リズムは音で聞いたからなんとかなるんじゃないかな?」
「お姉ちゃんらしい覚え方だね」
 指をした唇に当てて思案する御菓子に結鹿が笑いかける。周りで機を織っている人達の『音』を聞き、その音に合わせるように機を織っていく。足を使って動かす機織り機は、楽器で言うとピアノに近いのだろう
「このリズムが出ていれば、たぶん出来ているはず……だよね?」
 慣れぬ手先で機織りを続ける御菓子。だが動きは少しずつリズムを刻む。単調だが心地良い音。その音に合わせるように糸を通し、機を織っていく音を楽しむという意味では、確かに彼女は音楽教諭だ。
「そういえば、機織唄があったよね。このリズムに合わせたやつ」
「機織唄?」
「稲刈りとか酒造りとか茶摘唄もそうだけど、歌と仕事の中に祈りが込められてるのよ」
 問い返す結鹿に機を織りながら答える御菓子。
「へー。どんな唄なの?」
「後で教えてあげるね。慣れてない私が唄を歌うと、唄に引きづられて仕事に身が入らなくなりそうだし」
 苦笑する御菓子。そんな姉を見ながら結鹿は作業を続ける。家事が得意な結鹿は、コツをつかんだのか慣れた動きで織物を続けていく。織物そのものより『姉と同じことをしている』ほうが嬉しいのは、敢えて口に出さない。
「よし、もう少し頑張ろう」
 自分自身に活を入れて結鹿は作業を再開する。姉のリズムに合わせて、唄う様に。
「棚機津女信仰……。面白いわね」
 話を聞いた椿は、友人の灯を誘って神社にやってきた。
「天から降りてくる水神様……椿さんの事ですね。なるほど、だから水行で翼の因子だったのですね」
 と、妙な納得をしながら灯も一緒に機を織る。二人は並んで機を織っていた。
(折角だし……灯の為に作りたいわね。いつもとてもお世話になっているし)
(水神様に捧げるように、椿さんに織物を捧げましょう)
 と、二人とも互いに捧げるつもりで織物を始める。相手がどのような物が似合うかを創造しながら糸を紡いでいく。
(灯のイメージで作るなら蒼とそれに紫の花かしら)
 蒼と紫の糸を手にして、花を作るにはどうしたらいいかを講師に尋ねる椿。この時期の紫なら紫陽花か。小さな花弁を沢山咲かせている完成品をイメージして、機織りを動かしていく。
(ですが、困りました……私に椿さんに相応しい布が織れるでしょうか)
 むぅ、とうなりながら機織り機を動かす灯。周りの人の動きや織り方を参考にしながら、椿の為に機を織る。重要なのはその心。誰かの為に作りたいという心は、技術とは別の方向で何かを生み出す力になる。
「まあ、これを私に。ありがとう、灯」
「椿さんこそ、ありがとうございます」
 互いの作った物を交換し、身につける二人。それを見せないながら、花を咲かせていた。
「貴方のような貧弱赤もやしでも、猫よけのペットボトルよりは役に立つでしょうから」
「誰が赤もやしだよ! ペットボトルよりは役に立つさ」
 と会話をしながら奈那美とジャックが神社にやってくる。奈那美は機織りの話を聞いてやってみようと思ったのだが、夜道は危険という理由で誰かに同伴を求めたのだが、そこにやってきたのがジャックである。
「俺だって別に年下の女の裸見たくてセーラー服脱いでなんて言った訳じゃないんよ?」
「貴方は本当に最低ですね」
 この二人の間にどのような出会いがあったのか。ともあれそんな雰囲気を保ちながら『棚』に入る。
「所でお前の名前なんだっけ? 真っ黒黒娘! 俺は因幡かい……じゃなくて、切裂ジャック!」
「ああ、倫敦の」
「違うから! 切り裂いたりしないから!」
 思わず本名を言いかけたジャック。それを知ってか知らずか冷静に受け流す奈那美。
(あまり難しいものは作れませんから……ところで『これ』はどうしましょう? そうだ……)
 奈那美はできた手ぬぐいをジャックの首に巻く。念入りに。
「捨てるのも勿体無いので、貴方にあげますわ」
 暑い夜に体内の熱を逃がさないように念入りに巻き付けた手ぬぐい。それを好意と受け取ったのか、ジャックは持っていた夏椿の花を髪の毛に刺した。
「お、サンキュ! まだ冷えるときもあるしな。大事にするよ!」
 知らぬは本人ばかりのみ、である。


 満天の星空。川のように星が連なることから『天の川』という名称がついた七夕の星々。
 暗闇の中に光るそれらの星々は、小さくしかし確かにその存在を示していた。黒と白の幻想的な風景は、吸い込まれそうなほど美しく、そして儚い。
「あー、あれが夏の大三角形……か? で、あっちがえーっとオリオン……あれ、オリオンて冬の星座?」
 そんな星々を見上げながら、刀嗣は学校の授業で習った星座を思い出していた。星を見るのは嫌いではないが、星座自体の記憶はあまりない。持ってきた図鑑を閉じて、草むらの上に背中から倒れ込む。
「あー、やめだやめだ。似合わねえし、楽しくもねぇ」
 飽きた、とばかりに息を吐くが星を見る事だけはやめない。剣に生きてきた刀嗣は、ある戦いに負けて弛緩していた。こうして星を見て、美しいと思う余裕すらなかったのかもしれない。それが敗戦により逆に周りが見えるようになっていた。程よく襲ってきた睡魔に身を任せて、目を閉じる。
「こういうのも、たまにはいいや……寝る」
「あそこがこと座で、一等星のベガが織姫星と呼ばれている」
 行成は守護使役の『もちまる』を抱えて、夜空を見ていた。もちまるに説明するように喋りながら、星を指差していた。もちまるは説明されるたびに体を揺らし、言葉なく行成の説明に応えていた。
「やはりここまでくると、星がきれいだな」
 市街地の光に邪魔されない神社。そこから見上げた星々は圧巻の一言だった。その雄大さに心奪われ、行成はもちまると二人地面に転がった。眼鏡をはずし、夜の帳を見上げるように横たわる。
「……こら。見えないんだが」
 そんな主の顔の上にのるもちまる。嬉しそうに、もちもちと揺れていた。
「皆、お願いするものは決まったか? 星座は、夏だとえーと、大三角があったかな?」
「彦星のアルタイル、織姫のベガ、白鳥座のデネブで夏の大三角形になるんだよね! 授業で習った!」
「夏だと、さそり座とかあったな! 赤いアンタレスの所!」
「あちらに流れ星が見えました!」
 フィオナ、奏空、ヤマト、たまきの【夏星】四人は境内に座って星空観賞会を行っていた。夏の大三角を基本として、十字型に写る白鳥座。彦星から伸びるわし座に、織姫から伸びるヘラクレス座、知っている知識をワイワイ喋りながら、星空を見る。
(こうして皆さんと誘い合って観る星空はいつもよりも、より輝いて見えます……)
 年齢の近い者同士でこうやって楽しく話をする。その当たり前ともいえる日常を、たまきは美しく感じていた。今日という日があれば、この星空を思い出せば、どんな困難でも乗り越えられる。そんな気がしていた。
「ファイブに来て、楽しい事悲しい事辛い事いろいろあったけどこれだけは言えるよ。皆に会えて良かった」
 言ってから照れるように顔を逸らす奏空。だが、心からの言葉だった。それをからかう者はいない。それは皆が同じ気持ちだからだ。けして安楽な道ではないけど、皆がいるから戦える。皆がいるから進んでいける。それは確かだ。
「何も分からないまま覚えていないままここに来てちょっと不安だったけど、皆と友達になれて良かった。ありがとう!」
 奏空の言葉にフィオナは力強く頷いた。因子発現前の記憶がほとんどないフィオナからすれば、それ以前の友人の記憶もない。FiVEの絆だけが唯一だったのだ。だから友達と言える存在は頼もしい。笑顔と共に感謝の言葉を告げる。
「……そうだな。ありがとう」
 ヤマトは瞳を閉じ、礼を言う。心の整理や覚悟が揺らいでいたのを察して、こういうお祭りに誘ってくれたのだろう。その気持ちは無駄にはできない。笑みを浮かべれば、それだけで気持ちが楽になった。向き直る勇気を得て、気分が軽くなる。
「ああ、そうだ! 天堂と賀茂も名前で呼んでいいかな? 友達は名前で呼びたいしさ」
「勿論です、ヤマトさん!」
「勿論! 私の事はフィーとでも呼んでくれ!」
 ヤマトの言葉に快く頷くたまきとフィオナ。
「これからもよろしくな、たまき! フィー!」
「名前で呼ばれると嬉しいですね」
「君達に何かあった時は、絶対すぐに飛んでいくから! 友達だから!」
 そんな光景を見ながら奏空は、改めてFiVEに来てよかったと思いなおした。人の生き死やみにくい部分を見ることになるが、それでも仲間と一緒なら乗り越えられる。
(この手で守れるものは守りたい……!)
 星空に手を伸ばし、広げる。この手で守れるのなら、守ろう。星空に静かに誓うのであった。

「えへへー、二人でこんな星の綺麗な夜に一緒で嬉しいなあ」
「……ぉー…。星綺麗、だね。俺、も。一緒、楽しい。嬉しい。うん、嬉しい」
 零と明夜は二人で星の天幕を見上げていた。子供のようにはしゃぐ零と、どこか呆然とした明夜。対照的な二人は、久しぶりに出会った事もありいろいろ話に興じていた。今まで何をしていたのかとか、これまで何があったのかとか。
 そして話は自然と、七夕の事にシフトする。
「織姫様も彦星様も一年に一度しか会えないって、可哀想だよね。好きな人となら、やっぱりずっと一緒にいたいもん」
「ん、そうだね。好きな人とは、一緒に、居たい」
 明夜は言いながら零の方を見る。好きという感情はよくわからない。だが、その気持ちはわかる。好きな人とはいっしょに居たい。そう思う気持ちは今強く感じていた。
「ね、明夜くんは好きな人とかいる?」
「好きな人、とか、は。よく分からない? かな? うん、よく分からない」
 この気持ちの正体はまだわからない。明夜の中に生まれたほのかな感情。だけどそれは確かに存在していた。
 はしゃぐ零の横顔を見ていた明夜は、気が付けば零の手を握っていた。機械の手は冷たく硬いけど、それを優しく包むように指を添え、きゅ、と握りしめる。
「はわわ、鳴神の手、機械だから冷たいっていうか、その」
 暖かく手を握られ、零は慌てて取り繕う。だけど明夜の温もりを手放すつもりはなかった。気が付けば、優しくほほ笑んでいる自分に気づく。
 星は静かに二人を照らしていた。
「見事な星空だな」
「そ、そうだな。きれいなんだな」
 凜音と椿花は境内を歩きながら星を見上げていた。どこか座れる場所はないかと探す凜音。その瞳は何処かよそよそしい動きをする椿花を捕らえる。元々元気で良く動く椿花だが、今日の動きはいつものそれとは違う。
「お前、なんでそんなそわそわしてんの?」
「別にそわそわなんてしてないんだぞ! 早くお星様を見たいだけなんだな!」
「分かった分かった。ってちょっと待て。いきなり寝転がろうとするな」
 寝転がろうとする椿花を制して、自分のパーカーを脱いで床に敷く凜音。椿花はパーカーの上にごろん、と寝転がる。
「凜音ちゃん、ありがとー!」
「髪も服も汚さないようにな」
 その隣に座り、星空を見上げる凜音。二人はそのまま星空を見上げていた。
「そういえば、凜音ちゃん、これ!」
「なんだこれ? ……菓子?」
「お母さんと一緒に、椿花が作ったんだぞ!」
 少し形の崩れたカップケーキを凜音に差し出す椿花。強気を保っているが、内心は食べた後の感想に怯えていた。美味しいと言ってくれるだろうか。不安で胸が押しつぶされそうだった。
「頑張って作ったんだな」
 頭を撫でてからカップケーキを口に入れる凜音。食感は素直に言えば不満があったが、それを顔に出さずに飲み込んだ。
「美味いよ。さんきゅな」
 その言葉に微笑む椿花。その笑顔は、満天の星々とは違う美しさがあった。
「うわぁー! すっごーい、綺麗ー!」
「あれが彦星です。そしてあちらに光る星が織姫。そしてその隣に――」
 小唄とクーの【星狐】は望遠鏡を用意して星空観察を行っていた。クーが小唄に星座の事を教え、望遠鏡を使ってそれを観察する。望遠鏡で拡大された星々を見て、小唄は大声をあげていた。
「望遠鏡で星空を見るのって、すごくテンション上がりますよね!」
 普段見ている物を別視点で見る。それは新たな発見だった。知識として知っている星々も、こうやって自分の目で見ることで感動という経験になる。最初は教えられるままだった小唄も、その内自分で星を探すようになっていた。
「小唄さん、聞いてますか?」
 熱中する小唄の隣で、クーが問いかける。返事のない小唄に、小さく肩をすくめてため息をついた。その姿は微笑ましくもあるが、置いてきぼりにされて少し寂しくもあった。大きく揺れる尻尾に悪戯したくなる。
(……まあ、いいです。今はこの時間を楽しみましょう)
 何故そんな気持ちになるのか。クーは自分の気持ちを思い返す。気づくと星々に嫉妬しているように、気づくと小唄の横顔を見て安堵する自分がいた。我知らず、尻尾が左右に揺れていた。
「星空ってすっごく綺麗ですねー、クーせんぱ……あ」
 望遠鏡から目を離してクーの方を見る小唄。その顔は普段見るクーの顔とは違い、微笑んでいる様に見えた。先ほどまで見た星空よりも、その笑顔に見入ってしまう。綺麗、と口にしそうになって、すんでの所で口を止めた」
「七夕か……興味は無いが、せめて星空でも眺めてさっさと帰るとするか」
 七夕や機織りにあまり興味がない両慈は、喧騒から避けるように夜道を歩いていた。ここまで来たのだから星ぐらいは見て帰るか、等と思っていた所に知り合いの顔を見た。白いワンピースを着た、猫の獣憑。
「こんばんは……です」
 どこかよそよそしく頭を下げる燐花。親類から送られたワンピース。一度も着ないというのは流石に義に反すると思い、しかし着慣れない物を着て歩くのは恥ずかしい。そんな所を知り合いに見られたのだ。挨拶もぎこちなくなる。
「驚いたな。普段はそんな格好をしていなかったので、誰か解らなかったぞ」
「申し訳ありません……」
「あ、いや変という事はない。むしろ似合ってるぞ。もっとそう言った格好をしても良いのではないか? 可愛らしいぞ」
 落ち込む燐花に、誤解を解くように微笑む両慈。
「滅相もない……ですが、ありがとうございます」
 燐花は容姿に関する自覚がないのか、可愛らしいと言われても納得はできない。だが、両慈の微笑みに心臓が小さく跳ね上がった。
「少し落ち着かないようだな。邪魔したようだ」
「あの、違うんです……。落ち着かないのはこの状況が嫌、とかではなく」
 踵を返そうとする両慈に、事情を説明する燐花。誤解なら、解かなくては。その一心で。
「ふむ……。繰り返すが、その服は似合ってるぞ」
「……はい」
 嘘偽りのない両慈の言葉に、再び淡い熱が胸から広がっていく。
 その熱の正体を、燐花はまだ知らない。


 そして天の川の下で、短冊に願いを書く者もいる。
「今日は織姫様と彦星様……お逢い出来ているでしょうか?」
 一年に一度しか会うことのできない織姫と彦星。愛する者同士なら毎日会いたいものだ。満天の星空、二つの星は良く見える。それを見ながら壱縷は心の中で愛の歌を奏でる。二人にとっての、愛の導となれば。
『私に大切な人は出来ますか?』
 壱縷の書いた短冊の願い。問いかけにも見える内容は、裏を返せば大事な火に愛されなかった事でもある。藤の髪飾りに手を振れる。愛してくれなかった人がくれた贈り物。それは仕方のない事と知りながら、しかしいまだに思い続ける。
(でも今は人々を支える為に歌える。ただそれだけで満たされる)
 その気持ちに、嘘偽りはない。
「こういうの久しぶり……小学生以来かな」
「小学生ぶり? 意外ー。最近街中のショッピングモールとかでも、『ご自由にお書き下さい』とかやってるじゃん?」
 笹にかけられた短冊を見ながら早紀と四月二日が談話していた。早紀が手にした短冊にはいろいろな願いが書かれてある。
「確かにそういうのは見かけるんだけど、強く願うものがなくなっちゃったから……」
 苦笑しながら言う早紀。夢は願うものではなく、叶えるもの。恋愛関係にも疎く、強く何かを願うことはしなくなった。
「俺そういうのつい書いちゃうんだよ。どんな人が書いたのか想像しながら、他の人の短冊見るのもスキだ」
 強く願うことはないが、七夕の行事自体は否定しない。二人は短冊を手にし、どうしたものかと唸りながら筆を走らせる。
「リアルな女子大生の願い事ってどんなの? 『色んな所に一緒に行きたい。楽しく過ごしたい』……こんだけ? だけど、宮神さんぽくて素朴でカワイイかな」
 早紀の短冊を覗き込む四月二日。それを嫌がることなく、むしろ良く見えるように角度を変える早紀。今度は早紀が四月二日の短冊を覗き込んだ。
「何を書いたの……『宮神さんの願いが叶いますように』?」
「正直、願い事って程望みもないし。今年はコレで」
「そんなのでいいの? ……そっか」
 その願いに嬉しそうにほほ笑み、早紀は四月二日の手を取って歩き出す。
「さ、短冊つけにいこ!」
「またナチュラルに……オッケー、高いトコにつけようぜ」
 二人は手を取って、一緒に歩き出す。
「願い事、と申しましても月並みな物なのですよねぇ……」
「そういう願いが大事なんですよ」
 アーレスと椿姫の夫婦は、短冊を前にして首をひねっていた。元より短冊に書く願いはささやかなものだ。見れば『早く大きくなりたい』『にんじんがたべられるようになりたい』等、月並みなものが多い。
 心の思うままに。アーレスと椿姫は筆を走らせる。
(今この手の中にあるものが、幸せ過ぎて手放せなくて……)
 お腹を擦りながら椿姫が笑みを浮かべる。平和な日常、平和な家庭。それがどれだけ大切なものか。お腹にある温もりは、それを実感させてくれる。
(前までは罪と怒りで自分の幸せを願えなかった。だけど今は……)
 アーレスの戦う理由は、過去に受けた裏切りによるものが大きい。その気持ちが消えたわけではないが、それよりも心を占める事があった。妻と生まれてくる子と院の子供達。
『我々家族が幸せでありますように』
『今此処に在る幸せを、ずっと守っていけますように』
 今隣に居る貴方と歩む人生が、幸せでありますように。
 それはアーレスの言う『月並み』な願いだ。だからこそ、尊い。
「ずっとずっと、傍に居て下さいね……この激動の、世界の中でも」
「ええ。もちろんですとも」
 言って愛する妻を抱き寄せるアーレス。幸せは今、この手の中にあった。


 そして星空の元、
「俺と結婚して下さい」
 秋人が祝に自分の気持ちを伝えた。
 けして思い付きではない。勢いではない。秋人が思い悩み、タイミングを見計らった一世一代の求愛だ。今まで一緒に過ごしてきて、どれも掛け替えのない時間だと理解して、これからも一緒に歩んでいきたい。その思いは秋人の胸の中にあった。
 祝は秋人からの言葉を真正面から受けて、言葉がうまく出せなかった。だけど何を言われたかはわかるし、何を言わないといけないのかもわかる。
 夜空に浮かぶ彦星と織姫。一年に一度しか会えない二人。昔は何とも思わなかった祝だが、今はその寂しさが理解できる。愛する人に会えない寂しさは、悲しいものだ。そして愛する人と一緒に居る喜びは、これほど嬉しい物なのか。
 拒絶されるのは怖い。そんな理由で人との接触を絶ってきた祝。だがそんな自分を真っ直ぐに見てくれる秋人。彼が自分にとって特別な人になったのは、いつからだろうか。
「嬉しい、です。私で良ければお嫁さんにしてください」
 星空の元、一組の夫婦がここに生まれる。

 そして七夕の祭りも終わる。参加者はそれぞれの思いを抱いて帰路につく。
 満天の星空の元、様々な思い出を胸に覚者達は日常に帰っていく。
 空の星は、そんな彼らを祝福するように明るく輝いていた。


■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『コースター』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:天野 澄香(CL2000194)
『ストール』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:三島 椿(CL2000061)
『織物』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:向日葵 御菓子(CL2000429)
『織物』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:菊坂 結鹿(CL2000432)
『織物』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:上月・里桜(CL2001274)
『紫陽花のハンカチ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:七海 灯(CL2000579)
『織物』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:鐡之蔵 禊(CL2000029)
『カップケーキ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:香月 凜音(CL2000495)
『手ぬぐい』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:切裂 ジャック(CL2001403)



■あとがき■

 どくどくです。
 このカップル率の多さは何だ!? 一年に一度の逢瀬か!?

 そんな嫉妬の心は父心はさておき、楽しんでいただければ幸いです。
 天の川の思い出が、皆様のこれからに役立ちますように。

 それではまた、五麟市で。




 
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