≪体育祭≫何が出るかな、借り物競争!
●お題は何ですかねえ by都
五麟学園の体育祭、それは覚者と一般人が共に汗を流す一大イベントである。
小中高大全ての生徒と校舎を使ったお祭りは、毎年かなりの客がやってくるイベントだ。
参加するのは生徒だけではない。登録さえ済ませば、学校外部の人間も参加できるのだ。
そんな祭が、もうすぐやってくる。
体育祭当日。
事前の知らせの通り、かなりの数の参加者が来場され、盛り上がりを見せている。
数々の競技が行われ、次の競技は、借り物競争だ。
参加する覚者達が入場門から入場していき、所定の位置で着席してその準備を待つ。
借り物競争……至ってシンプルな競技。
スタートしてすぐの場所に設置された数枚のカードを選択し、お題に書かれた物を調達し、ゴールを目指すというもの。
借り物の難易度にもよるので、足の速い遅いなどは全く関係ない。いかにスムーズに借り物が借りられるか。この1点につきる。
ここで、一応のルールだが、まず、覚者だけでなく、一般人も参加する競技ということもあり、覚者でないと達成できないお題は並べられておらず、また、覚者として覚醒するのはNGとなる。
また、お題の調達は基本、体育祭会場内であることが望ましいが、最悪、『F.i.V.E.』の敷地内で行うこと。これが達成できないとリタイアとなってしまうので、注意したい。
「私も頑張りますわ」
「ふふん、借り物競争なら、都は負けることはないのです」
覚者へとにっこりと微笑むのは、『頑張り屋の和風少女』河澄・静音(nCL2000059)だ。どうやら、『芸術はえくすぷろーじょんですよ』新城 都(nCL2000091)も参加するらしい。
さて、順番が近づいてくる。スタートはもうすぐ……。
五麟学園の体育祭、それは覚者と一般人が共に汗を流す一大イベントである。
小中高大全ての生徒と校舎を使ったお祭りは、毎年かなりの客がやってくるイベントだ。
参加するのは生徒だけではない。登録さえ済ませば、学校外部の人間も参加できるのだ。
そんな祭が、もうすぐやってくる。
体育祭当日。
事前の知らせの通り、かなりの数の参加者が来場され、盛り上がりを見せている。
数々の競技が行われ、次の競技は、借り物競争だ。
参加する覚者達が入場門から入場していき、所定の位置で着席してその準備を待つ。
借り物競争……至ってシンプルな競技。
スタートしてすぐの場所に設置された数枚のカードを選択し、お題に書かれた物を調達し、ゴールを目指すというもの。
借り物の難易度にもよるので、足の速い遅いなどは全く関係ない。いかにスムーズに借り物が借りられるか。この1点につきる。
ここで、一応のルールだが、まず、覚者だけでなく、一般人も参加する競技ということもあり、覚者でないと達成できないお題は並べられておらず、また、覚者として覚醒するのはNGとなる。
また、お題の調達は基本、体育祭会場内であることが望ましいが、最悪、『F.i.V.E.』の敷地内で行うこと。これが達成できないとリタイアとなってしまうので、注意したい。
「私も頑張りますわ」
「ふふん、借り物競争なら、都は負けることはないのです」
覚者へとにっこりと微笑むのは、『頑張り屋の和風少女』河澄・静音(nCL2000059)だ。どうやら、『芸術はえくすぷろーじょんですよ』新城 都(nCL2000091)も参加するらしい。
さて、順番が近づいてくる。スタートはもうすぐ……。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.ゴールする!(一応、リタイアは可)
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
どこかでお会いしたことのある方もこんにちは。なちゅいです。
五麟学園体育祭、大いに楽しんでくださいっ!
以下、参加方法です。
●参加方法
一般参加の為、学生でなくとも参加で行います。
1競技は8人で競います。
参加人数によりますが、
例えば30人参加であれば、
6人(+一般人2人)×5回、などという形です。
以下から選択の上、プレイングを手がけていただければ幸いです。
1)相談板でお題を出し合って、個人で調達方法を考える。
2人1組、3人でお題を交換し合うなどして、
それをどう調達するかを自身で考えてみてください。
同じ列で競い合う場合は、ID、名前を明記の上で願います。
どちらが勝ったかは、プレイング、ダイス運などで判定します。
2)1人でお題、解決法を考える。
プレイングの期間の都合など、
相談が難しいといった方は、お一人でお考えくださいませ。
MVP狙いで、にやりとするネタが思いついた人などもどうぞ。
3)全部おまかせ
面倒であれば、全部お任せも可能ですが、
ネタ寄りになるか、無難に終わるかはケースバイケースです。
博打要素が大きいので、あまりお勧めはしません。
この場合、いかなる場合でも対応できるよう、
プレイングはキャラの設定を大いに盛り込むとよいでしょう。
○注意
一般の参加者も参加しますので、
覚者でないと借りられない物、及びプレイングは
競技ルール上認められない場合があります。
(例えば、空を飛ぶ鳥を捕まえてくるなど)
基本は会場内、最悪『F.i.V.E.』敷地内でかつ
一般人でも調達できるものでお願いします。
・リタイア
リタイアは可ですが、
その場合は、プレイングに『リタイア』と明記を願います。
プレイングによっては、盛り上がるかとは思いますが、
名声が増えなくなりますので、
予めご了承願います。
●NPC
河澄・静音、新城 都も参加します。
彼女達のお題、併走も受け付けております。
逆パターンとして、お題、プレイング全任せはありですが、
キャラ設定などをプレイングでしっかりと記述を願います。
こちらも博打要素が大きいことをご理解ください。
もちろん、彼女達へのお題提案、併走だけ行い、
自身の状況をプレイング記述もOKです。
多数の場合はプレイングで選択させていただきます。
お題プレイングがない場合は、
2人は無難に走ってゴールすることになるかと思います。
それでは、今回も楽しんでいただければ幸いです。
よろしくお願いいたします!
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
相談日数
6日
6日
参加費
50LP
50LP
参加人数
25/30
25/30
公開日
2016年07月04日
2016年07月04日
■メイン参加者 25人■

●借り物競争スタート!
体育祭当日。
次の競技は、借り物競争だ。
これに参加するのは、20数名の『F.i.V.E.』の覚者達。一般人と入り混じっての競争である。一般人もいるということで、覚者は能力を使わず勝負に臨む。
8人1組での競争。スタートしてすぐの机に並べられたカードに書かれたお題を誰かに借りて用意してゴールするという、単純ながらも楽しい競技である。
●1組目
「よし、行くぜ!」
意気込む遥は勇士を募って【借戦】というチームを作り、タイムアタックで勝負をしている。
基本勝負は組ごとに決するが、こちらはあくまで彼らルールといったところだろうか。
さて、最初の組はその遥を含め、百、枢紋、桃、フィオナの5人と一般人3人での戦いだ。
「ま、それでも負ける気はさらさら無いがな! 全力で勝利をもぎ取ってみせるぜ!」
「正々堂々、良い勝負をしよう!」
叫ぶ遥の隣には、フィオナがいる。清く正しく、ノブレス・オブリージュを果たすとの主張は、彼女の口癖でもあり、信念でもある。
「さあ、勝負だ! 特に遥! 戦いの方ではまだ君に遠く及ばないが、スポーツでなら!」
「お、やるか!?」
「タイムアタックね。そう簡単には負けないわ!」
期せずして、同じ組になった桃も直接勝負となりそうだ。
「楽しそうだな! 絶対に1位を獲得してやる!! 浅葱組の名にかけて!」
枢紋もまたニコニコと笑顔を浮かべ、スタートラインへと立つ。ピストルの音と共に、走者は駆け出した。
走りに自身のある百が真っ先にカードを手にするが、そのお題に彼は慌てる。
「と、『トイレットペーパー』!? どうすっかな、初等部はこっから遠いし……」
グラウンドから近い大学校舎目指し、彼はダッシュしていく。
その後ろから来るフィオナは『双眼鏡』。観客に声をかけ、比較的楽に入手できていたようだ。
「こりゃ楽勝だな! ハハハハ!!」
対する遥は『水色のタオル』。こちらも入手難易度は低いと言えるだろう。
「すみませーん! 水色のタオル持ってる方いらっしゃいませんかーー! あったら貸してくださーーい!!」
タオルを差し出した中年女性に礼を告げた遥はダッシュしていくが、フィオナがすでにゴールしており、無念にも2着となって悔しがっていたようだ。
枢紋は父親を発見して声をかけ、一緒にゴールを目指していた。
「俺は親父を一番尊敬している」
手にするカードには、『尊敬する人』と書かれていた。極道の父だが、母や弟、部下を守るその姿に感服していた枢紋だ。
「俺も親父みたいな大人になりてぇ。大切な人を護れるくらい、強く……!!」
4着でゴールへと飛び込む枢紋。親父の跡を継ぐならなおさら。そう考えながら。
「親父、今も昔も有難うございます! そして、これからもよろしくお願いします!」
息子の言葉に、父親は満足そうに頷いていたようだ。
その後ろからやってくる桃のお題は、『模擬店スタッフ』だが。
(生徒会で模擬店も運営してたわね)
カードを手にし、その存在を思い出した桃は、一直線にダッシュしていく。そこには、店番をしていた浅葱の姿があった。
「ちょうどいい所にいたわ、浅葱! ちょっと借り物手伝ってほしいの」
「ふっ、なんだかわかりませんが、助けを求められたなら応えましょうっ」
応じた浅葱の手を引き、事情を説明する桃。
「ふっ、並んで走るよりこっちの方が早いですよっ」
くすりと笑う浅葱は桃を俵担ぎに担ぎ、トラックへと駆け込んでいく。
「ちょっと! なんで私が借りられてるの!」
借り物競争の走者はあくまで桃だ。その為、桃は思いっきり抵抗し、逆に浅葱を横抱きにして走り始め、コースへと戻っていく。
「ふっ、その意気やよしっ。桃さんファイトっ」
桃の腕の中で、浅葱は飛び跳ねつつ応援する。
「ふん! 浅葱くらいの重量どうってことないわ! この程度、むしろ丁度いいハンデね!」
「遅れると先にゴールしちゃいますよっ」
とはいえ、やや手間取った桃は6着でゴールインしたのだった。
一方、大学校舎に駆け込んだ百だったが。
「しまった、初等部以外は初めて入るからわかんねぇ……すいませーん、トイレどこですかー?」
初等部の彼には、大学構内はかなり広く感じてしまう。大声で尋ねるも、今日は体育祭。校内に人もほとんどおらず、返事も返っては来ない。
しばらくして。
「うおぉぉぉ!!」
ようやく、トイレットペーパーを手にした彼はグラウンドへと戻り、ゴールへと突っ込んでいった。
「はぁ……はぁ……いや~、トイレトイレって思いながら探してたら、ついもよおしちまって」
用を足してから戻ってきた百。ダントツ最下位である。
「あ、手はちゃんと洗ったから大丈夫だぜ」
まさに、ウンが悪かった百なのだった。
●2組目
次は、椿花、静音、ありす、たまきと4人の一般人だ。
「初めて参加するから、楽しみなんだぞ!」
「頑張りましょう」
椿花は意気揚々とスタートラインに立つ。静音も両手に拳を作って意気込んでいた。
「はあ、憂鬱」
走るのが苦手なありすは嘆息しつつも、簡単なお題に期待することにする。やるからには負けたくはない。
「たまきちゃーん! 頑張れー!」
たまきはそんな声を耳にしたが、すぐにピストルが鳴ってしまう。
仕方なく、お題を手にしたたまきは赤面しながらも、先ほど聞こえた声の主を必死になって探す。
「これを使ってくれ! 丁度私のお題だったんだ」
それに気づいたフィオナは、借り物の双眼鏡をさらにたまきへと貸す。すると……。彼女はその姿を発見する。
「フィオナさん、ありがとうございます!」
双眼鏡を返したたまきは、まっすぐ観客席へと走っていく。
「……奏空さん! 一緒に来てください……!」
観客席からたまきに声援を送っていた奏空は、彼女のお題を気にしていたが。
「え、俺??」
唐突に手を差し出された奏空はたまきの手をとり、一緒にゴールを目指す。
ゴール手前でたまきがよろけるが、奏空がたまきを横抱きにして2組目1位でゴールイン。
「「やったー!」」
喜びのあまり手を取り合う2人。たまきは思わずギュッと……。真っ赤になっていた奏空は、照れ隠ししつつたまきに問う。
「で、お題は何だったの?」
「な、内緒です……!」
たまきは慌ててカードを隠す。
(自分でも驚くくらい、大好きな方なのだなぁ……)
『気になる人』。たまきにとって、奏空は真っ先に思い浮かんだ人だったのだ。
(善い事出来たかな?)
それを傍で見ていたフィオナは、焼き菓子と共に双眼鏡の持ち主の元へと向かっていた。
きょろきょろと見回していた椿花は、何かを発見していた。
(お料理上手だし、おばけ怖くないし……。うん、凜音ちゃんも『大人の男性』!)
(椿花がいる。相変わらずちっちぇーな)
次の組で待機していた凜音の元へ、椿花は走っていく。
「何も聞かずに、椿花と一緒に来て欲しいんだぞ!」
「は? 俺、次の組……」
「……借り物だから、椿花と一緒に来てもらっても良いよね……?」
凜音は考える。このままサボるきっかけにもなるかと。
「はいはい。ついていきますよ、お姫様」
そうして、2人は3着でゴール。
「ふふーん、凜音ちゃんと手を繋いで、一緒にゴールに来れたんだぞ!」
満足気な椿花だが、お題を尋ねる凜音には断固として教えようとしない。凜音は後で実行委員にでも確認しようと考えていた。
遅れて、ありすがお題の人物へと声をかける。
「ちょっとヤマト、いいから手伝って! 借り物、アンタでいいわ!」
「俺が借り物? 俺でいいなら手伝う!」
ありすから見せてもらったカードには、『友達』の文字。少し体をムズムズさせていたヤマトを連れ、ありすは5着でゴールする。
「すごいテンション上がった! 俺も借り物頑張って見つけるな!」
テンションを高めるヤマトを眺め、友達なんてほとんどいないけれどと、戸惑っていたありすは思う。
「ありがと、助かったわ」
彼女は小さくお礼の言葉を口にした。
ちなみに、『赤ちゃんを抱っこしているお母さん又はお父さん』という難儀なお題を引き当てた静音。
「どうしましょう、泣き止んでくれませんわ……」
若い母親と赤ん坊を連れてゴールを目指したが、赤ちゃんが泣く為になかなかゴールができず、最下位になってしまったのだった。
●3組目
次は、秋人、結鹿、都、義高と、一般人3名。
1人足りない分は凜音だが、スタートに間に合わず不戦敗である。
「借り物競走か……。こういうのは久し振りで結構楽しみだな……」
走るのが苦手な子でも楽しめるこの競技はいいものだ。スタートを待つ間、秋人は折角だから、大いに楽しもうと考えていた。
スタートした走者達。なぜか、都は何も借りることなく、そのままゴールを目指す。
「こんなこともあろうかと、仕込んでおいて良かったのですよ」
お題は『国旗』。なぜか都は、万国旗を手品のように出して見せた。一体何に使うつもりだったのだろうか。
これには、かなり早くお題を借りることができた秋人も苦い顔である。彼は、観客席で一般人が手にしていたパフパフラッパ……『応援用の鳴り物』を借りて、2着でゴールしていた。
お題を見た結鹿は、愕然としていた。
「…………『アイスクリーム』!?」
なにせ、炎天下。借りたところで溶けてしまい、返せなくなる可能性すらあるのだ。
そこで、彼女は何かを思い立ち、後ろの列で競技を待っている姉、御菓子に声をかける。お金を借りた結鹿はグラウンドの周囲までダッシュして行った。
(借り物、アイスクリームだったのね……)
最後まで諦めない妹の姿を微笑ましく見ていた彼女は、突然義高の小脇に抱えられてしまって。
「すまんが、身柄預かるぜ」
義高のお題は『小さい先生』。このお題を出した運営側も、オチネタとして用意したのではないだろうか。もうこいつしかいない。そう考えて、義高は音楽教師、御菓子の体を抱えたのだ。
そうして、ゴールした2人は、4着だった。
周りの生徒に、自身が運ばれる姿を笑われてしまう御菓子。
(しばらく、このネタでいじられそうね……)
くそぉ~と悔しがる彼女。次の組の走者スタートに間に合わず、彼女はさらに悔しがることとなるのである。
一方、アイスの移動販売車に向かった結鹿。
「すいませんっ! アイスクリームを1つ、早くお願いしますっ!」
とはいえ、移動車にできた列によってかなり待たされた結鹿。全力でゴールに到着したが、結果最下位になってしまう。
「食べていいよね? もったいないもんね?」
結鹿は、返す相手のいないアイスをそのまま口にするのだった。
●4組目
次の組は、小唄、エメレンツィア、逝、きせきと一般人3人だ。こちらは、御菓子が間に合わず、不戦敗である。
「簡単に借りれる物が出てきますように!」
足の速さには自身のある小唄。だが、借り物競争は、お題が全てといっても過言ではない。
(体を動かすのは苦手だけど、こういう機会くらいは動かないとだめよね)
一方で、いい機会だからと運動しようという気概で、エメレンツィアは参加していたようだ。
鳴り響くピストルの音。やはり、足に自身のある小唄が速い。直感で彼が選んだカードは、『女の子』である。応用力がないと自負する彼は、そのまんまのお題でほっと胸を撫で下ろす。
早速、近場の観客席から1人の女の子に同伴を願ったものの。まだ4歳の子供。何でも興味を持つお年頃の女の子は、小唄の狐耳や尻尾に興味を持ってしまって。
「お、大人しくしてて……!」
小唄は止むを得ず、女の子を抱えて走ることにする。必死に走った彼は、ゴールテープを切った。
「な、何位だ……!?」
見事1位である。それを確認した小唄は、女の子に耳を引っ張られながらも勝利を喜んでいた。
その後ろにいたのは、きせきだ。
「えー……、どうしよー……」
彼のお題は『はちまき』だ。しばし戸惑ってはいたものの、決してこの場で入手しづらいものではない。応援団から白いはきまきを借りた彼は、ゴールへと駆けていく。結果3位。まずまずといったところだろう。
エメレンツィアに与えられたお題は、『男の子』だ。
観客席を物色する彼女が声をかけたのは、くりっとした目が可愛らしい、素朴な一般人の少年だった。ちなみに、彼女は幼い子供が大好きである。
「ね、お姉さんの借り物になってくれない? お礼にイイコトしてあげるわ♪」
年齢的には、自己主張を行う少年も多そうだが、エメレンツィアの目は確かというべきか。彼はこくりと素直に頷く。お礼に彼女がぎゅっと抱きしめると、少年は顔を真っ赤にしてしまって。
エメレンツィアは少年を連れてゴールする。順位は5位だった。
「ふふ、お手伝いありがと。ご褒美よ♪ 少しなら触っても良いわよ?」
顔を真っ赤にした少年が全力で首を横に振るのを、エメレンツィアは嬉しそうに見つめていた。
逝は、ほとほとお題に困り果てていた。
そりゃ、多少のお題には対応できると考えていた。爆発物や、モロトフ・カクテル……所謂火炎瓶は一般人が調達できるレベルではないので、さすがにお題として却下されているだろう。
折角のお祭りイベント。楽しんだもの勝ちだ。そう考えつつ、逝が手にしたカードは、『縦笛(フルート)』。
いい年こいたおっさんが人様の縦笛を手にするとか、抵抗が半端ない。借りるなら、そこらの小学生か、あるいは女性ばかりのブラスバンドのメンバーか……。
後者を選んだ逝は、白い目を向けられつつフルートを借り、肩身狭そうに最下位でゴールしたのだった。
●最終組
最後は、ジャック、燐花、テュール、聖華、ヤマト、それに一般人3人だ。ヤマトはなんとか間に合い、スタートラインに戻ってきていた。
ヤマトはなおも、興奮冷めやらぬ様子だ
「こういう競技って、ワクワクするよな!」
「借り物競争。観客の方に何かお借りすればいいのですね」
対して、燐花は耳をぴこぴこ動かしつつも、淡々と競技内容の確認をする。
「目指せ1位! 特に遥には絶対負けねーぜ!」
勝負事は全力投球する負けず嫌いの聖華。くじ運もあってか、遥と直接対決こそできなかったが、タイムで負けるわけにはいかない。
「ふふふ……腕が鳴りますね。いや、競争ですから脚でしょうか」
テュールは自身の魔法を見せつけようと考えるが、覚者の力は使用禁止だよと体育祭の実行委員に窘められていたようである。
最終組のスタート。ヤマトが手にしたのは……。
「お題は……『可愛い子』?」
ヤマトはちょっと悩んだ後、一直線にありすの元に駆けていく。
「ありす! 手伝って!」
「え、アタシが借り物?」
さっきとは真逆で、ヤマトがありすの手をつかみ、ゴールする。一般人の子供が運良く『帽子』という簡単なお題を引き当てていた為、残念ながら2位だった。
「で、どんな借り物だったの?」
はぐらかしていたヤマトだったが、ありすに根負けしてお題を口にした。
「はぁ? 可愛い子なんて他にも一杯いるじゃない!」
それでも、嬉しかったようで、ありすは恥ずかしそうにしていた。
「えと……まあ、良かったじゃない。借り物すぐ見つかって」
「うん……。見つかってよかったよかった!」
ヤマトも照れながらも、笑って見せたのだった。
「なん……だと……!?」
聖華が手にしたお題は『おじいさん』。
見渡せば、一般人の参加者の祖父母の姿がちらほらと確認できる。
「へい、おじいさん! 悪いがちょっと借り物競争に付き合ってもらうぜ!」
了承を得た聖華は、おじいさんを背負ってゴールへとダッシュしていく。結果は4位。まずまずといったところだが、タイムとしては、聖華は遥に惨敗だったようだ。
その後ろ、テュールの姿は野球部の部室にあった。
「この辺りに、『野球のボール』はありませんかー?」
声をかけるが、体育祭の観戦にわざわざ野球ボールを持ってくる人もまずいない。仕方なく、彼は野球部からボールを借りようとやってきていたのだ。
「キヨタキノ・オトワノタキノ・トマリシオ……。我に野球のボールを与えたまえ……」
走りながら呟く呪文は、探し物が見つかる為のものらしい。
おかげで、5着でゴールに駆け込んだ彼は、ものすごく息切れしていた。
「まさか、ボクの魔法に勝つとは……やりますね」
テュールは息を整え、自身に勝った走者を称えるのだった。
「『ゆるきゃら』って、なんでしょう」
燐花は手にしたカードを見て首を傾げる。これまで、まったく接点がなかったらしい。
「あの、すみません。ゆるきゃら? ……っていう、よく分からない物をお借りしたいのですが」
客席に声をかける燐花。もちろん、一般人がそれを知らぬはずもない。子供達が手にするぬいぐるみを次々に彼女へと手渡す。
「ぼくも持っているよー」
一息ついていたきせきも、燐花へとぬいぐるみを手渡す。
「ありがとうございます。一先ず色々お借りします。後で返しに参ります」
そうして、たくさんのぬいぐるみを抱えて走る彼女。のろのろと歩を進め、7位でゴールしていた。
他の走者がゴールしているのに、ジャックは最後までお題に苦戦していた。
「ここの制服って、ブレザーじゃなかったか?」
ジャックの手にしたお題は、『セーラー服』。かなり長いこと探していたジャック。無い物書かれて干されたかと思った次の瞬間。
「……ってあった!! なあ! そこの! 全身まっくろの女の子!」
声をかけられたのは、観客席の端でレースを眺めていた奈那美だ。全身真っ黒の容姿を自覚していた彼女は、やってきた男を見上げる。
だが、次の瞬間、営業スマイル全開のジャックからありえない一言が。
「脱いで!」
反射的にジャックのみぞおちへと、奈那美は拳を深々とねじりこむ。
「あら、申し訳ございません。虫の鳴き声のようなものが聞こえたので。まずは説明をして頂けますか?」
「ごはっ……ちゃうねん。……借り物で、セーラー服が必要で、そこで君がいたから借りようかと……」
激痛で腹を押さえてうめくジャックは、途切れ途切れの言葉で説明する。
「先っぽだけでいいから、貸してくれよ頼むよ。そうじゃないと他の人が犠牲になるだろ? そしたら俺、なかなかゴールできないやん?」
「そうなら、最初からそうと言って下さい」
奈那美は小さく嘆息した。
「であれば、私自身が同行します。いつまでもダンゴムシのように丸まってないで、早くいきましょう。お似合いの格好ですが、急ぐのでしょう?」
「流石! んじゃあ、いっちょゴールまでひとっ走りすっか!」
ジャックは奈那美を抱え、すたこらとコースに戻っていく。
「あ、いきなり何するんですか。聞いてますか?」
もがく奈那美は逆らうこともできず、初印象が最悪な男に連れられて行くのだった。
●競技が終わって
走者は全員ゴールし、競技も終了した。
【借戦】で行われていたタイムアタックは、鳴り物がお題の秋人が勝利と相成ったようだ。
「会場全体が、競技に参加出来る形になっているのを見て、嬉しくもあり、楽しくもあるよね」
いい競技だと、秋人は改めて思う。その上で、彼は持ち主にラッパを返し、しばし、一般人との交流を楽しんでいたようである。
借りたものはキチンと返却。一部、嬉し恥ずかしといった展開もあったが、参加メンバー達は借り物競争を満喫できたようだ。
まだまだ体育祭は続く。参加者は再び気合を入れて、次の競技へと臨むのである。
体育祭当日。
次の競技は、借り物競争だ。
これに参加するのは、20数名の『F.i.V.E.』の覚者達。一般人と入り混じっての競争である。一般人もいるということで、覚者は能力を使わず勝負に臨む。
8人1組での競争。スタートしてすぐの机に並べられたカードに書かれたお題を誰かに借りて用意してゴールするという、単純ながらも楽しい競技である。
●1組目
「よし、行くぜ!」
意気込む遥は勇士を募って【借戦】というチームを作り、タイムアタックで勝負をしている。
基本勝負は組ごとに決するが、こちらはあくまで彼らルールといったところだろうか。
さて、最初の組はその遥を含め、百、枢紋、桃、フィオナの5人と一般人3人での戦いだ。
「ま、それでも負ける気はさらさら無いがな! 全力で勝利をもぎ取ってみせるぜ!」
「正々堂々、良い勝負をしよう!」
叫ぶ遥の隣には、フィオナがいる。清く正しく、ノブレス・オブリージュを果たすとの主張は、彼女の口癖でもあり、信念でもある。
「さあ、勝負だ! 特に遥! 戦いの方ではまだ君に遠く及ばないが、スポーツでなら!」
「お、やるか!?」
「タイムアタックね。そう簡単には負けないわ!」
期せずして、同じ組になった桃も直接勝負となりそうだ。
「楽しそうだな! 絶対に1位を獲得してやる!! 浅葱組の名にかけて!」
枢紋もまたニコニコと笑顔を浮かべ、スタートラインへと立つ。ピストルの音と共に、走者は駆け出した。
走りに自身のある百が真っ先にカードを手にするが、そのお題に彼は慌てる。
「と、『トイレットペーパー』!? どうすっかな、初等部はこっから遠いし……」
グラウンドから近い大学校舎目指し、彼はダッシュしていく。
その後ろから来るフィオナは『双眼鏡』。観客に声をかけ、比較的楽に入手できていたようだ。
「こりゃ楽勝だな! ハハハハ!!」
対する遥は『水色のタオル』。こちらも入手難易度は低いと言えるだろう。
「すみませーん! 水色のタオル持ってる方いらっしゃいませんかーー! あったら貸してくださーーい!!」
タオルを差し出した中年女性に礼を告げた遥はダッシュしていくが、フィオナがすでにゴールしており、無念にも2着となって悔しがっていたようだ。
枢紋は父親を発見して声をかけ、一緒にゴールを目指していた。
「俺は親父を一番尊敬している」
手にするカードには、『尊敬する人』と書かれていた。極道の父だが、母や弟、部下を守るその姿に感服していた枢紋だ。
「俺も親父みたいな大人になりてぇ。大切な人を護れるくらい、強く……!!」
4着でゴールへと飛び込む枢紋。親父の跡を継ぐならなおさら。そう考えながら。
「親父、今も昔も有難うございます! そして、これからもよろしくお願いします!」
息子の言葉に、父親は満足そうに頷いていたようだ。
その後ろからやってくる桃のお題は、『模擬店スタッフ』だが。
(生徒会で模擬店も運営してたわね)
カードを手にし、その存在を思い出した桃は、一直線にダッシュしていく。そこには、店番をしていた浅葱の姿があった。
「ちょうどいい所にいたわ、浅葱! ちょっと借り物手伝ってほしいの」
「ふっ、なんだかわかりませんが、助けを求められたなら応えましょうっ」
応じた浅葱の手を引き、事情を説明する桃。
「ふっ、並んで走るよりこっちの方が早いですよっ」
くすりと笑う浅葱は桃を俵担ぎに担ぎ、トラックへと駆け込んでいく。
「ちょっと! なんで私が借りられてるの!」
借り物競争の走者はあくまで桃だ。その為、桃は思いっきり抵抗し、逆に浅葱を横抱きにして走り始め、コースへと戻っていく。
「ふっ、その意気やよしっ。桃さんファイトっ」
桃の腕の中で、浅葱は飛び跳ねつつ応援する。
「ふん! 浅葱くらいの重量どうってことないわ! この程度、むしろ丁度いいハンデね!」
「遅れると先にゴールしちゃいますよっ」
とはいえ、やや手間取った桃は6着でゴールインしたのだった。
一方、大学校舎に駆け込んだ百だったが。
「しまった、初等部以外は初めて入るからわかんねぇ……すいませーん、トイレどこですかー?」
初等部の彼には、大学構内はかなり広く感じてしまう。大声で尋ねるも、今日は体育祭。校内に人もほとんどおらず、返事も返っては来ない。
しばらくして。
「うおぉぉぉ!!」
ようやく、トイレットペーパーを手にした彼はグラウンドへと戻り、ゴールへと突っ込んでいった。
「はぁ……はぁ……いや~、トイレトイレって思いながら探してたら、ついもよおしちまって」
用を足してから戻ってきた百。ダントツ最下位である。
「あ、手はちゃんと洗ったから大丈夫だぜ」
まさに、ウンが悪かった百なのだった。
●2組目
次は、椿花、静音、ありす、たまきと4人の一般人だ。
「初めて参加するから、楽しみなんだぞ!」
「頑張りましょう」
椿花は意気揚々とスタートラインに立つ。静音も両手に拳を作って意気込んでいた。
「はあ、憂鬱」
走るのが苦手なありすは嘆息しつつも、簡単なお題に期待することにする。やるからには負けたくはない。
「たまきちゃーん! 頑張れー!」
たまきはそんな声を耳にしたが、すぐにピストルが鳴ってしまう。
仕方なく、お題を手にしたたまきは赤面しながらも、先ほど聞こえた声の主を必死になって探す。
「これを使ってくれ! 丁度私のお題だったんだ」
それに気づいたフィオナは、借り物の双眼鏡をさらにたまきへと貸す。すると……。彼女はその姿を発見する。
「フィオナさん、ありがとうございます!」
双眼鏡を返したたまきは、まっすぐ観客席へと走っていく。
「……奏空さん! 一緒に来てください……!」
観客席からたまきに声援を送っていた奏空は、彼女のお題を気にしていたが。
「え、俺??」
唐突に手を差し出された奏空はたまきの手をとり、一緒にゴールを目指す。
ゴール手前でたまきがよろけるが、奏空がたまきを横抱きにして2組目1位でゴールイン。
「「やったー!」」
喜びのあまり手を取り合う2人。たまきは思わずギュッと……。真っ赤になっていた奏空は、照れ隠ししつつたまきに問う。
「で、お題は何だったの?」
「な、内緒です……!」
たまきは慌ててカードを隠す。
(自分でも驚くくらい、大好きな方なのだなぁ……)
『気になる人』。たまきにとって、奏空は真っ先に思い浮かんだ人だったのだ。
(善い事出来たかな?)
それを傍で見ていたフィオナは、焼き菓子と共に双眼鏡の持ち主の元へと向かっていた。
きょろきょろと見回していた椿花は、何かを発見していた。
(お料理上手だし、おばけ怖くないし……。うん、凜音ちゃんも『大人の男性』!)
(椿花がいる。相変わらずちっちぇーな)
次の組で待機していた凜音の元へ、椿花は走っていく。
「何も聞かずに、椿花と一緒に来て欲しいんだぞ!」
「は? 俺、次の組……」
「……借り物だから、椿花と一緒に来てもらっても良いよね……?」
凜音は考える。このままサボるきっかけにもなるかと。
「はいはい。ついていきますよ、お姫様」
そうして、2人は3着でゴール。
「ふふーん、凜音ちゃんと手を繋いで、一緒にゴールに来れたんだぞ!」
満足気な椿花だが、お題を尋ねる凜音には断固として教えようとしない。凜音は後で実行委員にでも確認しようと考えていた。
遅れて、ありすがお題の人物へと声をかける。
「ちょっとヤマト、いいから手伝って! 借り物、アンタでいいわ!」
「俺が借り物? 俺でいいなら手伝う!」
ありすから見せてもらったカードには、『友達』の文字。少し体をムズムズさせていたヤマトを連れ、ありすは5着でゴールする。
「すごいテンション上がった! 俺も借り物頑張って見つけるな!」
テンションを高めるヤマトを眺め、友達なんてほとんどいないけれどと、戸惑っていたありすは思う。
「ありがと、助かったわ」
彼女は小さくお礼の言葉を口にした。
ちなみに、『赤ちゃんを抱っこしているお母さん又はお父さん』という難儀なお題を引き当てた静音。
「どうしましょう、泣き止んでくれませんわ……」
若い母親と赤ん坊を連れてゴールを目指したが、赤ちゃんが泣く為になかなかゴールができず、最下位になってしまったのだった。
●3組目
次は、秋人、結鹿、都、義高と、一般人3名。
1人足りない分は凜音だが、スタートに間に合わず不戦敗である。
「借り物競走か……。こういうのは久し振りで結構楽しみだな……」
走るのが苦手な子でも楽しめるこの競技はいいものだ。スタートを待つ間、秋人は折角だから、大いに楽しもうと考えていた。
スタートした走者達。なぜか、都は何も借りることなく、そのままゴールを目指す。
「こんなこともあろうかと、仕込んでおいて良かったのですよ」
お題は『国旗』。なぜか都は、万国旗を手品のように出して見せた。一体何に使うつもりだったのだろうか。
これには、かなり早くお題を借りることができた秋人も苦い顔である。彼は、観客席で一般人が手にしていたパフパフラッパ……『応援用の鳴り物』を借りて、2着でゴールしていた。
お題を見た結鹿は、愕然としていた。
「…………『アイスクリーム』!?」
なにせ、炎天下。借りたところで溶けてしまい、返せなくなる可能性すらあるのだ。
そこで、彼女は何かを思い立ち、後ろの列で競技を待っている姉、御菓子に声をかける。お金を借りた結鹿はグラウンドの周囲までダッシュして行った。
(借り物、アイスクリームだったのね……)
最後まで諦めない妹の姿を微笑ましく見ていた彼女は、突然義高の小脇に抱えられてしまって。
「すまんが、身柄預かるぜ」
義高のお題は『小さい先生』。このお題を出した運営側も、オチネタとして用意したのではないだろうか。もうこいつしかいない。そう考えて、義高は音楽教師、御菓子の体を抱えたのだ。
そうして、ゴールした2人は、4着だった。
周りの生徒に、自身が運ばれる姿を笑われてしまう御菓子。
(しばらく、このネタでいじられそうね……)
くそぉ~と悔しがる彼女。次の組の走者スタートに間に合わず、彼女はさらに悔しがることとなるのである。
一方、アイスの移動販売車に向かった結鹿。
「すいませんっ! アイスクリームを1つ、早くお願いしますっ!」
とはいえ、移動車にできた列によってかなり待たされた結鹿。全力でゴールに到着したが、結果最下位になってしまう。
「食べていいよね? もったいないもんね?」
結鹿は、返す相手のいないアイスをそのまま口にするのだった。
●4組目
次の組は、小唄、エメレンツィア、逝、きせきと一般人3人だ。こちらは、御菓子が間に合わず、不戦敗である。
「簡単に借りれる物が出てきますように!」
足の速さには自身のある小唄。だが、借り物競争は、お題が全てといっても過言ではない。
(体を動かすのは苦手だけど、こういう機会くらいは動かないとだめよね)
一方で、いい機会だからと運動しようという気概で、エメレンツィアは参加していたようだ。
鳴り響くピストルの音。やはり、足に自身のある小唄が速い。直感で彼が選んだカードは、『女の子』である。応用力がないと自負する彼は、そのまんまのお題でほっと胸を撫で下ろす。
早速、近場の観客席から1人の女の子に同伴を願ったものの。まだ4歳の子供。何でも興味を持つお年頃の女の子は、小唄の狐耳や尻尾に興味を持ってしまって。
「お、大人しくしてて……!」
小唄は止むを得ず、女の子を抱えて走ることにする。必死に走った彼は、ゴールテープを切った。
「な、何位だ……!?」
見事1位である。それを確認した小唄は、女の子に耳を引っ張られながらも勝利を喜んでいた。
その後ろにいたのは、きせきだ。
「えー……、どうしよー……」
彼のお題は『はちまき』だ。しばし戸惑ってはいたものの、決してこの場で入手しづらいものではない。応援団から白いはきまきを借りた彼は、ゴールへと駆けていく。結果3位。まずまずといったところだろう。
エメレンツィアに与えられたお題は、『男の子』だ。
観客席を物色する彼女が声をかけたのは、くりっとした目が可愛らしい、素朴な一般人の少年だった。ちなみに、彼女は幼い子供が大好きである。
「ね、お姉さんの借り物になってくれない? お礼にイイコトしてあげるわ♪」
年齢的には、自己主張を行う少年も多そうだが、エメレンツィアの目は確かというべきか。彼はこくりと素直に頷く。お礼に彼女がぎゅっと抱きしめると、少年は顔を真っ赤にしてしまって。
エメレンツィアは少年を連れてゴールする。順位は5位だった。
「ふふ、お手伝いありがと。ご褒美よ♪ 少しなら触っても良いわよ?」
顔を真っ赤にした少年が全力で首を横に振るのを、エメレンツィアは嬉しそうに見つめていた。
逝は、ほとほとお題に困り果てていた。
そりゃ、多少のお題には対応できると考えていた。爆発物や、モロトフ・カクテル……所謂火炎瓶は一般人が調達できるレベルではないので、さすがにお題として却下されているだろう。
折角のお祭りイベント。楽しんだもの勝ちだ。そう考えつつ、逝が手にしたカードは、『縦笛(フルート)』。
いい年こいたおっさんが人様の縦笛を手にするとか、抵抗が半端ない。借りるなら、そこらの小学生か、あるいは女性ばかりのブラスバンドのメンバーか……。
後者を選んだ逝は、白い目を向けられつつフルートを借り、肩身狭そうに最下位でゴールしたのだった。
●最終組
最後は、ジャック、燐花、テュール、聖華、ヤマト、それに一般人3人だ。ヤマトはなんとか間に合い、スタートラインに戻ってきていた。
ヤマトはなおも、興奮冷めやらぬ様子だ
「こういう競技って、ワクワクするよな!」
「借り物競争。観客の方に何かお借りすればいいのですね」
対して、燐花は耳をぴこぴこ動かしつつも、淡々と競技内容の確認をする。
「目指せ1位! 特に遥には絶対負けねーぜ!」
勝負事は全力投球する負けず嫌いの聖華。くじ運もあってか、遥と直接対決こそできなかったが、タイムで負けるわけにはいかない。
「ふふふ……腕が鳴りますね。いや、競争ですから脚でしょうか」
テュールは自身の魔法を見せつけようと考えるが、覚者の力は使用禁止だよと体育祭の実行委員に窘められていたようである。
最終組のスタート。ヤマトが手にしたのは……。
「お題は……『可愛い子』?」
ヤマトはちょっと悩んだ後、一直線にありすの元に駆けていく。
「ありす! 手伝って!」
「え、アタシが借り物?」
さっきとは真逆で、ヤマトがありすの手をつかみ、ゴールする。一般人の子供が運良く『帽子』という簡単なお題を引き当てていた為、残念ながら2位だった。
「で、どんな借り物だったの?」
はぐらかしていたヤマトだったが、ありすに根負けしてお題を口にした。
「はぁ? 可愛い子なんて他にも一杯いるじゃない!」
それでも、嬉しかったようで、ありすは恥ずかしそうにしていた。
「えと……まあ、良かったじゃない。借り物すぐ見つかって」
「うん……。見つかってよかったよかった!」
ヤマトも照れながらも、笑って見せたのだった。
「なん……だと……!?」
聖華が手にしたお題は『おじいさん』。
見渡せば、一般人の参加者の祖父母の姿がちらほらと確認できる。
「へい、おじいさん! 悪いがちょっと借り物競争に付き合ってもらうぜ!」
了承を得た聖華は、おじいさんを背負ってゴールへとダッシュしていく。結果は4位。まずまずといったところだが、タイムとしては、聖華は遥に惨敗だったようだ。
その後ろ、テュールの姿は野球部の部室にあった。
「この辺りに、『野球のボール』はありませんかー?」
声をかけるが、体育祭の観戦にわざわざ野球ボールを持ってくる人もまずいない。仕方なく、彼は野球部からボールを借りようとやってきていたのだ。
「キヨタキノ・オトワノタキノ・トマリシオ……。我に野球のボールを与えたまえ……」
走りながら呟く呪文は、探し物が見つかる為のものらしい。
おかげで、5着でゴールに駆け込んだ彼は、ものすごく息切れしていた。
「まさか、ボクの魔法に勝つとは……やりますね」
テュールは息を整え、自身に勝った走者を称えるのだった。
「『ゆるきゃら』って、なんでしょう」
燐花は手にしたカードを見て首を傾げる。これまで、まったく接点がなかったらしい。
「あの、すみません。ゆるきゃら? ……っていう、よく分からない物をお借りしたいのですが」
客席に声をかける燐花。もちろん、一般人がそれを知らぬはずもない。子供達が手にするぬいぐるみを次々に彼女へと手渡す。
「ぼくも持っているよー」
一息ついていたきせきも、燐花へとぬいぐるみを手渡す。
「ありがとうございます。一先ず色々お借りします。後で返しに参ります」
そうして、たくさんのぬいぐるみを抱えて走る彼女。のろのろと歩を進め、7位でゴールしていた。
他の走者がゴールしているのに、ジャックは最後までお題に苦戦していた。
「ここの制服って、ブレザーじゃなかったか?」
ジャックの手にしたお題は、『セーラー服』。かなり長いこと探していたジャック。無い物書かれて干されたかと思った次の瞬間。
「……ってあった!! なあ! そこの! 全身まっくろの女の子!」
声をかけられたのは、観客席の端でレースを眺めていた奈那美だ。全身真っ黒の容姿を自覚していた彼女は、やってきた男を見上げる。
だが、次の瞬間、営業スマイル全開のジャックからありえない一言が。
「脱いで!」
反射的にジャックのみぞおちへと、奈那美は拳を深々とねじりこむ。
「あら、申し訳ございません。虫の鳴き声のようなものが聞こえたので。まずは説明をして頂けますか?」
「ごはっ……ちゃうねん。……借り物で、セーラー服が必要で、そこで君がいたから借りようかと……」
激痛で腹を押さえてうめくジャックは、途切れ途切れの言葉で説明する。
「先っぽだけでいいから、貸してくれよ頼むよ。そうじゃないと他の人が犠牲になるだろ? そしたら俺、なかなかゴールできないやん?」
「そうなら、最初からそうと言って下さい」
奈那美は小さく嘆息した。
「であれば、私自身が同行します。いつまでもダンゴムシのように丸まってないで、早くいきましょう。お似合いの格好ですが、急ぐのでしょう?」
「流石! んじゃあ、いっちょゴールまでひとっ走りすっか!」
ジャックは奈那美を抱え、すたこらとコースに戻っていく。
「あ、いきなり何するんですか。聞いてますか?」
もがく奈那美は逆らうこともできず、初印象が最悪な男に連れられて行くのだった。
●競技が終わって
走者は全員ゴールし、競技も終了した。
【借戦】で行われていたタイムアタックは、鳴り物がお題の秋人が勝利と相成ったようだ。
「会場全体が、競技に参加出来る形になっているのを見て、嬉しくもあり、楽しくもあるよね」
いい競技だと、秋人は改めて思う。その上で、彼は持ち主にラッパを返し、しばし、一般人との交流を楽しんでいたようである。
借りたものはキチンと返却。一部、嬉し恥ずかしといった展開もあったが、参加メンバー達は借り物競争を満喫できたようだ。
まだまだ体育祭は続く。参加者は再び気合を入れて、次の競技へと臨むのである。

■あとがき■
リプレイ公開です。
不参加でも、借りられる側ならゴールしてますよね……。
かなり悩んだのですが、
リタイア扱いの方は今回おりません。
MVPはトイレットペーパー探しに苦戦したあなたと、
初見の人に向かってセーラー服を脱いでと頼んだあなたへ。
今回は参加していただき、
本当にありがとうございました!
不参加でも、借りられる側ならゴールしてますよね……。
かなり悩んだのですが、
リタイア扱いの方は今回おりません。
MVPはトイレットペーパー探しに苦戦したあなたと、
初見の人に向かってセーラー服を脱いでと頼んだあなたへ。
今回は参加していただき、
本当にありがとうございました!
