明石三本刀
【カカシキ譚】明石三本刀


●これまでのカカシキは
 カカシキ妖刀の正当後継者・九条蓮華を助けた八人の覚者たちは、彼女の誘いを受けてカカシキ妖刀の鍛造に成功する。
 かくして九本のカカシキ妖刀の枠が埋まったのだが……。

●明石裕介
「なんだとぉ!? 柱が九本埋まっているぅ!?」
 廃材の山に囲まれたコンテナハウスで、色黒の男は長机を殴りつけた。
「何をやってるんだバカモン! メスガキの関係者はモロトモが抹殺した筈だな?」
「確認できる血縁と交友関係のある者は全員始末した筈でしたが……申し訳ありません、明石様」
「チッ」
 ウィスキーを入れた氷ごと頬張り、噛み砕く。
「てめぇの女房で許してやる」
「……それは、どういう」
「決まってんだろ。てめぇがひっかけてきた美人の女房だよ。あいつよこせ。それで許すわ」
「………………おおせのままに」
 頭を下げたまま、スーツ姿の男は言った。
 ゆっくりと頭を上げる。整った髪と高級そうな眼鏡でかためた彼の顔と立ち姿は、真面目な銀行員を思わせる。
「ヘヘ、今すぐだぞ。てめえはもう行け」
 明石に言われ、コンテナハウスを出る男。
 廃材でできたベンチには着物を着崩した美女が腰掛けていた。
「絹笠、お疲れさん。外まで聞こえてきたよ。かみさん取られるんだってね」
「ええ。所詮はこんな時のための捨て駒です。また新しい女房を作ります」
「冷血男。さすが、感情を担保にしただけのことはあるねえ」
 女は重そうな煙草をくわえると、指先をこすって火をつけた。
「あなたに言われたくありませんね、青羽さん」
 ちらりとベンチの後ろを見ると、串刺しになった男が定期的に電流を浴びせられてけいれんしていた。
 青羽というこの女の趣味である。
「あたしゃ命より大事な性感を担保にしたんだ、代わりのモンがないと狂っちまうよ。痛みだって感じやしないんだから」
 紫煙を吹き出し、煙草を指ではじき飛ばす。
 その途端、二人の間に熊のような毛皮を被った男がどこからか飛び降りてきた。
 拳に巻き付けた奇妙な金属物質を握り込み、大地に叩き付ける。
 地面が砕け、ベンチや周囲の廃材が吹き飛んでいく。
 絹笠は胸ポケットから抜いたカードナイフを無数に投擲し、飛来する廃材を空中で破砕。
 一方の青羽は飛んできたタンスを両刃の長刀でみじん切りにした。
「けっこうな挨拶じゃないさ、依吹ィ」
「うるせえ! てめえら俺様との決闘から逃げやがって! 勝負しろよ! なあ!」
 熊の毛皮を被った男、依吹。彼自身もまた熊めいた印象の男だった。ギザギザの歯をむき出しにして叫ぶ。
「味方同士勝負してなんになります」
「知るかよお! 俺様はよお! てめえらみたいなチンケな担保じゃねえ、最大のライバルを担保にしたんだからよお! 足りねえんだよ……足りねえ……俺様の拳の行き場がよお!」
「五月蠅いねえ。発情期のネコじゃないんだよ」
 彼らの持つ武器『偽カカシキ妖刀』は、本来のカカシキ妖刀と異なり担保にしたものがその場で喪われる。
 中でも彼らは特別に、大事なものを徹底的に植え付け続け、最後に奪うという手段でもって作られた強力な妖刀である。
 隔者としての戦闘力に上乗せする形で、彼らは明石組の強大な戦闘要員として機能するのだ。
「てめえらじゃねえなら、誰でもいい。ヤれる奴よこせよ! 今すぐ!」
「そんなもん急に……」
「いえ、用意できますよ。青羽さんもいかがです」
 絹笠は眼鏡を押し上げ、静かに言った。
「カカシキ妖刀を埋めた九枠……その対象者を抹殺しましょう」

●1対3、×3
 蓮華とF.i.V.E覚者たちのもとへ、F.i.V.Eの夢見による予知情報が入った。
 明石組の隔者『絹笠、青羽、依吹』が蓮華たちを狙っているというものだ。
 彼ら三人は明石組の重要な戦闘員だ。これを潰すことが出来れば、明石組を一気に追い込むことも難しくない。
 情報によれば3人まとまったら厄介だが、相手側もバラバラに戦いたがる性質があるらしい。
 ここは三つに分かれ、それぞれの目標を撃退しよう。


■シナリオ詳細
種別:シリーズ
難易度:難
担当ST:八重紅友禅
■成功条件
1.絹笠の撃退
2.青羽の撃退
3.依吹の撃退
 シリーズシナリオ第三弾。
 今回はチームで分かれての戦闘です。
 NPCの蓮華を含めた9人で3チームを作り、それぞれの目標を撃退しましょう。
 夢見の情報提供によって3人の戦闘データはそこそことれているので、対応したチームを組んであたりましょう。

●絹笠
 名刺サイズのカードナイフを無限に生み出す名刺ケース『妖刀リスクマネジメント』の所有者。
 械の因子・天行。
 雷や衝撃波を纏ったカードを飛ばす攻撃を得意とし、近接格闘もそれなりに心得ています。
 これに加えて、彼は拳銃で武装した非覚者を複数つれており、彼と戦う前に非覚者を倒す必要が生じるでしょう。あくまで対非覚者用の人員なので、戦闘経験豊富な皆さんには驚異になるほどの敵ではありません。

●青羽
 前後両端に刃のついた薙刀『妖刀・酒弛肉淋』の所有者。
 翼の因子・木行。
 縦横無尽の低空飛行からの素早い斬撃と回避術。攻防両方に対応したスピードタイプで、着物から匂わせた特殊な香料なども恐ろしい武器として機能します。香りに惑わされ、気づいたときにはみじん切りというパターンが多いようです。
 勿論術式によるものなので息を止めても無意味です。

●依吹
 両腕に巻き付けたナックルガードタイプの『妖刀・宿敵(フレンズ)』の所有者。
 獣の因子・火行。
 非常に凶暴な性格のため、回復無視で只管突っ込んできます。
 パワーで押してパワーで防ぐ完全なパワータイプ。妖刀の影響でBSの回復率もかなり高めなので純粋なダメージ量で勝負する必要があるでしょう。
 そのためか、こちらも回復無視のぶっこみチームだと割と相性良く戦えます。

●味方のデータ
・九条蓮華
 そういえば因子や行について話していませんでしたが、確認してみたところ暦の因子・水行でした。
 戦闘中は刀による体術ばかり使っている上、能力はバランス型。回復はちょっとはできますが、正直苦手分野だそうです。
 自分で考えて適切な戦闘行動をとるため、プレイングでの指示を必要としません。
状態
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
8日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年07月26日

■メイン参加者 8人■

『天使の卵』
栗落花 渚(CL2001360)
『正義のヒーロー』
天楼院・聖華(CL2000348)
『ぬばたまの約束』
檜山 樹香(CL2000141)

●明石三本刀
 九条蓮華と彼女からカカシキ妖刀を授かった八人を探すべく、明石三本刀と呼ばれる明石組の最大戦力保持者たちが動き出した。
 本来なら散らばった妖刀保持者たちを各個撃破できていた筈の彼らだが、F.i.V.Eの夢見に予知されたことによって逆に各個撃破作戦を打たれてしまった。
 時刻は夕暮れ前。
 山と海に挟まれた静かな町で起きた、これは戦いの物語である。

●絹笠
 拳銃を懐に入れた黒スーツの男たちを従え、絹笠は川沿いの土手を歩いていた。
 歩行者トンネルにさしかかる手前、トンネル側から現われる三人の影。
 『想い受け継ぎ‘最強’を目指す者』天楼院・聖華(CL2000348)。
 プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)。
 『Queue』クー・ルルーヴ(CL2000403)。
 彼らのただならぬ空気に、黒服たちは立ち止まった。
 懐に手を入れる黒服たち。
 が、その時には既に聖華が飛び出していた。
「強さを求めるために感情を捨てるってのは――本末転倒さ」
 最前列の黒服は三人。
 まずは中央の一人だ。翳した銃に刀をあわせ、頭上へ強引に跳ね上げる。
 そんな彼女に慌てて銃を向けた右の男に、聖華は腰の後ろに保持していたショートブレードを投擲した。
 と同時にジャンプ&スピンキック。左側の男を蹴り倒す。
「想いがあって、人は強くなるんだ」
 黒服たちがあまりの手際にたじろいだが、絹笠は別だ。
 冷静に聖華たちを見つめると、眼鏡を指で押し上げた。
「作戦が漏れたようですね。殺しなさい」
「は、はい!」
 慌てて銃撃を行なう黒服たち。
 クーは両手にトンファーブレードを装備。武器を中心に扇状に展開した土盾で弾を斜めに弾くと、一気に距離をつめにかかった。
(クーは……いえ、私は……)
 彼女と並んで駆け出すプリンス。
 機械装甲を展開すると、自らにも浴びせられた弾丸を強引にはねのけた。
「眼鏡のヤクザってなんで皆オールバックなの? ファッションなの?」
「……」
 質問を無言で流す絹笠。プリンスは構わずハンマーを出現させると、自らを中心に回転させながら黒服たちに突撃した。ボーリングのピンのごとく吹き飛んでいく黒服。
 踵から展開したブレーキパッドで停止すると、ビッと二本指を立てる。
「ところでお友達どうしたの。一緒に戦わないの?」
「それを阻害したのがあなたたちでしょう。とはいえ、小娘二人と弱そうなガイジン一人。この戦力で余裕ですよ」
「……ふーん?」
 プリンスは何か気づいたようだが、クーと聖華にはいまいちピンと来ていないようだ。
 360度キックで黒服をなぎ倒すクー。
 プリンスや聖華と共にゆっくりと陣を広げつつ、絹笠を囲むように動き始めた。
 対してゆっくりと後じさりして包囲を阻む絹笠。
「くっ、まさかこんなに早く……役立たずめっ!」
 クーは鋭く目を光らせた。
「さて、まずはその眼鏡から割りましょうか」

●青羽
 住宅街を黒塗りのベンツが進む。
 時折道ばたの植木鉢を踏み割るが、それに文句を言う者はいないようだ。
 どころか、道行く全ての者立ちがベンツを目にしただけで引き下がり、家の中へと逃げるように入っていく。
 だがそんな中で、路上を阻む三人の影があった。
 『教授』新田・成(CL2000538)。
 『樹の娘』檜山 樹香(CL2000141)。
 そして九条蓮華である。
 ベンツの運転手が駆け下り、後部ドアを開く。すると着物を着崩した美女がなまめかしい仕草で姿を現わした。情報にあった青羽だ。
「おや、そっちから姿を見せてくれるとは。イイコだねえ『お嬢ちゃん』」
 視線は蓮華に注がれている。蓮華は歯を食いしばって青羽をにらんでいる。
 それを制するように、成が杖に手をかけた。
「なんでもあなたは痛みを感じないとか。ならばどう斬ろうと気遣い不要ですな」
「なんだいアンタ、ダッチワイフを乱暴に扱うクチかい?」
「答える気は――」
 青羽から素早く放たれた種子の弾。成は仕込み杖を半分まで抜くと、刀身で攻撃を受け止めた。
「ありませんね」
「さあ始めようかの、お前様方」
 それが開戦の合図である。樹香は覚醒と共にダッシュ。ベンツの車体を踏み台にして青羽の背後へと回り込んだ。
 慌てて逃げ出す運転手。取り残された青羽はふわりと地面から飛び上がり、背後から放たれた樹香の放った種子の弾を薙刀によって打ち払った。
 と同時に、青羽を取り囲むように広がる蓮華と成。
 青羽は自らを囲む三人を見回すと、ちろりと上唇を舐めた。
「きっと気持ちよくしておくれよ、こっちは乾いてんだからさ」

●依吹
 広大に広がる田畑を、依吹は単独で走っていた。
 時折拳を地面につける半ナックルウォークで随分な速度が出ているが、それもこれも戦うべき対象を発見したからだ。
「そこか! そこかよ! 逃げずに戦えよお! 俺とお!」
「逃げねえよ。かかってこい熊野郎」
 対象。『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)は振り返って抜刀した。
 獣のように飛びかかり、殴りかかる依吹。
 拳は刀嗣の顔面を捕らえたが、土を踵で大きく削るだけで刀嗣は倒れはしなかった。
「へへ、今ので死なねえか。合格だよ、戦え! ほら!」
「おっと、オレたちを忘れて貰っちゃ困るぜ!」
 最初からその場にいた鹿ノ島・遥(CL2000227)と『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)がそれぞれの武器を構え、依吹を取り囲む。
(この人も、ある意味可哀想な人かも……折角手に入れた力の行き先を、なくしちゃったんだもんね)
 巨大な注射器を握り込む渚。
 依吹へ突撃し、おもむろに叩き付けた。
 大上段からのプレスアタックだ。しかし依吹はそれに対して拳で対抗した。
 こうした場合振り下ろした方がパワー勝ちするものだが、渚は依吹のパンチによって打撃を弾かれ、思わずのけぞった。
「すげーパワーだ、よっし!」
 遥はバンテージを腕に巻き付けると、格闘の構えをとる。
「FiVEの十天が一! 鹿ノ島遥! 流儀は空手! 依吹さん、いざ勝負!!」
「櫻火真陰流、諏訪刀嗣。いくぜ」
「誰でもいい! 早く来いよ、来いよお!」
 渚の腕を掴み、放り投げる依吹。
 その隙を突くように刀嗣は依吹へ斬りかかった。
「哀れなもんだな依吹ぃ! ライバルがいなくなってよお!」
 一撃目をナックルガードをつけた拳で打ち払う依吹。しかし返す刀で放たれた二撃目が依吹の腕を斬り、更に踏み込んだ斬撃が脇腹を切りつける。
 と同時に、地面を転がりながらも体勢を整えた渚が依吹へ突撃。
 じっくりと立ち位置を調整して反対側に回り込む遥にアイコンタクトをとりながら、依吹の胴体に巨大注射器を突き立てた。ポンプを拳で押し込み、攻撃的なエネルギーを注入する。
 依吹は血を吐きながら、凶暴に笑った。
「足りねえよ、もっと戦えよ! もっとだよお!」

 渚と遥が強く連携する一方、刀嗣は連携や作戦をキッパリ捨てて依吹へ襲いかかっていた。
「テメェのライバルも強かったんだろ! 聞かせてみろよ、ライバルのことをよお!」
「てめえに関係ねえだえろお! 俺様の何が分かるんだよお! てめえによお!」
 言葉では激しく反発する依吹だが、戦い方はその真逆だ。
 刀嗣の斬撃を既に防御すらせず、代わりに刀嗣の顔面や腹を容赦なく殴りつけていく。
 まるで獣の食い合いだ。
 カウンターを狙おうとしていた遥も、彼と連携して責めようとしていた渚もろくに入り込むことの出来ない猛攻である。かろうじて隙を見つけては細く攻撃を挟む程度だ。特に遥の(頻繁にかけ直す)カウンター待ちが完全に空振りするのは痛かったが、刀嗣を超えるほどのヘイト稼ぎはできそうにない。そういった作戦を用意していない。アドリブという手もあるが、遥の性格からして難しいだろう。
 そうこうしている間に、刀嗣と依吹はヒートアップを続けていた。
「聞いてなかったんだよお! アイツが犠牲になるなんて! 俺様は! アイツと! もっと、戦えると思って! 俺様はあ!」
 依吹の拳が刀嗣のガードを破って胸に直撃。あばら骨をへし折り、内蔵へと浸食させる。
その一方で、刀嗣は依吹を膝蹴りで押しのけると凄まじい速度での連撃を叩き込んだ。
 複雑に切り裂かれていく依吹の表皮。防御を捨てて殴りかかる依吹は、それを丸ごと受け入れた。
「もっと強くなればアイツは帰ってくるに決まってるんだよ! だから俺様は! 俺様はああああああ!」
「貰ったあ!」
 刀嗣は血を吐きながら吠えた。
 刀を繰り出し、依吹の腕を肘から切断する。
 と同時に、刀嗣の顔面を依吹の拳がとらえた。
 吹き飛び、土のうえを転がっていく刀嗣。
「遥さん!」
「わかっ――」
「この相手に中衛からじゃ意味ないよ! カウンターやめて、攻撃併せて!」
「お、おおう!」
 片腕を失った依吹の死角は勿論腕のない方角だ。
 そちら側から滑り込むように殴りかかる遥。
 元々ガードを無視してたとはいえ攻撃が最大の防御だったような男だ。ノーガードの顔面に遥の拳が叩き込まれた。
「強くなるのはライバルのためか。そんなに大切だったんだな」
「……でも、騙されて」
 回復を無視したダメージレース。手数の多いこちら側が有利だが、とにかく考えなしに殴り続ければいいわけではない。
 勿論思考能力や戦闘力の低い敵が相手ならチェス駒のように足を止めてポカスカやっても勝てそうだが、今回は事情が違う。油断すれば呑まれてしまう程の勢いが敵側にあるのだ。
 一人が連携を捨てて突っ込むにしても、残り二人がその状況を利用するなりフォローするなりが必要だったかもしれない。少なくとも、遥の空振りという形で弊害は出ていたようだ。
 とはいえ。
 その程度のつまづきで敗北するほど渚たちは愚かでも脆弱でもなかった。
「ナイチンゲールの伝説を知ってる?」
 渚は巨大な注射器を翳し、依吹の拳を受け止めた。びしりとヒビが入る。
「戦いの日々に人々が絶望したとき。死に救いを求めたとき。死ぬことを禁止した人がいたの。代わりに傷ついて、代わりにすり減って、それでも立っていることで人々を救った人がいる。ただの人間で、看護の神様の、本当の伝説だよ」
 渚は超常の力を持つ覚者だ。しかしナイチンゲールのように幼少から天才だったわけではないし、無限のような体力だってない。政治家を黙らせるような政治力もない。
 しかし、心だけは伝説に負けないつもりだ。
 かつて自分を助けてくれた人のように。
「負けないよ!」
 渚は気合いで依吹を押し返すと、ヒビのはいった巨大注射器を叩き付けた。
「遥さん!」
「よしきた!」
 のけぞった依吹の背後には、遥が拳を溜めて待っていた。
「もったいないぜ、その力と心――好きなのにさ」
 ため込んだパワーを解き放つように、遥は依吹のボディを拳で打ち抜いた。
 血を吐き出し、倒れ込む依吹。
「お、俺様、は……」
「テメェがあとどれだけ強くなっても、ライバルは帰ってこねえよ。満足はしねえと思うが、二番目くらいにはしただろ」
 ぼろぼろになった刀嗣が刀を杖代わりにしてやってくる。
「あの世で自慢しな。世界最強になる男に負けたんだからよ」
「うる、せえ、うるせえ……」
 依吹の声は既にか細い。
 彼の胸を、刀嗣は刀で貫いた。
「けど、せめて……ほんとう、に……さい、きょうに、な……れ……」
 そして依吹は、息を引き取った。

●妖刀・酒弛肉淋
 時間を遡ることしばし。
 青羽の鋭い斬撃によって蓮華の身体が切り裂かれ、地面にぐったりと横たわっていた。
「九条さん……っ」
 トドメを刺されないよう、庇うように立ち塞がる成。
 表情こそ冷静だが、額からは大粒の汗がこぼれていた。
「人間だった頃の知識に、また捕らわれましたね……」
 解説をするべきだろう。
 成たちの作戦は青羽を等間隔に囲んで戦うというものだった。
 対して相手側も囲まれればつらいので、飛行して面対応するだろう。
 とはいえ囲めば相手の対応力が弱まるという側面的事実もあるので、回避ボーナスという形で今回は判定している。これには、相手が包囲を外れようとする行動との対抗ロールになるので、彼らの用意した『等間隔を維持する』『射撃攻撃に限定して位置ブレを起こさない』『距離をキッチリ決めておく』という三つの要素を判定材料として、『飛行して移動範囲を広げる』『常に動き続ける』といった具合で抵抗した青羽を常に取り囲むことが可能だった。
 青羽に出来ることといえば、命中力を絞って誰か一人を集中攻撃することくらいだ。その標的に選ばれたのが、BS回復の頼りになっていた蓮華である。
 解説は以上だ。
「どうぞ自由にお飛びなさい。この戦場全て、私の間合いですから」
 ジグザグに飛行していく青羽に対し、今度は前後からの包囲を続ける成と樹香。
 成の斬撃はカマイタチとなり、青羽の着物を次々に切り落としていく。
 その一方で青羽は、体力回復手段をもつ樹香を狙って集中攻撃を開始。
 樹香は成と同じく包囲距離を保ちながら棘散舞の引き打ちにかかった。
 勿論逃げ方としては肉薄されては離れの繰り返しだ。連携や意思統一はアドリブ任せなのでそのうち限界がくる。
「――!」
 斬撃が自らの髪を切ろうとして、樹香はそれを腕でもって庇った。
 腕が切り裂かれ、握っていた薙刀が外れて飛んでいく。
「髪は女の命。おぬしにも、女の命があろうにの……青羽」
「なくしちまったよ。賭に負けてね」
 樹香は息を細く短く吐いた。
「なら、ワシは勝って守るとしよう。この髪を……そして、妖刀・濡烏をの」
 手を前に翳す樹香。
 斬りかかる青羽。
 二人の間に光りが生まれ、一本の黒々とした薙刀が現われた。
 衝撃によって弾かれる青羽。
「そりゃあ――!?」
「『選んだ』ようじゃの、妖刀」
 薙刀を握り込み、斬りかかる樹香。
 と同時に、成が青羽に斬撃を浴びせた。
 血を吹き刺し、膝から崩れ落ちる青羽。
 その首に刀を当て、成は問いかけた。
「痛みは感じずとも、敗北と死の恐怖はいかがでしょう。降伏するなら殺しませんが――」
「冗談じゃ、ないよ」
 青羽は蠱惑的に笑った。
「ちゃんと中にちょうだいな。おあずけなんて、酷いじゃないか」
 成の刀を素手で握ると、自らの首を強く押し当て、切り裂いた。
 吹き上がる鮮血。
 消えた命を前に、成は瞑目した。

●妖刀リスクマネジメント
 メタルカードが地面へ次々と突き刺さる。跳躍した聖華はそれらをかわし、ショートブレードを投擲した。
 メタルカードを貫かせて眼前で止める絹笠。
「どんな強い武器を持っても、感情を捨てたお前の攻撃は軽すぎるぜ!」
「うるさい! だまれ!」
 絹笠は乱暴に叫ぶと、聖華をぎろりとにらみ付けた。
 大きすぎる隙だ。クーとプリンスは素早く死角をとって襲いかかる――が、その足下に刺さっていたカードが突如放電。彼女たちに激しい電撃を浴びせた。
 くるりときびすをかえした絹笠は、先程の乱暴さが嘘のように表情が消えていた。
 指に挟んだメタルカードを繰り出す絹笠。
 それをすんでの所でクーは受け止めた。
「あなたの戦いは、まるでチェスのようですね」
「それは褒め言葉ですかね」
 絹笠が一般人の兵隊を放ったことは、未だに納得がいっていない。
 もし最初の言葉通りこちらを侮っていたのなら彼はただの愚か者ということになるが……そう決めてかかると足下をすくわれそうな予感がひしひしとしていた。
 まるでそこら中に地雷を埋めた野原を走らされるような緊張感だ。だがそれも、ただの予感だ。
「――!」
 クーは絹笠を足払いで転倒させた。
 途端、周囲に刺さったカードから術式性の霧が生まれ始める。
 ここぞとばかりに叩き込んだプリンスのハンマーが、何も無い地面を打つ。
 次の瞬間、周囲から大量の音や臭いが散布された。どちらを攻撃していいか分からなくなった聖華が放った刀を、プリンスが補助アームで受け止めた。
「うわっ、ごめんプリンス!」
「混乱してる。なんてことだ、こうなったら余がチュー的なサムシングを」
「うわーまったまったま――」
「えいっ」
 懐から出したプリンスピコハンを額にペッてやる王子。
 そんな彼の背後からカードスラッシュを繰り出してくる絹笠。
 ピンチか?
 否。
 聖華の勝ちたいという感情が無理矢理にでもスラッシュを止めさせた。
「受けてみろ絹笠! これが感情の力だぜ!」
 プリンスを回り込むように斬撃を繰り出す聖華。
 と同時に、プリンスもピボットターンからのゴルフスイングを繰り出した。
 激しく吹き飛ばされる絹笠。
 クーはそんな彼に、高く飛びかかった。
 そっと胸に手を当てる。
 時計の音は聞こえない。
 けれどその分、心の音が聞こえていた。
「明石組も偽の製造法も、あなたも、潰します」
「なぜ、そこまでの――」
「気にくわない」
 蹴り抜いたクー。
 しかし蹴りに乗じて複雑な斬撃が絹笠の身体に走っていた。
 そしてクーの腕には、黄金のトンファーブレードが握られていた。
「それだけで、充分です」
 膝を突く絹笠に、ハンマーを掲げるプリンス。
「じゃ、投降するか余のこと敬愛するか、選ぶといいよ!」

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

レアドロップ!
アイテム名:妖薙・濡烏
取得者:檜山 樹香(CL2000141)

アイテム名:妖剣・Queue
取得者:クー・ルルーヴ(CL2000403)




 
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