呪われた銃を手にして歓喜する
呪われた銃を手にして歓喜する


●七瀬の銃剣
 その男は力を求めていた。
 よくある話だ。発現して力を得たと思えば、自分以上の存在はたくさんいる。努力しても努力しても力はつかず、そして心が折れてしまう。
 心折れた覚者の末路は様々だ。その力を悪用して悪事に走る者。一般人を虐げて悦に浸る者。避けに溺れる者。神具を捨て、平和に生きる者。
 その男はそのどれも選ばなかった。しかし努力することをせず、安易に力を求めた。それが――
「これが、第二次妖討伐抗争で多くの命を奪った『七瀬の銃剣』……」
 かつて、大妖とAAAがぶつかり合った抗争があった。その際、大妖に唆されて多くの人間の命を奪った神具。それを持った覚者は死亡が確認できたが、彼が持つ銃は行方知らずであった。その在処を、男は突き止めたのだ。
 努力でその差が埋められないのなら、強い神具を持てばいい。細い糸を手繰るように男はその銃の在処を探し当てたのだ。それは執念に近い行為。その労力を努力に変えていれば、あるいは名のある覚者となっていたかもしれない。
「や、やめるんだ! その銃は呪われておる!」
「うるせぇジジイ!」
 止めようと縋りつく老人を蹴っ飛ばし、男は銃に近づく。三重に施された錠を解き、その銃を手にした瞬間、その視界が赤く染まる。体中に糸が絡みつくような幻視。それは確かに男に力を与えていた。
「はは、はははははは! これだ。これが俺の力なんだ!」
 力の奔流に嗤う男。それは彼が求めていた、圧倒的な力。
 先ずは銃の事を知る者を殺さなければ。銃口がゆっくりと、銃を隠していた老人の方に向いた。

●FiVE
「第二次妖討伐抗争って万里が生まれる前なんだよね」
 二十年近く前の出来事を言いながら久方 万里(nCL2000005)が唇に指をあてる。姉の真由美がギリギリ生まれていた頃だ。当時を知る者は、複雑な気持ちで頷いていた。
「で。その時期に使われていた神具があって、触れた覚者さんが破綻者になったの。深度3の強敵だって!」
『七瀬の銃剣』……第二次妖討伐抗争で大妖に唆された覚者が使っていた神具である。その唆された覚者もいろいろ眉唾があり、実在していたのかは不明である。だがその噂だけは存在いた。曰く、多くのAAAの命を奪っただの、持ち主に妖の力を授けるだの、そう言った噂だ。
「その神具が本当に呪われているのか、興奮した覚者さんの気分が高まったのか、それとも全く別の要因なのか。御崎おねえちゃんでも予測できないみたい」
 二十年前の遺物に力が残っているのか? 否ともいえないのが恐ろしいところだ。
 ともあれ、強力な相手なのは間違いない。破綻者は力の暴走により覚者よりも力を増している。深度3ともなれば、かなりの状態だ。完全に力に飲まれ、蓄積した経験と源素を破壊の為に振りまくだろう。
 覚者達は破綻者を止めるために会議室を出た。



■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:難
担当ST:どくどく
■成功条件
1.破綻者の討伐(生死は問わない)
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 これもまた一つの努力の結果。

●敵情報
・破綻者(×1)
 力を求め、呪われた神具に手を出した男の末路です。深度3。元は変化の水行でした。破綻者となったことで、HP等を始めとしたステータスが強化されています。
『七瀬の銃剣』と言われたフリントロック型の銃剣と、元々使用していた小太刀を連携して戦います。物攻と特攻を平均的に上げていくタイプ。
 元々粗野な性格だったため、暴走する力に完全に飲み込まれてその力を使って暴れることに抵抗がありません。説得は意味を為さないでしょう。
 蛇足ですが、名前は『小山・貞夫』といいます。四十歳男性。
『B.O.T.』『水龍牙』『癒しの滴』『飛燕』等を活性化しています。

・『七瀬の銃剣』
 フロントロック式の古式な銃です。銃口の先に数センチの刺し型剣が付いています。大妖に唆された覚者が使用し、多くのAAAの命を奪ったと言ういわくがあります。
 この神具が本当に呪われているのかはわかりません。危険を考慮して、FiVEは再封印を勧めています。

●NPC
・老人(×1)
 如何なる経緯かはわかりませんが『七瀬の銃剣』を隠匿していた者です。一般人。破綻者を前に、力無く倒れています。名前は『大野・惣次郎』です。
 破綻者は最初のターン『老人を倒す』という行動をとります。つまり現れた覚者には攻撃しません。強化を行うなり、破綻者に一撃を加えるなり好きにできます。
 生死は成功条件に含まれません。

●場所情報
 海沿いにある田舎町。その家の納屋近く。それなりに広く、戦闘に支障はありません。納屋の入り口で破綻者は老人に銃を向けています。
 戦闘開始時『破綻者』『老人』が前衛で固まっている状態です。覚者達は、そこから十メートル離れた距離から戦闘開始です。
 事前付与などは不可とします。

 皆様のプレイングをお待ちしています。


 
状態
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年07月05日

■メイン参加者 8人■

『ぬばたまの約束』
檜山 樹香(CL2000141)
『白い人』
由比 久永(CL2000540)
『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)
『ハルモニアの幻想旗衛』
守衛野 鈴鳴(CL2000222)
『偽弱者(はすらー)』
橡・槐(CL2000732)
『研究所職員』
紅崎・誡女(CL2000750)


「お前の都合であのおじーさんは殺させないよ」
 銃を封印していた老人への凶弾は、割って入った『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が代わりに受け止める。弱った老人一人に覚者の技を使うまでもない、と割り切っていたが故に、弾丸は奏空の体で止められてしまう。
「確保します」
 少しかすれた声で『研究所職員』紅崎・誡女(CL2000750)が老人を抱えて一時離脱する。銃の射程より少し遠く。これで老人の安全は確保された。それは勿論、自分達が負けなければという条件が付くのだが。
「僕の目的は、その銃だ」
 破綻者が持つ『七瀬の銃剣』を指しながら深緋・幽霊男(CL2001229)が宣言する。相手が求めたモノを奪うと言えば、狙いは自然とこちらに向かうだろう。本音を言えば老人自体はどうでもいいが、銃が欲しいのは本心だ。
「力が欲しい。その気持ちは理解できる」
 心の声を吐露するように三島 椿(CL2000061)が口を開く。おそらく同じ気持ちで、目の前の破綻者は呪われた神具を求めたのだろう。だが、それは違うのだと静かに思う。そうして得た力は、望んだ力ではない。仲間の傷を癒しながら、静かに思う。
「さあ、そこまでにしてもらおうかの」
 薙刀を振るい、『樹の娘』檜山 樹香(CL2000141)が破綻者に立ちふさがる。相手は深度3の破綻者相手だ。決して楽観できる相手ではない。気を引き締めて戦場に挑もう。放たれた棘の鞭で破綻者を打ち据えながら、陣を形成する。
「様子見の余裕はなさそうだな」
 振るわれる術の威力に『白い人』由比 久永(CL2000540)が硬い声を出す。守勢に回れば押し切られる。いつもとは異なり羽を動かし、風の弾丸を放つ久永。攻撃は最大の防御。それを思わせるほど、深度3の身体強化は肌を震わせる。
「そんな短小をどこに向けているのです?」
 挑発の言葉と共に術を放ち、『偽弱者(はすらー)』橡・槐(CL2000732)は破綻者の気を引く。最初に防御を固めておきたかったが、こちらの準備が整うまでは相手に好き勝手行動させてはいけない。この一手がどう生きるか。破綻者の怒りを受けながら槐は思考する。
「たとえ破綻者であっても、命を奪うようなことはしません」
 青い旗を振るって仲間を癒しながら、『ハルモニアの幻想旗衛』守衛野 鈴鳴(CL2000222)は胸を張って宣言する。命に差はない。助けることができるなら助けたい。その為に鈴鳴はここに立っているのだ。深度3でも救えた実例はある。
「敵……そうか、敵か……!」
 力に飲まれた破綻者。知性こそあるが、理性は飲まれている。湧き上がる源素の力のままに暴れまわる人間。一世紀以上前の銃を模した神具を手に、殺意を振りまいていた。左手に小太刀、右手に銃。初めての二刀流スタイルのはずなのに、その動きは戦い慣れたと錯覚させる自然さがあった。
 ――死闘が、始まる。


「なぁ、どうしてそんなに力を求める? 力を手に入れてどうする?」
 奏空は二本の刀を振るいながら、破綻者に問いかけていた。夢見から破綻者の経緯は聞いている。因子発現し、しかし覚者世界の壁の高さを知った者。その壁に絶望し、『七瀬の銃剣』を求めた。問いかけたいのはそんな経緯ではない、力を求めた理由だ。
 前世の絆を強く意識して身体能力を強化する。その後に二刀を振るう奏空。争うことは嫌いだ。人を傷つけることは嫌だ。だが、それでは何も守れない。奏空にとってこの力は、理不尽から誰かを守るための力。
「力……この力で、俺は……!」
「力に振り回されている……! 頭冷やせ、この野郎!」
「ま、死んだら死んだ時だ」
 僕は銃さえ手に入れればいい、と無関心に幽霊男が告げる。それは挑発でも冗談でもなく、本気の発言。呪いの有無など関係ない。第二次妖討伐抗争の噂など関係ない。大妖など関係ない。欲しい者は手に入れる。それが幽霊男という覚者だ。
 破綻者の動向を探りながら距離を詰める。フリントロック付きカトラスを手に、幽霊男は破綻者に負けず劣らずの速度で切りかかる。攻撃の瞬間に精神的な圧力をかけて隙を生み出し、下から振り上げるように切り上げた。確かな手ごたえが手の平から伝わってくる。
「一応この手の負荷は効くようだな」
「この程度……すぐに治る……それだけの……力が……」
「自然治癒力も増幅されておるようじゃな」
 蔦を使って動きを封じようとしていた樹香は、拘束する効率の悪さを感じ取っていた。破綻者は覚者の身体能力が強化される。それは変調に対する回復力も含まれていた。攻撃するか回復するか。全体のバランスを見ながら、樹香が動く。
 破綻者が持つ銃剣。その手をめがけて植物の種子を投げつける。源素の力を籠めれば、そこから急成長する植物の蔦が銃剣を捕らえる。拘束はすぐに解かれるだろうが、そこに一瞬の隙が生まれた。それを逃さず樹香の薙刀が振るわれた。
「油断も慢心もせず、ただ全力でお主を倒す。心は揺らさず、泰然自若、じゃよ」
「深度3か……確かに油断はできそうにないな」
 目の前で振るわれる破綻者の力。それを感じながら久永は呟く。前例があるとはいえ、深度3の破綻者を元に戻せるのだろうか。暗闇の中細い糸を手繰るようなものだ。そもそもの話として、先ずは破綻者を大人しくさせなければならない。それも容易ではないのだ。
 神具の『羽扇』を破綻者に向けながら、背中の羽を広げる。扇の先端を標準にして、相手との距離と方向を測る。大きく広がる久永の赤い羽。それが空気を叩くように振るわれ、風の弾丸を撃ち放つ。叩きつけるような圧力が、破綻者を打ち据えた。
「呪いの真偽は分からぬが、まぁ火のない所に煙は立たぬというしな」
「眉唾もいい所ですがね」
 皮肉げに肩をすくめる槐。だがそうも断言できないのがこの界隈の恐ろしいところだ、という事も理解している。とかく、妖や源素においてわかっていることは少ない。どうあれ今は仕事をこなすのみだ。
 ナイフと盾の神具を構えながら、土の術式を使って身体を強化する。重要なのはこの破綻者を自分より後ろに活かせないこと。槐は防御を固めながら自分の役割を再認識する。破綻者の攻撃を受け止めながら、挑発するように肩をすくめる。この所作すら目的の為。
「強ければ勝てる、奪われない、何でもできる……まったく稚気じみた戯言なのですよ」
「力があれば……あれば……」
「その力は『七瀬の銃剣の使い手』でしかないわ」
 うわ言のように呟く破綻者に対し、椿が悲し気に告げた。力に振り回される破綻者。仮にその力が最上位の物だとしても、それは呪われた神具の力という形でしかない。その力で何かを為しても、脚光を浴びるのは『七瀬の銃剣』の方なのだ。
 破綻者の攻撃を前に、傷つく仲間たち。その傷を癒すべく、椿が胸に手を当てる。慈しむように、勇むように。癒すことは椿にとって戦いの一つ。兄が自分を守ってくれたように、自分も誰かを守るのだ。その意思を込めて、癒しの術を放つ。
「それは貴方が望んだ力なのかしら」
「そんな銃、怖くありませんよ。そんな物に頼ったって、こんな子供ひとり倒せませんから!」
 背後の老人を庇うように立ちながら鈴鳴が声を張り上げる。マーチングバンドで鍛えられた声は、大きくハッキリと戦場に響き渡る。力の差は理解している。集中的に狙われれば倒れることも知っている。その恐怖を押さえ込みながら、凛々しく声を張り上げた。
 絆を結ぶ歌声。鈴鳴が謡う理由はそれだ。覚者、一般人、古妖……それら全てが手を取りあえるように。こうして力に溺れた破綻者も同じ『人間』だ。全てを助ける為に旗を振る鈴鳴。水の源素を込めた癒しの歌が、高らかに戦場に広がっていく。
「貞夫さんもお爺さんも、誰が死んでも泣いてしまうと思います」
(どうあれ、やれることはやっておきましょう)
 鈴鳴の言葉に頷き、誡女が動く。天の源素を活性化させて霧を放ち、破綻者の視界を奪う。老人を運んで戻ってくるだけ、破綻者への参戦が遅れてしまう。その遅れを取り戻すべく、神具を構える。
 破綻者に攻撃を仕掛けながら、周囲の調査を行う誡女。『老人』『七瀬の銃剣』そして『破綻者』……。全てを一度に調べることはできない。最優先は『銃剣』だろう。だが傍目にはただの神具にしか見えない。自分達が扱うモノと大きな違いが見られない。
(異常がない、というのは一つの情報ですね。時間をかければ何か見つかるかもしれませんが)
 覚者の攻撃に対し、破綻者は回復を行う椿と鈴鳴を中心に狙い始める。貫くような衝撃波を発し、水の源素で津波を生み。それに応じて、椿を庇う槐。
「……まだっ!」
「いやらしい動きですね」
(……っ!)
 その猛攻を前に、鈴鳴、槐、誡女が命数を削って立ち上がる。一撃が重く、こちらの予想以上の深手を負ってしまう。
 何人かの覚者は破綻者の戦術を見て挑発を重ねるが、意に介さぬとばかりに攻撃は続く。回復役を潰してから他を押さえる作戦を取っていた。
 深度3の破綻者。その脅威は確かだ。
 しかしFiVEの覚者達の心は折れていない。


 破綻者の攻撃を前に、久永や樹香や誡女は回復に移行する。深度3の破綻者の攻撃力は、それほどまでに高かった。そしてその銃口は―― 
「あなたはあの銃を探し当てた。私たちなんて、ここに来たのも未来を視る人の力を借りてやっとです」
 傷つく身体を押さえながら、鈴鳴が口を開く。それは独力で『七瀬の銃剣』にたどり着いた破綻者への称賛。
「たとえば探偵さんになったら、きっとすごく優秀ですよ。皆が憧れちゃうくらい。……やり直しましょう。まだ、きっと戻れ……ます……」
 最後まで助けることを諦めず、蒼い旗の旗衛は倒れ伏す。最優先で狙われたのは秀逸な癒し手故か。
「前衛を狙わずに後衛ばっかり狙ってきましたね。女を襲うとか悪趣味のおっさんですね」
 槐は肩で息をしながら、破綻者の戦い方に悪態をついていた。相手の攻撃力を鑑みれば、あと二度狙われば倒れてしまう。防御に徹しながら相手の疲弊具合を見る。前衛を維持すれば何とかなると思っていたが、その前衛を全く狙わない。傷を受けてもお構いなしに回復役を削ってくる。
 中衛に下がって後衛を守るか、とも考えたが、
(急な作戦変更をしても効果は薄い。このまま押しきるしかねーですね)
 作戦は急に変えられない。下手な変更を行えばその隙を突かれ、一気に瓦解してしまう。
「単独で銃剣の在処を探し出せたその情報網や知力があれば、もっと違う立場で活躍できたであろうに……」
 残念だ、と久永が肩をすくめる。戦うだけが覚者の道ではない。それを自ら潰すとは。撃ち放たれる水の一撃に体力を削られながら、倒れるわけにはいかぬと立ち尽くす。ここで正気を取り戻させ、その才を世間の役に立たせるのだ。
「明確に回復を行う者を削ってくるな。戦いのキモを理解しておるようじゃ」
 薙刀を杖に立ちながら、樹香が相手を褒めるように言葉を放つ。攻めるべきか回復するべきか。それを考えながら動く樹香。だが相手の攻撃力の高さをまえに、回復を重視して行動することになる。そしてそれゆえに、破綻者に狙われて命数を失ってしまう。
(神具や戦い方から、近遠対応可能と分かっていたはずなのに……!)
 膝をつき、誡女は呼吸を整える。小太刀に銃剣、そして水の変化。使用する術式などから遠距離攻撃が可能であることはわかっていた。ならば敵が後衛を狙うことも考えられたはずなのに。高火力の遠距離攻撃が誡女を襲う。その一撃に耐えきれず、意識を手放した。
「絶つ気で行かないと勝てない……!」
 二刀を振るいながら奏空は破綻者の強さに歯軋みしていた。殺したくはない。だけど加減すれば押し切られる。その圧力がひしひしと伝わってくる。奏空の力は仲間を守るための力。……ならば、ここで相手の命を絶つことも選択肢に入れなければならないのか。
「強くなって貴方はその力で何を目指すの……?」
 仲間を癒しながら椿は破綻者に問いかける。相手の攻撃を前に、椿は全力で仲間を癒し続けていた。呪われた神具の力に頼った行動で誰を救っても、いずれ破滅に至るほかない。その危険を冒してまで力が欲しかったのだろうか。
「強力な覚者の要因の一つが神具だ。間違ってはおらん」
 神具を振るいながら幽霊男が肯定する。もっとも、その生き方自体は肯定しない。自分自身を失い、道具に使われる。選ぶのは『自分』でなければ意味はない。だから奪う。破綻者、呪い、全てをねじ伏せるだけの意志がそこにあった。
 覚者達の攻撃は、破綻者に確実にダメージを積み重ねていた。幽霊男や奏空が与える刀傷や、久永の術式。その跡は目に見えて破綻者に刻まれている。
 だが、破綻者も同様に覚者にダメージを積み重ねていた。そしてそれは覚者の予想に反し、後衛を中心に攻めてきている。ダメージを与える前衛の注意は万全だったが、回復を行う後衛を狙われた時の対策は不足していた。回復手を割きに潰すというのは、自分達も行う戦略なのに。
「こりゃ駄目ですね」
「皆、任せたぞ……」
「いかん、これは……!」
 荒れ狂う水と衝撃波で、槐と樹香と久永が力尽きる。
「まだ……です!」
 次の破綻者のターゲットは、回復を行う椿だった。破綻者の攻撃を前に命数を燃やしながら、なんとか立ち上がる。消えた命数が活力となり、闘志となる。
「くそ、こっちを無視するな!」
「銃剣を手に入れるまで、攻撃をやめるつもりはないぞ」
 奏空と幽霊男がそれぞれの神具による攻撃を続ける。武器から伝わる確かな手ごたえ。与えた傷は常人ならもう倒れていただろう。事実、破綻者も痛みでよろめてきている。このまま続ければ、倒すことはできるだろう。
 このまま続けることができれば。
 三人になった覚者に対し、破綻者は貫く衝撃波で攻め立てる。前衛の二人とその後ろにいる椿を一気に攻める算段だ。先に衝撃を受ける前衛に対して椿が受ける傷は少ないが、それでも回復を続けなければ倒れてしまうだろう威力。
「たいした銃だ。ますます欲しくなった」
 幽霊男がその衝撃で傷つき、命数を失う。巻いている包帯は血だらけだ。体に刻まれた傷がまた増えた。死に一歩近づくが、それを気にする幽霊男ではない。
 破綻者も幽霊男と同じほどに満身創痍だった。だが足りない。破綻者討伐に一手足りない。
 その一手はなんだのかというと、初手に老人を助ける際に受けた傷や、後衛の損害を考えなかった戦術などだろう。老人を救おうとすること自体は美徳であり攻められたことではないが、今となってはその一手が惜しい。
「……ッ! そんな……」
 そして凶弾を受けて椿が倒れ伏す。ここまでか、とまだ動ける奏空と幽霊男は踵を返す。幽霊男は不満そうだったが、このまま戦っても勝てないことを察しているのか渋々了承する。倒れている仲間と老人を担ぎ、一気に距離を取った。
 そのまま一気に、戦場から離脱した。


「七瀬とは『七瀬の御祓』にもじった名称だ」
 息絶え絶えに老人が口を開く。
「災禍を負わせた人形を川に流すことで、災厄を払う儀式。……最初は大妖という厄を払うために作られた……」
 老人は神具を作り出す職人だった。依頼されて作った一丁の銃。だが依頼人は蜘蛛の大妖に心酔しており、銃は大妖の手に渡る。知らず手にした覚者は、破綻者の如く暴れまわることとなった。
「皮肉な話か。厄を受けて封される清めの銃だったハズなのに、大妖の厄を身にしたまま世に出てしまうとは。
 やはりあの銃は、呪われていた。なんとか死体となった覚者から銃を回収はしたはいいものの、破壊することも、山に埋めることもできなかった……自分で作った作品を壊すことはできなかった……」
 それが今回の悲劇につながったのだ、と老人は嘆いていた。

 破綻者は『七瀬の銃剣』と共に一度舞台から消える。
 力に溺れた破綻者が、今日もどこかで引き金を引いていた。


■シナリオ結果■

失敗

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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