【天狗伝説】変人と愛宕の山にピクニック
●愛宕山の天狗伝説
天狗。
修験者の姿をし、赤い顔に高い鼻を持つ翼をもつ人型の古妖である。
人を魔道に導く外道としての側面を持ちながら、ある地方では神として信仰されていたりもする。共通しているのは人知を超えた知識と強さを持つ存在である。その教えを受けた者の代表例として、源義経などが有名であろう。
天狗の教えを乞う者は多いが、誰もがそれを受けられるわけではない。先ず天狗の個体数が少ない事もあるが、天狗自身が自らの知識を教えるに値するかを吟味するからである。天狗からすれば人は脆弱で愚鈍。畜生同等なのだ。
だがその眼鏡に敵う者がいれば、話は別だ。
●『発明王の生まれ変わり』山田・勝家
「神秘解明に勤しむFiVEの覚者に、この『発明王の生まれ変わり』が良き情報を持ってきたぞ」
五麟学園の入り口に立つのは、シルクハットに燕尾服。なんとも古風な英国紳士の姿をした覚者であった。前世持ちなのだろうが、自分の前世を『発明王』と断言しているあたり、残念さは色々お察しである。
なお名前は山田勝家というのだが、どうもそれを名乗ろうとしない。
「愛宕山の天狗伝説は知っているかね?」
得意顔で説明を開始する『発明王』。だが、全国に愛宕山はたくさんあり、その大抵に山の神様がいるのである。まずはどこの愛宕山なのか。という話から始まるのであった。要するに彼はそういう男だった。
なので要点だけかいつまむと、こういうことになる。
「かつて吾輩は仲間と共に愛宕山の天狗の教えを得ようと挑んだのだが、敢え無く断念。試練の挑戦権は一度しかないため、吾輩はもうその試練を二度と受けることができないのだ」
そこで『発明王』は天狗の事をFiVEに教えに来たのだ。天狗の存在を伝聞する事は天狗自身も了承しているという。だが、
「試練の内容を教えることはできない。『試練の内容を知らない』という事が試練を受けるための条件なのだよ」
なるほど。それは事前に知ることはできない。内容を知った時点で、挑戦権を失うからだ。
「あと入山するにあたり山の古妖が吟味の一つとして襲い掛かってくる。実力のない者はそこで振り落とされるようだ。
まあ、この『発明王の生まれ変わり』である吾輩がいれば、何ら問題はないがな」
――なお、夢見の予知では彼一人に任せた場合、古妖にボコボコにされて『1ターン目の手番が回ってくる前に、命数使用から再戦闘不能となる』ことが予知されている。
「礼? そのような者など要らぬ。これも覚者としての務め。だがどうしてもというのなら、FiVEの持つ知識を少し融通してくてもいいのだよ。いや、無理にとは言わない。いわないが、その、なんだ。色々あると思わないかね?」
こんな残念な覚者を伴い、愛宕山に向かう覚者達。
果たして、覚者達は天狗の知識を得ることができるのだろうか?
天狗。
修験者の姿をし、赤い顔に高い鼻を持つ翼をもつ人型の古妖である。
人を魔道に導く外道としての側面を持ちながら、ある地方では神として信仰されていたりもする。共通しているのは人知を超えた知識と強さを持つ存在である。その教えを受けた者の代表例として、源義経などが有名であろう。
天狗の教えを乞う者は多いが、誰もがそれを受けられるわけではない。先ず天狗の個体数が少ない事もあるが、天狗自身が自らの知識を教えるに値するかを吟味するからである。天狗からすれば人は脆弱で愚鈍。畜生同等なのだ。
だがその眼鏡に敵う者がいれば、話は別だ。
●『発明王の生まれ変わり』山田・勝家
「神秘解明に勤しむFiVEの覚者に、この『発明王の生まれ変わり』が良き情報を持ってきたぞ」
五麟学園の入り口に立つのは、シルクハットに燕尾服。なんとも古風な英国紳士の姿をした覚者であった。前世持ちなのだろうが、自分の前世を『発明王』と断言しているあたり、残念さは色々お察しである。
なお名前は山田勝家というのだが、どうもそれを名乗ろうとしない。
「愛宕山の天狗伝説は知っているかね?」
得意顔で説明を開始する『発明王』。だが、全国に愛宕山はたくさんあり、その大抵に山の神様がいるのである。まずはどこの愛宕山なのか。という話から始まるのであった。要するに彼はそういう男だった。
なので要点だけかいつまむと、こういうことになる。
「かつて吾輩は仲間と共に愛宕山の天狗の教えを得ようと挑んだのだが、敢え無く断念。試練の挑戦権は一度しかないため、吾輩はもうその試練を二度と受けることができないのだ」
そこで『発明王』は天狗の事をFiVEに教えに来たのだ。天狗の存在を伝聞する事は天狗自身も了承しているという。だが、
「試練の内容を教えることはできない。『試練の内容を知らない』という事が試練を受けるための条件なのだよ」
なるほど。それは事前に知ることはできない。内容を知った時点で、挑戦権を失うからだ。
「あと入山するにあたり山の古妖が吟味の一つとして襲い掛かってくる。実力のない者はそこで振り落とされるようだ。
まあ、この『発明王の生まれ変わり』である吾輩がいれば、何ら問題はないがな」
――なお、夢見の予知では彼一人に任せた場合、古妖にボコボコにされて『1ターン目の手番が回ってくる前に、命数使用から再戦闘不能となる』ことが予知されている。
「礼? そのような者など要らぬ。これも覚者としての務め。だがどうしてもというのなら、FiVEの持つ知識を少し融通してくてもいいのだよ。いや、無理にとは言わない。いわないが、その、なんだ。色々あると思わないかね?」
こんな残念な覚者を伴い、愛宕山に向かう覚者達。
果たして、覚者達は天狗の知識を得ることができるのだろうか?

■シナリオ詳細
■成功条件
1.『阿形』『吽形』『青鷺火』『山男』『山彦』の打破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
天狗の教えを乞うために、馬鹿と頑張ってもらいます。
●敵情報
愛宕山の古妖(×5)
愛宕山に住む古妖達です。基本的に人間には友好的ですが、天狗に会おうとするのなら戦いを挑んできます。全員人間の言葉を喋れますが、戦闘回避はできません。
曰く『山のしきたりなので、すまんのぅ』とのこと。
・阿形&吽形
門を守る狛犬です。大きさ150センチほど。互いにコンビネーションを組んで攻撃してきます。
攻撃方法
体当たり 物近単 石のような体で体当たりしてきます。ノックB
大暴れ 物近列 大暴れし、周囲の敵を傷つけます。
阿吽の仲 P 阿形と吽形の両方が戦闘可能の時、速度と回避上昇。
・青鷺火
あおさぎび。青く発光する鷺です。大きさは1メートルほど。
攻撃方法
五位の火 特近貫3 貫く炎を放ち、相手を焼きます。〔火傷〕〔100%、50%、25%〕
五位の光 特遠全 青い光で視力を奪います。〔鈍化〕〔ダメージ0〕
飛行 P 空を飛べます。〔飛行〕
・山男
山に住む毛深い半裸の大男です。身長2メートル半ほど。
攻撃方法
拳 物近単 怪力を伴った拳で殴ります。
守 P 『味方ガード』時、物防&特防上昇
・山彦
犬のような姿をした古妖。大きさ70センチほど。山に放たれた声を返すと言われている。
攻撃方法
木霊 特遠味単 術式を反射します。6ターン。〔反射〕
呼子 特遠味単 物理を反射します。6ターン。〔カウ〕
山彦 P 覚者が〔補助〕の術式を使用した時、同じタイミングでコピーして古妖に使用します。
●NPC
『発明王の生まれ変わり』山田・勝家
過去に何度か(割としょーもない経緯で)FiVEと抗戦した覚者です。前世持ちの木行。自分の前世を『発明王』と言い切るイタイ覚者。識者ぶりますが、残念さんです。試験を受けることはできませんが、道案内として同行します。お礼? 本人はいらないって言ってるんでいいんじゃないですかね。
拙作『前世知る識者が集いて、タコ殴り』『有名になれば誰かが名を騙る』などに出てきますが、ギャグ要因と見て問題ありません。
なおプレイングで指示しても、よほどうまく扱わなければ勝手に前衛に出て戦います。倒れても成功条件とか関係ないので、適当に囮にするのもありです。
『錬覇法』『葉纏』『香仇花』『捕縛蔓』『覚醒爆光』『韋駄天足』等を活性化しています。
●場所情報
京都の愛宕山。山頂に続く山道の途中。時刻は昼。人が来る可能性は皆無です。
足場や広さなどは戦闘に支障がない者とします。
戦闘開始時、敵前衛に『阿形』『吽形』『山男』が、後衛に『青鷺火』『山彦』がいます。積極的に殺そうとしない限り、戦闘で古妖が死ぬことはありません。
事前付与は不可。互いに一礼して、試合開始の形式です。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年06月26日
2016年06月26日
■メイン参加者 8人■

●
「天狗の教えですか」
階段をのぼりながら望月・夢(CL2001307)は淡々と口を開く。口数少なく感情を口に出すことが少ない夢。見た目は大人しく山を登っているだけだが、内心はその教えに興味津々だった。果たしてどのような教えが待っているのか。
「天狗にご教授願えるなんてワクワクすんな」
対してその感情を押さえることなく『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)は元気よく山を登る。鞍馬山の天狗とは違うのだろうか。同じ京都だからもしかしたら同じかもしれない。期待に胸を膨らませ、石段を進んでいく。
「テロリスト紛いや唯の化け物を相手にするよりも、余程浪漫があるな」
八重霞 頼蔵(CL2000693)は言ってから一つ頷く。FiVEの活動は世情の問題もあり治安維持が多い。血みどろの戦いと比べれば、確かに見識深い古妖との交流は浪漫があるのは確かだ。もっとも、その前に一つ障害が待っているのだが。
「多くの古妖達が時代に合わせた在り方を模索している中、天狗は古からのその在り方を変えていないのですね」
山の頂を見ながら、『水天』水瀬 冬佳(CL2000762)はそこから吹く風を感じていた。遥か昔から変わらぬこの自然のように、天狗もまた己の在り方を変えていない。それは自然と共に生きる事。行雲流水。その在り方には、敬意を覚える。
まだ見ぬ天狗に期待する中、その情報を持ってきた勝家に対してはけんもほろろだった。然もありなん。今までの経緯もあるが、比べる事すらおこがましい。月にスッポン。提灯に釣り鐘。雲泥の差だ。
「……またアナタなの?」
冷ややかな目で『霧の名の鬼を咎める者』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)が勝家を見る。どこぞの人間に騙された勝家と戦った経緯があり、その信頼はないに等しかった。また騙されているのではないだろうか?
「話を独り占めせず持ってきたのには、何かウラがあるのでは無いかと疑ってしまうのだがな」
若干不信を見せながら『星狩り』一色・満月(CL2000044)が勝家に目をやる。功名心が高い勝家のことだ。何か企んでいるのではないだろうか。夢見の情報と合致しても、どこか不安が残るのは事実だ。
「山田さんが、ちゃんとした情報を、持ってきた……!?」
その事に驚きを隠さない『二兎の救い手』明石 ミュエル(CL2000172)。その驚きは出発から今まで何度も確認を取るほどである。だが今までの経緯を考えれば、むしろミュエルの行動は当然であろう。ある意味、築かれた『信頼関係』ともいえる。
「はぁい勝家、また会ったわね。調子はどう?」
唯一疑いなく接するのは『デブリフロウズ』那須川・夏実(CL2000197)だ。彼女は純粋に再会と天狗の情報を喜んでいた。クールでできる女を目指しているとはいえ、その根っこは純粋な心を持った子供という事なのだろうか。
「ふ、無論吾輩は絶好調だ! さあ、あそこで古妖が待っているぞ」
勝家が指さす先には、踊り場のような場所で宴に興じている古妖達の姿。天狗に入山の連絡を受け、はせ参じたのだ。
「おお、来たか人間達。一応聞くが、ここから先は天狗様の領域だ。天狗の教えを受けるつもりじゃないなら、退き返した方が身のためだぞ」
山男の問いかけに、戦意を示すことで答える覚者。仕方ないなぁ、とばかりに古妖達は所定の位置につく。
互いに一礼したのち、古妖と覚者は動き出す。
●
「全員まとめて女帝の前に跪かせてあげるわ。覚悟なさい?」
静かな笑みと共にエメレンツィアが動く。前世との絆を強く意識し、心身の強化に努める。目の前に並ぶのは少し古妖を研究すれば耳に入ってくる著名な古妖だ。だからこそ挑む価値がある。
赤いドレスを翻し、水の源素を手のひらに集めるエメレンツィア。開始直後の今なら覚者の体力に余裕はある。手のひらを横なぎに払い、荒波を発生させて古妖を巻き込む。圧倒的な水の殴打が、古妖達を一気に打ち据える。
「降参はいつでも受け入れますわ。どうされます?」
「なんのこの程度。それに天狗様の御目通りはこうするのが山のしきたり。最後まで戦おう」
「古くからのしきたり、ですか。――悪くないですね、そういうのも」
味方を守りに入る山男を見ながら冬佳が抜刀する。覚醒し、銀に染まった髪を揺らしながら、敵陣に真っ直ぐ向かっていく。神事を司る家の娘なだけあって、古きしきたりを重んじる者達には敬意を表していた。その結果生まれる障害さえも、試練と割り切って。
無名の刀を抜き放ち、正眼に構える、心は凪いだ湖のように穏やかに。一瞬静止したかと思わせる冬佳の動きは、しかし次の瞬間に二拍子を刻む。大上段からの唐竹と、翻して下から上への逆風。代々受け継がれた刀術を誇るように構えなおす。
「戦術の要は貴方のようです。先に潰させてもらいます」
「そう簡単に潰せるかな。かかってこい!」
「言われずとも。全力で挑ませてもらうぞ、古妖殿」
礼の後に刀を抜き、満月が走る。赤く染まった瞳で戦場を注視しながら、意識は戦いに向ける。負けるつもりで戦いはしないが、勝ち負けの結果はどうでもいい。戦う事、それ自体が満月の目的なのだ。
山男に向かい刀を向けて、間合いを詰める。突撃の勢いを殺さぬように横一文字に刀を振るった。刃の線が走ったかと思えば、次の瞬間に古妖に傷が走る。共に悪意などない。互いを切磋琢磨するため、本気で相手と切り結ぶ。
「この戦いは一色満月個人として挑むのだ。FiVEや十天は関係ない」
「一応吾輩はFiVEの為にという意向で伝えたのだがなぁ」
「……あ、そうか……山田さん、悪意はないもんね……」
相対するときは騙されてるか情報不足なだけで、とミュエルは心の中で付け足した。この自意識過剰な覚者との付き合いは長い。けして悪人ではないが、単に人の言うことを聞かないだけだと。それが厄介なのだが。
手にした術式ノートを開き、それを見ながら源素を巡らせる。清潔な風にかぐわしい香を乗せて、ミュエルは香りを振りまいた。心身ともにリラックスする芳香が覚者に広がり、体を蝕む術に対する抵抗力をあげていく。
「こういう、力試しみたいなの……慣れてないけど、頑張る……」
「アタシも慣れないのよねー。後ろで光ってるだけで終わらないかなー」
「古妖にも色々あるのですね」
青鷺火の言葉に、世の秘密を知ったとばかりに頷く夢。攻撃的な能力を持ってはいるが、それを扱う性格が攻撃的とは限らないのだ。とはいえ放置はできない。後ろの方で輝いているだけでも、厄介な相手には違いないのだから。
神具を手にして背筋を伸ばす。身体の中心に真っ直ぐな線を入れて、それを軸に舞う夢。それは神秘の力を込めた舞。リズム、音、手の角度、そう言った全てが記号となって力を増してゆく。美しい舞は覚者に力を与えていき、味方全体の戦闘力を増していく。
「みなさん頑張ってください。私が支援します」
「おー。あの舞は返せそうにないなー」
「やはり体術はコピーできないようだな」
山彦の動きを見ながら頼蔵は神具を構える。夢見の予知通り、山彦が返せるのは補助術式のみのようだ。それを確認して前に出る。荒事は得意ではないが、この先に得るであろう知識を考えればこれも仕方のない事か。そう自分を納得させる。
右手にサーベル、左手にハンドガン。二つの神具を手に頼蔵は古妖に迫る。牽制とばかりにハンドガンの引き金を引いて山男の足元を穿つ。逃げ道を封鎖したまま、反対の手で持つサーベルを振るった。サーベルを持つ手に手ごたえを感じ、山男の鮮血が舞う。
「最大火力で攻めるのみ」
「「無論、だがそれは我らも同じこと!」」
「喋るのも阿吽の呼吸なんやな」
ステレオで喋る阿形&吽形に納得しながら凛が抜刀する。銘は『朱焔』。刀匠である自分の祖先が打った刀で、燃え盛る焔のような刃紋を持っている。凜が持つのは影打で、真打は焔陰流の継承者が持つことができるのだ。流派継承の為に、今は修行あるのみ。
突くように刀を肩の位置で固定し、強く地面を踏みしめる。硬い石畳の感覚が伝わってくる。踏み込みと同時に放たれる突き。鋭い一撃が山男を貫き、その後ろにいる山彦にまで到達する。基礎の技を鍛錬により威力を増した鋭い突き。
「どないや。これが穿光や!」
「人の鍛錬を侮るな。成程天狗様の仰ることは正しいという事か」
「マダ山男は余裕あるワヨ! 気を付けて!」
医学知識から相手の余裕を察した夏実が味方に指示を出す。覚者の一番後ろから戦場を俯瞰し、そして指示を出す。それがエレガントな女というものだ。もっとも、そのような功名心など今の夏実にはない。純粋な仲間を思う性格で彼女は動いていた。
古妖から受けた傷を見て、水の源素を練り上げる夏実。神具を手にして精神を集中する。仲間の傷を心配しながら、心は穏やかに保つ。放たれた水の源素が覚者の傷に染み入り、傷の痛みを冷やすと同時に癒していく。
「無理しちゃダメよ! そっちと交代して!」
ダメージが一点に集中することを恐れ、前衛中衛を入れ替える覚者達。それにより、誰かにダメージが集中することはなくなった。
「見事な連携だ」
「だが我々も負けてはいないぞ!」
古妖達も覚者に負けじとばかりに牙をむく。覚者が頭を使うように、彼らもまた血を尽くして戦いに挑む。
人と古妖の闘い。その天秤は大きく揺れ始めていた。
●
「貫通攻撃と列攻撃に注意して広がって……いや、これでは」
覚者達は青鷺火の炎と阿吽の攻撃を警戒して、一列に並ばぬように陣形を取っていた。だが、それは逆に言えば、散開していることになる。一列になってない為に『壁』を作れず、その気になれば古妖が後衛に突撃されかねない。やむなく陣形を整えた。
山男に火力を集中させ、膝をつかせることに成功する覚者達。前中衛を循環させながら戦い、ダメージを適度に分散させていた。
「では吾輩の実力を見せてやろうではないか!」
「『発明王』、下がりなさい。『女帝』が命ずるわ」
目立ちたがり屋の勝家が前に出ようとするのを、エメレンツィアが制する。彼女は前中衛交代作戦が故に広くダメージを受けている仲間たちを癒すべく、回復に回っていた。貴族の威厳を示すように、透き通ったた良く通る声だ。
「何心配ご無用。この『発明王』のサーベル捌き『女帝』に捧げ――」
「ねー『発明王』ー。アナタ、見識深いじゃない? そんなアナタが戦闘中にアドバイスくれるとスゴク助かるの」
何か言いかけたエメレンツィアより先に、夏実が口を挟む。夏実もまた、回復の為に休みなく動いていた。
「でも、前衛からだと声が遠くて……でも後衛だとセッカクの力がハッキし切れないわよね。……となると、どこだとアナタの能力を全部生かせるのかしら?」
「ふ、決まっておろう。中衛で様子見ながら戦わせてもらおうではないか!」
馬鹿とハサミは何とやらである。
「……まあ、信用はされておらぬようだしな」
「すまないがこれまでのアンタをみてるとやはり一気に信用しろというのは、なかなか無理があるというところでな」
勝家の言葉に満月が答える。戦闘中に満月からの視線を感じていたのだ。『何か』するのではないかという疑いの視線を。
「構わぬよ。実の所、お互い様なのでな」
「お互いさま?」
問う満月に肩をすくめる勝家。
「FiVEに疑念を抱く組織は多い。何せ京都に突如現れた巨大覚者組織だ。その動向によっては、日本が大きく動く」
「FiVEを悪の組織だというのか?」
「世間への影響という意味だ。キミたちに自覚はなかろうが、今やFiVEは台風の目なのだよ。この暗雲を吹き飛ばし、未来に青天をもたらすか。力を振りまき、災害をもたらすか」
一外部組織から見たFiVEの感想に、皆それぞれの思いを巡らせる。
そんな幕間もありながら、戦闘は続いていく。
「ちょっとこれは……アタシも、回復する……ね」
古妖の攻撃にダメージが深くなってきたため、ミュエルは攻撃の手を止めて回復の術式を展開する。元々ミュエルの性格は、攻撃的ではない。攻めるよりも皆が怪我をしないように。そうすることで、長く戦闘を継続できることが重要だった。
「中々に、厳しい責めですね」
攻撃を受けて命数を削りながらも、健気に青鷺火の光で目がくらんだ仲間を癒す為に舞い続ける夢。光と炎によりじわじわと覚者の体力を奪っていく青鷺火の戦術。その被害を食い止めているのは大きい。
「問題ない。弾避けになれば十分だ」
古妖の攻撃で膝をつきながら、頼蔵が手で仲間を制する。自分自身をコマの一つと割り切り、冷静に戦闘全体を見る。無傷で勝てるとは最初から思っていない。立ち上がり、サーベルとハンドガンを振るう。
(目をやられたっ! こんな時こそ落ち着くんや)
青鷺火の光で視界を奪われた凛が目を閉じながら、心の平静を保とうとする。聴覚、触覚、嗅覚に意識を集中させ、自然の流れを感じ取る。大切なのはイメージすること。見えぬからこそ、わかることもある。イメージのままに刃を振るい、古妖に切りつける。
「決めさせてもらいます」
冬佳の刀が阿形に振るわれる。確かな手ごたえと共に、狛犬の一匹が地に伏した。呼吸を整え、次の目標を見る。思ったよりも消耗が少ないのは、厚い回復層の為かそれとも作戦がうまく機能しているからか。ともあれ、刀を振るうことに専念できそうだ。
覚者達は一致団結し、古妖に挑む。相手の戦術の要である山男を倒し、連携を取ってくる阿吽の片側を倒す。そうなれば古妖の火力は激減し、受ける傷も多くはなくなってくる。安定した回復により、覚者はさらに攻勢に出ることができた。
「勝星は頂くぞ、青鷺火」
最後残った古妖の青鷺火に満月が迫る。刀を向けて、一気に迫り横薙ぎに刀を振るった。炎の残渣は満月の刀からか、それとも青鷺火の物か。残渣が消えるよりも前に満月は刀を納める。納刀の音が、静かに響いた。
「感謝する。まだまだ強くならねばならぬのでな」
炎の残渣が消え、青鷺火が倒れ伏す。感謝の言葉を乗せて、満月は一礼した。
●
「皆お疲れ様! さ、治療よ!」
「手合わせが済んだ以上、互いに傷つけあう理由も御座いません」
夏実と夢が傷ついた覚者や古妖の治療に動く。この戦いは天狗の試練のための物。相手が憎くて発生したものではない。戦い終われば神具をしまい、手を取り合う。幸いというべきか、古妖はそれほど大きな傷を受けていないようだった。治療は応急処置程度で完了し、感謝の言葉を返される。
「手土産に持ってきた日本酒があるのだが、一献どうだ?」
一升瓶を両手に持ち、頼蔵が古妖達に酒をふるまう。戦闘のダメージなどなんのその。古妖と(成人した)覚者の酒盛りが始まった。お返しにとふるまわれた山男の酒は、かなり癖のある味の酒だった。だが、慣れればかなり味わい深いものだ。
「今日はありがとうな。ええ修行になったわ♪」
「此度の勝負、有意義にしよう」
刀を納め、凜と満月が古妖達に頭を下げる。強者との戦いこそが凜と満月の願い。今日という戦いが確実に経験となり、明日の動きにつながる。思い返せば反省点もあるだろう。だが、それは伸びしろなのだ。今日より強くなるための隙間。それに気づけた事も、強さの一つ。
「ん……上手くいって、よかった……」
戦いが終わり、胸をなでおろすミュエル。戦いや力比べを好む性格ではない。だが戦いが終わっても、互いに恨むことなく平和に交流する覚者と古妖。その姿を見て、ほっと胸をなでおろす。
「ところで天狗の試練の事だけど――」
天狗の試練の事を聞こうとしたエメレンツィア。だがすぐに口を閉ざす。天狗の試練を受けるための条件は『試練の内容を知らないこと』だ。ここでそれを聞いてしまえば、試験を受ける権利が消えてしまうのだ。
「試練の事なら、寺で伝えよう」
一陣の風が吹く。気が付くと、そこには修験者の姿をし、赤い顔に高い鼻を持つ翼をもつ人型の古妖が立っていた。いつ、どこから、どうやって現れたのかもわからない。だが、その古妖は確かに風と共にそこに現れたのだ。
天狗。そう呼ばれる存在。
「愛宕山の天狗――もしや、愛宕権現。愛宕修験の愛宕太郎坊天狗ですか」
冬佳は伝承からその天狗の名を推測する。日本の八大大天狗の一人。疫病災害などを人里から守る塞神にして、武運長久を司る軍神。伊邪那美から生まれた五子、火之迦具土神の化身という記載もある。
「さてな。人が私の事を何と呼ぶかは人に任せよう。私はただの山伏。種族で言えば、人が古妖と呼称する存在の一種だ」
天狗から帰ってきた答えは、そんな答え。人がどう呼ぼうが構わない。自分は山に住み、修行をする古妖なのだ。それ以上でも以下でもない。かの大天狗かもしれないし、違う天狗なのかもしれない。
「ついてきたまえ。そこで私からの試練を伝えよう」
「天狗の試練……」
開かれた山門。そこを通れば天狗の試練が待っている。
覚者達は歩く天狗の背を追うように、歩き出した。
「天狗の教えですか」
階段をのぼりながら望月・夢(CL2001307)は淡々と口を開く。口数少なく感情を口に出すことが少ない夢。見た目は大人しく山を登っているだけだが、内心はその教えに興味津々だった。果たしてどのような教えが待っているのか。
「天狗にご教授願えるなんてワクワクすんな」
対してその感情を押さえることなく『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)は元気よく山を登る。鞍馬山の天狗とは違うのだろうか。同じ京都だからもしかしたら同じかもしれない。期待に胸を膨らませ、石段を進んでいく。
「テロリスト紛いや唯の化け物を相手にするよりも、余程浪漫があるな」
八重霞 頼蔵(CL2000693)は言ってから一つ頷く。FiVEの活動は世情の問題もあり治安維持が多い。血みどろの戦いと比べれば、確かに見識深い古妖との交流は浪漫があるのは確かだ。もっとも、その前に一つ障害が待っているのだが。
「多くの古妖達が時代に合わせた在り方を模索している中、天狗は古からのその在り方を変えていないのですね」
山の頂を見ながら、『水天』水瀬 冬佳(CL2000762)はそこから吹く風を感じていた。遥か昔から変わらぬこの自然のように、天狗もまた己の在り方を変えていない。それは自然と共に生きる事。行雲流水。その在り方には、敬意を覚える。
まだ見ぬ天狗に期待する中、その情報を持ってきた勝家に対してはけんもほろろだった。然もありなん。今までの経緯もあるが、比べる事すらおこがましい。月にスッポン。提灯に釣り鐘。雲泥の差だ。
「……またアナタなの?」
冷ややかな目で『霧の名の鬼を咎める者』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)が勝家を見る。どこぞの人間に騙された勝家と戦った経緯があり、その信頼はないに等しかった。また騙されているのではないだろうか?
「話を独り占めせず持ってきたのには、何かウラがあるのでは無いかと疑ってしまうのだがな」
若干不信を見せながら『星狩り』一色・満月(CL2000044)が勝家に目をやる。功名心が高い勝家のことだ。何か企んでいるのではないだろうか。夢見の情報と合致しても、どこか不安が残るのは事実だ。
「山田さんが、ちゃんとした情報を、持ってきた……!?」
その事に驚きを隠さない『二兎の救い手』明石 ミュエル(CL2000172)。その驚きは出発から今まで何度も確認を取るほどである。だが今までの経緯を考えれば、むしろミュエルの行動は当然であろう。ある意味、築かれた『信頼関係』ともいえる。
「はぁい勝家、また会ったわね。調子はどう?」
唯一疑いなく接するのは『デブリフロウズ』那須川・夏実(CL2000197)だ。彼女は純粋に再会と天狗の情報を喜んでいた。クールでできる女を目指しているとはいえ、その根っこは純粋な心を持った子供という事なのだろうか。
「ふ、無論吾輩は絶好調だ! さあ、あそこで古妖が待っているぞ」
勝家が指さす先には、踊り場のような場所で宴に興じている古妖達の姿。天狗に入山の連絡を受け、はせ参じたのだ。
「おお、来たか人間達。一応聞くが、ここから先は天狗様の領域だ。天狗の教えを受けるつもりじゃないなら、退き返した方が身のためだぞ」
山男の問いかけに、戦意を示すことで答える覚者。仕方ないなぁ、とばかりに古妖達は所定の位置につく。
互いに一礼したのち、古妖と覚者は動き出す。
●
「全員まとめて女帝の前に跪かせてあげるわ。覚悟なさい?」
静かな笑みと共にエメレンツィアが動く。前世との絆を強く意識し、心身の強化に努める。目の前に並ぶのは少し古妖を研究すれば耳に入ってくる著名な古妖だ。だからこそ挑む価値がある。
赤いドレスを翻し、水の源素を手のひらに集めるエメレンツィア。開始直後の今なら覚者の体力に余裕はある。手のひらを横なぎに払い、荒波を発生させて古妖を巻き込む。圧倒的な水の殴打が、古妖達を一気に打ち据える。
「降参はいつでも受け入れますわ。どうされます?」
「なんのこの程度。それに天狗様の御目通りはこうするのが山のしきたり。最後まで戦おう」
「古くからのしきたり、ですか。――悪くないですね、そういうのも」
味方を守りに入る山男を見ながら冬佳が抜刀する。覚醒し、銀に染まった髪を揺らしながら、敵陣に真っ直ぐ向かっていく。神事を司る家の娘なだけあって、古きしきたりを重んじる者達には敬意を表していた。その結果生まれる障害さえも、試練と割り切って。
無名の刀を抜き放ち、正眼に構える、心は凪いだ湖のように穏やかに。一瞬静止したかと思わせる冬佳の動きは、しかし次の瞬間に二拍子を刻む。大上段からの唐竹と、翻して下から上への逆風。代々受け継がれた刀術を誇るように構えなおす。
「戦術の要は貴方のようです。先に潰させてもらいます」
「そう簡単に潰せるかな。かかってこい!」
「言われずとも。全力で挑ませてもらうぞ、古妖殿」
礼の後に刀を抜き、満月が走る。赤く染まった瞳で戦場を注視しながら、意識は戦いに向ける。負けるつもりで戦いはしないが、勝ち負けの結果はどうでもいい。戦う事、それ自体が満月の目的なのだ。
山男に向かい刀を向けて、間合いを詰める。突撃の勢いを殺さぬように横一文字に刀を振るった。刃の線が走ったかと思えば、次の瞬間に古妖に傷が走る。共に悪意などない。互いを切磋琢磨するため、本気で相手と切り結ぶ。
「この戦いは一色満月個人として挑むのだ。FiVEや十天は関係ない」
「一応吾輩はFiVEの為にという意向で伝えたのだがなぁ」
「……あ、そうか……山田さん、悪意はないもんね……」
相対するときは騙されてるか情報不足なだけで、とミュエルは心の中で付け足した。この自意識過剰な覚者との付き合いは長い。けして悪人ではないが、単に人の言うことを聞かないだけだと。それが厄介なのだが。
手にした術式ノートを開き、それを見ながら源素を巡らせる。清潔な風にかぐわしい香を乗せて、ミュエルは香りを振りまいた。心身ともにリラックスする芳香が覚者に広がり、体を蝕む術に対する抵抗力をあげていく。
「こういう、力試しみたいなの……慣れてないけど、頑張る……」
「アタシも慣れないのよねー。後ろで光ってるだけで終わらないかなー」
「古妖にも色々あるのですね」
青鷺火の言葉に、世の秘密を知ったとばかりに頷く夢。攻撃的な能力を持ってはいるが、それを扱う性格が攻撃的とは限らないのだ。とはいえ放置はできない。後ろの方で輝いているだけでも、厄介な相手には違いないのだから。
神具を手にして背筋を伸ばす。身体の中心に真っ直ぐな線を入れて、それを軸に舞う夢。それは神秘の力を込めた舞。リズム、音、手の角度、そう言った全てが記号となって力を増してゆく。美しい舞は覚者に力を与えていき、味方全体の戦闘力を増していく。
「みなさん頑張ってください。私が支援します」
「おー。あの舞は返せそうにないなー」
「やはり体術はコピーできないようだな」
山彦の動きを見ながら頼蔵は神具を構える。夢見の予知通り、山彦が返せるのは補助術式のみのようだ。それを確認して前に出る。荒事は得意ではないが、この先に得るであろう知識を考えればこれも仕方のない事か。そう自分を納得させる。
右手にサーベル、左手にハンドガン。二つの神具を手に頼蔵は古妖に迫る。牽制とばかりにハンドガンの引き金を引いて山男の足元を穿つ。逃げ道を封鎖したまま、反対の手で持つサーベルを振るった。サーベルを持つ手に手ごたえを感じ、山男の鮮血が舞う。
「最大火力で攻めるのみ」
「「無論、だがそれは我らも同じこと!」」
「喋るのも阿吽の呼吸なんやな」
ステレオで喋る阿形&吽形に納得しながら凛が抜刀する。銘は『朱焔』。刀匠である自分の祖先が打った刀で、燃え盛る焔のような刃紋を持っている。凜が持つのは影打で、真打は焔陰流の継承者が持つことができるのだ。流派継承の為に、今は修行あるのみ。
突くように刀を肩の位置で固定し、強く地面を踏みしめる。硬い石畳の感覚が伝わってくる。踏み込みと同時に放たれる突き。鋭い一撃が山男を貫き、その後ろにいる山彦にまで到達する。基礎の技を鍛錬により威力を増した鋭い突き。
「どないや。これが穿光や!」
「人の鍛錬を侮るな。成程天狗様の仰ることは正しいという事か」
「マダ山男は余裕あるワヨ! 気を付けて!」
医学知識から相手の余裕を察した夏実が味方に指示を出す。覚者の一番後ろから戦場を俯瞰し、そして指示を出す。それがエレガントな女というものだ。もっとも、そのような功名心など今の夏実にはない。純粋な仲間を思う性格で彼女は動いていた。
古妖から受けた傷を見て、水の源素を練り上げる夏実。神具を手にして精神を集中する。仲間の傷を心配しながら、心は穏やかに保つ。放たれた水の源素が覚者の傷に染み入り、傷の痛みを冷やすと同時に癒していく。
「無理しちゃダメよ! そっちと交代して!」
ダメージが一点に集中することを恐れ、前衛中衛を入れ替える覚者達。それにより、誰かにダメージが集中することはなくなった。
「見事な連携だ」
「だが我々も負けてはいないぞ!」
古妖達も覚者に負けじとばかりに牙をむく。覚者が頭を使うように、彼らもまた血を尽くして戦いに挑む。
人と古妖の闘い。その天秤は大きく揺れ始めていた。
●
「貫通攻撃と列攻撃に注意して広がって……いや、これでは」
覚者達は青鷺火の炎と阿吽の攻撃を警戒して、一列に並ばぬように陣形を取っていた。だが、それは逆に言えば、散開していることになる。一列になってない為に『壁』を作れず、その気になれば古妖が後衛に突撃されかねない。やむなく陣形を整えた。
山男に火力を集中させ、膝をつかせることに成功する覚者達。前中衛を循環させながら戦い、ダメージを適度に分散させていた。
「では吾輩の実力を見せてやろうではないか!」
「『発明王』、下がりなさい。『女帝』が命ずるわ」
目立ちたがり屋の勝家が前に出ようとするのを、エメレンツィアが制する。彼女は前中衛交代作戦が故に広くダメージを受けている仲間たちを癒すべく、回復に回っていた。貴族の威厳を示すように、透き通ったた良く通る声だ。
「何心配ご無用。この『発明王』のサーベル捌き『女帝』に捧げ――」
「ねー『発明王』ー。アナタ、見識深いじゃない? そんなアナタが戦闘中にアドバイスくれるとスゴク助かるの」
何か言いかけたエメレンツィアより先に、夏実が口を挟む。夏実もまた、回復の為に休みなく動いていた。
「でも、前衛からだと声が遠くて……でも後衛だとセッカクの力がハッキし切れないわよね。……となると、どこだとアナタの能力を全部生かせるのかしら?」
「ふ、決まっておろう。中衛で様子見ながら戦わせてもらおうではないか!」
馬鹿とハサミは何とやらである。
「……まあ、信用はされておらぬようだしな」
「すまないがこれまでのアンタをみてるとやはり一気に信用しろというのは、なかなか無理があるというところでな」
勝家の言葉に満月が答える。戦闘中に満月からの視線を感じていたのだ。『何か』するのではないかという疑いの視線を。
「構わぬよ。実の所、お互い様なのでな」
「お互いさま?」
問う満月に肩をすくめる勝家。
「FiVEに疑念を抱く組織は多い。何せ京都に突如現れた巨大覚者組織だ。その動向によっては、日本が大きく動く」
「FiVEを悪の組織だというのか?」
「世間への影響という意味だ。キミたちに自覚はなかろうが、今やFiVEは台風の目なのだよ。この暗雲を吹き飛ばし、未来に青天をもたらすか。力を振りまき、災害をもたらすか」
一外部組織から見たFiVEの感想に、皆それぞれの思いを巡らせる。
そんな幕間もありながら、戦闘は続いていく。
「ちょっとこれは……アタシも、回復する……ね」
古妖の攻撃にダメージが深くなってきたため、ミュエルは攻撃の手を止めて回復の術式を展開する。元々ミュエルの性格は、攻撃的ではない。攻めるよりも皆が怪我をしないように。そうすることで、長く戦闘を継続できることが重要だった。
「中々に、厳しい責めですね」
攻撃を受けて命数を削りながらも、健気に青鷺火の光で目がくらんだ仲間を癒す為に舞い続ける夢。光と炎によりじわじわと覚者の体力を奪っていく青鷺火の戦術。その被害を食い止めているのは大きい。
「問題ない。弾避けになれば十分だ」
古妖の攻撃で膝をつきながら、頼蔵が手で仲間を制する。自分自身をコマの一つと割り切り、冷静に戦闘全体を見る。無傷で勝てるとは最初から思っていない。立ち上がり、サーベルとハンドガンを振るう。
(目をやられたっ! こんな時こそ落ち着くんや)
青鷺火の光で視界を奪われた凛が目を閉じながら、心の平静を保とうとする。聴覚、触覚、嗅覚に意識を集中させ、自然の流れを感じ取る。大切なのはイメージすること。見えぬからこそ、わかることもある。イメージのままに刃を振るい、古妖に切りつける。
「決めさせてもらいます」
冬佳の刀が阿形に振るわれる。確かな手ごたえと共に、狛犬の一匹が地に伏した。呼吸を整え、次の目標を見る。思ったよりも消耗が少ないのは、厚い回復層の為かそれとも作戦がうまく機能しているからか。ともあれ、刀を振るうことに専念できそうだ。
覚者達は一致団結し、古妖に挑む。相手の戦術の要である山男を倒し、連携を取ってくる阿吽の片側を倒す。そうなれば古妖の火力は激減し、受ける傷も多くはなくなってくる。安定した回復により、覚者はさらに攻勢に出ることができた。
「勝星は頂くぞ、青鷺火」
最後残った古妖の青鷺火に満月が迫る。刀を向けて、一気に迫り横薙ぎに刀を振るった。炎の残渣は満月の刀からか、それとも青鷺火の物か。残渣が消えるよりも前に満月は刀を納める。納刀の音が、静かに響いた。
「感謝する。まだまだ強くならねばならぬのでな」
炎の残渣が消え、青鷺火が倒れ伏す。感謝の言葉を乗せて、満月は一礼した。
●
「皆お疲れ様! さ、治療よ!」
「手合わせが済んだ以上、互いに傷つけあう理由も御座いません」
夏実と夢が傷ついた覚者や古妖の治療に動く。この戦いは天狗の試練のための物。相手が憎くて発生したものではない。戦い終われば神具をしまい、手を取り合う。幸いというべきか、古妖はそれほど大きな傷を受けていないようだった。治療は応急処置程度で完了し、感謝の言葉を返される。
「手土産に持ってきた日本酒があるのだが、一献どうだ?」
一升瓶を両手に持ち、頼蔵が古妖達に酒をふるまう。戦闘のダメージなどなんのその。古妖と(成人した)覚者の酒盛りが始まった。お返しにとふるまわれた山男の酒は、かなり癖のある味の酒だった。だが、慣れればかなり味わい深いものだ。
「今日はありがとうな。ええ修行になったわ♪」
「此度の勝負、有意義にしよう」
刀を納め、凜と満月が古妖達に頭を下げる。強者との戦いこそが凜と満月の願い。今日という戦いが確実に経験となり、明日の動きにつながる。思い返せば反省点もあるだろう。だが、それは伸びしろなのだ。今日より強くなるための隙間。それに気づけた事も、強さの一つ。
「ん……上手くいって、よかった……」
戦いが終わり、胸をなでおろすミュエル。戦いや力比べを好む性格ではない。だが戦いが終わっても、互いに恨むことなく平和に交流する覚者と古妖。その姿を見て、ほっと胸をなでおろす。
「ところで天狗の試練の事だけど――」
天狗の試練の事を聞こうとしたエメレンツィア。だがすぐに口を閉ざす。天狗の試練を受けるための条件は『試練の内容を知らないこと』だ。ここでそれを聞いてしまえば、試験を受ける権利が消えてしまうのだ。
「試練の事なら、寺で伝えよう」
一陣の風が吹く。気が付くと、そこには修験者の姿をし、赤い顔に高い鼻を持つ翼をもつ人型の古妖が立っていた。いつ、どこから、どうやって現れたのかもわからない。だが、その古妖は確かに風と共にそこに現れたのだ。
天狗。そう呼ばれる存在。
「愛宕山の天狗――もしや、愛宕権現。愛宕修験の愛宕太郎坊天狗ですか」
冬佳は伝承からその天狗の名を推測する。日本の八大大天狗の一人。疫病災害などを人里から守る塞神にして、武運長久を司る軍神。伊邪那美から生まれた五子、火之迦具土神の化身という記載もある。
「さてな。人が私の事を何と呼ぶかは人に任せよう。私はただの山伏。種族で言えば、人が古妖と呼称する存在の一種だ」
天狗から帰ってきた答えは、そんな答え。人がどう呼ぼうが構わない。自分は山に住み、修行をする古妖なのだ。それ以上でも以下でもない。かの大天狗かもしれないし、違う天狗なのかもしれない。
「ついてきたまえ。そこで私からの試練を伝えよう」
「天狗の試練……」
開かれた山門。そこを通れば天狗の試練が待っている。
覚者達は歩く天狗の背を追うように、歩き出した。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
どくどくです。
何この回復量!?
今回参加者は、次回の【天狗伝説】の予約優先権が与えられます。
次回『【天狗伝説】一日で炎を絶って見せてみよ』はすぐに出る予定です。
それではまた、天狗の山で。
何この回復量!?
今回参加者は、次回の【天狗伝説】の予約優先権が与えられます。
次回『【天狗伝説】一日で炎を絶って見せてみよ』はすぐに出る予定です。
それではまた、天狗の山で。
