ジャイアントベビーアザラシ!
●あざらしの赤子は白くてふわっふわしてる
「みんな、大変だよ! 動物系妖がね……!」
久方 万里(nCL2000005)が会議室に飛び込んできたもんだからなんだいまた動物かいと思った途端に万里がフォトプレートをドン!
真っ白いアザラシの赤ちゃんがつぶらな瞳となんか困ったかんじの眉毛をキュッとさせて寝転んでいる写真をドン!
比較対象として軽自動車をドン!
「自動車の二倍はあるべびざらしなんだよ!」
話を整理しよう。
昨今やや暑くなってきた東北地方の海沿い町にこの妖は出現した。
高さ3メートルのこいつは気分次第であっちへコロコロこっちへコロコロ。これがノーマルサイズならわーキャーワウィーとか言いながらシャメってた所だがこいつは車が潰れるサイズである。
近隣住民は貴重品だけもってダッシュで退却。AAAがソッコーで出動したがつぶらな瞳と体重にやられて退却。ここはファイヴの出番だろってな流れである。
「このべびざらしに潰されれば勿論重いよ。ダメージもあるしね。でも……でも……たぶん……ふわっふわだよ!」
「みんな、大変だよ! 動物系妖がね……!」
久方 万里(nCL2000005)が会議室に飛び込んできたもんだからなんだいまた動物かいと思った途端に万里がフォトプレートをドン!
真っ白いアザラシの赤ちゃんがつぶらな瞳となんか困ったかんじの眉毛をキュッとさせて寝転んでいる写真をドン!
比較対象として軽自動車をドン!
「自動車の二倍はあるべびざらしなんだよ!」
話を整理しよう。
昨今やや暑くなってきた東北地方の海沿い町にこの妖は出現した。
高さ3メートルのこいつは気分次第であっちへコロコロこっちへコロコロ。これがノーマルサイズならわーキャーワウィーとか言いながらシャメってた所だがこいつは車が潰れるサイズである。
近隣住民は貴重品だけもってダッシュで退却。AAAがソッコーで出動したがつぶらな瞳と体重にやられて退却。ここはファイヴの出番だろってな流れである。
「このべびざらしに潰されれば勿論重いよ。ダメージもあるしね。でも……でも……たぶん……ふわっふわだよ!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.べびざらし妖を倒す
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
現在空き地になっている野原に誘導し、コロコロさせているところのようです。そこへ直で向かって対応しましょう。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
9/9
9/9
公開日
2016年06月19日
2016年06月19日
■メイン参加者 9人■

●
軽く海沿いに作られたゴルフ場。妖が跋扈する昨今、ただでさえバブル時代の産物だったゴルフ場は片っ端から経営破綻で野良の草原地帯と化していた。
そんな草原に。
「うわーっ! おっきなもふもふさんだー!」
『鬼籍あるいは奇跡』御影・きせき(CL2001110)は両手を広げて叫んだ。
斜めに傾いた巨大なベビーアザラシにである。
「もふもふしていいかな、おじさん!」
「いいぞー」
『金狼』ゲイル・レオンハート(CL2000415)はほくほく顔できせきの頭を撫でた。遊園地に子供を連れてきたと見せかけて自分も楽しむ親みたいな構図だった。
「俺は待っていた。こういう仕事を……」
「そう、ゆるキャラ燃やすだけでお金貰えるボロい仕事を」
目をギラリとやる国生 かりん(CL2001391)。
「んっ?」
「えっ?」
しばし違いを観察しあった後、かりんはススーっと下がった。
「じゃ、アタシ時間潰してるから」
「わかった。その間にキモいアザラシ殺しとくぜ」
「リードザエアー」
入れ替わりにポン刀ぶら下げて歩き出す十河 瑛太(CL2000437)を、かりんは後ろ襟つまんで止めた。
その様子をじっと観察する梶浦 恵(CL2000944)。
「覚者の自由思想は時として齟齬を招きますね」
ノートを開き、眼鏡の位置を直す。
後ろから『スーパー事務員』田中 倖(CL2001407)が顔を出した。
「おや、あなたは研究所の。お久しぶりです」
「そういうあなたは事務員の……」
同じ土地を職場にしながら職務柄滅多に顔を合わせない二人である。
「僕も覚者。人々への危険をなくすため、妖退治のお仕事も受けておこもふもふきゃわいいよほおぉー!」
「せめて最後まで言ってから正気を無くしてください」
あのように、と指さす恵に促されて振り返ると、南条 棄々(CL2000459)が息を荒げて腕をぷるぷるさせていた。
「べび! ざらし! ふわふわ! ころころ! もっこもこぉ! ……ハッ」
ぴたりと動きを止める棄々。
「ごめんね。少し取り乱してしまったわ」
「すこし?」
「いやー、でもわかるわコレ、反則やろ!」
『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)は頭をかりかりやりながらべびざらしを眺めていた。
「特につぶらな瞳があかん。あれ見たらノックアウトするやつや」
「ノックアウト上等ッス!」
モヒカントゲパッドが『ヒャッハーもう我慢できねえ』とか言ってる時の動きで『猪突猛進』葛城 舞子(CL2001275)が口元をぬぐった。
「モフるッス! 葛城舞子、逝きまーす!」
そして舞子は両手を挙げてヒャッハーし、寝返りをうったべびざらしにもふっと潰された。
●夏雲に 毛皮もそよげ べびざらし(どくどく先輩に配慮して没にしたタイトル)
妖は人類の敵である。
なんか知らないけど本能的に殺しにかかってくるし、いい奴とか絶対いない都合のいい悪役みたいな連中である。
「それじゃあ、いくよー!」
だから妖を見つけたら見敵必殺。サーチアンドデストロイである。
その実例を今お見せしている最中だってことにして頂きたい。
「捕縛蔓ー」
お子様にも分かりやすいように技名を叫んでからツタを放つきせき。
短い手をばたばたやって一生懸命這いずってきているべびざらしの背中に引っかけると、きせきはツタを毛皮を掴んでべびざらしによじ登り始めた。
その様子をカメラ片手に見守るゲイル。
「落ちないように気をつけるんだぞ!」
「うんー」
「よーしいいぞ、もうすこし上……よしそこだ!」
ゲイルはカメラのシャッターを切りまくった。べびざらしのお腹とか眉とか、腕とかしっぽとかをひたっすら撮影していた。
その横で同じくカメラのシャッターをきりまくる棄々。
「これは妖の研究資料これは妖の研究資料これは妖の研究し――今ウィンクした! 今ウィンクしたわ!」
遊園地に来て子供を撮影するとみせかけてきぐるみに夢中になっている親みたいな光景だった。
「こっちむいてー! べびざらしちゃーん! きゃー!」
死ぬほど重い設定とかキックホッパーみたいな口癖とかを忘れさせる豹変降り。棄々のファンシー好きが窺える一面である。
「前から、前からいいかしら!」
「お腹を出した所を一枚、一枚撮らせてくれ!」
「わー、ふかふかー」
言わないときっと怒られると思うから言っておくが、現在妖との熾烈な死闘の真っ最中である。
舞子はペットボトルに入ったポカリ的飲料を、腰に手をそえて一気飲みした。
「ぷえーっ、いきかえるッスー!」
「その調子であと300ミリリットル飲んでくださいね」
ノートにさらさらとメモ書きをしながら、恵は次の飲料を作っていた。
ぱっと見、スポドリ粉末を水に溶かしてシャカシャカ振っているようだが、こう見えて癒しの滴の使用シーンである。
割と瀕死だった舞子に次のドリンクを(砕いた氷で冷やしてから)渡しつつ、恵はべびざらしに視線をやった。
「妖は何らかの物体や現象、感情などを媒体にして実体化しますが……」
大量のメモ書きがついた資料をぱらぱらとめくる。
「観察するに、元となった動物はアザラシの乳幼児。それもゴマフアザラシなどの海氷上で出産する種のはず。日本の山岳地帯に生息しているはずがありませんから、海側の動物園で妖化したものが脱走したパターンが有力ですね。これが北海道であれば流氷に紛れていたアザラシが陸地に接近した際、妖化したとも考えられますが……どう思いますか」
「何でこーゆーのに夢中になれんのか全然わからねえ」
ポカリちゅるちゅるしつつ草原に腰を下ろす瑛太。本来の予定通りならソッコー攻め込んで刀に火炎付与しつつズタズタに切り裂いて軽いスナッフフィルムにしていた所だが、多分盛大なプレイング潰しに……ではなく、空気をめっちゃ悪くするだろうことは確実なので、暫く待機している状態である。
「デカいなら、蜘蛛とか鮫とかのほうがかわいいだろ。アザラシとかキモいだろ」
「いや百パー蜘蛛のほうがキモいっしょ。頭ヤバいんじゃないの」
コーラちゅるちゅるしながら言うかりん。
かりんの辞書にオブラートの文字はない。
ふにゃったポテトをもかもか頬張りつつ、スマホでゲーム遊びにふけっている。
「ねえポテトってどう思う? あきらかボッタクリだと思うんだけど」
「定義に当てはめるに、提示した値段が市場レートから大幅に逸脱しているとは思えませんね。運送と調理、食べる場所の提供まで含めればかなり低価格かと。奴隷でも雇わなければ実現しない価格帯とも言えますね」
「しじょーれーと? なんそれ」
かりんの辞書にグローバルの文字は無い。
「で、アレは? 事務員さんは?」
「あそこです」
「あああああああああもふもふうううあふううううううう!」
顔面を完全にとろけさせたウサギ耳の眼鏡男子がそこにいた。
お腹を出して転がったべびざらしにここぞとばかりに飛びつき、お腹の柔らかさと毛皮の暖かさに酔いしれる倖がいた。
「他のどの毛皮とも違う。ふわふわやわらか。いっそこのまま潰されても嬉し――モゴッ」
倖は寝返りをうったべびざらしにお腹で潰された。
ちなみにさっきまで背中で潰されていたきせきはぽえーっとした顔で野原に転がっている。
「事務員さーん! 今助けるッス! そりゃー!」
舞子がダッシュ・アンド・ヘッドスライディング。
お腹の下に腕から頭まですっぽりねじ込むと、両足をじたばたさせた。
「うおーこの感触ぅー! 我が人生にいっぺんの悔いなしッスー!」
「だーっ、いつまでねじ込んどるんや! 流石にノックダウンしてまうで!」
舞子と倖の足を掴んでずりずり引きずり出す凛。
ちらりとべびざらしを見る。と、べびざらしはゆっくりと瞬きした。
「あ、あかん……そんな目でみたらあかんて……そんな黒目がちでうるうるした目ぇされたらあたしかて……あたしかて……」
暫くぷるぷるした後、凛はべびざらしに向かってダイブした。
「うおー! じっとしてられへーん!」
●
「おじちゃん大丈夫ー?」
きせきが急須でお茶をいれていた。
「あ、ああ……むしろご褒美だ……」
「ごほーび?」
湯飲みを受け取って、ぐいっとあおるゲイル。
陶器の急須を使ってはいるが氷水から出したお茶である。清涼感が喉から胸へと流れていく。
樹の雫。植物の生命力を凝縮した雫を与える事で体力を回復させます。(マニュアルの説明文をコピペしています)
「そう、抱きついて潰されることでふわふわとむにむにが合わさって最強になるの……これからうける依頼、もう毎日これでいいわ……」
転がりながら行ったり来たりを繰り返すべびざらしにぽにょんぽにょん踏まれつつ、棄々が至福の表情を浮かべた。体勢的にも表情的にもマッサージ店にいる時の顔である。
「ダメージには回復ッスよ回復!」
そんな棄々のそばにかけより、栄養ドリンクめいた茶色い瓶をガキッとねじ開ける舞子。
ストローをさして突き出すと、棄々はストローの先端をくわえてちゅーちゅーした。
癒しの滴。神秘の力を豊富に含んだ滴を生成し対象のHPを回復します。(マニュアルの説明文を以下略)
「こっちも一緒にいいか」
「はいッスー!」
舞子はアロマ加湿器に香瓶を注ぎ込んでスイッチオン。
癒しの霧。回復効果のある霧を周囲に広げ味方全体のHPを回復します。(マニュアル以下略)
スキル名と台詞をコピペするばかりのきわめて機械的かつスロッピーな戦闘シーンをお送りしております。
その間後ろの方で体育座りしてる瑛太とかりん。
「いつまで待たなきゃいけねーんだ?」
「気が済むまでじゃね」
かりんはスマホのゲームをやめてメールチェックに勤しんでいた。
「うわあのメールタクミからだったのかぁ。金払いいいけどしつこすぎ。今のうちにメール書いとこ」
「今送ればいいだろ」
「日本の電波環境なめんなっての。送受信エラーで死ぬほどパケ代食うっての。後で電話ボックスから送るっつの」
リール式の光回線アダプタを指でくるくるするかりん。
「じゃあなんでスマホなんか持ってんだよ」
「ポケベルより便利だからに決まってんでしょ」
折角なので説明するが、90年代にはパソコンを公衆電話の対応モジュラジャックに繋いでパソコン通信するというインターネットのはしりみたいなものがあった。後にインターネットが一般開放されるに当たってIP式電話というインターネット回線を利用したものが出始め当然インターネットにも接続できるわけだが……妖出てからの日本でも電通さんが絡んでくるから設定が語りづらい部分なのである。ご容赦頂きたい。
さて、脇道外れはこのくらいにして。
「もうそろそろ、頃合いかと思いますが」
「いえもう暫く……」
恵が湿布薬を倖の背中にぺたぺたと貼っていた。
「可愛らしくてうっかり全滅、ということはないようにお願いしますね」
「ええ、分かっています。分かっていますとも」
倖は自分の頭からさがった耳を軽く握った。
「僕の耳はラビットファーなのですよ。とても心地よくて、発現して間もない頃は感動したものです。しかしべびざらしさんはそれ以上。赤子の柔肌を包むに相応しい毛皮。本当に素晴らしい……」
はたと手を離す倖。
「しかし、それでも倒さねばならないのは、惜しいですね。殺生をしているようで」
「そのことですが……」
恵は眼鏡を押し上げて言った。
「手があるやもしれません」
「くそー! もふもふのふわふわやないかー!」
べびざらしに抱きつき、ひたっすらほおずりする凛の姿があった。
その凛を振り払おうというのか、ひたっすらころころ草原を転がるべびざらしの姿もあった。
でもってその様子を遠目に眺め、うずうずするゲイルたちの姿もあった。
「あかん! 潰されるのが快感になってきた! ヤバいあたし!」
「それは見た分かる」
「もう少し! もう少ししたら攻撃するから、今は回復したってや!」
うあーとか言いながらべびざらしと共に転がる凛を、ゲイルたちは温かい目で見守った。
見守りついでに水鉄砲で凛をびしびし狙ったり、バケツをかぶせたりした。これが回復描写だって言って、信じて貰えるだろうか。
しかし相手は妖。倒さねばならぬ定め。
凛はひとしきり堪能したあと、ごろごろと離脱してから口元をぬぐった。
「行くで。そろそろ、しまいや」
●これが妖と戦闘する依頼だってことを裁判で主張するためのシーン
「それじゃあ倒しちゃおっかー!」
きせきは刀を両手に抜くと、転がるべびざらしめがけて飛びかかった。
「えーい!」
クロススラッシュ。十字に刻まれたべびざらしの表皮はぱっくりとはじけ、吹き上がる鮮血が芝生を染めた。
きせきは赤いシャワーを、まるでプールで水遊びでもしているかのように浴びている。
「やっと出番かよ。待ちくたびれたぜ」
瑛太は刀とナイフをバーナーで炙ると、真っ赤に燃え上がった刃を翳して突撃。
転がるべびざらしの後方に回り込んで足ひれを無理矢理に切り裂いた。悲鳴をあげるべびざらし。
「うるせえ。好きでもねー見た目に俺が惑わされるかよ!」
ナイフを深々と突き刺し、肉や魚をさばく要領で切り開いていく。
「うわグロ。萌え萌えすんのもキャラじゃないけどこっちもアタシのキャラじゃないってゆーか……」
炎を拳に纏わせて殴りつけるかりん。
「うう、こっちが悪人みたいッス……」
「こらえるのよ。これも妖、あいにくあたしにはコレしかないし……」
舞子や棄々も戦闘に加わっていく。
「そうです。こんなに可愛いくても妖。こんなに可愛くてもあやか――うわーん!」
倖に至っては両手で顔を覆いながらべびざらしを蹴りつけていた。
「すまん、お前のもふもふ、忘れへんで! せめて苦しまずに逝ってや!」
凛は刀の峰打ちを仕掛け、べびざらしをたたき伏せた。
もきゅーという悲鳴と共にかすむように消えていくべびざらし。
「くっ、この時間のなんと苦しきことか……」
軽く普段の口調を忘れたゲイルが顔を覆ってむせた。
ハッとして顔を上げる。
「いやまてよ。去年ごろの報告書で読んだことがある。ランクの低い生物系妖が元の生物に戻るという……」
「気持ちありき、とは思いますが」
恵は消えゆくべびざらしにそっと手を触れた。
「お父さんお母さんの所へ、帰りましょう」
「きゅう……」
べびざらしは消滅する寸前、光に包まれた。
光はやがて消え、そこには通常サイズのべびざらし。もとい普通のべびざらしが転がっていた。
「うおー!」
飛びついて抱きしめるゲイル。
「うちの子にしよう!」
「いえ、その子には親がちゃんといますよ」
地図本を開き、一番近い動物園を指し示す恵。
「まずは保護して、連れて行きましょう」
「……」
コーラのストローをくわえてずずーっと鳴らすかりん。
「なんこれ、初めて見たんだけど」
「目撃されるケースが少ないので、そういう方も多いですね」
恵はノートをめくった。
「妖は特殊なエネルギーが様々なものを媒体として実体化したものとされています。しかしエネルギーがつきれば実体が消えるため、『妖の死体』というものは存在しません。犬の妖を殺せば犬の死体が、ネコの妖を殺せばネコの死体が残るとされています。ただし……」
いくつかのページを開いて見せる。
「愛情や呼びかけのしかたによっては、生きたままの状態で妖のエネルギーだけを除去することが可能なようです。およそ一年前にF.i.V.Eが解明した神秘情報ですが」
氷水で満たした水槽にべびざらしを入れる恵。
「そういうわけですから皆さん、ご安心を。この子にはまた会えますよ」
こうして覚者たちは無事に妖を撃退し、元になったべびざらしも動物園へと返された。
あと一ヶ月もすれば、元気に成長したアザラシになるだろう。
軽く海沿いに作られたゴルフ場。妖が跋扈する昨今、ただでさえバブル時代の産物だったゴルフ場は片っ端から経営破綻で野良の草原地帯と化していた。
そんな草原に。
「うわーっ! おっきなもふもふさんだー!」
『鬼籍あるいは奇跡』御影・きせき(CL2001110)は両手を広げて叫んだ。
斜めに傾いた巨大なベビーアザラシにである。
「もふもふしていいかな、おじさん!」
「いいぞー」
『金狼』ゲイル・レオンハート(CL2000415)はほくほく顔できせきの頭を撫でた。遊園地に子供を連れてきたと見せかけて自分も楽しむ親みたいな構図だった。
「俺は待っていた。こういう仕事を……」
「そう、ゆるキャラ燃やすだけでお金貰えるボロい仕事を」
目をギラリとやる国生 かりん(CL2001391)。
「んっ?」
「えっ?」
しばし違いを観察しあった後、かりんはススーっと下がった。
「じゃ、アタシ時間潰してるから」
「わかった。その間にキモいアザラシ殺しとくぜ」
「リードザエアー」
入れ替わりにポン刀ぶら下げて歩き出す十河 瑛太(CL2000437)を、かりんは後ろ襟つまんで止めた。
その様子をじっと観察する梶浦 恵(CL2000944)。
「覚者の自由思想は時として齟齬を招きますね」
ノートを開き、眼鏡の位置を直す。
後ろから『スーパー事務員』田中 倖(CL2001407)が顔を出した。
「おや、あなたは研究所の。お久しぶりです」
「そういうあなたは事務員の……」
同じ土地を職場にしながら職務柄滅多に顔を合わせない二人である。
「僕も覚者。人々への危険をなくすため、妖退治のお仕事も受けておこもふもふきゃわいいよほおぉー!」
「せめて最後まで言ってから正気を無くしてください」
あのように、と指さす恵に促されて振り返ると、南条 棄々(CL2000459)が息を荒げて腕をぷるぷるさせていた。
「べび! ざらし! ふわふわ! ころころ! もっこもこぉ! ……ハッ」
ぴたりと動きを止める棄々。
「ごめんね。少し取り乱してしまったわ」
「すこし?」
「いやー、でもわかるわコレ、反則やろ!」
『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)は頭をかりかりやりながらべびざらしを眺めていた。
「特につぶらな瞳があかん。あれ見たらノックアウトするやつや」
「ノックアウト上等ッス!」
モヒカントゲパッドが『ヒャッハーもう我慢できねえ』とか言ってる時の動きで『猪突猛進』葛城 舞子(CL2001275)が口元をぬぐった。
「モフるッス! 葛城舞子、逝きまーす!」
そして舞子は両手を挙げてヒャッハーし、寝返りをうったべびざらしにもふっと潰された。
●夏雲に 毛皮もそよげ べびざらし(どくどく先輩に配慮して没にしたタイトル)
妖は人類の敵である。
なんか知らないけど本能的に殺しにかかってくるし、いい奴とか絶対いない都合のいい悪役みたいな連中である。
「それじゃあ、いくよー!」
だから妖を見つけたら見敵必殺。サーチアンドデストロイである。
その実例を今お見せしている最中だってことにして頂きたい。
「捕縛蔓ー」
お子様にも分かりやすいように技名を叫んでからツタを放つきせき。
短い手をばたばたやって一生懸命這いずってきているべびざらしの背中に引っかけると、きせきはツタを毛皮を掴んでべびざらしによじ登り始めた。
その様子をカメラ片手に見守るゲイル。
「落ちないように気をつけるんだぞ!」
「うんー」
「よーしいいぞ、もうすこし上……よしそこだ!」
ゲイルはカメラのシャッターを切りまくった。べびざらしのお腹とか眉とか、腕とかしっぽとかをひたっすら撮影していた。
その横で同じくカメラのシャッターをきりまくる棄々。
「これは妖の研究資料これは妖の研究資料これは妖の研究し――今ウィンクした! 今ウィンクしたわ!」
遊園地に来て子供を撮影するとみせかけてきぐるみに夢中になっている親みたいな光景だった。
「こっちむいてー! べびざらしちゃーん! きゃー!」
死ぬほど重い設定とかキックホッパーみたいな口癖とかを忘れさせる豹変降り。棄々のファンシー好きが窺える一面である。
「前から、前からいいかしら!」
「お腹を出した所を一枚、一枚撮らせてくれ!」
「わー、ふかふかー」
言わないときっと怒られると思うから言っておくが、現在妖との熾烈な死闘の真っ最中である。
舞子はペットボトルに入ったポカリ的飲料を、腰に手をそえて一気飲みした。
「ぷえーっ、いきかえるッスー!」
「その調子であと300ミリリットル飲んでくださいね」
ノートにさらさらとメモ書きをしながら、恵は次の飲料を作っていた。
ぱっと見、スポドリ粉末を水に溶かしてシャカシャカ振っているようだが、こう見えて癒しの滴の使用シーンである。
割と瀕死だった舞子に次のドリンクを(砕いた氷で冷やしてから)渡しつつ、恵はべびざらしに視線をやった。
「妖は何らかの物体や現象、感情などを媒体にして実体化しますが……」
大量のメモ書きがついた資料をぱらぱらとめくる。
「観察するに、元となった動物はアザラシの乳幼児。それもゴマフアザラシなどの海氷上で出産する種のはず。日本の山岳地帯に生息しているはずがありませんから、海側の動物園で妖化したものが脱走したパターンが有力ですね。これが北海道であれば流氷に紛れていたアザラシが陸地に接近した際、妖化したとも考えられますが……どう思いますか」
「何でこーゆーのに夢中になれんのか全然わからねえ」
ポカリちゅるちゅるしつつ草原に腰を下ろす瑛太。本来の予定通りならソッコー攻め込んで刀に火炎付与しつつズタズタに切り裂いて軽いスナッフフィルムにしていた所だが、多分盛大なプレイング潰しに……ではなく、空気をめっちゃ悪くするだろうことは確実なので、暫く待機している状態である。
「デカいなら、蜘蛛とか鮫とかのほうがかわいいだろ。アザラシとかキモいだろ」
「いや百パー蜘蛛のほうがキモいっしょ。頭ヤバいんじゃないの」
コーラちゅるちゅるしながら言うかりん。
かりんの辞書にオブラートの文字はない。
ふにゃったポテトをもかもか頬張りつつ、スマホでゲーム遊びにふけっている。
「ねえポテトってどう思う? あきらかボッタクリだと思うんだけど」
「定義に当てはめるに、提示した値段が市場レートから大幅に逸脱しているとは思えませんね。運送と調理、食べる場所の提供まで含めればかなり低価格かと。奴隷でも雇わなければ実現しない価格帯とも言えますね」
「しじょーれーと? なんそれ」
かりんの辞書にグローバルの文字は無い。
「で、アレは? 事務員さんは?」
「あそこです」
「あああああああああもふもふうううあふううううううう!」
顔面を完全にとろけさせたウサギ耳の眼鏡男子がそこにいた。
お腹を出して転がったべびざらしにここぞとばかりに飛びつき、お腹の柔らかさと毛皮の暖かさに酔いしれる倖がいた。
「他のどの毛皮とも違う。ふわふわやわらか。いっそこのまま潰されても嬉し――モゴッ」
倖は寝返りをうったべびざらしにお腹で潰された。
ちなみにさっきまで背中で潰されていたきせきはぽえーっとした顔で野原に転がっている。
「事務員さーん! 今助けるッス! そりゃー!」
舞子がダッシュ・アンド・ヘッドスライディング。
お腹の下に腕から頭まですっぽりねじ込むと、両足をじたばたさせた。
「うおーこの感触ぅー! 我が人生にいっぺんの悔いなしッスー!」
「だーっ、いつまでねじ込んどるんや! 流石にノックダウンしてまうで!」
舞子と倖の足を掴んでずりずり引きずり出す凛。
ちらりとべびざらしを見る。と、べびざらしはゆっくりと瞬きした。
「あ、あかん……そんな目でみたらあかんて……そんな黒目がちでうるうるした目ぇされたらあたしかて……あたしかて……」
暫くぷるぷるした後、凛はべびざらしに向かってダイブした。
「うおー! じっとしてられへーん!」
●
「おじちゃん大丈夫ー?」
きせきが急須でお茶をいれていた。
「あ、ああ……むしろご褒美だ……」
「ごほーび?」
湯飲みを受け取って、ぐいっとあおるゲイル。
陶器の急須を使ってはいるが氷水から出したお茶である。清涼感が喉から胸へと流れていく。
樹の雫。植物の生命力を凝縮した雫を与える事で体力を回復させます。(マニュアルの説明文をコピペしています)
「そう、抱きついて潰されることでふわふわとむにむにが合わさって最強になるの……これからうける依頼、もう毎日これでいいわ……」
転がりながら行ったり来たりを繰り返すべびざらしにぽにょんぽにょん踏まれつつ、棄々が至福の表情を浮かべた。体勢的にも表情的にもマッサージ店にいる時の顔である。
「ダメージには回復ッスよ回復!」
そんな棄々のそばにかけより、栄養ドリンクめいた茶色い瓶をガキッとねじ開ける舞子。
ストローをさして突き出すと、棄々はストローの先端をくわえてちゅーちゅーした。
癒しの滴。神秘の力を豊富に含んだ滴を生成し対象のHPを回復します。(マニュアルの説明文を以下略)
「こっちも一緒にいいか」
「はいッスー!」
舞子はアロマ加湿器に香瓶を注ぎ込んでスイッチオン。
癒しの霧。回復効果のある霧を周囲に広げ味方全体のHPを回復します。(マニュアル以下略)
スキル名と台詞をコピペするばかりのきわめて機械的かつスロッピーな戦闘シーンをお送りしております。
その間後ろの方で体育座りしてる瑛太とかりん。
「いつまで待たなきゃいけねーんだ?」
「気が済むまでじゃね」
かりんはスマホのゲームをやめてメールチェックに勤しんでいた。
「うわあのメールタクミからだったのかぁ。金払いいいけどしつこすぎ。今のうちにメール書いとこ」
「今送ればいいだろ」
「日本の電波環境なめんなっての。送受信エラーで死ぬほどパケ代食うっての。後で電話ボックスから送るっつの」
リール式の光回線アダプタを指でくるくるするかりん。
「じゃあなんでスマホなんか持ってんだよ」
「ポケベルより便利だからに決まってんでしょ」
折角なので説明するが、90年代にはパソコンを公衆電話の対応モジュラジャックに繋いでパソコン通信するというインターネットのはしりみたいなものがあった。後にインターネットが一般開放されるに当たってIP式電話というインターネット回線を利用したものが出始め当然インターネットにも接続できるわけだが……妖出てからの日本でも電通さんが絡んでくるから設定が語りづらい部分なのである。ご容赦頂きたい。
さて、脇道外れはこのくらいにして。
「もうそろそろ、頃合いかと思いますが」
「いえもう暫く……」
恵が湿布薬を倖の背中にぺたぺたと貼っていた。
「可愛らしくてうっかり全滅、ということはないようにお願いしますね」
「ええ、分かっています。分かっていますとも」
倖は自分の頭からさがった耳を軽く握った。
「僕の耳はラビットファーなのですよ。とても心地よくて、発現して間もない頃は感動したものです。しかしべびざらしさんはそれ以上。赤子の柔肌を包むに相応しい毛皮。本当に素晴らしい……」
はたと手を離す倖。
「しかし、それでも倒さねばならないのは、惜しいですね。殺生をしているようで」
「そのことですが……」
恵は眼鏡を押し上げて言った。
「手があるやもしれません」
「くそー! もふもふのふわふわやないかー!」
べびざらしに抱きつき、ひたっすらほおずりする凛の姿があった。
その凛を振り払おうというのか、ひたっすらころころ草原を転がるべびざらしの姿もあった。
でもってその様子を遠目に眺め、うずうずするゲイルたちの姿もあった。
「あかん! 潰されるのが快感になってきた! ヤバいあたし!」
「それは見た分かる」
「もう少し! もう少ししたら攻撃するから、今は回復したってや!」
うあーとか言いながらべびざらしと共に転がる凛を、ゲイルたちは温かい目で見守った。
見守りついでに水鉄砲で凛をびしびし狙ったり、バケツをかぶせたりした。これが回復描写だって言って、信じて貰えるだろうか。
しかし相手は妖。倒さねばならぬ定め。
凛はひとしきり堪能したあと、ごろごろと離脱してから口元をぬぐった。
「行くで。そろそろ、しまいや」
●これが妖と戦闘する依頼だってことを裁判で主張するためのシーン
「それじゃあ倒しちゃおっかー!」
きせきは刀を両手に抜くと、転がるべびざらしめがけて飛びかかった。
「えーい!」
クロススラッシュ。十字に刻まれたべびざらしの表皮はぱっくりとはじけ、吹き上がる鮮血が芝生を染めた。
きせきは赤いシャワーを、まるでプールで水遊びでもしているかのように浴びている。
「やっと出番かよ。待ちくたびれたぜ」
瑛太は刀とナイフをバーナーで炙ると、真っ赤に燃え上がった刃を翳して突撃。
転がるべびざらしの後方に回り込んで足ひれを無理矢理に切り裂いた。悲鳴をあげるべびざらし。
「うるせえ。好きでもねー見た目に俺が惑わされるかよ!」
ナイフを深々と突き刺し、肉や魚をさばく要領で切り開いていく。
「うわグロ。萌え萌えすんのもキャラじゃないけどこっちもアタシのキャラじゃないってゆーか……」
炎を拳に纏わせて殴りつけるかりん。
「うう、こっちが悪人みたいッス……」
「こらえるのよ。これも妖、あいにくあたしにはコレしかないし……」
舞子や棄々も戦闘に加わっていく。
「そうです。こんなに可愛いくても妖。こんなに可愛くてもあやか――うわーん!」
倖に至っては両手で顔を覆いながらべびざらしを蹴りつけていた。
「すまん、お前のもふもふ、忘れへんで! せめて苦しまずに逝ってや!」
凛は刀の峰打ちを仕掛け、べびざらしをたたき伏せた。
もきゅーという悲鳴と共にかすむように消えていくべびざらし。
「くっ、この時間のなんと苦しきことか……」
軽く普段の口調を忘れたゲイルが顔を覆ってむせた。
ハッとして顔を上げる。
「いやまてよ。去年ごろの報告書で読んだことがある。ランクの低い生物系妖が元の生物に戻るという……」
「気持ちありき、とは思いますが」
恵は消えゆくべびざらしにそっと手を触れた。
「お父さんお母さんの所へ、帰りましょう」
「きゅう……」
べびざらしは消滅する寸前、光に包まれた。
光はやがて消え、そこには通常サイズのべびざらし。もとい普通のべびざらしが転がっていた。
「うおー!」
飛びついて抱きしめるゲイル。
「うちの子にしよう!」
「いえ、その子には親がちゃんといますよ」
地図本を開き、一番近い動物園を指し示す恵。
「まずは保護して、連れて行きましょう」
「……」
コーラのストローをくわえてずずーっと鳴らすかりん。
「なんこれ、初めて見たんだけど」
「目撃されるケースが少ないので、そういう方も多いですね」
恵はノートをめくった。
「妖は特殊なエネルギーが様々なものを媒体として実体化したものとされています。しかしエネルギーがつきれば実体が消えるため、『妖の死体』というものは存在しません。犬の妖を殺せば犬の死体が、ネコの妖を殺せばネコの死体が残るとされています。ただし……」
いくつかのページを開いて見せる。
「愛情や呼びかけのしかたによっては、生きたままの状態で妖のエネルギーだけを除去することが可能なようです。およそ一年前にF.i.V.Eが解明した神秘情報ですが」
氷水で満たした水槽にべびざらしを入れる恵。
「そういうわけですから皆さん、ご安心を。この子にはまた会えますよ」
こうして覚者たちは無事に妖を撃退し、元になったべびざらしも動物園へと返された。
あと一ヶ月もすれば、元気に成長したアザラシになるだろう。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
