迷家。或いは、水底の迷宮探索。
●水底の迷い家
湖の底に、その家はあった。藻に覆われ、水草が巻き付いたそれは一見すると、到底家屋には見えないが、確かにそれは家なのだ。長い年月、水底で眠り続けた古妖(迷い家)と呼ばれる存在である。
そんな古妖(迷い家)が、長い眠りから目を覚ましたのは、偶然か、或いは周辺環境の変化によるものか。
空腹を満たすため、迷い家は湖の周囲を散歩していた人間を、1人、2人と自身の中へ誘い込んだ。
それが数日前。
その日を境に、日々1人~2名ほどの人間が、迷家に食われ続けている。
ほの暗い水の底、助けを求める声は誰にも届かない。
自力で脱出しようにも、迷家の体内は、巨大な迷路の有様だった。
迂闊に歩けば、肉の槍や、胃酸に満ちた落とし穴が発動し、こちらの命を奪いにかかる。それを知った最初に喰われた人間が、後から飲まれた者たちにそれを伝えた結果、飲み込まれた都合6名は畳敷きの10畳ほどの部屋の中、座りこんで嘆くしかできないでいた。
助けを求める彼らの声は、誰の耳にも届かない。
水底で……。
ただ、悲しみだけを叫び続ける。
●水底からのSOS
「というわけでー! 今回の任務は水底の迷宮探索&行方不明者の救助だよ!」
会議室へ駆け込むなり、開口一番久方 万里(nCL2000005)はそう叫んだ。
ぺたぺたと、モニターの上に写真を貼って行く。全部で6名。恐らく、迷家に喰われ、その体内で助けを待っている者たちの顔写真なのだろう。
「今回のターゲットは古妖(迷家)。湖の底に潜んでいた古妖だね。湖に潜るなり、周囲を歩くなりしていれば向こうから襲ってくると思うから、まずは迷家の体内へ入ろうねっ☆」
外部から攻撃しても、水中では水の抵抗もあって通常時ほどのダメージは通らないだろう。ましてや、その体内には人間が6名囚われている状態だ。
まずは彼らを、地上へと引き上げることが優先となる。
「迷家の体内は迷路のようになっていて(毒)や(麻痺)、(出血)を伴う攻撃を仕掛けてくるよ。それと、迷家の内部には一部完全に水没している区画も存在しているから、注意してね。迷家の体内では、探索系のスキルも、普段ほどの精度は得られないみたい」
そう言って、万里はモニターの電源を入れた。
モニターに映ったのは、板張りの小さな部屋だ。部屋の奥には祭壇のようなものがあり、青白く光る石のようなものが安置されているのが見える。
「あれがたぶん、迷家の心臓だね。どこにあるのかは分からないけど、あれを壊せば迷家からの脱出は安全になると思う。まぁ、食べられちゃった人たちも、歩く元気くらいはあるだろうから、守りながら脱出するのでもいいけど、そこは集まったメンバーで相談かな?」
それじゃあ行ってらっしゃい、とそう告げて。
迷家探索の任務が下されたのだ。
湖の底に、その家はあった。藻に覆われ、水草が巻き付いたそれは一見すると、到底家屋には見えないが、確かにそれは家なのだ。長い年月、水底で眠り続けた古妖(迷い家)と呼ばれる存在である。
そんな古妖(迷い家)が、長い眠りから目を覚ましたのは、偶然か、或いは周辺環境の変化によるものか。
空腹を満たすため、迷い家は湖の周囲を散歩していた人間を、1人、2人と自身の中へ誘い込んだ。
それが数日前。
その日を境に、日々1人~2名ほどの人間が、迷家に食われ続けている。
ほの暗い水の底、助けを求める声は誰にも届かない。
自力で脱出しようにも、迷家の体内は、巨大な迷路の有様だった。
迂闊に歩けば、肉の槍や、胃酸に満ちた落とし穴が発動し、こちらの命を奪いにかかる。それを知った最初に喰われた人間が、後から飲まれた者たちにそれを伝えた結果、飲み込まれた都合6名は畳敷きの10畳ほどの部屋の中、座りこんで嘆くしかできないでいた。
助けを求める彼らの声は、誰の耳にも届かない。
水底で……。
ただ、悲しみだけを叫び続ける。
●水底からのSOS
「というわけでー! 今回の任務は水底の迷宮探索&行方不明者の救助だよ!」
会議室へ駆け込むなり、開口一番久方 万里(nCL2000005)はそう叫んだ。
ぺたぺたと、モニターの上に写真を貼って行く。全部で6名。恐らく、迷家に喰われ、その体内で助けを待っている者たちの顔写真なのだろう。
「今回のターゲットは古妖(迷家)。湖の底に潜んでいた古妖だね。湖に潜るなり、周囲を歩くなりしていれば向こうから襲ってくると思うから、まずは迷家の体内へ入ろうねっ☆」
外部から攻撃しても、水中では水の抵抗もあって通常時ほどのダメージは通らないだろう。ましてや、その体内には人間が6名囚われている状態だ。
まずは彼らを、地上へと引き上げることが優先となる。
「迷家の体内は迷路のようになっていて(毒)や(麻痺)、(出血)を伴う攻撃を仕掛けてくるよ。それと、迷家の内部には一部完全に水没している区画も存在しているから、注意してね。迷家の体内では、探索系のスキルも、普段ほどの精度は得られないみたい」
そう言って、万里はモニターの電源を入れた。
モニターに映ったのは、板張りの小さな部屋だ。部屋の奥には祭壇のようなものがあり、青白く光る石のようなものが安置されているのが見える。
「あれがたぶん、迷家の心臓だね。どこにあるのかは分からないけど、あれを壊せば迷家からの脱出は安全になると思う。まぁ、食べられちゃった人たちも、歩く元気くらいはあるだろうから、守りながら脱出するのでもいいけど、そこは集まったメンバーで相談かな?」
それじゃあ行ってらっしゃい、とそう告げて。
迷家探索の任務が下されたのだ。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.人命救助
2.迷家の討伐
3.なし
2.迷家の討伐
3.なし
今回は、水底に沈んだ迷宮探索。
人名救助と合わせてお楽しみください。
それでは以下詳細。
●場所
湖の底、迷家の体内迷宮。
薄暗いが、視界に問題はない。所々水没している個所もあるようだ。
湖周辺を探索していれば迷家の方から、体内へと飲み込んでくれるだろう。そうでなくとも、湖へ潜れば迷家を確認できるので、自力で侵入することも可能。
迷家内部から壁や天井を攻撃すればダメージを与えられる。浸水に注意。
●ターゲット
古妖(迷家)
湖の底に潜む、藻や水草に覆われた家屋のような古妖。
湖の傍を通りかかった人間を飲み込み、捕食しようとしている。殺意が薄く、飲み込んだ人間も今のところ無事だが、部屋から出ようとすると攻撃してくる。
酸素が薄いので、後半日もすれば囚われた人間は、皆息絶えるだろう。
人語を解さないので、対話はなどは不可能。
【槍衾】→物近単(出血)(麻痺)
肉で形成された槍を、壁や天井、床などから突き出す。
【胃酸】→特近列(毒)(麻痺)
床や壁などに胃酸で満ちた穴を生じさせる攻撃。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年06月19日
2016年06月19日
■メイン参加者 8人■

●水底から
青い空と、夏の気配を孕んだ微風。心地よい湖畔の風景。絶好の行楽日和。似合わない警察官の姿がちらほらと……。一般人の姿はない。
ここ数日、行方不明者が相次いでいるので静かなものだ。
警察官の目を盗んで、こそこそと男女が8名、湖畔へ近づく。
湖の近くに警察官の姿はない。彼らも気付いているのだ。湖の底から感じる、不吉な気配に。
警察を警戒し、湖を覗きこむ。
監視の為に、『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)が湖から目を離した、その瞬間。
しゅるり、と。
彼の足首に巻き付いたのは、肉で出来た紐だった。水面を揺らすこともなく、音一つたてることもなく、それは彼や仲間達の足元へと接近。
「………なっ!!」
言葉を発する暇もないまま。
8人は湖へと飲み込まれた。
●迷家。仄暗い迷宮。
薄暗闇。壁の向こうでは、微かな水音。ここは水の底。出入り口は見当たらない。通路はまっすぐ前へと伸びる。板張りの廊下。低めの天井。日本家屋。
「これは……心臓の音ですかね? 床や天井が一定の周期で動いています。それに、少し暖かい」
壁に手を触れ、『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)はそう呟いた。
ドクンドクンと、一定の感覚で壁や床全体が脈動しているのだ。
「とりあえずは心臓部を目指して、体内迷宮を探索しましょう」
「怪しい匂いがプンプンするな!」
腰に下げた刀の鞘に毛糸を括りつけながら『中学生』菊坂 結鹿(CL2000432)は立ち上がる。『B・B』黒崎 ヤマト(CL2001083)は、足元と壁にチョークで“×”の文字を描き込む。道に迷わないための目印だ。
さぁ、進もう、と一同が進行を開始したその時、第六感のスキルを使い、周囲の様子を窺っていた『天剣の巫女』宮川・エミリ(CL2000045)が天井目がけて刀を抜き打つ。
刃が閃き、次いで金属のぶつかり合う甲高い音が響く。
「妖……。中でもこれは悪い敵……。ならば、切り伏せるのみ、です……!」
エミリの刀と、天井から飛び出して来た肉の槍が衝突した。刃に弾かれ、逸らされた肉の槍が、エミリの足元を穿つ。
「攻撃してきたね。なに、殺る事は何時もと同じだ。さて……喰い散らかそうかね。悪食や」
愛刀の刃を一撫でし緒形 逝(CL2000156)が駆け出した。天井から、足元から、壁から、次々と肉の槍が飛び出してくる。
床に伏せ、体を逸らし、泳ぐように逝はそれらを回避していく。しかし、次々と放たれる槍衾を全て完全に回避できるものではない。ヘルメットを槍が掠め、手首を槍が貫いた。
その度に逝の刀が閃き、槍を打ち払い、斬り捨てていく。
「逝さん、あんまり飛ばしすぎないでよ。しかし、『仄』暗い水の底……中に人って考えると、ぴったり過ぎて怖いな」
先行した逝に“填気”を使用し、気力を回復させながら 宮神 羽琉(CL2001381)はその背を追って走り出した。
「人を飲み込み離さないマヨイガか……。そんなに寂しいのか? 言葉で、解決したいものなんだが」
この状態じゃ無理か、とそう囁いた『ギミックナイフ』切裂 ジャック(CL2001403)は、溜め息を一つ零して、仲間達の後を追う。
翼を広げ、ヤマトは通路を飛翔する。風を切り裂き、前へ、前へ。ヤマトの身体は発光し、薄暗い通路を明るく照らす。
「誰かいるかー! 居たら返事だけくれ! そっちに行くから! ッとと!!」
頭上から飛び出して来た槍を回避し、ヤマトは急降下。入れ替わるように、義高が跳んだ。愛用の大斧ギュターブを一閃し、肉の槍を叩き切る。
「ちっ、やたらと闇雲にそこらを攻撃できないし、ストレスたまるな……ったく」
不用意に壁を破壊すると、そこから浸水し、最悪迷宮全体が水没しかねない。酸素もあるし、一見して日本家屋の廊下なのだが、ここは紛れも無く湖の底である。
「極力、心臓までの道中は回避に専念して、出来ない時は全力防御で凌ぐようにな。反撃して浸水とか洒落に為らんからな」
進路を槍で塞がれた場合は、その限りではないが、それでも不要な攻撃は避けるべきだと逝は判断した。
刀の腹で槍を受け止め、回復役の羽琉と御菓子を前へと逃がす。
「おーい! どこだー! 助けに来たぞー!」
発見した襖を押し開き、ジャックが叫ぶ。
瞬間、ジャックの足元がぐにゃりと歪み、大きな穴が現れる。穴の中には、煙を上げる不可思議な退役が充たされていた。
咄嗟に第3の目を見開き、破眼光を放とうとするが、寸前で止めた。迂闊な攻撃は、迷家の警戒心を強め、今後の探索がやりにくくなる。更に言うのなら、黄泉の因子を持つジャックは、古妖に対して比較的友好的な性質だった。
「うわっ!」
右足が、迷家の胃液に沈む。激痛と共に、ジャックの肌は焼かれて、筋繊維が剥き出しとなった。流れた血が胃液を赤く染め上げる。
「あ、危ない……。捕らえられている人のためにも、わたし達の安全のためにも、はやく解決しないとですね」
ジャックの全身が胃液に沈む直前、手を伸ばした結鹿がジャックの腕を掴み、廊下へと引き上げた。
廊下に座り込む2人に手を貸し、立ちあがらせながらエミリは言う。
「心情として、ずっと親の敵と憎んできた妖でも、古妖のような、わかりあえるものもあることを知り、葛藤し、戸惑い、今までずっと動けませんでした。ただ、今回の古妖は害をなす純粋悪です
ためらう必要はありません。一刀のもとに切り伏せるのみ、です」
そう告げるエミリの瞳には、確かな決意と、怒りが宿っている。
エミリの視線を真正面から受け止め、ジャックは視線を下げた。
「俺は戦うのは好きじゃない。殺される覚悟が無いから、殺したくもない……。アンタみたいに、強くはない」
ギリ、と拳を握りしめる。指の隙間から零れた血が、廊下を濡らした。
エミリは口元を僅かに緩め、小さく笑う。
ジャックの迷いを、葛藤を、彼女は理解できる。いつか、彼なりの答えを見つける日が訪れるのだろう、と、未来に想いを馳せて、微笑んだのだ。
「無理はいけません。早めに回復をはかってください。捕らわれた人のためにも倒れるわけにはいかないですよ」
御菓子が両手を広げると、彼女を中心に周囲に霧が漂い始める。淡い燐光を放つその霧は、負傷者の身体に纏わり付くと、じわじわとその傷を癒していく。
探索を始めて、十数分。全力で廊下を駆け抜けたおかげで、それなりに進行できた筈だ。
だが、ここまで見かけた数部屋はどれも空っぽ。迷家に飲み込まれた一般人の姿は見えない。
「この先、道が3つに分かれていますね。どうしましょうか?」
「少しいいかな? さっきから見てたんだけど、どうも廊下毎に攻撃頻度に差があるように思うんだ。攻撃が多かったり、組み換え頻度が高い等で防衛している方に心臓があるんじゃないかな」
例えば、と羽琉は呪符を取り出し、それぞれ別の方向へと投げる。
呪符は空中で、圧縮された空気の弾丸へと変化。3つに別れた進路のそれぞれへと飛んで行く。
右の進路に放たれた呪符は、そのまま暗闇の奥へと消えて行った。
中央へと放たれた呪符は、途中で壁から突き出した肉槍に打ち消される。
左の進路へ放たれた呪符は、廊下へ入った瞬間、無数の肉槍によって防がれる。
「こんな風に……」
と、羽琉が呟いたその瞬間、迷家全体が地震のように揺れ始める。3つに分かれていた進路は、壁で塞がれ代わりに部屋が1つと、廊下が1本現れた。部屋の入口には、チョークで描かれた“×”印。
「あれは、オレが描いた目印だっ!」
と、ヤマトが叫ぶ。結鹿は、刀の鞘に付けられた毛糸を引っ張って、溜め息を零す。毛糸は、途中で切れていた。先の揺れの際、迷宮の構造が変わって、その拍子に切れたのだろう。
「まぁでも、確かに重要な通路ほど攻撃が激しいみたいだね」
逝は呟き、刀を抜く。
目前に現れた部屋の襖を開いて、その中を覗きこんだ。先ほどジャックが受けたような、落とし穴の攻撃もない。
部屋の中にはなにも無く、畳が数枚、敷かれていた。
通路を進む。別れ道に差しかかるたび、通路へ向かって遠距離攻撃をしかけることで、当たりの通路を探しながら。
順調だ。ここまで、大きな怪我をした仲間もいない。
もっとも、重要な通路ほど攻撃が激しいので、無傷とはいかないし、掠り傷というわけでもないのだが。
迷宮探索を始めて、一時間ほどが経過しただろうか。
『………誰、か、いるのか?』
無数の襖の並んだ廊下。その中の一つから、疲労し掠れ切った男性の声が聞こえた。
「ここか。皆さん、無事ですか?」
羽琉が襖を開けると、部屋の中から小さな悲鳴があがった。部屋の中には数名の男女。迷家に飲み込まれた一般人で間違いなさそうだ。
『あ、あんたらも飲み込まれたのか?』
一番前にいた中年の男が、そう声をかけてくる。
「わたしたちはあなた方の救出に来たものです。まずは落ち着いてお聞きくださいね。この部屋にさえいれば、攻撃はされないということですから、みなさんにはこちらに待機していただいて解放されるのを待っていてください。わたし、向日葵御菓子の名前にかけて必ず助け出すと、お約束します。もうしばし、ご辛抱よろしくお願いいたします」
と御菓子が事情を説明した。その間に、ジャックは持参した荷物の中から食糧や水を取り出し、飲み込まれた一般人達へと配って歩く。
「大丈夫やで。すぐに出れるから。それまで落ち着いて、な?」
歳も性別もばらばらな救助者達を見て、飲み込まれた一般人達は訝しげな表情を浮かべていた。疲労の為か、思ったほどには混乱していないように見える。
最後に羽琉が、もう少しだけ待っていてほしい、と言い残し8人は部屋を後にした。
再び、ヤマトを先頭に探索を開始する。暫く進むと、明らかに他とは色の違う通路へと差しかかった。
朱色に染まった、狭い通路。通路の奥は水の底に沈んでいるが、水底に小さな襖が見えた。鎖で封鎖された黒い襖だ。
「あれじゃねぇの?」
ヤマトは廊下へ降り立つと、迷いなく通路を進んで行く。
ヤマトに続いて、義高と逝も足を踏み出した。後衛の護衛はエミリに任せ、3人で先行し、安全を確保する為だ。
通路に踏み込んだ途端、壁の左右から肉の槍が飛び出した。次いで、足元には胃液の満ちた穴が現れる。義高と逝はそれぞれの武器で肉槍を受け止める。翼を広げたヤマトは、床板の上を滑るように滑空し、そのまま水の中へと飛び込んだ。
冷たい水が、ヤマトの身体から急速に体温を奪い取っていく。
「体が冷える……。まぁ、女子に水に潜ってもらうわけには行かないしな。男の見せ所だ!」
水底から、肉の槍がヤマトを襲う。ヤマトは肉槍へ掌を向けると、圧縮された空気の弾丸を撃ち出した。水の抵抗を受け、十全な威力では放てなかったせいか、肉槍の軌道を僅かに逸らすのみに終わった。
肉槍がヤマトの脇腹を掠め、翼を貫く。流れた血で、視界が真紅に染まった。
「翼は……水中じゃ使わねぇ」
翼を畳み、加速。次々と襲ってくる肉槍がヤマトの身体を掠めるが、ヤマトはただただ水底へと潜って行く。
「行くぜレイジングブル! あとは心臓をぶっ壊せば終わりだ!」
背中から降ろしたギターを掻き鳴らす。空気の弾丸は、まっすぐ鎖で封鎖された襖へ吸い込まれ、鎖ごと襖を撃ち破った。
襖が破壊され、溜まっていた水は部屋の中へと流れ込む。
水流に呑まれ、ヤマトの身体も部屋の中へ吸い込まれた。それを追って、仲間達も部屋の中へと駆け込んで行くのだった。
●青く輝く宝玉の部屋
「ヤマトさん、大丈夫ですか? がんばりましょう。ゴールはもうすぐですよ」
部屋の中ほどで倒れていたヤマトに駆け寄り、御菓子はその傷を治療する。部屋を見渡すと、目に入るのは祭壇だった。板張りの小さな部屋。
ヤマトに傷を手当しながら、ここが迷家の心臓部だと悟る。
「おいたが過ぎたが、チェックメイトだ。覚悟しな!」
「皆は先に部屋へ入ってな。ここはおっさんたちに任せといて」
大斧を振り回す義高が、天井や壁から突き出した肉槍を叩き切る。その様は、暴力の嵐とでも例えようか。圧倒的な怪力と、遠心力に任せた一撃を、連続して放つ。
一方逝は、床へと低く身を沈め、足元から飛び出す肉槍を刀で次々に切り落とした言った。
真っ先に駆けて行った御菓子を追って、残る仲間達も心臓部の部屋へと飛び込んで行く。
「大技を使える人は、気兼ねなく撃ってよ」
羽琉は、仲間達に填気を施し、精神力を回復させる。
まずは部屋の入口で道を切り開く役目を担った、義高と逝を。次いで、目の前を走るエミリへと填気を使用する。
「頼んだよ」
なるべく早く、迷家を倒すため。
その背を軽く叩き、事件の解決を彼女へ託す。
祭壇に供えられた青い石が明滅する。それと同時に、天井や壁から肉槍が飛び出す。特に、ヤマトと御菓子目がけて放たれた肉槍の数が多い。
「だったら凍らせるのはどうかな? 部屋が濡れているなら良く凍りそうだよね」
結鹿は素早く地面に伏せると、床板へと掌を押しつける。放たれた冷気が、水浸しになった部屋全体を凍りつかせた。
飛び出した肉槍も、ヤマトや御菓子に届く寸前で凍結し、停止した。
地面から飛び出した肉槍が、結鹿の脇腹を貫いた。凍結が間に合わなかったのだ。血を吐き、床へと倒れ込む結鹿の元へ、ジャックが駆け寄ろうとした。
が……。
「まずは心臓をっ!」
結鹿が叫ぶ。小さく一つ頷いて、ジャックはエミリと共に部屋の中央を駆け抜けた。
向かうは祭壇。迷家の心臓へ。
祭壇の背後から、無数の肉槍が放たれた。
エミリは刀を振り抜いて、肉槍を纏めて斬り捨てた。
しかし、数が多い。
「おいマヨイガ聞いてくれ!俺達はお前を殺したいわけじゃない。でもそうしないと人が助けられないなら、俺達は俺達の都合でお前を殺すかもしれない。でもそれは最終手段なんよ!! だから、俺達を解放してくれればお互い傷つかず終わる」
ジャックが叫ぶ。
しかし、彼の声は迷家には届かない。
肉槍は次々と襲い来る。いつまでも防ぎきれるものではない。傷を受け、血を流し、エミリとジャックの体力はじわじわとそがれていく。
「こんな湖に一人は寂しかったんやろ? エミリ、まっすぐ行ってくれ」
「………信じますよ」
肉槍を斬り捨て、エミリが駆ける。
次いで放たれた新たな肉槍が、エミリ目がけて襲い掛かる。
ジャックは、第3の目を開眼させると、そこから光線を放った。
光線はエミリの真横を通過し、まっすぐ祭壇の上部へと命中。祭壇ごと、肉槍の根元を穿つ。
エミリ目がけて放たれた数本の肉槍が、支えを失い床へと落ちた。
その瞬間。
僅かに一瞬だが、祭壇までの道が開く。
「害をなす純粋悪……。斬り伏せます!」
床を蹴って、跳躍。祭壇の前に着地すると同時に放たれる、目にも止まらぬ二連撃。
一瞬の静寂の後、祭壇ごと青い石……迷家の心臓は切り裂かれ、塵と化した。
それと同時……。
つい直前まで感じていた、迷家の鼓動が止まる。
「困りました。古妖でもこうして害をなすものがいることをまた知り……また悩みどころが増えました。
私はどうすればいいのでしょうか」
刀を鞘に納め、エミリはぼんやりと虚空を仰ぐ。天井や壁には小さな罅。少しずつだが、迷家が崩壊しているのだ。
そんなエミリの背後に歩み寄り、ジャックは言った。
「やさしさは忘れない。人外だろうと同じ」
「……」
エミリとジャック。
古妖に対し、それぞれ違った想いを持った2人の視線が交差する。
それから……。
言葉を交わすことはなく、2人は部屋を後にする。
まずは、迷家に囚われた一般人を、地上へと送り返すため。妨害のなくなった通路を、仲間達と共に引き返すのだった。
青い空と、夏の気配を孕んだ微風。心地よい湖畔の風景。絶好の行楽日和。似合わない警察官の姿がちらほらと……。一般人の姿はない。
ここ数日、行方不明者が相次いでいるので静かなものだ。
警察官の目を盗んで、こそこそと男女が8名、湖畔へ近づく。
湖の近くに警察官の姿はない。彼らも気付いているのだ。湖の底から感じる、不吉な気配に。
警察を警戒し、湖を覗きこむ。
監視の為に、『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)が湖から目を離した、その瞬間。
しゅるり、と。
彼の足首に巻き付いたのは、肉で出来た紐だった。水面を揺らすこともなく、音一つたてることもなく、それは彼や仲間達の足元へと接近。
「………なっ!!」
言葉を発する暇もないまま。
8人は湖へと飲み込まれた。
●迷家。仄暗い迷宮。
薄暗闇。壁の向こうでは、微かな水音。ここは水の底。出入り口は見当たらない。通路はまっすぐ前へと伸びる。板張りの廊下。低めの天井。日本家屋。
「これは……心臓の音ですかね? 床や天井が一定の周期で動いています。それに、少し暖かい」
壁に手を触れ、『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)はそう呟いた。
ドクンドクンと、一定の感覚で壁や床全体が脈動しているのだ。
「とりあえずは心臓部を目指して、体内迷宮を探索しましょう」
「怪しい匂いがプンプンするな!」
腰に下げた刀の鞘に毛糸を括りつけながら『中学生』菊坂 結鹿(CL2000432)は立ち上がる。『B・B』黒崎 ヤマト(CL2001083)は、足元と壁にチョークで“×”の文字を描き込む。道に迷わないための目印だ。
さぁ、進もう、と一同が進行を開始したその時、第六感のスキルを使い、周囲の様子を窺っていた『天剣の巫女』宮川・エミリ(CL2000045)が天井目がけて刀を抜き打つ。
刃が閃き、次いで金属のぶつかり合う甲高い音が響く。
「妖……。中でもこれは悪い敵……。ならば、切り伏せるのみ、です……!」
エミリの刀と、天井から飛び出して来た肉の槍が衝突した。刃に弾かれ、逸らされた肉の槍が、エミリの足元を穿つ。
「攻撃してきたね。なに、殺る事は何時もと同じだ。さて……喰い散らかそうかね。悪食や」
愛刀の刃を一撫でし緒形 逝(CL2000156)が駆け出した。天井から、足元から、壁から、次々と肉の槍が飛び出してくる。
床に伏せ、体を逸らし、泳ぐように逝はそれらを回避していく。しかし、次々と放たれる槍衾を全て完全に回避できるものではない。ヘルメットを槍が掠め、手首を槍が貫いた。
その度に逝の刀が閃き、槍を打ち払い、斬り捨てていく。
「逝さん、あんまり飛ばしすぎないでよ。しかし、『仄』暗い水の底……中に人って考えると、ぴったり過ぎて怖いな」
先行した逝に“填気”を使用し、気力を回復させながら 宮神 羽琉(CL2001381)はその背を追って走り出した。
「人を飲み込み離さないマヨイガか……。そんなに寂しいのか? 言葉で、解決したいものなんだが」
この状態じゃ無理か、とそう囁いた『ギミックナイフ』切裂 ジャック(CL2001403)は、溜め息を一つ零して、仲間達の後を追う。
翼を広げ、ヤマトは通路を飛翔する。風を切り裂き、前へ、前へ。ヤマトの身体は発光し、薄暗い通路を明るく照らす。
「誰かいるかー! 居たら返事だけくれ! そっちに行くから! ッとと!!」
頭上から飛び出して来た槍を回避し、ヤマトは急降下。入れ替わるように、義高が跳んだ。愛用の大斧ギュターブを一閃し、肉の槍を叩き切る。
「ちっ、やたらと闇雲にそこらを攻撃できないし、ストレスたまるな……ったく」
不用意に壁を破壊すると、そこから浸水し、最悪迷宮全体が水没しかねない。酸素もあるし、一見して日本家屋の廊下なのだが、ここは紛れも無く湖の底である。
「極力、心臓までの道中は回避に専念して、出来ない時は全力防御で凌ぐようにな。反撃して浸水とか洒落に為らんからな」
進路を槍で塞がれた場合は、その限りではないが、それでも不要な攻撃は避けるべきだと逝は判断した。
刀の腹で槍を受け止め、回復役の羽琉と御菓子を前へと逃がす。
「おーい! どこだー! 助けに来たぞー!」
発見した襖を押し開き、ジャックが叫ぶ。
瞬間、ジャックの足元がぐにゃりと歪み、大きな穴が現れる。穴の中には、煙を上げる不可思議な退役が充たされていた。
咄嗟に第3の目を見開き、破眼光を放とうとするが、寸前で止めた。迂闊な攻撃は、迷家の警戒心を強め、今後の探索がやりにくくなる。更に言うのなら、黄泉の因子を持つジャックは、古妖に対して比較的友好的な性質だった。
「うわっ!」
右足が、迷家の胃液に沈む。激痛と共に、ジャックの肌は焼かれて、筋繊維が剥き出しとなった。流れた血が胃液を赤く染め上げる。
「あ、危ない……。捕らえられている人のためにも、わたし達の安全のためにも、はやく解決しないとですね」
ジャックの全身が胃液に沈む直前、手を伸ばした結鹿がジャックの腕を掴み、廊下へと引き上げた。
廊下に座り込む2人に手を貸し、立ちあがらせながらエミリは言う。
「心情として、ずっと親の敵と憎んできた妖でも、古妖のような、わかりあえるものもあることを知り、葛藤し、戸惑い、今までずっと動けませんでした。ただ、今回の古妖は害をなす純粋悪です
ためらう必要はありません。一刀のもとに切り伏せるのみ、です」
そう告げるエミリの瞳には、確かな決意と、怒りが宿っている。
エミリの視線を真正面から受け止め、ジャックは視線を下げた。
「俺は戦うのは好きじゃない。殺される覚悟が無いから、殺したくもない……。アンタみたいに、強くはない」
ギリ、と拳を握りしめる。指の隙間から零れた血が、廊下を濡らした。
エミリは口元を僅かに緩め、小さく笑う。
ジャックの迷いを、葛藤を、彼女は理解できる。いつか、彼なりの答えを見つける日が訪れるのだろう、と、未来に想いを馳せて、微笑んだのだ。
「無理はいけません。早めに回復をはかってください。捕らわれた人のためにも倒れるわけにはいかないですよ」
御菓子が両手を広げると、彼女を中心に周囲に霧が漂い始める。淡い燐光を放つその霧は、負傷者の身体に纏わり付くと、じわじわとその傷を癒していく。
探索を始めて、十数分。全力で廊下を駆け抜けたおかげで、それなりに進行できた筈だ。
だが、ここまで見かけた数部屋はどれも空っぽ。迷家に飲み込まれた一般人の姿は見えない。
「この先、道が3つに分かれていますね。どうしましょうか?」
「少しいいかな? さっきから見てたんだけど、どうも廊下毎に攻撃頻度に差があるように思うんだ。攻撃が多かったり、組み換え頻度が高い等で防衛している方に心臓があるんじゃないかな」
例えば、と羽琉は呪符を取り出し、それぞれ別の方向へと投げる。
呪符は空中で、圧縮された空気の弾丸へと変化。3つに別れた進路のそれぞれへと飛んで行く。
右の進路に放たれた呪符は、そのまま暗闇の奥へと消えて行った。
中央へと放たれた呪符は、途中で壁から突き出した肉槍に打ち消される。
左の進路へ放たれた呪符は、廊下へ入った瞬間、無数の肉槍によって防がれる。
「こんな風に……」
と、羽琉が呟いたその瞬間、迷家全体が地震のように揺れ始める。3つに分かれていた進路は、壁で塞がれ代わりに部屋が1つと、廊下が1本現れた。部屋の入口には、チョークで描かれた“×”印。
「あれは、オレが描いた目印だっ!」
と、ヤマトが叫ぶ。結鹿は、刀の鞘に付けられた毛糸を引っ張って、溜め息を零す。毛糸は、途中で切れていた。先の揺れの際、迷宮の構造が変わって、その拍子に切れたのだろう。
「まぁでも、確かに重要な通路ほど攻撃が激しいみたいだね」
逝は呟き、刀を抜く。
目前に現れた部屋の襖を開いて、その中を覗きこんだ。先ほどジャックが受けたような、落とし穴の攻撃もない。
部屋の中にはなにも無く、畳が数枚、敷かれていた。
通路を進む。別れ道に差しかかるたび、通路へ向かって遠距離攻撃をしかけることで、当たりの通路を探しながら。
順調だ。ここまで、大きな怪我をした仲間もいない。
もっとも、重要な通路ほど攻撃が激しいので、無傷とはいかないし、掠り傷というわけでもないのだが。
迷宮探索を始めて、一時間ほどが経過しただろうか。
『………誰、か、いるのか?』
無数の襖の並んだ廊下。その中の一つから、疲労し掠れ切った男性の声が聞こえた。
「ここか。皆さん、無事ですか?」
羽琉が襖を開けると、部屋の中から小さな悲鳴があがった。部屋の中には数名の男女。迷家に飲み込まれた一般人で間違いなさそうだ。
『あ、あんたらも飲み込まれたのか?』
一番前にいた中年の男が、そう声をかけてくる。
「わたしたちはあなた方の救出に来たものです。まずは落ち着いてお聞きくださいね。この部屋にさえいれば、攻撃はされないということですから、みなさんにはこちらに待機していただいて解放されるのを待っていてください。わたし、向日葵御菓子の名前にかけて必ず助け出すと、お約束します。もうしばし、ご辛抱よろしくお願いいたします」
と御菓子が事情を説明した。その間に、ジャックは持参した荷物の中から食糧や水を取り出し、飲み込まれた一般人達へと配って歩く。
「大丈夫やで。すぐに出れるから。それまで落ち着いて、な?」
歳も性別もばらばらな救助者達を見て、飲み込まれた一般人達は訝しげな表情を浮かべていた。疲労の為か、思ったほどには混乱していないように見える。
最後に羽琉が、もう少しだけ待っていてほしい、と言い残し8人は部屋を後にした。
再び、ヤマトを先頭に探索を開始する。暫く進むと、明らかに他とは色の違う通路へと差しかかった。
朱色に染まった、狭い通路。通路の奥は水の底に沈んでいるが、水底に小さな襖が見えた。鎖で封鎖された黒い襖だ。
「あれじゃねぇの?」
ヤマトは廊下へ降り立つと、迷いなく通路を進んで行く。
ヤマトに続いて、義高と逝も足を踏み出した。後衛の護衛はエミリに任せ、3人で先行し、安全を確保する為だ。
通路に踏み込んだ途端、壁の左右から肉の槍が飛び出した。次いで、足元には胃液の満ちた穴が現れる。義高と逝はそれぞれの武器で肉槍を受け止める。翼を広げたヤマトは、床板の上を滑るように滑空し、そのまま水の中へと飛び込んだ。
冷たい水が、ヤマトの身体から急速に体温を奪い取っていく。
「体が冷える……。まぁ、女子に水に潜ってもらうわけには行かないしな。男の見せ所だ!」
水底から、肉の槍がヤマトを襲う。ヤマトは肉槍へ掌を向けると、圧縮された空気の弾丸を撃ち出した。水の抵抗を受け、十全な威力では放てなかったせいか、肉槍の軌道を僅かに逸らすのみに終わった。
肉槍がヤマトの脇腹を掠め、翼を貫く。流れた血で、視界が真紅に染まった。
「翼は……水中じゃ使わねぇ」
翼を畳み、加速。次々と襲ってくる肉槍がヤマトの身体を掠めるが、ヤマトはただただ水底へと潜って行く。
「行くぜレイジングブル! あとは心臓をぶっ壊せば終わりだ!」
背中から降ろしたギターを掻き鳴らす。空気の弾丸は、まっすぐ鎖で封鎖された襖へ吸い込まれ、鎖ごと襖を撃ち破った。
襖が破壊され、溜まっていた水は部屋の中へと流れ込む。
水流に呑まれ、ヤマトの身体も部屋の中へ吸い込まれた。それを追って、仲間達も部屋の中へと駆け込んで行くのだった。
●青く輝く宝玉の部屋
「ヤマトさん、大丈夫ですか? がんばりましょう。ゴールはもうすぐですよ」
部屋の中ほどで倒れていたヤマトに駆け寄り、御菓子はその傷を治療する。部屋を見渡すと、目に入るのは祭壇だった。板張りの小さな部屋。
ヤマトに傷を手当しながら、ここが迷家の心臓部だと悟る。
「おいたが過ぎたが、チェックメイトだ。覚悟しな!」
「皆は先に部屋へ入ってな。ここはおっさんたちに任せといて」
大斧を振り回す義高が、天井や壁から突き出した肉槍を叩き切る。その様は、暴力の嵐とでも例えようか。圧倒的な怪力と、遠心力に任せた一撃を、連続して放つ。
一方逝は、床へと低く身を沈め、足元から飛び出す肉槍を刀で次々に切り落とした言った。
真っ先に駆けて行った御菓子を追って、残る仲間達も心臓部の部屋へと飛び込んで行く。
「大技を使える人は、気兼ねなく撃ってよ」
羽琉は、仲間達に填気を施し、精神力を回復させる。
まずは部屋の入口で道を切り開く役目を担った、義高と逝を。次いで、目の前を走るエミリへと填気を使用する。
「頼んだよ」
なるべく早く、迷家を倒すため。
その背を軽く叩き、事件の解決を彼女へ託す。
祭壇に供えられた青い石が明滅する。それと同時に、天井や壁から肉槍が飛び出す。特に、ヤマトと御菓子目がけて放たれた肉槍の数が多い。
「だったら凍らせるのはどうかな? 部屋が濡れているなら良く凍りそうだよね」
結鹿は素早く地面に伏せると、床板へと掌を押しつける。放たれた冷気が、水浸しになった部屋全体を凍りつかせた。
飛び出した肉槍も、ヤマトや御菓子に届く寸前で凍結し、停止した。
地面から飛び出した肉槍が、結鹿の脇腹を貫いた。凍結が間に合わなかったのだ。血を吐き、床へと倒れ込む結鹿の元へ、ジャックが駆け寄ろうとした。
が……。
「まずは心臓をっ!」
結鹿が叫ぶ。小さく一つ頷いて、ジャックはエミリと共に部屋の中央を駆け抜けた。
向かうは祭壇。迷家の心臓へ。
祭壇の背後から、無数の肉槍が放たれた。
エミリは刀を振り抜いて、肉槍を纏めて斬り捨てた。
しかし、数が多い。
「おいマヨイガ聞いてくれ!俺達はお前を殺したいわけじゃない。でもそうしないと人が助けられないなら、俺達は俺達の都合でお前を殺すかもしれない。でもそれは最終手段なんよ!! だから、俺達を解放してくれればお互い傷つかず終わる」
ジャックが叫ぶ。
しかし、彼の声は迷家には届かない。
肉槍は次々と襲い来る。いつまでも防ぎきれるものではない。傷を受け、血を流し、エミリとジャックの体力はじわじわとそがれていく。
「こんな湖に一人は寂しかったんやろ? エミリ、まっすぐ行ってくれ」
「………信じますよ」
肉槍を斬り捨て、エミリが駆ける。
次いで放たれた新たな肉槍が、エミリ目がけて襲い掛かる。
ジャックは、第3の目を開眼させると、そこから光線を放った。
光線はエミリの真横を通過し、まっすぐ祭壇の上部へと命中。祭壇ごと、肉槍の根元を穿つ。
エミリ目がけて放たれた数本の肉槍が、支えを失い床へと落ちた。
その瞬間。
僅かに一瞬だが、祭壇までの道が開く。
「害をなす純粋悪……。斬り伏せます!」
床を蹴って、跳躍。祭壇の前に着地すると同時に放たれる、目にも止まらぬ二連撃。
一瞬の静寂の後、祭壇ごと青い石……迷家の心臓は切り裂かれ、塵と化した。
それと同時……。
つい直前まで感じていた、迷家の鼓動が止まる。
「困りました。古妖でもこうして害をなすものがいることをまた知り……また悩みどころが増えました。
私はどうすればいいのでしょうか」
刀を鞘に納め、エミリはぼんやりと虚空を仰ぐ。天井や壁には小さな罅。少しずつだが、迷家が崩壊しているのだ。
そんなエミリの背後に歩み寄り、ジャックは言った。
「やさしさは忘れない。人外だろうと同じ」
「……」
エミリとジャック。
古妖に対し、それぞれ違った想いを持った2人の視線が交差する。
それから……。
言葉を交わすことはなく、2人は部屋を後にする。
まずは、迷家に囚われた一般人を、地上へと送り返すため。妨害のなくなった通路を、仲間達と共に引き返すのだった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
