【カカシキ譚】鍛造鬼の九ツ柱
●カカシキ鍛造法
「私が受け継いだカカシキ鍛造法は一子相伝。昔幕府に取りつぶされたことから世から姿を隠すためのきまりよ」
カフェテーブルで語る蓮華に、クーがカップを置いて言った。
「失礼ですが、鍛造法を伝えずに消し去ればよかったのでは?」
「同じ質問を私もしたわ。パパはこう答えた。『たとえ世界から憎まれても、自分の子供を殺せる親がいるかい?』」
「なるほど」
瞑目するクー。成が会話を引き継ぐ。
「しかし鍛造法は盗まれた。あの諸共嚥下という元弟子に」
「けれど劣化コピーよ。種を介さず直接妖刀を生み出すし、鍛造鬼を必要としない。その分性能も低いけど、その辺の神具刀よりは強いものができるでしょうね」
お茶をすする樹香。
「話はおもしろいが……専門用語らしきものが挟まっていて理解ができん」
「はあ? そのくらい察しなさいよね! でも説明不足なのは悪……ゴニョゴニョ」
「なんじゃ?」
「なんでもないわよ!」
コーヒーを飲み干して蓮華は続けた。
「元々カカシキっていうのは都につく妖を退治するために考えられて……あー妖っていうのは今出てる妖じゃなくて、元々妖っていうのは古妖で、古妖といっても古い妖って意味じゃあああああああああもおおおおややっこいいいいい!!」
蓮華はコーヒーカップをテーブルに叩き付けた。
砕け散るカップ。狼狽するカフェのマスター。
平謝りする聖華たち。
「誰よこの名前考えた奴! バッカなんじゃないの!?」
「まあそう言わずに。とにかく話は分かったよ。余のきさきにならない?」
「うるさい!」
持ち手だけになったカップをプリンスに投げつける蓮華。
「そ、そんなこと急に言うんじゃ無いわよ! ちょっといいかもって思っ……ゴニョゴニョ」
「なんて?」
「なんでもない!」
新しくきたコーヒーを飲み干そうとしてやけどする蓮華。
「昔の都のチンカスどもをそぎ取る刀よ」
「ぜんぜんわかんないけどもうそれでいいや」
「……」
成は昔でいうところの『妖』が人々の邪念や妄執が寄り集まった妖怪のたぐいだと知っていたが、深くは語らなかった。
がたっと立ち上がる遥。
「話終わったか!? じゃあ勝負しようぜ!」
「終わってないわよ!」
空のカップを投げつける蓮華。キャッチする遥。
零がじーっと見てくるので、蓮華は咳払いした。
「長くなるから色々省いて話すけど、カカシキ妖刀は本来九本までしか作れないの。
『鍛造鬼』っていう大きな柱に入って、特定のものを担保にして刀の種に命を込める儀式が必要になるんだけど……。
これが九つしかなくて、一度使ったら刀がなくなるまで開かないからなの。
それで、これが『種』よ」
蓮華は刀の柄部分しかないものをアテンドから取り出してテーブルにぶちまけた。
「ひーふーみー……八つあるね」
指さしで数える零。
「私に協力してくれるっていうんなら、今から八本分のカカシキ妖刀を鍛造してもらうわ」
鍛造法はこうである。
まず一人ずつ鍛造鬼という巨大な柱に入る。
柱の中は半径約10メートルの円形空間が存在している。
特殊な術で施錠されるため出入りはできない。
中に入ったら『自分の身体より大切なもの』を宣言する。
それが担保となり、『鬼』が出現。
これを倒すことで手持ちの『種』に鬼が宿り、契約状態となるのだ。
「鬼の強さは捧げたものの重さによって変わるわ。冒険したくなかったら『百万円の現金』くらいにしときなさい。一人で簡単に倒せる鬼が出てくるだろうから。その代わり『芽吹き』はこないでしょうけどね」
『芽吹き』とは、種が妖刀として完成される状態のことだ。
契約状態の種は持ち主を見定めるという。
つまり今回作るのは種のみ。
それが芽吹くかどうかは今後の行動次第ということになるだろう。
「担保って言ったけど、それはどういう意味なの? 捧げたらなくなっちゃうの?」
当然の疑問を述べる渚。
「担保は担保よ。それを使わない限り刀は存在し続ける。逆にそれを使ってしまったら、契約が破棄されて刀も消滅するわ。私で例えるなら……」
上唇を舐めて、蓮華は言った。
「愛のあるキスをしたら、この刀は消えて無くなるわ」
「…………」
思わず自分の唇を触る渚。
「え、じゃあ『逸家断欒』は?」
「あれは偽の鍛造法。捧げたものが鬼によって消滅させられる。その代わりノーリスクで妖刀を作れるわ。自分を強化させるために自滅することになるから、明石組は捨て駒要員にだけ刀を作らせているの」
「それで、自滅しなくてすむ真の鍛造法を求めてるというわけですか。わかりました」
クーたちはこくりと頷いた。
「一度に九本の枠が埋まったとなれば、向こうはなんとしても倒そうとするはずよ」
「つまり、相手の居場所を探ること無く向こうからホイホイさせるって寸法か」
「めんどくさくなくていいな! 乗ったぜ!」
聖華はぐっと拳を握り、立ち上がった。
「早速行こうぜ、おまえんちにさ!」
「私が受け継いだカカシキ鍛造法は一子相伝。昔幕府に取りつぶされたことから世から姿を隠すためのきまりよ」
カフェテーブルで語る蓮華に、クーがカップを置いて言った。
「失礼ですが、鍛造法を伝えずに消し去ればよかったのでは?」
「同じ質問を私もしたわ。パパはこう答えた。『たとえ世界から憎まれても、自分の子供を殺せる親がいるかい?』」
「なるほど」
瞑目するクー。成が会話を引き継ぐ。
「しかし鍛造法は盗まれた。あの諸共嚥下という元弟子に」
「けれど劣化コピーよ。種を介さず直接妖刀を生み出すし、鍛造鬼を必要としない。その分性能も低いけど、その辺の神具刀よりは強いものができるでしょうね」
お茶をすする樹香。
「話はおもしろいが……専門用語らしきものが挟まっていて理解ができん」
「はあ? そのくらい察しなさいよね! でも説明不足なのは悪……ゴニョゴニョ」
「なんじゃ?」
「なんでもないわよ!」
コーヒーを飲み干して蓮華は続けた。
「元々カカシキっていうのは都につく妖を退治するために考えられて……あー妖っていうのは今出てる妖じゃなくて、元々妖っていうのは古妖で、古妖といっても古い妖って意味じゃあああああああああもおおおおややっこいいいいい!!」
蓮華はコーヒーカップをテーブルに叩き付けた。
砕け散るカップ。狼狽するカフェのマスター。
平謝りする聖華たち。
「誰よこの名前考えた奴! バッカなんじゃないの!?」
「まあそう言わずに。とにかく話は分かったよ。余のきさきにならない?」
「うるさい!」
持ち手だけになったカップをプリンスに投げつける蓮華。
「そ、そんなこと急に言うんじゃ無いわよ! ちょっといいかもって思っ……ゴニョゴニョ」
「なんて?」
「なんでもない!」
新しくきたコーヒーを飲み干そうとしてやけどする蓮華。
「昔の都のチンカスどもをそぎ取る刀よ」
「ぜんぜんわかんないけどもうそれでいいや」
「……」
成は昔でいうところの『妖』が人々の邪念や妄執が寄り集まった妖怪のたぐいだと知っていたが、深くは語らなかった。
がたっと立ち上がる遥。
「話終わったか!? じゃあ勝負しようぜ!」
「終わってないわよ!」
空のカップを投げつける蓮華。キャッチする遥。
零がじーっと見てくるので、蓮華は咳払いした。
「長くなるから色々省いて話すけど、カカシキ妖刀は本来九本までしか作れないの。
『鍛造鬼』っていう大きな柱に入って、特定のものを担保にして刀の種に命を込める儀式が必要になるんだけど……。
これが九つしかなくて、一度使ったら刀がなくなるまで開かないからなの。
それで、これが『種』よ」
蓮華は刀の柄部分しかないものをアテンドから取り出してテーブルにぶちまけた。
「ひーふーみー……八つあるね」
指さしで数える零。
「私に協力してくれるっていうんなら、今から八本分のカカシキ妖刀を鍛造してもらうわ」
鍛造法はこうである。
まず一人ずつ鍛造鬼という巨大な柱に入る。
柱の中は半径約10メートルの円形空間が存在している。
特殊な術で施錠されるため出入りはできない。
中に入ったら『自分の身体より大切なもの』を宣言する。
それが担保となり、『鬼』が出現。
これを倒すことで手持ちの『種』に鬼が宿り、契約状態となるのだ。
「鬼の強さは捧げたものの重さによって変わるわ。冒険したくなかったら『百万円の現金』くらいにしときなさい。一人で簡単に倒せる鬼が出てくるだろうから。その代わり『芽吹き』はこないでしょうけどね」
『芽吹き』とは、種が妖刀として完成される状態のことだ。
契約状態の種は持ち主を見定めるという。
つまり今回作るのは種のみ。
それが芽吹くかどうかは今後の行動次第ということになるだろう。
「担保って言ったけど、それはどういう意味なの? 捧げたらなくなっちゃうの?」
当然の疑問を述べる渚。
「担保は担保よ。それを使わない限り刀は存在し続ける。逆にそれを使ってしまったら、契約が破棄されて刀も消滅するわ。私で例えるなら……」
上唇を舐めて、蓮華は言った。
「愛のあるキスをしたら、この刀は消えて無くなるわ」
「…………」
思わず自分の唇を触る渚。
「え、じゃあ『逸家断欒』は?」
「あれは偽の鍛造法。捧げたものが鬼によって消滅させられる。その代わりノーリスクで妖刀を作れるわ。自分を強化させるために自滅することになるから、明石組は捨て駒要員にだけ刀を作らせているの」
「それで、自滅しなくてすむ真の鍛造法を求めてるというわけですか。わかりました」
クーたちはこくりと頷いた。
「一度に九本の枠が埋まったとなれば、向こうはなんとしても倒そうとするはずよ」
「つまり、相手の居場所を探ること無く向こうからホイホイさせるって寸法か」
「めんどくさくなくていいな! 乗ったぜ!」
聖華はぐっと拳を握り、立ち上がった。
「早速行こうぜ、おまえんちにさ!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.全員が妖刀の種を完成させる
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
今回は八人別々の個人戦になります。
相談の必要がなくなるので、暫く『自分の大事なもの』について語り合ったりしてみましょう。
出てくる鬼の強さは大切なものの重みに比例します。
人の命は時として百万円を下回ったりするのでピンキリですが、基準としては『命よりどれだけ重いか』とされています。
しかし命数や魂を担保にするのややめてください。確実にバグる上、とてつもなく強い鬼が出てきて瞬殺されかねません。
勿論負けたら種の製造はナシ。色々理由があってすぐにリトライできないので、依頼失敗リスクとなります。
今後一生、自分で制御がききそうなささやかな大切さを担保にしましょう。
ちなみに鬼は古妖カテゴリ。
担保にしたものによりますが、棍棒などによる純粋な打撃で戦うと思われます。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年06月20日
2016年06月20日
■メイン参加者 8人■

●『想い受け継ぎ‘最強’を目指す者』天楼院・聖華(CL2000348)
真っ暗な場所だった。聖華はとらまるから呼び出した刀と鞘を両手に持ち、ゆっくりと納刀した。
ぐるぐるとひもを巻き付け、刀を固定していく。
「この鳳仙火は、私が死んで『俺』が生まれた象徴なんだ。けど俺はまだ、この刀に相応しい強さに届いてない。いい機会、なんだ……」
聖華は刀を足下に置いた。
「今日からこの刀を封印する。俺が強くなるまで――来い、鍛造鬼!」
瞬間。大地が激しく揺れた。
地面を突き破らん程の揺れだ。否、実際に地面を突き破り、巨大な鬼が姿を現わした。
一見してただの鬼。人の形をしてはいるが肌は赤黒く額に角を生やした古妖のたぐいだが……なぜだか、聖華には知っている人物に見えた。
その理由は誰にも説明ができない。恐らく聖華自身にもだ。
「そういうことかよ。なおさら燃えてくる……付き合って貰うぜ!」
成果はもう一本の刀、流星刀の柄を握り込んだ。
鬼が産みだした巨大な刀が振り下ろされるその寸前。横っ飛びに転がる。
地面を打ち、粉砕する鬼の刀。
わかる。かつての聖華には『あんな風に』見えていた。
「けど、俺は昔の私じゃない」
聖華は鬼の側面を回り込むように走った。
地面ごとえぐるように繰り出される刀が聖華を吹き飛ばすが、彼女は見えない壁に両足をつけて衝撃を吸収。顎を上げ、鬼の目をギラリを見た。
そして、屈強に笑った。
「見せてやる、一年の集大成!」
聖華は飛んだ。
鬼の首側面をすり抜けながら回転。
崩れ落ちる鬼を背に、靴底をを滑らせながら着地した。
「もっともっと、強くなる。その時は……親父、『ちゃんと』刀を抜くからな」
●『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)
最強を目指す者は数多にいるが、刀嗣はその中でもきわめて奇妙な男だった。
「命より大事なモンかよ。戦うことと、勝つことと、強いことと……あと、アイツだ」
言うなれば彼は、最強に恋をしていた。
恋と憧れが違うように、愛と恋が違うように、彼は最強に恋をしていた。
そんな彼が、もう一つ恋したものがある。
「俺にとってアイツはどれだけ大切なんだ? アイツが手に入らないこの気持ちをくれてやる……だから見せろ、鍛造鬼ィ!」
刀嗣抜刀。
と同時に闇の内から小さな鬼が飛び出した。
手のひらにのるほどの。握りつぶせば死ぬほどの。ひどくはかなく恐ろしくもろそうな、そんな鬼だ。
我知らず舌打ちする刀嗣。
「ンなわけが――!」
斬りかかる。
その腕が、斬れていた。
自らの右腕が切断され、飛んでいく。子鬼は僅かにふくれ、手には小さな刀があった。
我知らずに笑う刀嗣。
「櫻火新陰流、諏訪刀嗣!」
血しぶきを吹き散らし、刀嗣は次なる斬撃を打ち払う。
「俺の想い!」
鬼は膨らみ、刀嗣と同じくらいの背丈になっていた。手には刀。顔つきは、知っている誰か。
切断される腕。
「確かめさせて――もらうぜぇ!」
刀の柄にかじりつき、刀嗣は鬼の首を切り取った。
膝を突き、崩れ落ちる両者。
刀嗣は我知らずに――。
●『教授』新田・成(CL2000538)
最強は人によって形を変える。新田成にとっての最強は、積み重ねた知識と技術。ゆえに自分にとっての最強は、現在の自分である。
だから、こうした。
「この先一年、生きること」
杖をとり、わずかにひねる。
「この老いぼれに残った生涯に、はたしていくらの価値があるや……ご教授ください、鍛造鬼」
述べた時には抜いていた。
抜いた時には振っていて。
振ったときには納めていた。
かくしてその場に残ったのは、頬の切れた新田成と……頬の切れた老体の鬼である。
薄く閉じかけた目を、成はギラリと見開いた。
斬りかかる。
そのすぐそばを俯き気味に通り過ぎる鬼。
次の瞬間には成の全身が切り裂かれ、血しぶきをあげていた。
歯を食いしばり、振り向きざまに切りつける。
鬼のとった杖が成の刀を止めていた。否、杖に仕込まれた刃が止めていた。
積み重ねた知識と技術が強さであるならば。
あと一年。
「まだ積み重なると……!」
成の身体はコンマ一秒毎に切り裂かれていく。
腕を止める余裕などない。
退く余裕など、進む余裕などない。
不進不退の仁王立ちで、新田成65歳は立ち向かった。
「参ります……!」
一発の斬撃の間に十度は斬られる。そろいのスーツが切り裂かれ、赤く染まったシャツの切れ端が飛んでいく。傷だらけの上半身をさらけ出し、成は獣のように吠えた。
「なんと」
年端もいかぬ若者たちに触れ続けたせいでとんと忘れていたことだが。
生涯六十五年。
「まだ若造の域……!」
成は狂ったように相手を切りつけ、やがて、どちらの血かわからぬ赤沼へと、うつ伏せに倒れた。
●『樹の娘』檜山 樹香(CL2000141)
真っ白な空間で、樹香は深く呼吸をしていた。
「さて……ワシが担保とするのはこの髪じゃ」
髪は女の命という。
言うだけならば誰でもできるが、ほんとうに強く保とうとした者にとって、それは強い呪術的価値があった。
特に樹香の髪は、古式ゆかしき濡烏。
これを激しい戦いの中で保つことは、命を守ることに等しかった。
「願掛けに髪を切らぬというが、むしろ保つことこそ至難。さあ、結わいてみせよ――鍛造鬼」
樹香は手元に薙刀を生成。
と同時に般若の面を被った女が白い霧を分けて現われた。
女の髪は醜く焼け、千切れ、張り付き、崩れ、赤黒い塊によって頬に張り付く髪はおどろ。
そんな女が、樹香へと斬りかかる。
狙いは首か、腕か、足か。否、髪である。
「させぬ!」
薙刀を円形に振り回し、風圧を伴って弾く。
合間に種を放ち、女へと浴びせかけた。
種が空中で炸裂。
衝撃にのけぞる女に、樹香は素早く接近した。呪いにも似た衝撃が樹香の髪をちぎりにかかるが、樹香はそれを腕で受けた。肉がちぎれて吹き飛んでいく。
構わず斬撃。
女を切り裂く樹香の刃はしかし、髪だけは切りつけなかった。
「髪は女の命……じゃからな」
面を落とした女は微笑み、そして消えた。
●『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)
女が守るものは世界に三つあるという。
ひとつが髪で、もう一つが子。
渚は自らの胸に手を当て、強く深く息を吐いた。
若い彼女に子はないが。同じ定義のものがあった。
「今後私は、愛しい人たちを抱きしめない。それは、誰かがやってくれればいい」
巨大な注射器が天から落ち、渚のそばに突き刺さった。
「私の手は、それを阻む全てのものを突き放すために……使うことに決めた」
注射器を手に取り、一度閉じた目を開く。
「恐い。恐いけど、自分の力で……乗り越えてみせるよ、鍛造鬼!」
渚を囲うように、小さな鬼が無数に現われ落ちてくる。
身構える渚の背中を、横頬を、足を、腹を、絶え間なく殴りつけた。
痛み。重み。
今なら分かる。
痛みを受けることは、誰かが未来に受ける傷を奪うこと。
無数の子鬼が融合し、金属の塊のごとき鬼となる。
腕を銃器のそれに変え、ふらつく渚に鉛玉を発射した。
心臓部に直撃。
ぐらつく身体。
しかし。
「鬼さんこちら……なんて」
渚の心臓は、痛みと重みでできていた。
文字通り鋼の心臓は、銃弾すらも通さない。
渚は壮絶に笑って、鬼の心臓部へ注射器をねじ込んだ。
呻く鬼。
しかし渚はためらわない。
「引き受けるよ、これから全部。ちっちゃい子が笑ってお母さんに抱きしめられる……そんな日になるまで!」
渚の注射器が、鬼の心臓を貫いた。
●『Queue』クー・ルルーヴ(CL2000403)
女が守るものは、髪と子と、もう一つある。
それが主人との絆である。
クーは真っ白な空間の中で懐中時計を取り出し、ねじをつまんだ。
「あの方から頂いた、牝狼の金時計。初めて頂いたクーの役割にして、誇りの証」
キリ、とねじを抜く。
「今この瞬間から時計の針を止め、二度とねじを巻きません。さあ、動き出しなさい――鍛造鬼!」
息を呑み、時計を止める。
まるで最初からそこにいたかのように、灰色髪の鬼が現われた。
鬼がクーへと掴みかかる。
飛び交わすクー。しかし振り込んだ鬼の手は、クーの懐中時計をもぎ取った。
「――!」
破壊をもくろむか。腕を切り取ってでも取り返す。一瞬でそこまで考えたクーの前で、鬼は時計を胸に抱き、強く目を瞑った。目尻から涙があふれ、零れていく。
そのさまを、クーは表情もなく見つめた。
執着、というものがある。
人の歩みを止め、時間を止めるもの。
人の想いを止め、乖離を止めるもの。
いつまでもそうしていられれば、どんなによいか……などと。
「いいえ」
クーは首を左右に振り、剣を強く握り込んだ。
「守りたいものが増えてしまいましたから。このままではいけません」
跳躍。
跳び蹴り。それを阻むように空気が裂けクーの足首が激しくえぐられる。
耐えるのだ。
なぜなら聞こえている。
荒ぶる風と実を切り裂く刃の中で、ひときわ細く小さく、聞こえている。
「あなたの涙からは、悔しさの音がします」
一歩進むだけでも痛みを伴う距離を、クーは突き進んだ。
鬼の肩に手を触れ、目を閉じる。
あとは簡単だ。
剣を突き込み、ゆっくりと捻るだけ。
脱力した鬼の手から落ちた時計を、柔らかく受け止めた。
「戦いましょう。この時計を持つに相応しい、『Queue』になるために」
●プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)
女に守るものあらば、男にも。
プリンスは腕組みしてあぐらをかいていた。
「えっとね、じゃあ王子、日本を裏切らないよ。ニポンの民を、余は身命の共とする」
あぐらをかいたままジャンプして立ち上がる。
「余の国の民はどう思うかな。今のニポンの民のこと」
プリンスのあばらの骨が一本、突然へしおれた。
見上げると、凄まじく巨大な鬼がいる。
触れもせずに骨を折ったのだ。
だがプリンスは腕組み姿勢を崩さない。
「美しき和とおもてなしの国ニポン。和なんてどっか行っちゃったし、オモテナシとミナゴロシをはき違えてるし、ちっちゃい電話やパソコンを作ってた人たちは皆そろって機関銃作ってるし……」
一歩ずつ歩み寄る。
そのたびに身体の骨が一本ずつ折れていく。
「調子乗るとすぐ姫が尻を二つに割りに来るし」
歩み、折れる。
「ユーラクチョーで迷子になったらマッポさんが家に送ってくれるし」
歩み、折れる。
「四軒ハシゴしてもカラオケボックスに放置しないで駅まで送ってくれるし」
歩み、折れる。
「村では次の収穫が始まるって大忙しだし」
歩み、折れる。
「余がワガママ言うたびに、笑って付き合ってくれるし」
歩み、折れる。
折れる。
折れる。
膝をつく。
「ニポン……ラブ」
体中に鋼の芯が伝っていくようだ。
「アイ・ラブ……ニポン」
折れた足を再び立て、いつしか手元に生まれていたハンマーを杖に立つ。
外装を覆っていた無数の装甲が蒸気を吹いて、一枚一枚はげ落ちていく。
胸部の小型スピーカーから『拘束解除(クラウディングアウト)』と電子音が鳴った。
「大丈夫。余は最後まで戦う王子だよ!」
巨大な鬼が拳を振り上げる。
否、それは幻だ。
鬼はすぐ目の前にいた。
金髪垂れ目のクソ調子づいたうざい鬼が、ハンマーを掲げて唸っている。
「ニポンの民よ、余のおごりだよ!」
振り下ろされるハンマー。繰り出すハンマー。
二つは交差し、鬼の腹と王子の頭を打った。
かくしてへし折れたのは。
「余は、もう折れない」
鬼の方であった。
●鹿ノ島・遥(CL2000227)
さて皆様お待ちかね。男が国や家族と並んで守る、もう一つのものを、満を持して語ろう。
「強い奴と戦えるなら、悔いは無いぜ。オレの大事な……命よりも、大切な……」
シャツの下に手を入れ、一冊の書物を取り出した。
赤と白が融合した空間の中で、遥は両手でそれを握りしめる。
書物の名は。
『あつまれ! おっぱい百連発! ~ポロリだらけの水泳大会ローション相撲でヌールヌルの巻~』。
「エロ(18歳未満閲覧禁止指定をさす)の閲覧禁止だァ!」
鳴り響く交響曲。今やなつかし第九である。遥を中心にした無数の空間に穴が空き、水着からおっぱい放り出した美女(角がついてるから鬼だと思う)がわーらわら。
「やっべえ! 超出てき――へぶは!?」
両腕を広げたブレストタックルが遥の顔面に炸裂。
やわらかな感触と共に吹き飛ばされ、遥は激しく血を吹いた。鼻から。
「くっそ、なんて攻撃だよ。空手が全然通用し……うぐ!?」
三方向からのサンドプレス。六つのおっぱいに挟まれた遥は愛しさと切なさと心強さに押しつぶされ肉欲のロマンキャンセル状態。悲しくて泣きたくて叫びたくても性欲の空中コンボ状態である。何言ってるか分からないだと? わかりにくくしてるんだよ!
「ちょ、タンマタンマ! うっかり偶然目に入っちゃうかもだから……絵は! 絵はセーフで!」
叫んだ途端、おっぱい放り出したパツキンの美女がかき消えた。とは言っても沢山居るなかの一人である。僅かな違いでしかないが……。
「途中で譲歩するのアリなのかよ! じゃ、じゃあ動画でもうっかりってことあるから、アニメ絵はセーフにしよう! うっかりリンク踏んじゃうことあるから!」
黒髪の三石声みたいなギャルが消えた。
「続いて、巨乳に限ろう! 俺はほら! 巨乳がほら、アレだから!」
周囲に控えていた貧乳もしくは普通サイズの美女たちがかき消えていく。
最後に残ったのは巨乳を両腕で支えた茶髪のJK風(JKとは言っていない)ギャルのみだ。
「これなら勝てるぜ……くらええええええええええ!」
遥は(鼻)血を吹き上げながら、男の正拳突きを叩き込んだ。
●妖刀の種
工房を出た樹香たちは皆、疲れ切っていた。
特に刀嗣と成は怪我が酷く、渚たちの手当を受けている。
お茶をちびちび飲んでから一息つくプリンス。
「余、思ったんだけどさ。柱の中って送受心通じないんだね」
「やはりそうでしたか。通信が来ないのでもしやと思いましたが……」
お茶をいれて配るクー。
樹香も成も、それを受け取って深く息をついた。
「とはいえ、通信できたところで共有するものがあるとも、のぅ」
「あくまで個人の試練。隔絶するのは当然の処置でしょう」
「そうかよ……で、コイツはどうすんだ」
柄部分だけの刀を手の上でもてあそぶ刀嗣。
蓮華はテーブルに頬杖をついて面倒くさそうに言った。
「持ってなさいよ。そのほうがいかにも標的になりやすいじゃない」
「そっか。そういえば、明石組の人たちの注意を引くために作ったんだった、ね」
手の中の『妖刀の種』を見下ろす渚。
聖華はにやりと笑った。
「でもいい経験したぜ。やっぱり担保にしたものが影響するんだな。な、遥はどうだった?」
「ふう……まあ、普通かな」
賢者の顔をして頷く遥。
蓮華はすっくと立ち上がり、ブラインドで隠された窓へと歩み寄った。
指で隙間をあけ、外をのぞき見る。
「向こうも気づく頃よ。とびっきりの刺客を送り込んでくる筈。返り討ちにしてやりましょ」
真っ暗な場所だった。聖華はとらまるから呼び出した刀と鞘を両手に持ち、ゆっくりと納刀した。
ぐるぐるとひもを巻き付け、刀を固定していく。
「この鳳仙火は、私が死んで『俺』が生まれた象徴なんだ。けど俺はまだ、この刀に相応しい強さに届いてない。いい機会、なんだ……」
聖華は刀を足下に置いた。
「今日からこの刀を封印する。俺が強くなるまで――来い、鍛造鬼!」
瞬間。大地が激しく揺れた。
地面を突き破らん程の揺れだ。否、実際に地面を突き破り、巨大な鬼が姿を現わした。
一見してただの鬼。人の形をしてはいるが肌は赤黒く額に角を生やした古妖のたぐいだが……なぜだか、聖華には知っている人物に見えた。
その理由は誰にも説明ができない。恐らく聖華自身にもだ。
「そういうことかよ。なおさら燃えてくる……付き合って貰うぜ!」
成果はもう一本の刀、流星刀の柄を握り込んだ。
鬼が産みだした巨大な刀が振り下ろされるその寸前。横っ飛びに転がる。
地面を打ち、粉砕する鬼の刀。
わかる。かつての聖華には『あんな風に』見えていた。
「けど、俺は昔の私じゃない」
聖華は鬼の側面を回り込むように走った。
地面ごとえぐるように繰り出される刀が聖華を吹き飛ばすが、彼女は見えない壁に両足をつけて衝撃を吸収。顎を上げ、鬼の目をギラリを見た。
そして、屈強に笑った。
「見せてやる、一年の集大成!」
聖華は飛んだ。
鬼の首側面をすり抜けながら回転。
崩れ落ちる鬼を背に、靴底をを滑らせながら着地した。
「もっともっと、強くなる。その時は……親父、『ちゃんと』刀を抜くからな」
●『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)
最強を目指す者は数多にいるが、刀嗣はその中でもきわめて奇妙な男だった。
「命より大事なモンかよ。戦うことと、勝つことと、強いことと……あと、アイツだ」
言うなれば彼は、最強に恋をしていた。
恋と憧れが違うように、愛と恋が違うように、彼は最強に恋をしていた。
そんな彼が、もう一つ恋したものがある。
「俺にとってアイツはどれだけ大切なんだ? アイツが手に入らないこの気持ちをくれてやる……だから見せろ、鍛造鬼ィ!」
刀嗣抜刀。
と同時に闇の内から小さな鬼が飛び出した。
手のひらにのるほどの。握りつぶせば死ぬほどの。ひどくはかなく恐ろしくもろそうな、そんな鬼だ。
我知らず舌打ちする刀嗣。
「ンなわけが――!」
斬りかかる。
その腕が、斬れていた。
自らの右腕が切断され、飛んでいく。子鬼は僅かにふくれ、手には小さな刀があった。
我知らずに笑う刀嗣。
「櫻火新陰流、諏訪刀嗣!」
血しぶきを吹き散らし、刀嗣は次なる斬撃を打ち払う。
「俺の想い!」
鬼は膨らみ、刀嗣と同じくらいの背丈になっていた。手には刀。顔つきは、知っている誰か。
切断される腕。
「確かめさせて――もらうぜぇ!」
刀の柄にかじりつき、刀嗣は鬼の首を切り取った。
膝を突き、崩れ落ちる両者。
刀嗣は我知らずに――。
●『教授』新田・成(CL2000538)
最強は人によって形を変える。新田成にとっての最強は、積み重ねた知識と技術。ゆえに自分にとっての最強は、現在の自分である。
だから、こうした。
「この先一年、生きること」
杖をとり、わずかにひねる。
「この老いぼれに残った生涯に、はたしていくらの価値があるや……ご教授ください、鍛造鬼」
述べた時には抜いていた。
抜いた時には振っていて。
振ったときには納めていた。
かくしてその場に残ったのは、頬の切れた新田成と……頬の切れた老体の鬼である。
薄く閉じかけた目を、成はギラリと見開いた。
斬りかかる。
そのすぐそばを俯き気味に通り過ぎる鬼。
次の瞬間には成の全身が切り裂かれ、血しぶきをあげていた。
歯を食いしばり、振り向きざまに切りつける。
鬼のとった杖が成の刀を止めていた。否、杖に仕込まれた刃が止めていた。
積み重ねた知識と技術が強さであるならば。
あと一年。
「まだ積み重なると……!」
成の身体はコンマ一秒毎に切り裂かれていく。
腕を止める余裕などない。
退く余裕など、進む余裕などない。
不進不退の仁王立ちで、新田成65歳は立ち向かった。
「参ります……!」
一発の斬撃の間に十度は斬られる。そろいのスーツが切り裂かれ、赤く染まったシャツの切れ端が飛んでいく。傷だらけの上半身をさらけ出し、成は獣のように吠えた。
「なんと」
年端もいかぬ若者たちに触れ続けたせいでとんと忘れていたことだが。
生涯六十五年。
「まだ若造の域……!」
成は狂ったように相手を切りつけ、やがて、どちらの血かわからぬ赤沼へと、うつ伏せに倒れた。
●『樹の娘』檜山 樹香(CL2000141)
真っ白な空間で、樹香は深く呼吸をしていた。
「さて……ワシが担保とするのはこの髪じゃ」
髪は女の命という。
言うだけならば誰でもできるが、ほんとうに強く保とうとした者にとって、それは強い呪術的価値があった。
特に樹香の髪は、古式ゆかしき濡烏。
これを激しい戦いの中で保つことは、命を守ることに等しかった。
「願掛けに髪を切らぬというが、むしろ保つことこそ至難。さあ、結わいてみせよ――鍛造鬼」
樹香は手元に薙刀を生成。
と同時に般若の面を被った女が白い霧を分けて現われた。
女の髪は醜く焼け、千切れ、張り付き、崩れ、赤黒い塊によって頬に張り付く髪はおどろ。
そんな女が、樹香へと斬りかかる。
狙いは首か、腕か、足か。否、髪である。
「させぬ!」
薙刀を円形に振り回し、風圧を伴って弾く。
合間に種を放ち、女へと浴びせかけた。
種が空中で炸裂。
衝撃にのけぞる女に、樹香は素早く接近した。呪いにも似た衝撃が樹香の髪をちぎりにかかるが、樹香はそれを腕で受けた。肉がちぎれて吹き飛んでいく。
構わず斬撃。
女を切り裂く樹香の刃はしかし、髪だけは切りつけなかった。
「髪は女の命……じゃからな」
面を落とした女は微笑み、そして消えた。
●『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)
女が守るものは世界に三つあるという。
ひとつが髪で、もう一つが子。
渚は自らの胸に手を当て、強く深く息を吐いた。
若い彼女に子はないが。同じ定義のものがあった。
「今後私は、愛しい人たちを抱きしめない。それは、誰かがやってくれればいい」
巨大な注射器が天から落ち、渚のそばに突き刺さった。
「私の手は、それを阻む全てのものを突き放すために……使うことに決めた」
注射器を手に取り、一度閉じた目を開く。
「恐い。恐いけど、自分の力で……乗り越えてみせるよ、鍛造鬼!」
渚を囲うように、小さな鬼が無数に現われ落ちてくる。
身構える渚の背中を、横頬を、足を、腹を、絶え間なく殴りつけた。
痛み。重み。
今なら分かる。
痛みを受けることは、誰かが未来に受ける傷を奪うこと。
無数の子鬼が融合し、金属の塊のごとき鬼となる。
腕を銃器のそれに変え、ふらつく渚に鉛玉を発射した。
心臓部に直撃。
ぐらつく身体。
しかし。
「鬼さんこちら……なんて」
渚の心臓は、痛みと重みでできていた。
文字通り鋼の心臓は、銃弾すらも通さない。
渚は壮絶に笑って、鬼の心臓部へ注射器をねじ込んだ。
呻く鬼。
しかし渚はためらわない。
「引き受けるよ、これから全部。ちっちゃい子が笑ってお母さんに抱きしめられる……そんな日になるまで!」
渚の注射器が、鬼の心臓を貫いた。
●『Queue』クー・ルルーヴ(CL2000403)
女が守るものは、髪と子と、もう一つある。
それが主人との絆である。
クーは真っ白な空間の中で懐中時計を取り出し、ねじをつまんだ。
「あの方から頂いた、牝狼の金時計。初めて頂いたクーの役割にして、誇りの証」
キリ、とねじを抜く。
「今この瞬間から時計の針を止め、二度とねじを巻きません。さあ、動き出しなさい――鍛造鬼!」
息を呑み、時計を止める。
まるで最初からそこにいたかのように、灰色髪の鬼が現われた。
鬼がクーへと掴みかかる。
飛び交わすクー。しかし振り込んだ鬼の手は、クーの懐中時計をもぎ取った。
「――!」
破壊をもくろむか。腕を切り取ってでも取り返す。一瞬でそこまで考えたクーの前で、鬼は時計を胸に抱き、強く目を瞑った。目尻から涙があふれ、零れていく。
そのさまを、クーは表情もなく見つめた。
執着、というものがある。
人の歩みを止め、時間を止めるもの。
人の想いを止め、乖離を止めるもの。
いつまでもそうしていられれば、どんなによいか……などと。
「いいえ」
クーは首を左右に振り、剣を強く握り込んだ。
「守りたいものが増えてしまいましたから。このままではいけません」
跳躍。
跳び蹴り。それを阻むように空気が裂けクーの足首が激しくえぐられる。
耐えるのだ。
なぜなら聞こえている。
荒ぶる風と実を切り裂く刃の中で、ひときわ細く小さく、聞こえている。
「あなたの涙からは、悔しさの音がします」
一歩進むだけでも痛みを伴う距離を、クーは突き進んだ。
鬼の肩に手を触れ、目を閉じる。
あとは簡単だ。
剣を突き込み、ゆっくりと捻るだけ。
脱力した鬼の手から落ちた時計を、柔らかく受け止めた。
「戦いましょう。この時計を持つに相応しい、『Queue』になるために」
●プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)
女に守るものあらば、男にも。
プリンスは腕組みしてあぐらをかいていた。
「えっとね、じゃあ王子、日本を裏切らないよ。ニポンの民を、余は身命の共とする」
あぐらをかいたままジャンプして立ち上がる。
「余の国の民はどう思うかな。今のニポンの民のこと」
プリンスのあばらの骨が一本、突然へしおれた。
見上げると、凄まじく巨大な鬼がいる。
触れもせずに骨を折ったのだ。
だがプリンスは腕組み姿勢を崩さない。
「美しき和とおもてなしの国ニポン。和なんてどっか行っちゃったし、オモテナシとミナゴロシをはき違えてるし、ちっちゃい電話やパソコンを作ってた人たちは皆そろって機関銃作ってるし……」
一歩ずつ歩み寄る。
そのたびに身体の骨が一本ずつ折れていく。
「調子乗るとすぐ姫が尻を二つに割りに来るし」
歩み、折れる。
「ユーラクチョーで迷子になったらマッポさんが家に送ってくれるし」
歩み、折れる。
「四軒ハシゴしてもカラオケボックスに放置しないで駅まで送ってくれるし」
歩み、折れる。
「村では次の収穫が始まるって大忙しだし」
歩み、折れる。
「余がワガママ言うたびに、笑って付き合ってくれるし」
歩み、折れる。
折れる。
折れる。
膝をつく。
「ニポン……ラブ」
体中に鋼の芯が伝っていくようだ。
「アイ・ラブ……ニポン」
折れた足を再び立て、いつしか手元に生まれていたハンマーを杖に立つ。
外装を覆っていた無数の装甲が蒸気を吹いて、一枚一枚はげ落ちていく。
胸部の小型スピーカーから『拘束解除(クラウディングアウト)』と電子音が鳴った。
「大丈夫。余は最後まで戦う王子だよ!」
巨大な鬼が拳を振り上げる。
否、それは幻だ。
鬼はすぐ目の前にいた。
金髪垂れ目のクソ調子づいたうざい鬼が、ハンマーを掲げて唸っている。
「ニポンの民よ、余のおごりだよ!」
振り下ろされるハンマー。繰り出すハンマー。
二つは交差し、鬼の腹と王子の頭を打った。
かくしてへし折れたのは。
「余は、もう折れない」
鬼の方であった。
●鹿ノ島・遥(CL2000227)
さて皆様お待ちかね。男が国や家族と並んで守る、もう一つのものを、満を持して語ろう。
「強い奴と戦えるなら、悔いは無いぜ。オレの大事な……命よりも、大切な……」
シャツの下に手を入れ、一冊の書物を取り出した。
赤と白が融合した空間の中で、遥は両手でそれを握りしめる。
書物の名は。
『あつまれ! おっぱい百連発! ~ポロリだらけの水泳大会ローション相撲でヌールヌルの巻~』。
「エロ(18歳未満閲覧禁止指定をさす)の閲覧禁止だァ!」
鳴り響く交響曲。今やなつかし第九である。遥を中心にした無数の空間に穴が空き、水着からおっぱい放り出した美女(角がついてるから鬼だと思う)がわーらわら。
「やっべえ! 超出てき――へぶは!?」
両腕を広げたブレストタックルが遥の顔面に炸裂。
やわらかな感触と共に吹き飛ばされ、遥は激しく血を吹いた。鼻から。
「くっそ、なんて攻撃だよ。空手が全然通用し……うぐ!?」
三方向からのサンドプレス。六つのおっぱいに挟まれた遥は愛しさと切なさと心強さに押しつぶされ肉欲のロマンキャンセル状態。悲しくて泣きたくて叫びたくても性欲の空中コンボ状態である。何言ってるか分からないだと? わかりにくくしてるんだよ!
「ちょ、タンマタンマ! うっかり偶然目に入っちゃうかもだから……絵は! 絵はセーフで!」
叫んだ途端、おっぱい放り出したパツキンの美女がかき消えた。とは言っても沢山居るなかの一人である。僅かな違いでしかないが……。
「途中で譲歩するのアリなのかよ! じゃ、じゃあ動画でもうっかりってことあるから、アニメ絵はセーフにしよう! うっかりリンク踏んじゃうことあるから!」
黒髪の三石声みたいなギャルが消えた。
「続いて、巨乳に限ろう! 俺はほら! 巨乳がほら、アレだから!」
周囲に控えていた貧乳もしくは普通サイズの美女たちがかき消えていく。
最後に残ったのは巨乳を両腕で支えた茶髪のJK風(JKとは言っていない)ギャルのみだ。
「これなら勝てるぜ……くらええええええええええ!」
遥は(鼻)血を吹き上げながら、男の正拳突きを叩き込んだ。
●妖刀の種
工房を出た樹香たちは皆、疲れ切っていた。
特に刀嗣と成は怪我が酷く、渚たちの手当を受けている。
お茶をちびちび飲んでから一息つくプリンス。
「余、思ったんだけどさ。柱の中って送受心通じないんだね」
「やはりそうでしたか。通信が来ないのでもしやと思いましたが……」
お茶をいれて配るクー。
樹香も成も、それを受け取って深く息をついた。
「とはいえ、通信できたところで共有するものがあるとも、のぅ」
「あくまで個人の試練。隔絶するのは当然の処置でしょう」
「そうかよ……で、コイツはどうすんだ」
柄部分だけの刀を手の上でもてあそぶ刀嗣。
蓮華はテーブルに頬杖をついて面倒くさそうに言った。
「持ってなさいよ。そのほうがいかにも標的になりやすいじゃない」
「そっか。そういえば、明石組の人たちの注意を引くために作ったんだった、ね」
手の中の『妖刀の種』を見下ろす渚。
聖華はにやりと笑った。
「でもいい経験したぜ。やっぱり担保にしたものが影響するんだな。な、遥はどうだった?」
「ふう……まあ、普通かな」
賢者の顔をして頷く遥。
蓮華はすっくと立ち上がり、ブラインドで隠された窓へと歩み寄った。
指で隙間をあけ、外をのぞき見る。
「向こうも気づく頃よ。とびっきりの刺客を送り込んでくる筈。返り討ちにしてやりましょ」
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
特殊成果
『妖刀・天楼院(種)』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:天楼院・聖華(CL2000348)
『妖刀・失恋慕(種)』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:諏訪 刀嗣(CL2000002)
『妖刀・四季割(たね)』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:新田・成(CL2000538)
『妖刀・濡烏(種)』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:檜山 樹香(CL2000141)
『妖刀・インブレス(種)』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:栗落花 渚(CL2001360)
『妖刀・Queue(種)』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:クー・ルルーヴ(CL2000403)
『妖刀アイラブニポン(種)』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)
『妖刀・おっぱい天国(種)』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:鹿ノ島・遥(CL2000227)
カテゴリ:アクセサリ
取得者:天楼院・聖華(CL2000348)
『妖刀・失恋慕(種)』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:諏訪 刀嗣(CL2000002)
『妖刀・四季割(たね)』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:新田・成(CL2000538)
『妖刀・濡烏(種)』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:檜山 樹香(CL2000141)
『妖刀・インブレス(種)』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:栗落花 渚(CL2001360)
『妖刀・Queue(種)』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:クー・ルルーヴ(CL2000403)
『妖刀アイラブニポン(種)』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)
『妖刀・おっぱい天国(種)』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:鹿ノ島・遥(CL2000227)
