暴走覚者を食い止めろ!
●
およそ三年前、AAAはとても強い妖を前にして、三つの派閥に別れておりました。
一つの派閥は妖が強すぎるからちょっと様子見しようという竹下派。
もう一つは危ない妖を放っておけないという太田派。
そして最後は二人の喧嘩を遠巻きに眺めている後藤派。
三派がそれぞれの態度を変えることは最後までなく。ちょっとだけギスギスしたムードのまま、それでも彼らは協力して妖を追いつめることに成功していくのでした。
――結果は、まあ、置いといて。
本日の依頼は、そんな派閥がちょっと。ほんのちょっとだけ関わる依頼です。
●
「覚者をとっちめてきて!」
「いや待て」
覚者達が司令室に集まったのを確認して、久方 万里(nCL2000005)は開口一番彼らを混乱させる依頼内容を言い放った。
因みに読みは『かくじゃ』ではなく、しっかり『トゥルーサー』です。閑話休題。
取りあえず経緯を説明してくれと話す覚者達に対して、万里は憤然とした調子で言葉を続ける。
「でも、急いでくれないと間に合わなくなっちゃう!
あの覚者の人たち、悪いこともしてない古妖をやっつけようとしてるんだよ?」
語る万里によれば、或る山中で人に関わらず趣味に勤しむ古妖が、突然訪れた覚者達によって倒されてしまう、といった夢が見えてきたらしい。
当然、古妖と言ってもその傾向はピンからキリまである。現在まで人と関わらなかった古妖が、それ故に全くの無害だなどと断言するのは浅薄に過ぎるだろう。
その覚者達とて何らかの理由があってのことでは――等という意見、この小さな夢見にはお見通しのようで。
「無いよ。だってその覚者、子供だもん」
「……子供」
「そう。妖と古妖の区別がまだついてない、子供」
あ、これ駄目なやつだ。
覚者と夢見の心が漸く通じ合ったところで、万里は今回の敵――覚者達についての詳細な説明を始める。
件の子供、覚者のスペックは火行の獣憑。
年齢が年齢のため、考えたらずな部分こそ在るが、そのセンスだけは一線級の覚者と比べても遜色ないレベルのものであり、速度を活かした立ち回りと単体攻撃に特に優れているという。
「油断はしないようにね。……特に今回の場合、相手が一人じゃないし」
「は?」
ぼそっと呟かれた言葉に、思わず聞き返す覚者達。
何だか気まずそうに視線を逸らす万里は、何処か溜息混じりに説明を続ける。
「まあ……正直に言っちゃうと、その子に護衛が付いてるの。
数は二人。こっちは熟練の覚者だから、女の子の方以上に注意して戦ってね」
「いや、何だってそんな奴らが」
「……その子がAAAに所属する、とっても偉い人の孫娘だから」
ロクでもない情報に辟易とした表情を浮かべる覚者達へ、万里はいっそ疲弊した微笑みを返してくれた。
「ともかく! AAAも今回の件に関しては目を瞑っていてくれるらしいから。
言うこと聞くようになるまで、たっぷり説教してきてね!」
●
「つきました! ここがわるいあやかしのアジトですね!」
深夜、何処かの町の裏山にて。
人気が全くない社の前で、一人の少女が仁王立ちで声を上げていた。
「にほんをさわがすわるいあやかしは、わたしたちがいっぴきのこらずせんめつしてやるのです! うめみや!」
「鵜乃宮っす」
「どーでもいいです!」
少女が振り返らぬ侭、ばっと広げた手の方には二人の男が彼女を見守っていた。
いっそあからさまとも言える黒服姿の彼らであるが、この暴走しがちなお嬢様に対してブレーキをかけることもなく、ただ唯々諾々と彼女の言うことに従い続けている。
「みずもとといっしょにあやかしをさがしてくるのです! わるいあやかしをみつけたら、わたしがやっつけてやるのです!」
「……いや、俺たちお嬢様の護衛なんですが」
「じぶんのみはじぶんでまもれます! さあいくのです!」
「………………。はあ」
滅茶苦茶疲れた表情で周囲の探索に向かう、痩せぎすの男。
其れについていく強面の男が、ちょんちょんと彼の肩を叩いた後、少女の方へと視線を遣る。
「……いや、いい。そろそろあのお嬢も、一度は痛い目見ないと駄目だろ」
げんなりとした表情のまま、返す言葉も覇気がない痩せた男は、恐らく自分達の意見など端から相手にしないであろう少女を見て苦笑を浮かべた。
「身内の不始末を任せるのは、まあ情けない話だけどな。
……肖らせて貰おうや。人も古妖も、時には妖も救っちまうような荒唐無稽さに、な」
およそ三年前、AAAはとても強い妖を前にして、三つの派閥に別れておりました。
一つの派閥は妖が強すぎるからちょっと様子見しようという竹下派。
もう一つは危ない妖を放っておけないという太田派。
そして最後は二人の喧嘩を遠巻きに眺めている後藤派。
三派がそれぞれの態度を変えることは最後までなく。ちょっとだけギスギスしたムードのまま、それでも彼らは協力して妖を追いつめることに成功していくのでした。
――結果は、まあ、置いといて。
本日の依頼は、そんな派閥がちょっと。ほんのちょっとだけ関わる依頼です。
●
「覚者をとっちめてきて!」
「いや待て」
覚者達が司令室に集まったのを確認して、久方 万里(nCL2000005)は開口一番彼らを混乱させる依頼内容を言い放った。
因みに読みは『かくじゃ』ではなく、しっかり『トゥルーサー』です。閑話休題。
取りあえず経緯を説明してくれと話す覚者達に対して、万里は憤然とした調子で言葉を続ける。
「でも、急いでくれないと間に合わなくなっちゃう!
あの覚者の人たち、悪いこともしてない古妖をやっつけようとしてるんだよ?」
語る万里によれば、或る山中で人に関わらず趣味に勤しむ古妖が、突然訪れた覚者達によって倒されてしまう、といった夢が見えてきたらしい。
当然、古妖と言ってもその傾向はピンからキリまである。現在まで人と関わらなかった古妖が、それ故に全くの無害だなどと断言するのは浅薄に過ぎるだろう。
その覚者達とて何らかの理由があってのことでは――等という意見、この小さな夢見にはお見通しのようで。
「無いよ。だってその覚者、子供だもん」
「……子供」
「そう。妖と古妖の区別がまだついてない、子供」
あ、これ駄目なやつだ。
覚者と夢見の心が漸く通じ合ったところで、万里は今回の敵――覚者達についての詳細な説明を始める。
件の子供、覚者のスペックは火行の獣憑。
年齢が年齢のため、考えたらずな部分こそ在るが、そのセンスだけは一線級の覚者と比べても遜色ないレベルのものであり、速度を活かした立ち回りと単体攻撃に特に優れているという。
「油断はしないようにね。……特に今回の場合、相手が一人じゃないし」
「は?」
ぼそっと呟かれた言葉に、思わず聞き返す覚者達。
何だか気まずそうに視線を逸らす万里は、何処か溜息混じりに説明を続ける。
「まあ……正直に言っちゃうと、その子に護衛が付いてるの。
数は二人。こっちは熟練の覚者だから、女の子の方以上に注意して戦ってね」
「いや、何だってそんな奴らが」
「……その子がAAAに所属する、とっても偉い人の孫娘だから」
ロクでもない情報に辟易とした表情を浮かべる覚者達へ、万里はいっそ疲弊した微笑みを返してくれた。
「ともかく! AAAも今回の件に関しては目を瞑っていてくれるらしいから。
言うこと聞くようになるまで、たっぷり説教してきてね!」
●
「つきました! ここがわるいあやかしのアジトですね!」
深夜、何処かの町の裏山にて。
人気が全くない社の前で、一人の少女が仁王立ちで声を上げていた。
「にほんをさわがすわるいあやかしは、わたしたちがいっぴきのこらずせんめつしてやるのです! うめみや!」
「鵜乃宮っす」
「どーでもいいです!」
少女が振り返らぬ侭、ばっと広げた手の方には二人の男が彼女を見守っていた。
いっそあからさまとも言える黒服姿の彼らであるが、この暴走しがちなお嬢様に対してブレーキをかけることもなく、ただ唯々諾々と彼女の言うことに従い続けている。
「みずもとといっしょにあやかしをさがしてくるのです! わるいあやかしをみつけたら、わたしがやっつけてやるのです!」
「……いや、俺たちお嬢様の護衛なんですが」
「じぶんのみはじぶんでまもれます! さあいくのです!」
「………………。はあ」
滅茶苦茶疲れた表情で周囲の探索に向かう、痩せぎすの男。
其れについていく強面の男が、ちょんちょんと彼の肩を叩いた後、少女の方へと視線を遣る。
「……いや、いい。そろそろあのお嬢も、一度は痛い目見ないと駄目だろ」
げんなりとした表情のまま、返す言葉も覇気がない痩せた男は、恐らく自分達の意見など端から相手にしないであろう少女を見て苦笑を浮かべた。
「身内の不始末を任せるのは、まあ情けない話だけどな。
……肖らせて貰おうや。人も古妖も、時には妖も救っちまうような荒唐無稽さに、な」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.覚者による古妖の討伐阻止
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
以下、シナリオ詳細。
場所:
某市の学校の付近にある裏山、その中腹です。時間帯は夜九時くらい。
場所は少し開けた環境となっており、その中央には古びた小さな祠が一つ、ぽつんと建っております。
周囲は木々が覆っていますが、間隔が広いため、戦闘に於ける地形の有利不利はそれほどでもない、と言ったところでしょうか。
敵:
『静海・湊(しずみ・みなと)』
覚者です。小学校低学年の少女。こと戦闘のみに置いては相当な才能の持ち主。
AAA太田派の重鎮の孫娘であり、妖に対して過激な派閥の影響を思い切り受けて成長しました。
今回現場に赴いた理由もその辺りが原因となります。身内の監督責任がマッハ。
クラスは火行の獣憑。弐式スキルに加え、体術スキルも一部中級を取得。速度偏重の戦闘を得意としています。
あと何より重要な情報として、人の話を聞きません。かなり。
『鵜乃宮』
上記『静海・湊』の護衛を務める覚者です。AAA非所属。個人の雇われ。
クラスは木行の前世持ち。弐式スキルの一部と技能スキルを数種類取得。
契約内容として湊本人の命令は余程のことがない限り逆らえません。現時点では下記『水元』と共に少し離れた森の中で彼女の様子を見守り中。
OP本文ではF.i.V.E所属の覚者達による湊の対処を望んでいますが、双方が交戦に入った段階で湊の援護に駆けつけます。チクられて馘首とかになるのは嫌だから。
『水元』
上記『静海・湊』の護衛を務める覚者です。こちらはAAA所属。
クラスは土行の付喪。五行スキル特化型。自職、他職を問わず。
上司命令として湊本人の命令は余程のことがない限り逆らえません。残る情報は上記『鵜乃宮』とほぼ同じく。
その他:
『古妖・毛羽毛現』
拙作『夜闇の遭遇』にて登場した古妖です。今回は脇役。
趣味の石細工を楽しむ毎日を過ごしていたら覚者達に狙われ、今は何処かに隠れています。
戦闘能力は不明。姿隠しと人払いの結界を高位のレベルで使用できるため、余程の幸運に恵まれない限りは覚者でも見つけることは不可能でしょう。
一応、本依頼においての目的としてこちらの古妖の討伐阻止が挙げられています。
それでは、参加をお待ちしております。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
5/8
5/8
公開日
2016年06月04日
2016年06月04日
■メイン参加者 5人■

●
夜半、人気のない森に響く音はそれほど多くない。
微かな風切り音、木の葉のさざめく音、あとは鳥や虫の些細な声音程度。
そうした――静穏を由とするその場所に於いて、思い切り不似合いな少女が年上の三人を前に朗々と叫んでいた。
「こんなよなかにあやしいやつらです! なにものですか!」
「それはこちらの台詞ですわ!」
件の古妖狩りを行おうとしている少女に対して、『二度目の女子高生』福田 アリサ(CL2001415)も負けじと声を張り上げて言い返す。
「大体ご両親は貴方にどんな教育をなさっているのです! どんなに強かろうと子供が出歩く時間ではありません事よ!!」
「とーさまはやさしいのです! わたしがよふかししてもおやつをこっそりたべても、おこづかいがへるくらいであんまりおこりません!」
――それは明確な罰を与えることで怒ったつもりになってる駄目な親のパターンです。
顔を覆う『突撃巫女』神室・祇澄(CL2000017)の胸中には若干「今時そんな親いるのか」とも言いたげな思いが込められているが、其れはさておき。
「ふん……重鎮の箱入娘だか何だか知らないけど。
身勝手な振る舞いで古妖を荒らされちゃ迷惑なのよね」
怒りも顕わに、小さく、其れでいてはっきりと伝わる声で言うのは『溶けない炎』鈴駆・ありす(CL2001269)だった。
幼い頃から古妖に慣れ親しんだ彼女からすれば、こうした存在は傍迷惑の域を超えて嫌悪を示すと言っても過言ではない。
守護使役『ゆるゆる』――通称ゆるがそんなありすに寄り添えば、彼女もまた然りと頷いて叫ぶ。
「行くわよ。ゆる、開眼!」
次いで、身に纏われる炎、左掌に開かれる瞳。
対する少女――静海・湊もまた、小さな驚きの後に睨むような表情でありすを見据えた。
「わるいあやかしをたおすわたしのてき……あなたもあやかしのみかたなのですね!
それならばよーしゃはしません! うめみや! みずもと!」
「あ、すいませんお嬢様。敵の足止めに遭いました」
「なんですと!?」
若干の距離を隔てた位置から微かに響く声。
発生源である湊の護衛――鵜乃宮と水元は、事実自身等の目の前に立つ二人の覚者に対して苦笑を返す。
「……仮にも派閥の長になるような人物のくせに、子供の教育くらいちゃんとやってくれよ」
「流石に弁解の余地は無いねえ。まあ、あのお嬢の親父さんに関しては……」
指崎 まこと(CL2000087)の言葉に対して苦笑で応じる鵜乃宮の言葉を、其処で遮ったのは『教授』新田・成(CL2000538)だった。
「親御さんにも責任は在りますが、それだけではないでしょう?
教育者としての感想なのですがね……これは、『大人』の責任ですよ」
「……返す言葉もありませんな」
再び、苦笑を浮かべた鵜乃宮に対して、横に立つ水元は一言も発さず、武装を構える。
最も――それが本気かどうかなど、対する二人にとって解りきったものであったのだが。
「このままだと、彼女自身も含めて被害者が増えてしまう。面倒だけど、このままにはしておけないね」
「ごもっともだ。さて、それじゃあ彼方は若い衆にお任せして、此方は精々気取られないよう気張りますか」
言葉と共に、残る三名も――そして、木々を隔てた湊と三人の覚者も武器を構える。
見守る月も呆れるであろう、何とも奇妙な戦いが始まったのである。
●
「静海湊さん、ですね?」
「そーです!」
初動、真っ先に接敵した祇澄の問い掛けに対して生真面目な表情で応える湊に、彼女は少しだけ表情を緩めた。
人の話を聞かないと事前に教えられてはいたが、実際の所、根は素直なのだろう。ゆっくりと教え諭すように、それでも挙動だけは淀みない祇澄が、自身に蔵王・戒を施しながら語る。
「とある方から、貴女に勉強を、教えるようにと、言われてきました。
内容は、正しい力の使い方。そして、古妖と妖の、違いについて、です」
「だいじょうぶです! しってます!」
駄目かも知れない。
一瞬で評価を改めかけた祇澄に対して、返ってきたのは言葉だけではなかった。
火行弐式、圧撃。
ダメージは少ない。それでも虚を突かれたように仰け反る祇澄を迂回するように奔り、二次行動へ移る湊が向かったのは――
「ちょっ……マジですの!?」
中衛にて攻手を受け持つありす……の、前に立つアリサ。
反応を待つよりも早く、豪炎撃。距離を詰められたアリサもまた破れかぶれで炎撃を放ち――それはほぼ全くの同時に着弾した。
槌と拳。得物の形こそ違うものの、与えられた衝撃は互いにとって尋常成らざるもの。
「まずはこれでも食らいなさい!」
詰められた距離を再び開きながら、ありすが第三の目から光線を放つ。
二度の挙動で傾いだ姿勢。だのに湊の側は光線をなぞるように身を滑らせ、受けるダメージを最小限に抑える。
疾い。聞いてはいたものの改めてそのスペックを目の当たりにしたありすが舌を打った。
「……流石に数に押されるかと思ったが、意外に戦えてるな。うちのお嬢」
「なあに、まだまだ序盤も序盤です。それよりはこちらにお付き合い願いましょう、ウメミヤ君」
「……これってその呼び名が広まっていくパターンっすかね?」
挙動は最低限に。成によって撃ち込まれる杖術を或いは避け、或いは凌ぎ、辟易とした表情で言葉を返す鵜乃宮。
水元も同様だ。こちらはAAAの正所属である分、このような演技に付き合っていて良いのかという惑いはあるものの、まことのナイフを正面から受けつつ無言で拳を振るう。
「そっちが今、何を考えているのかは解らないけど」
堅いなあ、と苦笑するまこと。
「いずれにせよ貴方達には、ここで足止めされてもらうよ」
もとより長期戦を見越すつもりは、彼らにとって選択の範疇にもなかった。
先にも鵜乃宮が言ったとおり、今回の件は圧倒的な数の差で湊が倒されるまでの短期決戦が主である。
自然、長期を見越したリソースの振り分けなどは必要ない。それは攻手に回るありす、アリサ、祇澄だけに当てはまるものではなく……護衛二人のブロックを担当する成とまことにも当然言える。
見るだに、護衛達の実力は伯仲、故の自信。
尤も、まことはそう言った後に、悪戯っ気のある笑顔で言ったものである。
「元はそっちからの『お願い』なんだ。少しはこっちの言うことも聞いてくれて良いと思うよ?」
●
報告書にあったその姿は、ありすにとって親しみのあるものだった。
困った動物のお手伝いをして、木の実をちょこっとだけ頂いて、あとはもくもくと石を作る、ちょっと臆病な、けれどきっと優しい古妖。
――だが、仮に。
それが理不尽な暴力によって命を落としてしまったのなら、彼女は。
「到底、許せるものじゃないわよ……!」
何より、眼前の少女の無知こそが。
戦闘が開始して漸く一分。双方は決して浅くない傷を湛えながらも戦いを続けていく。
ブロッカーが祇澄一人で構成された女性陣は時折、湊のノックバック攻撃で其れを剥がされ、中衛であるありすやアリサまでも浅からぬ傷を刻みつけている。
さりとて、それで折れる心ではない。
炎、炎。自身を囲うように喚んだそれらを広げていき、木々すら覆う波のように湊へとけしかける。
「むう、おのれあやかしたちめ!」
それを眼前にしても、湊の闘士は揺るがない。
召炎波に片手を差し込む。燻る単手が横薙ぎに払われれば、猛火の大半を喰われたありすが些少の瞠目と――並々ならぬ苛立ちに顔を歪ませる。
「んあ~~~!! もう、まだるっこしいですわぁ!!」
速度偏重の戦いかたと言われた通り、度重なる避け筋に翻弄されるアリサが、此処に来て遂にキレた。
醒の炎。自己を灯し、他を灼く炎熱に魂を焦がし、いっそ愚直とも言える真っ直ぐな挙動で大鎚が湊を狙った。
だが、当たらず。返す刀で肩口に痛打を受けるアリサへ、得意げな声が掛けられる。
「せいぎのみかたにわるものがかてるはずがないのです! おもいしっ――」
「洒落臭い、ですわ……!」
距離は至近。拉いだ身が受けた拳に悲鳴を上げるのを無視して、アリサが湊の襟口に大鎚の柄を引っかける。
些細な抵抗。直ぐに解かれる小さな拘束に、それでもアリサは然りと笑った。
「後はお願いしますわ、神室サマ!!」
実戦経験のない彼女が、一人でこの『天才』に抗しうる等と、アリサは微塵も考えていなかった。
肝心なのは、次に繋げること。
刹那の拘束から抜け出した湊にぴたりと張り付いたのは、度重なるノックバックから復帰した祇澄。
「貴女は、ここに住む、古妖について、どれほど、ご存知ですか?」
「わるものです! それがわかればじゅうぶんです!」
――戦闘開始からこっち、ずっとこの調子な少女に、さしもの祇澄もくじけそうになる。
道理の根幹が違う相手に価値観を合わせるというのはかなりの苦労を伴うものと承知してはいるが、そもそも湊のそれは他の追随を許さないレベルで向こう見ずである分、理解を示せば間違いなく古妖の討伐を手伝わされる羽目になる。
で、あれば。
「……やむを、得ません」
相手を此方の価値観に沿うまで引きずり込み続ける。
より具体的に言えば――言うことを聞くまで、しばく。
蔵王・戒、紫鋼塞、あまつさえ癒しの雫で自他問わぬ回復が行える祇澄のサポーターとしての性能は、短時間でも十分解ったのであろう。
迷い無い圧撃。何度も繰り返された手法に慣れ始めた祇澄がそれを避けた後、背後のありすが吠える。
「その幼稚な性根、燃やし尽くしてあげる!」
そうして、召炎波。
蓄積させたダメージが此処に来て実を結ぶ。驚愕に目を見開く少女が倒れた後、気力の消耗したありすが疲れた声音で最後に呟いた。
「……ちゃんと勉強し直してきなさい。アンタはまだ幼稚すぎるわ」
●
「……あ、お嬢様。逃げんで下さいね。逃げたらきっと凄く痛い。俺達が」
「おまえたちもつかまったのですか! けがはないですか!」
「……。いやまあ、はい」
開口一番でこっちの心配をする湊に、鵜乃宮達が視線を逸らした。
戦闘後、拘束こそされないものの、武装解除の後に覚者達に囲まれた三名は流石に抵抗を放棄した。
「まあ、取りあえず其処なお嬢さんは皆様に任せるとして……大人の二人はこっちに来なさい」
表情こそ笑顔の成がちょっと離れた茂みに護衛の二人を誘う。当の本人らが「あ、ヤバいこれ」と悟るよりも早く、成はふたりをずるずると引きずって湊から引き剥がしていった。
「……ところでおまえたちはなにものですか」
「僕らはファイヴ、正義の味方だよ。悪いやつをやっつける為に来たんだ!」
「なんですと!」
一人取り残された湊の問い掛けにノリ良く答えるまこと。
無論、抵抗の手段を封じられていることが主な要因では有ろうが、案外こうした調子で応じれば、眼前の少女には良く響くらしい。
「そして、その悪いやつとは……君だ、静海湊ちゃん! 古妖をいじめる子は、悪い子だ!」
「しつれいな! わたしはわるいあやかしを」
「妖じゃない、古妖だ!」
ハイテンションな応酬を繰り返す二人に対し、ありすは疲れた表情で見遣り、アリサの方はまことの手口に素直に感心している。
まことの説得(?)に時折説明という形でフォローを入れる祇澄もあって、どうにか少しずつ古妖と妖の違いは解ってきた、かもしれないのだが。
「……ようするに、ここのあやかしはこようといって、わるいことをしないあやかしなのですね?」
「その通り。だからこれからは――」
「ほかの『こよう』はどうなのです?
みんな、ぜったいにわるいことはしませんか? ひとをおそったり、しませんか?」
その言葉に、一瞬だけ。
まことが、祇澄が、口をつぐむ。
元より子供の湊にそんな些細な逡巡など解りはしない、それでも、子供だからこその勘の良さもある。
「……きょうはかえります。ほんきでおこられたの、ひさしぶりでした。びっくりしました」
眇めた瞳がじっとみつめたのは、ありす。
一瞬表情を歪めて顔を背けた彼女に湊は首を傾げるが、直ぐにそれも忘れ、
「うめみや! みずもと! てったいです! つぎのさくせんをねるのです!」
「……へい」
恐らく、長らくの正座を強いられていたのであろう二人組が、説教を終えた成に追随する形で茂みから返ってくる。
痺れた足を引きずる二人を引き連れ、湊は挨拶もなく覚者達から離れていく――離れて、いこうとした。
「……シミズ・ミナトさん?」
「しずみです!」
それを最後に引き留めたのはアリサだった。
故意か事故か、言い間違えた名前に笑顔で詫びた後、彼女は言う。
「やはりわたくしとは年期が、才能が、努力が違いますわね。何れ機会があればタイジュツ? と言うのもお見せ頂けませんか?」
それまで自分にお説教をしてきた相手の中で、全く違うことを言うアリサに対し、湊はふふんと鼻を鳴らして言う。
「よいでしょう! つぎにあうときがくるまで、くびをあらってまってるといいのです!」
「多分、次は万全の状態で手合わせしようって言ってるんで。この人」
律儀に訂正する鵜乃宮と、一礼だけを返す水元は、今度こそ少女と共に山を下りていった。
「さて、あの子にはもっと大きな視野をもって頂きたいですけれど……」
「ま、その先は彼らに任せましょうか。
少しは喝を入れ直せたと思いますからね」
応える成が笑い、その後に護衛の二人組から渡された連絡先のメモへと視線を落とす。
その内一席お願いしますよ、と最後に言った鵜乃宮の表情を最後に思い浮かべた成は、そうして他の面々と共に帰還していく。
雲に煙る月夜。遂に人気の無くなった広場で、大きな影が祠に石を置いていく。
総ては何事もなかったかのように、其処にぺたんと座り込む古妖は、夜が明けるまでそうして空を見上げ続けていた。
夜半、人気のない森に響く音はそれほど多くない。
微かな風切り音、木の葉のさざめく音、あとは鳥や虫の些細な声音程度。
そうした――静穏を由とするその場所に於いて、思い切り不似合いな少女が年上の三人を前に朗々と叫んでいた。
「こんなよなかにあやしいやつらです! なにものですか!」
「それはこちらの台詞ですわ!」
件の古妖狩りを行おうとしている少女に対して、『二度目の女子高生』福田 アリサ(CL2001415)も負けじと声を張り上げて言い返す。
「大体ご両親は貴方にどんな教育をなさっているのです! どんなに強かろうと子供が出歩く時間ではありません事よ!!」
「とーさまはやさしいのです! わたしがよふかししてもおやつをこっそりたべても、おこづかいがへるくらいであんまりおこりません!」
――それは明確な罰を与えることで怒ったつもりになってる駄目な親のパターンです。
顔を覆う『突撃巫女』神室・祇澄(CL2000017)の胸中には若干「今時そんな親いるのか」とも言いたげな思いが込められているが、其れはさておき。
「ふん……重鎮の箱入娘だか何だか知らないけど。
身勝手な振る舞いで古妖を荒らされちゃ迷惑なのよね」
怒りも顕わに、小さく、其れでいてはっきりと伝わる声で言うのは『溶けない炎』鈴駆・ありす(CL2001269)だった。
幼い頃から古妖に慣れ親しんだ彼女からすれば、こうした存在は傍迷惑の域を超えて嫌悪を示すと言っても過言ではない。
守護使役『ゆるゆる』――通称ゆるがそんなありすに寄り添えば、彼女もまた然りと頷いて叫ぶ。
「行くわよ。ゆる、開眼!」
次いで、身に纏われる炎、左掌に開かれる瞳。
対する少女――静海・湊もまた、小さな驚きの後に睨むような表情でありすを見据えた。
「わるいあやかしをたおすわたしのてき……あなたもあやかしのみかたなのですね!
それならばよーしゃはしません! うめみや! みずもと!」
「あ、すいませんお嬢様。敵の足止めに遭いました」
「なんですと!?」
若干の距離を隔てた位置から微かに響く声。
発生源である湊の護衛――鵜乃宮と水元は、事実自身等の目の前に立つ二人の覚者に対して苦笑を返す。
「……仮にも派閥の長になるような人物のくせに、子供の教育くらいちゃんとやってくれよ」
「流石に弁解の余地は無いねえ。まあ、あのお嬢の親父さんに関しては……」
指崎 まこと(CL2000087)の言葉に対して苦笑で応じる鵜乃宮の言葉を、其処で遮ったのは『教授』新田・成(CL2000538)だった。
「親御さんにも責任は在りますが、それだけではないでしょう?
教育者としての感想なのですがね……これは、『大人』の責任ですよ」
「……返す言葉もありませんな」
再び、苦笑を浮かべた鵜乃宮に対して、横に立つ水元は一言も発さず、武装を構える。
最も――それが本気かどうかなど、対する二人にとって解りきったものであったのだが。
「このままだと、彼女自身も含めて被害者が増えてしまう。面倒だけど、このままにはしておけないね」
「ごもっともだ。さて、それじゃあ彼方は若い衆にお任せして、此方は精々気取られないよう気張りますか」
言葉と共に、残る三名も――そして、木々を隔てた湊と三人の覚者も武器を構える。
見守る月も呆れるであろう、何とも奇妙な戦いが始まったのである。
●
「静海湊さん、ですね?」
「そーです!」
初動、真っ先に接敵した祇澄の問い掛けに対して生真面目な表情で応える湊に、彼女は少しだけ表情を緩めた。
人の話を聞かないと事前に教えられてはいたが、実際の所、根は素直なのだろう。ゆっくりと教え諭すように、それでも挙動だけは淀みない祇澄が、自身に蔵王・戒を施しながら語る。
「とある方から、貴女に勉強を、教えるようにと、言われてきました。
内容は、正しい力の使い方。そして、古妖と妖の、違いについて、です」
「だいじょうぶです! しってます!」
駄目かも知れない。
一瞬で評価を改めかけた祇澄に対して、返ってきたのは言葉だけではなかった。
火行弐式、圧撃。
ダメージは少ない。それでも虚を突かれたように仰け反る祇澄を迂回するように奔り、二次行動へ移る湊が向かったのは――
「ちょっ……マジですの!?」
中衛にて攻手を受け持つありす……の、前に立つアリサ。
反応を待つよりも早く、豪炎撃。距離を詰められたアリサもまた破れかぶれで炎撃を放ち――それはほぼ全くの同時に着弾した。
槌と拳。得物の形こそ違うものの、与えられた衝撃は互いにとって尋常成らざるもの。
「まずはこれでも食らいなさい!」
詰められた距離を再び開きながら、ありすが第三の目から光線を放つ。
二度の挙動で傾いだ姿勢。だのに湊の側は光線をなぞるように身を滑らせ、受けるダメージを最小限に抑える。
疾い。聞いてはいたものの改めてそのスペックを目の当たりにしたありすが舌を打った。
「……流石に数に押されるかと思ったが、意外に戦えてるな。うちのお嬢」
「なあに、まだまだ序盤も序盤です。それよりはこちらにお付き合い願いましょう、ウメミヤ君」
「……これってその呼び名が広まっていくパターンっすかね?」
挙動は最低限に。成によって撃ち込まれる杖術を或いは避け、或いは凌ぎ、辟易とした表情で言葉を返す鵜乃宮。
水元も同様だ。こちらはAAAの正所属である分、このような演技に付き合っていて良いのかという惑いはあるものの、まことのナイフを正面から受けつつ無言で拳を振るう。
「そっちが今、何を考えているのかは解らないけど」
堅いなあ、と苦笑するまこと。
「いずれにせよ貴方達には、ここで足止めされてもらうよ」
もとより長期戦を見越すつもりは、彼らにとって選択の範疇にもなかった。
先にも鵜乃宮が言ったとおり、今回の件は圧倒的な数の差で湊が倒されるまでの短期決戦が主である。
自然、長期を見越したリソースの振り分けなどは必要ない。それは攻手に回るありす、アリサ、祇澄だけに当てはまるものではなく……護衛二人のブロックを担当する成とまことにも当然言える。
見るだに、護衛達の実力は伯仲、故の自信。
尤も、まことはそう言った後に、悪戯っ気のある笑顔で言ったものである。
「元はそっちからの『お願い』なんだ。少しはこっちの言うことも聞いてくれて良いと思うよ?」
●
報告書にあったその姿は、ありすにとって親しみのあるものだった。
困った動物のお手伝いをして、木の実をちょこっとだけ頂いて、あとはもくもくと石を作る、ちょっと臆病な、けれどきっと優しい古妖。
――だが、仮に。
それが理不尽な暴力によって命を落としてしまったのなら、彼女は。
「到底、許せるものじゃないわよ……!」
何より、眼前の少女の無知こそが。
戦闘が開始して漸く一分。双方は決して浅くない傷を湛えながらも戦いを続けていく。
ブロッカーが祇澄一人で構成された女性陣は時折、湊のノックバック攻撃で其れを剥がされ、中衛であるありすやアリサまでも浅からぬ傷を刻みつけている。
さりとて、それで折れる心ではない。
炎、炎。自身を囲うように喚んだそれらを広げていき、木々すら覆う波のように湊へとけしかける。
「むう、おのれあやかしたちめ!」
それを眼前にしても、湊の闘士は揺るがない。
召炎波に片手を差し込む。燻る単手が横薙ぎに払われれば、猛火の大半を喰われたありすが些少の瞠目と――並々ならぬ苛立ちに顔を歪ませる。
「んあ~~~!! もう、まだるっこしいですわぁ!!」
速度偏重の戦いかたと言われた通り、度重なる避け筋に翻弄されるアリサが、此処に来て遂にキレた。
醒の炎。自己を灯し、他を灼く炎熱に魂を焦がし、いっそ愚直とも言える真っ直ぐな挙動で大鎚が湊を狙った。
だが、当たらず。返す刀で肩口に痛打を受けるアリサへ、得意げな声が掛けられる。
「せいぎのみかたにわるものがかてるはずがないのです! おもいしっ――」
「洒落臭い、ですわ……!」
距離は至近。拉いだ身が受けた拳に悲鳴を上げるのを無視して、アリサが湊の襟口に大鎚の柄を引っかける。
些細な抵抗。直ぐに解かれる小さな拘束に、それでもアリサは然りと笑った。
「後はお願いしますわ、神室サマ!!」
実戦経験のない彼女が、一人でこの『天才』に抗しうる等と、アリサは微塵も考えていなかった。
肝心なのは、次に繋げること。
刹那の拘束から抜け出した湊にぴたりと張り付いたのは、度重なるノックバックから復帰した祇澄。
「貴女は、ここに住む、古妖について、どれほど、ご存知ですか?」
「わるものです! それがわかればじゅうぶんです!」
――戦闘開始からこっち、ずっとこの調子な少女に、さしもの祇澄もくじけそうになる。
道理の根幹が違う相手に価値観を合わせるというのはかなりの苦労を伴うものと承知してはいるが、そもそも湊のそれは他の追随を許さないレベルで向こう見ずである分、理解を示せば間違いなく古妖の討伐を手伝わされる羽目になる。
で、あれば。
「……やむを、得ません」
相手を此方の価値観に沿うまで引きずり込み続ける。
より具体的に言えば――言うことを聞くまで、しばく。
蔵王・戒、紫鋼塞、あまつさえ癒しの雫で自他問わぬ回復が行える祇澄のサポーターとしての性能は、短時間でも十分解ったのであろう。
迷い無い圧撃。何度も繰り返された手法に慣れ始めた祇澄がそれを避けた後、背後のありすが吠える。
「その幼稚な性根、燃やし尽くしてあげる!」
そうして、召炎波。
蓄積させたダメージが此処に来て実を結ぶ。驚愕に目を見開く少女が倒れた後、気力の消耗したありすが疲れた声音で最後に呟いた。
「……ちゃんと勉強し直してきなさい。アンタはまだ幼稚すぎるわ」
●
「……あ、お嬢様。逃げんで下さいね。逃げたらきっと凄く痛い。俺達が」
「おまえたちもつかまったのですか! けがはないですか!」
「……。いやまあ、はい」
開口一番でこっちの心配をする湊に、鵜乃宮達が視線を逸らした。
戦闘後、拘束こそされないものの、武装解除の後に覚者達に囲まれた三名は流石に抵抗を放棄した。
「まあ、取りあえず其処なお嬢さんは皆様に任せるとして……大人の二人はこっちに来なさい」
表情こそ笑顔の成がちょっと離れた茂みに護衛の二人を誘う。当の本人らが「あ、ヤバいこれ」と悟るよりも早く、成はふたりをずるずると引きずって湊から引き剥がしていった。
「……ところでおまえたちはなにものですか」
「僕らはファイヴ、正義の味方だよ。悪いやつをやっつける為に来たんだ!」
「なんですと!」
一人取り残された湊の問い掛けにノリ良く答えるまこと。
無論、抵抗の手段を封じられていることが主な要因では有ろうが、案外こうした調子で応じれば、眼前の少女には良く響くらしい。
「そして、その悪いやつとは……君だ、静海湊ちゃん! 古妖をいじめる子は、悪い子だ!」
「しつれいな! わたしはわるいあやかしを」
「妖じゃない、古妖だ!」
ハイテンションな応酬を繰り返す二人に対し、ありすは疲れた表情で見遣り、アリサの方はまことの手口に素直に感心している。
まことの説得(?)に時折説明という形でフォローを入れる祇澄もあって、どうにか少しずつ古妖と妖の違いは解ってきた、かもしれないのだが。
「……ようするに、ここのあやかしはこようといって、わるいことをしないあやかしなのですね?」
「その通り。だからこれからは――」
「ほかの『こよう』はどうなのです?
みんな、ぜったいにわるいことはしませんか? ひとをおそったり、しませんか?」
その言葉に、一瞬だけ。
まことが、祇澄が、口をつぐむ。
元より子供の湊にそんな些細な逡巡など解りはしない、それでも、子供だからこその勘の良さもある。
「……きょうはかえります。ほんきでおこられたの、ひさしぶりでした。びっくりしました」
眇めた瞳がじっとみつめたのは、ありす。
一瞬表情を歪めて顔を背けた彼女に湊は首を傾げるが、直ぐにそれも忘れ、
「うめみや! みずもと! てったいです! つぎのさくせんをねるのです!」
「……へい」
恐らく、長らくの正座を強いられていたのであろう二人組が、説教を終えた成に追随する形で茂みから返ってくる。
痺れた足を引きずる二人を引き連れ、湊は挨拶もなく覚者達から離れていく――離れて、いこうとした。
「……シミズ・ミナトさん?」
「しずみです!」
それを最後に引き留めたのはアリサだった。
故意か事故か、言い間違えた名前に笑顔で詫びた後、彼女は言う。
「やはりわたくしとは年期が、才能が、努力が違いますわね。何れ機会があればタイジュツ? と言うのもお見せ頂けませんか?」
それまで自分にお説教をしてきた相手の中で、全く違うことを言うアリサに対し、湊はふふんと鼻を鳴らして言う。
「よいでしょう! つぎにあうときがくるまで、くびをあらってまってるといいのです!」
「多分、次は万全の状態で手合わせしようって言ってるんで。この人」
律儀に訂正する鵜乃宮と、一礼だけを返す水元は、今度こそ少女と共に山を下りていった。
「さて、あの子にはもっと大きな視野をもって頂きたいですけれど……」
「ま、その先は彼らに任せましょうか。
少しは喝を入れ直せたと思いますからね」
応える成が笑い、その後に護衛の二人組から渡された連絡先のメモへと視線を落とす。
その内一席お願いしますよ、と最後に言った鵜乃宮の表情を最後に思い浮かべた成は、そうして他の面々と共に帰還していく。
雲に煙る月夜。遂に人気の無くなった広場で、大きな影が祠に石を置いていく。
総ては何事もなかったかのように、其処にぺたんと座り込む古妖は、夜が明けるまでそうして空を見上げ続けていた。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
