元AAAの暗殺者
【月夜の死神】元AAAの暗殺者



 何故か、自分が仕事をするときは、見事な月が出る。
 偶然と言ってしまえば、それまでだが。今日も、見事な月夜だった。
「た、頼む。見逃してくれっ……こ、殺さないでっ!」
 ある違法暴力組織の活動拠点。
 隔者達が根城にしていたビル内は、死体の山が築かれていた。それは、全て腕自慢の組織の構成員達。目の前では唯一の生き残りである、ボスだった男は腰を抜かして失禁していた。
「……」
 日向朔夜は、無表情に大口径の銃を相手の額に押し付けた。
 この死と破壊に満ちた惨状は、ほぼ彼一人で行ったもの。裏の業界でも名うてのヒットマンが、こんな線の細い若者だとは誰も信じはしないだろう。
「ま、まさか、あの『月夜の死神』が……ウチを狙ってくるとは……」
「……」
「だ、誰に依頼された? か、金ならその倍だすから……」
「……」
「ま、待ってくれ! 俺には妻子がいるんだ!」
「……」
「妻も、娘も……俺がこんな仕事をしているとは知らない」
「……」
「せ、せめて、最後に一目……あいつらの顔を!」
 必死になって懇願する男を。
 朔夜は凍えた瞳で見据えて、ためらいなく引き金を引いた。
「お前の死に場所はここだ」
 銃声。
 室内に血が飛び散る。
 頭を撃ち抜かれた隔者は、世にも醜く顔を歪ませながら絶命して倒れる。立っているのは、死神と呼ばれた男のみ。そのまま、隠し部屋に保管されていた大量の違法薬物に火を点け。
 ビルごと焼き尽くした。
「……依頼、完了」
 空の月を眺めながら。
 黒のジャケットを翻し、朔夜は悠々と現場をあとにする。
 人を殺したばかりとは思えぬ自然な足取りで、仕事帰りのサラリーマン達の中に混じり。公共交通機関を乗り継いで、尾行には細心の注意を払い。
 会員制の薄暗いバーへと足を向ける。
「あら、死神さん。いらっしゃい」
 この店の女主人にして、裏の仕事の斡旋屋は愛想良く微笑む。
 ここは、まっとうな人間が決して足を踏み入れることはない。斡旋所だった。
「何か飲む?」
「じゃあ、炭酸水を」
「ここはアルコールを嗜むところよ」
「俺はまだ未成年だ」
「相変わらず、お堅いわねえ」
 出されたグラスに口をつけもせず。
 淡々と朔夜は、仕事の結果を報告する。
「例の件は片付けてきた。報酬はいつものところに」
「了解。さすが月夜の死神……いえ、さすが元AAAといったところかしら?」
 斡旋屋は意味ありげに笑い。
 それを朔夜は無視した。
「これで、奴らの違法薬物で娘を失った依頼人も満足するでしょ。で、次の仕事だけど」
「……ああ」
「ちょっとワケありの依頼人でね。他にも同業者が動いているわ」
「……」
 女主人が資料を渡す。
 そこには、顔写真つきで年端もいかぬ少女の情報が事細かに記されていた。
「罪のない九歳の女の子を殺して欲しいの」


「ああ、私……もうすぐ死ぬのね」
 結城凛は、病院のベッドの上で静かに呟く。
 最上階の病室。ここが幼い彼女が、一日のほとんどを過ごす場所だった。
 扉の向こうには、雇われたボディーガードが二人立ち続けているが。それも、どこまで信用できるものか分からない。
 凛の身体は、日に日に悪くなっていた。
 両親が事故で死に、一人ぼっちになって。
 誰も訪ねてくることない、孤独な部屋に押しこめられて。
 こんな苦しい毎日なら。
「お父さん……お母さん……ごめんなさい」
 小さな嗚咽。
 ……外は見事な月夜だった。
  

「今回集まってもらったのは、他でもない。ある少女が命を狙われているという情報が入った」
 中 恭介(nCL2000002)が、覚者達に説明を始める。
 その顔は、苦々しいほどに険しい。
「少女の名前は結城凛。生まれつき身体が弱く、今は病院に入院している」
 凛の資産家の両親は事故死しており。
 彼女は莫大な遺産を相続することになったのだが、凛が死んだ場合はその大金は欲深い親類達へと流れるようになっていた。
 この少女の死を願う者は多数いる。
「恐らくは、その親類達の差し金だと思うが。複数の暗殺者が雇われて、結城凛を殺害しようとしている」
 このままでは少女の命が危ない。
 そして、一番の問題は、死神と呼ばれる殺し屋がこの件に動いているということだ。
「月夜の死神……日向朔夜。彼は将来を嘱望された元AAAの精鋭だった。ある任務の最中に消息不明になっていたのだが、まさかこんな事態になるとは……」
 今の朔夜は、裏世界では職業的暗殺者として名を馳せている。
 覚者や妖との戦闘に精通したエキスパートで、機械のように冷徹に依頼を遂行する腕利きだ。
「君達には、暗殺者の撃退を頼みたい。他の暗殺者もそうだが、特に日向朔夜は油断のできない強敵だ。彼は人と妖の殺し方を、熟知している」
 恭介は重く息を吐いてから。
 額を押さえて頭を振った。
「あと、これは出来ればだが……命を狙われている結城凛を、元気付けてやって欲しい。両親の死に、親族達の妬み……彼女は生きる気力を失いかけている。どうか、よろしく頼む」


■シナリオ詳細
種別:シリーズ
難易度:普通
担当ST:睦月師走
■成功条件
1.暗殺者達の撃退
2.なし
3.なし
 今回は、元AAA暗殺者が関わるシリーズシナリオです。
 シナリオ参加者に次回のシナリオへの予約優先権を付与する形で連続していきます。

●日向朔夜(ヒュウガ・サクヤ)
 十九歳。覚者ではなく、高度な訓練を受けた職業的暗殺者。
 月夜の死神の異名を持つ。
 元AAAの精鋭で、ある任務の最中に姿を消していたが詳細は不明。今回は、結城凛の暗殺依頼を受けている模様。隔者や妖との戦闘に関してはエキスパートであり、覚者であろうとも危険な相手です。

(主な攻撃方法)
 リボルバー 物遠単  〔出血〕
 手榴弾   物遠敵全 〔溜め1〕
 鋼糸     物遠列  〔鈍化〕

 
●隔者の暗殺者四人
 結城凛をターゲットとする暗殺者達。
 火行二人、水行二人。
 日向朔夜とはチームというわけではなく、別行動で仕事にとりかかっています。

●結城凛
 九歳の少女。
 資産家の親の遺産を受け継ぎ、それを理由に親類達から命を狙われています。
 身心ともに弱り切り、現在は生きる気力にも乏しく。病院のベッドからほとんど動けない状況です。

●現場
 結城凛の入院している大病院。
 凛の部屋は、最上階のVIPルーム。その階は、凛以外は入院患者はいません。また二人のボディーガードが、病室の前に張り付いています。
 
 今回のシリーズシナリオは、皆さんの行動によって次のシナリオの方向性が変わったり、話数が増えたり減ったりします。
 シリーズの行く末は参加者の皆さんにかかっています。
 
 よろしくお願いします。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年06月02日

■メイン参加者 8人■

『戦場を舞う猫』
鳴海 蕾花(CL2001006)
『白い人』
由比 久永(CL2000540)
『追跡の羽音』
風祭・誘輔(CL2001092)
『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)
『冷徹の論理』
緒形 逝(CL2000156)


「どのあたりが侵入しやすいかな」
 お見舞いに来た人のふりをしつつ。
 阿久津 ほのか(CL2001276)は、院内を巡っている。覚者達は、昼間のうちに現場へと潜りこんでいた。
「VIPルームについてですか?」
「立派な病院ゆえ、最上の部屋はどのような所なのだろうと思ってな」
 同じく見舞客を装った『白い人』由比 久永(CL2000540)は、マイナスイオンを使って怪しまれない程度に、患者や看護師に最上階について質問する。
「VIPルームは、一般の方は使用をお断りしています」
「なるほど」
 ルートや構造、凛について等。
 『狗吠』時任・千陽(CL2000014)は、まずは送受心・改を起動し、仲間と中継連絡を随時行う。マップを手に、侵入しやすいルートを割り出しておく。
「結城総合病院……結城家直属の施設でしたか」
 この大病院は、結城凛の親族によって運営されている。
 さらに。
「当の担当医が、新任のようですね。これだけでは、まだ何とも言えませんが」
 これも、味方に伝達しておく。
 ちょうど凛の担当医、担当看護師に会いに行っていた『ゴシップ記者』風祭・誘輔(CL2001092)は相手をよく観察した。
「アンタが結城凛の担当医か?」
「ええ……失礼ですが、あなたは?」
「ファイヴから派遣された護衛だ」
 少女の担当医は、白衣を着た若い男だった。
 誘輔が凛の命が暗殺者に狙われてる事実を伝えると、みるみる狼狽する。
「あ、暗殺? まさか、そんな」
「戦闘に巻き込まれたくないなら夜間は最上階に立ち入るな」
 これは、敵が医者や看護師に変装して近寄るのを防ぐ為だ。
 ついでに、凛の様子や病状を聞いておく。
「そ、そうですね。彼女の場合、やはり精神的負担から衰弱している面があります」
「……もっと本人に身体を治す意志があれば良いのですが」
 医師達は顔を見合わせて所見を述べた。
 誘輔は物想いにしばし耽る。
(病は気からって諺がある。凛が希望を取り戻せば体の方も持ち直すんじゃねえか? そう信じてえ)
 判明した情報は合流時に仲間と共有するかと、また情報収集を続けた。
「病室のVIPルームにいるボディーガード付きの患者、それと専門医と看護師についても聞きたいんだけど」
 『戦場を舞う猫』鳴海 蕾花(CL2001006)は、ワーズワースを使用。
 F.i.V.E.の名前を出し、病院の受付で話を聞いていた。
「結城凛さんですね。この病院の理事長の姪御さんになります。新任の安城先生が、複数のベテラン看護師達と担当しています。腕の良い気の優しい先生ですよ」
 ワーズワースの効果か。
 受付嬢は親切に説明してくれる。あらかた聞き終えると、今後は病室の方へと。ボディーガードが非覚醒者かどうか確認するためワーズワースを用いて「病室に入る」交渉をしてみるつもりだ。
 エレベーターで最上階まで一気に上がる。
 別世界のような豪華な調度品の数々。長い廊下の先、VIPルームの前には賀茂 たまき(CL2000994)と『一級ムードメーカー』成瀬 翔(CL2000063)の姿が見える。
「お待ち下さい……何の用ですか、先生」
「診察と、患者さんのお友達がお見舞いにいらしたので付き添いです」
 たまきは変装の達人で医者に化けている。
 黒服にサングラスをした男女のボディーガードは、小さい花束を持った翔の方へと視線を向けた。
「お見舞いに来たんだ。凜に会わせてくれ」
 学校の友達のフリをして演技をしてみる。
 だが、黒服の二人は扉の前から頑なに動こうとはしなかった。
「素性の知れぬ者を通すわけにはいかない。お嬢様に伝言があるなら、我々から伝えよう」
「でも」
「お引き取りを」
「……わかったよ」
 けんもほろろに追い返される。
 一旦、翔は素直に引き下がった。たまきに目配せして、通路の角を曲がる。
「では、先生。どうぞお入り下さい」
「はい」
 たまきがそのまま、VIPルームへと入っていく。それを見届けてから、今度は蕾花が黒服達へと近付いていった。
「F.i.V.E.の覚者だ。ここの患者に用があるから、病室に入れて欲しい」
「F.i.V.E.の覚者……?」
 感情の読めぬ様子で、黒服の男が呟く。
 このままワーズワースで、蕾花が交渉を行おうすると――
「お待ちなさい。スキルで扇動するつもりなら、敵対行動とみなして排除します」
 女の方が鋭い声を発する。
 訓練された動きで、素早く銃口をこちらへと向けてきた。その傍らには守護使役の姿が見える。
(女の方は覚者で、男の方は一般人か……)
 蕾花が距離をとる。
 これ以上調べるのは難しい。
(女の子1人の命を狙うのに殺し屋雇うなんて、それだけでお金かかりそうなもんだけどね。一体どんな遺産なんだか。あたしだったら病院食に毒を混ぜるけど……? 真逆とは思うけど隔者側の暗殺者ってまさか凛の近くにいる人物?)
 ともかく最低限の確認はできた。
 停電の事も考え、蕾花は電灯の設備を把握しておこうとその場を離れた。
「今回は出来る限り補佐に努めるとしますかね、まだ、この悪食を振るう時では無さそうだものな」
 緒形 逝(CL2000156)は常に感情探査を使用し、情報収集や行動の補助に使っていた。
 白衣と白スニーカーを着用して看護師に変装。絵刀あさぎと名乗って、結城凛に関する情報を集める。
「最近の面会者はなし……か。あとは最上階に繋がるエレベーターの場所や階段と非常階段の位置、物理的なセキュリティ面の有無を調べよう」
 と、そこで逝はあるものに気付く。
 大変気づきにくいが……階段に細い糸が張り巡らせてある。一つや二つではない。よくよく観察すると、この病院のいたる場所に似たようなものが。
 どんな仕掛けがあるか分からない以上、迂闊に触れることもできない。
「これは鋼糸か……メモをとって、時任ちゃんにも情報を送らないとね」
 覚者達以外。
 誰かが既に、先手を打っている。それだけは間違いないようだった。 


「……誰?」
「騒がないでくれ。大丈夫、オレは正義の味方だ」
 VIPルームはその名の通り、一流ホテルのような造りだった。
 弱弱しく呻く結城凛に対して、口に指を当てて翔は笑ってみせる。ボディーガードから見えない位置で、透視を使ってくぐれそうな壁を探し。物質透過で病室へと忍び込んだのだ。
「驚かせてしまって、ごめんなさい」
 入口から病室へ入ったたまきも変装を解く。
 小柄な少女はベッドの上で幾つものチューブで痛々しくつながれている。緊張を解すようにマイナスイオンで話し掛けた。
「私は賀茂たまき。凛さんの身を守る為に来ました」
「オレ達はF.i.V.E.なんだ」
 ベッドで横になったまま、凛は二人をじっと見る。
 その目には生気が欠けていた。
「……私を殺しに来たんじゃないんですね」
 ぽつりと、一言。
 何かを悟ったような言動に、覚者達は顔を見合わせた。
「凛さんは、暗殺者に狙われています……そして私達は自分の意志で凛さんを助ける為に来た個人です」
「もしかしたら、ここが戦闘場所になるかもしれない。でも絶対に守るから」
「はい。必ず、凛さんを守り抜きます」
 少しでも勇気と元気を取り戻して頂ける様に、大切な友達と話す様に話しかける。
(生きる力を失いかけている凛さんを 少しでも元気付けてあげられたら……)
 守るだけではない。
 生きる気力を分けたい。
「凛さんが宜しければ お友達にもなってほしいんです」
「身体はきっと医者が何とかしてくれる。だから、治ったら一緒に遊びに行こうぜ。遊園地、動物園、ただ公園で遊ぶのだって楽しいと思うんだ。だからオレ達と、友達になってくれねーかな」
 二人の言葉に。
 今まで沈んでいた少女の瞳に、僅かに光が灯る。  
「友達……私と?」
「何か 目的や目標があれば 気力を取り戻すきっかけにもなるのですが……その事も一緒に探しましょう」
 覚者達は、日が暮れるまで他愛のない話を続け。
 凛はそれをずっと黙って聞いていた。
  

 夕方からは最上階のVIPルーム近く、逝達は集めた情報を基にボディーガードから見えない位置で待機していた。感情探査で必要以上に警戒されてないか、調べて交渉に出るタイミングを伺っていたのだが。
(あの二人、妙に感情を読みにくい……)
 黒服の二人は極力感情を抑えている。
 また門前払いを覚悟で接触すると――意外な答えが返ってきた。
「F.i.V.E.の者とは協力するようにと、お嬢様からご意向があった」
「どうぞ、お入り下さい」
 あっさりと、病室の中にも入れてくれる。
 仲間が前もって面会した甲斐があったようだ。
「眠らせずに済んだか」
「ロープで縛る必要もありませんね」
 久永の言葉に、千陽が頷く。守護使役は聞き込み時に見たマスターキーの形に変形させてあった。そのままVIPルームの周辺で待ち伏せることにする。
(幼子相手に四人で動いているとなると、最初から邪魔者を相手にする気があるのだろう)
(暗殺者達が来る時間はわかりませんからね)
 他に、たまきや誘輔は病室内で凛から離れず。
 翔とほのかは屋上でスタンバイしていた。
「日向が屋上から来る可能性に備えないとな」
「時任さん、今のところ異常なしです」
 仲間の送受心・改を活用して連絡。
 覚者達は厳戒態勢で事に臨んでいた。
「……今日も良い月夜ですね」
 皆に見守られる中、凛は窓の外を眺める。
 幻想的な月夜。
 まさしく吸い込まれそう。
「結城君の、診察の時間だ。入れてくれ」
 凛の担当医と看護師達が、訪れたのはそんな時のこと。
 だが、千陽の超直観が何かを告げ。久永や逝達も一団を止めにかかる。
「待って下さい」
「邪魔……邪魔邪魔邪魔邪魔をするな!!」
 医師が荒々しくメスを取り出す。
 黒服の二人がそれを取り押さえた。
「全員、魔眼で操られているな……ここは任せて、中を守れF.i.V.E.」
 続々と病院関係者が現れては、病室へと殺到しようとする。
 更に屋上でも異変が起こっていた。
「来た、隔者が四人」
 ほのかの第六感がとらえる、闇夜の空に浮かぶ影。
 翼で滑空して、炎と水の弾を飛ばしてくる。翔とほのかは思念を送り、物質透過で床をすり抜けて病室へと直行した。
「凛さんへは指一本触れさせません! お護りすると約束しましたから」
 病室の壁が外から破壊され。
 隔者が侵入するのと、覚者達が揃ったのは同時だった。たまきは凛を護らんと張り付き、紫鋼塞を施す。
「どけ、覚者!」
「こちらも仕事なのでなぁ、恨んでくれるなよ」 
 迫る敵を、久永は迷霧で弱体化させる。
 ほのかは凛へとにっこり笑って、前衛として組み合い。千陽も地烈で迅速に制圧にかかった。
「怖い人達から守るね」
「大丈夫です。貴方を助けにきました。貴方はここで死んでいい人ではありません」
 少女の目が覚者達をしかと映す。
 翔は雷獣で、激しい雷を呼び出した。
(まだ子供なのに命を狙われてる、か。望んで財産手に入れた訳じゃねーだろうにさ。守ってやりたい。命もだけど、できれば心も)
 隔者が炎撃が繰り出し。
 癒しの滴で連携して回復し合う。
「おっさんが最初やるのは暗殺者4人を叩き出す、お仕事さね」
 逝は圧投で敵を削った。
 味方の消耗を見計らって前に出る。広い室内は混戦の態を成し始めた。
「! たまきちゃん、凛ちゃんが狙われているよ」
 ほのかが、察知した危険を伝え。
 遮るように間に入って、無頼漢で動きを鈍らせて鉄甲掌を叩きこむ。だが、敵もさるもの。凛を抱きしめてガードするたまきごと焼き払わんとし。
 鋭く輝く鋼糸が隔者達を絡め取り、それを阻止する。
「月夜の死神!? な、何の真似だっ」
「クライアントの要望だ」
 入口から悠々と。
 ボディーガードの男……日向朔夜はサングラスとウイッグを外す。
「それと、無関係な一般人を巻き込む暗殺法は感心しない」
「ちっ! 散開しろ!」
 いつの間にか地面に転がる手榴弾。
 室内はけたたましい爆音と衝撃に覆われて、隔者と覚者双方を吹き飛ばす。
「テメエに聞きたい事がある。なんでAAAを抜けた? 最後の任務で何かあったのか? 報酬を貯めるのには何か目的があんのか?」
 機化硬で守りを固めていた誘輔は何とか踏みとどまり。
 朔夜へと正鍛拳で躍りかかった。
「……」
「なんだよ、ダンマリか気に入らない」
 無言のまま拳を力を逃がすようにいなす相手へ。
 蕾花は天駆で速度が上がった二連撃を放つが、これも紙一重で躱される。
「あんたが裏切った理由なんてどうだっていい。あんたがF.i.V.E.やAAAに何しようがあたしには関係ない。元々潰したかった奴が潰していいヤツになっただけ」
 蕾花は怒涛の勢いで攻めかかり。
 そこへ千陽も錬覇法を使って支援に向かう。
「さて、日向でしたか。AAAを裏切り、汚れ仕事を受けるようになった理由は金銭、だけではなさそうですが」
「……」
「なんの理由もなく動いているようには見えない目をしている、君は」
「……」
 朔夜は凍えた視線を這わせ。
 鋭い蹴りを見切り、突きを払い、隙間を縫い。覚者ではなく隔者へと精確無比に発砲。元AAAは天衣無縫に戦場を切り崩す。
「くっ、死神が相手では分が悪いか……」
「日向も気になるが、まずは目の前の相手からだな」
 敵が怯んだところへ、久永は脣星落霜や雷獣で攻撃を重ねた。自分含め、仲間の体力気力が半分以下になったら回復を施す。
「予想通り、タイミングをずらして襲撃してきたな」
「4人組も日向も纏めてぶっ飛ばす!」
 逝の地烈の連撃により、隔者の一人が膝をつく。
 続いて、翔が雷獣を敵群へと見舞って駄目押しした……朔夜は、また超反応で難を逃れたが。
「今回の私の役目は 凛さんを必ずお護りする事ですから……!」
 無頼漢を使ったたまきは、隆神槍と琴桜で近付く敵を打ち払い。
 誘輔は重突と地烈の列攻撃で敵の体力を削り取り。凛に攻撃が及ばないように、派手に立ち回って注意を引き付ける。
「……このままでは捕縛されかねん」
「ここは……退くぞ!」
 隔者達は早々に撤退を決意。
 自分達が空けた穴から、飛び出して夜の街へと消える。殺気を放つ朔夜に隙を見せるわけにはいかず、覚者達は追撃を断念せざるを得ない。
「……邪魔者は消えたな」
「日向さんも何か事情があるようだけど。こんな小さな子を暗殺だなんて……問題のあるクライアントだと思います……こんな事言うのもなんですけど長くお付き合いしない方が良いですよ……」
 ほのかは凛を守るように立ち塞がり。
 手の甲の第三の眼から破眼光を放つ。包囲された朔夜は、それすらぎりぎりで躱すが。
「AAAの人間を前々からぶっ飛ばしたかったんだ」
「……」
 そこに合わせた蕾花の連撃が、死神を直撃する。
 そして、その瞬間。
(……これは)
 戦闘前から読心術を使っていた彼女の脳裏に。
 ある情報が流れてくる。
「あんたの依頼主が……結城凛?」
 

「……ああ。俺はそこの子供から依頼を受けた。このまま誰かに殺されるくらいなら、他でもない自分の意志で死にたいとな」 
 だから朔夜は、親類に雇われた隔者を退け。
 こうして、凛へ銃を向ける。
「結城凛。今日が約束の期日だ」
「……はい」
 後は引き金を引くだけ。
 覚者達が囲んでいるとはいえ。この男相手では、防ぎきれる保証はない。
「最後に訊く」 
「……」
「友ができて尚、死を望むか?」
「っ」
 一人一人と目を合わせ。
 翔はにかっと笑って。誘輔が頷く。
「なあ凜、お前の味方は確実に8人はいるんだぜ」
「お前は独りじゃねえよ、凛。友達ができたじゃねえか」
 いつしか。
 凛の瞳からは涙が零れ落ちた。
「死にたく……ない……私は、まだ……死にたくありません……」
 絞り出した声。
 死神は雲に隠れた月を見やって、銃を下ろした。
「依頼、完了……ここは、お前の死に場所ではないようだな」
 建物全体が激震、覚者達は足をとられる。どうやら仕掛けたトラップを発動させたらしい。虚を突かれた僅かな隙に、元AAAの男は煙のように姿を消していた。

「私を……ここに入れたのは叔父です……遺産のことは、よく分かりません……」
 覚者の疑問に、凛はそれ以上答えることができず。
 あとはずっと嗚咽が続く。能力者絡みのトラブルだしF.i.V.E.で保護できないかと、蕾花は案じる。
「余も早くに親を亡くしてな、親族にも疎まれておったし、ずっと独りだった。今思えばなんともつまらぬ日々だったが……おかげで今はとても楽しい。そなたにも、そういうことを教えてあげられたら良いなぁ。人生辛いことばかりではないよ、全てに絶望するにはまだ早かろう。よければまた遊びに来る故、爺の話し相手になっておくれ」
 なんだか凛とは境遇が似ておるなぁ……だから、放っておけぬのだ。
 そう、久永は胸中で呟き。少女の頭を撫でつけた。
「俺が撮った病院の外の写真だ。鳥や動物や人間……こっちは桜だ。満開で綺麗だろ。でも実物はもっと綺麗なんだ」
 誘輔も写真を手に、少女へと話し掛け。
「こんな狭い病室にこもってたんじゃわかんねーことが世の中にゃたくさんある。早く元気になって、写真と外の世界が本当に同じか自分の目で確かめろ」
 優しく頭を撫で。
 凛さえよければ、今後も見舞いに来ると約束した。
「凛ちゃん、これ」
 ほのかはポケットから小さな千代紙の折り紙を取り出して、手早く鶴を折ってプレゼントした。
 少女は、折鶴を崩さぬよう……ぎゅっと握った。
「後日現像したの届けるからさ」
 誘輔がシャッターを切り。
 凛とファイヴのメンバーがそろった写真を撮る。眩い朝日が差す。空の主役は月から太陽へと変わっていた。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『結城凛との集合写真』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:風祭・誘輔(CL2001092)



■あとがき■

 今回は、結城凛が生存。犠牲者なし。日向朔夜達も撤退という結果となりました。
 実はというか、凛に接触して説得していないと、遅かれ早かれ彼女は自殺してしまう展開になるところでした。

 結城凛が生存したこと。
 他にも今回の覚者達の疑問や行動が、次の話以降に大小含めて影響する予定です。
 それでは、ご参加ありがとうございました。




 
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