『いのち』をくれた、わたしのしにがみ
『いのち』をくれた、わたしのしにがみ



 セカイは、何時だって捌け口を作りたがる。
 怒りや悲しみ、苦しさや、退屈なんかも。
 狭苦しいそのセカイで、みんなの心のゴミ捨て場になった私は、今日も一人、唯の一人でお家に帰る。
 誰かの落書きで埋め尽くされた教科書を鞄に入れて、泥と土で汚された下駄箱の靴を履きながら。
 ――何が間違っていたんだろう、なんて。
 益体もない、意味もないことを、何時も私は考えてしまう。
 馬鹿らしいと笑えれば良かった。それをするには、この心は思ったよりも疵が多すぎたみたいで。
「……ただいま」
 帰宅した私の言葉に、帰ってくるものは何もない。
 リビングの机に置かれた一万円札。何のメモもなく置かれたお金を握って、私は疲れた笑顔を浮かべる。
 理由もなく悪意と害意を向けられ、其の痛みを理解してくれるヒトは何処に存在することもなく。
 それでも、私の知るセカイの中では、きっと悪者は私の方なのだ。
『みんなと仲良くなる努力をしなかったから』。
『助けて欲しいと、もっと両親に伝えなかったから』。
 むせかえるような正論を押しつけられて心の傷を増やすなら、既に知っている痛みを受け続けるだけの日常で良い。
 仮に、もしそんな日常すらも耐えることが出来なくなったのなら。

 ――刹那。ひゅるん、と言う、小さい風切り音が鳴った。

 見れば、首元には緩く締められた細い縄。
 絡まれた『死』の担い手を視線で負えば、其処には鬼の面を被ったヒトガタの姿。

『――――――死ニタイ?』

 不明瞭な、けれどなぜだか確かに聞こえる声音で、其れは私に囁いた。


「……依頼だ。内容は、古妖の討伐」
 久方・相馬(nCL2000004)が告げる言葉が、覚者達の面持ちを即座に変えていく。
 少しだけ――眦を伏せた彼が首を振りながら説明を続ける姿に、疑問を抱く者も僅かにいたけれど。
「対象は縊鬼と呼ばれる古妖だ。
 此奴は自分が取り憑いた対象に縊死……要するに首吊り自殺をさせるっていう、タチの悪い習性を持ってる」
 告げた内容に、覚者の何名かが苦い表情を浮かべる。
 昨今ではF.i.V.E村を始めとした古妖との融和が行われている現在、こうした『理解し得ない存在』が倒さねばならないと解っていても、覚者達にとっては明るくない感情を抱いてしまう。
 告げる相馬自身、それを理解しているのだろう。微かに視線を逸らしながらも、しかし説明だけは止めることは無い。
「現在、古妖はある少女に取り憑いている。彼女は親と話すことはほぼ無く、学校でもイジメに遭っている……まあ、典型的ないじめられっ子って奴かな」
 要は、古妖の影響が最も効きやすい対象である、と言うこと。
 説明からそう判断した覚者達は、最悪の事態が起こるより早く、と席を立とうとするが――
「……言いたいことは解るが、逆だ」
 続く相馬の言葉に、動きを止められる。
 疑問を呈した表情の覚者達に、相馬は困ったような表情を浮かべ、その『理由』を話した。
「彼女は、縊鬼の存在によって未だに生きようとし続けている。
 縊鬼がもたらす自殺願望をはね除けてしまうくらい、彼女は縊鬼に依存することで自分を保ち続けて居るんだ」
 間違いに満ちた、二人の関係を。


「……ごめんね」
 言って、私は首から縄を外す。
 行き場を無くし、垂れ下がった縄を手にしたままのヒトガタを、私はそうと抱きしめた。
「ごめんなさい。貴方が、こんなにも望んでくれているのに」
 首を絞められた瞬間、幾多にも響いた私の死の呼び声をねじ伏せて、温もりのない柔らかさに身を預け続ける。
 既に、此のヒトガタと出会って何ヶ月になるだろう。
 暗いことを考えるとき、或いは何も考えずに忘としているとき、此のヒトガタは私の前に現れて、ただ問いを続けるだけ。
 最初は、人々が言う妖というものかと思っていた。
 それでも、このヒトガタはただ問うだけで、実際に私へ手を出すことは絶対になかった。
 それ故、だろうか。
 何時しか私は、その虚しさに心を寄せてしまっていた。
 優しさも温かさもない、けれど、痛みも苦しみも決して与えない何物か。
 それで十分だった。このヒトガタが本当に私の死を望んでいたとしても、私が生きていたいと、そう望んでしまう程度には。
「もう少し、だから」
 何れ、この無機質な揺りかごを寄る辺にしても、私の心が砕ける日はきっと来る。
 けれど、だから、どうかそれまでは。
『……死ニタイ?』
 言葉を返すように。微か、首を傾げながらヒトガタは呟く。
 その反応が、何故か可笑しくて。私はうっすらと微笑みを浮かべた。

 —―どうか、私の命をこの子に捧げられるようにと、神でもない誰かに祈りながら。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:簡単
担当ST:田辺正彦
■成功条件
1.古妖の討伐
2.なし
3.なし
STの田辺です。
以下、シナリオ詳細。

場所:
某所、市街地に存在する一般的な民家です。時間帯は夕刻。
件の『少女』と『縊鬼』が居るのは一階のリビング。椅子やテーブル等はあるものの、戦闘の障害と言えるレベルの障害物は存在しません。
時期的に日も長くなってきた頃であり、光源も必要ないでしょう。

敵:
『縊鬼』
古妖です。姿は鬼の面を被り、白装束を全身に羽織った人型。
能力として、自身の近接範囲に居る対象に自殺願望を芽生えさせるという物があります。一般人であれば殆どが、覚者にすら一定確率で効くレベルの強力なもの。
この能力は起動するものではなく、常時発動されている習性のようなもので、この古妖が周囲をふらつくだけでも自殺者は少なからず発生してしまうでしょう。
能力以外はほぼ一般人と変わらないスペックであり、物理的には制御可能であっても、F.i.V.E側はこの古妖によってもたらされる危険を考慮し、皆さんに討伐を命じました。

その他:
『少女』
上記『縊鬼』と共に暮らす少女です。小学校高学年。
理由のないクラスのいじめに遭い、仕事第一な両親には育児を放棄され、その心は年齢相応よりも遙かに摩耗しきっています。
自分をいじめない、捨てない『縊鬼』に自身の居場所を見いだし、半ば依存した状態となっています。
仮に皆さんが彼女に対して何も行わず目的を達成した場合、彼女は恐らく自殺するでしょう。



それでは、参加をお待ちしております。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
(2モルげっと♪)
相談日数
5日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/8
公開日
2016年05月27日

■メイン参加者 6人■

『追跡の羽音』
風祭・誘輔(CL2001092)
『ブラッドオレンジ』
渡慶次・駆(CL2000350)
『戦場を舞う猫』
鳴海 蕾花(CL2001006)
『願いの花』
田中 倖(CL2001407)


 最初に望んだものは何だったでしょうか。
 友達とか、家族とか、そうした人と遊んだり、話したりすることだったと思います。
 それが叶うこともなく、ずっと、ずっと一人ぼっちで居続けた私は、いつからか諦めることを覚え始めました。
 辛いこと、哀しいこと、それが小さいことでも大きいことでも。
 私にそうしたことが起きる度、「しょうがない」と呟けば、痛いのは少しだけ、軽くなっていったんです。
 だから、気付くこともありませんでした。
 それが、「痛い」と叫ぶ私を殺していく、ということだったなんて。


 夕刻、鳴らしたベルから反応は返ってこない。
 『二兎の救い手』秋津洲 いのり(CL2000268)が小さく首を振るが、それで諦めることを良しとする覚者達ではない。
 微かな恐れと共に引いたドアは、何の抵抗もなくするりと彼らを招き始めた。
「……誰か、いらっしゃいますか?」
 鈴の鳴るような声音。向こうも其れで漸く気付いたのだろう。
 リビングへ続くドアを開き、見窄らしく汚れた少女が覚者達の方を見ている。
「……だれ、ですか」
 不審がる少女に、然りと頷いて前へ出たのは田中 倖(CL2001407)。
「初めまして、お嬢さん。
 今日はお話ししたいことがあって来たんです。貴方と……貴方の『お友達』について」
「………………!!」
 瞬間、酷く怯える表情に成った少女は扉の向こうへと逃げ込む。
「……あー」
「しまったな。説明にばっか気が行ってアプローチの仕方を忘れてた」
 困惑する倖の横で、『フローズン大斬り』渡慶次・駆(CL2000350)も恥じるように頭を掻く。
 扉の向こうでは「逃げて」と言う声も聞こえてくる。このまま見逃せば面倒事に成ることは確実だった。
 此処は多少手荒でも場を抑えることを重視するか――と覚者が考え始めたとき。
「……何やってんだい、あんたら」
 痛む頭を抑えつつ、『戦場を舞う猫』鳴海 蕾花(CL2001006)が彼らを分け入って家の中へと上がり込む。
 同様にして『ゴシップ記者』風祭・誘輔(CL2001092)も。居間の扉を慎重に、しかし素早く開け、古妖をベランダの外へと追い出そうとする少女に対し、二人は示し合わせたように懐から『それ』を取り出す。
「手は出さない。あんたが納得してくれるまで。それは約束する」
「と言うより、話は後だな。学校から帰ってきたばかりで腹も減ってるだろ?」
 可愛らしくディフォルメされた古妖のクッキーを机の上に置き、二人は異口同音に語りかける。
「一先ずは、お茶にしないか?」


 日頃出来合いの弁当ばかり食べていると、偶に手製の料理を食べたときに不思議な味わいを得ることがある。
 この少女の場合にもそれが言えた。それまで余程無機質な食生活を送っていたのだろう彼女は、与えられた手製のクッキーを一枚、もくもくと食べている。
「……話しても大丈夫か?」
 こっそりと問い掛けた駆に対して、少女は上目遣いに彼を見遣った後、小さくこくりと頷いた。
 時刻は彼らが少女の宅を訪れた時を過ぎた。空は朱色から紫へとその色を変えており、覚者達が付けた電気がこうこうと居間を照らしている。
 少女の家族構成は聞いていなかったが、恐らくは三人家族なのだろう彼らが支障ない広さのリビングに於いて、それでも七人(未だ生きている古妖を含めれば八人だ)が一室に集まるのは異様とも言える。
 先にも駆が言ったとおり、然るべきアプローチもない限り、普通の人間では即座に部屋に迎え入れるまでは無かっただろう。
 それを許した少女は――果たして、彼らをどういう目で見ているのか。
「……では、本題に入りましょう。
 とは言え、既に大凡の事情は把握していると思いますが」
 少女と会って即座に逃げられた倖は、苦笑混じりに視線を自身の背後――縊鬼へと送る。
 件の古妖はこれほど多くの覚者達に相対しても何の行動も取らない。ただ忘としたように立ちつくし、時々少女をじっと見ている、その程度だ。
「……コイツがどういう存在か、嬢ちゃんには解るか?」
「……。あやかし」
「そうだな。正確にはちょっと違うけど、コイツは人に悪いことしかできないっていう所ではおんなじだ」
 ぼさぼさの髪を撫でる駆の言葉に続いて、いのりが語る。
「その子は……人に『自殺したい』と言う気持ちを強く抱かせてしまう古妖です。
 今は貴方の傍に憑いていますが、それがいつ、他の人に興味を示してしまうか解りません」
「……ころすの」
「ええ。貴方が許してくれるなら」
 問いに対する答えは、今では当然ながら否定であった。
「この子が死んだら、私、一人ぼっちになるわ」
 装束の端を握りしめ、少女は震える声音で言葉を続けた。
「一人は怖い。苛められるのは、もっとこわいけれど」
 困った調子で、蕾花が少女へと意見を返す。
「あんたの近くにいるそれは死神なんだよ。このままだとあんたは死ぬんだ」
「……? それが?」
 疑問を抱いていない表情で言葉を返す少女に、蕾花は頬を掻いた。
 予想していたと言えばそうだが――やはり此の少女は、自身の命というものに関してひどく関心が薄い。
 大切なのは、きっと『痛くない』『怖くない』こと。
 蕾花の表情が、尚も困惑に歪む。
 彼女は元々、少女の中にある生への渇望を説得によって呼び起こそうと言うつもりで、彼女の元を訪れたのだ。
 実際、それは間違っていないだろう。蕾花が考えているとおり、『生きる気がないのなら、それは既に古妖によって死んでいる』筈なのだ。
 問題は、少女の側がそれを自認していないと言うこと。
 緩く、頷いた誘輔が少女に視線を合わせる。
「お前にとっては、自分の事なんてどうでもいいんだろうな。
 けど、お前が今ここで死んだら俺は後悔する。俺には、俺達にはお前が必要だから」
 告げられた言葉に、少女はひどく驚いた表情で誘輔を見た。
 何故と問う。言葉ではなく視線を以て。
 視線に対し、誘輔が浮かべたのは苦笑だった。
「俺んちも似たようなもんだ。
 親に生活能力がなくて……ガキの頃はよくいじめられたよ」
「勝手に思われても仕方がないけどな、俺たちはお嬢ちゃんを助けたくてここに来た。
 今思っていること、考えていること、ちゃんと言葉にできなくてもいいから聞かせてくれないか」
「……わたしは」
 駆の言葉に対して、少女は、多くを語ることをしなかった。
 出来なかったのだろう。呟いたのは、只二言か三言。
「なにが、わるかったのかな」
 あとに続いたのは、唯、涙だけ。
「おとうさんと、おかあさんと、おともだちと――ただ、お話がしたかった、だけなのに」
 

「……貴方にとっての世界は、この家と学校だけではありませんよ」
 少女の嗚咽が止んだ後。
 倖は優しげな面持ちで、彼女へ笑んだ。
「あなたが悪者にならなくて済む世界へ逃げることも決してダメではありません。
 大切なのは、あなたがあなたのままで居られること、それを自分に許してあげられることです」
「それを逃げだと言うのなら、『逃げるが勝ち』という言葉もありますわ。子供ですもの。逃げられるなら逃げたって構わないのですわ」
 倖の言葉に、いのりも然りと言葉を続ける。
「……そのために」
 目元を拭う少女は、次いでその視線を縊鬼へと向けた。
「あの子を、ころすの」
「……それは、お前の問題だけじゃない」
 首を振る誘輔。
「アレはお前だけじゃない。近づく人総てを無差別に自殺へ導く古妖だ。
 仮にお前が彼奴と居続ければ、結果的にお前に近づく人はみんな死んじまう……それが悪意でも、好意でも」
 少女は、それに表情を強張らせる。
 自分のせいで誰かが死ぬと言う事実が、彼女を震えさせた。
「……今まで、お嬢ちゃんは辛いことをため込み続けてきたんだよな」
 緊張を解すように、駆が笑いながら少女に言った。
「良くないことばっかりの日は誰にだってあるさ。ただ、それをはき出せる相手が居ないのが辛かったんだろう?
 ……だったら、そんな『お友達』を作るためにも、先ずはお嬢ちゃんが頑張らなくちゃな」
 苦悩する少女へと、蕾花も続けざまに言葉を投げかける。
 今なら、自分の言葉も届くと。そう信じて。
「あたし達がココに来たのはあんたから幸せを奪うためじゃないし、あいつがあんたの友達だからじゃない。
 あんたを助けに来たんだよ。あんたに生きてもらうために来たんだ」
 異能の力を持ったことで迫害されてきた蕾花にとって、少女は自身の過去を照らし合わせたような存在だった。
 無論、彼女を救うことが自分への慰めになるなどと、考えては居ないけれど。
「あんたにはきっと、何時かあんたを必要とする人が現れる。
『あの時死ななくて良かった』って、そう思えるようになる人が」
 もし、其奴が中々現れないようなら。
 蕾花はそう言って、慣れない笑みを少女へと向けた。
「覚えておいて欲しい。誰からも生きて欲しいと思われてないってんなら、あたしが望むから」
「――――――」
 少女は。
 蕾花へと向けた面持ちを伏せて、何も言わずに縊鬼の方へと向かった。
 無貌の仮面は、近づいてきた少女へと、ただいつも通りの一言を掛けるだけ。
『――死ニタイ?』
「……ううん。私は、生きたい」
 幾度と無く繰り返された死への誘いを拒む少女。
 違うのは、それがこの古妖への依存心によってではなく。
「今まで、ありがとう」
 続いて聞いた言葉に、いのりが小さく頷いた。
「……貴方にはそのつもりはなかったのかもしれませんが、今まで彼女を支えてくれてありがとうございます」
 告げるその手には、既に杖が握られている。
 それはいのりだけでは無かった。誘輔も、駆も。ユディウも蕾花も倖も。
 それまで行使しなかった異能を古妖へと向け、少しだけ、誰もが哀しげに『それ』を見つめる。
 やがて、言葉など無く。唯の一撃が――


「ご両親とは、少なくとも直にきちんと話し合う機会が出来ると思いますよ」
 別れ際、倖は少女へそう言った。
 きょとんとした表情を浮かべる少女に気付かれないよう、彼が視線を投げかけたのは誘輔である。
 情報の収集、同時にそのリークに長けた手腕は『ゴシップ記者』の二つ名に相応しいそれだった。
 現在の少女の生活環境、苛めを受けている事実を即座に纏め上げ、学校と両親に報告した誘輔は、倖の視線を意図的に気付かない振りで少女へと近づき、言う。
「最後になるけど、お前の名前は何て言うんだ?」
「……名前?」
 少なくとも、学校に入ってからは教師に何度か呼ばれた程度だったそれを、少女は直ぐに思い出すことは出来なかった。
 たどたどしい言葉で返された、朝焼けを意味する名前に対して誘輔は軽く笑む。
「いいか。今までお前が死の誘惑に抗い続けたのはお前が弱いからじゃねェ。
 瀬戸際で踏ん張り続けた生き汚さを誇れ。それがお前の強さだ」
 それでも叶わないようならば、自分達を頼れと言って。
「……そうだね。うちの連中はみんなお人好しで変わった奴ばかりだし」
 同様に、蕾花も少女の頭を軽く撫でて、言った。
「仮にあんたの親が何か言ってきたら……どうせあんたのことをロクに相手してくれない親なんだ。好きなことやってドンドン困らせてやりな」
 いっそ無責任にも聞こえる台詞だが、今まで両親がこの少女にしてきた仕打ちを考えれば軽いくらいだろう。
 ふ、と表情を緩める少女の、憑き物が落ちたようなその姿を見ながら、駆は口の中で小さく呟く。
(妖関連じゃなきゃ表ざたにはならなかった、てのが、救いがあるんだかないんだか……)
 この少女のような存在は、今の世界ではそう少なくはないのだろう。
 救えて良かったと思える反面、その事実を思い知らされているような自分に苦笑を浮かべる。
 仮にそうだったとしても、自分がすることは変わらないのだろう。今日と同じように。
「……もう、泣かなくても大丈夫ですか?」
 最後に、いのりが少女へと問うた。
 頷く少女。自身が心情を吐露したときと同様に、縊鬼が死んだときも涙した少女を真っ先に抱きしめたのはいのりだった。
 貴方は今こそ泣くべきだと。そう言って。
「貴方の周囲はこれから、きっと大きく変わることになると思います。
 時には辛いこともあるかも知れませんけれど……でも、忘れないで」
 ――その選択がどうであれ、自分や此処にいる皆は、貴方のお友達だという事を。
 聞いた少女はその言葉に少しだけ目を見開き、次いで薄い笑みを浮かべた。
「……がんばります。もう少しだけ、わがままになれるように」
 夕暮れも黎明も過ぎ、臨む頭上には月と星だけが浮かんでいる。
 初夏の夜空に照らされながら、六人と一人はそうして唯一度の邂逅を終えていった。
 その心に、暖かいものをひとつ残して。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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