妖刀ファーストキッス
【カカシキ譚】妖刀ファーストキッス



 時は戦国嵐の時代。幕府転覆をもくろむ明石藩との戦いは半年に及ぶと言われていた。
 だがその戦いは、ある刀鍛冶によって一昼夜の内に投了した。
 古今東西の魔術妖術精霊術仙術錬金術とあらゆる神秘を統合したというその刀の力は凄まじく、故に恐ろしい。
 幕府は一族郎党を消し去ることで世の平穏をはかったという。
 力を持ったが故に世から疎まれし者。
 九条・上左右衛門・華樫。
 彼の伝説は記録ごと抹消された。
 そして時は過ぎて現代。

「そっちへ逃げたぞ!」
「挟み撃ちにしろ!」
 黒いビジネススーツを身に纏った男たちが、町の路地を走っている。
 共通するのは胸につけた『明石』の金バッジ。
 さらには腰にさげた刀である。
 そんな彼らから逃げるように、路地裏のビールケースを蹴倒して走る少女がいた。
 金髪を二つにまとめて螺旋状にカールさせた髪や、ゴシックでスマートなフリルドレスの姿は両家の令嬢を思わせるが、彼女の腰にはメタリックなベルトとそして……。
 一本の刀が提げられていた。
「とまれ!」
 路地の出口へ回り込み、行く手を塞ぐ黒服たち。
 立ち止まる少女。振り向けば、後を黒服たちが固めている。
「随分手こずらせてくれたな九条蓮華。抵抗できない程度に痛めつけろ!」
 男たちが抜刀する。
 その刀は通常のそれとは明らかに違うツヤをもっていた。
 抜いた本人ですらうっとりとするその力に、思わず言が零れる。
「持ち主の大切なものを代価にして錬成されるというカカシキ妖刀……へへ、なけなしの百万円を対価にした刀だ。試し切りのチャンスを待ってたぜ!」
 斬りかかる男。それも一人は二人ではない。
 それらを視界に納めて、少女は腰の刀に手をかけた。
 軸足をつけ、身をひねり、狭い路地裏の中で一回転。
 桜色を帯びた光が円月を描き、次の瞬間には男たちの刀をへし折っていた。
「『ひゃくまんえん』ですって……? その程度のもので調子に乗れるなんて、あんたチンコついてんの?」
「な……」
 顔に似合わぬあまりの暴言に、男たちはたじろいだ。
 淡く桃色に輝く刀身に、やわらかく口づけする少女。
 改めて名を述べよう。
 九条・蓮華(くじょう・れんげ)。
 九条上左右衛門華樫式妖刀略して『カカシキ』の唯一にして正当後継者。にして、九条家がかつての幕府から隠した唯一の子孫筋である。
「あんたらがパパから盗んだ偽カカシキくらい。モノの数じゃないってのよこのフニャチン野郎が!」
「テメェ……!」
 銃を抜き、発砲する男。飛来する弾を桃色の剣閃で切断し、九条蓮華は相手の腕をも切り裂いた。
 血降りし、水平に構える。
「私がこのカカシキに捧げたものは、ファーストキッス。乙女のファーストキスは、時として命よりも重いのよ」


「隔者集団に襲われた覚者を救出するというのが、今回の任務になるのですが……」
 久方 真由美(nCL2000003)は困った顔でこう続けた。
「どうやら複雑な事情があるようです。助けた後に話を聞いてみましょう、もしかしたら力になれるかもしれません」

 北陸某所でおこるこの事件は、明石組という地元で力をもった組合員による暴行事件だ。
 どうやら九条蓮華という少女の身柄と、彼女の会得している特殊な刀の製造方法を得るために暴力的手段に出ているようだ。
「確認している限りでは、武装した隔者の構成員が7名。そのうち一人はリーダー格のようで、ぬきんでた実力を持っているようです」
 このままでは少女は逃げ切ることが出来ず、彼らの手に落ち非道に晒されるだろう。
「まずは現地へ駆けつけ、構成員たちを倒しましょう。全てはその後です」


 さて、これはF.i.V.E覚者たちが駆けつけなかった未来の話。
「ヘヘヘ……組員を三人もノすとはやるじゃねえか」
 身の丈3メートルはあろうかという巨漢が、九条蓮華の首を掴んで釣り上げていた。
 彼女の刀は足下に落ち、カタカタと揺れている。
「体つきも悪くねえ。俺の女になるなら五体満足で連れ帰ってやるぜ?」
「そんな、力……どうやって……」
 男の挑発にも乗らず、少女の意識は彼の刀に向いていた。
 刀というよりは巨大な鉈だ。刃渡りだけでも二メートルはある無骨なそれは、赤黒いオーラを霧のように沸かせていた。
「親兄弟全員さ。やっぱり人の命は価値がちげえや……ハッハッハ!」
「ゲス、野郎……!」
 刀が独りでに飛び、彼女の手の中に収まる。
 だがそれと同時に男の手に力がこもり、少女の首を締め付けた。
 瞬間的な握力によって気絶する少女。
 それを肩に担ぎ、男は身を翻した。
「帰るぜ。お楽しみの時間が待ってる」 


■シナリオ詳細
種別:シリーズ
難易度:難
担当ST:八重紅友禅
■成功条件
1.構成員を倒す
2.なし
3.なし
 こちらは特殊な妖刀『カカシキ』を巡るシリーズシナリオでございます
 大体、月一ペースで更新していく予定となっております。

 今回の目的はカカシキの正しい製法を狙う明石組の構成員を倒すことです。
 九条蓮華と信頼関係を結びたい所ですが、それにはまず行動で示さねばなりません。
 それにこのままでは彼女は明石組の手に落ちてしまい、力もまた悪用されてしまうでしょう。
 彼らを倒し、力と信用を証明するのです。

●エネミーデータ
 分かっている限りでは構成員は7名。
 内6名は因子五行混合、個人戦闘力はF.i.V.E覚者の平均よりちょっと低い程度です。
 が、リーダー格の巨漢がこちらより一回り高い戦闘力を持っています。
 火行械因子。レベル高めでパワーファイターです。
 現場にいる九条蓮華の戦闘力はF.i.V.E覚者と同じくらい。能力の高い武器があるので補正がちょっと高めです。
 氣力と体力をやや消耗していますが、まだ充分戦える状態です。
 F.i.V.E覚者の戦力も結構ギリギリなので、彼女と協力して戦いましょう。
状態
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年05月23日

■メイン参加者 8人■

『正義のヒーロー』
天楼院・聖華(CL2000348)
『Queue』
クー・ルルーヴ(CL2000403)
『ぬばたまの約束』
檜山 樹香(CL2000141)

●『じぶん』より大切なものたちのために
「どきな、こいつは俺がやる」
 部下たちを押しのけ、身の丈3メートルの男が現われた。
 全員が後退したのを見て、彼がリーダーであることが知れた。
 斬撃。蓮華は刀で受けるが、衝撃に吹き飛ばされた。空中で制動をかけて着地。
 が、その時には既に相手の突進が始まっていた。
「さて、テメェが何秒もつか楽しみだぜ!」
 受けきれない。蓮華の焦りが頂点に達したその時。
「円外貨(ショーグンボンド)」
 光のようなスピードで割り込んだプリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)が、ベースボールバットのフォームで巨大なハンマーを振り込んだ。
「――発☆行(クレジット)」
 鉈のような大剣がハンマーのインパクト部と衝突し、一瞬だけエアポケットを生んだ。
 プリンスの腕にまでびりびりとした衝撃が伝わり、踏ん張った足場がひび割れた。
「馬鹿が、勢い負けしてやが――」
「オラアアアアアアアアアアアアア!」
 プリンスを飛び越え、『裏切者』鳴神 零(CL2000669)が現われた。
 ラリアットを顔面へ叩き込む。思わずのけぞるリーダーの男。
 思わずのけぞる。が、零をはねのけようと背筋に力を込め始める。
 だがそのタイミングで、プリンスたちを迂回するように駆け込んできた『Queue』クー・ルルーヴ(CL2000403)が跳躍。身体をひねった360度キックを叩き込んだ。
 前後のマッスルゲームに集中していたリーダーの男はここで初めて地面から足を浮かせる。
 クーは即座に離脱。零がリーダーを押し倒し、自分はでんぐり返って抜刀した。
「なンだてめぇ!」
「十天、鳴神零。正義の味方の都合上助太刀いたすッ!」
 くいっと仮面を被り直す零。
「同じく加勢します。話しは――」
「正義の味方参上だぜ! 成敗してやるよ悪党ども!」
「ヒーロー見参! 助太刀するぜ!」
 ツインブレードを装備して構えたクーに被さるように、鹿ノ島・遥(CL2000227)と『想い受け継ぎ‘最強’を目指す者』天楼院・聖華(CL2000348)が左右から現われた。
「……」
 この子供たちは同じようなことをバラバラと。
 プリンスがピッと二本指を立て、蓮華へと振り返った。
「ヤクザと女子みてヤクザの味方できる王家はなかなかいないよ」
「お、おうけ?」
「あんまり気にしないでいいよ、王子なだけだから」
「おうじ?」
 状況をよく理解できていない蓮華である。
 そんなことはお構いなしに、聖華は剣を抜いて組員たちへ飛びかかる。
「さっきの奴がリーダーだ。火行のパワーファイターで刀の対価は親兄弟だとよ」
「なんでアンタがそんなこと知ってんのよ! っていうか誰よ!」
「奴自身はともかく刀はヤバいぜ」
「話聞きなさいよ!」
 頭をかきむしる蓮華を一旦無視。聖華へと繰り出された斬撃をスライディングで回避すると、駆け抜けるように組員たちを切りつけていく。
 そうしてできた隙間を駆け抜ける遥。
 両拳をガツンを打ち合わせると、起き上がったリーダーの男めがけて突撃する。
「こんな状況、どっちに味方するかなんて当たり前だよな!」
「テメェ……!」
 剣を加熱して叩き込んでくるリーダー。
 遥はそれを腕で受けた。巻き付けた布が刃を弾き、火花を散らしながらワンインチスペースまで滑り込む。
 遥のパンチがリーダーの腹へめり込んだ。
 リーダーの額に青筋が浮かぶ。
 遥を掴み上げようと手を伸ばすが、それを手刀ではねのけて脇腹へ蹴りを入れる遥。
 が、直後に繰り出された斬撃が遥の肩に深くめり込んだ。
「こちとら仕事中なんだよ。ガキは帰ってゲームでもしてな!」
 このままじゃ骨ごと破壊される。遥は筋肉をはって耐える。
 そんな遥の背中を、『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)がばしんと叩いた。
 生命力を直接注ぎ込まれ、遥の切断部が超スピードで治癒。剣をはねのけた。
「女の子一人を大勢で追いかけてどういうつもり? そういう卑怯なのは許さないんだから!」
 遥の襟首を掴んで一旦離脱させると、渚は蓮華へと振り返る。
「義を見てせざるはざるなり!」
「なんて?」
「とにかく! 放っておけないから手を貸すね。あなたも力を貸して」
「そ、それは願ったり叶ったりだけど……ほんとになんなのアンタたち。さっきからおんなじこと言って」
「スタンドプレーの集合体なもんでの、よくあることじゃ」
 蓮華のそばにつく形で『樹の娘』檜山 樹香(CL2000141)が覚醒。薙刀を出現させると、頭上でぐるぐると振り回した。
「その妖刀とやらはよく知らぬが、悪党の好きにしていいものではないとはわかる」
 繰り出された刀を端から順に薙ぎ払い。更にもう一歩踏み込んで組員たちの腕や足を薄く切りつけていく。
「とにかく、今は敵を倒すことが重要じゃ」
「ええ、こう騒がしいと考察もままなりませんしね」
 いつの間にかそばに立っていた『教授』新田・成(CL2000538)が杖を最低限に降って斬撃を払っていく。
 数発払ってから、柄をひねる。
 瞬間抜刀、即納刀。
 刀の間合いからずっと先にいた組員のサングラスが真っ二つにさけ、仰向けに転倒した。
「講義は後にしましょうか。今度こそ」


「大丈夫? かいふくする?」
「もう平気よ」
 渚の回復支援を受けつつ、蓮華は妖刀を振り回していた。
 桜色の軌跡を描き、組員たちを一人ずつはねのけていく。
 バランス型のファイターだが、あまり攻撃スキルに能力をふっていないタイプらしい。
 大勢をはねのけるのは可能でも、格上相手にはもろいのだろう。だからこそ渚による回復支援や攻撃する味方の増加は効果的なのだ。そういった細かい話はさておき。
「刀は扱いが難しいですね。そのうち改造しましょうか……」
 クーは敵の斬撃を逆手持ちの刀で払うと、滑り込ませるように切りつける。
 斬撃は薄いが、柄頭にはめ込んだ勾玉から特殊なエネルギーが流れ込んでいく。
 それも一発や二発の打ち込みではない。クーは踊るように組員たちの間をすり抜け続けると、薄く薄く斬撃を差し込んでいくのだ。
「雷光の勾玉をはめ込んだ双刀です。あなたたちには効果的でしょう」
「ふむ……」
 敵を押しのけながら唸る成。
 彼が≪エネミースキャン≫で見たところ、クーが相手の出鼻をくじく形で放った無頼はその真価を発揮していない。敵の回避能力が上回っているからだ。
 しかし組員相手となればこちらが格上。出血や麻痺の効果を複数体へ無限に打てるクーの戦術は適切と言えるだろう。
 (他に言い方がないので直接的に述べるが、ラーニングは厳密には調査能力ではないので、空振りによる失敗理由から遠回しに探りを入れるといったような裏技的な利用はしないでおいてほしい)
「しかし注目すべきは九条君とあの男……ですか」
 妖刀使いの動きをつぶさに観察する。
 実際的な性能もさることながら、造形の大きな変化も通常の刀との違いだろう。
 日本刀の域を逸脱した神具はいくらでもあるが、こと戦国時代の刀となると話が違う。兵隊一人の戦力はあくまで一人分。多くて五人分。中国の嘘くさい伝説みたいに一騎当千はないのだ……が。この刀なら人によってそういった利用が可能だったのではないだろうか。
 成は一連のエネミースキャンによってそこまでの予想をたてた。
「てめーら!」
 戦いながらびしりと相手を指さす聖華。
「よくあんなリーダーの手下やってられるな。自分の刀のために親兄弟皆殺しにしたんだぜ。次はきっと友人を殺して、その次は知人や手下だ。一本目の強化だとか、二本目をうっぱらうとか、お前らの命と引き替えにな!」
 敵はこちらを無視して攻撃してくるようだ。
 押し込まれそうになる勢いを気合いではねのけ、話を続ける。
「リーダーはお前らを犠牲にしないって言えるか? 俺ならそんな奴は捨てて逃げるぜ!」
 聖華は諦めずに敵に精神的な揺さぶりをかけながら戦っている。
 成はその様子を観察しながら、別のことを考えていた。
「もしや彼らは……」
 人間は割と詭弁で動いてしまう。
 たとえどんな行動でも『そんなことしていいと思ってるのか!』と勢いで言われたら自分を疑ってしまうものだ。これを詭弁攻撃という。
 聖華の手法がまさにこれで、根拠がない否定を繰り返している。
 ただし例外があって、相手が誰かの命令で動いている場合や、強く盲信している場合。もしくは理論的な思考力が弱い場合などには効果がない。
 相手がヤクザグループで、尚且つリーダーの気分で動いているならここで揺らぐだろう。
 しかしより上位の、絶対的な支配力をもった人間の命令で動いている場合詭弁が通用しない。税収にきた役人に『ひとでなし!』となじっても意味が無いのと同じだ。
 結論を言うと、彼らのリーダーですら誰かの手駒に過ぎないということだ。
「自覚はないでしょうが、天楼院君には相性の悪い敵ですね……逆に、私やクー君にはやりやすいですが」

 蓮華たちが戦いやすい理由は別にもある。
 最も注意したいリーダーの男が戦闘から隔離されていたからだ。
 具体的にはプリンスや遥たちがリーダーの周囲をぐるぐると駆け回ることで進行を阻害し、露骨なくらいに部下と距離を取らせている。
「実は余もインフレブリンガーに捧げているものがあるんだ。それは祖国の経済バランス。ひとふりで発行される貨幣が着実に国民をピンチにしていく苦しみに耐えながら覚悟の地烈! やだ王子の国ジンバブエみたくなっちゃう!」
 ハンマーをいっそめちゃくちゃに振り回すプリンス。
 だがそれだけで充分なのだ。敵がアホみたいに棒立ちしているなら横をすり抜ければいいし、両手を広げてカバディごっこしているなら蹴倒していけばいい。しかし武器を振り回して周囲を駆け回られるとそう簡単に動けなくなるのだ。たとえは悪いが地雷原に立っているようなものだ。
 リーダーとしてはこの意味不明な邪魔者を無視して蓮華だけ浚っていきたいのだが……。
「女のケツおっかけてる暇ないぜおっさん!」
 少しでも注意を向けると遥が高速のパンチを叩き込んでくるのだ。
 只管打てばよかろうのボクシングスタイルでなく、隙を見つけて一撃必殺の空手スタイル。よそ見は致命傷になりかねない。
 地雷原プラス、スナイパーだ。
 必然的にリーダーは頼みの妖刀を振り回し、遥やプリンスを牽制し続けるしかなくなるのだ。
 一応妖刀の補正もあって攻撃は入りやすいので振り回していれば勝てる……のだが。
「一気に押し返すよ、手伝って!」
 渚は両手五指の先をやわらかくくっつけると、深く細く呼吸をした。渚を中心に特殊な気の流れが生まれ、遥やプリンスを巻き込んでいく。自然治癒力を促す気だ。
 それだけではまだ足りない。樹香はそう察して、薙刀を地面に突き立てた。
 一本の木に見立てて念を込め、天空へと伸びるイメージ。霧状のスプリンクラーのように吹き上がった薬液が遥たちに降り注いでいく。
 こうすることによってリーダーの攻撃から効果的に防衛しているのだ。
 そうなってくるとあとは気合いの問題である。
「はぁ、あはは」
 零は大太刀をぬらりと構えた。
「あんたと私、どっちか倒れたら負けってことで」
「ンだと、テメェに興味なんか――」
「勝手に勝負しちゃうんだからね! だーかーらーねー!」
 零は無理矢理刀を叩き付けた。リーダーが剣を水平にして受け止めると、零はおもむろに振り上げた足で蹴りを入れた。
 蹴りの姿勢のまま首を傾ける零。
「セカンドキスあげてもいいよ?」
「アァ?」
「ファーストキスはどうしたのかって?」
「ンなもん興味――」
「ある日帰宅途中にくそがきに奪われたわコラァ!」
「なんなんだコイツはァ!」
 突きを繰り出す。
 リーダーは避けずに大上段から打ち込んだ。
 腹を貫通する零の刀。しかし次の瞬間には零の頭はスイカ割りだ。
 が、予想した衝撃は訪れなかった。
 リーダーの手首がすっぱりと切断され、剣ごとどこかへ飛んでいったからだ。
「な――」
「んぐ?」
 零の肩に手がおかれていた。鞍馬競技のごとく身体を回転させた蓮華が、斬撃を差し込んだのだ。
 蓮華は一撃離脱。零はその隙をついてドロップキック。兼、刀を体外へ向けて切り開く。
 腕と腹の皮を喪ったリーダーは倒れ……はしなかった。
「コケにしやがって。コケにしやがって。ふざけんな、ふざけんなよ、ふざけんなァ! 来やがれ『逸家断欒』!」

 リーダーの剣が空中をひとりでに飛行し、彼の口元へと収まった。柄を咥えて唸るリーダー……いや、今こそ名前を語ろう。
「諸共・嚥下(もろとも・えんか)。パパの弟子だった男よ。そして、カカシキ鍛造法のレシピを盗んだ裏切り者」
 そう呟く蓮華に、成は『なるほど』と呟いた。
「レシピは奪われていた。ゆえに『偽カカシキ』……」
 と同時に組員の首に刀を押し当て、引き抜く。
 血を吹き上げて崩れ落ちる組員をまたいで、嚥下へ向き直る。
 クーや聖華も組員を倒し終えた所だ。
「くらえっ!」
 聖華が二本の刀を左から打ち込み、クーが右から打ち込む。
 四本同時の斬撃だ。かわしようがない。
 対して嚥下は防御を捨ててくわえた剣を切り込んだ。
 相打ち。いや、勢いで勝ったのは嚥下のほうだ。まるで鉄条網を突き抜ける虎の如く、無理矢理二人の間を抜けた嚥下は剣の勢いのまま回転。
「負けないよ、私だって……!」
 渚は即座に癒力活性を発動。
 押されるようにして遥が突撃した。
「経験積ませて貰うぜ!」
「ググ……ッ!」
 限界まで開いた嚥下の目から血が吹き出る。
 斬撃。半身になって回避する遥。足下にぶつかった剣から津波のような衝撃が走り、遥は思わず吹き飛ばされた。
 それをプリンスが回り込んでキャッチ・アンド・リリース。
 具体的にはハンマーの腹でトスして、スピンスマッシュによって遥を打ち出した。
「うおおっ!?」
 撃鉄に打たれた弾丸のように飛び出した遥が嚥下の脇腹に拳を直撃させる。
 ぐねりとよろめく嚥下。
 口から剣が離れそうになる。
 その途端。背後から飛び込む樹香。正面から飛び込む零。
 二人は同時に薙刀と大太刀を繰り出すと、嚥下を切断した。
 血しぶきに足を滑らせながらもブレーキ。
 振り抜き姿勢のまま、二人は停止した。
 頭の上を斬撃が通り過ぎた遥はヒュウと息をつくと、死亡した嚥下を見下ろした。
「こいつ、妖刀の名前……」
「親兄弟を犠牲にしたんでしょう。なら、そういうことよ」
 蓮華は刀をくるりと回すと、鞘に収めた。


 その後、彼らは場所を移してゆっくりと話をした。
 F.i.V.Eから来たこと。蓮華や嚥下のことを夢見の予知夢で知ったこと。
 カカシキ妖刀を悪用するであろう明石組を放置できないこと。
 利害が一致すること。
 そういったあれこれを話して蓮華に事情を聞くことにした。
 蓮華は『べ、べつに助かってなんかないんだから。私一人で対処できたんだからね! でも、ありが……ゴニョゴニョ』とか言ってから事情を話した。
 蓮華を末裔とする裏九条家に伝わったカカシキ鍛造法とそれを巡る因縁。
 それらを話した上で蓮華が述べた協力とはこうだ。
「『カカシキ妖刀の種』を作って貰うわ。あなたたち全員に」

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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