遺跡に忍び込んだ隔者の末路
●うかつな行為が命取りに……
奈良県のとある山中に口を開いた遺跡。
以前、この中を調べたいという考古学者からの申し出があり、『F.i.V.E.』の覚者達はその中の捜索を行い、勾玉2つを発見するに至っている。
現状は『F.i.V.E.』のスタッフも加わり、遺跡の調査を進めている。
かなり古い遺跡であることは分かっているのだが、長い年月を経てしまっている為か、腐食、風化などによって装飾などが欠けていることもあり、解析は遅々として進んでいない。
だが、勾玉などを納めていたのは、この遺跡が特異点だったからではないかという推論がすでに立てられている。
特異点。パワースポットと呼ばれる場所。日本国内では、古墳や寺社、遺跡、洞窟、古くから伝えられた聖域などを指す。この五麟大学考古学研究所が建つ場所周辺も、古くは特異点と呼ばれていた場所だったそうだ。
ただ、遺跡内部に直接出入りできるようになり、封印が解かれてしまっている。
そして、力が集まる場所には、妖も集まってしまう。すでに、内部には石人形の姿の妖が出現しており、これが遺跡探索を停滞させる一因ともなっている。その後も幾度か、この石人形の討伐依頼が出ており、『F.i.V.E.』の覚者達が出向いている。
だから、今回もそういった依頼なのかと覚者達は考えながら、会議室へと向かったのだが……。
「いや、今回の相手は妖ではないのじゃ」
『薄幸の男の娘』菜花・けい(nCL2000118)は意外な言葉を口にした。覚者達はいつもと勝手が違うことに戸惑いながら、説明を促す。
「遺跡に盗掘者が現れたのじゃ」
最近、発見されたこの遺跡でも、金品や希少な遺物を求め、潜り込んでくる者がいるのだ。しかも、それが隔者というから始末が悪い。
男性2人組の盗掘者は、盗掘目当てで遺跡に潜ったようだ。その後、彼らは遺跡を探索していた最中、トラップにかかったようだ。
「遺跡の入り口……『本来の』じゃな。入り口は今まで発見されてはおらんかったが、そこに施されておった封印を、盗掘者達が先に触ってしまったのじゃ」
元々、入り口の侵入者対策で張られた、かなり強力な封印だったらしい。それは、覚者としての力を暴走させてしまうほどであり、自我を失った男は相方を殺害した後、遺跡内を徘徊しているのだという。
「これでは危なくて、学者達も調査が出来ん。じゃから、早めに対処して欲しいのじゃ」
破綻者となった男の詳細は資料として、けいが覚者達へと手渡す。こちらはおいおい確認するとして、覚者達はけいの話を最後まで聞くこととする。
どうやら、男は勾玉を入手するには至っていないようだ。また、封印は古かったこともあり、一度効力を発揮しただけで力を失っているらしい。事後、興味があれば、調べてみるのもいいかもしれない。
「もしかすると、遺跡発掘の作業も、この男達とやっていることは変わらんのかもしれんのう……」
遺跡の主がいるかどうかは分からないが。もし、いたのであれば、考古学者や覚者達と盗掘者は同じに見えるのかもしれない。けいは最後にそんな言葉を言い残していた。
奈良県のとある山中に口を開いた遺跡。
以前、この中を調べたいという考古学者からの申し出があり、『F.i.V.E.』の覚者達はその中の捜索を行い、勾玉2つを発見するに至っている。
現状は『F.i.V.E.』のスタッフも加わり、遺跡の調査を進めている。
かなり古い遺跡であることは分かっているのだが、長い年月を経てしまっている為か、腐食、風化などによって装飾などが欠けていることもあり、解析は遅々として進んでいない。
だが、勾玉などを納めていたのは、この遺跡が特異点だったからではないかという推論がすでに立てられている。
特異点。パワースポットと呼ばれる場所。日本国内では、古墳や寺社、遺跡、洞窟、古くから伝えられた聖域などを指す。この五麟大学考古学研究所が建つ場所周辺も、古くは特異点と呼ばれていた場所だったそうだ。
ただ、遺跡内部に直接出入りできるようになり、封印が解かれてしまっている。
そして、力が集まる場所には、妖も集まってしまう。すでに、内部には石人形の姿の妖が出現しており、これが遺跡探索を停滞させる一因ともなっている。その後も幾度か、この石人形の討伐依頼が出ており、『F.i.V.E.』の覚者達が出向いている。
だから、今回もそういった依頼なのかと覚者達は考えながら、会議室へと向かったのだが……。
「いや、今回の相手は妖ではないのじゃ」
『薄幸の男の娘』菜花・けい(nCL2000118)は意外な言葉を口にした。覚者達はいつもと勝手が違うことに戸惑いながら、説明を促す。
「遺跡に盗掘者が現れたのじゃ」
最近、発見されたこの遺跡でも、金品や希少な遺物を求め、潜り込んでくる者がいるのだ。しかも、それが隔者というから始末が悪い。
男性2人組の盗掘者は、盗掘目当てで遺跡に潜ったようだ。その後、彼らは遺跡を探索していた最中、トラップにかかったようだ。
「遺跡の入り口……『本来の』じゃな。入り口は今まで発見されてはおらんかったが、そこに施されておった封印を、盗掘者達が先に触ってしまったのじゃ」
元々、入り口の侵入者対策で張られた、かなり強力な封印だったらしい。それは、覚者としての力を暴走させてしまうほどであり、自我を失った男は相方を殺害した後、遺跡内を徘徊しているのだという。
「これでは危なくて、学者達も調査が出来ん。じゃから、早めに対処して欲しいのじゃ」
破綻者となった男の詳細は資料として、けいが覚者達へと手渡す。こちらはおいおい確認するとして、覚者達はけいの話を最後まで聞くこととする。
どうやら、男は勾玉を入手するには至っていないようだ。また、封印は古かったこともあり、一度効力を発揮しただけで力を失っているらしい。事後、興味があれば、調べてみるのもいいかもしれない。
「もしかすると、遺跡発掘の作業も、この男達とやっていることは変わらんのかもしれんのう……」
遺跡の主がいるかどうかは分からないが。もし、いたのであれば、考古学者や覚者達と盗掘者は同じに見えるのかもしれない。けいは最後にそんな言葉を言い残していた。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.破綻者の討伐。なお、生死は問わない。
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
どこかでお会いしたことのある方もこんにちは。なちゅいです。
遺跡探索3度目です。
考古学者達の解析はなかなか進まないようですが、
さらに、問題が発生してしまいました。
この解決を願います。
●敵
○破綻者……金地・和彰(かなじ・かずあき)、24歳。
盗掘、遺跡荒らしなどを主に活動している男です。
三浦という相方がいましたが、
破綻者と成り果てた際、手にかけてしまったようです。
深度2。獣(子)×火。両手にナイフを所持しております。
●状況
破綻者は現在、遺跡の南側を彷徨っております。
この場所は、2回目の探索において発見された
開かない壁の奥です。
遺跡本来の入り口は南側最奥にありますが、
ここに破綻者の姿はありません。
探索準備に当たっては、スキル活性、装飾品などの確認を願います。
基本的には、それ以外は採用できませんが、
これは有用と判断したもののみ、採用する場合があります。
●補足
拙作『封印の解けた遺跡』、
『遺跡の内部に現れた通路』も
ご参照くださいませ。
読まなくとも、今シナリオには影響ございません。
それでは、今回も楽しんでいただければ幸いです。
よろしくお願いいたします!
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年05月20日
2016年05月20日
■メイン参加者 8人■

●探索と討伐
奈良県の山中にある遺跡。考古学者達が挙ってこの遺跡の調査を進めているが、未だ全容解明には至っていない。
「この遺跡に足を踏み入れるのも3度目か。一体どんな経緯で作られたか興味が尽きないよ」
『F.i.V.E.』の覚者達がこの遺跡へやってくるのは、『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)が言うように3度目となる。その全てに立ち会っている彼女だが、好奇心は尽きることなく、目を輝かせていた。
「私、難しいことって分からないけど、昔の人達が造ったものだって思うだけでなんだかどきどきしちゃうかも」
『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)はこの場へとやってくるのは初めてだったが、やはり彼女もまた、何が潜むか分からぬ遺跡に胸を躍らせていた。
「ここにまた立ち入る事になるなんてね。それにしても、随分広い遺跡なのね。あの時もかなり探索したと思ったんだけど」
『女帝』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)は最初の探索ぶり、2度目。彼女もまた研究者として、待ち構える物に胸を高鳴らせる。
『白い人』由比 久永(CL2000540)、茨田・凜(CL2000438)は、前回に引き続きの参加だ。
「そろそろ、遺跡の核心に迫るようなものが見つかるといいのだがなぁ」
「前のときも遺跡探検楽しかったし、今回も超期待してるんよ」
久永は今回こそ何か発見できればと期待する。凜はというと、楽しい上に仕事になるという一石二鳥の依頼は大歓迎と、うきうきしていたようだ。
「考古学とはなかなか金にならぬ学問であるそうだが、遺跡は金になるそうである」
メンバーの中で、割と冷めた態度をとっていたのは、華神 刹那(CL2001250)だ。
「まさに物欲。現金なものよ」
「これは遺跡荒らしも気になるでしょうねえ。まあ、今回のケースは自業自得だけど」
「遺跡を調べるだけだと思ったら、破綻者だっけ? 墓荒らし的な何かがうろついてるのかよ」
エメレンツィアが話すのは、今回の依頼の原因ともなる2人組の遺跡荒らしの隔者だ。緋神 悠奈(CL2001339)がそれに悪態をつく。未知の領域に足を踏み入れるだけでも怖いのに、相手は力を暴走させた破綻者なのだ。
「破綻して、しまったのですね……」
『菊花羅刹』九鬼 菊(CL2000999)が小さく呟く。破綻者となった隔者の1人が相方を殺害し、遺跡の中を彷徨っているのだという。
(破綻をすれば、失うものが多すぎる。それまでの全てを失うんです)
破綻者となった過去を持つ菊。己を含めて消えてしまうというあの感覚。それから、相手が隔者であっても救い出したい。その手助けをしたいと、菊は参戦している。
「いやでも、オレもやるって言っちゃった以上、やりきらねーと申し訳が立たないぜ。とにかく何かこう……あれだ、頑張るか!」
「ハイテンションでレッツゴーなんよ♪」
悠奈は己を奮い立たせて叫ぶと、凜も遺跡を指差して掛け声を上げる。
一行は準備を整え、山中に口を開いた遺跡へとロープで下りていくのだった。
●破綻者を探して
探索に当たっては、理央はしっかりと準備してきていた。
文具として、方眼紙に筆記用具。そして、白チョークに方位磁針。これらはマッピング用だ。これに、過去2回マッピングした地図も付け加える。
通路の壁の所々に備え付けられている明かりを機能させる為に、油に火種。そして、それがない暗い道中の為にランタンも用意する。
そして、隊列。メンバーは5列で移動を行う。
最前列に菊が立ち、理央、渚が続く。渚は守護使役のともしびが放つ炎で光源を確保する。
次に、悠奈と凜。一塊で歩く覚者達の中央に当たる。
「今回のやることをまとめると……。『1.遺跡を歩き回りつつ』、『2.破綻者をぶっ潰す』っつー流れになるのかな」
悠奈は歩きながら今回の目的を確認した後、壁を軽く叩きつつ歩き始める。
「初めて来た場所だし、せっかくだから一つ発見でもしたいなーって思うね!」
仲間達や考古学者がすでに調べた場所だろうが、絶対音感ならば向こう側の空洞が発見できるかもしれない。時にそれによって仲間から置いていかれそうになる悠奈は、慌てて仲間を追いかける。
まだ依頼経験の浅い悠奈だ。凜が懐中電灯を使いつつ、フォローできるようにと考えながら歩く。
そんな凜は、分岐点で目印にする為にとお菓子を用意していた。彼女はさらに、目的の憤怒者を見つける為に、感情探査も合わせて行う。発見もそうだが、逆に敵の不意打ちなどを防ぐことが出来ればと考えたのだ。
後ろから2列目には、久永、エメレンツィアが続く。
「まずは、肝心の破綻者を探さねばならぬか」
久永は通路の中でも耳を傾け、小さな物音でも聞き逃さないようにと聴力を最大限に研ぎ澄ます。
「こんな場所を独りで彷徨うのは、寂しいだろうなぁ」
彼もまた、壁の明かりに火をともし、破綻者の接近、または罠がないかと気を払う。
エメレンツィアも懐中電灯を照らしつつ、物陰がないかと確認する。
「まあ、亀裂があったのだし、動物が入り込む可能性ももちろんあるでしょうけど」
彼女は探索が1度開いていることもあり、その当たりの状況を補完しつつ歩く。
「前に祭壇があったところとは別な階層なのかしら。繋がっているようには思えないけど」
エメレンツィアが一度向かったのは、北西の祭壇。前回は南西の祭壇を発見している。ただ、その度に段差があったし、実際、久永など、翼人のメンバーが飛行して段差のある通路の確認をしていたこともあって彼女はそう考えたのだが。
「どうかな。……ただ、地滑りなどで遺跡が寸断された可能性も高いと思う」
そこで、理央が考古学者の調査結果を代弁する。登り下り坂はあるが、1つのフロアだった遺跡の通路が上下に別れたり、落盤が起こって進めなくなったりしているのではとの見方もあがっているようだ。
前回、発見した壁は開いていた。すでに、考古学者が扉の仕掛けを解析していたのだろう。隣に小さな穴が開けられており、それを通り抜けることで、向こう側にあった鍵穴を操作して開いたらしい。
「本来の入口がその向こうにあったなら、壁を開く術もあちら側にあったと考えるのは自然じゃな」
久永はそう納得するが、この壁を自身で開けられなかったことは残念がっていたようだ。
ただ、その先はまだ手づかずの領域だったらしい。学者達によって立ち入り禁止のロープが張られていたのだが、遺跡荒らしの手で引き千切られていた。
ここからは、完全未探索の領域。メンバー達は改めて気を引き締めて進む。
「つまり、今、私達が入ってる場所って、『F.I.V.E.』は誰もまだ入ってないとこなんだね。一番乗りって訳には行かなかったけど」
渚は足元に視線を落とす。長いこと封印されていた遺跡だからこそ、埃も溜まっていた。この為、先に入った侵入者による足跡がうっすらと残っている。
「……暗視能力は便利であるが、風情も何もあったものではないな。これは」
最後尾を歩くのは刹那だ。今回は後ろからの襲撃の可能性すらある。だからこそ、彼女は暗視で視界を確保しつつ、超直感による警戒を行う。
理央としては、勾玉があると思われる遺跡南東部に足を踏み入れたいのだが……。足元を見れば、主に南側に向かって行き来しているのが分かる。これには理央も、南へと向かわざるを得なかったようだ。
やがて、メンバー達は壊れた封印がある場所へとたどり着く。
「……大丈夫、なんともない」
菊は龍心を使いつつ、その一部を拾い上げる。力は失われており、もはや何の反応も示さない。さらに、罠がないかと渚は危険予知をするが。どうやら、その封印にはもう害はないらしい。
「これほど強力な封印を施していたということは、よほどこの地は触れてほしくなかったのだろうなぁ」
久永は飛行して天井部などを確認し、そんな感想を抱く。何者かによって符術のようなもので幾重にも巻きつけられた封印……破られたそれは、よほど強固なものだったのだろう。
これを解析すれば、何かあるだろうか。メンバー達の脳裏にちらりとそんな考えが過ぎったが、その近くに倒れていた人影のおかげで考えが吹き飛んでしまう。
そこに倒れていたのは、1人の男。……すでに息はない。身体特徴を合わせ見れば、彼が遺跡荒らしの片割れ、三浦に間違いない。祈りを捧げる菊は、仲間達へと提案する。
「このまま彼を置き去りにするのは、可哀想です」
賛成の声がちらほら上がった為、後程この場には来るとして、メンバーは反転して別のところの捜索をと動き出すのだが。前方から何やら強大な力を持つ人影がやってくる。
そいつこそ、破綻者と成り果ててしまった男、金地・和彰だ。虚ろな目をし、息遣いを荒くしている。
うまく進行方向通りに、敵へと立ち向かう形となった覚者達。先頭の菊が覚醒しつつ身構える。
「仲間も守れずとして、何が十天の長というのですか」
守るのが自身の務めと主張する菊。後ろのメンバー達もまた、覚醒の上、金地を止めるべく立ち向かうのである。
●暴れる破綻者に……
「ウ、ウウオオオオッ!!」
金地は通路に響くほどの声で叫び、獣のような一撃を繰り出してくる。菊がそれを抑えようとするが、殴打の一撃は重い。
「金地・和彰、よくお聞きください。貴方はまだ、戻れる道があります」
菊は殴られながらも体勢を整えつつ、破綻者となってしまった相手へと呼びかけ始める。
他のメンバー達は、銘々の役割をと動く。久永は金地へと霧を纏わせて弱体化を図り、理央は菊をフォローしようと、神秘の力で生成された滴を落として癒す。
「さあ、いくわよ。女帝の前に跪きなさい!」
エメレンツィアは自身の力を高め、敵へと言い放つ。同じく錬覇法での強化を図る刹那は、前へと上がってこようとしていた。
凜は心地良い空気に取り巻き、渚は仲間の中央に位置取って、械の因子の力を使って防御力を高めていく。
「確かに、貴方の行動は褒められたものでは無い。けれど、それが貴方の生き甲斐で、貴方の生き方というのであれば、それは貴方の正義です」
菊が話しているのは、遺跡荒らしという行為のことだろう。しかし、菊は敢えて、彼らの所業を否定しない。
菊は大型の鎌『鬼牙(おにのきば)』を振るい、金地の体へと斬りかかる。痛みは感じているようで、相手は一瞬呻くのが分かった。
体内の炎を活性化させた悠奈も、攻撃に乗り出そうとするのだが……。
(アレ? これ破眼光しか使えなくね?)
後方にいる悠奈はまだまだ使える戦闘スキルの幅も多くはない。その為、額から現した第3の目から怪光線を飛ばす。
「こうなったら、破眼光撃ちまくってやる!」
当たったらごめんねと仲間に告げつつ、悠奈は次なる攻撃をと構えを取るのである。
力を暴走させる破綻者、金地を止めようと攻撃を続ける覚者達。
主に攻撃を行うのは、菊、刹那だ。
相手は盗賊。ただ、助け出したいという仲間がいる以上、大人が骨を折らねばと刹那は考える。言うなれば、肉を切りつつ骨を折る、というところか。
「金目当てでここに来ておるようだが、金を得ても使えねば無為よな?」
無言で斬るだけでは、正気に戻ることはないだろうと、刹那は呼びかける。
「得た金で何をしたいか、思い出してみよ」
このままでは、溜め込んだものも藻屑。溜め込むことそのものが目的か。しかし、破綻したままでは、やはり先もない。
「終わるか? ここで終わるか? 金地・和彰、24歳。ハイソレマデヨ、か?」
刹那は呼びかけながら、刀による連撃を浴びせかけていく。
同じく、直接攻撃を叩き込む菊は、破綻者から狙われていた。
燃え上がるナイフをくらって火傷と共に傷を負う2人を、エメレンツィアが癒しの霧を展開して回復に当たる。
「大丈夫? まだやれるわよね?」
2人からは肯定の意思表示があるが。傷は決して浅くはない。渚も一緒になって自身の生命力を分け与えていたようだ。
「封印の力で破綻者に……。もしも、私達や学者さん達が開けちゃってたら、どうなったのかな……」
「私達が触れなかったのが不幸中の幸い……なんて言ったら、彼に悪いけど」
相手の姿に恐怖すら感じてしまう渚に、エメレンツィアはそんな本音を覗かせる。この結界は一体どれほどの力を持っていたのか。
(そんな封印で守りたかったものは、本当に勾玉なのかしら?)
勾玉を守るだけにしては、厳重すぎる気もする。現に、他の依頼で勾玉は発見されているのだから。この遺跡には、もっと大事なものが守られている雰囲気も……。
さらに続く戦い。覚者達は回復を厚くした布陣ではあったが。それが逆に仇となる。攻め手に欠けてしまった事で、彼らが耐えねばならぬ時間もそれだけ長くなっていたのだ。
最初から矢面に立っていた菊。簡単に手放せる生ではないのなら、抵抗しろと呼びかける。そのまま、破綻してしまう運命に飲み込まれてはならないと。
「貴方を救うのは、僕ら『F.i.V.E.』ではありません。貴方です」
だが、破綻者に声は届かない。金地は炎の塊を飛ばすと、一度倒れた菊が命の力に縋って起き上がろうとする。
久永はちらりと倒れかけた仲間を目にし、高圧縮した空気を飛ばして金地の体勢を崩そうとする。
(未来ある若者ではあるが……)
見た目以上に高齢の久永にとっては、金地はまだまだ先の長い若者に過ぎない。誉められた生業をしているわけではないが、だからといって、救える可能性のある命を見捨てるほどに自分達も非道ではない。
(……自我が戻った所で、相方の死や犯した罪を知って、元の生活に戻れるとは思わんがな)
傍に倒れる相方。正気に戻った金地はどう思うのか……。
ただ、今の金地は相方に気を払うことなく、燃え上がる炎を覚者へと飛ばし続ける。強力な一撃となった炎に、刹那もまた倒れかける。
普段の戦いにおいては意図的に人格スイッチを切り替える刹那だが、今回は敢えて元の人格のままで戦っていた彼女もまた、命という炎を燃やして踏みとどまった。
回復を続ける理央、凜。長引いてきた戦いの中、気力の減少も気になり始める。隙を見て、理央は自身に自身の精神力を増幅させて自らへと転化し、凜は晴れてしまった霧を再び敵へと纏わせていく。
そんな仲間達と連携を取り、渚は回復に、攻撃にと状況に応じて立ち回る。重そうな鬼の金棒だが、渚はそれを振り回し、金地へと連続して殴打を食らわせていく。
射線が開いたのを見計らい、悠奈は怪光線を飛ばす。それでも、破綻した隔者は止まらず、燃え上がるナイフで覚者を追い詰めようとする。
「僕も家族を手にかけた」
菊は破綻者となってしまった過去を語る。亡き友を思うなら、生きて償うべきだと。
「貴方が望むのなら『F.i.V.E.』は貴方を歓迎します。裁くのでは無い。受け入れます」
差し伸べようとするその手を、金地は切り裂いてしまう。どうして拒否しているのかは分からない。力がセーブできないからなのか、それとも、それ自体彼の本意ではないのか……。
「これでは、三浦も浮かばれぬなぁ!」
刹那は自らと同じ名の日本刀を振るい、連続して斬撃を浴びせかける。
「これで……いいんだ……」
かすかに、金地がそう口を開いたような気がして。だが、次の瞬間、金地の全身から血が飛び散り、彼は崩れ落ちる。
最後に倒れる三浦に手を伸ばした後、金地はそのまま事切れたのだった。
●依頼達成ではあるものの……
因果応報ということか。金地は完全に正気に戻ることなく眠りへとついた。
刹那は冷めた視線で見下ろしつつ、日常時に戻る。
「自業自得とはいえ、死者に罪はない」
久永は、三浦、金地の2人を手厚く葬ろうと提案する。とはいえ、現地点で外へ運ぶ手段はない。已む無く一度この場で埋葬し、後日、考古学者達に改めて外へと連れ出してもらい、外での埋葬を依頼することにする。
菊は苦々しい顔で、この場に埋められた2人を見下ろす。自身の言葉は届いていただろうか。菊はただそう願い、祈りを捧げる。
「……行けるところまで行ってみましょうか」
エメレンツィアが仲間に告げる。封印のあった元入り口から離れ、更なる探索をと考えたのだ。
理央も同意する。遺跡の南東と北東に勾玉があるかもしれないと仮説を立て、そちらに続く道を発見したい。また、この遺跡に隠された何かが見つかれば。覚者達はそう考えるのだが……。思った以上に覚者達の疲弊は大きい。
勾玉の回収をしたいのは山々ではあるが、仮にここでまた報告にある石人形の妖が現れると対処が難しい。
ともあれ、最低限の目的は達してはいる。そう考え、覚者達は探索を打ち切って入り口へと戻っていく。
「あーだめだ、帰還できたのは喜ばしいけど、緊張しすぎて体に力が入んねぇ……」
悠奈が入り口でぐったりと倒れる。ただ、朝食のカレーを食いかけで放置していたことを思い出して慌てていたようだ。
大きな実入りがあったとは言いがたい今回の探索。遺跡探索は辛抱強く、念入りに行わねばならぬと改めて学んだ覚者達なのだった。
奈良県の山中にある遺跡。考古学者達が挙ってこの遺跡の調査を進めているが、未だ全容解明には至っていない。
「この遺跡に足を踏み入れるのも3度目か。一体どんな経緯で作られたか興味が尽きないよ」
『F.i.V.E.』の覚者達がこの遺跡へやってくるのは、『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)が言うように3度目となる。その全てに立ち会っている彼女だが、好奇心は尽きることなく、目を輝かせていた。
「私、難しいことって分からないけど、昔の人達が造ったものだって思うだけでなんだかどきどきしちゃうかも」
『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)はこの場へとやってくるのは初めてだったが、やはり彼女もまた、何が潜むか分からぬ遺跡に胸を躍らせていた。
「ここにまた立ち入る事になるなんてね。それにしても、随分広い遺跡なのね。あの時もかなり探索したと思ったんだけど」
『女帝』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)は最初の探索ぶり、2度目。彼女もまた研究者として、待ち構える物に胸を高鳴らせる。
『白い人』由比 久永(CL2000540)、茨田・凜(CL2000438)は、前回に引き続きの参加だ。
「そろそろ、遺跡の核心に迫るようなものが見つかるといいのだがなぁ」
「前のときも遺跡探検楽しかったし、今回も超期待してるんよ」
久永は今回こそ何か発見できればと期待する。凜はというと、楽しい上に仕事になるという一石二鳥の依頼は大歓迎と、うきうきしていたようだ。
「考古学とはなかなか金にならぬ学問であるそうだが、遺跡は金になるそうである」
メンバーの中で、割と冷めた態度をとっていたのは、華神 刹那(CL2001250)だ。
「まさに物欲。現金なものよ」
「これは遺跡荒らしも気になるでしょうねえ。まあ、今回のケースは自業自得だけど」
「遺跡を調べるだけだと思ったら、破綻者だっけ? 墓荒らし的な何かがうろついてるのかよ」
エメレンツィアが話すのは、今回の依頼の原因ともなる2人組の遺跡荒らしの隔者だ。緋神 悠奈(CL2001339)がそれに悪態をつく。未知の領域に足を踏み入れるだけでも怖いのに、相手は力を暴走させた破綻者なのだ。
「破綻して、しまったのですね……」
『菊花羅刹』九鬼 菊(CL2000999)が小さく呟く。破綻者となった隔者の1人が相方を殺害し、遺跡の中を彷徨っているのだという。
(破綻をすれば、失うものが多すぎる。それまでの全てを失うんです)
破綻者となった過去を持つ菊。己を含めて消えてしまうというあの感覚。それから、相手が隔者であっても救い出したい。その手助けをしたいと、菊は参戦している。
「いやでも、オレもやるって言っちゃった以上、やりきらねーと申し訳が立たないぜ。とにかく何かこう……あれだ、頑張るか!」
「ハイテンションでレッツゴーなんよ♪」
悠奈は己を奮い立たせて叫ぶと、凜も遺跡を指差して掛け声を上げる。
一行は準備を整え、山中に口を開いた遺跡へとロープで下りていくのだった。
●破綻者を探して
探索に当たっては、理央はしっかりと準備してきていた。
文具として、方眼紙に筆記用具。そして、白チョークに方位磁針。これらはマッピング用だ。これに、過去2回マッピングした地図も付け加える。
通路の壁の所々に備え付けられている明かりを機能させる為に、油に火種。そして、それがない暗い道中の為にランタンも用意する。
そして、隊列。メンバーは5列で移動を行う。
最前列に菊が立ち、理央、渚が続く。渚は守護使役のともしびが放つ炎で光源を確保する。
次に、悠奈と凜。一塊で歩く覚者達の中央に当たる。
「今回のやることをまとめると……。『1.遺跡を歩き回りつつ』、『2.破綻者をぶっ潰す』っつー流れになるのかな」
悠奈は歩きながら今回の目的を確認した後、壁を軽く叩きつつ歩き始める。
「初めて来た場所だし、せっかくだから一つ発見でもしたいなーって思うね!」
仲間達や考古学者がすでに調べた場所だろうが、絶対音感ならば向こう側の空洞が発見できるかもしれない。時にそれによって仲間から置いていかれそうになる悠奈は、慌てて仲間を追いかける。
まだ依頼経験の浅い悠奈だ。凜が懐中電灯を使いつつ、フォローできるようにと考えながら歩く。
そんな凜は、分岐点で目印にする為にとお菓子を用意していた。彼女はさらに、目的の憤怒者を見つける為に、感情探査も合わせて行う。発見もそうだが、逆に敵の不意打ちなどを防ぐことが出来ればと考えたのだ。
後ろから2列目には、久永、エメレンツィアが続く。
「まずは、肝心の破綻者を探さねばならぬか」
久永は通路の中でも耳を傾け、小さな物音でも聞き逃さないようにと聴力を最大限に研ぎ澄ます。
「こんな場所を独りで彷徨うのは、寂しいだろうなぁ」
彼もまた、壁の明かりに火をともし、破綻者の接近、または罠がないかと気を払う。
エメレンツィアも懐中電灯を照らしつつ、物陰がないかと確認する。
「まあ、亀裂があったのだし、動物が入り込む可能性ももちろんあるでしょうけど」
彼女は探索が1度開いていることもあり、その当たりの状況を補完しつつ歩く。
「前に祭壇があったところとは別な階層なのかしら。繋がっているようには思えないけど」
エメレンツィアが一度向かったのは、北西の祭壇。前回は南西の祭壇を発見している。ただ、その度に段差があったし、実際、久永など、翼人のメンバーが飛行して段差のある通路の確認をしていたこともあって彼女はそう考えたのだが。
「どうかな。……ただ、地滑りなどで遺跡が寸断された可能性も高いと思う」
そこで、理央が考古学者の調査結果を代弁する。登り下り坂はあるが、1つのフロアだった遺跡の通路が上下に別れたり、落盤が起こって進めなくなったりしているのではとの見方もあがっているようだ。
前回、発見した壁は開いていた。すでに、考古学者が扉の仕掛けを解析していたのだろう。隣に小さな穴が開けられており、それを通り抜けることで、向こう側にあった鍵穴を操作して開いたらしい。
「本来の入口がその向こうにあったなら、壁を開く術もあちら側にあったと考えるのは自然じゃな」
久永はそう納得するが、この壁を自身で開けられなかったことは残念がっていたようだ。
ただ、その先はまだ手づかずの領域だったらしい。学者達によって立ち入り禁止のロープが張られていたのだが、遺跡荒らしの手で引き千切られていた。
ここからは、完全未探索の領域。メンバー達は改めて気を引き締めて進む。
「つまり、今、私達が入ってる場所って、『F.I.V.E.』は誰もまだ入ってないとこなんだね。一番乗りって訳には行かなかったけど」
渚は足元に視線を落とす。長いこと封印されていた遺跡だからこそ、埃も溜まっていた。この為、先に入った侵入者による足跡がうっすらと残っている。
「……暗視能力は便利であるが、風情も何もあったものではないな。これは」
最後尾を歩くのは刹那だ。今回は後ろからの襲撃の可能性すらある。だからこそ、彼女は暗視で視界を確保しつつ、超直感による警戒を行う。
理央としては、勾玉があると思われる遺跡南東部に足を踏み入れたいのだが……。足元を見れば、主に南側に向かって行き来しているのが分かる。これには理央も、南へと向かわざるを得なかったようだ。
やがて、メンバー達は壊れた封印がある場所へとたどり着く。
「……大丈夫、なんともない」
菊は龍心を使いつつ、その一部を拾い上げる。力は失われており、もはや何の反応も示さない。さらに、罠がないかと渚は危険予知をするが。どうやら、その封印にはもう害はないらしい。
「これほど強力な封印を施していたということは、よほどこの地は触れてほしくなかったのだろうなぁ」
久永は飛行して天井部などを確認し、そんな感想を抱く。何者かによって符術のようなもので幾重にも巻きつけられた封印……破られたそれは、よほど強固なものだったのだろう。
これを解析すれば、何かあるだろうか。メンバー達の脳裏にちらりとそんな考えが過ぎったが、その近くに倒れていた人影のおかげで考えが吹き飛んでしまう。
そこに倒れていたのは、1人の男。……すでに息はない。身体特徴を合わせ見れば、彼が遺跡荒らしの片割れ、三浦に間違いない。祈りを捧げる菊は、仲間達へと提案する。
「このまま彼を置き去りにするのは、可哀想です」
賛成の声がちらほら上がった為、後程この場には来るとして、メンバーは反転して別のところの捜索をと動き出すのだが。前方から何やら強大な力を持つ人影がやってくる。
そいつこそ、破綻者と成り果ててしまった男、金地・和彰だ。虚ろな目をし、息遣いを荒くしている。
うまく進行方向通りに、敵へと立ち向かう形となった覚者達。先頭の菊が覚醒しつつ身構える。
「仲間も守れずとして、何が十天の長というのですか」
守るのが自身の務めと主張する菊。後ろのメンバー達もまた、覚醒の上、金地を止めるべく立ち向かうのである。
●暴れる破綻者に……
「ウ、ウウオオオオッ!!」
金地は通路に響くほどの声で叫び、獣のような一撃を繰り出してくる。菊がそれを抑えようとするが、殴打の一撃は重い。
「金地・和彰、よくお聞きください。貴方はまだ、戻れる道があります」
菊は殴られながらも体勢を整えつつ、破綻者となってしまった相手へと呼びかけ始める。
他のメンバー達は、銘々の役割をと動く。久永は金地へと霧を纏わせて弱体化を図り、理央は菊をフォローしようと、神秘の力で生成された滴を落として癒す。
「さあ、いくわよ。女帝の前に跪きなさい!」
エメレンツィアは自身の力を高め、敵へと言い放つ。同じく錬覇法での強化を図る刹那は、前へと上がってこようとしていた。
凜は心地良い空気に取り巻き、渚は仲間の中央に位置取って、械の因子の力を使って防御力を高めていく。
「確かに、貴方の行動は褒められたものでは無い。けれど、それが貴方の生き甲斐で、貴方の生き方というのであれば、それは貴方の正義です」
菊が話しているのは、遺跡荒らしという行為のことだろう。しかし、菊は敢えて、彼らの所業を否定しない。
菊は大型の鎌『鬼牙(おにのきば)』を振るい、金地の体へと斬りかかる。痛みは感じているようで、相手は一瞬呻くのが分かった。
体内の炎を活性化させた悠奈も、攻撃に乗り出そうとするのだが……。
(アレ? これ破眼光しか使えなくね?)
後方にいる悠奈はまだまだ使える戦闘スキルの幅も多くはない。その為、額から現した第3の目から怪光線を飛ばす。
「こうなったら、破眼光撃ちまくってやる!」
当たったらごめんねと仲間に告げつつ、悠奈は次なる攻撃をと構えを取るのである。
力を暴走させる破綻者、金地を止めようと攻撃を続ける覚者達。
主に攻撃を行うのは、菊、刹那だ。
相手は盗賊。ただ、助け出したいという仲間がいる以上、大人が骨を折らねばと刹那は考える。言うなれば、肉を切りつつ骨を折る、というところか。
「金目当てでここに来ておるようだが、金を得ても使えねば無為よな?」
無言で斬るだけでは、正気に戻ることはないだろうと、刹那は呼びかける。
「得た金で何をしたいか、思い出してみよ」
このままでは、溜め込んだものも藻屑。溜め込むことそのものが目的か。しかし、破綻したままでは、やはり先もない。
「終わるか? ここで終わるか? 金地・和彰、24歳。ハイソレマデヨ、か?」
刹那は呼びかけながら、刀による連撃を浴びせかけていく。
同じく、直接攻撃を叩き込む菊は、破綻者から狙われていた。
燃え上がるナイフをくらって火傷と共に傷を負う2人を、エメレンツィアが癒しの霧を展開して回復に当たる。
「大丈夫? まだやれるわよね?」
2人からは肯定の意思表示があるが。傷は決して浅くはない。渚も一緒になって自身の生命力を分け与えていたようだ。
「封印の力で破綻者に……。もしも、私達や学者さん達が開けちゃってたら、どうなったのかな……」
「私達が触れなかったのが不幸中の幸い……なんて言ったら、彼に悪いけど」
相手の姿に恐怖すら感じてしまう渚に、エメレンツィアはそんな本音を覗かせる。この結界は一体どれほどの力を持っていたのか。
(そんな封印で守りたかったものは、本当に勾玉なのかしら?)
勾玉を守るだけにしては、厳重すぎる気もする。現に、他の依頼で勾玉は発見されているのだから。この遺跡には、もっと大事なものが守られている雰囲気も……。
さらに続く戦い。覚者達は回復を厚くした布陣ではあったが。それが逆に仇となる。攻め手に欠けてしまった事で、彼らが耐えねばならぬ時間もそれだけ長くなっていたのだ。
最初から矢面に立っていた菊。簡単に手放せる生ではないのなら、抵抗しろと呼びかける。そのまま、破綻してしまう運命に飲み込まれてはならないと。
「貴方を救うのは、僕ら『F.i.V.E.』ではありません。貴方です」
だが、破綻者に声は届かない。金地は炎の塊を飛ばすと、一度倒れた菊が命の力に縋って起き上がろうとする。
久永はちらりと倒れかけた仲間を目にし、高圧縮した空気を飛ばして金地の体勢を崩そうとする。
(未来ある若者ではあるが……)
見た目以上に高齢の久永にとっては、金地はまだまだ先の長い若者に過ぎない。誉められた生業をしているわけではないが、だからといって、救える可能性のある命を見捨てるほどに自分達も非道ではない。
(……自我が戻った所で、相方の死や犯した罪を知って、元の生活に戻れるとは思わんがな)
傍に倒れる相方。正気に戻った金地はどう思うのか……。
ただ、今の金地は相方に気を払うことなく、燃え上がる炎を覚者へと飛ばし続ける。強力な一撃となった炎に、刹那もまた倒れかける。
普段の戦いにおいては意図的に人格スイッチを切り替える刹那だが、今回は敢えて元の人格のままで戦っていた彼女もまた、命という炎を燃やして踏みとどまった。
回復を続ける理央、凜。長引いてきた戦いの中、気力の減少も気になり始める。隙を見て、理央は自身に自身の精神力を増幅させて自らへと転化し、凜は晴れてしまった霧を再び敵へと纏わせていく。
そんな仲間達と連携を取り、渚は回復に、攻撃にと状況に応じて立ち回る。重そうな鬼の金棒だが、渚はそれを振り回し、金地へと連続して殴打を食らわせていく。
射線が開いたのを見計らい、悠奈は怪光線を飛ばす。それでも、破綻した隔者は止まらず、燃え上がるナイフで覚者を追い詰めようとする。
「僕も家族を手にかけた」
菊は破綻者となってしまった過去を語る。亡き友を思うなら、生きて償うべきだと。
「貴方が望むのなら『F.i.V.E.』は貴方を歓迎します。裁くのでは無い。受け入れます」
差し伸べようとするその手を、金地は切り裂いてしまう。どうして拒否しているのかは分からない。力がセーブできないからなのか、それとも、それ自体彼の本意ではないのか……。
「これでは、三浦も浮かばれぬなぁ!」
刹那は自らと同じ名の日本刀を振るい、連続して斬撃を浴びせかける。
「これで……いいんだ……」
かすかに、金地がそう口を開いたような気がして。だが、次の瞬間、金地の全身から血が飛び散り、彼は崩れ落ちる。
最後に倒れる三浦に手を伸ばした後、金地はそのまま事切れたのだった。
●依頼達成ではあるものの……
因果応報ということか。金地は完全に正気に戻ることなく眠りへとついた。
刹那は冷めた視線で見下ろしつつ、日常時に戻る。
「自業自得とはいえ、死者に罪はない」
久永は、三浦、金地の2人を手厚く葬ろうと提案する。とはいえ、現地点で外へ運ぶ手段はない。已む無く一度この場で埋葬し、後日、考古学者達に改めて外へと連れ出してもらい、外での埋葬を依頼することにする。
菊は苦々しい顔で、この場に埋められた2人を見下ろす。自身の言葉は届いていただろうか。菊はただそう願い、祈りを捧げる。
「……行けるところまで行ってみましょうか」
エメレンツィアが仲間に告げる。封印のあった元入り口から離れ、更なる探索をと考えたのだ。
理央も同意する。遺跡の南東と北東に勾玉があるかもしれないと仮説を立て、そちらに続く道を発見したい。また、この遺跡に隠された何かが見つかれば。覚者達はそう考えるのだが……。思った以上に覚者達の疲弊は大きい。
勾玉の回収をしたいのは山々ではあるが、仮にここでまた報告にある石人形の妖が現れると対処が難しい。
ともあれ、最低限の目的は達してはいる。そう考え、覚者達は探索を打ち切って入り口へと戻っていく。
「あーだめだ、帰還できたのは喜ばしいけど、緊張しすぎて体に力が入んねぇ……」
悠奈が入り口でぐったりと倒れる。ただ、朝食のカレーを食いかけで放置していたことを思い出して慌てていたようだ。
大きな実入りがあったとは言いがたい今回の探索。遺跡探索は辛抱強く、念入りに行わねばならぬと改めて学んだ覚者達なのだった。

■あとがき■
破綻者の対処、お疲れ様でした。
残念ながら、隔者を救い出すには及びませんでした。
彼にとっては、因果応報ではあるのですが……。
とはいえ、正気に戻しかけたほどの説得を行った
あなたにMVPをお送りさせていただきます。
遺跡に関しては、
元入り口の封印跡でその後、
考古学者達がちょっとした発見をしていたようです。
封印の紋様な力を応用すれば、
何か出来たかも……とのことでした。
ただ、それが形になるかはわかりませんが……。
今後の遺跡の全容解明に繋がることを
願うばかりです。
参加された皆様、
本当にありがとうございました!
残念ながら、隔者を救い出すには及びませんでした。
彼にとっては、因果応報ではあるのですが……。
とはいえ、正気に戻しかけたほどの説得を行った
あなたにMVPをお送りさせていただきます。
遺跡に関しては、
元入り口の封印跡でその後、
考古学者達がちょっとした発見をしていたようです。
封印の紋様な力を応用すれば、
何か出来たかも……とのことでした。
ただ、それが形になるかはわかりませんが……。
今後の遺跡の全容解明に繋がることを
願うばかりです。
参加された皆様、
本当にありがとうございました!
