衝突、玉串ノ巫女
●手紙
『非合法武装組織F.i.V.Eの皆様方、ごきげんよう。
こちら神社本庁妖対策局でございます。
みなさまは親しみを込めて【玉串ノ巫女】とお呼びくださいます我々は、民間人による危険な妖挑発行為および因子犯罪組織へのいたずらな攻撃行為に強く心を痛めております。
すみやかに武装を解体し、我々の指示の元安全な地域での安定した生活へと移られますよう心からお願い申し上げます。
もしお断わりになるようでしたら、強制的な武装解除を行なうことをご了承くださいませ』
「よっしカンペキ!」
ピンク髪の女は、そこまでの手紙を書いて筆を置いた。
服装は、やや派手な改造がなされてはいるものの巫女装束。
座っている場所も神社の一角である。
それまで本を読んでいた丸めがねの巫女が顔を上げる。
「六実、できた……?」
「モチローン。さ、早く送って七栄ちゃん」
「うざい」
ウィンクするピンク髪の女こと六実に、七栄は小さく呟いて捨てた。
本に挟んでいたしおりを抜く。鳥の形に切られた紙だ。
それを宙に放ると、一羽の白い鳥へと変わった。
鳥は六実の丸めた手紙を足にくくりつけられると、窓から空へと飛び立っていく。
「おい、六実に七栄。ファイヴへの連絡は済ませたかの」
入れ違いになるように、扉から白髪の童女が顔を覗かせた。
「ハーイ、ばっちりですー五香さーん」
ウィンクして頬に手を添えて見せる六実。
「ちゃんと喧嘩売っておきましたー」
「…………おお」
童女五香は扇子を開き、苦しげに目を覆った。
「まあよかろうて。実力差がわかれば遊び半分で妖退治などすまいよ。逆に『そうでない』可能性も探れるしの」
「そうでない、とは?」
童女の背を押すように部屋に入ってくる茶髪の女。
ちらりと扇子から目を覗かせる五香。
「おお、豊四季。聞いておったか」
「ええまあ。それでさっきの話は一体?」
「因子の力を振り回して遊ぶだけなら、危険だからやめるべきじゃ。自己満足の人助けがしたいだけなら、迷惑だからやめるべきじゃ。生まれてからずっと護国奉公のために育てられたわけでもあるまいて……しかし」
「「しかし?」」
「もし彼らに戦うべき強い目的があったのなら、接し方を変えねばならんじゃろ」
●
中 恭介(nCL2000002)は難しい顔で手紙を読み上げた。
「この手紙が悪戯でないことは、うちの夢見の情報から確認した。『玉串ノ巫女』とはAAAと同時期に神社本庁が立ち上げた対妖組織でな……言ってはなんだが、戦闘能力でいえばあちらのほうが高い」
結果として情報操作能力や細々とした事務能力の高さからAAAが台頭したと(一部では)言われているが、怪異対策における本家である神社本庁を無視できないのだ。
「彼らはF.i.V.Eがどういう組織かを見極めようとしているのだと思う。しかし……うむ」
中恭介は困っているようだ。
F.i.V.Eは所属する覚者にその方針を任せる民主的な組織だ。トップはあくまで『責任を取る係』であって、方針を決める立場ではない。
「どうなっても責任はとる。選ばれたメンバーが、個々人で考え、話し合って判断してくれ。F.i.V.Eはその方針に従おう」
さしあたっては、遠回しに『実力で分からせてやる』と言ってきた『玉串ノ巫女』と戦闘の場を設けることになるだろう。
まずは戦い、相手の実力を知りつつ、こちらの実力も知らしめ、その上で何らかの形で話の決着をつけねばならない。
「お前たちの判断を、信じているからな」
『非合法武装組織F.i.V.Eの皆様方、ごきげんよう。
こちら神社本庁妖対策局でございます。
みなさまは親しみを込めて【玉串ノ巫女】とお呼びくださいます我々は、民間人による危険な妖挑発行為および因子犯罪組織へのいたずらな攻撃行為に強く心を痛めております。
すみやかに武装を解体し、我々の指示の元安全な地域での安定した生活へと移られますよう心からお願い申し上げます。
もしお断わりになるようでしたら、強制的な武装解除を行なうことをご了承くださいませ』
「よっしカンペキ!」
ピンク髪の女は、そこまでの手紙を書いて筆を置いた。
服装は、やや派手な改造がなされてはいるものの巫女装束。
座っている場所も神社の一角である。
それまで本を読んでいた丸めがねの巫女が顔を上げる。
「六実、できた……?」
「モチローン。さ、早く送って七栄ちゃん」
「うざい」
ウィンクするピンク髪の女こと六実に、七栄は小さく呟いて捨てた。
本に挟んでいたしおりを抜く。鳥の形に切られた紙だ。
それを宙に放ると、一羽の白い鳥へと変わった。
鳥は六実の丸めた手紙を足にくくりつけられると、窓から空へと飛び立っていく。
「おい、六実に七栄。ファイヴへの連絡は済ませたかの」
入れ違いになるように、扉から白髪の童女が顔を覗かせた。
「ハーイ、ばっちりですー五香さーん」
ウィンクして頬に手を添えて見せる六実。
「ちゃんと喧嘩売っておきましたー」
「…………おお」
童女五香は扇子を開き、苦しげに目を覆った。
「まあよかろうて。実力差がわかれば遊び半分で妖退治などすまいよ。逆に『そうでない』可能性も探れるしの」
「そうでない、とは?」
童女の背を押すように部屋に入ってくる茶髪の女。
ちらりと扇子から目を覗かせる五香。
「おお、豊四季。聞いておったか」
「ええまあ。それでさっきの話は一体?」
「因子の力を振り回して遊ぶだけなら、危険だからやめるべきじゃ。自己満足の人助けがしたいだけなら、迷惑だからやめるべきじゃ。生まれてからずっと護国奉公のために育てられたわけでもあるまいて……しかし」
「「しかし?」」
「もし彼らに戦うべき強い目的があったのなら、接し方を変えねばならんじゃろ」
●
中 恭介(nCL2000002)は難しい顔で手紙を読み上げた。
「この手紙が悪戯でないことは、うちの夢見の情報から確認した。『玉串ノ巫女』とはAAAと同時期に神社本庁が立ち上げた対妖組織でな……言ってはなんだが、戦闘能力でいえばあちらのほうが高い」
結果として情報操作能力や細々とした事務能力の高さからAAAが台頭したと(一部では)言われているが、怪異対策における本家である神社本庁を無視できないのだ。
「彼らはF.i.V.Eがどういう組織かを見極めようとしているのだと思う。しかし……うむ」
中恭介は困っているようだ。
F.i.V.Eは所属する覚者にその方針を任せる民主的な組織だ。トップはあくまで『責任を取る係』であって、方針を決める立場ではない。
「どうなっても責任はとる。選ばれたメンバーが、個々人で考え、話し合って判断してくれ。F.i.V.Eはその方針に従おう」
さしあたっては、遠回しに『実力で分からせてやる』と言ってきた『玉串ノ巫女』と戦闘の場を設けることになるだろう。
まずは戦い、相手の実力を知りつつ、こちらの実力も知らしめ、その上で何らかの形で話の決着をつけねばならない。
「お前たちの判断を、信じているからな」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.玉串ノ巫女と戦闘する
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
●補足
『玉串ノ巫女』からは四人の覚者が派遣され、F.i.V.Eの指定した場所で会うことになっています。
場所は長らく使われなくなった元草野球場。広くて付近に被害が出ないからという理由で合意がなされました。
『玉串ノ巫女』からは豊四季、五香、六実、七栄の四人。
向こうからの報告によると、四人とも現の因子で木、水、火、天の五行持ちである模様。
F.i.V.E覚者1チームと戦う状況を受け入れている辺り、装備もレベルもこちらより上だとみるべきでしょう。いわゆる少数精鋭組織っぽいです。
●交渉について
プレイング効率を考えるなら、メンバーのうち数人だけに交渉を任せて他のメンバーは前半の戦闘プレイングに集中することをお勧めします。
今回行なうのは交渉です。説得とは全く別のものですのでご注意ください。
皆さんに与えられている交渉カードは、F.i.V.Eの『玉串ノ巫女』に対する接し方を決めること。もしくはF.i.V.Eが大々的に動かずに済むレベルでの活動です。
F.i.V.Eの協力はこの際なんでもアリですが、使うたびに効果が薄れるカードや、使うことで大きなリスクを負うカードがあります。交渉カードの切り方には注意しましょう。
交渉内容を全員一致させてプレイングに書いたり、自分なりのキャラクター口調で書く必要はありません。
複数人が同じことをプレイングに書いた場合、その内一人のみが述べたものとして判定されるため、他全員分が空振り扱いとなります。
また『お願いだから○○してくれ』『○○しないと殺す』といったカードは『タダで○○しろ』と同じ意味のカードとなるため、ご注意ください。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年05月12日
2016年05月12日
■メイン参加者 8人■

●
前置きなど要らぬ。ここは執念の戦場ぞ。
「うーっりゃ!」
『罪なき人々の盾』鐡之蔵 禊(CL2000029)は巫女服の袖を翻し、鋭い蹴りを繰り出した。
灰色髪の童女へ迫る。
巫女装束の帯に『五香』と刺繍されたその童女は、禊の蹴りを顔面で受けた。
蹴り抜けない。
足首を掴んだ五香は禊を地面へ叩き付けんとする。両手を地につけ五香の肩を蹴って離脱する禊。
「まさに格上、これも修行やな!」
道着姿の『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)がすかさず滑り込む。
抜刀と斬撃はほぼ同時。凛の鋭利な抜刀術を、五香はそれを手のひらで握り込んだ。
手から血が噴くが更に握り込む。
「どうれ」
蹴りつけ。即座に反応した凛は五香の蹴りを相殺させて刀ごと離脱した。
身の丈に合わぬ強引過ぎるほどの体術だ。
倒すことは困難を極めるだろう。
「それにこの人ら……」
玉串の巫女。四人で現われた彼女たちはまさかの全員前衛という前のめりな布陣で速攻戦を仕掛けてきたのだ。こちらの戦力も随分分散させられている。
出し惜しみすればやられる。
その想いは賀茂 たまき(CL2000994)にもあった。
持てる限りの大型呪符を片っ端からひもとき、強化に強化を重ねて殴りかかる。
対するは帯に『六実』と刺繍された少女だ。ピンク色の髪を二つに束ねた可愛らしい雰囲気だが、表情は真剣そのものだった。
彼女は両手を重ねてたまきのパンチを受け止めると、素早いバックウェーで距離をとった。
衝撃そのものを回避運動に使っているようだ。が、それでいい、いまのは牽制だ。
たまきはひもといた術を起動。『水天』水瀬 冬佳(CL2000762)に紫鋼塞をかけなおす。
冬佳は刀を水平に構えると、六実めがけて勢いよく斬りかかる。
「護国奉公怪異祓い本職同業の身としては、此の度の乱暴極まる仕儀、率直に申し上げて失望を禁じ得ない所です」
「だから!?」
六実は手のひらにエネルギーを集めると、刀の軌道を叩いてずらした。
バク転をかけながら蹴りを繰り出すが、むしろそれは更に身をひくための動作のようだ。
冬佳はスウェーで回避しながら次の斬撃を繰り出す。
「国の名の下になされる妖退治の主導権など構わないのですが、神社本庁とて全ての怪異案件に対応できたわけでもなく、できもしません。だからこそ各地で戦うことを選んだ民間人の人々が現実にある」
鋭い突きを連続で打ち込む。
首と肩の最小限動作でかわしていく六実。
「AAAの紅蜘蛛討伐。犠牲を払ってでも討たなければならなかった意味。そうまでして戦いを選んだ人々の意志」
踏み込みを更に深くして、冬佳の剣が六実に迫る。
「ないがしろにしてよいものではないはずですが、如何に!」
「ンッ!」
六実は口をぎゅっと引き結ぶと、冬佳の突きを受け入れた。
心臓付近を深々と貫く刀。
刀身を両手でぎゅっと握ると、手首に激しく血が滴った。
「だ、れ、が」
六実は頭を振り上げ、冬佳の額に叩き付ける。
「ないがしろにしたぁ!」
刀が抜け、どばどばと血をふきながす六実。だが回復はしない。
「あの、あのですねえ……あー、あー!」
頭から流れた血をぬぐい、聞こえないらしい自分の耳を殴りつける六実。
「民間人は! 戦うのをやめて! 安全な所に! 安全になるまで、隠れててくださいよう! なに戦っちゃってるんですか! なに犠牲になっちゃってるんですかあ!? ほんと! ほんとねえ!」
「――ッ!」
追撃をしなければ。冬佳は更に切りつける。
六実は更に身を乗り出し斬撃を眼球で受けた。赤黒いものが顔からこぼれ落ちる。
「犠牲になることは偉くないんですよう! 花屋が戦ったら花が無くなるんですよう! 絵本作家が戦ったら子供が笑わなくなるんですよう! 戦うことは偉くないんですよう! 兵隊とケーキ職人の価値は! 同等なんですよう! なんでわかってくれないんですかあ! もう! あー!」
六実の手が冬佳の首に迫った。
片方だけ残った眼球がぎろりとにらみ、冬佳は即座に離脱する。
「だからといって、戦う選択肢を折る理由にはなりません――!」
「水瀬さん! 深追いしすぎないで!」
入れ替わるように前へ出て防御姿勢をとるたまき。
「私がF.i.V.Eへ来たのは家族があったからです。他の皆さんは違うけど、でも少しでも被害者を、加害者を減らしたいって気持ちは一緒です。そのためにみんな一生懸命考えて、動いています」
たまきは過去を思う。言われるまま動いていたおりこうな子供。
「私も学んだんです。素直な気持ちで誰かを、大切なものを守りたいって……そう思う人たちも、守りたいって」
「戦う以外に方法はあるでしょう!」
「それじゃあ……だめなんですよ!」
たまきの拳と六実の拳が衝突。砕けたのは六実の拳だった。
分散した戦力は整えねばならぬ。
プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)は戦力差を補うべく寡黙そうな女性へと挑みかかっていた。
たすきに『七栄』と刺繍された女は、目つきの悪さを長い前髪で隠すような女だった。
そこへ追撃とばかりに葦原 赤貴(CL2001019)が襲いかかる。
赤貴の思いはこうだ。
(どうせ何かを言ったところで、嘲笑と侮蔑が返ってくるだけ。飽き飽きだ。力で踏みつけにくる役人が。隔者や憤怒者と大きく違うとは思えん)
巨大な剣に体重を更に乗せて叩き付ける。
防御行動をとらないのかとれないのか、七栄の腕は肘関節からすっぱりと切断された。回転して飛んでいく左手。勢い余って地面を砕く剣。
赤貴は更に切りつける。
(護国奉公などと嘯き、税金盗って犯罪者を野放しにする連中なぞ頼れるか。他者を踏みつけ嗤う屑は、オレが殺す。ひとつずつでも、追いつかなくてもだ。一人でも助かるなら、やめる理由などない)
彼の思いは殺意として七栄に伝わっていく。
七栄はそれを、無言で受け入れた。
今度は左腕が肩から砕けて落ちていく。
七栄の考えはこうだ。
(このひとは怒る理由を探して歩いている人だ。よく知ってる。誰が正しいかなんて関係ないんだ。とても傷ついてる人なんだ。これ以上、傷付けたらだめだ)
開いた右手を翳す。水気の弾を乱射してくる。赤貴はその防御を仲間に任せて、更に切りつけた。
(オレが殺そうとした程度で死ぬはずがない。殺す気で殺す)
一方で、『桔梗を背負わず』明智 之光(CL2000542)はハチマキに『豊四季』と刺繍された眼鏡の女と格闘していた。
腕の届く範囲にある全てのものを手刀でたたき出すという豊四季のスタイルに手を焼いているところである。
『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)はそこへ加勢する形になった。
持てる魔術の限りを尽くし、大量の炎弾を叩き込んでいく。
「私もこの国の人たちを守りたい。その思いまで否定して欲しくありません」
「なら私たちの制御下に入るべきです。法律を守ってくださいとまで言いませんが、勝手な攻撃行動は慎むべきです。今の日本にはヒーローごっこが蔓延しすぎています!」
「ごっこかどうか、試す場なのでしょう!」
ラーラの周囲に大量の炎が出現する。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
豊四季を覆うほどの炎。
防御姿勢を、豊四季はあえて解いた。
頬や腕、服の下にある肉まで焼け焦げていく豊四季。しかし眼鏡だけは砕けない。
「なぜ、あなたがやらなければならないのです。なぜ、他人に任せられないのですか!」
「私たちは救える限りの人たちを助けてきたつもりです。私たちが手を出さなかったなら、あなたが救えていたのですか!?」
「自己中心的な結果論です! あなたはアフリカ難民を救いましたか! 黒人奴隷は! インディアンへのイギリス支配は!」
「そんな質問のしかた……ずるいです! あなたにだって」
「できませんよ! けれどそれは、やらなければならない理由ではありません!」
「いいえ、理由になりえます! 少なくとも――」
魔導書の封印を解いてさらなる炎を発射する。
「私が戦う……命を賭ける理由にはなります!」
大量に凝縮された炎の弾が、豊四季の右肩を丸ごと破壊していく。焼き切れた腕が飛んでいくが、それでも豊四季は歯を食いしばって割れない眼鏡を押さえた。
「……そうでないと、困ります」
凛の剣が幾度となく空を裂く。
「じいちゃんのため、あたしに期待してくれてる門の人のため、そしておとんに勝つためや! そのためならどんなに傷ついても構わへん!」
空を裂く。
「あたしが戦うのは強くなりたいからや。あたしが助けるのはひとに歌を聴いて喜んでほしいからや。あんたみたいな高尚な理由やのうて申し訳ないけどな!」
「申し訳ないことなんぞあるか」
突き入れた剣が、五香の手のひらを貫通する。
つば越しに柄を握る五香。
「人の選択に貴賤なぞあるか。よいではないか、自己鍛錬。よいではないか、自己実現。まずいのは、『口ではなんでも言えること』じゃ」
ストレートパンチ。しかし凛はそれだけで数十メートルを吹き飛ばされた。
腕をぐるぐるさせながら追撃をはかる五香。
刀を突き立てて無理矢理ブレーキをかける凛。
「つっ――!」
繰り出した刀は、五香の腕を切断した。
返す刀で更にもう一撃。更に腕を切り離す。
「じゃから、こうしないとわからん。そして、わかった」
凛を蹴り飛ばす五香。
両腕は無くなったままだ。
そこへ、禊がゆっくりと歩み寄る。
「なんで避けなかったの。みんな、ずっと受けてばっかりいるよね」
「一秒で全滅させて『恐いだろー、明日から俺様の子分になれ!』とかいって素直に聞く奴おらんじゃろ」
「アニメで見たよそういう人」
禊はいつもの構えをとった。蹴り技主体のあの構えだ。
五香はそれをまねして、蹴り技の構えをとった。腕でバランスがとれない分不利なのに。
「私たちが正しい選択をできていたなんて自身はないよ。でも胸を張れる。苦しんでいる人や泣いている人を救うために、悲しい物語を終わらせるために」
「五歳児でも同じことは言える。しかし?」
「言い続けるのは難しい、よね!」
禊の目にもとまらぬ連続蹴りを、五香は同じ速度で蹴り返す。
間に生まれる衝撃波。禊、ワンテンポ外して頭を狙った跳び蹴り。
避けもせず顔面で受ける五香。足を地面に叩き付け、吹き上がった衝撃で禊は吹き飛んだ。
手でバウンドして着地。
さらなる攻撃を……と構えた所で、五香は空を仰いでこう叫んだ。
「しゅーりょー!」
●
戦闘終了後、彼らは近くの公民館に集められた。
大部屋と小部屋に分かれ、大部屋ではたまきたちが休憩している。
小部屋には玉串の巫女四人と、プリンスと之光が集まっていた。
眼鏡を外し、拭いてからかけなおす之光。
「まさか眼鏡が無事とは」
「眼鏡をかけた人の顔を殴らないと誓っていますので」
けろっとした顔で言う豊四季。あれだけ大変な怪我をした筈だが、身体は綺麗に治っている。服も着替えたようだ。
床へ綺麗に手を突いて頭を下げる豊四季たち四人。
「まずはこれまでの無礼をお詫びします。こちらをお納めください」
七栄がそっと出した包みから、お金の臭いがした。
中身は札束だろう。
之光は触れずに頭を下げた。
「戻してください。我々はお詫びを目的としていません」
「みんなも言いたいこと言えたし、よかったんじゃない?」
「そう言って頂けると助かります」
包みを戻す六実。
「大抵の人はここで『誠意が足りない! 誠意を見せろ!』って言いますからね」
「だってさ、こわいね!」
プリンスは理解してるのかどうかわからない顔で笑った。
咳払いする之光。
「お話し合いができる、ということでよろしいですか?」
「それはこちらの台詞です。大抵の方は理性的な話し合いができないですから。大体『さっき』の段階で話が終わるんです」
「……まあ、そうでしょう」
彼女たちは神社本庁が扱うごく少数の兵隊である。
そう考えると、あらゆる行動が本庁の命令によって制限されているとみるべきだろう。
あからさまな挑発も。戦闘という形でのガス抜きも。頭で分かっても感情で理解できる者はそういない。一国の総理大臣ですらカっとなってあらぬことを言ってしまうものだ。
「では単刀直入に。我々の要求は『神社本庁と敵対しないこと』です」
「条件は?」
「F.i.V.Eの所属覚者は千人規模です。夢見も保有しており、妖や暴力組織の被害を軽減、防止できます。迅速になれない行政組織に代わって動けるでしょう。また研究機関としての側面から、妖発生や因子発生の原因を調べたり、新たな因子や技術を……」
「ストップ、いいですか」
手を翳す豊四季。
「この段階で技術発見を条件に出すのはそちらにとって極めて不利です。もし我々が本庁にそれを報告した場合、『研究者内容を全て獲得せよ』と言われかねません。妖発生などの根本的問題に関してはあらゆる省庁が血眼になっていますから……」
口に手を当てて身を乗り出す六実。
「大きい声じゃ言えませんけど、家族を政治的な人質にとって全部よこせって言い出す人絶対いますよ。法務省とかマジ鬼畜なんですから」
「ですから、研究も発見も結構ですが、その運用方法は大事に選択してください。そちらの重要な政治的武器になるはずですから」
「……わかりました」
之光はこの後、神社本庁が古妖をどう扱っているか尋ねた。
彼女たちは『古妖』という単語を差別的なものとしてとらえているらしく嫌がったが、『ケースバイケース』と応えた。稲荷神社のキツネ様は古妖だし、田畑を腐らす妖怪も古妖なので、一緒にしたらダメだろという考えである。
プリンスが憤怒者や隔者についても尋ねたが、悪人だろうが国民に襲撃なんかしたら警察庁が黙ってないので手を出せないらしい。今日も『ほぼ一方的にやられる』という条件が本庁から課せられていたそうだ。
妖については言わずもがな。見敵必殺である。文字通り命がけで倒しにかかる。
プリンスはそこでファイヴ村を話題に出した。古妖と共存するというプランには、本庁も多分ノータッチだろうという。神様殴るでもしないかぎりは。
さあバトンタッチだ。之光はプリンスに目配せをする。
「じゃあさ、余の妃になる権利を――」
「眉毛引き抜きますよ」
「やめて」
足を崩すと、プリンスはそれまでと同じ顔で言った。
「ほんとの要求教えてよ。あとボス連れてきて」
「……」
これには豊四季も黙った。
ここは交渉の場。イエスともノーとも言えないのだ。
さっきの六実がやった『内緒話』ですら交渉カードである。
五香が扇子をびらりと開いた。
「神社本庁はビンボーじゃ」
「ちょっと!」
思わず立ち上がった六実を無視して続ける。
「税金で動いてるように見えて実はただの神社じゃからの。初詣とかするじゃろ? お祓いとかお守りとか色々お金動くじゃろ? あれで運営されておる。あとは……今で言う個人スポンサーじゃな。『玉串』ってしっとるか。要するに木の枝なんじゃが、これをなんやかんやするためにお金を納める仕組みになっとるんじゃ。ほら、ヤクザが所場代の代わりに観葉植物を売るようなアレじゃよ」
「へー、ヤクザなんだ」
「国営ヤクザじゃ。『玉串の巫女』ってのは要するに、スポンサーの命令を聞く奴隷集団ってことじゃな。これがもう余裕で億単位じゃから、人の命も買えるわけじゃ」
「……」
七栄が殺人的な目で五香を見ている。それも無視だ。
「じゃから、ボスは彼らということになる。本庁は大半ボランティアで運営されとるから決定権のあるやつなぞ殆どおらん」
「……じゃあ、無理だね」
「仮にできても、そっちのボスは『みんな』なんじゃろ? 話し合いができん」
「うん、じゃあ」
「本当の要求もソッチじゃ。『玉串の巫女候補』を沢山確保したい。わしらは月イチペースで死ぬからな」
「無理だね」
「じゃろ?」
話はそこまで、というジェスチャーをした。次が本題だ。
「そのゆるい金髪の察する通り、武装の解体なんてブラフじゃ。イレブンしかり、正義正義言う奴は割と酷いことするから、一個一個確かめないといかんのじゃ。F.i.V.Eのことは……まあ分かった。協力関係なんか結んだら上がヤバいから何かいい方法を考えよう」
「うん、助かるー」
「任せといて」
軽いやりとりだが、重要なことだ。
F.i.V.Eと玉串の巫女の間で密約が交わされるということである。
その形は今後の動き方で定まるだろう。
プリンスはもういいよねと言って立ち上がり、大広間へと行ってしまった。
玉串の巫女との関係は、まだ定まっていない。
これから、『みんな』で決めるのだ。
前置きなど要らぬ。ここは執念の戦場ぞ。
「うーっりゃ!」
『罪なき人々の盾』鐡之蔵 禊(CL2000029)は巫女服の袖を翻し、鋭い蹴りを繰り出した。
灰色髪の童女へ迫る。
巫女装束の帯に『五香』と刺繍されたその童女は、禊の蹴りを顔面で受けた。
蹴り抜けない。
足首を掴んだ五香は禊を地面へ叩き付けんとする。両手を地につけ五香の肩を蹴って離脱する禊。
「まさに格上、これも修行やな!」
道着姿の『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)がすかさず滑り込む。
抜刀と斬撃はほぼ同時。凛の鋭利な抜刀術を、五香はそれを手のひらで握り込んだ。
手から血が噴くが更に握り込む。
「どうれ」
蹴りつけ。即座に反応した凛は五香の蹴りを相殺させて刀ごと離脱した。
身の丈に合わぬ強引過ぎるほどの体術だ。
倒すことは困難を極めるだろう。
「それにこの人ら……」
玉串の巫女。四人で現われた彼女たちはまさかの全員前衛という前のめりな布陣で速攻戦を仕掛けてきたのだ。こちらの戦力も随分分散させられている。
出し惜しみすればやられる。
その想いは賀茂 たまき(CL2000994)にもあった。
持てる限りの大型呪符を片っ端からひもとき、強化に強化を重ねて殴りかかる。
対するは帯に『六実』と刺繍された少女だ。ピンク色の髪を二つに束ねた可愛らしい雰囲気だが、表情は真剣そのものだった。
彼女は両手を重ねてたまきのパンチを受け止めると、素早いバックウェーで距離をとった。
衝撃そのものを回避運動に使っているようだ。が、それでいい、いまのは牽制だ。
たまきはひもといた術を起動。『水天』水瀬 冬佳(CL2000762)に紫鋼塞をかけなおす。
冬佳は刀を水平に構えると、六実めがけて勢いよく斬りかかる。
「護国奉公怪異祓い本職同業の身としては、此の度の乱暴極まる仕儀、率直に申し上げて失望を禁じ得ない所です」
「だから!?」
六実は手のひらにエネルギーを集めると、刀の軌道を叩いてずらした。
バク転をかけながら蹴りを繰り出すが、むしろそれは更に身をひくための動作のようだ。
冬佳はスウェーで回避しながら次の斬撃を繰り出す。
「国の名の下になされる妖退治の主導権など構わないのですが、神社本庁とて全ての怪異案件に対応できたわけでもなく、できもしません。だからこそ各地で戦うことを選んだ民間人の人々が現実にある」
鋭い突きを連続で打ち込む。
首と肩の最小限動作でかわしていく六実。
「AAAの紅蜘蛛討伐。犠牲を払ってでも討たなければならなかった意味。そうまでして戦いを選んだ人々の意志」
踏み込みを更に深くして、冬佳の剣が六実に迫る。
「ないがしろにしてよいものではないはずですが、如何に!」
「ンッ!」
六実は口をぎゅっと引き結ぶと、冬佳の突きを受け入れた。
心臓付近を深々と貫く刀。
刀身を両手でぎゅっと握ると、手首に激しく血が滴った。
「だ、れ、が」
六実は頭を振り上げ、冬佳の額に叩き付ける。
「ないがしろにしたぁ!」
刀が抜け、どばどばと血をふきながす六実。だが回復はしない。
「あの、あのですねえ……あー、あー!」
頭から流れた血をぬぐい、聞こえないらしい自分の耳を殴りつける六実。
「民間人は! 戦うのをやめて! 安全な所に! 安全になるまで、隠れててくださいよう! なに戦っちゃってるんですか! なに犠牲になっちゃってるんですかあ!? ほんと! ほんとねえ!」
「――ッ!」
追撃をしなければ。冬佳は更に切りつける。
六実は更に身を乗り出し斬撃を眼球で受けた。赤黒いものが顔からこぼれ落ちる。
「犠牲になることは偉くないんですよう! 花屋が戦ったら花が無くなるんですよう! 絵本作家が戦ったら子供が笑わなくなるんですよう! 戦うことは偉くないんですよう! 兵隊とケーキ職人の価値は! 同等なんですよう! なんでわかってくれないんですかあ! もう! あー!」
六実の手が冬佳の首に迫った。
片方だけ残った眼球がぎろりとにらみ、冬佳は即座に離脱する。
「だからといって、戦う選択肢を折る理由にはなりません――!」
「水瀬さん! 深追いしすぎないで!」
入れ替わるように前へ出て防御姿勢をとるたまき。
「私がF.i.V.Eへ来たのは家族があったからです。他の皆さんは違うけど、でも少しでも被害者を、加害者を減らしたいって気持ちは一緒です。そのためにみんな一生懸命考えて、動いています」
たまきは過去を思う。言われるまま動いていたおりこうな子供。
「私も学んだんです。素直な気持ちで誰かを、大切なものを守りたいって……そう思う人たちも、守りたいって」
「戦う以外に方法はあるでしょう!」
「それじゃあ……だめなんですよ!」
たまきの拳と六実の拳が衝突。砕けたのは六実の拳だった。
分散した戦力は整えねばならぬ。
プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)は戦力差を補うべく寡黙そうな女性へと挑みかかっていた。
たすきに『七栄』と刺繍された女は、目つきの悪さを長い前髪で隠すような女だった。
そこへ追撃とばかりに葦原 赤貴(CL2001019)が襲いかかる。
赤貴の思いはこうだ。
(どうせ何かを言ったところで、嘲笑と侮蔑が返ってくるだけ。飽き飽きだ。力で踏みつけにくる役人が。隔者や憤怒者と大きく違うとは思えん)
巨大な剣に体重を更に乗せて叩き付ける。
防御行動をとらないのかとれないのか、七栄の腕は肘関節からすっぱりと切断された。回転して飛んでいく左手。勢い余って地面を砕く剣。
赤貴は更に切りつける。
(護国奉公などと嘯き、税金盗って犯罪者を野放しにする連中なぞ頼れるか。他者を踏みつけ嗤う屑は、オレが殺す。ひとつずつでも、追いつかなくてもだ。一人でも助かるなら、やめる理由などない)
彼の思いは殺意として七栄に伝わっていく。
七栄はそれを、無言で受け入れた。
今度は左腕が肩から砕けて落ちていく。
七栄の考えはこうだ。
(このひとは怒る理由を探して歩いている人だ。よく知ってる。誰が正しいかなんて関係ないんだ。とても傷ついてる人なんだ。これ以上、傷付けたらだめだ)
開いた右手を翳す。水気の弾を乱射してくる。赤貴はその防御を仲間に任せて、更に切りつけた。
(オレが殺そうとした程度で死ぬはずがない。殺す気で殺す)
一方で、『桔梗を背負わず』明智 之光(CL2000542)はハチマキに『豊四季』と刺繍された眼鏡の女と格闘していた。
腕の届く範囲にある全てのものを手刀でたたき出すという豊四季のスタイルに手を焼いているところである。
『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)はそこへ加勢する形になった。
持てる魔術の限りを尽くし、大量の炎弾を叩き込んでいく。
「私もこの国の人たちを守りたい。その思いまで否定して欲しくありません」
「なら私たちの制御下に入るべきです。法律を守ってくださいとまで言いませんが、勝手な攻撃行動は慎むべきです。今の日本にはヒーローごっこが蔓延しすぎています!」
「ごっこかどうか、試す場なのでしょう!」
ラーラの周囲に大量の炎が出現する。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
豊四季を覆うほどの炎。
防御姿勢を、豊四季はあえて解いた。
頬や腕、服の下にある肉まで焼け焦げていく豊四季。しかし眼鏡だけは砕けない。
「なぜ、あなたがやらなければならないのです。なぜ、他人に任せられないのですか!」
「私たちは救える限りの人たちを助けてきたつもりです。私たちが手を出さなかったなら、あなたが救えていたのですか!?」
「自己中心的な結果論です! あなたはアフリカ難民を救いましたか! 黒人奴隷は! インディアンへのイギリス支配は!」
「そんな質問のしかた……ずるいです! あなたにだって」
「できませんよ! けれどそれは、やらなければならない理由ではありません!」
「いいえ、理由になりえます! 少なくとも――」
魔導書の封印を解いてさらなる炎を発射する。
「私が戦う……命を賭ける理由にはなります!」
大量に凝縮された炎の弾が、豊四季の右肩を丸ごと破壊していく。焼き切れた腕が飛んでいくが、それでも豊四季は歯を食いしばって割れない眼鏡を押さえた。
「……そうでないと、困ります」
凛の剣が幾度となく空を裂く。
「じいちゃんのため、あたしに期待してくれてる門の人のため、そしておとんに勝つためや! そのためならどんなに傷ついても構わへん!」
空を裂く。
「あたしが戦うのは強くなりたいからや。あたしが助けるのはひとに歌を聴いて喜んでほしいからや。あんたみたいな高尚な理由やのうて申し訳ないけどな!」
「申し訳ないことなんぞあるか」
突き入れた剣が、五香の手のひらを貫通する。
つば越しに柄を握る五香。
「人の選択に貴賤なぞあるか。よいではないか、自己鍛錬。よいではないか、自己実現。まずいのは、『口ではなんでも言えること』じゃ」
ストレートパンチ。しかし凛はそれだけで数十メートルを吹き飛ばされた。
腕をぐるぐるさせながら追撃をはかる五香。
刀を突き立てて無理矢理ブレーキをかける凛。
「つっ――!」
繰り出した刀は、五香の腕を切断した。
返す刀で更にもう一撃。更に腕を切り離す。
「じゃから、こうしないとわからん。そして、わかった」
凛を蹴り飛ばす五香。
両腕は無くなったままだ。
そこへ、禊がゆっくりと歩み寄る。
「なんで避けなかったの。みんな、ずっと受けてばっかりいるよね」
「一秒で全滅させて『恐いだろー、明日から俺様の子分になれ!』とかいって素直に聞く奴おらんじゃろ」
「アニメで見たよそういう人」
禊はいつもの構えをとった。蹴り技主体のあの構えだ。
五香はそれをまねして、蹴り技の構えをとった。腕でバランスがとれない分不利なのに。
「私たちが正しい選択をできていたなんて自身はないよ。でも胸を張れる。苦しんでいる人や泣いている人を救うために、悲しい物語を終わらせるために」
「五歳児でも同じことは言える。しかし?」
「言い続けるのは難しい、よね!」
禊の目にもとまらぬ連続蹴りを、五香は同じ速度で蹴り返す。
間に生まれる衝撃波。禊、ワンテンポ外して頭を狙った跳び蹴り。
避けもせず顔面で受ける五香。足を地面に叩き付け、吹き上がった衝撃で禊は吹き飛んだ。
手でバウンドして着地。
さらなる攻撃を……と構えた所で、五香は空を仰いでこう叫んだ。
「しゅーりょー!」
●
戦闘終了後、彼らは近くの公民館に集められた。
大部屋と小部屋に分かれ、大部屋ではたまきたちが休憩している。
小部屋には玉串の巫女四人と、プリンスと之光が集まっていた。
眼鏡を外し、拭いてからかけなおす之光。
「まさか眼鏡が無事とは」
「眼鏡をかけた人の顔を殴らないと誓っていますので」
けろっとした顔で言う豊四季。あれだけ大変な怪我をした筈だが、身体は綺麗に治っている。服も着替えたようだ。
床へ綺麗に手を突いて頭を下げる豊四季たち四人。
「まずはこれまでの無礼をお詫びします。こちらをお納めください」
七栄がそっと出した包みから、お金の臭いがした。
中身は札束だろう。
之光は触れずに頭を下げた。
「戻してください。我々はお詫びを目的としていません」
「みんなも言いたいこと言えたし、よかったんじゃない?」
「そう言って頂けると助かります」
包みを戻す六実。
「大抵の人はここで『誠意が足りない! 誠意を見せろ!』って言いますからね」
「だってさ、こわいね!」
プリンスは理解してるのかどうかわからない顔で笑った。
咳払いする之光。
「お話し合いができる、ということでよろしいですか?」
「それはこちらの台詞です。大抵の方は理性的な話し合いができないですから。大体『さっき』の段階で話が終わるんです」
「……まあ、そうでしょう」
彼女たちは神社本庁が扱うごく少数の兵隊である。
そう考えると、あらゆる行動が本庁の命令によって制限されているとみるべきだろう。
あからさまな挑発も。戦闘という形でのガス抜きも。頭で分かっても感情で理解できる者はそういない。一国の総理大臣ですらカっとなってあらぬことを言ってしまうものだ。
「では単刀直入に。我々の要求は『神社本庁と敵対しないこと』です」
「条件は?」
「F.i.V.Eの所属覚者は千人規模です。夢見も保有しており、妖や暴力組織の被害を軽減、防止できます。迅速になれない行政組織に代わって動けるでしょう。また研究機関としての側面から、妖発生や因子発生の原因を調べたり、新たな因子や技術を……」
「ストップ、いいですか」
手を翳す豊四季。
「この段階で技術発見を条件に出すのはそちらにとって極めて不利です。もし我々が本庁にそれを報告した場合、『研究者内容を全て獲得せよ』と言われかねません。妖発生などの根本的問題に関してはあらゆる省庁が血眼になっていますから……」
口に手を当てて身を乗り出す六実。
「大きい声じゃ言えませんけど、家族を政治的な人質にとって全部よこせって言い出す人絶対いますよ。法務省とかマジ鬼畜なんですから」
「ですから、研究も発見も結構ですが、その運用方法は大事に選択してください。そちらの重要な政治的武器になるはずですから」
「……わかりました」
之光はこの後、神社本庁が古妖をどう扱っているか尋ねた。
彼女たちは『古妖』という単語を差別的なものとしてとらえているらしく嫌がったが、『ケースバイケース』と応えた。稲荷神社のキツネ様は古妖だし、田畑を腐らす妖怪も古妖なので、一緒にしたらダメだろという考えである。
プリンスが憤怒者や隔者についても尋ねたが、悪人だろうが国民に襲撃なんかしたら警察庁が黙ってないので手を出せないらしい。今日も『ほぼ一方的にやられる』という条件が本庁から課せられていたそうだ。
妖については言わずもがな。見敵必殺である。文字通り命がけで倒しにかかる。
プリンスはそこでファイヴ村を話題に出した。古妖と共存するというプランには、本庁も多分ノータッチだろうという。神様殴るでもしないかぎりは。
さあバトンタッチだ。之光はプリンスに目配せをする。
「じゃあさ、余の妃になる権利を――」
「眉毛引き抜きますよ」
「やめて」
足を崩すと、プリンスはそれまでと同じ顔で言った。
「ほんとの要求教えてよ。あとボス連れてきて」
「……」
これには豊四季も黙った。
ここは交渉の場。イエスともノーとも言えないのだ。
さっきの六実がやった『内緒話』ですら交渉カードである。
五香が扇子をびらりと開いた。
「神社本庁はビンボーじゃ」
「ちょっと!」
思わず立ち上がった六実を無視して続ける。
「税金で動いてるように見えて実はただの神社じゃからの。初詣とかするじゃろ? お祓いとかお守りとか色々お金動くじゃろ? あれで運営されておる。あとは……今で言う個人スポンサーじゃな。『玉串』ってしっとるか。要するに木の枝なんじゃが、これをなんやかんやするためにお金を納める仕組みになっとるんじゃ。ほら、ヤクザが所場代の代わりに観葉植物を売るようなアレじゃよ」
「へー、ヤクザなんだ」
「国営ヤクザじゃ。『玉串の巫女』ってのは要するに、スポンサーの命令を聞く奴隷集団ってことじゃな。これがもう余裕で億単位じゃから、人の命も買えるわけじゃ」
「……」
七栄が殺人的な目で五香を見ている。それも無視だ。
「じゃから、ボスは彼らということになる。本庁は大半ボランティアで運営されとるから決定権のあるやつなぞ殆どおらん」
「……じゃあ、無理だね」
「仮にできても、そっちのボスは『みんな』なんじゃろ? 話し合いができん」
「うん、じゃあ」
「本当の要求もソッチじゃ。『玉串の巫女候補』を沢山確保したい。わしらは月イチペースで死ぬからな」
「無理だね」
「じゃろ?」
話はそこまで、というジェスチャーをした。次が本題だ。
「そのゆるい金髪の察する通り、武装の解体なんてブラフじゃ。イレブンしかり、正義正義言う奴は割と酷いことするから、一個一個確かめないといかんのじゃ。F.i.V.Eのことは……まあ分かった。協力関係なんか結んだら上がヤバいから何かいい方法を考えよう」
「うん、助かるー」
「任せといて」
軽いやりとりだが、重要なことだ。
F.i.V.Eと玉串の巫女の間で密約が交わされるということである。
その形は今後の動き方で定まるだろう。
プリンスはもういいよねと言って立ち上がり、大広間へと行ってしまった。
玉串の巫女との関係は、まだ定まっていない。
これから、『みんな』で決めるのだ。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
