<紅蓮轟龍>正邪の剔抉<純黒の六月>
<紅蓮轟龍>正邪の剔抉<純黒の六月>


●龍の動向
「FiVEに負けたからほとぼり冷ませだぁ、大人しくしてろだぁ?
 自分で八神に言っておいてなんだが、この逢魔ヶ時紫雨様が、じっとしてられる訳ネーーーっつの! バレなきゃイイ!!
 東小路財前は、FiVEに手ェ出しやがったな?
 あいつらは俺様のものだ、俺様だけが傷つけていい、俺様がぶち壊す奴等だ。
 なに、指紋つけようとしてんだ、俺様のものに触るんじゃねえ!!
 この俺様が直々に、その溜まりに溜まった皮下脂肪を燃やしてやるから、塩胡椒味付けしながら、覚悟しな」

●FiVEの動向
 久方相馬(nCL2000004)FiVE覚者へ向けて叫んだ。

「急いでくれ!! 逢魔ヶ時紫雨が、全部殺してしまうその前に―――!!」

●???の動向
 棒つきの飴を、棒ごと噛み砕いた。
 甘い口内。涎と一緒に租借しながら、笑いかける頬を抑え込んだ。

●漆黒の一月
 『東小路・財前(あずまこうじ・ざいぜん)』。

 彼は日本の大企業の大幹部である。
 他に、日本で妖被害にあった人達の救済を行っていたり、慈善活動が多く見受けられ、支持が高い人物。
 妻子持ちではあるものの、時折、女性とのスキャンダルで報道されるときもあるが、それを退ける程、彼の慈善は高く評価されていた。
 スポーツ界、芸能界、政界、企業までに圧倒的権威を誇る彼。
 だが、彼に無いものとは。
 単純な力だ。
 彼も一般人のカデコリである身の上、妖や能力者は脅威の対象。
 故に、こう思った。

 力が、欲しいと。

 単純なものでは無い。
 魔王のように神秘的で圧倒的な。
 英雄のように無敵で誉れるような。
 飽きが来ることのない非現実的で、そして完璧な。

 一月、七星剣へ手を出した彼は、七星剣によって粛清されかけFiVEが巻き込まれただけの一般人を救う。
 五月、彼への疑惑が浮上する。

 ――FiVE覚者、十人が帰還されました。

 東小路所有の山の中の、孤児院より不可思議な実験部屋を発見。
 元山の持ち主は腐乱死体の状態で発見。死因は過度な服薬による中毒死の可能性大。覚者が行った交霊術の証言結果と概ね一致。
 発見された錠剤を解析結果。劇薬と判明。
 また、孤児院の守護者の証言『子供が消える』を調査結果、実験部屋にて見つかった死体の数と消えた孤児の数が一致。考えたくは無いが、該当する子供達である確証が出るまで時間の問題。

 以上の事象により、東小路財前の身柄を、重要参考人兼容疑者として拘束する。
 上記の案件をAAAは、FiVE組織に一任する。

 決着をつけよう。


 ステーキ肉をフォークごと噛み千切った財前は、食事を放棄し、フルコースの料理を全て床にまき散らしつつ雄叫びをあげた。
「FiVEが攻めて来ただと!? 俺の山を滅茶苦茶にしておいて、クソッタレェェ!!」
 FiVE覚者は、財前所有の山での出来事は表向きには失敗で終わったことになっている。
 孤児は守れず、守護者も消され、山も古妖に乗っ取られ、孤児院も燃やされた。
 財前には痛手ばかりだ。
 本当は孤児も守護者も五麟に預かり、古妖へ山を返しているのだがそれは財前の知るところでは無い。

 隣で秘書の女が震えながら頭を押さえ、報告をしにきた財前所有の兵が苦い顔をする。
 状況は切羽詰まっている。
「ふぁ、ふあ、ふぁふぁふぁFiVEは正義の皮をかぶったとんでもない組織じゃないかかかか!」
 王手の、直前である。
 だがここの警備を全て集めれば、覚者『二人』如きねじ伏せるはずだ。
 『二人』は兵を殺して進んでいるという。FiVE覚者を名乗り、そして、財前を殺しに来たと言う。
「全ての警備を上へ集めろ! お、俺を守れ!! クソッ、くそ! FiVEめぇ!!」
「は、はい!!」
 兵が慌てて出て行った後、財前は親指の爪を噛んだ。
 何故ここでそんなことを思い出すのか―――昔は、幼き日は、英雄のアニメを見て心躍らせ、こうなりたいと願っただけなのに―――もう、どこで間違えたか彼は分からない。
 迫る死の恐怖に怯える『ただの一般人』は、助けを求められぬ血濡れた英雄だ。
 後戻りも、先へも進めぬ王手は目前。



 FiVE覚者が二人、ビルへ侵入?

 本当のFiVE覚者ならば疑問に思う者は多いだろう。
 一人は、車椅子に乗りつつ背に翼を持つ少女。
 もう一人は、『血雨』と呼ばれた女と瓜二つの姿。
 現場はホテル。
 相応に人がおり、警備もそれなりには敷かれている。
 騙りの覚者だが、一方は屋上から下がり、一方は一階から上がり、挟み撃ちの形で財前を追い詰めようとしている。
 単身同士で乗り込んできたからか、実力はかなり自信があるのだろう。
 相馬が言うには、一方は逢魔ヶ時紫雨である夢を視た為、断言している。

 FiVE覚者は、騙っている二人が侵入した直後に追う形で侵入する。一階の警備員がFiVEを名乗る覚者と交戦する為、内線により財前は偽FiVEが来た事を、察した。
 ここから先の状況は、未だ読めない――。


■シナリオ詳細
種別:通常(EX)
難易度:難
担当ST:工藤狂斎
■成功条件
1.関係の無い一般人への被害を抑える
2.東小路財前を捕縛する
3.なし
 『東小路財前』最終話。

●状況
 東小路財前という人物がいる。
 彼は力を欲し、七星剣に手を出し死にかけたのをFiVEが止め(漆黒の一月依頼)、今度はFiVEに手を出してきたが上手くそれは回避できた模様(純白の五月依頼)。

 純白の五月により、東小路財前を重要参考人として捕縛する事とした。
 ほぼ同時に逢魔ヶ時紫雨が動いた。
 東小路財前と逢魔ヶ時紫雨は、『一人の少女』をきっかけに因縁の中。紫雨は財前を殺すことが目的だろう。

 状況は切羽詰まっているが、どうにかしてやり遂げねばならない。

●失敗条件
・東小路財前の死亡
・FiVE覚者の撤退

●場所
・ホテル館内。
 高速エレベーターは3基。従業員用が2基。
 階段はひとつ、非常階段はホテルの側面、右と左にひとつずつ。

 一階…受付フロア、カフェ、広々としています
 二階~八階…客室フロア。廊下は横に狭く、縦に長い。客室も、戦闘するには狭いです
       四階に大広間、五階に大浴場、六階に娯楽施設
 九階~十階…スイートルームと、バー。財前は当初九階にいます
 屋上…屋上です(隣ビルへ飛び移れますし、隣ビルから飛び移れます)

●エネミー

●財前陣営
☆財前私兵
 雇われただけの覚者です。力量はFiVE覚者の平均くらい
 かなり怯えつつきょどっております。が、彼らもなんらかして働かねばならない人たち。守るべきもののために命を投げ出してでも財前を守ります

 数は、一階に三人。
 二、三、四、五階から降りてきている覚者が八人

 六、七、八階の覚者は上へ上がり、屋上へ向かっております。
 九階の覚者二名は財前のそばについております

☆東小路財前
 銃程度は扱ってきますがお察し
 逃げます、滅茶苦茶逃げます。
 自己愛と生存本能から、仲間を見切りますし、裏切りもします
 逃げ方を読んで行動するのがいいでしょう

●紫雨陣営
☆車椅子の少女

 翼人×??、武器は双剣、低空飛行で攻めてきます
 数々の拷問を受けたような痛ましい傷が全身に見えます。内臓が全部揃っているか怪しい程痩せ、顔も傷つけられており、片目が無く、前髪で顔を隠しつつ暗い印象の少女です
 憎悪と、怒り狂った悲しい瞳をしています。機械人形のように殺戮を行う模様
 説得は不可能です
 説得は不可能です
 説得は不可能です

 屋上から下へいくつもりです
 なお、名前は『灯雨(ひあめ)』です

☆逢魔ヶ時紫雨
 血雨の姿になっております(/character_status.php?chara_code=nCL2000105)
 隔者、基本行動派、好奇心の塊、よく怒る、よく騒ぐ、痛いの好き、戦うの好き、斗真怖い、生きてたい
 記憶共有の二重人格。もう一人は小垣斗真(nCL2000135)

 獣憑×火行
 武器は双刀(清光×血吸い)。速度特化、速度を威力に変える体術取得
 その他神具二種、眼鏡(正体不明)とピアス(影法師)

 体術スキル 轟龍壱式・激鱗 物近単 威力は物攻+(速度1/2)BS致命流血
       地烈、飛燕、念弾

 技能スキル 龍心

 一階から上へいくつもりです
 力でねじ伏せていく模様。
 単純に正面から戦ったとて、かなりの尽力が無ければ勝てる相手ではありません。
 奇策を練ることをお勧めします。例えば説得、例えばもう一人を呼び起こす、例えば挑発と囮、例えは人質などなど

●補足
1、純白の五月依頼にて、東小路財前には、東小路煌軌という息子がいることが明確になっております。

2、FiVEの初動はお任せします。何もなければ紫雨陣営を追う形でビル内に侵入
  そのときは戦闘開始直前の為、まだ誰も傷ついたり死んでいたりしてません
  班分けするかしないかはわかりませんが
  一階は玄関フロア、または裏口から。屋上は隣ビルから飛び移って侵入と固定します。

ご縁がありましたら、よろしくお願いします
状態
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
150LP[+予約50LP]
参加人数
10/10
公開日
2016年06月22日

■メイン参加者 10人■

『使命を持った少年』
御白 小唄(CL2001173)
『鬼灯の鎌鼬』
椿屋 ツバメ(CL2001351)
『BCM店長』
阿久津 亮平(CL2000328)
『星唄う魔女』
秋津洲 いのり(CL2000268)
『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)


 破裂寸前の風船のような。
 爆発寸前の爆弾のような。
 ひとつ行動を起こせば、一瞬にして血に染まる――一部の存在にだけ感じるビリビリと緊迫した空気。それに包まれた世界で、『使命を持った少年』御白 小唄(CL2001173)の足が早いリズムで地面を蹴っていく。
 全てを救うと決めた少年の眼には、明るい色が照り輝いていた。
「待て、FiVEを騙る偽者め!」
 片腕を伸ばし、掴まんと。人の波を振り切って伸ばされた手の先、振り向いた光源の如く美しく輝く白髪が揺れた。
 血雨。
 かつてそう呼ばれた厄災の姿を。一目見てしまえば生存確率が減るその姿を。
 半径数百メートルの人間が知っているかは知れない。けれど、人間離れしたその姿はある意味浮いており注目を集めていた。
 『彼女』が何を言ったかはFiVEは知らないが、一見普通の男が、叫ぶように武器を取り出し、残り二人の覚者も覚醒を果たしたとき。
 小唄の小さな手が、振り向いた血雨のふくよかな胸囲に振れた。
「まあ、乱暴な方! FiVEを騙る偽物は――そちらです」

「早くここから離れろ! ここは危険だ!」
 『一級ムードメーカー』成瀬 翔(CL2000063)の声が盛る一階で、一般人は彼の言葉のままに散開して逃げていく。入口は人の波に押しつぶされ、我先にとFiVE、紫雨、財前兵を中心に、ドーナツ型に逃げていくのだ。
「よし! ちょっと混乱は起きてるけど一般人は大丈夫かな。あとは……!!」
 翔は、白く麗しい紫雨を視界に映しなおして叫んだ。
『紫雨!!』
『なンだよ、兄弟喧嘩なら今度付き合ってやるから』
 紫雨は遠くから翔の頭を撫でるような仕草で、反発するように翔は振り払う動作をした。
 頭に直接文字を叩き込み、翔は心の中で何度も止めてくれと叫んでいた。けれど現実そうはいかぬ。
 紫雨は財前の兵、3人の前衛を一斉に叩き潰していく。小唄は紫雨の懐まで飛び込み、胴に拳を叩き込んだ。流れるように三島 椿(CL2000061)が兵へと回復の祈りを飛ばす。
 2、3歩と後退した紫雨だが、追いかけるように小唄は前へと出た。ここから動かなさいように、その拳は強く握られている。
「ほら、相手はこっちだ!」
 腰を引き、足を廻して紫雨の鼻先を掠めていく小唄の攻撃。
 更にそこへ覚者兵の銃弾が連打されていく。椿の回復を貰った一人の男は混乱しつつも兵へ何かを叫んでいるが、布陣している残り2人は問答無用無差別攻撃だ。
 再度刃を構えた紫雨に、納屋 タヱ子(CL2000019)は立ち塞がる。山のように、岩のように。立ちはだかる壁として。
「あの日の貴女はもっと強くて……もっと綺麗だった」
 呪いに染まりてそれでも守るものの為に怪物へと堕ちた女への言葉であった。血雨という厄災への。
「私を壊してみせてください。壊せないなら……私は、あなたのものではありません」
 破裂したような音が聞こえた、瞬時、タヱ子の少し右隣で立っていた覚者兵の頭が消えている。鉄の香りに染まる周辺。覚者兵は武器を落とし、がたがた揺れた。
「だから! 俺達は財前を守りに来たんだって!!」
 再度翔の声が響いた。どちらが本物でどちらが偽物か。決する物差しは無けれども、一階にいた財前兵だけは本物のFiVEの味方になりえたかもしれない。
 しかしだ。
 ふと、タヱ子が見ていた血雨の外見が、今まさに死んだ男のものへと変わり。紫雨は念入りに入れ替わった男の顔を潰した。
 成程――。
「入れ替わるつもりですか!」
「タヱ子ちゃぁん、期待以上の待遇!! んだぁ、タヱ子ちゃんがいんなら『参式』を持ってきたんだがなァ、舐めてかかってきちゃったんだぜぇ?」
 血雨の恰好はある意味警告であり、『正体不明』という能力の使用を示唆するものであった。男の姿へと変わったことに、生き残った覚者兵たちの頭はついてこれていないだろう。何故死んだ仲間が立っているのか。何故同じ姿の人間がいるのか。混乱は生まれる。
 ガシャン。
 と天上から吊るされていたカメラに矢が貫通し、割れた。椿が矢をいり、そして一瞬の静寂。
「久しぶりね、止めに来たわ」
「御機嫌よう。会えてまーったく嬉しくないから帰れよ」
 そこで上階の敵が降りてきた。
 二人だ、彼らは武器を構えて覚醒しつつ迫ってくる。紫雨は叫んだ。
「た、助けてくれ!! こいつらがファイヴだ!! 財前様の命を、狙っている!!」


「FiVEが攻めて来ただと!? 俺の山を滅茶苦茶にしておいて、クソッタレェェ!!」
「はい、若い女がそう言ってました。屋上から挟み撃ちだって。この眼で見て、この耳で聞きました!! それで報告にきました!!」
 と東小路財前と兵が漫才をやっているのと同時刻。

 天上の月明りと強すぎる風の中、屋上では車椅子の車輪が、からから廻っていた。
 その後ろを追って、屋上へと飛び移った影は6。足音に気づいてか、車椅子は止まった。
 一層強い風が吹き荒れる中、首だけ廻して覚者たちを見た少女の背の翼が覚醒し広がり、そして車椅子から飛び上がった少女は両手に似合わぬ双剣を携えた。
「殺す、殺す」
 病んでいるという程に行き過ぎている細さの四肢と、不健康をまるまる絵に描いたような白さに『二兎の救い手』秋津洲 いのり(CL2000268)は瞳を背けたが、直ぐに彼女の姿(現実)を受け止め見直した。例え彼女が怪物だろうと化け物だろうと予想されるにそうなった理由が理由。ここで眼を背けては、失礼かもしれぬといのりは思い。迎え撃つ。
「おいガキ、その傷は財前にやられたのか?」
「……」
 『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)は刀の切っ先で数々の傷を指さしつつ言うが、彼女――灯雨は眉ひとつ動かさない。
 しかし。
「お前に財前を殺させてやりたい気もするけどな」
 まるで事情を全て知っている刀嗣の言葉に、顕わにされた感情は憎悪であった。びりびりと振動するほどの威圧が灯雨から放たれている。
 早く走れない灯雨の二本の足は地面を蹴ることを忘れ、空を滑る。無尽蔵に弧を描いた双剣が空を切り裂く。構えた刀を斜めに傾け、双剣の威力を消しながら刀身で滑らし回避した刀嗣だが、2発目の刃が腹部をに穴をあけた。だが同じく贋作虎徹は灯雨の左腕を刃の背で殴った。
 いのりは自身の特異な恰好の羞恥を忘れつつ、杖を翳して祈りを込め。
 『BCM店長』阿久津 亮平(CL2000328)は、帽子の下に悲しみと怒りの瞳を隠しながら、これ以上傷つかせたくない灯雨へとハンドガンを向ける。
「灯雨、ごめん。君の復讐を止めに来てしまって……」
 その声は、意味をなさないと知りながら。出さずにはいられなかった。

 屋上での戦いが始まってから、その間を縫って階下へと降りていった『鬼灯の鎌鼬』椿屋 ツバメ(CL2001351)、『戦場を舞う猫』鳴海 蕾花(CL2001006)、深緋・幽霊男(CL2001229)。
 まずは10階はスルー。
 いつ、灯雨が追いかけてくるかわからない。同じく、いつ、下から紫雨が追いかけてくるかもしれない。
 韋駄天足で駆け抜けながら、されど欠点があるとすれば覚醒ができないことか。
 生身のこの状態で、敵として財前兵と会うのは最悪の展開ではある。
 曲がり角にあたっては、蕾花が顔を覗かせ誰もいなければ進むのを繰り返していく。
 運良くか、敵には会わなかった。

 9階にはバーがあった。
 ツバメと蕾花。そして幽霊男は飛び込むようにバーへと入る。未だ騒ぎを知らぬのか、まばらに人がいた。
 とりあえずは探さなければならない。
 蕾花は一人一人の顔を不自然にならない程度に見ていく。その間にも、苛立ちというものが腹の奥から込み上がってくる。
 助けた恩も忘れて手柄まで自分のものにした上で、随分ナメ腐った真似してくれた財前。
 蕾花の誕生日に腹を裂かれ、五麟まで盛大に火をつけてくれた。気の迷いを起こす度に足元掬われ続けた紫雨。
 現状、蕾花にとってのストレスの権化がビルひとつに収まっているのだ。彼女からすれば闇黒の摩天楼だ。全身から火花が湧き出るのを抑えながらも、蕾花は歩む。
 同じくツバメも、幽霊男も、人という人の顔を見ながら歩んでいく。
 幽霊男は白龍と書かれた酒を手に取り、ラベルをなぞった。ファイブ名乗るとか『仕返し』のつもりか。グレ助――紫雨――は。なんて心の狭い奴なんだろうか。他に考えがあると言えば、紫雨が好きに行動しても百鬼に被害が及ばない良い受け皿にされているのかか。それか元々何も考えていない子供か。

 ……どうやら、このバーに財前はいないらしい。ということは、客室か。

 あまりここに時間はかけたくは無い。正直にも何にも幽霊男は焦っていた。敵は移動することを読んでいたからだ――何も、財前も動かぬ駒では無いのだから。


 わかっていた。
 彼女は財前の犠牲になった百鬼の一人であるということを。
 亮平は全力で止めると口に出してから決意した。いや、決意ならもうこの依頼を任されたときからあったことだろう。
 繰り出された貫通の攻撃に刀嗣を巻き込み、亮平の身体が衝撃に爆ぜる。口元の傷から垂れた血を拭い、二本の足で立ち。立てない少女は空中に浮かんで、刃を向けてくる。
 灯雨の一番近くに立つ刀嗣の刃が月明りに反射し、銀色の光が灯雨の眼を染めて一瞬ひるんだところで彼は飛び込む。
 傷つけるのは最小限に、傷が残る刃で切るのでは無く。逆刃で殴打し飛ばした。彼女は痛いとも言わず、うめき声もあげずに体勢を立て直す。あれから灯雨が言葉を口にしないのは、会話をするつもりもないとみている。
「あの男は法に則って裁きを受けさせますわ。例え貴方に憎まれてもそれを譲る事はできません!」
 確かに灯雨の行動の理由は分かるのだ。誰だってそこまで傷つけられたら怒りに震えるのは当たり前。だがそれを認めてしまえば、いのりの中にある大切なものが音をたてて崩れるのは自分自身が一番よく分かっていた。
 霧をかけ、灯雨の行動を大きく封じ。灯雨より怒号が飛ぶもいのりはあえて受け止めながらも無視し続けた。
 両腕には炎を。灼熱を宿した灯雨の、二双の刃に紅の軌跡が辿る。一連、二連と被さっていく攻撃に刀嗣の刃が翻弄されている。ひとつの規則性を見せない言わば、運任せのような灯雨の手つきは刀嗣という熟練者であっても読み辛い。
 見れば見るほど傷が増える刀嗣に、いのりは焦った。回復が追いつくかわからない。だがやるしかない。
 天へも届く、その祈り。自らの身長より遥か大きな杖を最大限に振って周囲に散らばる水を頼りに、穴を埋めていく細やかな作業。
 その間にも、亮平は気弾を放ち続けて灯雨の身体を打った。空中で回転しながら威力を逃がしてから、灯雨は歯奥をぎりりと鳴らす。
「待っ――」
 その時、亮平の眼に見えたのは財前の兵がたどり着いた姿。
「なんだ!? 仲間割れか?」
「さ……さあ、分かりません。と、とりあえず倒しましょう」
 トリアエズで撃たれた連射式の銃と、天行が誇る雷の嵐。それに巻き込まれたのはFiVEもそうであるが灯雨も同じくだ。
 亮平はいのりを背にして視界内から外し、刀嗣は灯雨を追いかけた。そして衝撃に灯雨の身体が墜落し屋上の上でバウンドしながら不時着。
 怒りに更に怒りが増して、亮平自身自分でもこんなに怒れることを無意識にも驚きつつ、噴きだしそうなそれに息が荒くなった。いのりが亮平の服を引っ張り、刀嗣は片手をあげて彼を静止。
 落ち着いて深呼吸してから、言葉を発した。
「自分達はファイヴだ」
「え?! そうでしょうね。その……そう聞いてますからね」
「私たちFiVEはあくまで財前の命を守る為に来た訳でして――」
「え? そうなんですか?」
 きょとんとした財前兵たちは顔を見合わせながらも汗を流した。その時に浮き上がった灯雨の身体が、突進を仕掛けてきては刀嗣がつばぜり合いの形で止め、亮平の所まで押し込まれた。
 亮平は刀嗣の背中を抑えながら、片手で線を引き灯雨を攻撃する。
「腕が痺れやがった。使えない腕だ」
「自分の身体でしょ……」
 手首を振りながら刀嗣は舌打ちし、亮平は苦笑いをする。いのりは未だ説得を続け、なんとか信じてもらえるように努力していた。
「あ、あの人、味方に攻撃してますよ、よ!?」
「ですから! 私たちがFiVEで、あの方は―――ーっ」
「あの人は?」
 灯雨は一瞬ビクっとしたが、いのりは首を振った。百鬼とは言ってはいけない。言ったらきっと、この作戦は破綻してしまう。
「……あの人は、その、財前の命を狙う刺客ですが事情が事情で!!」
「事情で人を殺す危ない人なんですか!!?」
「そ、その!?」
 いのりはかなり笑顔が引き攣った。財前の兵は更に混乱を始めつつも、状況は見れば灯雨といのりたちが区別されていること程度は分かるものだ。
「あの人を止めれば、いいんですか?」
「そうです」
「まあ……分かりました」
 屋上は屋上で状況は飲み込み安かった。一階は正体不明を使った紫雨がいるため混乱を極めていたが、こちらは飲み込むように早く。
 財前私兵は灯雨へと武器を掲げる。この時点により、灯雨に勝機は薄いだろう。だが灯雨は動じなかった。
 まるで、己は捨て駒であることを認識しているように。


 結果的には、財前は移動していた。
 上階ではかなり派手な物音がしていた為、さすがにバーや客室にいた客も避難を始めていたころ。非常階段は人でごった返し、何故だかあまりエレベーターは使われていない。通常の階段もまばらに人はいるのだが、避難指示をしている警備員は非常階段へ誘導しているためか、一般人らしき人間は階段に近寄らなかった。
 だからこそだ、財前は階段を使っていた。あの世間的に英雄である財前だ。こそこそ紛れて逃げる姿を大衆に曝すのは避けたのであろう。階下へと逃げる財前の姿を見るまでに、覚者たちは持ちこんだ。ここまで少々時間は使ってしまったが、まだ持ち返せるところではある。
 階段より、7階の廊下へ降りたところで蕾花と幽霊男は階段を飛んで財前の手前へと滑り込み、静止を呼びかけた。
 蕾花は眉間にしわが寄ったが、瞬時に首を振って、できる限りの笑顔を作ってみた。ぎこちは無いが、不審に思われないように。
「な、なんだ貴様ら!!」
 財前からの第一声はそれ。
「ファイブを名乗る隔者から保護をする。まあ、居合わせた正義の味方と思ってくれればそれでいい故。それ以上でも以下でもない」
 幽霊男はあながち間違ってはいない嘘を言いながら、階下への道を指さす。
 財前としては願ったり叶ったりではあるが、兵は顔を見合わせていた。怪しいと思われているのだろう、こんな時こそ信用というものは大事である――のだが。
 財前は直観で気づいていた。彼らが護衛では無く、捕縛をしに来たことに。
 確かにある程度FiVE覚者は上手く上手く感情を押し込め隠していたのかもしれない。けれども、感情を表に出し過ぎたものがいた。身構えてしまったことにより、財前は――。
「なんだ貴様!!? 怪しいやつめ!!」
 ツバメと財前の間に入った兵が武器を持つ。
「お前等!! あのファイヴの仲間だな!?」
「今、何しようとしていた?! 財前様に触るな!!」
 結果としては、どうやら財前から信頼というものは勝ち取れなくなってしまったらしい。
 一気に敵へ廻った財前兵が武器を持ち、ツバメへの一斉攻撃が始まった。韋駄天により覚醒していなかった姿である為、銃弾を真正面から受ければかなりの重傷は覚悟だ。
 財前は包囲しかけていた穴から逃げ出し、蕾花と幽霊男がこれを追う形となった。
 蕾花はワーズワースにて財前を誘導しにかかったが、その技能は魔眼ほどの拘束力は無いのが欠点である。


『女装趣味でもあったのかー? 知らなかったなー意外な一面見ちまった』
『正体不明の都市伝説は、若い女っていう噂もあったんだぜ?』
 結果として翔の挑発は、なかなか通じなかった。それはそれだ、翔としてはいつか約束した『くだらない喧嘩』とやらをしたかったつもりではあったのだろう。しかし紫雨は時と場所と状況をはき違えない。これが単純なタイマン依頼であるのなら、いくらかは効果があったかは見込めたのだが。
 紫雨は財前兵から覚者たちへ攻撃を切り替える。狙いはタヱ子だ。
 化けた瞬間の紫雨を見た財前兵は、他の財前兵に何か言っているようではあったが今更彼らが言ったところで、上の階から来た財前兵が見える状況とは、紫雨という財前兵がFiVEに囲われている光景しか見えない。
「報告だと若い女って聞いていたが、人数が増えていたとはな……」
「だから、違うんだっての!!」
 翔は叫んだ、想いの全てを吐露するように。
 財前布陣の人数が増えればFiVE覚者の消耗は激しい。椿が予想する以上に体力が激減していく。防戦とはよくいったもので、足止めとはよくいったもので、しかし敵の数が多すぎた。
 小唄は言いたい事が山ほどにあった。
 小唄以外の者にも言いたいことは山ほどあった。
 だが全て言い終わるまで間に合うかわからない。前衛は紫雨の地烈に、財前兵の攻撃を集中して受ける。これを二人で凌ぐには、かなりの力が必要であった。勿論、椿と翔の回復があるが。
『この前……山で斗真さんに会った時に、FiVEがイレブンに目をつけられるのは避けたいと言っていたし、敵を増やしたくないって言ってた』
『言ってたなァ』
『それは紫雨さんだって中から見てたはずなんだ。
 その紫雨さんが何でこんなことをするのか……、斗真さんと紫雨さんの考え方が違うのはわかってるけど、あまりにもちぐはぐじゃないか!』
『お前が答え言ってンじゃねェか。俺と斗真は考えも目的もちげえ。
 FiVEは俺がぶっ壊す。FiVEに手をつけるイレブンも財前もぶち殺す』
 紫雨は小唄の胸倉を掴んで引き寄せた。
『この世界の誰しもがナカヨシコヨシになりてぇって思ってるンじゃねェぞ』
 空いている右手で小唄を殴打、飛ばされた彼は着地してから跳躍し今度は紫雨の胸倉を掴んで引き寄せ頭突いた。
「こんな事はやめるんだ!」
「んの野郎……!!」
 周囲の一般人はいつの間にか逃げ切っており、財前兵に囲まれたようにFiVEは包囲されている。
 紫雨は財前兵を味方につけた分、有利になっているのは明白。そんな中でも、説得は続いた。一向に、椿と翔の回復は追いつきを見せない。タヱ子も守るべき対象を一点に絞れず、右往左往するばかりだ。
 望みは紫雨が折れてくれること。
 ここ一点のみが頼りであった。椿は必至の声色で。
『貴方の上司や仲間には、この事は伝えないからここは私達に任せてひいて』
『そりゃ助かる。だが「ハイ」たぁ言えねえ』
『貴方は一月の時、私達に財前を任せてくれた。一度、託してくれた』
『そうだなァ』
『私達は、貴方にさえ抗ったわ。大丈夫。財前にも財前の背後に居る人達にだって、私達は好きなようになんてされない。だから私達にまかせてほしい』
『ハッ! 俺様には負けて置いてダイジョウブといえる立場なのかァ?』
 攻撃が吹き荒れた、まずは小唄が倒れた。命数を使い立ち上がり、タヱ子が小唄の守りに入る。
 回復を止められぬ中、翔はやり場のないむしゃくしゃとした気持ちを言葉にするしかなかった。
『なー、お前さ。勝手に外出歩いていいのか? 謹慎中とかなんとか聞いた気がすんだけど』
『駄目だなァ』
『上にバレたらヤバイんじゃね?』
『バレなきゃいいんじゃねェの。バレても八神が俺様を外す訳ねェがなァ』
『それに、あのおっさん殺っちまったら、財産息子に渡ってイレブンが力付けるぞ。それでもいいのかよ?』
『それは……』
 通さぬ。確かに最初から紫雨の班は足止めが目的だ――、小唄もタヱ子も紫雨を掴む腕を止めなかった。
「行かせない、殺させない……!!」
「『妹』が厄病神に狙われています。『兄』に聞きたい事があります」
「頑張ったなァ。そういうの超好きだけど、そろそろ邪魔だから大人しく死にやがれ」
 もう数十秒で紫雨はこの階から逃げ出せる。誰も攻撃せず消耗しない財前兵に、『こちらが味方である』と訴える為の回復を椿は飛ばせず、敵側の人数のほうが圧倒的に多い為に椿は飛ぶことさえ許さない。『友達だから助けたい』その一言が言いたくて、だがそれは個人の都合――紫雨の背中へ腕を伸ばしても彼は彼の目的の為に足を止めることも無い。
 そして財前兵は味方と認識している兵を移動疎外したりはしない。
 小唄とタヱ子が最終防衛ラインであった以上。一階の班が崩れるまで早々時間はかからなかった。


 ツバメが降りてこないというのは財前兵と戦っているからなのであろう。落下制御で飛び降りることが出来なくなったのは痛いが、階段を下りるかエレベーターで降りるか、非常階段を使うかは迷うところだ。
 一階では未だ戦闘の音は聞こえるし、未だ財前は逃げ出せないか諦めていないようだ。財前は壁際に背を張り付けながら叫び、何度も逃げようとしては蕾花が足をかけて転ばせて、そのまま地面を這っていた。
 幽霊男はしかめっ面をしていた。送受心でのやりとりに、紫雨がこちらへ向かっているとの報告が来た為だ。
「やめろおおおおお! 来るなーー!! 俺は、俺はぁぁ!!」
「英雄とは。放たれた矢だ。ヌシ等にゃ解らんろうがな」
「や、東小路財前。漆黒の一月以来……いや、『はじめまして』か?」
「か、金ならやる!! 金はやるから、だから見逃してくれ!!」
「往生際が悪いやつだの」
「見てて胸糞悪くなる。一体お前のせいで一体いくつの不幸が生まれたことか……殺されないだけ、ありがたいと思え!!」
「俺は偉いんだぞ!! ぎゃあ!!」
 蕾花が財前の顔面を一発殴ってから、幽霊男は気絶させんと鳩尾を狙う。だらんと力を失くし、アホ面で倒れた巨体を蕾花は抱えた。さあ、ここからである。紫雨は階段を使ってのぼったらしいから、移動手段はエレベーターか非常階段だ。だがエレベーターが運よくこの階に止まっていることは無く、待っている間に紫雨の眼に触れる可能性もある。それを示唆するようにエレベーターは1階に止まっており、待つのは怖い。1階は財前兵が敵であるが故に、気絶した財前を抱えて持っていったら、完全にファイヴと思われ兵を相手にしなければならない。
 ド真面目に階段を使うのは紫雨と鉢会いバカバカしい。非常階段は逃げる人間でごった返していて、蕾花のワーズワースを使い紛れたら紫雨が追うためだけに邪魔な一般人を大虐殺する恐れはある。下から紫雨が上がって来るのなら上に逃げるが、上にはまだ灯雨がおり、財前を気絶させた状態で持って行っても仕方ない。
 この判断に遅れた為に。
「よお」
「ぐれすけ」
「誰だァそりゃ? 紫雨だ」
「紫雨……お前!!」
「久しぶりな顔を見たなァ。結局FiVEの飼い猫になったのかァ?」
 紫雨と鉢会った。距離は20m、幽霊男と蕾花は財前を庇わない状況だとすると遠距離攻撃ひとつで詰みは発生する。
「そいつの身柄を俺様に寄越せ、さもないと殺す。一階の馬鹿どもがうるさく殺すなっつーからそうしてやるが、灯雨の礼はきっちりする」


 灯雨の刃が縦に駆ける。引き裂かれた刀嗣と亮平の身体に、ついに命数が飛んだ。
 いのりは己の不甲斐なさを呪ったが、回復が無ければもっと早く滑落していたであろう。
 逆に、なかなか倒れぬ敵というものに灯雨は焦っていた。攻撃を乗せても這い上がって来ることに、恐れを感じると共に。
 財前兵の銃撃に、身に穴をあけていく灯雨の身体。痛ましい体からみれば、更に傷をつけてしまうことは亮平もいのりも、刀嗣でさえ良いようには見えない。
 しかしそれでも君臨する灯雨もなかなかにしぶとく倒れずにいた。
 双剣が振るわれるたびに誰かの血が流れ、いのりは叫ぶような、泣きたくなるような思いで精神力を削った。
 だがもはや限界である。まだあと一回、残っているのだがこれは使うことができない一回だ。
「もう、やめてください……」
 いのりは悲痛にも願った。
 亮平の胸も痛んで限界であった。ハンドガンとナイフを握力で壊しかけるほどに力が入っていた。銃口はいつまでも灯雨を狙い続けていたが、トリガーを引く度に心が死ぬ思いがした。
 刀嗣さえ、つまらない、つまらなさすぎる戦いに嫌気がさしてきた。贋作虎徹を持つ手も適当な力が入らない。むしろイライラしてきた。財前もファイヴもクソだと罵りながら、刀は灯雨を鞭打っていた。
「なんで……この人たち戦っているんだろう」
 率直な疑問に財前兵が首をかしげた。その時、階下から補充された兵が剣を持った。敵は灯雨だと指示を受けた。
 灯雨は無表情だ。そこでやっと彼女は声を紡いだ。
「なんで、どうして? どうしてあんなやつの味方をしているの? 気持ち悪い、貴方たち、醜い」
 亮平の中で何かが音をたてて崩れたような気がした。だがそれでも自身を保ち、言うのだ。ここにいる、本当の意味というものを。
「俺もアイツが嫌いで堪らない」
「あのくそ野郎を守ってるとか思われるたぁ死にたくなるな」
「そうではありません灯雨! 最初に言った通り、人を裁くのは法です」
 亮平に続いて言葉は繋がっていく。けど、彼女には通じないことは承知していた。
「……わからない。わからないけど」
 灯雨は笑っていた。
「殺していいことはわかった。やっぱりこの世界おかしいよ、おかしいなら、一回壊せばいndkddレktsケt」
 そこで亮平はハッとした。灯雨の挙動が明らかにおかしい。とっくに戦闘不能になっていい、だが彼女は立ち上がってきた。立ち上がってしまった。
 言語が言語として発せず、瞳は血眼へと変貌していく。
 財前兵も何が起きたかわからず、そして震え始めていた。

「――破綻したら駄目だ!!」

 亮平は叫び、いのりと刀嗣が顔を上げた。
 誘われたのは灯雨の人間としての生死判定。予測不能に陥ったのは破綻の結果。
「テメェは紫雨のとこに返す。だからこんな所で壊れられても、死なれても、この俺様が許さねえ。これ以上イラつかせんなくそが」
「不可能かもしれない。できないかもしれない。偽善と呼ばれようが構わないですわ。出来るか出来ないかではなく、やるかやらないか、それだけ」
 救うことに手加減はしない。閉じ込めていた最大級の力を使って、相手を引きずり戻す。
 彼女が、灯雨が抱えている欠点は己のトラウマとそれを作った財前であり、それを象徴するのが灯雨の無数の傷だ。
 ならばそれを埋めてやるのなら。埋めてやれるのなら。彼女は破綻することも無く、紫雨の後ろをついていく元気な少女に過ぎない。
 一層荒れる屋上を、静かな月が見つめていた。
 その光よりも眩しい、まさに最終手段がいのりと刀嗣から放たれた。

「な、なにを……」
 灯雨は自分の身体を見回した。血色の戻った顔色と、傷は全てとは言わないが塞がり、元の少女へと戻っていた。
「いそごう!!」
「え!?」
 亮平は上着で灯雨を包んでから持ち上げた。あまりにも軽い体のことを思えば頭痛がしそうだ。
「どこへ連れていくつもり!? これ以上なにするつもり!? 感謝なんてしないんですから構わないでくださいよ!」
「紫雨のところへ連れていく。それで紫雨に退いてもらうんだ」
「やめてよ! そんなことしても紫雨様退かないわよ!!?」
 力を使い果たし、荒く息を吐くいのりと刀嗣は先に行けと言う手前で亮平は走り出す。

 ―――結果として、財前の身柄は紫雨に渡った。
 一番混乱していたのは財前兵であっただろう。味方かと思っていたものが敵で、敵だと思っていたものが味方で。だが財前の姿が消えてしまったことに彼らも放浪するしか無くなった。そこにはFiVEへの様々な感情があるだろうが今更終わったことに何か言うものはいなかった。

■シナリオ結果■

失敗

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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