≪教化作戦≫闇の中 家族を狙う死の刃
●新人類教会
新人類教会と呼ばれる組織がある。
表向きは覚者および覚者事件における被害者の保護を理念とし、その為に生活支援や養護施設の経営、関連企業への就職斡旋まで行っている。彼らは覚者を『新人類』と称して、手厚く保護する活動をしていた。
構成員の多くは源素を使えない普通の人で、宗主の指導の元に幅広い活動を行う宗教団体だ。
『新人類はその能力故に旧人類に恐れられ迫害されてもいる。彼らを守り育てる事が教会の使命の一つである』
『新人類を迫害する者達を許してはならない。教会は未来の平和のため自らの身命を賭して新人類の敵と戦うべし』
その理念の元に武装していることもあるが、構成員の多くは武装を持たないただの人である。
だが昨今、教会内は過激化する世情に合わせて武装を強化する『過激派』と、それを止めようとする『穏健派』に分裂してきていた。
そして一月某日。穏健派の『村瀬幸来』を過激派から保護するFiVE。
一時雌伏の時を過ごしていた新人類教会過激派だが、力を蓄えた過激派達がまた活動を開始する。
●FiVE
「ある方からの情報なのですが……どうも新人類教会『過激派』の活動が活発化しているようです」
集まった覚者を前に久方 真由美(nCL2000003)が説明を開始する。
「新人類教会の活動を疑問視しているジャーナリストがいるのですが、その家族が襲撃されます。予知夢でも確認が取れました。襲撃は深夜。遠方で火事を起こし、警察関係者の注意を引いている間に家を襲撃。ジャーナリストと一緒に妻と子供二人を殺害する……という手口です」
度量を押さえて真由美が説明を続ける。卑劣な手口だが、それを口に出したりはしない。冷静に説明することが、今の彼女に出来る戦いなのだ。
「彼らは闇に身をくらます装備をしています。武装自体を最低限にして、最速で『仕事』を済ませるスタイルのようです」
「……待て。新人類教会の目的は『覚者の保護』なんだろう? それがいくら腹を探られてるとはいえ、覚者と覚者の家族を襲うのか?」
覚者の質問に、真由美は首を振って答える。
「はい。ですが襲撃者はそのジャーナリストの素性を知りません。『憤怒者に情報を渡す覚者の敵』『家族も憤怒者の仲間』……と教えられているようです。薬により判断力を低下させ、洗脳に近い処置を施して」
酷い話だ。覚者達は教会のやり口に怒りを覚える。
「……で、この情報を教えてくれたのは誰なんだ?」
「不明です」
は? 予期せぬ答えに覚者達は眉をひそめた。
「新人類教会の関係者なのか、それとも敵対している者なのか。第三者なのか。正体不明の人物からの情報です。
ですが襲撃は事実です。皆様、注意してください」
新人類教会と呼ばれる組織がある。
表向きは覚者および覚者事件における被害者の保護を理念とし、その為に生活支援や養護施設の経営、関連企業への就職斡旋まで行っている。彼らは覚者を『新人類』と称して、手厚く保護する活動をしていた。
構成員の多くは源素を使えない普通の人で、宗主の指導の元に幅広い活動を行う宗教団体だ。
『新人類はその能力故に旧人類に恐れられ迫害されてもいる。彼らを守り育てる事が教会の使命の一つである』
『新人類を迫害する者達を許してはならない。教会は未来の平和のため自らの身命を賭して新人類の敵と戦うべし』
その理念の元に武装していることもあるが、構成員の多くは武装を持たないただの人である。
だが昨今、教会内は過激化する世情に合わせて武装を強化する『過激派』と、それを止めようとする『穏健派』に分裂してきていた。
そして一月某日。穏健派の『村瀬幸来』を過激派から保護するFiVE。
一時雌伏の時を過ごしていた新人類教会過激派だが、力を蓄えた過激派達がまた活動を開始する。
●FiVE
「ある方からの情報なのですが……どうも新人類教会『過激派』の活動が活発化しているようです」
集まった覚者を前に久方 真由美(nCL2000003)が説明を開始する。
「新人類教会の活動を疑問視しているジャーナリストがいるのですが、その家族が襲撃されます。予知夢でも確認が取れました。襲撃は深夜。遠方で火事を起こし、警察関係者の注意を引いている間に家を襲撃。ジャーナリストと一緒に妻と子供二人を殺害する……という手口です」
度量を押さえて真由美が説明を続ける。卑劣な手口だが、それを口に出したりはしない。冷静に説明することが、今の彼女に出来る戦いなのだ。
「彼らは闇に身をくらます装備をしています。武装自体を最低限にして、最速で『仕事』を済ませるスタイルのようです」
「……待て。新人類教会の目的は『覚者の保護』なんだろう? それがいくら腹を探られてるとはいえ、覚者と覚者の家族を襲うのか?」
覚者の質問に、真由美は首を振って答える。
「はい。ですが襲撃者はそのジャーナリストの素性を知りません。『憤怒者に情報を渡す覚者の敵』『家族も憤怒者の仲間』……と教えられているようです。薬により判断力を低下させ、洗脳に近い処置を施して」
酷い話だ。覚者達は教会のやり口に怒りを覚える。
「……で、この情報を教えてくれたのは誰なんだ?」
「不明です」
は? 予期せぬ答えに覚者達は眉をひそめた。
「新人類教会の関係者なのか、それとも敵対している者なのか。第三者なのか。正体不明の人物からの情報です。
ですが襲撃は事実です。皆様、注意してください」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.『過激派』六名の打破
2.『過激派』を一人でも家の中に侵入させない
3.1と2、両方成立させて成功です
2.『過激派』を一人でも家の中に侵入させない
3.1と2、両方成立させて成功です
新人類教会の詳細は禾STの『思想の毒』『思想の綻び』参照。
●敵情報
・過激派(×6)
新人類教会の教団員です。源素を持たない一般人。憤怒者と言ってもいいです。
闇に紛れるように黒いスーツを着て、消音用の装備をしています。襲撃が予想されていると思っていないため、装備も最低限です。
彼らは敵陣を突破して、家の中に入ることを優先的にして行動します。
攻撃方法
ナイフ 物近単 手にしたナイフで切りかかってきます。
催涙スプレー 特近単 特殊な薬品を配合したスプレーです。〔ダメージ0〕〔麻痺〕
暗視ゴーグル P 闇の中でも問題なく活動可能です。過剰な光を受けても問題なし。
●NPC
・田上一家
ジャーナリストの田上徹とその妻、そして子供が二人。何もなければ家で寝ています。
連絡自体は可能ですが、その間も時間は流れます。戦闘力は皆無です。
●場所情報
戦場は田上家の『正面』と『裏門』の二つ。
時刻は深夜。明かりが無ければ相応のペナルティを受けます。足場と広さは影響なし。人が来る可能性は皆無です。
田上家の『正門』と『裏門』の二ヶ所から過激派は侵入してきます。その為、戦力を二分する必要があります。
互いの距離は離れている(目視は不可能)ため、源素による支援は別戦場には届きません。別戦場に移動するには全力移動で1ターン必要です。
戦闘開始時、両戦場の敵前衛に『過激派(×3)』がいます。味方後衛を突破されれば、家の中に侵入されたものとします。
またプレイングに初期の戦場を明記していない場合、STが適当な場所に配置しますのでご注意を。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年05月02日
2016年05月02日
■メイン参加者 8人■

●
深夜、虫の鳴き声すら聞こえない闇の中。
八人の覚者が二組に分かれて一つの家の正門と裏門に陣取っていた。
迫るは覚者を擁護する『新人類教会』……彼らはその中でも『覚者を守るために武装を強化すべき』と主張する者達。その思想は『自らの敵を滅ぼすのに躊躇するな』と変化する。例えば、自分達を調べるジャーナリストとその家族に。
そしてその正門側に陣するのは。
「相手が誰であれ、家族を襲撃するなんて、させられません」
上月・里桜(CL2001274)が守護使役が伝えてくれた方向を見る。普段は穏やかな里桜だが、今回の事件には立腹していた。今回の襲撃にも裏があるのではないだろうか。言葉なく、深い闇を見ていた。闇を見る瞳ですら見通せぬ、人の闇を。
「……なぜ、極端な考えしかできないのだろうか」
『落涙朱華』志賀 行成(CL2000352)は、新人類教会の所業を嘆くように呟く。彼らの思想は立派なのに、その理想を元に行動してこうなるのはなぜだろうか。人はみな平等であるべきなのに。……それこそが、かなうことのない理想なのだろうか。
「覚者の立場を何とかしたい……その理由はわかるしありがたい事だわ」
でも無理矢理っていうのはいただけない。春野 桜(CL2000257)は神具を手にして頷く。能力の有無で差別されて、命のやり取りが起きる社会。誰かが動かなければ、どちらかが果てるまで血は流れ続けるだろう。
「洗脳とか暗殺とか私、大嫌いデスヨ!」
いきり立つ『『恋路の守護者』』リーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)。新人類教会の行動に腹を立てているようだ。だが今回の襲撃が露見したことは僥倖と言えよう。悪辣な相手に鉄槌を下すことができるのだから。
そして裏門では。
「シューキョーってやつは意味わかんねぇな」
どうでもいい、と言いたげに『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)はため息をついた。覚者がどうだとか、そういったことに刀嗣は興味を持たない。強い奴がいるかどうか。刀嗣はそれ以外に興味を持てなかった。
「そうですか? 僕は興味がありますよ。宗教に依る心の動きは特に」
『名も無きエキストラ』エヌ・ノウ・ネイム(CL2000446)の興味は人間の本音を聞くことである。人が宗教に依存し、その結果何を行うか。それは彼にとって非常に興味のある事だった。新人類教会の思想よりもずっと。
「ここで止めるわ。必ず」
凛とした表情で三島 椿(CL2000061)がやるべきことを口にする。覚醒に伴い青い翼が広がり、夜の色をした髪がふわりと宙に浮かぶ。新人類教会の思想は決して悪くはない。だが彼らのやろうとしていることは止めなくては。
「みなさ~ん、そろそろ来ますよ」
と小声で告げるのは阿久津 ほのか(CL2001276)。闇を見通す瞳で、迫ってくる新人類教会の存在を視認していた。自分達の目的の為に団員を洗脳し、そして人殺しまでさせる。そのような事を許すことはできなかった。
全身を黒いスーツで包み、黒い目だし帽をつけた教団員。夜の行動を意識した黒ずくめの暗殺者。それが正門と裏門に三人ずつ現れる。彼らも覚者の存在を認識し、武装して踏み込んでくる。
迫ってくる教団員に、覚者達は恐れることなく神具を向けた。
●
「殺しましょう殺しましょう。幸せな家族が壊される前に」
最初に動いたのは桜だ。右手に包丁。左手に斧。二つの神具を手にして、迫る教団員に向かって歩く。闇の中、自ら光を放つ桜は覚者側の光源である。その光が照らす黒の暗殺者。それに向かい刃を向ける。
共に戦う覚者に向けて、かぐわしい香を振りまく。心穏やかになる香を放ちながら、桜は迫る教団員に対し刃を振るう。そして包丁と斧に源素を使って生み出した毒を塗りつけ、笑みを浮かべながら毒の刃を振るう。
「敵はクズは殺しましょう。私達の為にも殺しましょう」
「過剰な殺害はやめてほしい。今後の為にも」
桜の言動に釘を刺すように行成が告げる。人が死ぬのは見たくない。切実な思いと共に言葉を放つ。それは情報をオープン化したFiVEと言う組織の体面もある。だが行成自身がそう言った行為に耐えられないという側面もあった。
気分を切り替え、戦場に意識を向ける。前世との繋がりを強化して身体能力を高め、腕に巻き付けた懐中電灯と聴覚を頼りに敵を追う。七人の入り混じりあう音から、敵の物を聞き分けて薙刀を振るう。確かな手ごたえと共に、ぐもった男の声が耳に届く。
「ここから先には通すわけにはいかない。お引き取り願おうか」
「そう言われて退くような理性があるなら、こういうことはしていないでしょう」
言ってため息をつく里桜。何処か斜に構える里桜。洗脳による思想統一。激しく興奮した肉体は、理性を溶かし常識を失わせる。門の間に立ち、迫る教団員を見据える。戦いは得意ではないけれど、それでもやらなければならない事がある。
里桜は土の源素を活性化させ、土の壁を形成する。前衛を突破した相手を迎え撃つための砦の一つ。そして次は前に立つ仲間に。形成された土の壁は教団員のナイフを受けて、前衛で戦う仲間を守る。仲間を脅威から守る。これも一つの戦い。
「それにしても……この襲撃を伝えてくれた人は一体……?」
「それを考えるのは後にするデース! 油断すると反撃されるネー!」
思考する里桜に、リーネが応じる。確かに今は思考を推理に咲いている余裕はない。相手はこちらを突破しようとしている。そして一人でも突破を許せば、待っているのは惨劇なのだ。一瞬の油断が瓦解への一歩となる。
体内の土の源素を展開し、自らの周りに土の防壁を生み出すリーネ。一つは大地の温もりから体を癒す鎧。一つは攻めてきた相手にいくばくかの反撃を行う盾。攻めるのではなく護る。この戦いのキモを押さえたリーネの戦略。
「突破はさせないデスヨ! カモーン!」
そして裏門では。
「くだらねぇよなぁ。発現がどうとかで価値が決まると思ってる雑魚どもがよぉ」
『贋作虎徹』を振るい、教団員を相手する刀嗣。守護使役に炎を吐かせて灯りを作りながら、その明かりに照らされた教団員を狙ってこうで記していた。幼き頃から培ってきた剣術。体に染みついた動きのまま、刃を振るう。
魂の炎を熱く燃え上がらせる。熱く熱く、赤く燃え上がるほど熱く。そのエネルギーが体内を駆け巡り、その力が体を活性化させる。振るわれた刀は二閃。無造作な振りかぶりに見える動きは、しかし『斬る』という動作の余分を省いた動きでもあった。
「内輪揉めなんざ知ったこっちゃねぇが、気持ち悪ぃ虫が部屋に出たら潰しとかねえと気持よく寝れねえんでな」
「こ、殺さないでくださいよ~」
刀嗣の乱暴な口調に少し怯えるように忠告するほのか。新人類教会を構成する人間は、けして悪人ばかりではない。本心で覚者を擁護したいという人間もいるのだ。そう言った人達と対立しないためにも、ここで殺すのはよろしくない。
ほのかは迫る教団員を前に神具を構える。ここは通さないと目で訴えながら、手のひらに土の源素を集める。拳の範囲に入った教団員に向かい踏み込み、真っ直ぐに拳を突き出す。土に包まれ強化された拳の一撃が、教団員を打つ。
「はふぅ……死にたくなければ、大人しく投降してください」
「それはあまり面白くない結末ですね……おおっと、失礼」
言って口元を覆うエヌ。説得に応じて心を改める。それはよき終わりの一つと言えよう。だがそれは面白くない。理性を超越した魂からの声。勝利を確信した者が奈落に突き落とされる声。エヌはそれを求めていた。
夜を見通す瞳で戦場を見通し、エヌは教団員の視界を奪う霧を発生させる。相手がこちらの術式に足を止めている間に、手のひらに雷を集める。収縮した稲光が爆ぜたのは刹那。解き放たれた稲妻は並ぶ教団員を一斉に焼き払う。
「いい『声』をあげてくださいね」
「急いで一人を倒して、前衛に余裕を作りましょう」
前衛二人に後衛二人。椿はそんな裏門側の状況から、敵の数を減らすことを憂慮していた。前衛二人では一人を通してしまう。突破してきた教団者は後ろの二人で止めるとはいえ、突破の可能性を低くしておくに越したことはない。
覚醒し、翼を動かす椿。両の瞳と同じ青色の翼が、夜を染めるように大きく広がる。左右対称に翼を広げた状態で手をかざし、その先に水の源素を集める。水は小さく鋭く収縮され、高密度の水の弾丸となって教団員を穿つ。
「本来ならばこのような事はしない人達なのかも知れない。でも……」
教団員の凶行。それはもしかしたらただ『覚者を守りたい』だけの思想が暴走しているだけなのかもしれない。だが、今はそれを憂いてる余裕はない。ここで彼らを止めなければ、取り返しに憑かない事態になるのだから。
投げかけられる言葉に無言でナイフを振るう教団員。刃に徹する人間相手に、覚者達は神具を掲げて戦う。
●
戦いは激化する。覚者がそうするように、教団員も狙いを一人に絞って攻めていた。
「ふふふふふふ。殺すわすぐに殺すわ必ず殺すわ」
正門では桜が教団員のナイフに膝をつく。痛みが体を駆け巡っているが、それでも笑みを浮かべながら神具を振るう。
「群れる事しかできない害虫が……! うざってぇ!」
そして裏門では刀嗣が凶刃に胸を裂かれる。執拗に自分を狙ってくる刃を避けきれず、刃の到達を許してしまった。
「そうか。光源を消そうとしているのね」
「いやはや。涙ぐましい努力ですね」
教団員の狙いを看破する椿とエヌ。戦場を照らす明かりが消えれば、戦局は幾分か教団員に有利になる。その為正門の教団員は桜を、裏門の教団員は刀嗣を狙っていた。数を減らすという意味でも集中砲火は効果的だ。
「ワァーオ! 麻痺スプレー怖くないデスネ!」
リーネは桜の施した麻痺を封じる香により、教団員の麻痺スプレーに耐えていた。高い防御力を有するリーネは、教団員のナイフはさほど脅威にはならない。仲間を癒しながら、水の竜を形成し並ぶ教団員を一気に薙ぎ払う。
「家の者たちの命は決して奪わせない」
薙刀を握りしめて行成が教団員達に告げる。死んだ人間は蘇らない。その事実は恋人を失った行成は痛いほど理解している。例え組織に不利益をもたらす存在だろうと、殺していいはずがないのだ。その思いを込めて、薙刀を振るう。
「火力は弱いけど、援護します」
前衛に土の壁を重ね終わった里桜は、前衛で戦う覚者の援護とばかりに術符を放つ。源素を含まない投擲だが、里桜の能力の高さが威力を後押しする。遠距離攻撃ができる源素の技があればさらに高い威力を叩き込めたが、仕方のない事か。
「敵は殺す殺すわ殺しましょうあははそうよ私達の為にも死んでよ」
笑いながら植物の蔓を鞭状にして振るう桜。クズに生きる価値はない。クズに呼吸をする権利はない。彼らは世界のゴミだ。だから殺そう。その方がいいに決まってる。今倒した教団員も殺そう。すぐ殺そう。積極的に殺そう。源素を使って巻き込んでしまえば――
「――何をするの?」
桜は倒れた教団員を引っ張って自陣に引き入れる行成に問いかける。敵に攻撃するついでにトドメをさそうとしたが、これではそれができない。
「誰も殺させはしない。それは教団員もだ」
桜と行成は一瞬睨みあい、しかし任務が先とばかりに視線を戦場に向ける。
「そろそろ眠る時間ですよ」
エヌは頃合いを見計らって、眠りをもたらすガスを発生させ、教団員を眠りに誘う。睡魔で動きが鈍る教団員。さすがに捕縛できるほど眠らせるには至らないが、それでも攻めを遅らせることに成功する。
「攻撃に回れそうにないわね……っ」
椿は教団員のナイフに傷つく仲間の回復に手いっぱいだった。水の源素を滴に変えて、仲間の傷に落とす。清らかな傷が消毒され、熱を持った痛みが引いていく。完全に傷を癒したわけではないが、それでも楽にはなった。
「これで終わりだ。とっとと死ね、雑魚が」
刀嗣が刀を振るい、教団員の一人を地に伏す。刀を肩に担ぎ、次の相手を探した。乱暴な言葉を投げかけてはいるが、とどめを刺すつもりはない。ゆらりゆらりと立ちながら、教団員を見ながら闘争意識を高めていく。
「次は……こっちですっ」
エヌが眠りに誘った相手を避けるように、ほのかは土の源素を振るう。凝縮して堅く固めた土の拳。それを教団員に振るう。殺すつもりはない。だが、加減をしている余裕はない。一手間違えればそれだけ追いつめられる。それだけの気迫が彼らにはあった。
一般人と覚者を比べれば、覚者の方が能力が高い。
だが能力の差は、圧倒的な勝利を約束するものではなかった。洗脳されているとはいえ、教団員が抱く精神的な支柱は鬼気迫るものがあった。
「殺す殺す死…………え?」
「雑魚以下のゴミクズの分際で……!」
その気迫が相手を見下す覚者を上回ったか、それとも単純な集中砲火の結果か。教団員のナイフは桜と刀嗣の意識を絶つ。正門と裏門の両方で、明かりが消える。これにより闇対策装備をしていた教団員が有利になる。だが、
「僕には意味がありませんよ。貴方達の姿は見えています」
「痛いの行きますよ~」
闇を見通せる術を持つのは教団員だけではなかった。エヌ、ほのか、そして里桜がしっかりと教団員の姿を見ていた。懐中電灯を持つ行成、椿、リーネも彼らを照らしながらなんとか戦うことができる。
こうなれば教団員に勝機はない。覚者の攻撃の前に、押されてゆくのみ。
「これで終わりだ。お前達は法に裁いてもらう」
行成が正門の最後の教団員を倒す。正門の覚者が裏門に応援に駆け付ければ、
「お終いです! 大人しく縛についてください」
応援に駆け付けた覚者達が見たのは、ほのかの一撃が最後の教団員を伏した場面だった。
●
戦闘不能になった教団員を縛り上げる覚者達。武装を解除し、目出し帽をとる。
しばらくすれば気づいた教団員だが、縛られていることに気づくとだんまりを決め込んだ。
「拷問にかけましょう」
「やめておけ。色々面倒なことになる」
桜の行動を止める覚者達。活動を公開している組織が捕虜の拷問を行ったことが発覚すれば、社会的なダメージは大きい。あら残念、と桜はあっさり手を引いた。
「殺しはしない。罪を償ってもらう」
「意識が戻った時に自殺されたりしないようにした方がいいかもしれませんね」
行成が教団員にそう告げる。洗脳により罪の意識が薄れているのか、鋭い瞳で睨み返す彼ら。その様子を憂慮して里桜が猿ぐつわを用意する。下を構えて自殺しないように、その口を封じていく。
「これでこちらは一件落着デスネー。あと家の人はドウシマス?」
リーネが一件落着、とばかりに頷いた。その視線の先には覚者が守ったジャーナリストの家。そこに住む家族をどうするか。このまま帰っても支障はない。だが、今後の事を考えると何もしないのも問題ではないだろうか。
「では僕が伝えてきましょう」
「――って、待つデスネ」
「ん? どうしました?」
リーネは物質透過を使って家の中に侵入しようとしていたエヌを、掴んで静止する。
「家の前でトタバタしたから中の人は警戒してるネ。そこに壁をすり抜けて入ったら襲撃者と判断されて襲われても文句は言えないデスヨ」
「ああ、確かに」
襲撃の有無を無しにしても、物質透過での侵入は不法侵入である。エヌも状況をややこしくしてまでして、中に入りたいわけではない。
「逆にここまで騒いで出てこないという事は、中で警戒している証拠なのかもしれませんね」
出来れば危険は伝えたいのですけど。ほのかは唇に指をあてて、悩むように唸る。新人類教会の事を調べ続ければ、今回以上の危険に巻き込まれる可能性はある。そうなる前に身を引いてほしいのだが。
「そうね。匿名の手紙と言う形で伝えるのはどうかしら?」
椿は用意していた手紙を懐から出す。今回の襲撃の件をまとめた文章が書かれてある。これを見てどうするかは本人次第だが、家族が共に狙われる以上は無茶なことはしないだろう。新人類教会が一度であきらめるとは限らないのだから。
「用が済んだのなら帰るぜ。この害虫共を連れて帰るんだろう?」
刀嗣は縛られた教団員を引きずりながら、撤退を促す。やるべきことが終われば素早く帰る。元より宗教ごとに興味はない。教団員を運びながら、気だるげに欠伸をした。
他の覚者達も刀嗣についていくように帰路につく。
洗脳されていた教団員が知っていることは、そう多くなかった。
自分達が洗脳を受けていた場所と、教団員が戦う理由程度だ。
『どこかの敵組織に浚われた村瀬幸来を取り戻すため、めぼしい組織を襲撃する』……だがこれは、下っ端が知っている名目上の理由だろう。本当の理由はもっと別の所にあるはずだ。それが何なのかは、杳として知れなかった。
新人類教会。社会から覚者を擁護しようとする団体。
その思想は高く、しかしその中にある闇は深い――
深夜、虫の鳴き声すら聞こえない闇の中。
八人の覚者が二組に分かれて一つの家の正門と裏門に陣取っていた。
迫るは覚者を擁護する『新人類教会』……彼らはその中でも『覚者を守るために武装を強化すべき』と主張する者達。その思想は『自らの敵を滅ぼすのに躊躇するな』と変化する。例えば、自分達を調べるジャーナリストとその家族に。
そしてその正門側に陣するのは。
「相手が誰であれ、家族を襲撃するなんて、させられません」
上月・里桜(CL2001274)が守護使役が伝えてくれた方向を見る。普段は穏やかな里桜だが、今回の事件には立腹していた。今回の襲撃にも裏があるのではないだろうか。言葉なく、深い闇を見ていた。闇を見る瞳ですら見通せぬ、人の闇を。
「……なぜ、極端な考えしかできないのだろうか」
『落涙朱華』志賀 行成(CL2000352)は、新人類教会の所業を嘆くように呟く。彼らの思想は立派なのに、その理想を元に行動してこうなるのはなぜだろうか。人はみな平等であるべきなのに。……それこそが、かなうことのない理想なのだろうか。
「覚者の立場を何とかしたい……その理由はわかるしありがたい事だわ」
でも無理矢理っていうのはいただけない。春野 桜(CL2000257)は神具を手にして頷く。能力の有無で差別されて、命のやり取りが起きる社会。誰かが動かなければ、どちらかが果てるまで血は流れ続けるだろう。
「洗脳とか暗殺とか私、大嫌いデスヨ!」
いきり立つ『『恋路の守護者』』リーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)。新人類教会の行動に腹を立てているようだ。だが今回の襲撃が露見したことは僥倖と言えよう。悪辣な相手に鉄槌を下すことができるのだから。
そして裏門では。
「シューキョーってやつは意味わかんねぇな」
どうでもいい、と言いたげに『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)はため息をついた。覚者がどうだとか、そういったことに刀嗣は興味を持たない。強い奴がいるかどうか。刀嗣はそれ以外に興味を持てなかった。
「そうですか? 僕は興味がありますよ。宗教に依る心の動きは特に」
『名も無きエキストラ』エヌ・ノウ・ネイム(CL2000446)の興味は人間の本音を聞くことである。人が宗教に依存し、その結果何を行うか。それは彼にとって非常に興味のある事だった。新人類教会の思想よりもずっと。
「ここで止めるわ。必ず」
凛とした表情で三島 椿(CL2000061)がやるべきことを口にする。覚醒に伴い青い翼が広がり、夜の色をした髪がふわりと宙に浮かぶ。新人類教会の思想は決して悪くはない。だが彼らのやろうとしていることは止めなくては。
「みなさ~ん、そろそろ来ますよ」
と小声で告げるのは阿久津 ほのか(CL2001276)。闇を見通す瞳で、迫ってくる新人類教会の存在を視認していた。自分達の目的の為に団員を洗脳し、そして人殺しまでさせる。そのような事を許すことはできなかった。
全身を黒いスーツで包み、黒い目だし帽をつけた教団員。夜の行動を意識した黒ずくめの暗殺者。それが正門と裏門に三人ずつ現れる。彼らも覚者の存在を認識し、武装して踏み込んでくる。
迫ってくる教団員に、覚者達は恐れることなく神具を向けた。
●
「殺しましょう殺しましょう。幸せな家族が壊される前に」
最初に動いたのは桜だ。右手に包丁。左手に斧。二つの神具を手にして、迫る教団員に向かって歩く。闇の中、自ら光を放つ桜は覚者側の光源である。その光が照らす黒の暗殺者。それに向かい刃を向ける。
共に戦う覚者に向けて、かぐわしい香を振りまく。心穏やかになる香を放ちながら、桜は迫る教団員に対し刃を振るう。そして包丁と斧に源素を使って生み出した毒を塗りつけ、笑みを浮かべながら毒の刃を振るう。
「敵はクズは殺しましょう。私達の為にも殺しましょう」
「過剰な殺害はやめてほしい。今後の為にも」
桜の言動に釘を刺すように行成が告げる。人が死ぬのは見たくない。切実な思いと共に言葉を放つ。それは情報をオープン化したFiVEと言う組織の体面もある。だが行成自身がそう言った行為に耐えられないという側面もあった。
気分を切り替え、戦場に意識を向ける。前世との繋がりを強化して身体能力を高め、腕に巻き付けた懐中電灯と聴覚を頼りに敵を追う。七人の入り混じりあう音から、敵の物を聞き分けて薙刀を振るう。確かな手ごたえと共に、ぐもった男の声が耳に届く。
「ここから先には通すわけにはいかない。お引き取り願おうか」
「そう言われて退くような理性があるなら、こういうことはしていないでしょう」
言ってため息をつく里桜。何処か斜に構える里桜。洗脳による思想統一。激しく興奮した肉体は、理性を溶かし常識を失わせる。門の間に立ち、迫る教団員を見据える。戦いは得意ではないけれど、それでもやらなければならない事がある。
里桜は土の源素を活性化させ、土の壁を形成する。前衛を突破した相手を迎え撃つための砦の一つ。そして次は前に立つ仲間に。形成された土の壁は教団員のナイフを受けて、前衛で戦う仲間を守る。仲間を脅威から守る。これも一つの戦い。
「それにしても……この襲撃を伝えてくれた人は一体……?」
「それを考えるのは後にするデース! 油断すると反撃されるネー!」
思考する里桜に、リーネが応じる。確かに今は思考を推理に咲いている余裕はない。相手はこちらを突破しようとしている。そして一人でも突破を許せば、待っているのは惨劇なのだ。一瞬の油断が瓦解への一歩となる。
体内の土の源素を展開し、自らの周りに土の防壁を生み出すリーネ。一つは大地の温もりから体を癒す鎧。一つは攻めてきた相手にいくばくかの反撃を行う盾。攻めるのではなく護る。この戦いのキモを押さえたリーネの戦略。
「突破はさせないデスヨ! カモーン!」
そして裏門では。
「くだらねぇよなぁ。発現がどうとかで価値が決まると思ってる雑魚どもがよぉ」
『贋作虎徹』を振るい、教団員を相手する刀嗣。守護使役に炎を吐かせて灯りを作りながら、その明かりに照らされた教団員を狙ってこうで記していた。幼き頃から培ってきた剣術。体に染みついた動きのまま、刃を振るう。
魂の炎を熱く燃え上がらせる。熱く熱く、赤く燃え上がるほど熱く。そのエネルギーが体内を駆け巡り、その力が体を活性化させる。振るわれた刀は二閃。無造作な振りかぶりに見える動きは、しかし『斬る』という動作の余分を省いた動きでもあった。
「内輪揉めなんざ知ったこっちゃねぇが、気持ち悪ぃ虫が部屋に出たら潰しとかねえと気持よく寝れねえんでな」
「こ、殺さないでくださいよ~」
刀嗣の乱暴な口調に少し怯えるように忠告するほのか。新人類教会を構成する人間は、けして悪人ばかりではない。本心で覚者を擁護したいという人間もいるのだ。そう言った人達と対立しないためにも、ここで殺すのはよろしくない。
ほのかは迫る教団員を前に神具を構える。ここは通さないと目で訴えながら、手のひらに土の源素を集める。拳の範囲に入った教団員に向かい踏み込み、真っ直ぐに拳を突き出す。土に包まれ強化された拳の一撃が、教団員を打つ。
「はふぅ……死にたくなければ、大人しく投降してください」
「それはあまり面白くない結末ですね……おおっと、失礼」
言って口元を覆うエヌ。説得に応じて心を改める。それはよき終わりの一つと言えよう。だがそれは面白くない。理性を超越した魂からの声。勝利を確信した者が奈落に突き落とされる声。エヌはそれを求めていた。
夜を見通す瞳で戦場を見通し、エヌは教団員の視界を奪う霧を発生させる。相手がこちらの術式に足を止めている間に、手のひらに雷を集める。収縮した稲光が爆ぜたのは刹那。解き放たれた稲妻は並ぶ教団員を一斉に焼き払う。
「いい『声』をあげてくださいね」
「急いで一人を倒して、前衛に余裕を作りましょう」
前衛二人に後衛二人。椿はそんな裏門側の状況から、敵の数を減らすことを憂慮していた。前衛二人では一人を通してしまう。突破してきた教団者は後ろの二人で止めるとはいえ、突破の可能性を低くしておくに越したことはない。
覚醒し、翼を動かす椿。両の瞳と同じ青色の翼が、夜を染めるように大きく広がる。左右対称に翼を広げた状態で手をかざし、その先に水の源素を集める。水は小さく鋭く収縮され、高密度の水の弾丸となって教団員を穿つ。
「本来ならばこのような事はしない人達なのかも知れない。でも……」
教団員の凶行。それはもしかしたらただ『覚者を守りたい』だけの思想が暴走しているだけなのかもしれない。だが、今はそれを憂いてる余裕はない。ここで彼らを止めなければ、取り返しに憑かない事態になるのだから。
投げかけられる言葉に無言でナイフを振るう教団員。刃に徹する人間相手に、覚者達は神具を掲げて戦う。
●
戦いは激化する。覚者がそうするように、教団員も狙いを一人に絞って攻めていた。
「ふふふふふふ。殺すわすぐに殺すわ必ず殺すわ」
正門では桜が教団員のナイフに膝をつく。痛みが体を駆け巡っているが、それでも笑みを浮かべながら神具を振るう。
「群れる事しかできない害虫が……! うざってぇ!」
そして裏門では刀嗣が凶刃に胸を裂かれる。執拗に自分を狙ってくる刃を避けきれず、刃の到達を許してしまった。
「そうか。光源を消そうとしているのね」
「いやはや。涙ぐましい努力ですね」
教団員の狙いを看破する椿とエヌ。戦場を照らす明かりが消えれば、戦局は幾分か教団員に有利になる。その為正門の教団員は桜を、裏門の教団員は刀嗣を狙っていた。数を減らすという意味でも集中砲火は効果的だ。
「ワァーオ! 麻痺スプレー怖くないデスネ!」
リーネは桜の施した麻痺を封じる香により、教団員の麻痺スプレーに耐えていた。高い防御力を有するリーネは、教団員のナイフはさほど脅威にはならない。仲間を癒しながら、水の竜を形成し並ぶ教団員を一気に薙ぎ払う。
「家の者たちの命は決して奪わせない」
薙刀を握りしめて行成が教団員達に告げる。死んだ人間は蘇らない。その事実は恋人を失った行成は痛いほど理解している。例え組織に不利益をもたらす存在だろうと、殺していいはずがないのだ。その思いを込めて、薙刀を振るう。
「火力は弱いけど、援護します」
前衛に土の壁を重ね終わった里桜は、前衛で戦う覚者の援護とばかりに術符を放つ。源素を含まない投擲だが、里桜の能力の高さが威力を後押しする。遠距離攻撃ができる源素の技があればさらに高い威力を叩き込めたが、仕方のない事か。
「敵は殺す殺すわ殺しましょうあははそうよ私達の為にも死んでよ」
笑いながら植物の蔓を鞭状にして振るう桜。クズに生きる価値はない。クズに呼吸をする権利はない。彼らは世界のゴミだ。だから殺そう。その方がいいに決まってる。今倒した教団員も殺そう。すぐ殺そう。積極的に殺そう。源素を使って巻き込んでしまえば――
「――何をするの?」
桜は倒れた教団員を引っ張って自陣に引き入れる行成に問いかける。敵に攻撃するついでにトドメをさそうとしたが、これではそれができない。
「誰も殺させはしない。それは教団員もだ」
桜と行成は一瞬睨みあい、しかし任務が先とばかりに視線を戦場に向ける。
「そろそろ眠る時間ですよ」
エヌは頃合いを見計らって、眠りをもたらすガスを発生させ、教団員を眠りに誘う。睡魔で動きが鈍る教団員。さすがに捕縛できるほど眠らせるには至らないが、それでも攻めを遅らせることに成功する。
「攻撃に回れそうにないわね……っ」
椿は教団員のナイフに傷つく仲間の回復に手いっぱいだった。水の源素を滴に変えて、仲間の傷に落とす。清らかな傷が消毒され、熱を持った痛みが引いていく。完全に傷を癒したわけではないが、それでも楽にはなった。
「これで終わりだ。とっとと死ね、雑魚が」
刀嗣が刀を振るい、教団員の一人を地に伏す。刀を肩に担ぎ、次の相手を探した。乱暴な言葉を投げかけてはいるが、とどめを刺すつもりはない。ゆらりゆらりと立ちながら、教団員を見ながら闘争意識を高めていく。
「次は……こっちですっ」
エヌが眠りに誘った相手を避けるように、ほのかは土の源素を振るう。凝縮して堅く固めた土の拳。それを教団員に振るう。殺すつもりはない。だが、加減をしている余裕はない。一手間違えればそれだけ追いつめられる。それだけの気迫が彼らにはあった。
一般人と覚者を比べれば、覚者の方が能力が高い。
だが能力の差は、圧倒的な勝利を約束するものではなかった。洗脳されているとはいえ、教団員が抱く精神的な支柱は鬼気迫るものがあった。
「殺す殺す死…………え?」
「雑魚以下のゴミクズの分際で……!」
その気迫が相手を見下す覚者を上回ったか、それとも単純な集中砲火の結果か。教団員のナイフは桜と刀嗣の意識を絶つ。正門と裏門の両方で、明かりが消える。これにより闇対策装備をしていた教団員が有利になる。だが、
「僕には意味がありませんよ。貴方達の姿は見えています」
「痛いの行きますよ~」
闇を見通せる術を持つのは教団員だけではなかった。エヌ、ほのか、そして里桜がしっかりと教団員の姿を見ていた。懐中電灯を持つ行成、椿、リーネも彼らを照らしながらなんとか戦うことができる。
こうなれば教団員に勝機はない。覚者の攻撃の前に、押されてゆくのみ。
「これで終わりだ。お前達は法に裁いてもらう」
行成が正門の最後の教団員を倒す。正門の覚者が裏門に応援に駆け付ければ、
「お終いです! 大人しく縛についてください」
応援に駆け付けた覚者達が見たのは、ほのかの一撃が最後の教団員を伏した場面だった。
●
戦闘不能になった教団員を縛り上げる覚者達。武装を解除し、目出し帽をとる。
しばらくすれば気づいた教団員だが、縛られていることに気づくとだんまりを決め込んだ。
「拷問にかけましょう」
「やめておけ。色々面倒なことになる」
桜の行動を止める覚者達。活動を公開している組織が捕虜の拷問を行ったことが発覚すれば、社会的なダメージは大きい。あら残念、と桜はあっさり手を引いた。
「殺しはしない。罪を償ってもらう」
「意識が戻った時に自殺されたりしないようにした方がいいかもしれませんね」
行成が教団員にそう告げる。洗脳により罪の意識が薄れているのか、鋭い瞳で睨み返す彼ら。その様子を憂慮して里桜が猿ぐつわを用意する。下を構えて自殺しないように、その口を封じていく。
「これでこちらは一件落着デスネー。あと家の人はドウシマス?」
リーネが一件落着、とばかりに頷いた。その視線の先には覚者が守ったジャーナリストの家。そこに住む家族をどうするか。このまま帰っても支障はない。だが、今後の事を考えると何もしないのも問題ではないだろうか。
「では僕が伝えてきましょう」
「――って、待つデスネ」
「ん? どうしました?」
リーネは物質透過を使って家の中に侵入しようとしていたエヌを、掴んで静止する。
「家の前でトタバタしたから中の人は警戒してるネ。そこに壁をすり抜けて入ったら襲撃者と判断されて襲われても文句は言えないデスヨ」
「ああ、確かに」
襲撃の有無を無しにしても、物質透過での侵入は不法侵入である。エヌも状況をややこしくしてまでして、中に入りたいわけではない。
「逆にここまで騒いで出てこないという事は、中で警戒している証拠なのかもしれませんね」
出来れば危険は伝えたいのですけど。ほのかは唇に指をあてて、悩むように唸る。新人類教会の事を調べ続ければ、今回以上の危険に巻き込まれる可能性はある。そうなる前に身を引いてほしいのだが。
「そうね。匿名の手紙と言う形で伝えるのはどうかしら?」
椿は用意していた手紙を懐から出す。今回の襲撃の件をまとめた文章が書かれてある。これを見てどうするかは本人次第だが、家族が共に狙われる以上は無茶なことはしないだろう。新人類教会が一度であきらめるとは限らないのだから。
「用が済んだのなら帰るぜ。この害虫共を連れて帰るんだろう?」
刀嗣は縛られた教団員を引きずりながら、撤退を促す。やるべきことが終われば素早く帰る。元より宗教ごとに興味はない。教団員を運びながら、気だるげに欠伸をした。
他の覚者達も刀嗣についていくように帰路につく。
洗脳されていた教団員が知っていることは、そう多くなかった。
自分達が洗脳を受けていた場所と、教団員が戦う理由程度だ。
『どこかの敵組織に浚われた村瀬幸来を取り戻すため、めぼしい組織を襲撃する』……だがこれは、下っ端が知っている名目上の理由だろう。本当の理由はもっと別の所にあるはずだ。それが何なのかは、杳として知れなかった。
新人類教会。社会から覚者を擁護しようとする団体。
その思想は高く、しかしその中にある闇は深い――
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
どくどくです。
突破戦という事で、通常の憤怒者戦とは違う少数戦をお届けしました。
数で押すだけが戦術ではないのですよ。
……まあ、しっかり防がれましたが。
と言うわけで、禾STの企画に乗らせていただきました。
新人類教会が今後どのような展開になるのか。それはどくどく自身も知りません。
皆様と同じように、次の展開を心待ちにしています。
それではまた、五麟市で。
突破戦という事で、通常の憤怒者戦とは違う少数戦をお届けしました。
数で押すだけが戦術ではないのですよ。
……まあ、しっかり防がれましたが。
と言うわけで、禾STの企画に乗らせていただきました。
新人類教会が今後どのような展開になるのか。それはどくどく自身も知りません。
皆様と同じように、次の展開を心待ちにしています。
それではまた、五麟市で。
