光のどけき春の日に
●
平和を取り戻した五麟の街。今もなお修復のための作業は続いている。
そんな街並みを眺めながらFIVE本部にやって来た覚者は1人の少女に声を掛けられる。
「はーろろん♪ ちょっと良いかな? えへへ、今日はとても良い話を紹介しに来たんですよ」
元気に挨拶をするのは、『イエロー系女子』大岩・麦(nCL2000116)。かつて覚者に命を救われ、最近五麟市へ引っ越してきた女の子だ。
言葉尻を捕まえれば怪しいことこの上ない文句だが、明るい笑顔は怪しさを感じさせない。
そんな麦が持っているのは一枚のチラシ。そこには「花見パーティー」と書かれている。
「うん、お花見だよ。ちょうど桜も開いてきてるしね」
言われてみれば、街に並ぶ桜の木はつぼみが開きかけていた。確かに数日もすれば花見にちょうど良い風情になることだろう。
「この間大変だったからさ、パーって気分転換になるようなことやった方が良いと思うの。それに、みんなへのお疲れ様会にもなると思うしね」
場所は五麟市内の山の中だ。
戦闘の被害が少なかった一角で、ここでならのんびり花見を楽しむことが出来る。
暖かな日差しの下でわいわい騒ぐ、暖かくなってきたこの時期ならではの楽しみだ。
「あたしもお料理用意するからさ。もちろん、手伝ってくれる人は大歓迎だよ」
パーティーと言えば食事がつきものだ。おにぎり・サンドイッチといった定番は用意があるらしい。もし他に食べたいものがあるのなら、自分で持ち込んだり用意したりしても良いだろう。
別に食事だけにこだわる必要もない。こうした場所で誰かとゆっくり話す時間をとることも大切だ。
「それじゃ、あたしはほかの人にも声かけてくるから。よろしくね!」
そう言って麦はまた元気よく駆け出して行くのだった。
平和を取り戻した五麟の街。今もなお修復のための作業は続いている。
そんな街並みを眺めながらFIVE本部にやって来た覚者は1人の少女に声を掛けられる。
「はーろろん♪ ちょっと良いかな? えへへ、今日はとても良い話を紹介しに来たんですよ」
元気に挨拶をするのは、『イエロー系女子』大岩・麦(nCL2000116)。かつて覚者に命を救われ、最近五麟市へ引っ越してきた女の子だ。
言葉尻を捕まえれば怪しいことこの上ない文句だが、明るい笑顔は怪しさを感じさせない。
そんな麦が持っているのは一枚のチラシ。そこには「花見パーティー」と書かれている。
「うん、お花見だよ。ちょうど桜も開いてきてるしね」
言われてみれば、街に並ぶ桜の木はつぼみが開きかけていた。確かに数日もすれば花見にちょうど良い風情になることだろう。
「この間大変だったからさ、パーって気分転換になるようなことやった方が良いと思うの。それに、みんなへのお疲れ様会にもなると思うしね」
場所は五麟市内の山の中だ。
戦闘の被害が少なかった一角で、ここでならのんびり花見を楽しむことが出来る。
暖かな日差しの下でわいわい騒ぐ、暖かくなってきたこの時期ならではの楽しみだ。
「あたしもお料理用意するからさ。もちろん、手伝ってくれる人は大歓迎だよ」
パーティーと言えば食事がつきものだ。おにぎり・サンドイッチといった定番は用意があるらしい。もし他に食べたいものがあるのなら、自分で持ち込んだり用意したりしても良いだろう。
別に食事だけにこだわる必要もない。こうした場所で誰かとゆっくり話す時間をとることも大切だ。
「それじゃ、あたしはほかの人にも声かけてくるから。よろしくね!」
そう言って麦はまた元気よく駆け出して行くのだった。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.花見を楽しむ
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
もうすぐ春ですね、KSK(けー・えす・けー)です。
今回は花見を楽しんでいただきたいと思います。
●目的
花見を楽しむ
●行動について
今回は昼にお花見を楽しみます。
基本的には桜を見ながらパーティーを楽しむ感じになるでしょう。
他にも桜の咲く場所で出来ることならある程度のことが出来ます。
羽目を外しすぎないようにお気を付けください。
上以外の行動をしたい場合、こちらでどうぞ。
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
麦は料理を振る舞ったり、食べて楽しんだりしてます。
ちなみに、料理は素人レベルとしては十分な腕前です。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
相談日数
7日
7日
参加費
50LP
50LP
参加人数
30/30
30/30
公開日
2016年04月05日
2016年04月05日
■メイン参加者 30人■

●
桜の花が景色を白く染めていた。春風によって時折花びらがこぼれ、またその様を万化に変えていく。
世界に何が起きようとも、四季の有り様は変わらない。人々の前にその壮麗な姿を見せてくる。
この五麟の街もそうだ。
先日、隔者組織の攻撃を受けて傷付いたこの街にも春はやって来た。そして、疲れた覚者達を労わるように、ほのかに紅をさした花は包んでくれた。
それを少し喧騒から離れた場所で眺めていた棄々がふと呟く。
「綺麗ねぇ。こうやって桜を眺めるのなんて何年ぶりかしら」
棄々の膝の上にいるみゃーたんが小首をかしげる。
棄々の親はいわゆる『憤怒者』。もし力に目覚めることが無ければ、一緒に過ごすことが出来たのだろうかとふと思う。
その内にふと甘いものが恋しくなって、喧騒の中に目をやる。
すると、その先では既に花見は盛り上がりを見せていた。
「花見ってさ、ご馳走食えるから楽しいよな! 亮平さんと行成さんだっ! おーい!!」
「今来たところだ」
基と一緒に歩いてきた翔は、先に待っていた行成と亮平へと手を振って駆け寄る。【モルト】の集まりは普段『Beer Cafe Malt』でチームとして集うものが多い。顔を出さない基の紹介を終え、彼らは弁当を広げる。弁当交換をする約束をしていたのだ。
「えへへ。叔父さん腕により掛けて作っちゃったからね!」
開けられた弁当を前にして、みなが一様に声を上げる。
「まさかここまでしっかりと再現してくれるとは……」
「うわー、亮平さんの弁当も凄いなー! こっちも食いたいなー」
久々に気合を入れた基が用意したのはのり巻き、卵焼き、唐揚げ、きんぴら、トマト、ブロッコリーと黄金コースが目白押し。ウインナーは翔に合わせてタコさんになっている。
亮平の重箱から出てきたのもとんでもない。俵型に握った桜ごはん、モルさんウインナー、桜エビ入り卵焼き、たけのこ入りつくね、菜の花とえびのサラダと手の込んだものだ。
「ほら、お菓子はスコーン作ってきたよ。志賀君も阿久津君も食べて食べてー。味の保証はするからさ」
「もちまるのオムライス弁当もあるし、いっぱい食べてくれるから多めに作ったけど足りる……かな?」
色とりどりの弁当を前に翔は目を輝かせ、夢中になって食べ始める。
亮平の危惧は間違っていなかった。育ちざかりも含めた面子で食べ始めれば、さすがのお弁当もみるみる消えていく。
そして最後のスコーンを手に取った時、翔はふと桜を見上げる。
「花より団子だって思ってたけど、やっぱきれいだなー」
「そうだよなー。そのうち妻連れて桜見に行きたいなー」
色々と思い出してしんみりとしてしまう翔と基。それを聞いて菓子の袋を開けようとしていた行成も、落ちていた花びらをそっと手に取る。
「……今日はいい日だ」
冬が終わって春になったことを確かに感じつつ、冬佳と千歳は眺めて歩く。
「良い所ですね。景色も綺麗」
「桜もちょうど見頃だったようだし良かったよ」
そして適当な場所を見つけて腰を落ち着けた2人は、持ってきた重箱の蓋を開く。
「冬佳さんの握ったおにぎりはきちっとしてるね、綺麗な三角だ」
「酒々井君のにはとても敵いませんけどね」
冬佳はおにぎりを美味しそうに頬張ると、どこか遠くを見るような目で呟く。
「こうやって眺めながらゆっくり食事したり……実はちょっと憧れてました。良いですね、こういうの」
「うん、美味しい。……次は夜桜でも見に来たいね、月が綺麗な夜にでもさ」
覚者の人生は決して平坦なものではないだから、2人は約束する。
「ええ――はい。宜しくお願いします、酒々井君」
「じゃあ、約束だね。また宜しく頼むよ、冬佳さん」
同じ場所でも、時が変わればまた違った物を見る事が出来る。彼らがまた訪れた時には、自然は異なる姿で向かえてくれるだろう。
大きく広げたレジャーシートの上で、秋人と祝はうとうとと眠りについていた。
祝は密かに緊張し通しだったのだ。秋人にお弁当を用意すると言われたものの、フルーツサンドを用意していたためだ。
案の定、秋人はちらし寿司を持っていたが、デザート代わりに楽しむことは出来た。祝だって今更女の子っぽさのアピールなど考えていないが、少しでも良く思ってもらいたい。
そんな状態でお腹が一杯になってしまったら、なんとなく春の陽気に誘われて眠くなってきた。秋人だって、早めに場所取りをしていたのだ。
眠りにつきながら2人は感じる。2人で同じ景色を見られることの幸せを。
眠りにつきながら2人は思う。またこの先も、同じように2人の時間を作っていきたいと。
会場のあちらこちらで楽しく、幸せな景色が広がっていた。それを誡女は写真に収めて回る。
(多々、被害は出てしまいましたがきちんと護れたものもあってよかったです。この先どうなるかはわかりませんが……いえ、それだからこそ今を大切に楽しみましょう)
綺麗な桜に、楽しげな顔と弾んでいる会話、いずれもこの街に日常が戻りつつある証拠だ。過去から未来へと紡がれる想いや意思の積み重ね、それは誡女が大事にしているものなのだから。
そして、誡女はまた別の景色を収めるために次の場所へと向かった。
●
先日襲撃を受けた五麟市だが、いつまでも傷ついたままではない。少しずつだが街の復興は進んでいた。そんな中で桜を楽しみたいという客がいると信じて、この近辺に開かれた店はいくつかあった。ヤマトとありすが見つけたたい焼きの店も、そんな店の1つだった。
「ありす甘い物好きだったよな。たい焼き食おうぜ!」
「まあ、嫌いじゃないけど……」
ヤマトは無邪気に飛びつき、ありすはやれやれといった様子でついていく。しかし、彼女が内心喜んでいたのは、一口食べた後に普段の険がほころんだことを見れば明らかだろう。
「……何見てんのよ、もう」
ありすはたい焼き食べている様を、ヤマトにじっと見られていたことに気が付く。彼女のツッコミに対しては、笑って誤魔化すばかりだ。だから、照れ隠しかわざわざ表情に険を戻してもう一度口にする。
「頭から食べるか尻尾からか、とかあるけどさ、ありすも頭からなんだな」
「どっちから……考えたこともなかったけど、まあ見ての通りよ」
同じものを食べながらふと見つけた共通点に、ヤマトは楽しげに笑い、ありすは憮然とした表情を浮かべる。そうして食べ終えた所で、ヤマトはありすへと手を差しだした。
「あっちの桜も満開で綺麗だなー。ありす! 見に行こう!」
「……そうね、行きましょうか」
ありすもその手を取る。心の中で、今日誘ってくれたことへの感謝の言葉を述べながら。
街が壊されても季節は巡り桜は咲く。
そして、卒業の季節はやって来る。
【中等部】の面々は最後の思い出作りのため、この桜の咲く山へと集まることになった。
「花見はちょうどいい機会だ、思いっきりみんなで騒ごう!」
「私が中等部としてお花見に参加出来るのは、最初で最後になりますね。皆さんと少しでも楽しい時間が過ごせたら……と思います」
卒業する鹿ノ島遥と賀茂たまきの挨拶から、彼らの卒業祝いを兼ねた花見は始まった。各員が腕によりをかけてきたから、お祝いをするには十分な食事が並んでいる。
しかし、そこに止めとばかり台車を転がして、結鹿がやって来る。
「折角だからと腕によりをかけたらうっかりがんばりすぎちゃいました」
「世界広しといえどもガラガラと台車を押しながらお花見会場に向かう女子はそう見ないんじゃないかな」
自信満々の結鹿に対して、御菓子は呆れ顔をしていた。なりは周りと同級生に思えるが、彼女は音楽教師でれっきとした大人なのだ。
御菓子がそんな顔になるのも無理は無い。台車の中には春の三色ご飯、筍と桜海老の炊き込みご飯、香の物、ピクルス、ミモザサラダ、菜の花お浸し、南瓜のマッシュ、カプレーぜ唐揚げ、出汁巻き玉子、春巻き、エビフライ、蓮根挟み照り焼き、ピーマンの肉詰め、タコさんウィンナー、ぶり大根、手羽先さっぱり煮、etc、etc……。
たしかに食べられるか不安になる量だ。だが、始まってしまえばみんなわいわいと仲良く食べて行ってしまう。今日は折角のお祝いなのだ。
「私も、おむすびと、ほうじ茶用意しました」
「教わってキャラおにぎりも作ってきたよー! すねこすりさん、たぬきさん、かっぱさん…この目のとこの海苔自分で切ったんだよー。難しかったー!」
たまきときせきのおにぎりも平らげて、そろそろ宴もたけなわと言った所。そこでまだサプライズがあった。台車の中に隠されていたケーキが姿を見せる。その姿を見て、一斉に声が上がった。
「遥さん、たまきさん、卒業おめでとうございますっ!」
「チョコペンで『卒業おめでとう!』って頑張って書いたけどちょっといびつでごめん!」
一緒に桜型のクッキーを差しだしながら、鈴鳴がお祝いの言葉を述べる。奏空の言う通り、ケーキの上にはやや不格好な文字が書かれている。だが、そんなことはどうでも良かった。
「1年間楽しい思い出がいっぱいで、二人を見送るのは寂しいけど……笑顔でお祝いして見送らないとね!」
「学校は分かれるけど、これからも仲良くしてくださいね」
「春から二人とも高校生なんですね。校舎が隣になるだけなのに、何だか大人に感じちゃいます」
口々に告げられる祝福の言葉に、遥は一瞬しんみりとしてしまう。だが、すぐにそれを打ち消すように叫び出した。
「……って、何やってんだか。別に今生の別れじゃあるまいに、ちょっと通う校舎が変わるだけじゃねえかオレ! 寂しいとか思ってんじゃねえよバーカバーカ!!」
だが、実際には鼻声だ。
よくよく見れば、鈴鳴も目を真っ赤にしていた。まだ心の整理がついていないことがあるし、何より心の底では寂しさを感じているのだ。でも、今日は笑顔で見送ると決めた。
そうやって、皆が別れの寂しさを誤魔化しながら騒ぐ中、奏空はそっとたまきの手を握った。
少し顔を赤らめると、たまきは手を握り返し、一緒に桜を見上げる。
「学園では離れ離れになってしまいますが、また、こうして桜を見上げられたら、良いですね」
時は巡り、季節は巡る。それでも、言えることがある。
彼らの絆はどんな時も繋がっている。
そして、それが切れることは、決してない。
●
お花見は大人の宴会が行われる場所でもある。
桜を肴に酒を呑む。これ程贅沢な時間はそうそうあるものではない。
まきりもそうした時間を過ごす1人だ。
思い出すのは先日の戦い。死力を尽くしたがまだ足りず、己の無力を味わったものだ。だからこそ、取り戻した平和が愛おしい。それにお陰で美味しい酒がいただけるというものだ。
だが、そこには1つ代償があった。
「う、飲みすぎたかも…気持ち悪くなってきました……。誰か、ビニール袋持ってませんか」
酒を呑み過ぎると、酔う。そして、気分が悪くなる。哀しいまでに絶対的な法則だ。
「大変! 大丈夫ですか!?」
様子を見て慌てて駆け寄る麦。生憎まきりの望む美少年の助けは無かった。
「おぅ、イイ花見日和じゃねェかい」
広がる桜を前にして、影踏は大きく伸びをした。今日は不器用に可愛がっている姪のシキと一緒に花見に来た。影踏がお礼代わりに手を振ると、その場にいた麦も手を振り返してくる。
「大岩の嬢ちゃんは準備お疲れさん。今日はシキちゃんも弁当作ってきてくれたんだろ」
「花見だというから、まあ、このくらいはね」
「おじさんチョー楽しみで朝飯抜いてきた。お、旨そうじゃねえか」
よくよく見るとシキが用意してきたのは影踏の好物ばかりだ。当のシキは麦の用意した食事を口にしている。幸い、他の面子も沢山弁当を用意しているのだ。ここいらで女子力を補給しておきたい。
そして、お互いにやいのやいのと言い合いながら、気付くと弁当も少なくなっていた。その様を見た者は、仲の良い父娘と思うことだろう。
「叔父と出掛けるのは、いつぶりだったかな。こうしていっしょに出掛けるなんて親孝行な娘じゃないか。感謝したまえよ」
「……俺に言いたい事でもあるんじゃねェのかい、シキちゃん。お前さんは賢い子だから、色々自分の中で処理しちまう事も多いンだろうが」
どこか達観したような雰囲気で話すシキを、影踏はどこか優しげな眼差しで見つめる。
「こんなンでも可愛い姪っ子のお願いくらい、聞いてやりてェと思ってンのよ……今日はありがとうな」
こういう話が出来るのも、春が与えてくれた贈り物なのかも知れない。
小唄とクーは柔らかな日の光が当たるベンチに2人で腰かけていた。桜もばっちり見えるし、中々贅沢なロケーションだ。そして、先ほど買ってきたたこ焼きのパックもある。
「この串で食べればいいのでしょうか?」
海外が長いクーはたこ焼きを食べたことが無い。そこで小唄は勇んで、先にタコ焼きを口にしてみせる。
「こうやって、爪楊枝で救うように取って……はむっ! あつっ、あちちっ!?」
たこ焼きの熱さに悲鳴を上げるが、慣れてくれば大丈夫。小唄は出来立ての味を堪能すると、長々とたこ焼きを取れずに苦戦しているクーの代わりに取って、口の中に放り込む。
「先輩、どうぞ!」
「あつっ……熱いですけど、これは美味しいですね」
初めてのたこ焼きに素直に感動の声を上げるクー。普段、小唄の面倒を見ることが多いので、逆になったことが新鮮なのもあるだろう。
だけど、まだ放っては置けない。いつものように、クーはそっと小唄の口元についたソースを拭う。
そして、ふっと微笑みを浮かべた。
「また来年も、この桜を見たいですね」
「うん。その時はまた一緒に来てくれますか?」
その笑顔が既に返事であることを小唄は感じていた。だからこそ、この光景を護ることを改めて誓うのだった。
午後の【お茶会】は、のんびりとお茶とお菓子を食べながら他愛のない事や真面目な事を話す場所だ。集まりには様々な場所が選ばれる。だから、こんなのどかな光の差す桜の中だって悪くない。
亮平や翔に挨拶を終えた椿は、落ちてきた花びらをそっと手に取る。
そして目をやると、既に今日のメンバーは揃っていた。
「もう桜が咲く時期になっちゃったんですよね、皆さんは如何ですか?」
まずは久しぶりに頑張って準備した由愛が洋食のお弁当を広げる。今日の趣旨はお菓子を楽しむのではなく、お弁当の交換がメインなのだ。
椿が用意したお弁当も、おいなり、卵焼き、からあげ、エビフライ、プリンと丁寧に揃えられていた。
ミュエルが作ったまりおにぎりは可愛らしく場を盛り上げてくれたが、力が入っているのはフランスの煮込み料理ナスのラタトゥイユだ。彼女の母直伝で、隠し味に味噌が入っているのがポイントだ。
「煮込むだけで、簡単に作れるから…もしよかったら、今度一緒に作ろう…?」
「……ふふり、こっちも意外とやるもんでしょ、これでも一児の母だもんで」
自信満々に卵焼きとウインナーを見せ付けるのは雷鳥。まさしく母の味だ。
そんな中で灯が申し訳なさそうに差しだしたのは、野菜を切っただけのサラダだった。
「その、唐揚げがなぜか炭になってしまったので……」
申し訳なさそうに灯は朝の惨状について説明する。元々料理は得意ではない。そこで火が通ったか不安になって、うっかり火を通し過ぎたのだ。
「構わないわよ、美味しいわ」
それでも皆で集まって食べれば楽しくなってくるものだ。ふと雷鳥はそんな自分に違和感を感じていなかったことに気が付く。長居する気も無かった街を護るために命を懸け、こうやって仲間と同じ時間を過ごしている。
(ただ、こうして過ごしいていつも思う、ここに娘がいればと。この幸せな場所に、あの子も入れてあげたい)
雷鳥がそう思うほどに、今の平和はこの上なく温かなものだった。みんなでこうやって静かな時間を過ごせるのはいつ以来だったろうか?
「最近、大変な事件ばっかりだったから……こうやって、のんびりできる時間、すごく幸せな感じ」
「……こうしていると、この前の襲撃がまるで嘘みたい、ですね」
ミュエルが笑う横で、ついつい熱く話してしまった由愛が恥ずかしそうにしている。
「こうしてみんなとお花見ができて嬉しいです……そして、また来年もみんなと一緒にお花見がしたいです」
灯の願いはおそらくこの場にいる全ての覚者の願いでもあるのだろう。
「お花見日和、だったね」
次第に終わりを迎えてきた花見の様子を見て、白枝遥は微笑みを浮かべた。4月と言っても夕方に近づけば風も冷たい。そろそろお開きの時間だ。
筍ご飯入りのお稲荷を詰めた手作りのお弁当とクッキー、暖かい紅茶、彼の用意したものはいずれも喜んでもらうことが出来た。それに人のお弁当を分けてもらったので、今後の参考になるだろう。
「桜が咲くと、春だなあって感じがするね……」
それ以上に楽しそうな皆を眺めて、幸せだなあと浸ることが出来た。
遥はこの穏やかな時間をまた来年も楽しめますように祈りながら、片付けに入る。
その時、強い風が吹いて辺り一面に花びらが舞い踊る。季節はまた変わっていくのだ。
桜の花が景色を白く染めていた。春風によって時折花びらがこぼれ、またその様を万化に変えていく。
世界に何が起きようとも、四季の有り様は変わらない。人々の前にその壮麗な姿を見せてくる。
この五麟の街もそうだ。
先日、隔者組織の攻撃を受けて傷付いたこの街にも春はやって来た。そして、疲れた覚者達を労わるように、ほのかに紅をさした花は包んでくれた。
それを少し喧騒から離れた場所で眺めていた棄々がふと呟く。
「綺麗ねぇ。こうやって桜を眺めるのなんて何年ぶりかしら」
棄々の膝の上にいるみゃーたんが小首をかしげる。
棄々の親はいわゆる『憤怒者』。もし力に目覚めることが無ければ、一緒に過ごすことが出来たのだろうかとふと思う。
その内にふと甘いものが恋しくなって、喧騒の中に目をやる。
すると、その先では既に花見は盛り上がりを見せていた。
「花見ってさ、ご馳走食えるから楽しいよな! 亮平さんと行成さんだっ! おーい!!」
「今来たところだ」
基と一緒に歩いてきた翔は、先に待っていた行成と亮平へと手を振って駆け寄る。【モルト】の集まりは普段『Beer Cafe Malt』でチームとして集うものが多い。顔を出さない基の紹介を終え、彼らは弁当を広げる。弁当交換をする約束をしていたのだ。
「えへへ。叔父さん腕により掛けて作っちゃったからね!」
開けられた弁当を前にして、みなが一様に声を上げる。
「まさかここまでしっかりと再現してくれるとは……」
「うわー、亮平さんの弁当も凄いなー! こっちも食いたいなー」
久々に気合を入れた基が用意したのはのり巻き、卵焼き、唐揚げ、きんぴら、トマト、ブロッコリーと黄金コースが目白押し。ウインナーは翔に合わせてタコさんになっている。
亮平の重箱から出てきたのもとんでもない。俵型に握った桜ごはん、モルさんウインナー、桜エビ入り卵焼き、たけのこ入りつくね、菜の花とえびのサラダと手の込んだものだ。
「ほら、お菓子はスコーン作ってきたよ。志賀君も阿久津君も食べて食べてー。味の保証はするからさ」
「もちまるのオムライス弁当もあるし、いっぱい食べてくれるから多めに作ったけど足りる……かな?」
色とりどりの弁当を前に翔は目を輝かせ、夢中になって食べ始める。
亮平の危惧は間違っていなかった。育ちざかりも含めた面子で食べ始めれば、さすがのお弁当もみるみる消えていく。
そして最後のスコーンを手に取った時、翔はふと桜を見上げる。
「花より団子だって思ってたけど、やっぱきれいだなー」
「そうだよなー。そのうち妻連れて桜見に行きたいなー」
色々と思い出してしんみりとしてしまう翔と基。それを聞いて菓子の袋を開けようとしていた行成も、落ちていた花びらをそっと手に取る。
「……今日はいい日だ」
冬が終わって春になったことを確かに感じつつ、冬佳と千歳は眺めて歩く。
「良い所ですね。景色も綺麗」
「桜もちょうど見頃だったようだし良かったよ」
そして適当な場所を見つけて腰を落ち着けた2人は、持ってきた重箱の蓋を開く。
「冬佳さんの握ったおにぎりはきちっとしてるね、綺麗な三角だ」
「酒々井君のにはとても敵いませんけどね」
冬佳はおにぎりを美味しそうに頬張ると、どこか遠くを見るような目で呟く。
「こうやって眺めながらゆっくり食事したり……実はちょっと憧れてました。良いですね、こういうの」
「うん、美味しい。……次は夜桜でも見に来たいね、月が綺麗な夜にでもさ」
覚者の人生は決して平坦なものではないだから、2人は約束する。
「ええ――はい。宜しくお願いします、酒々井君」
「じゃあ、約束だね。また宜しく頼むよ、冬佳さん」
同じ場所でも、時が変わればまた違った物を見る事が出来る。彼らがまた訪れた時には、自然は異なる姿で向かえてくれるだろう。
大きく広げたレジャーシートの上で、秋人と祝はうとうとと眠りについていた。
祝は密かに緊張し通しだったのだ。秋人にお弁当を用意すると言われたものの、フルーツサンドを用意していたためだ。
案の定、秋人はちらし寿司を持っていたが、デザート代わりに楽しむことは出来た。祝だって今更女の子っぽさのアピールなど考えていないが、少しでも良く思ってもらいたい。
そんな状態でお腹が一杯になってしまったら、なんとなく春の陽気に誘われて眠くなってきた。秋人だって、早めに場所取りをしていたのだ。
眠りにつきながら2人は感じる。2人で同じ景色を見られることの幸せを。
眠りにつきながら2人は思う。またこの先も、同じように2人の時間を作っていきたいと。
会場のあちらこちらで楽しく、幸せな景色が広がっていた。それを誡女は写真に収めて回る。
(多々、被害は出てしまいましたがきちんと護れたものもあってよかったです。この先どうなるかはわかりませんが……いえ、それだからこそ今を大切に楽しみましょう)
綺麗な桜に、楽しげな顔と弾んでいる会話、いずれもこの街に日常が戻りつつある証拠だ。過去から未来へと紡がれる想いや意思の積み重ね、それは誡女が大事にしているものなのだから。
そして、誡女はまた別の景色を収めるために次の場所へと向かった。
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先日襲撃を受けた五麟市だが、いつまでも傷ついたままではない。少しずつだが街の復興は進んでいた。そんな中で桜を楽しみたいという客がいると信じて、この近辺に開かれた店はいくつかあった。ヤマトとありすが見つけたたい焼きの店も、そんな店の1つだった。
「ありす甘い物好きだったよな。たい焼き食おうぜ!」
「まあ、嫌いじゃないけど……」
ヤマトは無邪気に飛びつき、ありすはやれやれといった様子でついていく。しかし、彼女が内心喜んでいたのは、一口食べた後に普段の険がほころんだことを見れば明らかだろう。
「……何見てんのよ、もう」
ありすはたい焼き食べている様を、ヤマトにじっと見られていたことに気が付く。彼女のツッコミに対しては、笑って誤魔化すばかりだ。だから、照れ隠しかわざわざ表情に険を戻してもう一度口にする。
「頭から食べるか尻尾からか、とかあるけどさ、ありすも頭からなんだな」
「どっちから……考えたこともなかったけど、まあ見ての通りよ」
同じものを食べながらふと見つけた共通点に、ヤマトは楽しげに笑い、ありすは憮然とした表情を浮かべる。そうして食べ終えた所で、ヤマトはありすへと手を差しだした。
「あっちの桜も満開で綺麗だなー。ありす! 見に行こう!」
「……そうね、行きましょうか」
ありすもその手を取る。心の中で、今日誘ってくれたことへの感謝の言葉を述べながら。
街が壊されても季節は巡り桜は咲く。
そして、卒業の季節はやって来る。
【中等部】の面々は最後の思い出作りのため、この桜の咲く山へと集まることになった。
「花見はちょうどいい機会だ、思いっきりみんなで騒ごう!」
「私が中等部としてお花見に参加出来るのは、最初で最後になりますね。皆さんと少しでも楽しい時間が過ごせたら……と思います」
卒業する鹿ノ島遥と賀茂たまきの挨拶から、彼らの卒業祝いを兼ねた花見は始まった。各員が腕によりをかけてきたから、お祝いをするには十分な食事が並んでいる。
しかし、そこに止めとばかり台車を転がして、結鹿がやって来る。
「折角だからと腕によりをかけたらうっかりがんばりすぎちゃいました」
「世界広しといえどもガラガラと台車を押しながらお花見会場に向かう女子はそう見ないんじゃないかな」
自信満々の結鹿に対して、御菓子は呆れ顔をしていた。なりは周りと同級生に思えるが、彼女は音楽教師でれっきとした大人なのだ。
御菓子がそんな顔になるのも無理は無い。台車の中には春の三色ご飯、筍と桜海老の炊き込みご飯、香の物、ピクルス、ミモザサラダ、菜の花お浸し、南瓜のマッシュ、カプレーぜ唐揚げ、出汁巻き玉子、春巻き、エビフライ、蓮根挟み照り焼き、ピーマンの肉詰め、タコさんウィンナー、ぶり大根、手羽先さっぱり煮、etc、etc……。
たしかに食べられるか不安になる量だ。だが、始まってしまえばみんなわいわいと仲良く食べて行ってしまう。今日は折角のお祝いなのだ。
「私も、おむすびと、ほうじ茶用意しました」
「教わってキャラおにぎりも作ってきたよー! すねこすりさん、たぬきさん、かっぱさん…この目のとこの海苔自分で切ったんだよー。難しかったー!」
たまきときせきのおにぎりも平らげて、そろそろ宴もたけなわと言った所。そこでまだサプライズがあった。台車の中に隠されていたケーキが姿を見せる。その姿を見て、一斉に声が上がった。
「遥さん、たまきさん、卒業おめでとうございますっ!」
「チョコペンで『卒業おめでとう!』って頑張って書いたけどちょっといびつでごめん!」
一緒に桜型のクッキーを差しだしながら、鈴鳴がお祝いの言葉を述べる。奏空の言う通り、ケーキの上にはやや不格好な文字が書かれている。だが、そんなことはどうでも良かった。
「1年間楽しい思い出がいっぱいで、二人を見送るのは寂しいけど……笑顔でお祝いして見送らないとね!」
「学校は分かれるけど、これからも仲良くしてくださいね」
「春から二人とも高校生なんですね。校舎が隣になるだけなのに、何だか大人に感じちゃいます」
口々に告げられる祝福の言葉に、遥は一瞬しんみりとしてしまう。だが、すぐにそれを打ち消すように叫び出した。
「……って、何やってんだか。別に今生の別れじゃあるまいに、ちょっと通う校舎が変わるだけじゃねえかオレ! 寂しいとか思ってんじゃねえよバーカバーカ!!」
だが、実際には鼻声だ。
よくよく見れば、鈴鳴も目を真っ赤にしていた。まだ心の整理がついていないことがあるし、何より心の底では寂しさを感じているのだ。でも、今日は笑顔で見送ると決めた。
そうやって、皆が別れの寂しさを誤魔化しながら騒ぐ中、奏空はそっとたまきの手を握った。
少し顔を赤らめると、たまきは手を握り返し、一緒に桜を見上げる。
「学園では離れ離れになってしまいますが、また、こうして桜を見上げられたら、良いですね」
時は巡り、季節は巡る。それでも、言えることがある。
彼らの絆はどんな時も繋がっている。
そして、それが切れることは、決してない。
●
お花見は大人の宴会が行われる場所でもある。
桜を肴に酒を呑む。これ程贅沢な時間はそうそうあるものではない。
まきりもそうした時間を過ごす1人だ。
思い出すのは先日の戦い。死力を尽くしたがまだ足りず、己の無力を味わったものだ。だからこそ、取り戻した平和が愛おしい。それにお陰で美味しい酒がいただけるというものだ。
だが、そこには1つ代償があった。
「う、飲みすぎたかも…気持ち悪くなってきました……。誰か、ビニール袋持ってませんか」
酒を呑み過ぎると、酔う。そして、気分が悪くなる。哀しいまでに絶対的な法則だ。
「大変! 大丈夫ですか!?」
様子を見て慌てて駆け寄る麦。生憎まきりの望む美少年の助けは無かった。
「おぅ、イイ花見日和じゃねェかい」
広がる桜を前にして、影踏は大きく伸びをした。今日は不器用に可愛がっている姪のシキと一緒に花見に来た。影踏がお礼代わりに手を振ると、その場にいた麦も手を振り返してくる。
「大岩の嬢ちゃんは準備お疲れさん。今日はシキちゃんも弁当作ってきてくれたんだろ」
「花見だというから、まあ、このくらいはね」
「おじさんチョー楽しみで朝飯抜いてきた。お、旨そうじゃねえか」
よくよく見るとシキが用意してきたのは影踏の好物ばかりだ。当のシキは麦の用意した食事を口にしている。幸い、他の面子も沢山弁当を用意しているのだ。ここいらで女子力を補給しておきたい。
そして、お互いにやいのやいのと言い合いながら、気付くと弁当も少なくなっていた。その様を見た者は、仲の良い父娘と思うことだろう。
「叔父と出掛けるのは、いつぶりだったかな。こうしていっしょに出掛けるなんて親孝行な娘じゃないか。感謝したまえよ」
「……俺に言いたい事でもあるんじゃねェのかい、シキちゃん。お前さんは賢い子だから、色々自分の中で処理しちまう事も多いンだろうが」
どこか達観したような雰囲気で話すシキを、影踏はどこか優しげな眼差しで見つめる。
「こんなンでも可愛い姪っ子のお願いくらい、聞いてやりてェと思ってンのよ……今日はありがとうな」
こういう話が出来るのも、春が与えてくれた贈り物なのかも知れない。
小唄とクーは柔らかな日の光が当たるベンチに2人で腰かけていた。桜もばっちり見えるし、中々贅沢なロケーションだ。そして、先ほど買ってきたたこ焼きのパックもある。
「この串で食べればいいのでしょうか?」
海外が長いクーはたこ焼きを食べたことが無い。そこで小唄は勇んで、先にタコ焼きを口にしてみせる。
「こうやって、爪楊枝で救うように取って……はむっ! あつっ、あちちっ!?」
たこ焼きの熱さに悲鳴を上げるが、慣れてくれば大丈夫。小唄は出来立ての味を堪能すると、長々とたこ焼きを取れずに苦戦しているクーの代わりに取って、口の中に放り込む。
「先輩、どうぞ!」
「あつっ……熱いですけど、これは美味しいですね」
初めてのたこ焼きに素直に感動の声を上げるクー。普段、小唄の面倒を見ることが多いので、逆になったことが新鮮なのもあるだろう。
だけど、まだ放っては置けない。いつものように、クーはそっと小唄の口元についたソースを拭う。
そして、ふっと微笑みを浮かべた。
「また来年も、この桜を見たいですね」
「うん。その時はまた一緒に来てくれますか?」
その笑顔が既に返事であることを小唄は感じていた。だからこそ、この光景を護ることを改めて誓うのだった。
午後の【お茶会】は、のんびりとお茶とお菓子を食べながら他愛のない事や真面目な事を話す場所だ。集まりには様々な場所が選ばれる。だから、こんなのどかな光の差す桜の中だって悪くない。
亮平や翔に挨拶を終えた椿は、落ちてきた花びらをそっと手に取る。
そして目をやると、既に今日のメンバーは揃っていた。
「もう桜が咲く時期になっちゃったんですよね、皆さんは如何ですか?」
まずは久しぶりに頑張って準備した由愛が洋食のお弁当を広げる。今日の趣旨はお菓子を楽しむのではなく、お弁当の交換がメインなのだ。
椿が用意したお弁当も、おいなり、卵焼き、からあげ、エビフライ、プリンと丁寧に揃えられていた。
ミュエルが作ったまりおにぎりは可愛らしく場を盛り上げてくれたが、力が入っているのはフランスの煮込み料理ナスのラタトゥイユだ。彼女の母直伝で、隠し味に味噌が入っているのがポイントだ。
「煮込むだけで、簡単に作れるから…もしよかったら、今度一緒に作ろう…?」
「……ふふり、こっちも意外とやるもんでしょ、これでも一児の母だもんで」
自信満々に卵焼きとウインナーを見せ付けるのは雷鳥。まさしく母の味だ。
そんな中で灯が申し訳なさそうに差しだしたのは、野菜を切っただけのサラダだった。
「その、唐揚げがなぜか炭になってしまったので……」
申し訳なさそうに灯は朝の惨状について説明する。元々料理は得意ではない。そこで火が通ったか不安になって、うっかり火を通し過ぎたのだ。
「構わないわよ、美味しいわ」
それでも皆で集まって食べれば楽しくなってくるものだ。ふと雷鳥はそんな自分に違和感を感じていなかったことに気が付く。長居する気も無かった街を護るために命を懸け、こうやって仲間と同じ時間を過ごしている。
(ただ、こうして過ごしいていつも思う、ここに娘がいればと。この幸せな場所に、あの子も入れてあげたい)
雷鳥がそう思うほどに、今の平和はこの上なく温かなものだった。みんなでこうやって静かな時間を過ごせるのはいつ以来だったろうか?
「最近、大変な事件ばっかりだったから……こうやって、のんびりできる時間、すごく幸せな感じ」
「……こうしていると、この前の襲撃がまるで嘘みたい、ですね」
ミュエルが笑う横で、ついつい熱く話してしまった由愛が恥ずかしそうにしている。
「こうしてみんなとお花見ができて嬉しいです……そして、また来年もみんなと一緒にお花見がしたいです」
灯の願いはおそらくこの場にいる全ての覚者の願いでもあるのだろう。
「お花見日和、だったね」
次第に終わりを迎えてきた花見の様子を見て、白枝遥は微笑みを浮かべた。4月と言っても夕方に近づけば風も冷たい。そろそろお開きの時間だ。
筍ご飯入りのお稲荷を詰めた手作りのお弁当とクッキー、暖かい紅茶、彼の用意したものはいずれも喜んでもらうことが出来た。それに人のお弁当を分けてもらったので、今後の参考になるだろう。
「桜が咲くと、春だなあって感じがするね……」
それ以上に楽しそうな皆を眺めて、幸せだなあと浸ることが出来た。
遥はこの穏やかな時間をまた来年も楽しめますように祈りながら、片付けに入る。
その時、強い風が吹いて辺り一面に花びらが舞い踊る。季節はまた変わっていくのだ。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
特殊成果
なし
