夜の道に潜むモノ
夜の道に潜むモノ


●黄色いコートの女
「……どういうわけか、クミちゃんは約束した喫茶店に現われない」
 月の光りに照らされた道を2人の青年が肩を並べて歩く。午前0時を過ぎても、蒸し暑さは昼間と変わらないように思えた。
 すぐ近くで、犬が遠吠えを始めた。その声につられるように、他の犬達が次々と遠吠えを始めた。
「喫茶店の公衆電話からクミちゃんの家に何度か電話したんだ。まいったよ、電話に出るのはいつもクミちゃんのお袋さんなんだぜ。4度目でようやくクミちゃんは電話に出てくれたんだけど、あなたには会いたくないってさ。たった一言でふられたよ」
 彼女にふられた青年は、頭をがしがしと掻きながら大きなため息をついた。
「まぁ、女は沢山いるんだ。次の恋に期待しろよ」
 一緒に歩く青年がなぐさめるように肩を叩く。と、その時、リリィン、リリィン……。どこからか、電話のベルが鳴り響いた。
「えっ、……何だ?」
「おい、あれじゃないか? ほら、あそこの公園の公衆電話」
 公園の入り口近くに設置された公衆電話ボックス。そこから、ベルは鳴り響いていた。
「ちょっと、出てみようぜ」
 青年たちは好奇心に負け、公衆電話ボックスに近づいた。薄汚れたガラス扉を開け、無理やり2人で中に入る。電灯の明かりに集まる虫を手で払いのけ、受話器をとる。2人は顔を寄せ合い、電話の向こう側の声を聞こうと耳をすませた。
オオォ……ン、オオォ……ン。
「何かの泣き声か?」
「イヤ、違う。これは犬の遠吠えだ」
 狭いボックスの中で、汗が吹き出る。流れる汗を手の甲で拭いながら、じっと耳をすませた。
『……どういうわけか……約束……喫茶店に現われない』
 受話器の向こうから流れる声に、汗は一瞬にして冷たいものに変わった。
『クミチャン……クミチャン……女は沢山イル』
「こ、これ、さっきの俺達の会話じゃないか!!」
 悲鳴とともに受話器を地面に落とした。2人は急いでその場から離れようとした。が、ボックスの扉を開けようとした手が止まった。いるのだ。女が。黒いぼさぼさの長い髪、夏だというのに黄色いコートを着た女が、順番を待つように電話ボックスの前にいるのだ。ゆらゆらと髪を揺らしながらうつむき、ぼそぼそと喋っている。その声はガラス越しでも2人は聞きとれた。
『ねぇ、いつになったら奥さんと別れてアタシと一緒になってくれるの? もう赤ちゃん、産まれちゃうよ……ねぇ、ねぇ、ねぇってば』
 地面に落ちた受話器から、オグアァ、オグアァ……、不気味な赤ん坊の泣き声がする。その声に反応した女は、ゆっくりと顔を上げていく。
「ひぃぃっ!!」

数分後、電話ボックスのガラスは真っ赤になっていた。青年2人は、破裂した体を重ね合わせ死んでいた。

●五燐大学考古学研究所
「集まってくれて感謝するぜ。どうやら妖が悪さをするようだ」
 許可のない一般人が立ち入るこのできない考古学研究所、そこに集められた覚者達に夢見の久方 相馬(nCL2000004)が告げる。
「場所は五燐学園から3つ離れた街の公園。被害者は19歳の男子大学生2人。妖は心霊系1体。いわゆる幽霊ってやつだな。髪の長い女で、黄色いコートを着ている。皆で協力して戦えば十分対処できるレベルだ。大学生より先に現場に行って妖を撃退してほしい」
 みんなの前に地図を広げ、赤ペンである場所を丸で囲った。
「ここが問題の公園っと。この公園は飲み屋街からさほど離れていない。公園内には公衆便所もあるから、戦いに時間がかかれば大学生以外の誰かが来るかもしれねぇぜ。黄色いコートの女は、まず公衆電話を鳴らし、近くを通りかかった人間を呼び寄せる。そして、誰かが受話器を取ったら姿を見せる。女が電話ボックスの扉の前にいるかぎりは中の人間は出ることができねえ」
 相馬はそこまでいっきに喋ると、覚者を見わたした。
「夜遅くだが、住宅街って訳じゃねえ。周囲に人がいないか気をつければ戦いやすい。もし、誰かに見られても、このFiVEという組織について部外者の人間に話すことはやめて欲しい。んじゃ、頼むぜ!!」


■シナリオ詳細
種別:β
難易度:普通
担当ST:茶銅鑼
■成功条件
1.黄色いコートの女の撃退
2.なし
3.なし
任務達成条件:黄色い女の撃退
ランク「2」
種類:心霊系の妖(物理攻撃の効果はあまり期待できない)
敵情報:敵の数は1体。
もとは上司と不倫をしていた女性。いつも公衆電話から不倫相手に電話をかけていたが、ある晩、体調を崩し電話ボックスの中で息絶えた。その後、怨念となり人を襲うようになった。

戦闘スキル:・死霊の瞳……近距離単体攻撃+バッドステータス防御力低下
         両目から赤い閃光を放ちます。命中すると防御力が低くなります。
       ・死霊の爪……全体攻撃
         命中すると小型爆弾のように破裂します。
回復スキル:・怨みのささやき……覚者単体のHPを少し奪い、妖は回復します。奪われた覚者は、HPが減ります。

被害者:男子大学生2人

備考:・出現時刻は、午前0時前後。
   ・妖は、公衆電話を鳴らし周辺を歩いている人間を呼び寄せる。
   ・妖が電話ボックスの扉の前にいる間は、中にいる人間は覚者でも出られない。
    (もし、扉を半分開けていたとしても、妖が出現した瞬間に閉じ込められる)
   ・戦闘に時間がかかると、一般人が巻き込まれる可能性もある。

場所:飲み屋街近くの公園。公園入り口に電話ボックスがある。公園の広さはテニスコートほどの広さ。中には、ブランコ、ベンチ、公衆トイレがあり、アジサイやツツジが端に植えられている。明かりは電話ボックスとトイレにしなく、夜はかなり暗い。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:0枚
(4モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
0LP[+予約0LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年08月16日

■メイン参加者 8人■


●零から始まる
 午前零時前、懐中電灯の灯りを頼りに、男が2人ゆっくりと歩いていた。
 これから起きる出来事を知っているのに、緊張したようすはない。
「囮役か……。ま、なんとかなる……」
 ぽつり呟くのは、『鉄仮面コロボックル』尼苔 森羅(CL2001095)だ。少年といっていいほど、あどけない外見をしているが、実際は22歳になる。深緑色の髪に守護使役のニシパがポンポンと飛び乗った。その様子を隣で見ていた『星狩り』一色・満月(CL2000044)が、小さく微笑んだ。が、手に持っていた懐中電灯が、公衆電話ボックスを照らし出すと、スッ、と微笑が満月の顔から消えていく。
「女とは星の数ほどおるでな。男は幸せ者だ」
 誰に言うでもない演技めいた声音が、夜の闇に溶けていった。それと同時に、リリィン。リリィン。公衆電話が鳴り始めた。互いに目配せした後、満月は工事中と書かれた看板の近くにとどまり周囲を警戒する。森羅は一人、電話ボックスへ向かった。

「きたきたきたぁー!」
 少し離れた場所から隠れて様子を窺っていた『裂き乱れ、先屠れ』棚橋・悠(CL2000654)の辰のしっぽがブンブンうなる。すねこすりぐるみを思わずぎゅっと抱きしめた。
「落ち着く」
 同じぬいぐるみを持つ桂木・日那乃(CL2000941)が、黒い羽をパタパタさせ落ち着かせようと試みた。そんな日那乃の真似をして彼女の守護使役マリンも尾ひれをふる。悠は顔を蕩けさせたあと、かわいくポーズをとった。
「ふはぁー☆ 日那乃、ありがとう! では、では、棚橋の秘密兵器にして最大の禁忌ことこのボクの力をお見せしましょう! 天の加護で彼方と此処を隔て……!」
 悠が呪文を唱える。途端、電話ボックスと公園を含む半径50mが結界に包まれた。
「おぉー」
 得意げにキメポーズをとる悠に、日那乃はパチパチと拍手お送り続けた。
 そんな二人の少女から少し離れた場所で『社会不適合者』谷畑 朱色(CL2000279)が、腕組みをしたままじっと電話ボックスを見つめていた。難しい顔をする彼の目の端に時折、着物の柄がふわりとよぎることに朱色は気づいた。気になり横を向くと、宝生 初花(CL2000102)が同じく腕組みをしたまま立っていた。
「黄色い女ねぇ……。もうちょっと情報を得られないか昼間のうちに聞き込みにいったんだけどさ……」
 初花がため息まじりに呟いた。
「何も得るものはなかったのか……」
 朱色の言葉に初花は頷いた。
育ちのよさが一目で分かるセンスの良いワンピース、その上から品のある羽織を着ている。絹糸のような艶やかな彼女のピンクブラウンの髪が、はかなげに風にゆれた。
 
 アジサイの植え込みの側を走る影は、すこし上を見上げやさしくほほ笑んだ。
「なめ、がんばろうな」
 法衣を身に纏う沢口 明(CL2001072)が、守護使役のなめに囁く。
 リリィン、リリィン。
 無意識に歩く足が速くなる。電話のベルの音は、人を急かせる呪いのようだった。
 すでに長良 怜路(CL2000615)は、満月と合流していた。
「待たせた。こちらはライトの準備は整った。結界もすでに張っているようだな。これがFiveとして初の仕事になるな」
 明の言葉に怜路と満月が頷いた。
「これ、真ん中に置くよー」
 怜路が、カラーコーンをポトッと落とすように道に置いた。
 そして三人は、敵の手中に自ら飛び込む仲間を見つめた。
 
リリィン。リリィン。
 森羅が受話器を取る。
 待っていたかのように黄色いコートの女が突如、姿を見せた。

●怨霊の怒り
 受話器の向こうから、ひどい雑音が聞こえた。森羅は、ほんのわずかに受話器を耳元から離す。
『…………ザッ……、女とは星の数ほどおるでな。男は幸せものだ』
 さきほど一緒にいた満月の声だ。仲間の声にほっとする。
 森羅は、ガラス越しに黄色いコートの女を睨みつけた。
「こんにち、わ……」
 森羅の右頬の刺青が青色から緑色に変化し輝いていく。守護使役ニシパの力により異空間に格納されていた神具のナイフが姿を見せる。それが何を意味するか、女は知らない。ぼさぼさの髪を揺らしながら、女はゆっくりと顔を上げていった。
 突然、女は光に照らし出された。事前に準備していた照明が女ごと電話ボックスを照らしだしたのだ。
 光と闇の隙間から黒い翼を広げ日那乃が上空からあらわれた。
日那乃は女に対し、エアブリットを打ち込む。高圧縮した空気はみごと女に命中した。たまらず、女は後退する。
 女は恨みがましく、覚者達を見回した。
 満月が拳をかまえる。
首筋に浮かぶ刺青は、彼の瞳と同じ赤色に変化していた。
「十天が一、一色満月。妖相手は初めてでな。お手柔らかに頼む」
 言うやいなや飛燕をしかけた。目にもとまらぬスピードで2連撃を放つが、女にはまったくダメージがない。女はすぐ近くにきた満月を捕まえようと、唸りながら両手を広げた。だが、しなやかなに身をひるがえし満月は女を翻弄する。そこへ、悠も加わった。
「どうやらホントに物理攻撃は効かないみたいじゃん!」
 小さな雷雲が突如発生し、女に雷を落とした。
 ダメージを負った女は、暗闇に隠れようとすばやく動くも、初花の深緑鞭が動きを阻んだ。
「ギィァァァ」
 女は、歯軋りする口元から血塗れた呻きをこぼす。
 余裕の笑みを浮かべた初花が、深緑鞭をしならせ冗談めかして笑う。
「――さ。初陣を勝利で飾るために、全力で働くとしますかねぇ」
「おばけの妖、被害者が出ないうちに消す」
 漆黒の羽をはばたかせ、日那乃が地上に舞い降りた。
とらえどころのない日那乃の眼差し、一見、無垢な少女に見えるのだが、その翼の色が彼女の冷酷な一面を表していた。
 暗闇と照明の明かりが織り成す公園を舞台に、覚者と妖の戦いは、覚者達が優勢だった。
「数で徐々に制圧し……少しずつ、少しずつ弱らせる……これ、狩りのセオリー」
 物質透過を使い電話ボックスから脱出した森羅が、暗闇の中から突如、姿をあらわした。
「ア゛ア゛ア゛」
 女は目ざとく森羅を見つけるも、怜路がそつなく彼の姿を巧みに隠す。
「……もしかして、今夜は熱帯夜なのかも」
 女を気にすることなく、ぼぅっと夜空を怜路は見上げた。その姿はふだんと変わらない。だが、灰色の無造作ヘアーは空色に、星を眺める瞳は藍色から青に変化している。間違いなく覚醒している。が、制服のシャツが後ろだけはみ出ている彼の姿は、日常時の怜路とさほど変わりないように思えた。
「あれ? 長良、さっき俺ほぼ同じタイミングで覚醒して練覇法していたよな?」
 明が思わず尋ねた。そんな明自身、覚醒しても髪も瞳の色も変化がない。
「あー、……うん」
星を眺めていた怜路が頷きながら、視線を女に移す。
女は髪を振り乱し、血走った目で覚者達を睨んでいた。両手を広げ、前へ突き出す。枯れた枝のようにスジばった手の先、鋭い爪が怪しく光った。同時に、爪が覚者達めがけ爪が放たれた。
「皆、伏せろ!」
 朱色の声が響く。とっさに近くにいた日那乃を彼は守った。
 
●血塗られた場所
 ボン、ボン、ボン、立て続けに爆弾と化した爪が覚者達を襲う。爆発するときの乾いた破裂音は、どこか遠い国のおとぎ話ようで、妖と初めて戦う覚者達には現実味がなかった。が、えぐられていく地面、土埃、壊れる照明、そして鈍い痛み。ここが戦場なのだと、嫌というほど痛感した。
 地に伏せる者、よろめく者がいる中で一番初めに立ち上がったのは、初花だった。
 体の軸がわずかに揺らぐが、赤い瞳は力強く敵を見据える。深緑鞭をしならせ、敵に打ちつけた。それが植物のつるとは思えないほど強靭なものだった。黄色いコートが血に染まる。
「オグアァァ、オグアァァ」
 赤ん坊の声を真似し、女は呻く。
「不倫してたからそうなるんだ! 同情の余地はねぇ、成仏しやがれ!」
 法衣の裾をひるがえし、目を怒らせた明が叫んだ。
戦闘で氣力を失った初花に、自身の精神を転化させ力を補う。
「明、ありがとね! 皆、あんまり無茶すんじゃないよ。フォローならこっちでも引き受けられるから!」
 初花は叫んだ。
 コンパウンドボウを支えに両脚の金属を軋ませながら、朱色が立ち上がる。誰よりもダメージが大きかった。そんな朱色に対し、日那乃は癒しの滴を施す。神秘の力を含んだ滴が、朱色の体力を回復させていった。
「すまない」
 朱色のその言葉に日那乃は無言で首を振り、黒い羽をはばたかせ上空へ舞い上がっていった。
「ガアァァァ」
 さきほどの女の攻撃で、照明は半分以上壊された。
覚者達はそれぞれのスキルを巧みに使う。暗視を使うもの、わずかに残った明かりを頼りに動体視力で女を追うもの、鷹の目で冷静に現状を見極めるもの、皆、体が徐々に戦闘に慣れていくのを感じた。
 満月の背後から怜路がスキルを繰り出す。月の光を凍らせたような青い瞳が、女を無常にとらえる。小さな氷の塊が、女の体を貫いた。
女の前にいた悠がニヤリと笑った。
「爆発とか、アレ? リア充爆発的な?」
 辰の右手となった手で、口元の血を拭うと、
「邪を払い、その魂、浄化せん!!」
 掛け声とともに、召雷を放った。白い強い光に包まれた女のシルエットが闇に浮かび上がる。
女はいまや、舌をだらんと垂らし髪を振り乱し、血塗られたコートの異形なモノに変わり果てていた。
「女でもない俺にはお前の不幸ははかり知れん……俺だって家族をうしなった悲しみはあれど、お前の方が何倍も無念であろうよ!!」
 満月は、黒い炎を宿した刀で女に立ち向かう。続いて、森羅が棘一悶を敵に放つ。女の服に付着した種が急成長し、鋭い棘で女を襲う。黄色いコートはさらに血で汚れていった。
 このままトドメがさせると覚者達は思った。だが、女の様子がおかしい。ただ、立ち尽くし、何かを囁いている。
「……っ!! まずい! 怨みのささやきだ!」
 明は皆に伝えた。覚者達はいっせいに警戒するが、一人、満月だけが地面に膝をつき倒れかけた。満月を支えるように朱色が肩を貸す。
「くそっ、このゴミ虫め。一色さんの体力を奪いやがって!」
 朱色が怒りに震えた。
 
●覚者の覚悟
「満月!! ……っ、よくも!!」
 初花は深緑鞭を振り、女がそれ以上満月に近寄れないようにした。
「ア゛ハハハハー!!」
 女は口を大きく開け、愉快そうに笑い出した。つぅっと血の糸が垂れていく。そんな女に森羅は棘一悶を放つ。たまらず女は笑うことを止め、苦々しく顔をゆがめた。
「ピンチをチャンスに……、やばかったら助けるけど……そうじゃなかったらチャンスの利用一択、でしょう」
「ア゛ア゛ア゛、ナンデーナンデー!!」
 狂った女がくやしそうにわめいた。
 わずかのあいだ、明は瞼を閉じた。
風が舞う。
はたはたと法衣の袖がなびく。呪符と盾を持つ筋肉質な手が一瞬、力を抜いた。
「演舞・清風!!」
空気が加護に力を持ったかのように、仲間全員に味方した。
「悠、いっきまーす☆」
 身体能力の増した悠が元気よく、召雷を仕掛ける。
「ガァァァ!!」
 とうとう女は、その場に倒れこんだ。
 コンバットナイフを構えた怜路が特殊攻撃をしかけた。
 怨念だけで、この世に実体化していた女の体が消えかかっていく。
「幽霊になるくらいだから、いろいろあったのかもしれないけど、オバケでいるよりいいと思う」
 日那乃は水礫を飛ばす。女は正座したまま上体だけ後ろへ倒した。
 女はすでにダメージが大きすぎて起き上がれない。ただ呆然と星を見つめていた。ほんのわずかに呻く声もすでに聞き取れなくなっていた。
女が徐々に消えていく。
「せめて心安らかに眠れるようになればいい」
 満月の刀は黒い炎を宿していた。揺らめく炎の熱風にあおられたかのように、髪が乱れる。いつもは前髪で隠れている右目がのぞいた。右目下の傷は、青年の背負う十字架そのものだった。
 女を天国へ送るため、満月は刃を向けた。
「……っ!!」
 完全に女は消えていった。
だが、満月は首をひねり、女のいた場所を眺めていた。
「どうした?」
 朱色がそばに寄り、尋ねた。
「……消える寸前、女が涙を流していたような。気のせいかもしれんがな」
 その言葉に、仲間も女のいた場所を見下ろす。
「まぁ、今世では最悪な上司と出会ってしまったけど……、来世では良い出会いがあるよう、祈っておくかね」
 ぽりぽりと顎を掻きながら明が言った。そんな明の肩になめがとまる。
「……そうか。ごくろうさん、なめ。皆、相馬が言っていた被害者になるはずだった男子大学生2人が、ついさっき通り過ぎて行ったそうだ」
「ってことは、未来を変えたのね! よっしゃー!!」
 初花が右手を天高く掲げ喜ぶ。それと同時に、赤かった髪が普段のピンクブラウンへ変わっていった。
「ん~、おつかれ」
 怜路もまた空色の髪が灰色へ変わる。次々と、覚者達は姿を変えていく。ようやく、戦いが終ったのだ。
「戦いの途中に一般人が来たらどうしようかと思ったよ」
「あっ、ボク、自主映画の撮影だと言って、出てってもらうつもりだった!」
「劇団の稽古っていうのもある」
「森羅さんが電話ボックスに閉じ込められたままだったら、電話ボックスごと壊す予定だったねー」
 覚者達は、初勝利に興奮しながら帰路についた。
 平穏を取り戻した公園と公衆電話。
 そんな公衆電話ボックスの側には、小さな花がたむけられていた。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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