花粉の匂いしみついて
●花粉の匂いしみついて
最も危険な季節、それは春。たくまずして埋もれた地中の闇に眠る虫や種。それは突然に目を覚まし、芽吹きの季節を告げる。春は巨大な罠の季節。そこかしこで、暁を覚えぬ最低野郎共が眠りにつく。
……もとい、徐々に気温も上がる今日この頃。全国的に花粉の飛散が報じられ、それに伴った妖の出現も確認されている。
街路樹の立つ街中でも、その一つが姿を現していた。
「な、なんだコレ……!?」
スーツ姿の男性の前に姿を現したのは、黄色い人影。手も足も頭もあるが、指も節も顔も無い。形だけ人の姿をした妖であった。
「妖か!? え、えっと、まず110ば―――ふにゃ!?」
慌てて通報しようとした男性の頭上から強力な光が差す。転ぶ程の怪我をしている筈なのに痛みはさほど無い。むしろそれよりも強烈な眠気が男性を襲う。
「ま、ず……ぐぅ」
敢え無く眠りに落ちた男性へ、黄色い人影は自身の体を散らし―――、
●むせる
「こんにちは。今回は私も妖の討伐に参加しますので、よろしくお願いします」
水瀬 珠姫(nCL2000070)が集まった覚者達に資料を渡す。年度末という事もあり、他の面々も忙しいのだろう。
「今回のターゲットは人型に集まった花粉の妖。殴る蹴るはしてこないみたいだから何で人型になってるのかは解らないけど……まあ、気にするだけ無駄かな」
妖は往々にして人の理解を飛び越える存在である。そしてそれが危険な存在である以上、対応策を確立するのが先決だ。
「自然系の妖で粒状……物理攻撃は難しいかも。気を付けて下さい」
最も危険な季節、それは春。たくまずして埋もれた地中の闇に眠る虫や種。それは突然に目を覚まし、芽吹きの季節を告げる。春は巨大な罠の季節。そこかしこで、暁を覚えぬ最低野郎共が眠りにつく。
……もとい、徐々に気温も上がる今日この頃。全国的に花粉の飛散が報じられ、それに伴った妖の出現も確認されている。
街路樹の立つ街中でも、その一つが姿を現していた。
「な、なんだコレ……!?」
スーツ姿の男性の前に姿を現したのは、黄色い人影。手も足も頭もあるが、指も節も顔も無い。形だけ人の姿をした妖であった。
「妖か!? え、えっと、まず110ば―――ふにゃ!?」
慌てて通報しようとした男性の頭上から強力な光が差す。転ぶ程の怪我をしている筈なのに痛みはさほど無い。むしろそれよりも強烈な眠気が男性を襲う。
「ま、ず……ぐぅ」
敢え無く眠りに落ちた男性へ、黄色い人影は自身の体を散らし―――、
●むせる
「こんにちは。今回は私も妖の討伐に参加しますので、よろしくお願いします」
水瀬 珠姫(nCL2000070)が集まった覚者達に資料を渡す。年度末という事もあり、他の面々も忙しいのだろう。
「今回のターゲットは人型に集まった花粉の妖。殴る蹴るはしてこないみたいだから何で人型になってるのかは解らないけど……まあ、気にするだけ無駄かな」
妖は往々にして人の理解を飛び越える存在である。そしてそれが危険な存在である以上、対応策を確立するのが先決だ。
「自然系の妖で粒状……物理攻撃は難しいかも。気を付けて下さい」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.花粉マンを倒す
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
・日中の街中、街路樹のある大通りです。人、車、その他諸々が山ほどありますので必要な場合は対処をして下さい。
●目標
花粉マン:妖・自然系・ランク2:花粉が集まり人の形になった妖。人の姿をしている理由は不明。物理攻撃に対して非常に高い耐性を持つ。
・飛散乱舞:A物全:飛散して周囲に花粉を撒き散らす。涙、鼻水、御用心。[毒]
・ソーラービーム・スプリング:A特遠単:真上から強力な春の日差しを降り注がせる。光のシャワーの中から美女が微睡む。[睡眠]
●参加NPC
・水瀬 珠姫(nCL2000070):特殊型装備で参戦。基本的に他の面々や一般人のサポート、余裕があれば攻撃の方向で動くつもりらしい。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2016年03月25日
2016年03月25日
■メイン参加者 6人■

●
春は芽吹きの季節。春は目覚めの季節。そして春は花粉の季節……今年もまた花粉症の人には厳しい季節がやって来る。
それを象徴するかのように、昼も日中の街中の大通りにソレは現れた。ざざりざざりと擦り合い寄り合い、小さな粒が寄り集まって。
シルエットは人のソレに近いが、それにしては凹凸が無さ過ぎる。色は黄色く、良く見れば小さな粒状……つまり花粉の集合体と解る。
敢えて名付けるなら花粉マンと言った所か。しかしコレは何だ、と見かけた人は首を傾げる。そして数秒の思考の後に気が付くのだ。こういうモノは大抵が妖なのだ、と。
「こちらはFiVEの覚者です! これより妖退治を行いますので近くに居る人は避難して下さい!」
「結界の展開を確認、と。ほらほらー、下がって下がってー! 近くにいると怪我しますよー!」
妖が眼前に現れた事で俄かに慌しくなった大通りに人避けの結界が展開される。四条・理央(CL2000070)の手によるものだ。追随するように水瀬 珠姫(nCL2000070)が周囲に声をかける。
そして逃げ惑う人々を背負うように立つ、先の二人を含めた面々。それは立ち向かう力を持つ者達である。
「噎せるんだろう、ソレ。結局のところは何奴も此奴も強制的に最低野郎にされる訳だ。アハハ! ひどい話じゃないかね、女の子達から嫌われるぞう?」
「普段気にもしない花粉だけどああやって人型の姿で襲ってくると圧巻というか不気味というか……そもそも何故人型なんだろ? うーん、一度気になったら落ち着かないよ」
フルフェイスヘルメットの隙間に指を入れ、花粉対策マスクの位置を調整するのは緒形 逝(CL2000156)。袖余りで口元を軽く押さえながら花粉マンを観察するのは獅子神・玲(CL2001261)だ。
彼らの力を感じ取ったのか、ざわりと花粉マンの表面が蠢く。棒立ちだったポーズも腰を低く下ろし、油断無く現れた覚者達を睨むようなポーズになっていた。まあ、目などどこにも見当たらないが。
「あー……春だから花粉舞う季節になったのはわかるぜ? けどよォ……これは酷すぎじゃねぇか!?」
「トイウカ! 私が現在進行形で辛いのデース! クシュッ! ウー……」
花粉マンが動いた事で急速に飛散を始めた花粉を手で払うのは坂上・恭弥(CL2001321)。リーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)も同様の不満を訴えている。
と、そこに目や口を覆うマスクが投げ渡された。その出所は後方、天明 両慈(CL2000603)である。感極まったのかリーネは両慈へと飛びついていた。
「両慈~♪」
「ふざけている様に見えて花粉症の人間にとっては厄介極まりない存在だ、警戒しておかねばな……それとリーネ、くっ付くな邪魔だ」
しかし今は戦闘開始直前。更に顔面が色々と人様にお見せ出来ない状態である。奇しくも先の逝の言が現実となったが、リーネを一顧だにせずアイアンクローで距離をとっているのはある意味正解だったのだろう。
●
そんな漫才を妖である花粉マンが見逃すはずがない。やはり目も耳も無いが。
エアコンの室外機によく似た爆音を上げ、花粉マンの全身から花粉が撒き散らされる。物理的な攻撃力すら持っているソレは途端に周囲を黄色く染め始めた。
「ゲホッ……ああもう、まだ残ってる! ホラ、逃げて逃げて!」
視界が黄ばむ中、珠姫がまだ残っていた一般人を追い立てるように声をかける。花粉マンの飛散乱舞の範囲外に居た一般人は脇目もふらずに逃げ出したようだ。
「術式戦闘、それなりに手馴れちゃったな~」
そう言いながらひらりと花粉の塊を回避した理央は人差し指と中指を揃えて構え、勢いよく上へ向ける。途端、花粉マンの足元から巨大な火の柱が現れた。火行壱式「火柱」である。
「底上げをするぞ。演舞・清爽!」
「オゥ! 両慈の思いやりが染み渡って……来ないデスね? アレ?」
「ああ、お前だけ除外しておいた。補助は個々で使うんだろう?」
「ワッツ!?」
続いて両慈が味方全体に支援用の術をかけるが、何故かリーネにだけ効果が無いようだ。随分と器用な事をしているが、果たしてこれが吉と出るか凶と出るか。
「こらこら兄ちゃん、あんまり意地悪してやんな―――よっとぉ!」
花粉マンの頭部と思しき部分に爆裂掌を振り抜きながら恭弥が笑う。勢いよく振られた腕と爆発が花粉マンの頭部を吹き飛ばすが、それも何事も無かったかのように胴体から生えてきた。
「全体攻撃はノーダメージで耐え切れるか。まあ、念には念を入れておこうかな」
「ウー……両慈がイジワルデス。ツンデレってやつデスカ?」
逝が土行弐式「蔵王・戒」で、リーネが土行弐式「紫鋼塞」で自身の防御力その他諸々を高める。二人は先の飛散乱舞を躱しきれなかったが、どちらも元来の防御力の高さによってノーダメージで乗り切っていた。
「水瀬さん、手が空いたら纏霧をお願いします」
「了解っ!」
一般人の退避を終えた珠姫に玲が指示を出し、その間も玲が腕を振ると勢いよく水行壱式「水礫」が花粉マンへと迫る。理央の火柱の残滓かブスブスと黒煙をあげる花粉マンだが、与えられた水は必要以上の勢いがついていたようだ。
「しかし花粉の塊か……また変わった妖だな」
支援を終えた両慈が天行弐式「雷獣」を花粉マンへと立て続けに落とす。一発は外してしまうが、もう一撃は見事に脳天に直撃したようだ。
「周囲確認……闖入なし! 天行壱式『纏霧』!」
一般人が近付いていない事を確認した珠姫は、花粉マンの弱体化に入った。粒状の集合体である花粉マンに霧が絡み付き、体の所々が固まり始めている。
「荒事は専門外のはずだったのに」
更に水の追加と言わんばかりに理央の水礫が花粉マンの体を抉る。あまりの勢いに花粉マンの肉体が耐えられなかったようだ。ゴッソリと削られた花粉がべちゃりと地面に広がる。
「おら! 花粉は花粉らしく飛び散ってしまいな!」
続いて恭弥による二発目の爆裂掌が唸りをあげ、爆発の向こう側ではダマになった花粉が街路樹や歩道を黄色く染め上げていた。
「おっさんからすると、この花粉が中々美味しそうに見えるんだけどなあ……なあ悪食や。丁度良いし、アレも喰ってしまおうかね」
ゆらりと切っ先を地面に掠らせた逝が勢いよく直刀・悪食を振り上げると、その軌道をなぞる様に花粉マン目掛けて土の槍が突き立つ。土行壱式「隆槍」のようだ。
「む……流石に直上からの攻撃は解り辛いな」
花粉マンもやられるばかりではないと脳が何処にあるか解らない頭で考えたのか、両慈へソーラービーム・スプリングを放つ。まあ、それもあっさりと回避されてしまうのだが。
「花粉はちょっとあまり得意ジャナイデスネー……デモ! 愛しの両慈の役に立つ為に何とか頑張りマスネ!」
マスクとゴーグルで声がくぐもっているのを聞こえない言い訳にしているのか、リーネのアプローチに対して両慈のリアクションは無い。そして同時に放たれたブロウオブトゥルースも外れていた。
「花粉って食べられませんよね……残念です」
「いや、喰えるよ。免疫付くらしいし、健康食品になるくらいだからな。ポーレンって知ってるかね?」
「えっ? あっ」
玲が肩を落としつつもリーネに続いて波動弾を放つが、それは意外な答えを提示した逝の声に反応してしまったせいか明後日の方向へ飛んで行ってしまうのだった。
「飛び散らんように……削り落とす!」
素早く二度振られた悪食に続くように、隆槍が花粉マンの体を削っていく。その逝の声がくぐもっているのはマスクのせいか、ヘルメットのせいか、口内の涎のせいかは誰も知らない。
「花粉の妖の出す花粉がただで済むとは思えん。手早く片付けるか」
続いて唸りを上げたのは両慈の落とした雷獣だ。指先一つの指示でいとも容易く落とされているように見えるが、その威力に偽りなし。それに足る技量を両慈が持つが故の短い動作である。
「花粉、食べられるんだ……」
玲は交互に遠距離攻撃を使い分けるつもりか、再び水礫を花粉マンへ放る。しかしその瞳の輝きは先の物の比ではない。心なしか動きも良くなっているようだ。
「例え、どんなに咳、鼻水、涙が止まらなくても! こんな辛さをあの子達に味遭わせるくれぇなら全部俺が受け止めてやん―――グゥ」
と、ここで花粉マンが動いた。抉られ、削られ、穿たれて再構成中の腕を恭弥へ向ける。攻撃の前兆と見做した恭弥は身を挺して後衛を守ろうとするも、生憎と標的は恭弥自身である。
真上から降り注いだ暖かい春の日差しに敵う筈も無く、バタリと倒れた恭弥は夢の中へと旅立っていった。暫く起きる気配はない。
「妖を常識で図っちゃいけない。いけないのは分かってるんだけど、これは首を傾げるしかないよね」
切り落とそうが吹き飛ばそうが削り取ろうが程なくして元通りになる花粉マンを見ながら、そう理央がポツリと呟いた。流石に眼に見えて再生速度が遅くなっているのが解るが、それでも不思議な物は不思議なのだ。
「両慈の言う通りデス! 私の調べた所、花粉とはイエ、酷い人に寄ればあまりの辛さに自殺トカしちゃう人も居るらしいデスカラ決して軽いものではアリマセンシネ!」
波動弾のあまりの勢いに花粉を撒き散らしつつもリーネは先の両慈の言葉に追従する。爆音や雷鳴の鳴り響く戦闘中によくそこまで出来るものだ。これが恋する乙女の力なのだろうか。
「そして天明さんは安定の既読スルー……いや、この場合は既聴、ってうわ、外した!?」
珠姫はそれを横目に水礫で攻撃するが、余計な事を考えていたせいだろう。花粉でドロドロになった地面に水たまりが一つ増えるだけであった。
「怪我をする前に目を覚ませ。水行弐式『深想水』」
「んが……? お、おぉ!? 寝ちまってたか!」
行動不能者の回復を最優先に据えている両慈が恭弥に水をぶっかけて目覚めさせる。文字通り寝耳に水だった恭弥は慌てて立ち上がり、花粉マンに対してファイティングポーズをとった。
「どんな形状でも良い戦い方なのに何で人型なんだろ?」
理央は頭を捻るが、袂から術符を取り出して水礫を発動させる手順に淀みは無い。いよいよもって花粉マンの動きが鈍くなってきたようだ。
「さあさ、喰われておくれ。珍しいモノも何でも等しく平らげるぞう」
悪食を手にしたままの逝の左手が花粉マンの肩口に触れ―――衝撃がその身を突き抜ける。土行弐式「鉄甲掌」だ。
更にダメ押しとばかりに右手は花粉マンの頭上、脳天へ添えられる。瞬きの静寂の後、フォームからはまるで重さを感じない一撃は股下まで花粉マンの体を突き抜けた。
バフン、と勢いのままに人型を保てなくなった花粉が舞い散る。体力切れ、即ち討伐完了である。
●
「クシュッ! うぅ……戦ってる最中は当然デスガ、終わってもヤッパリ辛いのデース!」
濛々と花粉が立ち込める中、戦闘も終わったからとマスクを外したリーネが遂に涙を流した。物理的に空間が黄色く染まって見える中で防護を外すとは、リーネも中々にチャレンジャーである。
「あー……皆大丈夫か? とりあえず鼻水とかヤバい奴はほら使えや」
眠らされた時に多少潰れてしまっていたが、恭弥は用意していたティッシュを取り出す。使う分には特に問題は無さそうだ。
「あ、どうも……ヂンッ!」
遠慮なく借りた珠姫は鼻をかんでいたが、女子として少し思い切りが良過ぎないだろうか?
「全身花粉まみれですね……帰ってお風呂に入りたいです」
艶やかな髪や襟、袖口に大量の花粉が侵入していた理央はパタパタと花粉を掃っていた。おい花粉、そこを代われ。
「気付かない内に大分花粉が飛んでいたみたいだな。ゴーグルも視界が悪くなっている」
キュっと指を滑らせればその違いは一目瞭然。このまま帰れば迷惑になるな、と両慈は学園内のシャワー室を借りる算段を始めるのだった。
「お腹すきましたね……それ、本当に食べられますか?」
覚醒時の姿から元の年齢へと戻った玲が、山のように積もった花粉マンの前にしゃがみ込む。その隣には花粉を適当に掴んで口に運ぶ逝が居た。
「うん……んぐっ、悪食の名は伊達じゃゲホッ!?」
花粉を食材として食べる事は出来たが、人間一人分に相当する花粉は相当に粉っぽかったらしい。
心ではなく喉が渇いた逝は地獄を見る羽目となり、盛大にむせるのだった。
春は芽吹きの季節。春は目覚めの季節。そして春は花粉の季節……今年もまた花粉症の人には厳しい季節がやって来る。
それを象徴するかのように、昼も日中の街中の大通りにソレは現れた。ざざりざざりと擦り合い寄り合い、小さな粒が寄り集まって。
シルエットは人のソレに近いが、それにしては凹凸が無さ過ぎる。色は黄色く、良く見れば小さな粒状……つまり花粉の集合体と解る。
敢えて名付けるなら花粉マンと言った所か。しかしコレは何だ、と見かけた人は首を傾げる。そして数秒の思考の後に気が付くのだ。こういうモノは大抵が妖なのだ、と。
「こちらはFiVEの覚者です! これより妖退治を行いますので近くに居る人は避難して下さい!」
「結界の展開を確認、と。ほらほらー、下がって下がってー! 近くにいると怪我しますよー!」
妖が眼前に現れた事で俄かに慌しくなった大通りに人避けの結界が展開される。四条・理央(CL2000070)の手によるものだ。追随するように水瀬 珠姫(nCL2000070)が周囲に声をかける。
そして逃げ惑う人々を背負うように立つ、先の二人を含めた面々。それは立ち向かう力を持つ者達である。
「噎せるんだろう、ソレ。結局のところは何奴も此奴も強制的に最低野郎にされる訳だ。アハハ! ひどい話じゃないかね、女の子達から嫌われるぞう?」
「普段気にもしない花粉だけどああやって人型の姿で襲ってくると圧巻というか不気味というか……そもそも何故人型なんだろ? うーん、一度気になったら落ち着かないよ」
フルフェイスヘルメットの隙間に指を入れ、花粉対策マスクの位置を調整するのは緒形 逝(CL2000156)。袖余りで口元を軽く押さえながら花粉マンを観察するのは獅子神・玲(CL2001261)だ。
彼らの力を感じ取ったのか、ざわりと花粉マンの表面が蠢く。棒立ちだったポーズも腰を低く下ろし、油断無く現れた覚者達を睨むようなポーズになっていた。まあ、目などどこにも見当たらないが。
「あー……春だから花粉舞う季節になったのはわかるぜ? けどよォ……これは酷すぎじゃねぇか!?」
「トイウカ! 私が現在進行形で辛いのデース! クシュッ! ウー……」
花粉マンが動いた事で急速に飛散を始めた花粉を手で払うのは坂上・恭弥(CL2001321)。リーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)も同様の不満を訴えている。
と、そこに目や口を覆うマスクが投げ渡された。その出所は後方、天明 両慈(CL2000603)である。感極まったのかリーネは両慈へと飛びついていた。
「両慈~♪」
「ふざけている様に見えて花粉症の人間にとっては厄介極まりない存在だ、警戒しておかねばな……それとリーネ、くっ付くな邪魔だ」
しかし今は戦闘開始直前。更に顔面が色々と人様にお見せ出来ない状態である。奇しくも先の逝の言が現実となったが、リーネを一顧だにせずアイアンクローで距離をとっているのはある意味正解だったのだろう。
●
そんな漫才を妖である花粉マンが見逃すはずがない。やはり目も耳も無いが。
エアコンの室外機によく似た爆音を上げ、花粉マンの全身から花粉が撒き散らされる。物理的な攻撃力すら持っているソレは途端に周囲を黄色く染め始めた。
「ゲホッ……ああもう、まだ残ってる! ホラ、逃げて逃げて!」
視界が黄ばむ中、珠姫がまだ残っていた一般人を追い立てるように声をかける。花粉マンの飛散乱舞の範囲外に居た一般人は脇目もふらずに逃げ出したようだ。
「術式戦闘、それなりに手馴れちゃったな~」
そう言いながらひらりと花粉の塊を回避した理央は人差し指と中指を揃えて構え、勢いよく上へ向ける。途端、花粉マンの足元から巨大な火の柱が現れた。火行壱式「火柱」である。
「底上げをするぞ。演舞・清爽!」
「オゥ! 両慈の思いやりが染み渡って……来ないデスね? アレ?」
「ああ、お前だけ除外しておいた。補助は個々で使うんだろう?」
「ワッツ!?」
続いて両慈が味方全体に支援用の術をかけるが、何故かリーネにだけ効果が無いようだ。随分と器用な事をしているが、果たしてこれが吉と出るか凶と出るか。
「こらこら兄ちゃん、あんまり意地悪してやんな―――よっとぉ!」
花粉マンの頭部と思しき部分に爆裂掌を振り抜きながら恭弥が笑う。勢いよく振られた腕と爆発が花粉マンの頭部を吹き飛ばすが、それも何事も無かったかのように胴体から生えてきた。
「全体攻撃はノーダメージで耐え切れるか。まあ、念には念を入れておこうかな」
「ウー……両慈がイジワルデス。ツンデレってやつデスカ?」
逝が土行弐式「蔵王・戒」で、リーネが土行弐式「紫鋼塞」で自身の防御力その他諸々を高める。二人は先の飛散乱舞を躱しきれなかったが、どちらも元来の防御力の高さによってノーダメージで乗り切っていた。
「水瀬さん、手が空いたら纏霧をお願いします」
「了解っ!」
一般人の退避を終えた珠姫に玲が指示を出し、その間も玲が腕を振ると勢いよく水行壱式「水礫」が花粉マンへと迫る。理央の火柱の残滓かブスブスと黒煙をあげる花粉マンだが、与えられた水は必要以上の勢いがついていたようだ。
「しかし花粉の塊か……また変わった妖だな」
支援を終えた両慈が天行弐式「雷獣」を花粉マンへと立て続けに落とす。一発は外してしまうが、もう一撃は見事に脳天に直撃したようだ。
「周囲確認……闖入なし! 天行壱式『纏霧』!」
一般人が近付いていない事を確認した珠姫は、花粉マンの弱体化に入った。粒状の集合体である花粉マンに霧が絡み付き、体の所々が固まり始めている。
「荒事は専門外のはずだったのに」
更に水の追加と言わんばかりに理央の水礫が花粉マンの体を抉る。あまりの勢いに花粉マンの肉体が耐えられなかったようだ。ゴッソリと削られた花粉がべちゃりと地面に広がる。
「おら! 花粉は花粉らしく飛び散ってしまいな!」
続いて恭弥による二発目の爆裂掌が唸りをあげ、爆発の向こう側ではダマになった花粉が街路樹や歩道を黄色く染め上げていた。
「おっさんからすると、この花粉が中々美味しそうに見えるんだけどなあ……なあ悪食や。丁度良いし、アレも喰ってしまおうかね」
ゆらりと切っ先を地面に掠らせた逝が勢いよく直刀・悪食を振り上げると、その軌道をなぞる様に花粉マン目掛けて土の槍が突き立つ。土行壱式「隆槍」のようだ。
「む……流石に直上からの攻撃は解り辛いな」
花粉マンもやられるばかりではないと脳が何処にあるか解らない頭で考えたのか、両慈へソーラービーム・スプリングを放つ。まあ、それもあっさりと回避されてしまうのだが。
「花粉はちょっとあまり得意ジャナイデスネー……デモ! 愛しの両慈の役に立つ為に何とか頑張りマスネ!」
マスクとゴーグルで声がくぐもっているのを聞こえない言い訳にしているのか、リーネのアプローチに対して両慈のリアクションは無い。そして同時に放たれたブロウオブトゥルースも外れていた。
「花粉って食べられませんよね……残念です」
「いや、喰えるよ。免疫付くらしいし、健康食品になるくらいだからな。ポーレンって知ってるかね?」
「えっ? あっ」
玲が肩を落としつつもリーネに続いて波動弾を放つが、それは意外な答えを提示した逝の声に反応してしまったせいか明後日の方向へ飛んで行ってしまうのだった。
「飛び散らんように……削り落とす!」
素早く二度振られた悪食に続くように、隆槍が花粉マンの体を削っていく。その逝の声がくぐもっているのはマスクのせいか、ヘルメットのせいか、口内の涎のせいかは誰も知らない。
「花粉の妖の出す花粉がただで済むとは思えん。手早く片付けるか」
続いて唸りを上げたのは両慈の落とした雷獣だ。指先一つの指示でいとも容易く落とされているように見えるが、その威力に偽りなし。それに足る技量を両慈が持つが故の短い動作である。
「花粉、食べられるんだ……」
玲は交互に遠距離攻撃を使い分けるつもりか、再び水礫を花粉マンへ放る。しかしその瞳の輝きは先の物の比ではない。心なしか動きも良くなっているようだ。
「例え、どんなに咳、鼻水、涙が止まらなくても! こんな辛さをあの子達に味遭わせるくれぇなら全部俺が受け止めてやん―――グゥ」
と、ここで花粉マンが動いた。抉られ、削られ、穿たれて再構成中の腕を恭弥へ向ける。攻撃の前兆と見做した恭弥は身を挺して後衛を守ろうとするも、生憎と標的は恭弥自身である。
真上から降り注いだ暖かい春の日差しに敵う筈も無く、バタリと倒れた恭弥は夢の中へと旅立っていった。暫く起きる気配はない。
「妖を常識で図っちゃいけない。いけないのは分かってるんだけど、これは首を傾げるしかないよね」
切り落とそうが吹き飛ばそうが削り取ろうが程なくして元通りになる花粉マンを見ながら、そう理央がポツリと呟いた。流石に眼に見えて再生速度が遅くなっているのが解るが、それでも不思議な物は不思議なのだ。
「両慈の言う通りデス! 私の調べた所、花粉とはイエ、酷い人に寄ればあまりの辛さに自殺トカしちゃう人も居るらしいデスカラ決して軽いものではアリマセンシネ!」
波動弾のあまりの勢いに花粉を撒き散らしつつもリーネは先の両慈の言葉に追従する。爆音や雷鳴の鳴り響く戦闘中によくそこまで出来るものだ。これが恋する乙女の力なのだろうか。
「そして天明さんは安定の既読スルー……いや、この場合は既聴、ってうわ、外した!?」
珠姫はそれを横目に水礫で攻撃するが、余計な事を考えていたせいだろう。花粉でドロドロになった地面に水たまりが一つ増えるだけであった。
「怪我をする前に目を覚ませ。水行弐式『深想水』」
「んが……? お、おぉ!? 寝ちまってたか!」
行動不能者の回復を最優先に据えている両慈が恭弥に水をぶっかけて目覚めさせる。文字通り寝耳に水だった恭弥は慌てて立ち上がり、花粉マンに対してファイティングポーズをとった。
「どんな形状でも良い戦い方なのに何で人型なんだろ?」
理央は頭を捻るが、袂から術符を取り出して水礫を発動させる手順に淀みは無い。いよいよもって花粉マンの動きが鈍くなってきたようだ。
「さあさ、喰われておくれ。珍しいモノも何でも等しく平らげるぞう」
悪食を手にしたままの逝の左手が花粉マンの肩口に触れ―――衝撃がその身を突き抜ける。土行弐式「鉄甲掌」だ。
更にダメ押しとばかりに右手は花粉マンの頭上、脳天へ添えられる。瞬きの静寂の後、フォームからはまるで重さを感じない一撃は股下まで花粉マンの体を突き抜けた。
バフン、と勢いのままに人型を保てなくなった花粉が舞い散る。体力切れ、即ち討伐完了である。
●
「クシュッ! うぅ……戦ってる最中は当然デスガ、終わってもヤッパリ辛いのデース!」
濛々と花粉が立ち込める中、戦闘も終わったからとマスクを外したリーネが遂に涙を流した。物理的に空間が黄色く染まって見える中で防護を外すとは、リーネも中々にチャレンジャーである。
「あー……皆大丈夫か? とりあえず鼻水とかヤバい奴はほら使えや」
眠らされた時に多少潰れてしまっていたが、恭弥は用意していたティッシュを取り出す。使う分には特に問題は無さそうだ。
「あ、どうも……ヂンッ!」
遠慮なく借りた珠姫は鼻をかんでいたが、女子として少し思い切りが良過ぎないだろうか?
「全身花粉まみれですね……帰ってお風呂に入りたいです」
艶やかな髪や襟、袖口に大量の花粉が侵入していた理央はパタパタと花粉を掃っていた。おい花粉、そこを代われ。
「気付かない内に大分花粉が飛んでいたみたいだな。ゴーグルも視界が悪くなっている」
キュっと指を滑らせればその違いは一目瞭然。このまま帰れば迷惑になるな、と両慈は学園内のシャワー室を借りる算段を始めるのだった。
「お腹すきましたね……それ、本当に食べられますか?」
覚醒時の姿から元の年齢へと戻った玲が、山のように積もった花粉マンの前にしゃがみ込む。その隣には花粉を適当に掴んで口に運ぶ逝が居た。
「うん……んぐっ、悪食の名は伊達じゃゲホッ!?」
花粉を食材として食べる事は出来たが、人間一人分に相当する花粉は相当に粉っぽかったらしい。
心ではなく喉が渇いた逝は地獄を見る羽目となり、盛大にむせるのだった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
