モテたくて でもモテなくて泣きたくて
モテたくて でもモテなくて泣きたくて


●商店街にて
 ホワイトデー。
 バレンタインデーのお返しに、キャンディやマシュマロなどを返す日である。一般的には男性が返すのだが、バレンタイン自体が女性のみがチョコをあげるのではなくなったため、ホワイトデーも男女関係なく行われるようになってきていた。
 時代の流れにより変化していくホワイトデー。貰ったものにお返しを。そんな当たり前の礼節が生んだ風習だが、その中には負担になるものもある。
「はー。お返しは三倍で、とかやめてほしいよ。今月どれだけお金飛んでいくんだ」
 曰く『三倍返し』の風習である。経済的面で男性の収入が多かった事が一般的な時代があり、そこからの名残である。大量のお菓子やプレゼントを買う男性。義理堅い性格が女心をつかんでいるのだが、義理堅いがゆえにお返しきっちり三倍分用意していた。
 そこに、
「ホワイトデー三倍返し? ゼロは何倍してもゼロだから痛くもかゆくもないさ!」
「兄さん、夕日が涙でにじんでるよ……」
 そんなことを言いながら歩いている男性二人。涙を流して空を見上げ、前を見ずに歩いていく。そして大量の紙袋を持った男とぶつかってしまう。
「うわあぁ!」
「ああああ、すみませんすみませんすみません!」
「兄さん! ああ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
 ぶつかった兄弟は土下座でもしそうな勢いで平謝りする。紙袋を持った男は立ち上がって頭を下げた。
「あ、こちらこそすみません。荷物が多くて前が見えて無かったので……」
「こちらこそ不注意でした。荷物とか壊れてないですか? 壊れてたら弁償します」
「いえいえ。キャンディとかマシュマロですから気にせずに」
「キャンディ……マシュマロ……?」
 男の何気ない一言に、兄弟はぴくりと体を震わせる。
「ええ。ホワイトデーのお返しで。まったく、面倒なイベントですよね。お陰で今月は財布が悲鳴を上げて……あの……?」
 ため息をつく男の言葉に、ボルテージがどんどん上がっていく兄弟。何か悪いことを言ったのだろうか?
「ちくしょう! 何が『面倒なイベント』だ! 俺達は生まれてこの方、お返しなんかした事ないんだぁ! チョコなんか貰ったことないんだぁ!」
「ううう……。兄さん悲しいよぉ! 俺たち……愛されてないんだね……!」
「だが悔しくなどない! ただバレンタインやホワイトデーの看板を見ていると、涙が止まらないだけだ! 湧き上がる感情を押さえられないだけなんだぁ!」
「兄さん……俺もだよ。俺の中にあるこの胸の滾り……もう爆発しそうなんだ!」
 熱烈に語る兄弟。そして熱演は物理的に炎を生み、風を吹かせていた。
「え、え、わああああああああ!」
 その熱波に吹き飛ばされる男。紙袋を抱え、必死に距離を取る。ちょっとしたトラブルから、商店街は大パニックに陥っていた。

●FiVE
「――と言う理由で破綻者になった二人が相手です。急いで対応してください」
 久方 真由美(nCL2000003)は集まった覚者に、呆れた口調で任務を告げた。



■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:どくどく
■成功条件
1.破綻者二人の戦闘不能
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 しょーもない破綻者依頼です。

●敵情報
・破綻者(×2)
 深度1。モテない男の感情が爆発して破綻者になった兄弟です。名前は神山啓一と啓二。二十三歳と二十二歳です。
 元々はボランティア活動で妖を撃退したりする覚者で、それなりに腕は立ちます。ですが出会いが無かったり気が弱かったりと言う理由でモテません。可愛そうなぐらいにモテません。
 深度が低いため、それなりに会話は可能です。ですが湧き上がる源素の暴走で高揚しているため、説得は不可能です。源素の暴走停止及び治療の為に、一度戦闘不能にする必要があります。

 兄が火の精霊顕現で、『五織の彩』『醒の炎』『火柱』『閂通し』等を活性化しています。
 弟が天の変化で、『B.O.T.』『召雷』『演舞・舞衣』『命力分配』等を活性化しています。

●場所情報
 商店街。周りに人はいますが、破綻者を恐れて遠巻きに見ています。戦闘に巻き込まれることはありません。
 時刻は夕方。明かりは商店街の電灯があります。足場や広さも戦闘に支障なし。
 戦闘開始時、兄弟共に前衛に居ます。覚者達は兄弟から10メートル離れた位置からスタートです。
 経緯がアレですが、緊急事態のため事前付与は不可です。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年03月26日

■メイン参加者 8人■

『愛求独眼鬼/パンツハンター』
瀬織津・鈴鹿(CL2001285)
『緋焔姫』
焔陰 凛(CL2000119)
『デブリフロウズ』
那須川・夏実(CL2000197)
『ブラッドオレンジ』
渡慶次・駆(CL2000350)
『研究所職員』
紅崎・誡女(CL2000750)


 チョコがもらえないから嘆き、その結果破綻者に至る兄弟。
「マジでくだらねぇ奴らだな」
『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)が抱く感想は、その一言に尽きた。正直、興味は全くない。破綻者になった理由もそうだが、モテないから嘆くだとか本当にくだらない。刀嗣の目的は別の所にあった。
「そういうことは思っても口に出すな、刀嗣」
 そんな刀嗣を嗜めるように『星狩り』一色・満月(CL2000044)が口を挟む。とはいえ、彼らになんと言葉をかけていいのかわからないのも事実だ。同情したくはあるが、それが彼らの傷に塩を送りかねない。
「あー、うん、まぁそんな理由でも破綻者になるって事が知れただけでも意味のある事件なんとちゃうやろか」
 どこか呆れるように『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)が呟く。激しい精神の昂ぶりにより破綻者に至ることがあるという。だがまあ、この理由は言葉を失うと言うか、しょうもないというか。悲壮感や被害がないだけに、緊張感が薄れる。
「モテないっていうのはステータスにならないんだ。悲しい程に」
 つらいよな、と言いたげに『オレンジ大斬り』渡慶次・駆(CL2000350)が嘆くように肩をすくめる。必死にもがけばもがくほど、抜けることのできない蟻地獄。脱出の術すら見つからない絶望なのだ。
「愛が足りないのですね」
 祈るようなポーズで悲しそうに『猪突妄信』キリエ・E・トロープス(CL2000372)が告げる。聖人の生誕祭……ではないけど、その関係の祭で愛が足りずに心を闇に落とそうなど。そのような事があっていいものか。
「チョコを貰えなかったお兄さん達なの……悲しい人達なの」
 チョコを手に悲しそうに言うのは『愛求める独眼鬼』瀬織津・鈴鹿(CL2001285)。父と母の愛をふんだんに受けた鈴鹿は、その両親の教えに従って困っている人や助けを求めている人を助けようとする。悲しい兄弟に、愛のチョコを。
「モテないのはマワりの女に見る目が無いだけ……って言っても、ナットクできないのよね……」
 それなりに真面目そうなんだけどなぁ、という表情で『デブリフロウズ』那須川・夏実(CL2000197)がため息をついた。どういう相手であれ、破綻者になってしまったのなら一度倒すしかない。まだ被害は出ていないが、放置すればどうなるかわかったものではないのだ。
(ひとまずは、正気に戻っていただかないとですね)
 思いながら無言で神具を構える『研究所職員』紅崎・誡女(CL2000750)。破綻者になった理由は何とも言えないが、それは過ぎたことだ。今は元に戻すことに全力を尽くそう。その為にFiVEがあるのだから。
「くそう、ホワイトデーなんか……大嫌いだー!」
「俺もだよ、兄ちゃん!」
 嘆く破綻者兄弟。その熱い滾りと共に源素の炎と風が沸き上がる。
 理由はどうあれ、相手は破綻者二人。気を抜けば倒されかねないほどの圧力を覚者達は感じていた。


(さて、しっかりと役目を果たしましょうか)
 最初に動いたのは誡女だった。苦無と鞭を構え、破綻者兄の方に迫る。高ぶる感情により、暴走する炎を制御しきれない覚者。研究所職員として現象自体は気になるが、今は二の次だ。手早く取り押さえて、治療を行わねば。
 兄弟の連携を行わせないように兄の気を引きながら、天の源素を活性化させる。発生した霧は乳白。それが破綻者達の周囲を漂い、その視界を奪う。攻撃を阻害して見方を強化する。それが誡女の戦い方だ。
(上手く分断できればいいのですが……)
「神山啓一と啓二とお見受けする。そ、その……なんだ、なあ?」
 声をかけてから、なんと言葉を続けるか迷う満月。やらなければならないことはわかっているのだが、それを事務的に行うことは憚れる。満月は姉からチョコを貰っているため、悩み自体は共感できないので書けるべき言葉を失っていた。
 気を取り直して抜刀する満月。手にするのは無銘の刀。されどそれは満月が抜刀すれば死を告げる刃となる。地を滑るように振るわれる刀は途中で翻り、さらに大上段から振り下ろされた。白銀が兄弟を同時に切り裂く。
「これ、刀嗣よ。彼等も悪気があるわけじゃないんだ。ほれ、アンタが好きな戦闘じゃないか、もっと喜んだらどうだ」
「悪気がどうとかじゃねぇんだよ一色」
 むしろ悪気があって行動する方がまだマシだった、と吐き捨てるように刀嗣は言う。心身ともに強い者を好む彼にとって、目の前の破綻者兄弟のような存在は相手もしたくない。面倒であることを全身で表現しながら、刀を構える。
 片手で刀の柄を握り、適度に脱力する刀嗣。必要以上の力は要らない。必要以上の動作は要らない。必要なのは目の前の敵を斬るだけの力と速度。秀でた才により必要な力を割り出し、それ以上の力を使わずに刃を振るう。速度と力の混合した二閃が戦場を舞う。
「多少腕が立つんだろ? テメェらの唯一の取り柄なんだから米粒程度は頑張れよ雑魚」
「ボランティア、つまり無ホーシューで妖タイジ……それでウデも立つ。ジューブン男前と思うけどね」
 夢見から聞いた情報を思い出しながら夏実が言う。それで女にもてないというのは相手に見る目がないか、別の要因があるのではないだろうか。そんなことを考えていた。その思考は、激化する戦闘でいったん横に置かれることになる。
 一番後ろで破綻者弟の動向に警戒しながら、前世との絆を強く意識する。精神と呼ばれる未知の部分でつながる前世と現世。その意識と共に術を行使する夏実。二重の意志で形成された癒しの力は、破綻者が与えた傷を冷やし、そして癒していく。
「ゼヒもないってヤツだわ。アラリョージと行きましょ!」
「せやな。殴ってどうにかせんと。……あ、兄やん。もしあたしを倒せたら好きなだけ胸触らせたるで!」
 気を引く意味を含めて、破綻者兄に向かって胸を張って言う凛。言われた兄はと言うと、胸から目をそらして挙動不審になりながら手を振って断っていた。こういう冗談を受け流せないあたりがモテない要因なのだが、まあそれはともかく。
 抜刀して映える燃え盛る焔のような刃紋。それが凛の炎を受けて赤く光る。刀身を回すようにして間合を詰める。体に刻んだ剣術の動き。一瞬の隙を見つけ、破綻者に踏み込んだ。回転の勢いを殺さぬ焔の刃が破綻者に襲い掛かる。
「焔陰流『廻焔』――あたしの焔もなかなかの物やろ」
「燃える思いなら負けませんですよ。いざ燃えよわたくしの心、わたくしの体」
 目をぐるぐる回してキリエが手を広げる。その姿は抱擁の形。全てを受け入れ、そして許す愛のポーズ。愛されないがゆえに暴走した彼らを包み込もうと、愛をもって迎え入れるのが神の愛。桐栄はそれを身をもって実践しようとしていた。
 キリエは体内の源素を燃やし、自らの身体を活性化させる。その後に二人に近づいて抱きしめ、そのまま自分事炎に包み込む。辛い事や悲しいことはある。だが、世の中はそれだけじゃない。楽しい事や嬉しいこともあるのだ。
「あなたがたはさいわいです。持たぬつらさを知ること、与えるときに役立つことです」
「いろんな国を回ったが、過激な宗教家は何処にでもいるもんだな」
 バックパッカーとして世界を回ったことのある駆が、キリエの様子を見てそんなことを言った。それが人を救う方向に向かっているのだから、それ以上は何も言うことはない、とばかりに『アチャラナータ』を握りしめた。
 覚醒した駆は二十代の若々しい姿に変わっていた。鍛え上げられた筋肉で巨大な神具を構え、体内の炎を燃やす。その熱が若返った肉体をさらに活発化していく。強化された身体能力により打ち出される一撃。シンプルかであるがゆえに止めることは難しい。
「長期化すればこちらの被害が大きくなる。一気に攻めるぞ」
「はーい。お兄さんたちのために頑張るの」
 元気よく手をあげて答える鈴鹿。無邪気な動作だが、それゆえに戦闘行為に関しては残酷。戦場で人を傷つくことを怖がることはなく、むしろそれを楽しむ節があった。そして不幸なことに、それを嗜める両親は、鈴鹿のそばに居ない。
 額に第三の瞳を開眼させ、両手を破綻者弟の方に突き出した。放たれる光は呪いの光。光は破綻者に命中して絡みつき、その動きを阻害していく。動きが鈍った破綻者に笑顔を向けて、励ますように鈴鹿は手を振り上げる。
「ボランティアで妖を撃退する優しさ、中々ないの! 少なくとも私はお兄さん達に好意は持ったの!」
「あ、ありがとう……! でもフルボッコとかないんじゃないかな!」
「弟よ、これが世間に対する俺達への態度なんだ!」
 若干意識があるのか、破綻者兄弟は攻撃を受けて涙を流す。破綻者が源素暴走で周囲に被害を与えかねない以上、総攻撃は世間の態度として正しいのだが。
 順調に攻める覚者達。だが破綻者兄弟も元は戦闘経験のある覚者の為、易々と倒れることはない。
 戦いは少しずつ激化していた。


 破綻者弟を中心に攻め立てる覚者達。回復や戦闘支援を行う弟を先に落とし、その後に兄の作戦だ。凛の一撃で分断し、覚者達が割って入り分断する。
 だがそれは、同時に覚者自身も分断されることになる。個人戦闘力としては覚者に勝る破綻者相手に戦力分散を行えば、被害も分散して与えられることになる。
「……っ!」
「きついなぁ、もう!」
 破綻者兄の攻撃で誡女と凛が膝をつく。命数を燃やして何とか意識を保ち、仲間の回復を受けて立ち上がる。
「ちっ……! 雑魚の分際で!」
「まだまだ負けませんです」
 刀嗣とキリエが破綻者弟の稲妻を受けて命数を削る程の傷を受けた。共にその事実をかみしめ、それぞれの思いを抱き立ち上がる。
「焔陰流二十一代目(予定)焔陰凛、参る!」
 勝負はこれからとばかりに気合を入れる凛。破綻者の炎と凛の炎。純粋な威力なら破綻者に分があるが、瞬発的な輝きは凛に旗が上がる。それは武と源素の融合。代々受け継がれた焔陰流と言う剣術が、凛と言う剣士により新たな段階へと昇華される。
「へえ、なるほど」
 凛の動きを見ながら刀嗣は破綻者と切り結ぶ。仲間の動きから学ぶところは多いが、戦闘中に目の前の敵から気を抜くほど軽率でもない。手にした神具を振るいながら、確実に相手を追い詰めていく。米粒程度には楽しめそうだ。
「こら刀嗣、よそ見をするとまた倒されるぞ」
 よそ見しがちな刀嗣を嗜めるように満月が告げる。今日は始終この役割だ。言いながら満月も刀を振るい、破綻者弟を追い詰めていく。満月の剣術は復讐と言う心が生んだ戦闘技術。満月はそれを人を救うために振るう。
「ああ、あなたがたも胸が滾りますか? わたくしも、神への愛で胸が燃えておりますですよ!」
 満身の笑顔でキリエは炎を生む。この胸の滾り、神への愛。それが伝わるまで何度も、何度も。キリエの根底にあるのは愛されなかった者への哀しみ。そしてそれを救いたいという心。その想いを源素に乗せて、火柱と化して放たれる。
「サスガにボウソウしているだけあって、火力がスゴいわね」
 必死になって癒しの術を行使し続ける夏実。戦いは夏実が予想した通り短期決戦になっていた。それは覚者の集中放火が功を為したこともあるが、破綻者の火力が強いという事もある。必死に盛り返そうと、、夏実は回復術を行使する。
「お兄さんたち結構強いの。これは二段重ねで回復した方がいいの!」
 戦局を見て、鈴鹿も回復に回る。最初は攻撃に回っていたのだが、予想以上に破綻者兄弟の攻めが激しくなってきた。相手は妖退治を行う覚者が元となった破綻者。その動き方も、精練されていた。油断をすれば一気に逆転される可能性もある。
「大人しく眠りな。煩悩退散!」
 弱ってきた破綻者弟に駆が迫る。悩みとしては納得できるが、こちらもこちらの事情がある。先ずはおとなしくさせて、話はそれからだとばかりに巨大な剣を振るった。大地を蹴って駆け抜けるような一閃。それが破綻者弟を地に伏す。
(これで勝利は確定ですね)
 破綻者兄の炎の一撃を受け止めながら、誡女は勝利を確信する。強化を行う破綻者弟を倒せば、あとは全員で破綻者兄に集中砲火を加えるのみ。兄弟の暴走する源素を元に戻す為に、誡女は霧を放って破綻者の動きを封じる。
「啓二ー! お前の仇は討ってやるぞ! モテない男の想いをここに!」
「いや。そういう話ちゃうし」
 猛る破綻者兄にツッコミを入れる凛。そのまま神具を構えて間合いを詰める。
「悪い人やないんやけどな。ま、こいつで終いや」
 凛の刀が緋を纏う。熱波が風を生み、空気を清浄化する。
 構えは正眼、踏み込みは氷を滑るように。
 僅かな拍子で翻るは、炎の二閃。
 刀の軌跡が朱色の残像を残す。その残像が収まるより早く凛は口を開く。
「古流剣術焔陰流。その身に刻みぃや」
 ちん、と言う納刀の音。それと同時に破綻者兄は崩れ落ち、意識を手放した。


 元々妖退治などを行い頑強だったことと深度が浅いこともあり、兄弟の意識はすぐに戻った。治療自体は経過観察も含めて必要だが、
「「すみませんでした」」
 助けてくれた覚者に土下座するほどに回復していた。
「人は惑いあやまちを犯すものです。嵐の後に、すこやかな気持ちを取り戻してくださいね」
 キリエはそんな兄弟の手を取り、胸に引き寄せる。そして笑顔を浮かべて言葉をつづけた。
「そしてわたくしと共に愛を伝えましょうあっ大丈夫です怪しい宗教ではないですますからちょっと信者が少ないのと神様が一般的じゃないだけでむしろ多神教なニッポンでは受け入れやすい素地があると思うのですよだから――」
 目玉をグルングルン回して早口で勧誘を始める修道女。おちつけ、と言いながら覚者達がキリエを遠ざける。
「男のモテないのは本当カッコつかないよね。この面この腹で言うけど、誰が気にするって自分が一番気にするんだよな」
「うう、情けない話で申し訳ありません」
 覚醒状態を解いて四十代の肉体に戻った駆が頷きながら言う。兄弟は深く頷き同意していた。
「お兄さん達。遅くなったけど私からのバレンタインチョコなの。お兄さん達の『初めて』……鈴鹿が貰うの」
『よろしければどうぞ。あまり思いつめないでくださいね?』
 鈴鹿と誡女がチョコを渡しながら兄弟に言葉(誡女は読み上げソフト使用)をかける。女性陣のやさしさに感涙する兄弟。鈴鹿がこっそり『三倍返し期待してるの』と言っているが、まあ。
「チョコもらったの? 良かったじゃない。でも、ソレでマンゾクするのはダメだからね? そのままクサらずガンバッてれば結果はそのウチついてくるワ」
 夏実がチョコを貰って喜ぶ兄弟に告げる。このまま頑張ればいつか兄弟の良さが分かってくれる女性が現れる。気が弱くとも頑張る兄弟にエールを送った。
「馬鹿馬鹿しくてやってられねぇぜ」
 そんな空気を破るように刀嗣が言葉を挟む。
「お前らが女に相手にされねえのは当然だ。顔は凡俗のテメェらがモテてぇっつんなら、それなりの努力をしやがれ。
 出会いがねぇなら作れ。雑魚でも身だしなみやらに気をつけて積極的にやりゃあ、それなりに相手にされんだよ。それすらしねぇからテメェらは救えねえってんだ」
 どこか兄弟を見下したような刀嗣の言葉。満月がフォローしようと言葉を挟む前に、兄弟たちが動く。
「なるほど! それで具体的には!」
「身だしなみとかどういうのがいいのでしょうか!」
 刀嗣の言葉に、むしろ喜々として教えを乞う兄弟。予想外の反応に一瞬戸惑う刀嗣だが、自分で考えろ、と言って会話を打ち切った。
「でも出会いは重要やな。どや、FIVEに来おへんか? 元々ボランティアで妖退治するくらいやから、誰かの為に何かしたいって思いがあるんやろ?」
「FiVEには麗しい女性が多い。出会いが多ければ、そこからよき縁が結ばれることもあるだろう」
「FiVE……まさか、あんた達あの?」
 凛と満月が兄弟をFiVEに勧誘する。出会いを増やそうという同情的な理由もあるが、純粋に善き覚者であることが好感を生んだようだ。

 この日、FiVEに新たな覚者二人が加わることになった。


■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『マシュマロ詰め合わせ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員



■あとがき■

 ハッピーホワイトデー!
 ……まあ、ホワイトデーの側面を描いたという事で、一つ。




 
ここはミラーサイトです