地上15メートルの戦い
地上15メートルの戦い


●奴らは空からやってくる
 塩見の職業は警備員、主な仕事は現金の輸送。今日も相方と一緒に現金輸送車に金を入れて本店へと運んでいくところだった。
 今日も問題なく仕事が終わる、そう思いながら信号待ちで車を止めた時、事件は起こった。
 突如目の前に現れた人影、彼は右手に持っていたサブマシンガンのトリガーを引くと輸送車に弾丸のシャワーを浴びせた。
「後ろの荷物もらえるかな?」
 サブマシンガンを捨てて尋ねる男、気が付いたら同じようにピストルを構えた男が二人、何か糸のようなもので上から降りて来て、車を包囲した。
 数分後、塩見は糸のようなものを使って空高くへ去っていく男達を茫然と見送ることしかできなかった。

●高さ15メートルの綱渡り
「皆さん、お集まり下さりありがとうございます。今回は隔者三人組の捕獲をお願いします。隔者の名前はストリンガー、ワイヤーキッド1号、2号、彼らはストリンガーズと自分達の事を言っています」
 久方 真由美(nCL2000003)は感情を抑えた口調で今回の任務内容を告げ始めた。
「予知その他を精査した結果、今回皆さんはこのビルの屋上に上がったところで彼らと遭遇します」
 広げた住宅地図のビルに丸を一つ。次にビルからビルへとマジックで線を引き始めた。
「ビルとビルとの間には彼らが逃走用に仕込んでおいたワイヤーがあります、彼らはこれを使って逃走しますので皆さんもそれを使って追撃する形になります。他のビルからの潜入は施錠等の関係などでタイミングを逃すため、スタート地点はこのビルだけです。そして……」
 真由美が何か遠い目をしながら資料を出す。
「こちらがストリンガーズの情報になります。モンタージュの通りですが……全身タイツです」
 資料には全身タイツの男のモンタージュ画像が書き込まれていた、決めポーズ付きで。
 



■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:塩見 純
■成功条件
1.隔者集団『ストリンガーズ』の捕縛
2.なし
3.なし
しおみのかんがえたさいきょうのかくしゃしりーず

どうも塩見です。
今回は高いところでの隔者との追っかけあいと洒落こみましょう。

敵のデータは以下の通りです。

『隔者集団:ストリンガーズ』
蜘蛛糸とハイバランサーを組み合わせた新しい犯罪を目指す隔者集団です。
黒地に白のワイヤーフレーム模様の全身タイツを着用しています。
主に高いところから蜘蛛糸で現れて、ひったくりから強盗まで様々な盗みを働きます。
メンバーは三名、以下の通りです。

●ストリンガー
ストリンガーズのリーダーにしてこの能力を犯罪に使うことに情熱を注ぐ自信家です。
全身タイツに同じ模様のマスクをしています。
・暦の因子、木行
・ピストル所持
・蜘蛛糸
・ハイバランサー
・小手返し
・棘一閃
・棘散舞
・ボーラ投擲:(非ダメージ及びバランスが崩れます)
・ストリンガーマニューバユニット(SMU)
 長さ20メートルのアンカー付きワイヤーと自動巻き上げ機能を持つ機動装置です。アンカーは取り外し可能で予備含めて3つもっています。

●ワイヤーキッド1号、2号
自分と同じ能力をストリンガーに見いだされた隔者の少年です、覚醒時は20代の若者に変身します。
若さゆえか全身タイツの上にフライトジャケットを着る中途半端さを持っています。
・現の因子、天行
・ピストル所持
・蜘蛛糸
・ハイバランサー
・纏霧
・召雷
・演舞・清風
・ストリンガーマニューバユニット(SMU):アンカー残り3つ

●戦場
高さ15メートルのビル街です。



II
□=□=■←スタート地点

このように五つのビルの屋上に約10メートルの逃走用のワイヤーが張ってあり、これを
使って逃走を図ります。

屋上では普通通り戦えますがワイヤーの上では、人ひとりの幅もなく何らかのスキルが無いと移動で精一杯です。
投げ技やボーラを受けてしまった場合は転落の可能性があります。

飛行についてもワイヤーのある地点では高度飛行の適用を受けます。
ワイヤーの上では地面から出てくる系統のスキルは出来ません。(当依頼のみの制限です)

転落したら、何らかの方法を取らないと即戦闘不能です。

ワイヤーは最後のビルへのルート以外は2本、最後のビルへの道は1本張られています。


それでは皆様地上15メートルの戦いをお楽しみくださいませ。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
7/8
公開日
2016年03月26日

■メイン参加者 7人■


●地上15メートルでの遭遇
 ビルの屋上へと付着する蜘蛛糸。
 伸縮するそれを利用してビルの屋上、地上15メートルに上がってきたのはボディラインが目立つ、ワイヤーフレーム柄の全身タイツとマスク。続いて同じタイツの上にフライトジャケットを羽織った男が二人。
「軽いもんだぜ、なあ? お前ら?」
 現金の入ったバッグを片手に男――ストリンガーが部下のワイヤーキッド達へと呼びかける。
「そうですね、こんな簡単に行くなんて」
「自分達の能力でこんなことが出来るんだなとは思いませんでしたよ」
 外見に比べて口調は幼いのは彼らが現の因子を覚醒しているからだろう。二人の若者の言葉にストリンガーはそうだろうと頷き。
「これからもこうやって続けていこうぜ、俺達のビジネスをな」
「怪盗気取りの隔者集団、か。もっとこう、ポリシーとか匂わせつつスタイリッシュな感じだと、それっぽくてカッコよかったんだけど」
 遮る言葉は上空から、指崎 まこと(CL2000087)が翼をはためかせ、彼らを見下ろしている。隣ではエルフィリア・ハイランド(CL2000613)悪戯猫のような笑みを浮かべていた。
「ワイヤーで高所から盗みを働くとか美学が出来そうじゃない。これで強盗じゃなくて気付かれずに盗むとかだったら拍手してあげたのにね~」
「高いところからご高説どうも」
 切り返すストリンガーのマスクから覗く口元には余裕の笑み。
「けれど、ビジネスに美学もスタイリッシュも関係ないさ、必要なのは額に汗して能力を活かす。それだけだ」
 切った啖呵に嘆息を漏らすまこと。
「結局の所、ただの犯罪者だな」
 直後、階下から屋上へと続く扉が開き
「速やかに叩き潰すとしよう」
『だく足の雷鳥』風祭・雷鳥(CL2000909)がランスを片手に突撃する。背後の敵もろとも貫き殺す一撃はすんでのところを回避され、現金の入ったバッグを貫く。
「いまから40年ほど前に、高さ400m以上のツインタワーの間を綱渡りした人物がいましてね。勿論、覚者ではない一般人です」
 バッグからこぼれた札束が空に舞う中、聞こえるのはマン・オン・ワイヤーと呼ばれた昔話。革靴が床を踏む音と共に語り部たる『教授』新田・成(CL2000538)が屋上に現れ、語りを続ける。
「それに比べれば、彼らの、そして我々の行いの如何に矮小な事か」
「……確かに能力を得たとはいえ、達人の域に達した者にとっては俺達はその程度の技量だろうな」
 次々と入ってくる覚者達を認め、ストリンガー達は構える。
「でも何かに拘るって言う情熱は悪くはないよね、ただ方向性を間違えちゃー、どんなすばらしい技術も台無しよ……なーんてそれっぽいこというキャラじゃないの、問答無用でぼこぼこにしてやんのが一番よね」
 雷鳥がランスを構えなおして、突撃に備える。
「そりゃ困る、悪いが退散させてもらうぜ。お前ら! 逃げるぞ!」
 事前に仕掛けた逃走用ワイヤーへ向かって駆けだすストリンガーズ。かくして高さ15メートルの逃走劇は始まった。

●地上15メートルの綱渡り
「ワオ! これは何か映画の撮影とかデショウカ?」
『『恋路の守護者』』リーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)がワイヤーに足を乗せながら声を上げた。
 展性のある金属製のワイヤー。靴よりも細いそのワイヤーの上をリーネは歩く。
 ――ハイバランサー
 優れた平衡感覚を持つこのスキルが無ければこのような芸当は覚者であっても不可能であっただろう。
「それは置いてオイテ、とにかく掴まえないとデスネ!」
 視線の先には同じくハイバランサーを駆使して逃げる三人の隔者達。
「しかしあの格好、恥ずかしくないのデショウカ?」
 追いかけながらもリーネは一人呟いた。
「ストリンガーズ? ……ただの窃盗犯だろうが。格好いいつもりか?」
 平行するもう一つのワイヤーを突き進みながら葦原 赤貴(CL2001019)は呟く。その髪と瞳は銀と赤に染まり片手に持つ大剣には赤い魔術文様が浮かぶ。
(鳶職にでもなって真っ当に働けば良いものを……覚者の力を悪用する輩は許せんな)
 背後に続くのは椿屋 ツバメ(CL2001351)。長い髪を二つにまとめ、額に第三の眼を開眼する少女は初任務の緊張を奥へ押し込んで、身体に宿る炎を燃やして隔者退治へと向かう。その姿を認めると殿を務める成はツバメに蒼鋼壁を纏わせて、攻撃への備えとする。
「極論しちまえばそうさ、銀髪君。で、君達は何だい? 自警団? 正義の味方? 法治国家なのに大きい武器だね」
 ストリンガーはからかう様に答えながらワイヤーを渡り切ると、覚者へと振り返り。
「とはいえ全員がハイバランサーやら対策組んできてるってことは噂のFiVEってところか? おい二人ともぬかるんじゃないぞ」
 彼の指示に従い1号、2号が応え、清風たる演舞と覚者に纏いつく霧を作る。当の本人はというと、飛行を活かして回り込んでいたエルフィリアのネビュラビュートを深緑鞭にて打ち払い、返す刀で一撃。エルフィリアも同じように鞭を振るって、絡みつかせ威力を殺す。傍らでまことの紫鋼塞が身を堅める中――
「あんたの情熱はいーけど、私の速さへの情熱に勝てるかなぁ?」
 丑の獣憑が低空を飛ぶ燕のような速さで一閃! ストリンガーの肩をかすり、タイツが舞う。それに目もくれず雷鳥は床を蹴って反転、更に一撃を叩き込む、目標は……
「これ狙いかよ、勘弁してくれよ!」
 腰についている起動装置ストリンガーマニューバユニット(SMU)狙いの飛燕をバク転にて回避。着地したところに飛ぶのはリーネのB.O.T.それをギリギリのところで避ける。
「この程度のワイヤーを走り抜けるくらい、覚者なら誰だって出来マスネー♪」
 衝撃波を放ったライフルを構えつつ挑発も忘れない。
「言うねえお嬢さん。お前ら、そっちは大丈夫か?」
「あんまりよろしくないです、ボス」
 転がるようにストリンガーに寄ってくるのは赤貴の疾風斬りを受けたワイヤーキッド1号、2号。傷は深くはないが容赦のない一撃と痛みは人の戦意を大いにくじく。
「よし、なら……お前達は先に行って場所を確保してこい! こいつらは俺が引き受ける」
「イエス! ボス!」
 答えるなり1号と2号がフライトジャケットから抜き出すのは拳銃。けれど普通と違うのは銃口に取り付けられたアンカー。二人はそれを次の逃走先であるビルの壁めがけて打ち込む、直後モーターの回転音が鳴り響きアンカーに取り付けられたワイヤーが彼らの腰にあるSMUに巻き上げられる。その勢いを以って二人が隣のビルに移動したことを確認するとストリンガーも跳躍してビルの間に張られているワイヤーの上に着地した。

●地上15メートルの軽業芸
「さて、お集まりの皆さん。ご存知と思いますが蜘蛛糸には弱点がございます」
 ワイヤーの上に立つストリンガーが芝居がかった口調で語り始める。
「ある程度の集中を要するため、このような戦闘状況では使えない。全く便利な能力ですが都合良くはいかないものです」
 横を飛行して回り込もうとするまこととエルフィリア、そこへ飛ぶボーラがエルフィラの翼に絡みつき、飛行に伴う力を阻害する。
「チィッ……!?」
 舌打ちと共に集中し蜘蛛糸を放つ赤貴、糸は翼人の足に絡みつき、落下のスピードを抑え込む。しかしエルフィリアが体勢を立て直すまでは蜘蛛糸を維持する必要があるために、その場を動くことが出来無い上に戦闘にも参加できない。
「こんな風にね」
「つまりはそれを補うのが腰についている、それという事ですか?」
 成が指摘と共に放つのは下段からの切り上げ抜刀。それは彼が放つB.O.T.の動作でもある。
「お客様、答えを言ってしまっては困ります」
 腕を十字にして衝撃波を受け止めるストリンガー、そこへ演舞・舞衣にて全員の状態異常の回復を促した雷鳥が走り、突撃を敢行するが、隔者は隣のワイヤーへと飛び移ることで攻撃を回避した。
「まあ、弱点もありまして。伸縮性のないワイヤーですから蜘蛛糸のようには使えず、アンカーを使わないといけません、そしてアンカーは先ほどのように銃で射出しないと行けない……まあ一長一短ってやつよ」
 蔵王にて強化しつつ先回りするまことを尻目にリーネの衝撃波を後ろに飛び上がることで回避してビルの屋上へ着地する。着地を狙って飛んでくるツバメの破眼光を身を捻って避けるとビル屋上の真ん中へと歩いていく、待つのは彼の部下たる現の隔者達。
「行けるな?」
『行けます』
「それじゃセールストークは終わって第2ラウンドと行こうか?」
 部下の言葉を聞き覚者へ向き直るストリンガー、そこに飛び込むのは金髪の翼人。
「なら……十天、指崎まこと。いざ尋常に勝負といこう!」
 スピードを乗せた十天の盾が地面を強烈に叩きつける。大震がコンクリートを揺らし、彼らをビルの反対側へと吹き飛ばす、同時にそれは覚者達の足場を確保することにも繋がった。
「おっさき~」
 体勢を立て直したエルフィリアの棘散舞が1号に撃ち込まれ、成長した蔓が傷口を割きながら絡みつく。
 痛みに耐えつつも1号、続いて2号が雷雲を呼び前衛に対して雷を落とす。まことの紫鋼塞によって強化された盾が雷を反射させ行使者へと稲光が突き刺さる。
「おい、犯罪者」
 地を這う様に疾走するのは赤貴、疾風の如き剣筋とともに問いかける。
「やることに自信があっても、顔を隠さずにはいられないか?」
「顔堂々と晒して、武器振るうほど恥知らずでもないんでね」
 返答と共に赤貴の視界が動き、空が見えた。大剣の一撃を喰らうも踏み込んだストリンガーが腕を絡め足を払う、疾風の如き大剣の勢いを利用しての小手返し。コンクリートに叩きつけられる少年。
 起き上がる赤貴の間近で空気が鳴る。
「ま、でもさー、やってることは結局強盗とかひったくりだし、安いね」
 雷鳥の突撃槍がストリンガーの脇腹を削ぎ、鮮血と衝撃が貫殺撃によってビルの外まで飛んでいく。
「あと、ソノ……その格好は流石に変態と思うのデース……」
 好機と見たリーネが再度挑発しライフルを構え、成も仕込みを構える。斬撃と銃撃、2種類のモーションから放たれるB.O.T.が1号へのさらなる追撃となり、直後ツバメが白狼を振るう。地を這う様な一撃が足を刈り、膝を落とした1号へ跳ね上がる刃、地烈が生み出す二連撃が止めとなり現の隔者が一人、地に伏せた。

●地上15メートルの犯罪者達
「やられたか……」
 目の前で倒れる部下を見て呟くストリンガーに2号が不安そうに問いかける。
「ボス、どうしますか?」
「担いで逃げる自信はあるか?」
「……無いです」
「正直でよろしい。では逃げるぞ」
 二人が次のビルへとつながるワイヤーへと走り出した。
『犯罪者』
 赤貴が呼びかけるようにして気の弾丸を掃射する。振り向いて打ち払ったストリンガーに対して2号は背中を撃たれバランスを崩す。尚も赤貴は言葉を続ける。
「他人のものを掠め取って生きる恥知らずにも、自分はクズだという自覚はあるか」
 暦の隔者は自らへのランス突撃を足で受け止め、その反動でビルへたどり着く。
「だから、一見奇抜な格好で中身の醜さから目を逸らさせようとする」
 体勢を立て直した現の隔者へと翼人の少年がエアブリットを放ち、動きを止め。そこへ翼人の乙女が棘散舞を撃ち込む。
「だが無駄だ。その程度では滲み出る腐臭は隠せない」
 破眼光が肩を貫き、二つのB.O.T.が胸を裂く。
「魂が、腐っているのだからな」
「言うねえ、少年。妖退治の名のもとに武装する覚者は違うということかい?」
 倒れ行く2号を視界に捉えながら、言葉を切り返す。少年は黙して剣を振るうが隔者は一歩踏み込み、密接する距離に入り込む事で大剣の威力を殺し、顔を近づける。
「AAAでもなく警察でもなく軍隊でもない。時には憤怒者といえど人を殺す……お題目が違えば七星剣や俺達と違うと言うのかい?」
 隔者は笑い、そして誘う。
「自分に素直になってみたらどうだ? お前達は俺と同じところに居るかもしれないぜ?」
「力には責任が伴うと誰かが言ってました」
 遮るのは熟成された重みのある声。
「それを真似ていれば、貴方も私達のようになれたのかもしれません」
 成の仕込みが光った。
「ごめんだね、腐った者には太陽はまぶしくてね」
 皮肉と共にピストルを抜き、最後のビルへとアンカーを打ち出そうとする……が
「なるほど、本命はこっちか!?」
 仕込み杖で弾かれたアンカーがコンクリートの上を転がるのを確認するとピストルを成に向ける。
 直後、まことが撃つ圧縮空気の弾丸がストリンガーの腕を射抜き、発射された弾丸は違う方向へと飛んでいく。
 不利を悟り距離をとる隔者。間髪入れずに雷鳥の刺突が疾る。男は更にバックステップ! 数ミリで穂先は胴に届かなかったが、速さを追求する彼女の情熱が槍を持つ右肩を『入れ』腕を『ねじ込み』届かなかった距離を埋める。飛燕による刺突二連撃――その二撃目がストリンガーの腰にあるSMUを貫いた。そこに放たれるリーネのB.O.T.
 衝撃波が銃弾のように螺旋を描いて解き放たれ、隔者の胸に叩き込まれる。
 劣勢の犯罪者はスライディングでエルフィリアの鞭とツバメの鎌をかいくぐると、自らの得意なフィールドであるワイヤーの上に立ち、向き直る。
「さて、一本道……誰からくる?」
 痛む身体を庇いながらもストリンガーは不敵に笑った。最初に来たのは勿論雷鳥、体力の消耗も厭わずに放つは飛燕の連撃、身を捻って避ける隔者に翼人による高高度からのエアブリットとネビュラビュートが休む間もなく襲い掛かる。高さがある故に狙いを定めるのは難しかったが続けざまに放った赤貴の烈波が動きを止め、そこへツバメとリーネが狙いを定める。
「甘い」
 一言呟いてストリンガーはワイヤーに体重をかけ、それを揺らす。展性を持つが故に揺れる足場。才能を自負し、能力を磨いた一日の長が二人の攻撃を回避する。そして次に来るであろうB.O.T.に備えようとして殿を務めている成の姿を見かけないことに気づいた。
「そういえば」
 声は足元から聞こえた。
「世界の高層建築物を命綱無しで登り、蜘蛛男と呼ばれる人もいます」
 重力に逆らうかのように成がワイヤーの「下」を歩く。面接着による接着効果が重力を無視した逆さウォーキングを実現させてワイヤーの向こう側へと移動させる。
 舌打ちと共に振り返ってボーラを投げる隔者。だが既に移動を済ませていた成は下段に構えた杖にそれを絡みつかせる。重さと勢いで抜かれていく鞘、それが抜刀のプロセスとなり衝撃波が放たれる。
 背中を撃たれ、たたらを踏むストリンガー、ビルの上に回り込んでいたエルフィリアは抱き着くように隔者の身体をつかむと捻りを加えて落下、空中で彼を放り投げる。
 ――ビルの下から鈍い音が響くのは一秒もかからなかった。

●地上15メートルの捕縛劇
「蜘蛛糸で易々降りられる高さ……要は、覚悟も半端だ。分かりやすい」
 赤貴は落ちたストリンガーを蜘蛛糸で回収すると他の部下と共に縛り上げる。まことは縛り上げられた三人に対してやりにくそうに応急処置を施すと隔者が目を覚ます。
「スミマセン……さっきはちょっと言い過ぎマシタネ」
 目を覚ました男達にリーネが謝罪する。任務のためとはいえ挑発したことに多少の罪悪感を感じていたのかもしれない。
「ヒーローとして能力を使えば、きっと格好良いデスヨ♪」
「ま、どんないい才能もしょうもないことに使っちゃだめってこったね~」
 槍を肩に担いで雷鳥が続く。そして杖を回収した成が彼らの前に立つ。
「強盗の前科があるなら即座に無罪放免というわけにはいきませんし、貴方は自分がやっている事を自覚している」
 その目は射抜くように鋭く、新田 成という男がどこに『居た』かを思わせるもの。それは懐にしまっていた眼鏡をかけた時には消えていた。
「でももし罪を償って、やり直したいという気持ちがあるなら、今度はヒーロー志望として、我々の門を敲きなさい」
「そして……」
 彼らの見えないところから聞こえるのは赤貴の声。
「撤回させてみせろ。オマエらの魂が腐っていないと」
 それは嘘偽りのない本心からの言葉であった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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