われわれはーうちゅーじんだー
われわれはーうちゅーじんだー


●その呪文は一体何なのだ?
 『それ』はいつも考えていた。自身の役割は何なのだろうと。
 見れば、暑い暑いと自分に近づいてくる人間も多い。
 おそらく、この人間達の暑さを冷ます為に我は作られたのだろう。
 だが、それはそれで、悪くはない。時には黙って羽根を回し、時には首を振って羽根を回していた。我の働きによって空気の流れが生まれ、人間達に心地いい環境を作っている。
 もっとも、それは暑い夏の一時だけ。寒い時期には埃を被っていることもしばしば。
 それでも、また暑い時期が来ればその埃は洗い落とされ、再び、熱気の中で風を送り出していたのだが……。
 我の前に集まってきた子供達が、意味不明な言葉を我に吐きかけてくる。
「われわれはーうちゅーじんだー」
 それは一体どういう意味なのか。まれに我にそう語りかけてくる者がいて、気になっている。
 そうだ、昨年も、その前の年もいたではないか。
 それが、意味するものは一体何なのだ……!?
 突然、妖と化したそれが動き出す。その言葉の意味するところを求めて、己の内から湧き出す衝動のままに。

「われわれはー、うちゅーじんだー」
 可愛らしい声で、扇風機に向かってそんな言葉を呟くのは、久方 万里(nCL2000005)だ。何とも可愛らしい彼女のその姿に、覚者達は思わず和んでしまうが。
「これ、皆もやらなかった?」
 万里のその言葉に、覚者達は驚く。万里は遊び半分でやってはいたのだが、ちゃんとこれには意味があるのだ。
「ずばり、扇風機が妖になっちゃったんだよ!」
 万里が若干食い気味に覚者へと近づいてきて叫ぶ。愛らしい彼女の間近で見つめる覚者だが、とりあえず説明をと万里に促す。
「んー、妖は、京都市内にある竹ノ内家で発生するんだよ」
 このお宅で使いこまれた扇風機。妖となったことで、それは大きく形を変える。回転する羽根が鋭い刃となり、あるいは、プラグから電気を発生させ、竹ノ内家の人々を傷つけてしまうという。
「ランクは2だよ。知性は獣並みだから、意志疎通は難しいかも」
 万里が覚者に送った映像では、竹ノ内家の8歳と6歳になる息子達が『われわれはー、うちゅーじんだー』と扇風機へと呟くのをきっかけに、妖は動き始めている。この言葉が何か関係しているのだろうか。
 とはいえ、人に害なす妖となってしまうのであれば、覚者として黙ってはいられない。物質系の妖ならば、破壊するしかないだろう。
「竹ノ内家の人達と接触する必要があると思うけど、『F.i.V.E.』の名前は基本的に出しちゃダメだからね!」
 現段階では事を荒立てたくはないという上の意向だ。それは守ってもらうように願いたい。
「それじゃーね、皆の活躍、期待してるよ!」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:なちゅい
■成功条件
1.妖の討伐。
2.なし
3.なし
 初めましての方も、どこかでお会いしたことのある方もこんにちは。なちゅいです。
 夏の風物詩、扇風機。「われわれはーうちゅーじんだー」を含めて。とはいえ、そんな扇風機すらも人に害なす妖となってしまうご時世です。残念ではありますが、皆様、覚者の手で破壊してください。
 以下、詳細です。

●敵
 妖:物質系 ランク2×1体。会話はできません。
 元は扇風機です。妖になったことで、羽根が刃のようになり、プラグからは電流を発するなど、攻撃的な見た目になっています。
 物質系の妖の例にもれず、術式は効果が薄いようです。
・刃の羽根……物単貫・出血 刃の羽根をブーメランのように飛ばしてきます。
・ショート……特遠全・痺れ プラグから放電してきます。
・押し潰し……物近単・BSはありませんが、その体で相手を押し潰そうとします。その一撃はかなり強力です。

●状況
 京都市内の竹ノ内家。平屋ですが、それなりに大きな家です。
 事件は居間で起こります。その時、居間には8歳、6歳の息子達が扇風機へと「われわれはーうちゅうじんだー」と呟いております。また、台所に彼らの母親がいます。
 覚者の皆様は昼間、事件が起こる10分前に到着します。さほど猶予はありませんので、効率的に行動することが事態収拾のカギとなるでしょう。

 それでは、今回も楽しんでいただければ幸いです。よろしくお願いいたします!
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(2モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年09月14日

■メイン参加者 8人■

『未知なる食材への探究者』
佐々山・深雪(CL2000667)
『ブラッドオレンジ』
渡慶次・駆(CL2000350)
『ぬばたまの約束』
檜山 樹香(CL2000141)
『黒い靄を一部解析せし者』
梶浦 恵(CL2000944)
『楽しけりゃ何でもいい』
ディスティン ミルディア(CL2000758)

●楽しい思い出と目の前の現実
 妖退治を行うべく、現場へと向かう『F.i.V.E.』所属の覚者達。
「さて、今回のお役目は一般家屋に侵入して、扇風機型の妖を打ち倒すことじゃ」
 『樹の娘』檜山 樹香(CL2000141)の言う通り、一行はとある民家に向かう。その途中、メンバー達の話題はやはり扇風機が中心となっていた。
「われわれはーうちゅーじんだー……いやぁ、子供の頃は僕もこうして遊んだ記憶があります」
 『便利屋』橘 誠二郎(CL2000665)が発端となって話を振ると、不死川 苦役(CL2000720)があーと大声を上げる。
「あー! あれな!! やったやった!!」
 苦役は、子供の頃にプールでビートに乗ろうとしたり、冷蔵庫がどこまで閉まれば中の電灯が消えるか試したりした話をする。
「やんなかった!? 俺すっげーアホみたいにやったわー!」
 それに、鯨塚 百(CL2000332)が目を輝かせて興味を抱いていたようだ。他のメンバー達も、子供の頃にやった楽しい遊びについて語り合う。
「そういうの分かるなあ、ボクも小さい頃、扇風機に向かってよく言ってた覚えがあるよっ」
 『未知なる食材への探究者』佐々山・深雪(CL2000667)は苦役の主張に同意しつつも、今は大人になったから、「あ゛ーー」くらいしか言わないけどと語る。
 深雪がちらりと百の方を振り返ると、彼はちょっとだけ声をどもらせて、「われわれはーうちゅーじんだー……」と声を響かせている。それがまた、深雪にとってはなんとも微笑ましい。
「実家にいたときは、夏がくるたびにやってたぜ」
「そういえば、どこでもこの遊びのセリフといえばコレですが、なぜなんでしょうね?」
「その前に『あ゛ー』ってやるのも基本だよな。なんかついつい言いたくなるんだよ」
 誠二郎が百の呟きを聞いて首を傾げる。
 余談だが、元はとある映画が発端らしい。……それはさておき。
「今年はこんな形でやることになるなんてな……まさか家の中でいきなり妖が出るなんて、あの家の人達も思ってないだろうしな」
 しんみりと百が呟くと、メンバー達の表情が引き締まる。あくまで、相手は人に害なす妖なのだ。
「1体の妖に8人の覚者。つまりはそういう相手ってこった」
 『オレンジ大斬り』渡慶次・駆(CL2000350)が自分を含め、2、3人倒されても驚かないと語ると、メンバー達は現実を突き付けられたように黙ってしまう。
 その空気を変えようと、苦役がなんとか話題を振る。
「やっぱり、付喪神的なアレやソレやで中古品には色々憑きやすいんかねー」
 それはそれで、家電量販店に出てこられても困ると、彼は苦笑いしてしまう。
「家の中にはまだ親子がおる。なんとか巻き込まぬようにして打ち倒したいものじゃ」
「ああ、家族みんなが無事でいられるよう、妖扇風機をやっつけなきゃな!」
 樹香の懸念を払拭するように、百が叫ぶ。
「猶予はありません。先行して皆さんの誘導を行いましょう」
 メンバー達の前に見えてきた竹ノ内家。それを目にした誠二郎が仲間達に呼びかけると、メンバー達はこくりと頷くのだった。

●一般人の避難を
 さて、竹ノ内家へとやってきた覚者一行。
「さーて、お仕事開始しますか!!」
 苦役はそう言いながら、早速その家のインターホンを鳴らす。ただ、彼は周辺の様子を見てくると、すぐにその場からさらっといなくなった。
 やれやれといいながら玄関の前へ立ったのは、誠二郎だ。スキルもあって、彼が竹ノ内家と直接応対する手筈になっていたのだ。
 樹香は誠二郎が応対する間、万が一の時に素早く家の中へ侵入できるようにと近場で様子を窺うことにしていたが、使うつもりでいた迷彩のスキルをセットしていないことに気づく。ただ、彼女はそのままの状態で息を潜めることにしていたようだ。
「合図でツッコめばいいんだね?」
 『楽しけりゃ何でもいい』ディスティン ミルディア(CL2000758) も、誠二郎が竹ノ内家の人々を避難させると聞き、その完了を待って突撃を行うのだと仲間に確認する。
「ええ、お願いします」
 同じく、梶浦 恵(CL2000944)も誠二郎がうまくやってくれることを信じ、竹ノ内家のそばに身を潜めていた。
(特に、子供の「われわれはー、うちゅーじんだー」は言わせるわけにはいかない。その前に行動しなければな)
 駆も目立たない場所に潜むが、彼の体躯はやや目立つ。通行人が幾人か、その姿をジロジロと見ていたようだ。
 近場で隠れていたメンバーに対し、百は敢えて壁にボールを投げつけ、遊ぶ素振りを見せながらスタンバイを行っている。
 深雪は竹ノ内家の屋根の上で待機していた。守護使役のゆーりーの力を借り、彼女は足音を立てずに屋根へと上っていたのだ。万が一、失敗したときに備え、子供達の注意を扇風機から逸らすようにと、深雪はコミック誌の最新号や携帯ゲーム機を用意している。
(家は大きいから、別の部屋で遊ばせたらいいかなぁ)
 もしもに備え、深雪は色々と考えていたようである。

 竹ノ内家の面々を避難させる任を担う誠二郎は、家の中から出てきた母親と応対していた。
「……ええ、近所に引っ越してくるので、挨拶をと思いまして」
 彼は母親と目を合わせ、魔眼の力を使用する。しばしその力に抵抗していた母親だったが、とろりと呆けたような顔をしたところを見ると、どうやら成功したらしい。
「お子さんを連れて、今すぐ買い物に行かなければいけないと思ってもらいましょうか」
 誠二郎は母親が催眠状態になったのを確認し、簡単な暗示をかける。
 すると、母親は買い物に出かけるわよと家の中にいる子供達へ呼びかけた。嬉しそうに外へと飛び出してきた子供達を連れ、母親はそのまま家から出ていった。
 周辺の様子を窺っていた苦役。車でも準備して子供達を寝かせようか、などとも考えていたようだったが、どうやらその必要はなかったようである。
「それじゃ、苦役くん、頼みますよ」
 誠二郎が今度はそう苦役へと振り返すが、そのまま買い物へと出かけた母親はどうやら施錠を忘れていたようである。
 そこで、誠二郎が合図を行い、メンバー達は玄関へと集まる。その際、百と樹香が家を結界で包み込んでいた。
「意思が強ければ効果がないのは気になるが、使わぬよりはよいじゃろうて」
 それに同意しつつも、覚者達は家の中へと入っていく。メンバー達が真っ先に探すのは、目的の……いや、討伐対象となる扇風機だ。
 発見したのは深雪。居間にどんと置かれたそれは、少しだけ茶色味を帯びて古ぼけた扇風機だ。どうやら、まだ妖化してはいない様子。
 研究資料になるかもしれないから妖化する前に撮っておきたいと、誠二郎はカメラを構えてシャッターを切っていた。
「家を壊したくないから、できれば扇風機は外に出したいね」
 そして、あの言葉をと深雪が考えていると、同じく外で戦うことを希望している駆が、縁側に向けて思いっきり蹴り飛ばす!
 庭に転がる扇風機。ただ、それでも動く様子はない。
 これはやはりと考えた恵は、その扇風機の電源コードを伸ばして、家の中にあるコンセントへと伸ばそうとする。
「ちょっと待って」
 だが、醒の炎をかけて準備を行っていた百がそれを止め、プラグを差す前に例の言葉をかけるよう仲間達に促していた。
 その言葉を扇風機へかける前に覚者一行は布陣を整える。
「ちょっと恥ずかしいのじゃが……」
 樹香がそれを口に出すことを躊躇するが、準備を整えた仲間達が息を吸い込むのを見て、「ええい、戸惑っている暇はない」と、樹香も覚悟を決める。
「「「われわれはーうちゅーじんだー」」」
 メンバー達が掛け声を行う体勢は様々。苦役は格好良くポーズを決めて叫んでいたし、百も深雪の期待通りに可愛らしく叫んでいた。そして、樹香はちょっと可愛らしい声で、「我々は宇宙人だー……」と告げる。
 ガタガタガタガタ……。
 そこで、妖が異音を立てて本性を現す。丸っこい扇風機のイメージから一変し、刺々しく鋭い刃をむき出しにした容姿へと姿を変える。
 メンバー達もそれを確認し、各自覚醒を行う。
 とりわけ、姿が大きく変わったのは、駆だ。
「ナウマクサンマンダ・バサラダン・カン!」
 彼が叫ぶと、中年太りした腹が引っ込み、顔は引き締まって髪が生えてくる。若かりし頃の姿に戻った彼は、妖を前にしてその身を燃え上がらせるのだった。

●人を傷つける家電
 ガタガタガタガタ……。
 見た目が禍々しい姿に変わった扇風機。人の為に作られたはずの家電も、妖となれば元の用途など関係ないらしい。その全てが人に害をなす存在となってしまうのだ。
「さて、始めようかのぅ、お前様方」
 恥じらいの熱も冷めて地に戻った樹香が前線に立ち、彩の因子の力を使う。彼女は全身を通して、彩の力を溜めていく。
 幸いにして覚者達の思惑通り、家の外に妖を追い出すことには成功している。家への被害を全く気にしないわけにはいかなかったが、力を必要以上に加減する必要もない。
 樹香の術式は木行。植物の力を行使する彼女は、薙刀の刃先を通じてそれらを妖にぶつける。
「時間がないから、ぱぱっとやっちゃうよー!」
 そう叫ぶ深雪も、まずは体内に宿る炎を活性化させることで己の力を高めていた。
「気合十分っ」
 深雪が自己強化を図る間に、誠二郎と百が身構える。
「では橘の家に伝わる杖術の妙、お見せいたしましょう」
 誠二郎は赤い両目で敵の動きを注視し、敵の攻撃のタイミングを見計らう。隙をついた彼は聳孤(しょうこ)という名の丸棒を、目にも留まらぬスピードで連続して叩き込む。
「ぶん殴るぜ! おりゃあ!」
 側面からは百が拳を振りかぶる。家を取り囲む壁までも破壊しないよう気を付けながら、ロボットのように変化した腕で殴りかかった。
 前線で戦うメンバー達のサポートを行うのは、中衛に陣取る恵だ。
「超短期戦を目指しませんと」
 覚醒しても見た目は変わらない恵。彼女は竹ノ内の子供達が帰宅しないかどうか気を配りつつ、仲間達へと浄化を促進する力を振りまいていく。
 前方では、駆が地を這う軌跡から、大きくアッパーカットを妖に繰り出していた。
(全体攻撃ができる敵だ、数人行動不能にされる覚悟で臨まないとな)
 その駆に続き、苦役も所々赤黒いパイプのような外装に仕込まれた直刃を突き出す。
「『F.i.V.E.』から補修費用とか出るなら、面倒にならずにすむんだけど!!」
 髪を灰色に、そして瞳を赤く変色させた苦役は愚痴りながらも、刃を妖の機体へと刻みこんでいく。
 次々に、物理攻撃をメインに妖へと攻撃を浴びせかけていく覚者達。
 そこで、ガタガタと身を震わせ、妖が動く。動き自体はかなり鈍重なものの、飛ばした刃は一直線に、後方まで貫通するほどの威力で勢いよく飛んでいく。それはまさに、ブーメランのようだ。
「みんなを傷付けさせないっ!」
 ダブルシールドを両手で握るディスティン。その右手は機械のそれへと化している。刃を受け止めはしたものの、完全には受け止めきれず自身も傷ついたディスティンだが、仲間達に危機を促しながらも、癒しの滴を生み出して前に立つ仲間の傷を癒す。
 ガタガタガタガタ……。
 覚者の血を滴らせた羽根を定位置に戻した妖。そいつはなおも怪しげな音を立て、周りにいる人間全てを手に掛けていくのである。

●それは寿命というべきか
 刃先がギラリと光り、飛んでいく扇風機の羽根。覚者はもちろんのこと、塀だろうが壁だろうがかまわず、破壊しようと飛んでいく。
「壊させてたまるか!」
 百が身を挺して止めようとするが、刃は容赦なく彼の体を切り刻む。
「大丈夫、オイラ結構頑丈だぜ……」
 全身から血を流す百を見て、苦役が苦々しい顔をして叫ぶ。その傷は、扇風機に手を突っ込んだなどと言う生易しい傷ではない。
「な、な!! とりあえずもうアレ、使いモンになんねーよな!?」
 それなら、プラグを切ってしまおうと彼はコード目がけて刃を振り下ろす。確かに傷はつくが、妖と化したその機体はコードまで硬くなっており、そうやすやすとプラグが取れることはなかった。
 さらに、誠二郎が妖へと武器を叩き付けていると、そのプラグの先からビリビリと電気が発生したのに気づく。
「放電、来ます!」
 それに応じた恵が、圧縮した空気を妖へと浴びせかける。敵の機体を狙い撃って体勢を崩そうとするが、妖は動じる様子がない。それどころか力を高め、電流を覚者達へと浴びせかけてくる。
「ごめん……ね」
 仲間達をカバーしようと立ち回っていたディスティン。彼女はそれに耐えようと頑張っていたが、あえなく力尽きてしまう。
 ディスティンの回復に当たろうとしていた樹香だったが、残念ながら間に合わなかった。妖の強力な一撃に倒れてしまった彼女から顔を背けつつも、仲間達に植物の生命力を凝縮した滴を振りまく。その彼女に、恵が填気を使って気力の補填を行っていたようだ。
(倒れる時も、最後まで最大のダメージを与え続けることが最良だ。いてえのは嫌いだけどな)
 そう考える駆は、一の構えを取って巨大な鉈を振り下ろす。とにかく、効率よくダメージを与えるのが最良と彼は判断していたのだ。
 攻めの一手を打ち続けていたのは、深雪も同じ。仲間の援護を信じ、彼女は怒り狂う獣の一撃を妖へと叩き込む。とはいえ、妖の動きが鈍くなっていたことを察した彼女は、少しだけ手加減をしていたようだ。
 それでも、妖の機体にヒビが走る。もう限界が近づいてきていた。
「ぶち抜け、バンカーバスター!!」
 叫ぶ百が正面から拳を叩き込む。すると、扇風機は妖の力を完全に失い、元の扇風機へと戻っていったのだった。

●扇風機の行く末は……
 妖……いや、すでに元の古い扇風機へと戻ったそれは、ガラガラと音を立てて崩れ落ちる。
 その残骸は、長年使われ続けて壊れた家電と変わらない。その姿は哀愁すら感じされた。そんな扇風機に、樹香が一礼する。
「お主のおかげでこの夏を過ごせたぞ、ありがとうのぅ」
「……声はもう届かないかと思いますが」
 続いて、その残骸に声をかけたのは、恵だ。
「『あの言葉』は、貴方の送ってくれる風と、声を合わせて、空気が振動している事を感じとれる遊びでもあり、子供達なりの実験という勉強なのですよ」
 妖としての力を失った扇風機。もし聞こえていたなら、恵の言葉に納得してくれただろうか。
「あーあー、壊れたモノを直す術式とかあればいいんだけど」
「完全に壊れてしまったら熱い夏、扇風機使えなくなったら困るからね」
 駆も、深雪も、竹ノ内家の誰かが戻ってくることを懸念する。
 ともあれ、この場から退散しようと、倒れたディスティンを連れてその場から離れていくメンバー達。
 しかし、数人は扇風機が気になるようで、その場から離れられずにいた。
「さて、物質系の妖では何か変化はあるのでしょうか?」
 苦役はその残骸を写真に残す。うまく資料が取れたら、ボーナスがもらえないかと考えて。
 ただ、そこに帰ってきた母親。なんでも、財布を忘れてしまったらしい。壊れた扇風機を目の当たりにした母親へ、百が頭を下げる。
「ごめんなさい、この扇風機が妖になっちゃってたのを偶然見つけたから、倒さなきゃと思って……」
 先ほどこの近くでボール遊びをしていた彼を、母親は覚えていた。ならば、それを察してくれたのは僥倖だったと母親は考えたようだ。
(この壊しちゃった扇風機とか、『F.i.V.E.』で弁償できないのかなぁ……)
 謝罪をする百も嘆息する。すでに立ち去ったメンバーと同じことを考えていたようだ。
「それは……すみませんでした……」
 この場にいるメンバーが覚者と知って少しだけ警戒して母親だったが、素直に謝る百の姿には、感嘆していたようだ。
「妖を討伐したことは感謝しますが……。それを処理してお引き取り願います」
 愛着のある扇風機ではあるが、妖となったのであればやむを得ないと母親は考え、覚者達に引き取ってほしいと告げる。
 その残骸は、恵が快く受け取っていた。
「……子供達の実験の先生になっていて貰いたいですね」
 ほぼガラクタになってしまった扇風機。だが、研究の為に、研究所へ持って行きたいと恵は考えていたのだ。
 恵の手によって運ばれていった扇風機の残骸は、研究材料として利用されることになるのだが、それはまた別の話である。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

覚者の皆様、お疲れ様でした。
MVPは、素直に謝罪をした純真なあなたへお送りします。

ボロボロに崩れた扇風機ですが、今後の研究に行かされることでしょう。
一方、竹ノ内家には新しい、羽根のない扇風機がやってきました。
これはこれで、あの言葉を言うことがなくなるのが残念です……。
参加された皆様、本当にありがとうございました!




 
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