《紅蓮ノ五麟》裏の裏のそのまた裏に
●
紅蓮が飲み込む。街を、思い出を、――逢魔ヶ時紫雨の炎が。
五麟は今、空前絶後の事態に存亡の危機を迎えている。血雨部隊から帰ってきた覚者は皆、変わり果てた街に唖然とした。
刻、一刻と七星剣により飲み込まれていく街。最早これ以上、奴等に何も譲るものは無いのだ。
全ての百鬼をこの街から追い出す為、FIVE覚者の長い夜はまだ終わらない。
●
戦いを終えて戻って来た覚者達をFIVEを夢見が迎えてくれる。渡される温かい飲み物が心地良い。
しかし、いつまでも休んではいられない。早速覚者達に次の依頼が伝えられる。
覚者達への依頼は、『禍時の百鬼』の補給部隊を撃破することだ。
現在五麟市は『禍時の百鬼』という隔者組織の攻撃を受けている。以前よりFIVEは覚者組織『黎明』と協力関係にあっただが、それは偽りの姿。真の姿は、隔者組織『禍時の百鬼』だったということだ。元より裏切るつもりで近寄って来た、ということなのだろう。
FIVEは『血雨』と呼ばれる災厄への対応のため、本部が手薄な状況となっていた。その間隙を突いて、彼らは動き出したのだ。
戦力が少ない中で、覚者達の奮戦の甲斐あって最初の襲撃を防ぐことには成功した。『血雨』対応の覚者達も戻って来た。ここからはFIVEの反撃だ。
そこで夢見の『イエロー系女子』大岩・麦(nCL2000116)が感知したのは、『禍時の百鬼』の補給部隊の存在だった。隔者だって休まず戦えるような無尽蔵の力を持っている訳ではないのだ。
補給部隊は公園に配置されており、それを撃破するのが今回の目的となる。だが話はそう簡単ではない。補給部隊に戦闘力は無いが、周辺には警戒部隊がいる。戦闘が長引けば長引くほど、警戒部隊は数を増やしてくるだろう。警戒部隊に気付かれないようにしたり、工夫を行う必要もあるだろう。
『禍時の百鬼』が勝利すれば、FIVEが今までに集めた神秘は収奪されてしまうことになる。それ以上に五麟市――覚者達が今まで過ごしてきた場所が蹂躙されてしまうということだ。それを防ぐためにも、覚者達は戦わなくてはいけない。
そして、手早く状況を聞いた覚者達は次の戦いに向かっていくのだった。
紅蓮が飲み込む。街を、思い出を、――逢魔ヶ時紫雨の炎が。
五麟は今、空前絶後の事態に存亡の危機を迎えている。血雨部隊から帰ってきた覚者は皆、変わり果てた街に唖然とした。
刻、一刻と七星剣により飲み込まれていく街。最早これ以上、奴等に何も譲るものは無いのだ。
全ての百鬼をこの街から追い出す為、FIVE覚者の長い夜はまだ終わらない。
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戦いを終えて戻って来た覚者達をFIVEを夢見が迎えてくれる。渡される温かい飲み物が心地良い。
しかし、いつまでも休んではいられない。早速覚者達に次の依頼が伝えられる。
覚者達への依頼は、『禍時の百鬼』の補給部隊を撃破することだ。
現在五麟市は『禍時の百鬼』という隔者組織の攻撃を受けている。以前よりFIVEは覚者組織『黎明』と協力関係にあっただが、それは偽りの姿。真の姿は、隔者組織『禍時の百鬼』だったということだ。元より裏切るつもりで近寄って来た、ということなのだろう。
FIVEは『血雨』と呼ばれる災厄への対応のため、本部が手薄な状況となっていた。その間隙を突いて、彼らは動き出したのだ。
戦力が少ない中で、覚者達の奮戦の甲斐あって最初の襲撃を防ぐことには成功した。『血雨』対応の覚者達も戻って来た。ここからはFIVEの反撃だ。
そこで夢見の『イエロー系女子』大岩・麦(nCL2000116)が感知したのは、『禍時の百鬼』の補給部隊の存在だった。隔者だって休まず戦えるような無尽蔵の力を持っている訳ではないのだ。
補給部隊は公園に配置されており、それを撃破するのが今回の目的となる。だが話はそう簡単ではない。補給部隊に戦闘力は無いが、周辺には警戒部隊がいる。戦闘が長引けば長引くほど、警戒部隊は数を増やしてくるだろう。警戒部隊に気付かれないようにしたり、工夫を行う必要もあるだろう。
『禍時の百鬼』が勝利すれば、FIVEが今までに集めた神秘は収奪されてしまうことになる。それ以上に五麟市――覚者達が今まで過ごしてきた場所が蹂躙されてしまうということだ。それを防ぐためにも、覚者達は戦わなくてはいけない。
そして、手早く状況を聞いた覚者達は次の戦いに向かっていくのだった。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.ユニット「補給部隊」の撃破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
燃える五麟より、KSK(けー・えす・けー)です。
戦いはまだ続きます。
●戦場
五麟市内の公園です。ここに陣取った敵補給部隊を攻撃していただきます。
足場や灯りに問題はありません。
隠密などを行い、相手に襲撃を気づかれるのが遅ければ周辺の警戒部隊が来るのを遅らせることが出来るかも知れません。
●隔者
・禍時の百鬼
体術メインの前衛タイプが4人、術式攻撃メインの前衛タイプが4人、術式メインの回復後衛タイプが2人います。
実力は基本的にFIVE覚者に劣ります。
偶数ターンの終了時に、体術メインの前衛タイプ、術式攻撃メインの前衛タイプ、術式メインの回復後衛タイプが1人ずつ増援として戦場に現れます。
・補給部隊
敵集団や補給物資を集めたものですが、1つのユニットとして扱います。
体力は高めです。
攻撃や回避を行うことはありませんが、威力判定のために回避値の計算は行われます。
中衛にいるものとして扱われます。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年03月18日
2016年03月18日
■メイン参加者 8人■

●
五麟の街が燃えていた。
逢魔ヶ時の攻撃が終わることなく続いているのだ。かろうじて急襲を凌ぎはしたものの、完全に撃退が出来た訳ではないのだ。ここからがFIVEと覚者の正念場である。
「御羽たちの街が燃えてるの、人がいっぱい逃げてるの、怖いよお兄ちゃん」
紅蓮の五麟を目の当たりにして、『赤ずきん』坂上・御羽(CL2001318)は兄の『侵掠如火』坂上・懐良(CL2000523)にしがみつく。その足は恐怖に震えている。
無理も無い話だ。たしかに覚者ではあるが、彼女は最近まで田舎でひっそりと暮らしていた。戦闘経験も碌に無い。そんな少女がいきなり戦うなど、無茶も良い所だ。
兄である懐良はそんな御羽の頭をそっと撫でる。
一方、このような状況にあって、『猪突猛進』葛城・舞子(CL2001275)は余裕の笑みを浮かべていた。残念な頭の作りのせいであろうか。或いは存外大物なのかも知れない。
「隔者だって癒しは必要ッス!」
舞子の連れる守護使役せせりと、『凛の雫花』宇賀神・慈雨(CL2000259)の連れる遥夜によって、隔者達の補給部隊の配置は明らかになっていた。
「その癒しを裏から叩き潰す! いやらしいッス! でもそういう作戦嫌いじゃないッス!」
先ほどまでせせりが鳥目なんじゃないかと心配していた舞子だったが、やることがはっきりしてしまえば気軽なものだ。
「表舞台ほど派手じゃないッスが、確実に戦況に影響がでるはずッス! やってやるッスよ!」
「うん、御羽もふぁいぶのかくしゃだから、ひゃっきさんとたたかうの。
怖いけど。
でもっ、もう見ているだけはいけないと思うから」
意気を上げる舞子に続いて、御羽も覚悟を決めた。覚醒すると第3の瞳が額に開く。
たとえ力が及ばなくても、たとえ怖くてたまらなくても、彼女にだって正義感はある。何かを守りたい、大事にしたいという想いがある。彼女だって、光を目指したい。
『狗吠』時任・千陽(CL2000014)は仲間達の様子を確認すると、敵の配置を物も言わずに伝える。源素の力による一種のテレパシーだ。言葉だけに頼らずすむ分、こちらの方が手っ取り早いし確実だ。偵察の中で比較的警戒の薄い場所は確認済みだ。そこから向かえば、ある程度戦闘に余裕もできるだろう。なので、千陽自身も闇に紛れるよう、黒い外套を纏っている。
「まだまだ夜は明けませんが明かない夜もまたありません。暁を超え、曙光を迎えるために」
そう、今はまだ闇に包まれているが、必ず夜は明ける。もっとも暗いのは夜明けを迎える直前だ。だからこそ、覚者達は夜明けを迎えるためにこれから戦わなくてはいけないのだ。
千陽の言葉に覚者達は頷き、行動を開始した。
●
夜闇に紛れて覚者達はこっそりと『禍時の百鬼』の補給部隊がいる公園を目指す。普段見慣れた光景も、今宵は禍々しく映る。
「敵の兵站を狙うのは、兵法の基本だな。さしずめ、三十六計で言う所の釜底抽薪か」
目立たぬように気を払いながら懐良が軽口を叩く。妹の気を紛らわす意味もある。
「ホント、戦争じゃないんだから」
その軽口についつい反応したのは『溶けない炎』鈴駆・ありす(CL2001269)だった。ふわふわと空に浮かぶ彼女の横には、同じように浮かぶ守護使役のゆるゆるの姿がいる。
実際のところ、規模の大小こそあれ戦争に近い状態なのは事実だ。逢魔ヶ時がどこまで戦うつもりで動いているのかは不明だが、戦いを長引かせないためにも敵の継戦能力は減らしておいた方が良い。可能ならあえてここで踏ん張ることで敵全体の目を引き付ける手もあるが、FIVEにそれほどの余力は無い。
「まあ良いわ。ここを叩けるのはチャンスだもの。別に伸びきってる訳じゃないけど、叩ける兵站は叩いておきましょう」
「そういうことだ。出来れば奇襲で済ませたい。奇襲が無理なら、強襲に切り替わるだけだがな」
そう言って懐良は口元に不敵な笑みを浮かべる。妹の手前冷静に見えるが、実際のところは彼も決して温厚な性質ではない。逢魔ヶ時の攻撃に対しては色々と思う所もある。
「しーってやつだね、シーッ」
御羽も慣れないながら、兄の背中で気配を殺している。翼を生やした『B・B』黒崎・ヤマト(CL2001083)など、羽音を立てそうなものだが器用に低空飛行して音を出さないようにしている。
どれだけの時間がかかったか。
普段なら気にもならない場所を、普段と比べ物にならないほど警戒して。
覚者達は、隔者に姿を見られる事無く公園へと到着した。そこには『禍時の百鬼』の補給部隊が陣を作っていた。そして、タイミングを計り、千陽が大地を揺るがす。それを合図に覚者達の攻撃が始まった。
「行くぜレイジングブル! これ以上好き勝手にさせねー!」
補給部隊を護る隔者がよろけた所で、ヤマトが殴り込んでいく。それに合わせて地面から炎の柱が立ち昇り、隔者達を纏めて焼き払っていく。
「兵糧攻めって奴だな、多分!」
最初の不意打ちが上手くいき、ヤマトは満足げに微笑んだ。
一方、慈雨は冷たい瞳で隔者達を見据えていた。
「ねえ、不愉快だわ。目障りだわ」
FIVEを裏切った『禍時の百鬼』はいまや、五麟市を焼き払いながら攻撃を続けている。覚者達の街を傷付けているのだ。
慈雨にとって、『禍時の百鬼』の行いは既に許せるものでは無かった。
彼女の元から無機質に空気の弾丸が放たれる。それは確実に隔者を傷つけて行った。
「その物資は私達の街を、仲間を壊す為の物なのでしょう? 貴方達は決して許さない。此処で塵の様に無惨に、惨めに終わらせてあげる」
炎のような怒りではない。氷のようにどこまでも冷ややかな、しかし触れたものを決して許しはしない怒りだ。
他の覚者もそれぞれの怒りを胸に『禍時の百鬼』へと向かっていく。
そんな中、『ハルモニアの幻想旗衛』守衛野・鈴鳴(CL2000222)だけの怒りは違っていた。
「私たちの街を、皆を守る為なら、休んでなんていられません。ここを抑えて、百鬼の人たちに好きになんてさせませんっ」
戦旗を振るい、仲間を癒しながら、鈴鳴は隔者が命を落とさないようにも気を配っていた。まだ分かり合えたわけではない。許せたわけでもない。だが、ここで終わらせるわけにもいかない。
「本気で怒ってますよ。無関係な人や街を巻き込んで、こんなの絶対に許せません。それでも、人の命を奪うなんてこと、私は嫌なんです」
許せないという想いと、赦したいという願い。
相反する心を抱えながら、鈴鳴は戦場に立つ。裏表も無く、ひたすらにまっすぐに。
●
補給部隊との緒戦は奇襲を成功させた覚者達が制した。
だが、いつまでも油断できるものではない。覚者達が攻撃を行う最中、状況を聞きつけた増援が姿を見せたのだ。
「それにしても……数が多いわ。どこから来るのよ、一体」
思わずありすがぼやく。無論永遠に続く増援などあり得ない訳だが、『禍時の百鬼』を多数敵に回している状況に、思わずそんなことを感じてしまう。しかしそれと同時に、彼女はそこで心が折れるような柔な少女では無かった。
「いくら増えたって同じよ。焼き払ってあげるわ。覚悟なさい」
左掌に第3の目を開き、高く掲げる。
するとたちどころに現れた炎の柱が補給部隊もろとも、増援を焼いていく。
「こっちに近づいている奴がいるっす。気を付けるっす!」
仲間に癒しの雫を与えながら舞子が叫ぶ。
先ほどから回復に攻撃にと大忙しだ。だが、実際のところ一番忙しいのは周囲の偵察のために狩り出されている、守護使役のせせりなのかも知れない。
「せせりさん大活躍ッス! 帰ったら、一緒に焼き鳥食べるッスよ!」
舞子がさらに近づこうとしている敵の存在に気付き、喚起の声を出す。そこで、同じように守護使役の遥夜に状況を監視させていた慈雨も、勝負を早めるために回復役に狙いを定めた……その時だった。
「……!」
覚者達の隙を突いて、隔者が1人後衛を狙って切り込んでくる。その瞬間の慈雨の判断は早かった。
「自分の無力で仲間が倒れるのを見るのはもううんざりよ」
身を挺して隔者の前に立ちはだかる慈雨。袈裟がけに斬られ、白い肌から血が溢れ出る。
しかし、慈雨はそこで膝を屈しない。
己の命数すら燃やし、意識を繋ぎ止めると必死に意識を繋ぎ止める。
「皆で帰るの、貴方達を叩き潰してね! 私欲でしか動けない卑しい連中の分際で図々しいのよ、死んで頂戴」
「呪われてしまえーッス!」
風の弾丸と呪いを帯びた光が隔者を襲う。
さすがにこれには耐えきれなかったのだろう。回復に回っていた隔者がどうと倒れた。
当初現場にいた回復役の隔者は、補給部隊の支援を役割としていたようだ。それが倒されたことによって、覚者達の攻撃は加速していく。
その戦法を務めるのはヤマトと千陽だ。
今日の千陽は術式に比重を置いた戦法を取っている。補給部隊を護る一団の体勢を崩してしまえば、目標を狙うことが容易になる。単純に補給部隊を狙えばかえって敵の反撃を許してしまう。国防装置として自身を研ぎ澄ましてきたことで、若さに似合わない判断力を持っているのだ。
ヤマトはカポイエラ風の蹴りでフェイントを行い、敵と距離を取った所で炎の柱をぶつける。ギターだけが武器ではない。自身の能力だけに頼らず、技術と組み合わせた極めて覚者らしい戦い方だ。
人並みに正義感は持っているが、別に命を懸けている訳ではない。そんな彼でも、自分達の居場所を護るために命数を燃やして戦う。
「これ以上暴れさせてたまるか! 俺達の街で、好き勝手するんじゃねぇ!」
最初は戦闘音には気を付けていたが、ここまで来ては誤魔化す意味も無い。ならば激情のままに叫んでも良いだろう。
自分達の街を泣かせたものに対して、覚者達の怒りは大きいのだ。
●
二度目の増援が覚者達の前にやって来る。だが、それは遅きに失した。
或いは隔者がもっと早く覚者の接近に気付いていれば、結果は覆っていたのかも知れない。それをさせなかったのは覚者達だ。
現場にいた『禍時の百鬼』に多少の苦戦を強いられたものの、覚者達は短期の決着を目指し、それを現実のものにしつつあった。
そんな状況にあって、御羽の表情は決して明るいものでは無かった。
「だめなんだよ、人が悲しいって思う事しちゃだめなんだよ。
お家とか、壊したらだめなんだよっ。
関係無い人、たくさん巻き込んで、こわいことしたら、だめなんだよっ。
どうしてお兄さんたちは、こんなことするの?」
ぐずぐず泣きながら御羽は叫ぶ。
『禍時の百鬼』にいる隔者は、数はともかく『七星剣』の中でそう強くない部類の者達だ。それでも、経験の無い御羽よりは強い。だから少女は問い掛ける。
源素の力は使い方次第で極めて危険な代物だ。軽々しく扱って良いものではない。それは幼い彼女にも分かることだ。
「だからだからだから、御羽がお兄さんたちが間違った道に行く前にだめってする!! 悪い事したら、だめなの!!」
御羽の呼んだ雷が、返事を返そうともしない補給部隊の隔者に叩きつけられる。
そこへ懐良が勢いよく切り込んでいく。その手に握られた愛刀の衝撃は、目の前の隔者ごと後ろにいた補給部隊にぶつけられる。
懐良の持つ相伝当麻国包は実用性を重視した丈夫な刀だ。このような乱戦にあっても一向に威力を衰えさせることは無い。
「時に繊細に、時に大胆にってなのが、兵法者の心意気だ」
クールに決める懐良だが、裏腹に戦い方は極めて荒っぽい。どうやら、内心では先ほど愛する妹に攻撃しようとしてきた隔者がよほど腹に据えかねたのだろう。チンピラのような雰囲気のある男だが、妹だけは溺愛しているのである。
ともあれ、こうして着実に覚者達は補給部隊の数を減らして行った。
「邪魔。綺麗に並んでおきなさい」
「やってやるッスよ!」
「お兄ちゃんの敵は、御羽の敵! お兄ちゃんは、御羽が守る!」
そんな中、鈴鳴は静かに戦旗を構える。
まだ抵抗を続ける隔者を哀しげな瞳で見つめていた。いや、それ以上に彼女の中の怒りが弾ける。
人を信じて救おうとするFIVEを嘲笑う隔者、負けを認めながらもせめて道連れだけでも作ろうとする隔者。力を私利私欲に用い、人々を傷付ける典型的な隔者の姿だ。
その浅ましい姿への怒りが、鈴鳴の中の力をあふれさせた。
「あなた達がそうやって乱暴をするなら……許しません!」
鈴鳴の前に氷が現れる。
そして、それは鋭く戦場を駆け抜ける。この少女の怒りの発露が未来に何をもたらすかは分からない。それでも、鈴鳴は戦うことを選んだのだ。
氷は十分過ぎる程の威力を持って、最後に残っていた隔者の戦意を根こそぎ奪っていく。
「これ以上の戦闘は貴方達にとっても消耗戦を強いられる。補給路がなくなった以上粘る必要はないとは思いますが。こちらも他部隊からの救援は呼べる状態ではありますので、増援を今呼んだところです」
「例え皆さんでも、これ以上亡くなる人を見たくありません……どうか、お願いします」
戦意を失った隔者達の中からリーダー格を見つけると、千陽は降伏勧告を行う。増援があるというのはハッタリだが、今の隔者達には十分だった。
慈雨と舞子は、この場が制圧されたことを察して退却する『禍時の百鬼』の姿を確認した。この戦いを制したのは覚者達だ。
長い五麟の夜、それは次第に結末を迎えようとしていた。
覚者達が夜明けの光を迎えるのか、隔者達が逢魔ヶ時に嗤うのか、それはまだ分からない。
それでも、覚者達はたしかに朝に向かって着実な1歩を示したのだった。
五麟の街が燃えていた。
逢魔ヶ時の攻撃が終わることなく続いているのだ。かろうじて急襲を凌ぎはしたものの、完全に撃退が出来た訳ではないのだ。ここからがFIVEと覚者の正念場である。
「御羽たちの街が燃えてるの、人がいっぱい逃げてるの、怖いよお兄ちゃん」
紅蓮の五麟を目の当たりにして、『赤ずきん』坂上・御羽(CL2001318)は兄の『侵掠如火』坂上・懐良(CL2000523)にしがみつく。その足は恐怖に震えている。
無理も無い話だ。たしかに覚者ではあるが、彼女は最近まで田舎でひっそりと暮らしていた。戦闘経験も碌に無い。そんな少女がいきなり戦うなど、無茶も良い所だ。
兄である懐良はそんな御羽の頭をそっと撫でる。
一方、このような状況にあって、『猪突猛進』葛城・舞子(CL2001275)は余裕の笑みを浮かべていた。残念な頭の作りのせいであろうか。或いは存外大物なのかも知れない。
「隔者だって癒しは必要ッス!」
舞子の連れる守護使役せせりと、『凛の雫花』宇賀神・慈雨(CL2000259)の連れる遥夜によって、隔者達の補給部隊の配置は明らかになっていた。
「その癒しを裏から叩き潰す! いやらしいッス! でもそういう作戦嫌いじゃないッス!」
先ほどまでせせりが鳥目なんじゃないかと心配していた舞子だったが、やることがはっきりしてしまえば気軽なものだ。
「表舞台ほど派手じゃないッスが、確実に戦況に影響がでるはずッス! やってやるッスよ!」
「うん、御羽もふぁいぶのかくしゃだから、ひゃっきさんとたたかうの。
怖いけど。
でもっ、もう見ているだけはいけないと思うから」
意気を上げる舞子に続いて、御羽も覚悟を決めた。覚醒すると第3の瞳が額に開く。
たとえ力が及ばなくても、たとえ怖くてたまらなくても、彼女にだって正義感はある。何かを守りたい、大事にしたいという想いがある。彼女だって、光を目指したい。
『狗吠』時任・千陽(CL2000014)は仲間達の様子を確認すると、敵の配置を物も言わずに伝える。源素の力による一種のテレパシーだ。言葉だけに頼らずすむ分、こちらの方が手っ取り早いし確実だ。偵察の中で比較的警戒の薄い場所は確認済みだ。そこから向かえば、ある程度戦闘に余裕もできるだろう。なので、千陽自身も闇に紛れるよう、黒い外套を纏っている。
「まだまだ夜は明けませんが明かない夜もまたありません。暁を超え、曙光を迎えるために」
そう、今はまだ闇に包まれているが、必ず夜は明ける。もっとも暗いのは夜明けを迎える直前だ。だからこそ、覚者達は夜明けを迎えるためにこれから戦わなくてはいけないのだ。
千陽の言葉に覚者達は頷き、行動を開始した。
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夜闇に紛れて覚者達はこっそりと『禍時の百鬼』の補給部隊がいる公園を目指す。普段見慣れた光景も、今宵は禍々しく映る。
「敵の兵站を狙うのは、兵法の基本だな。さしずめ、三十六計で言う所の釜底抽薪か」
目立たぬように気を払いながら懐良が軽口を叩く。妹の気を紛らわす意味もある。
「ホント、戦争じゃないんだから」
その軽口についつい反応したのは『溶けない炎』鈴駆・ありす(CL2001269)だった。ふわふわと空に浮かぶ彼女の横には、同じように浮かぶ守護使役のゆるゆるの姿がいる。
実際のところ、規模の大小こそあれ戦争に近い状態なのは事実だ。逢魔ヶ時がどこまで戦うつもりで動いているのかは不明だが、戦いを長引かせないためにも敵の継戦能力は減らしておいた方が良い。可能ならあえてここで踏ん張ることで敵全体の目を引き付ける手もあるが、FIVEにそれほどの余力は無い。
「まあ良いわ。ここを叩けるのはチャンスだもの。別に伸びきってる訳じゃないけど、叩ける兵站は叩いておきましょう」
「そういうことだ。出来れば奇襲で済ませたい。奇襲が無理なら、強襲に切り替わるだけだがな」
そう言って懐良は口元に不敵な笑みを浮かべる。妹の手前冷静に見えるが、実際のところは彼も決して温厚な性質ではない。逢魔ヶ時の攻撃に対しては色々と思う所もある。
「しーってやつだね、シーッ」
御羽も慣れないながら、兄の背中で気配を殺している。翼を生やした『B・B』黒崎・ヤマト(CL2001083)など、羽音を立てそうなものだが器用に低空飛行して音を出さないようにしている。
どれだけの時間がかかったか。
普段なら気にもならない場所を、普段と比べ物にならないほど警戒して。
覚者達は、隔者に姿を見られる事無く公園へと到着した。そこには『禍時の百鬼』の補給部隊が陣を作っていた。そして、タイミングを計り、千陽が大地を揺るがす。それを合図に覚者達の攻撃が始まった。
「行くぜレイジングブル! これ以上好き勝手にさせねー!」
補給部隊を護る隔者がよろけた所で、ヤマトが殴り込んでいく。それに合わせて地面から炎の柱が立ち昇り、隔者達を纏めて焼き払っていく。
「兵糧攻めって奴だな、多分!」
最初の不意打ちが上手くいき、ヤマトは満足げに微笑んだ。
一方、慈雨は冷たい瞳で隔者達を見据えていた。
「ねえ、不愉快だわ。目障りだわ」
FIVEを裏切った『禍時の百鬼』はいまや、五麟市を焼き払いながら攻撃を続けている。覚者達の街を傷付けているのだ。
慈雨にとって、『禍時の百鬼』の行いは既に許せるものでは無かった。
彼女の元から無機質に空気の弾丸が放たれる。それは確実に隔者を傷つけて行った。
「その物資は私達の街を、仲間を壊す為の物なのでしょう? 貴方達は決して許さない。此処で塵の様に無惨に、惨めに終わらせてあげる」
炎のような怒りではない。氷のようにどこまでも冷ややかな、しかし触れたものを決して許しはしない怒りだ。
他の覚者もそれぞれの怒りを胸に『禍時の百鬼』へと向かっていく。
そんな中、『ハルモニアの幻想旗衛』守衛野・鈴鳴(CL2000222)だけの怒りは違っていた。
「私たちの街を、皆を守る為なら、休んでなんていられません。ここを抑えて、百鬼の人たちに好きになんてさせませんっ」
戦旗を振るい、仲間を癒しながら、鈴鳴は隔者が命を落とさないようにも気を配っていた。まだ分かり合えたわけではない。許せたわけでもない。だが、ここで終わらせるわけにもいかない。
「本気で怒ってますよ。無関係な人や街を巻き込んで、こんなの絶対に許せません。それでも、人の命を奪うなんてこと、私は嫌なんです」
許せないという想いと、赦したいという願い。
相反する心を抱えながら、鈴鳴は戦場に立つ。裏表も無く、ひたすらにまっすぐに。
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補給部隊との緒戦は奇襲を成功させた覚者達が制した。
だが、いつまでも油断できるものではない。覚者達が攻撃を行う最中、状況を聞きつけた増援が姿を見せたのだ。
「それにしても……数が多いわ。どこから来るのよ、一体」
思わずありすがぼやく。無論永遠に続く増援などあり得ない訳だが、『禍時の百鬼』を多数敵に回している状況に、思わずそんなことを感じてしまう。しかしそれと同時に、彼女はそこで心が折れるような柔な少女では無かった。
「いくら増えたって同じよ。焼き払ってあげるわ。覚悟なさい」
左掌に第3の目を開き、高く掲げる。
するとたちどころに現れた炎の柱が補給部隊もろとも、増援を焼いていく。
「こっちに近づいている奴がいるっす。気を付けるっす!」
仲間に癒しの雫を与えながら舞子が叫ぶ。
先ほどから回復に攻撃にと大忙しだ。だが、実際のところ一番忙しいのは周囲の偵察のために狩り出されている、守護使役のせせりなのかも知れない。
「せせりさん大活躍ッス! 帰ったら、一緒に焼き鳥食べるッスよ!」
舞子がさらに近づこうとしている敵の存在に気付き、喚起の声を出す。そこで、同じように守護使役の遥夜に状況を監視させていた慈雨も、勝負を早めるために回復役に狙いを定めた……その時だった。
「……!」
覚者達の隙を突いて、隔者が1人後衛を狙って切り込んでくる。その瞬間の慈雨の判断は早かった。
「自分の無力で仲間が倒れるのを見るのはもううんざりよ」
身を挺して隔者の前に立ちはだかる慈雨。袈裟がけに斬られ、白い肌から血が溢れ出る。
しかし、慈雨はそこで膝を屈しない。
己の命数すら燃やし、意識を繋ぎ止めると必死に意識を繋ぎ止める。
「皆で帰るの、貴方達を叩き潰してね! 私欲でしか動けない卑しい連中の分際で図々しいのよ、死んで頂戴」
「呪われてしまえーッス!」
風の弾丸と呪いを帯びた光が隔者を襲う。
さすがにこれには耐えきれなかったのだろう。回復に回っていた隔者がどうと倒れた。
当初現場にいた回復役の隔者は、補給部隊の支援を役割としていたようだ。それが倒されたことによって、覚者達の攻撃は加速していく。
その戦法を務めるのはヤマトと千陽だ。
今日の千陽は術式に比重を置いた戦法を取っている。補給部隊を護る一団の体勢を崩してしまえば、目標を狙うことが容易になる。単純に補給部隊を狙えばかえって敵の反撃を許してしまう。国防装置として自身を研ぎ澄ましてきたことで、若さに似合わない判断力を持っているのだ。
ヤマトはカポイエラ風の蹴りでフェイントを行い、敵と距離を取った所で炎の柱をぶつける。ギターだけが武器ではない。自身の能力だけに頼らず、技術と組み合わせた極めて覚者らしい戦い方だ。
人並みに正義感は持っているが、別に命を懸けている訳ではない。そんな彼でも、自分達の居場所を護るために命数を燃やして戦う。
「これ以上暴れさせてたまるか! 俺達の街で、好き勝手するんじゃねぇ!」
最初は戦闘音には気を付けていたが、ここまで来ては誤魔化す意味も無い。ならば激情のままに叫んでも良いだろう。
自分達の街を泣かせたものに対して、覚者達の怒りは大きいのだ。
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二度目の増援が覚者達の前にやって来る。だが、それは遅きに失した。
或いは隔者がもっと早く覚者の接近に気付いていれば、結果は覆っていたのかも知れない。それをさせなかったのは覚者達だ。
現場にいた『禍時の百鬼』に多少の苦戦を強いられたものの、覚者達は短期の決着を目指し、それを現実のものにしつつあった。
そんな状況にあって、御羽の表情は決して明るいものでは無かった。
「だめなんだよ、人が悲しいって思う事しちゃだめなんだよ。
お家とか、壊したらだめなんだよっ。
関係無い人、たくさん巻き込んで、こわいことしたら、だめなんだよっ。
どうしてお兄さんたちは、こんなことするの?」
ぐずぐず泣きながら御羽は叫ぶ。
『禍時の百鬼』にいる隔者は、数はともかく『七星剣』の中でそう強くない部類の者達だ。それでも、経験の無い御羽よりは強い。だから少女は問い掛ける。
源素の力は使い方次第で極めて危険な代物だ。軽々しく扱って良いものではない。それは幼い彼女にも分かることだ。
「だからだからだから、御羽がお兄さんたちが間違った道に行く前にだめってする!! 悪い事したら、だめなの!!」
御羽の呼んだ雷が、返事を返そうともしない補給部隊の隔者に叩きつけられる。
そこへ懐良が勢いよく切り込んでいく。その手に握られた愛刀の衝撃は、目の前の隔者ごと後ろにいた補給部隊にぶつけられる。
懐良の持つ相伝当麻国包は実用性を重視した丈夫な刀だ。このような乱戦にあっても一向に威力を衰えさせることは無い。
「時に繊細に、時に大胆にってなのが、兵法者の心意気だ」
クールに決める懐良だが、裏腹に戦い方は極めて荒っぽい。どうやら、内心では先ほど愛する妹に攻撃しようとしてきた隔者がよほど腹に据えかねたのだろう。チンピラのような雰囲気のある男だが、妹だけは溺愛しているのである。
ともあれ、こうして着実に覚者達は補給部隊の数を減らして行った。
「邪魔。綺麗に並んでおきなさい」
「やってやるッスよ!」
「お兄ちゃんの敵は、御羽の敵! お兄ちゃんは、御羽が守る!」
そんな中、鈴鳴は静かに戦旗を構える。
まだ抵抗を続ける隔者を哀しげな瞳で見つめていた。いや、それ以上に彼女の中の怒りが弾ける。
人を信じて救おうとするFIVEを嘲笑う隔者、負けを認めながらもせめて道連れだけでも作ろうとする隔者。力を私利私欲に用い、人々を傷付ける典型的な隔者の姿だ。
その浅ましい姿への怒りが、鈴鳴の中の力をあふれさせた。
「あなた達がそうやって乱暴をするなら……許しません!」
鈴鳴の前に氷が現れる。
そして、それは鋭く戦場を駆け抜ける。この少女の怒りの発露が未来に何をもたらすかは分からない。それでも、鈴鳴は戦うことを選んだのだ。
氷は十分過ぎる程の威力を持って、最後に残っていた隔者の戦意を根こそぎ奪っていく。
「これ以上の戦闘は貴方達にとっても消耗戦を強いられる。補給路がなくなった以上粘る必要はないとは思いますが。こちらも他部隊からの救援は呼べる状態ではありますので、増援を今呼んだところです」
「例え皆さんでも、これ以上亡くなる人を見たくありません……どうか、お願いします」
戦意を失った隔者達の中からリーダー格を見つけると、千陽は降伏勧告を行う。増援があるというのはハッタリだが、今の隔者達には十分だった。
慈雨と舞子は、この場が制圧されたことを察して退却する『禍時の百鬼』の姿を確認した。この戦いを制したのは覚者達だ。
長い五麟の夜、それは次第に結末を迎えようとしていた。
覚者達が夜明けの光を迎えるのか、隔者達が逢魔ヶ時に嗤うのか、それはまだ分からない。
それでも、覚者達はたしかに朝に向かって着実な1歩を示したのだった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
