《紅蓮ノ五麟》ごめんで済むなら警察はいらない
●五麟は紅く
紅蓮が飲み込む。街を、思い出を、――逢魔ヶ時紫雨の炎が。
五麟は今、空前絶後の事態に存亡の危機を迎えている。血雨部隊から帰ってきた覚者は皆、変わり果てた街に唖然とした。
刻、一刻と七星剣により飲み込まれていく街。最早これ以上、奴等に何も譲るものは無い。
全ての百鬼をこの街から追い出す為、FiVE覚者の長い夜は始まった。
●人は立ちはだかる
五麟の大きな通り。そこで彼らは対峙していた。
かたや4人の百鬼。
かたや……車を盾にしたただの警察官が6人
「おいおいおいおいおいおい、お前達バンピーが俺たちに勝てると思ってるの? 」
おどけたように百鬼の一人が挑発する。
銃声が鳴った。
「はい威嚇射撃ー。確認したな? 」
「はい、警告と威嚇射撃をしましたが効果がありませんのでやむを得ず発砲に移ります」
「おい聞いてるのか!? 」
警察官がやり取りに挑発していた隔者が激高する。
「聞いているよ、お前達が隔者で能力を使うってことは『凶器』を持ってると仮定する。つまりは凶器集合罪、器物破損、その他わんさかだ。AAAが居ない以上、我々がお前達を逮捕するのは当然だ」
百鬼の言葉を受け流し、淡々と説明した警官は拳銃を構える。他の5名もそれに続く。
「はっ! 言ってろよ! 泣いて謝ったって許さねえからな」
「ごめんで済んだら警察はいらないんだよ、隔者君」
警察官の言葉の直後、4人の百鬼は一斉に飛び掛かった。
●休む暇などありはしない
「皆さん、お疲れ様です」
久方 真由美(nCL2000003)が覚者達を出迎える。
「本来でしたらお休みしていただきたいのですが、申し訳ありません次の任務をお願いします」
広げたのは五麟市の地図、その中の通りの一つに丸をする。
「ここにおいて、警察官6名と百鬼4名が戦闘状態に入ります、皆さんには百鬼の撃退を警察官の避難をお願いします」
任務の内容を説明した後、真由美は言葉をつづけた。
「何故警察が? と思いますでしょうが、このような状況ですと通報もありますし、市民の安全の為に警察も行動に出ます。そこに百鬼が遭遇したものと思われます。百鬼については時間がなく最低限のデータしか見ることができませんでした」
まとめる時間も惜しかったのか、渡されるデータは手書きのメモも同然だった。
「ここが正念場です。皆さん、学園をこの街を守ってください」
紅蓮が飲み込む。街を、思い出を、――逢魔ヶ時紫雨の炎が。
五麟は今、空前絶後の事態に存亡の危機を迎えている。血雨部隊から帰ってきた覚者は皆、変わり果てた街に唖然とした。
刻、一刻と七星剣により飲み込まれていく街。最早これ以上、奴等に何も譲るものは無い。
全ての百鬼をこの街から追い出す為、FiVE覚者の長い夜は始まった。
●人は立ちはだかる
五麟の大きな通り。そこで彼らは対峙していた。
かたや4人の百鬼。
かたや……車を盾にしたただの警察官が6人
「おいおいおいおいおいおい、お前達バンピーが俺たちに勝てると思ってるの? 」
おどけたように百鬼の一人が挑発する。
銃声が鳴った。
「はい威嚇射撃ー。確認したな? 」
「はい、警告と威嚇射撃をしましたが効果がありませんのでやむを得ず発砲に移ります」
「おい聞いてるのか!? 」
警察官がやり取りに挑発していた隔者が激高する。
「聞いているよ、お前達が隔者で能力を使うってことは『凶器』を持ってると仮定する。つまりは凶器集合罪、器物破損、その他わんさかだ。AAAが居ない以上、我々がお前達を逮捕するのは当然だ」
百鬼の言葉を受け流し、淡々と説明した警官は拳銃を構える。他の5名もそれに続く。
「はっ! 言ってろよ! 泣いて謝ったって許さねえからな」
「ごめんで済んだら警察はいらないんだよ、隔者君」
警察官の言葉の直後、4人の百鬼は一斉に飛び掛かった。
●休む暇などありはしない
「皆さん、お疲れ様です」
久方 真由美(nCL2000003)が覚者達を出迎える。
「本来でしたらお休みしていただきたいのですが、申し訳ありません次の任務をお願いします」
広げたのは五麟市の地図、その中の通りの一つに丸をする。
「ここにおいて、警察官6名と百鬼4名が戦闘状態に入ります、皆さんには百鬼の撃退を警察官の避難をお願いします」
任務の内容を説明した後、真由美は言葉をつづけた。
「何故警察が? と思いますでしょうが、このような状況ですと通報もありますし、市民の安全の為に警察も行動に出ます。そこに百鬼が遭遇したものと思われます。百鬼については時間がなく最低限のデータしか見ることができませんでした」
まとめる時間も惜しかったのか、渡されるデータは手書きのメモも同然だった。
「ここが正念場です。皆さん、学園をこの街を守ってください」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.百鬼の撃退
2.警察官の避難
3.なし
2.警察官の避難
3.なし
どうも塩見です。
長い夜の続きと参りましょう。
今回は緊急事態の連発により夢見の情報が少なく、最低限のデータしかありません。
また準備に時間をかけるとそれだけ警察官の犠牲が増える可能性もあります。
迅速な行動が求められると思います。
以下データです。
百鬼
・豪武:精霊顕現、木行
・数寺:前世持ち、水行
・灯血:翼人、火行
・岩六:獣憑、土行
警察官
6名
パトカー3台を盾に効かないピストルで対応しようとしています。
街にAAAが居ないため初期対応や警戒で動いていました。
場所
市内のオフィスビルがある大きな通りです。
派手に動いても、他に人が出てくることはありません。
それでは皆さん、長い夜を終わらせてください。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年03月19日
2016年03月19日
■メイン参加者 8人■

●僕達の街
「ごめんで済んだら警察はいらないんだよ、隔者君」
警察官の言葉が引き金となり、百鬼が飛び掛かろうとしたその時。
「――待てっ! やばい匂いだ!」
突如、百鬼のうちの一人、獣憑の第六感が警告の声を上げ踏みとどまる。他の百鬼もそれに倣い、足を止めた。
風が吹き、月光を影が隠した。金髪の翼人が翼を広げ大地に拳を叩きつける。大震の衝撃がパトカーを揺らし、警官達が尻もちを付いた。百鬼達もその場に踏みとどまったために痛手をこうむることはなかったがそれでも動きを止めざるを得ない。
「僕達だけが頼りで、僕達だけでなんとかしなきゃいけないと思ってた」
拳を地面に叩きつけた指崎 まこと(CL2000087)が呟き、ゆっくりと立ち上がる。
「来たか……FiVE!」
「でも、そうじゃなかったんだな」
痩せた精霊顕現の男、豪武が来客を歓迎するかのように笑みを浮かべる。少年は毅然とした目で言い放ち、背後に居る警察官へ視線を向けた。
「あっオマワリサーンだ!こんばんは、余だよ!」
彼に続き『村の王子様』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)が爽やかな王家スマイルで敵陣に割って入り、機化硬を以って岩六と名乗る丑の獣憑へと立ちふさがる。
「おい、お前知り合いか?」
「多分、どこかで迷子になってたんじゃないんですか? 土地勘なさそうですし」
プリンスの言葉に首をかしげながら警察官達が話し始める。
「殿、好きなだけ突っ込んでいいけど…通貨ばら撒き過ぎないようにね?」
低空で舞う翼人三人、『彼誰行灯』麻弓 紡(CL2000623)がランプの光が尾を引くように清爽たる演舞を行えば、桂木・日那乃(CL2000941)と『深緑』十夜 八重(CL2000122)が警察官をカバーするように舞い降りる。
「お巡りさんの仕事、大変」
「助けに来たFIVEです」
「隔者はわたしたちが相手するから、ほかのお仕事よろしく」
「おいおい、俺達のお仕事取られちゃったぜ」
二人の言葉におどけるように肩をすくめる警官達。その視線は百鬼達から離れることは無い。
「出来ればボクらが行動し易いように後退か避難誘導に切り替えてもらえないでしょうか。アナタ達の頑張りはボクらが引き継ぎますから」
「それと、この場で僕らが『凶器』を振るう事については、多めに見ていただけると助かりますね」
紡とまことが言葉をつなげる、マイナスイオンと二人の行動が警察官の心を動かし、そして彼らから笑みが漏れる。
「料理人が包丁持ったら捕まるか?」
「ま、そういう事なら仕方がない。おじさん達は引っ込んでFIVEの若い人に任せるとしようか」
一人の警察官の言葉に従う様に男達はパトカーに乗り込み始める。その間に覚者がさらに増え、総勢八名が百鬼四人に相対する構図となる。
「あ、それとな」
離れる間際、警官の一人が口を開く。
「諸君らのFIVEの行動に感謝する、そして必ず助けに来る。だから無理はするなよ」
エンジン音が響き、パトカーは街の中心部へと走っていった。
●百鬼五行を纏う
「……追わぬのか?」
華神 刹那(CL2001250)が赤茶の髪を銀に染め、錬覇によって引き出した英霊の力を金色の双眸に宿して問う。
「我らの目的は君達を殺すか捕らえるかなんでね。邪魔者が減っただけありがたいと思ってるくらいだよ……ああ、名乗るのを忘れていたよ。私は豪武」
精霊顕現の木行が名乗る。残りの三名も彼に倣う。
「数寺、可愛らしくスージーって言ってもいいのよ」
金髪の水行の女が名乗り。それを軽薄そうな火行の翼人がからかう。
「そんな年でもねえだろ。あ、俺は灯血ねヨロシク」
溜息をつき巨躯を誇る土行の獣憑が口を開いた。
「岩六だ」
「以上、四名が君達の相手をしよう。全員……纏え!」
豪武の命令一下、全員が五行を纏う。葉を! 水を! 火を! 土を!
「弐式!?」
西荻 つばめ(CL2001243)が声を上げ機化硬にて身を固める。
「百鬼にもスキルの造詣に詳しい男がいてね、色々と教えてくれたのさ」
「――!?」
豪武の言葉にまことと日那乃はある男を思い出し、プリンスは左の耳から右の耳へと抜けていく。
「なるほど、それはこちらも戦いがいがありますわ」
つばめが紅と群青色の鞘より抜くは双刀・鬼丸。
「勝敗は、いたってシンプル。最後に立っていた方の勝ち。分かりやすいでしょう?」
「いいな、そういう簡単なのは嫌いじゃない」
岩六が笑みを漏らし前にでる。灯血も横に並び、豪武はその後ろ、数寺は最後尾に下がる。その直後雷が獣となって数寺に降り注いだ。
「気を付けて」
『調停者』九段 笹雪(CL2000517)が呼びかける。
「隠れている敵はいないけど。豪武は盾を持ってる。数寺はワンドだから回復専念、灯血はグレネードランチャーで遠距離を補ってるし、岩六は大槌だから一発が重い」
超視力が武装を分析し、鋭聴力が伏兵の有無を見ぬく。
「それにしても……何度も襲撃だなんて悪い方達。これはお仕置きしなければいけませんね?」
前衛から一歩後ろに陣取った八重が右手に持った清風明月で霞返しの構えを取り、攻撃にそなえる。
「何にしても――不謹慎かもしれないけれど、楽しくなってきたよ!」
口元から笑みを漏らすまこと。自分達だけが頼りだと思った少年は心強い仲間がいたことに歓喜を持ち、そしてこれから始まる戦いに対してアドレナリンを止めることができない。
「始めようか」
豪武が呼びかけ、12人の覚者と隔者が動き始めた。
●戦の要
最初に動いたのはまことだった。
「おや、警察の皆さん相手だと威勢が良かったのに。相手が覚者に変わったとたん逃げ腰か?」
紫鋼塞が翼人の防御を硬め攻防一体の盾を作り上げる。
「これはこれは、隔者サマらしい立派な姿だね」
「ンだとぉ!?」
挑発に乗った灯血が翼を広げ、まことへと挑みかかる。持っていた擲弾筒の銃床が炎を纏い炎撃と成して叩きつけられる。瞬間、何かが弾ける音がし二人の距離が離れた。
「痛てェが効かねエってことはないな」
反射によりはね返った炎を手で叩きながら、灯血が一人呟く。
「挑発に乗るな、効くなら問題はない。数寺、ジャミングは?」
「かけてるわ、ついでに防御力もアップ」
呟きに応じつつ、豪武は各自の行動を確認する。その間隙をついてつばめと刹那が動き出す。
「鬼丸、楽しい時間の始まりですわよ」
「戦いの時間ってやつか」
つばめの前に立ちはだかるは岩六。その巨腕をかいくぐるように走り抜け、傍に居た灯血ごと疾風斬りで切り裂いていく。さらに回り込むは刹那。
「程よい塩梅である……今夜は、深く『入れそう』よな」
それがスイッチとなり笑みを残したまま自らの名と同じ銘の刀を抜刀。
「壱ノ刃」
「おっと、忘れてもらっては困る」
数寺狙いの斬・一の構えを豪武が左手の盾を刀に当て、その丸みを活かして方向をずらし、いなす。
直後。彼の耳元で空気の割れる音がした、雷獣だ。狙いは数寺、放ったのは人形代を浮かべる笹雪。今度は空気がうねる音、八重のエアブリットが追撃で飛んでくる。
「ちょっとアタシ狙われすぎじゃない!」
「やぁ悪い民のみんな、身分の違いを思い知るがいいよ!」
かろうじて避け、悪態をつく水行に空気を読まないプリンスがインフレブリンガーを振り被る。
「身分の差を超えた愛は嫌いじゃないわ」
ワンドが振りかぶった腕を打つ。振り下ろされる軌道が逸れアスファルトに硬貨が発行される。
「とはいえ、ちょっと求愛行動が過ぎるわね。豪武何とかならない?」
背中合わせになりつつ軽口を叩く数寺に対して豪武は上の空のように何かをつぶやいていた。
「……ああ。すまん戦力分析をしていた。何だい?」
肩をすくめる百鬼の女を尻目に木行が大地に手をかざす。
「岩六、灯血、仕込みが終わったら盾を狙え。そいつがこの戦闘の要だ」
指示と同時に覚者の足元に変化が生じた。アスファルトを割れ、蔓が這うように巻き付き、動きを鈍らせる。
「そんなわけで――」
まことの前に岩六が立ち、拳を握る。
「くたばってもらうぜ!」
放たれた鉄甲掌はまことの胸元を打ち抜き、衝撃が八重にも襲う。もちろん代償は大きく、百鬼の拳は鮮血に染まっていた。
直ぐに日那乃が回復に回り、紡が蔓の戒めを解くために演舞・舞衣で浄化物質を集める。だが爆発力にすぐれた土行の攻撃を受けたまことの負傷が大きく一回で癒しきれず、鈍化からの解放も時間がかかりそうだった。
「君達が数寺を狙うのはわかっていた。何故なら意図的にそういう構成にしているからな」
豪武が水行の百鬼を庇う様に位置取る。
「ならば、それを誘発してあとは戦闘をコントロールする人間をつぶしていけばいい。それが――」
木行の百鬼がまことを指さす。
「君だよ。他は攻撃と回復が中心だが、君だけが盾となり継戦能力を上げて、他の人間が行動に専念できるようにしている。だからこそ」
「お前はつぶすってなァ!」
灯血が羽ばたき、内なる力を貯める。
「くっ――双ツ牙」
刹那が何かに気づいたように灯血、飛燕による斬撃からの鞘打ちへとつなげる。プリンスはさらに回り込むようにして退路を断つと通貨の乱発行するかのように大槌を叩きつける。
「勝てそうな時しか戦わない所は親玉とそっくりだね。そこへ行くと余ときたら、常に帰りたくってしょうがないよ!」
「奇遇だな、私も帰りたい、良かったら一緒についてきてくれないか」
カバーリングに回った豪武が軽口で返す、その間に数寺は自らの傷を癒し体勢を立て直す。再度の岩六の鉄甲掌、霞返しで待ち受けるまことに特殊攻撃で攻め立てる。勿論負傷はするが土纏にて体力上限が上がった岩六には許容可能なダメージ量。
「我慢比べと行こうか」
そびえたつ獣憑、その耳元を何かが通り数寺を狙う。
「おっと!」
豪武が手で受け止めた種が棘を生やし腕を裂く。
「ふふ、非力と侮っていただいてもいいですよ?」
「これでかい?」
棘一閃を放った八重が告げる、百鬼が答える間もなく笹雪の雷が降り注いだ。覚者の攻撃はさらに続く、つばめが舞い刀を木行の盾に撃ち込むと刀の峰で足を刈り圧投する。豪武は受け身を取って立ち上がるが、体にかかる負荷は消しきれない。そこに紡の纏霧がかかる。
「ちょっと位、弱くなってもいいんじゃないかなっと」
呟きながら棒付き飴を咥える。視線の先には日那乃の回復を受けるまこと、不安がぬぐえない、そしてそれはすぐに現実のものとなった。
●崩壊
「来る」
短く刹那が告げ、灯血が動く。10秒の時間をかけて貯め込んだものを爆発させるために。目標は覚者の盾、そこに向かって二連の攻撃が叩き込まれる。火行弐式双撃、補助を破壊する二つの打撃が負傷と引き換えに紫鋼塞を打ち砕き、続けざまに放たれる火柱がまことを、つばめを、刹那を焼き尽くす。倒れ行く覚者の少年、だがその足が杭のように大地に突き刺さり、地に伏せるのを拒む。
「十天、指崎まこと」
「百鬼、岩六」
命を削った翼人が名乗り、獣憑きが応える。
「いざ尋常に、勝負!」
エアブリットと猛の一撃がぶつかり合う。
「……やはりお前は戦の要だったか」
倒れ行くまことへ呟く岩六。背後では肩を射ち抜かれた数寺が膝をついていた。
「StayCool」
冷たくささやく声。土行の百鬼の腹を何かが貫き、水行の百鬼にも突き刺さる。刹那の手が岩六に触れ薄氷を接射したのだ。反射的に下がる百鬼。そして雨が降った。
それは恵の雨、日那乃の潤しの雨が前衛や八重の傷を癒していく。それを皮切りに覚者の波状攻撃が始まった。
速さの優位となる蔓はすでに引きちぎられ、鈍化の効果はもはやない。
紡の填気によって気力を補った笹雪の雷獣が数寺に襲い掛かる、豪武が庇いに動こうとするが先程まで受けた雷の痺れがそれを阻む。そこへ八重のエアブリットが水行の百鬼の腕を打ち抜き隙を作る。重い音がした、インフレブリンガーが女の骨を折り、屈辱の紋章を刻み込み吹き飛ばす。
血を吐きながら立ち上がろうとする数寺。彼女へ視線を向けた灯血へ岩六もろとも疾風の刃が襲う。
「よそ見は行けませんわ」
振り向くと鬼丸を血に染めたつばめが立っていた。
向き直った火行の百鬼がグレネードランチャーを構える。高低圧理論によって撃ち込まれる擲弾が爆発し鋼球を巻き散らす。その雨霰をつばめは耐え、そして走る。
狙うは灯血ではなく動けない岩六、五行相克を狙っての棘一閃。期待した結果ではなかったが、その巨躯に埋め込まれた種は棘となり身を裂く。
「双ツ牙」
刹那の飛燕が岩六へ撃ち込まれる、そのスピードは止まらない。
「四ナル翅」
さらなる連撃が獣憑を切り裂いていく。その間にも数寺と豪武への攻撃が続く。雷獣が牙を剥き、水行の回復を阻む。立つこともかなわず怨嗟の声を上げる女へとプリンスは大槌を振り下ろした。
「数寺!」
豪武が声を上げ、作戦を切り替える。樹の雫が自らを回復させ、攻撃力を上げる。だがそこへ八重の弾丸が撃ち込まれ、傷口を広げていくがまだ倒れるに至らない。
「ほい、回復」
填気を施す紡の声が聞こえた、直後、
「でも消す、でいい?」
日那乃が問いかけると共に放った水の飛礫が木行の百鬼を撃ち抜き、吹き飛ばした。
『豪武!』
岩六と灯血、二人の声が重なった。
「悪い子は寝る時間ですよ?」
八重が岩六の傷をさらに抉るように撃ち抜き、直後に降り注ぐは笹雪の雷。電撃を耐え抜きながら二人の百鬼は足掻く。
翼人は擲弾を後衛に撃ち込み、回復と火力を削る。獣憑は鉄甲の拳を打ち込んで連撃で疲労する刹那の意識を断ち八重を吹き飛ばす、だが命を削り、相打ち覚悟で打ち込んだ刹那の薄氷が岩六の傷をさらに裂く。
そこへつばめが潜り込み、足を払い喉笛に柄を打ち込み、そのまま身を預けるように圧投する。咆哮し立ち上がる百鬼。背後に立つプリンスに振り向くと自らも大槌を振るいぶつけ合わせる。
「一杯やって疲れちゃった?」
プリンスが話しかけた直後、雨が降り覚者達の傷が癒される。
百鬼達が力を持っていても覚者達は常に強くなり立ち上がる。雷は獣となり、滴は霧となり、そして雨を降らす様に。以前の覚者なら崩れる戦線も今となっては押し切れるものへと変わっていった。
短く荒い息を吐く岩六。深く息を吸うと気合と共に大槌を打ち払い、再度刹那を狙う。今度こそ意識を断つために。
「Stay――」
刹那が右手を突き出す。
迫る獣憑に空弾が大槌が降り注ぐ、だがその動きは止まることはない。
「Cool」
接射で放たれる薄氷が動きを止め、つばめが鬼丸を風のように疾らせると巨躯の土行は大きな音を立ててアスファルトに沈んだ。
「畜生……畜生ォ!」
一人残った灯血がせめて一矢と動こうとしたが雷獣の戒めが身体を縛り、踏み出す力も与えない。そこに人形代が飛ぶ。
「もうおしまい」
笹雪がただ一言告げると人形代が火行の百鬼を飲み込んだ。
●俺達の街
「なんだ、折角助けに来たのに倒しちゃったのか?」
百鬼達を倒した直後にやってきたのは窓が金網で守られた大型のバス。機動隊の車の中から出てきたのは最初に会っていた警察官だった。
「で、どうするこいつら?」
倒れている百鬼達を指さして尋ねる警察官にプリンスが警察に対処を依頼する。
「そりゃ悪い事したんだもの、オマワリサーンが捕まえるんでしょ」
「そうしたいのは山々なんだけどね、隔者はAAAの管轄なんだわ。悪いけどそれまでの間そっちで預かってくれないか? 目を覚ましても対処は可能だろ?」
警察官は申し訳なさそうに依頼を断ると撤収の準備を始める。まことが意識を取り戻したのは丁度その時だった。痛みをこらえ身体を起こし、気遣う仲間を手で制しながら、彼は口を開く。
「混乱が起こっているのはこの場所だけではありません。僕らは、暴力に暴力で対抗する事はできても、それ以外はアマチュアです。貴方達にしかできない、貴方達だからこそできる事がある……行ってください」
笹雪も彼に続く。
「警察には一般の人を避難させたり、隔者の位置情報伝えたりしてくれると助かるんだよね。勿論警察は警察のルールとかあるんだろうけど! よろしくお願いします!」
少年少女の言葉に警察官は顔を見合わせる、そして彼らの方を向くと敬礼し、
「了解した、市民の事は任せてくれ。だがな……これだけは言わせてくれ」
警察官の一人は口端に笑みを浮かべ言葉を続ける。
「ここは俺達の街でもあるし、君達の街でもある。君達も市民であることを、困ったら110番することを忘れないでくれ――よし、それじゃ撤収! 次の現場に行くぞ!」
彼の言葉に従い、男達は車に乗り込み始めた。
「これを機に五麟市内だけでもFiVEと警察で連携取れるといいな」
「そうだな、とりあえずは大物はまだいるのであろうし、一息入れてもよいのであるかな?」
去りゆく警察官達を見送りながら笹雪が呟くのを聞き、刹那が応じながらも提案する。
「余としてはできれば帰ってテレビ見たいんだけど」
「殿、後で駄菓子買ってあげるから飽きたって顔しないで」
駄々をこねるプリンスを紡があやす。
その視線は赤く燃える空へと向けられる。
「大丈夫だよ」
まことが呟いた。
「ここは俺達と……僕達の街なんだから」
「ごめんで済んだら警察はいらないんだよ、隔者君」
警察官の言葉が引き金となり、百鬼が飛び掛かろうとしたその時。
「――待てっ! やばい匂いだ!」
突如、百鬼のうちの一人、獣憑の第六感が警告の声を上げ踏みとどまる。他の百鬼もそれに倣い、足を止めた。
風が吹き、月光を影が隠した。金髪の翼人が翼を広げ大地に拳を叩きつける。大震の衝撃がパトカーを揺らし、警官達が尻もちを付いた。百鬼達もその場に踏みとどまったために痛手をこうむることはなかったがそれでも動きを止めざるを得ない。
「僕達だけが頼りで、僕達だけでなんとかしなきゃいけないと思ってた」
拳を地面に叩きつけた指崎 まこと(CL2000087)が呟き、ゆっくりと立ち上がる。
「来たか……FiVE!」
「でも、そうじゃなかったんだな」
痩せた精霊顕現の男、豪武が来客を歓迎するかのように笑みを浮かべる。少年は毅然とした目で言い放ち、背後に居る警察官へ視線を向けた。
「あっオマワリサーンだ!こんばんは、余だよ!」
彼に続き『村の王子様』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)が爽やかな王家スマイルで敵陣に割って入り、機化硬を以って岩六と名乗る丑の獣憑へと立ちふさがる。
「おい、お前知り合いか?」
「多分、どこかで迷子になってたんじゃないんですか? 土地勘なさそうですし」
プリンスの言葉に首をかしげながら警察官達が話し始める。
「殿、好きなだけ突っ込んでいいけど…通貨ばら撒き過ぎないようにね?」
低空で舞う翼人三人、『彼誰行灯』麻弓 紡(CL2000623)がランプの光が尾を引くように清爽たる演舞を行えば、桂木・日那乃(CL2000941)と『深緑』十夜 八重(CL2000122)が警察官をカバーするように舞い降りる。
「お巡りさんの仕事、大変」
「助けに来たFIVEです」
「隔者はわたしたちが相手するから、ほかのお仕事よろしく」
「おいおい、俺達のお仕事取られちゃったぜ」
二人の言葉におどけるように肩をすくめる警官達。その視線は百鬼達から離れることは無い。
「出来ればボクらが行動し易いように後退か避難誘導に切り替えてもらえないでしょうか。アナタ達の頑張りはボクらが引き継ぎますから」
「それと、この場で僕らが『凶器』を振るう事については、多めに見ていただけると助かりますね」
紡とまことが言葉をつなげる、マイナスイオンと二人の行動が警察官の心を動かし、そして彼らから笑みが漏れる。
「料理人が包丁持ったら捕まるか?」
「ま、そういう事なら仕方がない。おじさん達は引っ込んでFIVEの若い人に任せるとしようか」
一人の警察官の言葉に従う様に男達はパトカーに乗り込み始める。その間に覚者がさらに増え、総勢八名が百鬼四人に相対する構図となる。
「あ、それとな」
離れる間際、警官の一人が口を開く。
「諸君らのFIVEの行動に感謝する、そして必ず助けに来る。だから無理はするなよ」
エンジン音が響き、パトカーは街の中心部へと走っていった。
●百鬼五行を纏う
「……追わぬのか?」
華神 刹那(CL2001250)が赤茶の髪を銀に染め、錬覇によって引き出した英霊の力を金色の双眸に宿して問う。
「我らの目的は君達を殺すか捕らえるかなんでね。邪魔者が減っただけありがたいと思ってるくらいだよ……ああ、名乗るのを忘れていたよ。私は豪武」
精霊顕現の木行が名乗る。残りの三名も彼に倣う。
「数寺、可愛らしくスージーって言ってもいいのよ」
金髪の水行の女が名乗り。それを軽薄そうな火行の翼人がからかう。
「そんな年でもねえだろ。あ、俺は灯血ねヨロシク」
溜息をつき巨躯を誇る土行の獣憑が口を開いた。
「岩六だ」
「以上、四名が君達の相手をしよう。全員……纏え!」
豪武の命令一下、全員が五行を纏う。葉を! 水を! 火を! 土を!
「弐式!?」
西荻 つばめ(CL2001243)が声を上げ機化硬にて身を固める。
「百鬼にもスキルの造詣に詳しい男がいてね、色々と教えてくれたのさ」
「――!?」
豪武の言葉にまことと日那乃はある男を思い出し、プリンスは左の耳から右の耳へと抜けていく。
「なるほど、それはこちらも戦いがいがありますわ」
つばめが紅と群青色の鞘より抜くは双刀・鬼丸。
「勝敗は、いたってシンプル。最後に立っていた方の勝ち。分かりやすいでしょう?」
「いいな、そういう簡単なのは嫌いじゃない」
岩六が笑みを漏らし前にでる。灯血も横に並び、豪武はその後ろ、数寺は最後尾に下がる。その直後雷が獣となって数寺に降り注いだ。
「気を付けて」
『調停者』九段 笹雪(CL2000517)が呼びかける。
「隠れている敵はいないけど。豪武は盾を持ってる。数寺はワンドだから回復専念、灯血はグレネードランチャーで遠距離を補ってるし、岩六は大槌だから一発が重い」
超視力が武装を分析し、鋭聴力が伏兵の有無を見ぬく。
「それにしても……何度も襲撃だなんて悪い方達。これはお仕置きしなければいけませんね?」
前衛から一歩後ろに陣取った八重が右手に持った清風明月で霞返しの構えを取り、攻撃にそなえる。
「何にしても――不謹慎かもしれないけれど、楽しくなってきたよ!」
口元から笑みを漏らすまこと。自分達だけが頼りだと思った少年は心強い仲間がいたことに歓喜を持ち、そしてこれから始まる戦いに対してアドレナリンを止めることができない。
「始めようか」
豪武が呼びかけ、12人の覚者と隔者が動き始めた。
●戦の要
最初に動いたのはまことだった。
「おや、警察の皆さん相手だと威勢が良かったのに。相手が覚者に変わったとたん逃げ腰か?」
紫鋼塞が翼人の防御を硬め攻防一体の盾を作り上げる。
「これはこれは、隔者サマらしい立派な姿だね」
「ンだとぉ!?」
挑発に乗った灯血が翼を広げ、まことへと挑みかかる。持っていた擲弾筒の銃床が炎を纏い炎撃と成して叩きつけられる。瞬間、何かが弾ける音がし二人の距離が離れた。
「痛てェが効かねエってことはないな」
反射によりはね返った炎を手で叩きながら、灯血が一人呟く。
「挑発に乗るな、効くなら問題はない。数寺、ジャミングは?」
「かけてるわ、ついでに防御力もアップ」
呟きに応じつつ、豪武は各自の行動を確認する。その間隙をついてつばめと刹那が動き出す。
「鬼丸、楽しい時間の始まりですわよ」
「戦いの時間ってやつか」
つばめの前に立ちはだかるは岩六。その巨腕をかいくぐるように走り抜け、傍に居た灯血ごと疾風斬りで切り裂いていく。さらに回り込むは刹那。
「程よい塩梅である……今夜は、深く『入れそう』よな」
それがスイッチとなり笑みを残したまま自らの名と同じ銘の刀を抜刀。
「壱ノ刃」
「おっと、忘れてもらっては困る」
数寺狙いの斬・一の構えを豪武が左手の盾を刀に当て、その丸みを活かして方向をずらし、いなす。
直後。彼の耳元で空気の割れる音がした、雷獣だ。狙いは数寺、放ったのは人形代を浮かべる笹雪。今度は空気がうねる音、八重のエアブリットが追撃で飛んでくる。
「ちょっとアタシ狙われすぎじゃない!」
「やぁ悪い民のみんな、身分の違いを思い知るがいいよ!」
かろうじて避け、悪態をつく水行に空気を読まないプリンスがインフレブリンガーを振り被る。
「身分の差を超えた愛は嫌いじゃないわ」
ワンドが振りかぶった腕を打つ。振り下ろされる軌道が逸れアスファルトに硬貨が発行される。
「とはいえ、ちょっと求愛行動が過ぎるわね。豪武何とかならない?」
背中合わせになりつつ軽口を叩く数寺に対して豪武は上の空のように何かをつぶやいていた。
「……ああ。すまん戦力分析をしていた。何だい?」
肩をすくめる百鬼の女を尻目に木行が大地に手をかざす。
「岩六、灯血、仕込みが終わったら盾を狙え。そいつがこの戦闘の要だ」
指示と同時に覚者の足元に変化が生じた。アスファルトを割れ、蔓が這うように巻き付き、動きを鈍らせる。
「そんなわけで――」
まことの前に岩六が立ち、拳を握る。
「くたばってもらうぜ!」
放たれた鉄甲掌はまことの胸元を打ち抜き、衝撃が八重にも襲う。もちろん代償は大きく、百鬼の拳は鮮血に染まっていた。
直ぐに日那乃が回復に回り、紡が蔓の戒めを解くために演舞・舞衣で浄化物質を集める。だが爆発力にすぐれた土行の攻撃を受けたまことの負傷が大きく一回で癒しきれず、鈍化からの解放も時間がかかりそうだった。
「君達が数寺を狙うのはわかっていた。何故なら意図的にそういう構成にしているからな」
豪武が水行の百鬼を庇う様に位置取る。
「ならば、それを誘発してあとは戦闘をコントロールする人間をつぶしていけばいい。それが――」
木行の百鬼がまことを指さす。
「君だよ。他は攻撃と回復が中心だが、君だけが盾となり継戦能力を上げて、他の人間が行動に専念できるようにしている。だからこそ」
「お前はつぶすってなァ!」
灯血が羽ばたき、内なる力を貯める。
「くっ――双ツ牙」
刹那が何かに気づいたように灯血、飛燕による斬撃からの鞘打ちへとつなげる。プリンスはさらに回り込むようにして退路を断つと通貨の乱発行するかのように大槌を叩きつける。
「勝てそうな時しか戦わない所は親玉とそっくりだね。そこへ行くと余ときたら、常に帰りたくってしょうがないよ!」
「奇遇だな、私も帰りたい、良かったら一緒についてきてくれないか」
カバーリングに回った豪武が軽口で返す、その間に数寺は自らの傷を癒し体勢を立て直す。再度の岩六の鉄甲掌、霞返しで待ち受けるまことに特殊攻撃で攻め立てる。勿論負傷はするが土纏にて体力上限が上がった岩六には許容可能なダメージ量。
「我慢比べと行こうか」
そびえたつ獣憑、その耳元を何かが通り数寺を狙う。
「おっと!」
豪武が手で受け止めた種が棘を生やし腕を裂く。
「ふふ、非力と侮っていただいてもいいですよ?」
「これでかい?」
棘一閃を放った八重が告げる、百鬼が答える間もなく笹雪の雷が降り注いだ。覚者の攻撃はさらに続く、つばめが舞い刀を木行の盾に撃ち込むと刀の峰で足を刈り圧投する。豪武は受け身を取って立ち上がるが、体にかかる負荷は消しきれない。そこに紡の纏霧がかかる。
「ちょっと位、弱くなってもいいんじゃないかなっと」
呟きながら棒付き飴を咥える。視線の先には日那乃の回復を受けるまこと、不安がぬぐえない、そしてそれはすぐに現実のものとなった。
●崩壊
「来る」
短く刹那が告げ、灯血が動く。10秒の時間をかけて貯め込んだものを爆発させるために。目標は覚者の盾、そこに向かって二連の攻撃が叩き込まれる。火行弐式双撃、補助を破壊する二つの打撃が負傷と引き換えに紫鋼塞を打ち砕き、続けざまに放たれる火柱がまことを、つばめを、刹那を焼き尽くす。倒れ行く覚者の少年、だがその足が杭のように大地に突き刺さり、地に伏せるのを拒む。
「十天、指崎まこと」
「百鬼、岩六」
命を削った翼人が名乗り、獣憑きが応える。
「いざ尋常に、勝負!」
エアブリットと猛の一撃がぶつかり合う。
「……やはりお前は戦の要だったか」
倒れ行くまことへ呟く岩六。背後では肩を射ち抜かれた数寺が膝をついていた。
「StayCool」
冷たくささやく声。土行の百鬼の腹を何かが貫き、水行の百鬼にも突き刺さる。刹那の手が岩六に触れ薄氷を接射したのだ。反射的に下がる百鬼。そして雨が降った。
それは恵の雨、日那乃の潤しの雨が前衛や八重の傷を癒していく。それを皮切りに覚者の波状攻撃が始まった。
速さの優位となる蔓はすでに引きちぎられ、鈍化の効果はもはやない。
紡の填気によって気力を補った笹雪の雷獣が数寺に襲い掛かる、豪武が庇いに動こうとするが先程まで受けた雷の痺れがそれを阻む。そこへ八重のエアブリットが水行の百鬼の腕を打ち抜き隙を作る。重い音がした、インフレブリンガーが女の骨を折り、屈辱の紋章を刻み込み吹き飛ばす。
血を吐きながら立ち上がろうとする数寺。彼女へ視線を向けた灯血へ岩六もろとも疾風の刃が襲う。
「よそ見は行けませんわ」
振り向くと鬼丸を血に染めたつばめが立っていた。
向き直った火行の百鬼がグレネードランチャーを構える。高低圧理論によって撃ち込まれる擲弾が爆発し鋼球を巻き散らす。その雨霰をつばめは耐え、そして走る。
狙うは灯血ではなく動けない岩六、五行相克を狙っての棘一閃。期待した結果ではなかったが、その巨躯に埋め込まれた種は棘となり身を裂く。
「双ツ牙」
刹那の飛燕が岩六へ撃ち込まれる、そのスピードは止まらない。
「四ナル翅」
さらなる連撃が獣憑を切り裂いていく。その間にも数寺と豪武への攻撃が続く。雷獣が牙を剥き、水行の回復を阻む。立つこともかなわず怨嗟の声を上げる女へとプリンスは大槌を振り下ろした。
「数寺!」
豪武が声を上げ、作戦を切り替える。樹の雫が自らを回復させ、攻撃力を上げる。だがそこへ八重の弾丸が撃ち込まれ、傷口を広げていくがまだ倒れるに至らない。
「ほい、回復」
填気を施す紡の声が聞こえた、直後、
「でも消す、でいい?」
日那乃が問いかけると共に放った水の飛礫が木行の百鬼を撃ち抜き、吹き飛ばした。
『豪武!』
岩六と灯血、二人の声が重なった。
「悪い子は寝る時間ですよ?」
八重が岩六の傷をさらに抉るように撃ち抜き、直後に降り注ぐは笹雪の雷。電撃を耐え抜きながら二人の百鬼は足掻く。
翼人は擲弾を後衛に撃ち込み、回復と火力を削る。獣憑は鉄甲の拳を打ち込んで連撃で疲労する刹那の意識を断ち八重を吹き飛ばす、だが命を削り、相打ち覚悟で打ち込んだ刹那の薄氷が岩六の傷をさらに裂く。
そこへつばめが潜り込み、足を払い喉笛に柄を打ち込み、そのまま身を預けるように圧投する。咆哮し立ち上がる百鬼。背後に立つプリンスに振り向くと自らも大槌を振るいぶつけ合わせる。
「一杯やって疲れちゃった?」
プリンスが話しかけた直後、雨が降り覚者達の傷が癒される。
百鬼達が力を持っていても覚者達は常に強くなり立ち上がる。雷は獣となり、滴は霧となり、そして雨を降らす様に。以前の覚者なら崩れる戦線も今となっては押し切れるものへと変わっていった。
短く荒い息を吐く岩六。深く息を吸うと気合と共に大槌を打ち払い、再度刹那を狙う。今度こそ意識を断つために。
「Stay――」
刹那が右手を突き出す。
迫る獣憑に空弾が大槌が降り注ぐ、だがその動きは止まることはない。
「Cool」
接射で放たれる薄氷が動きを止め、つばめが鬼丸を風のように疾らせると巨躯の土行は大きな音を立ててアスファルトに沈んだ。
「畜生……畜生ォ!」
一人残った灯血がせめて一矢と動こうとしたが雷獣の戒めが身体を縛り、踏み出す力も与えない。そこに人形代が飛ぶ。
「もうおしまい」
笹雪がただ一言告げると人形代が火行の百鬼を飲み込んだ。
●俺達の街
「なんだ、折角助けに来たのに倒しちゃったのか?」
百鬼達を倒した直後にやってきたのは窓が金網で守られた大型のバス。機動隊の車の中から出てきたのは最初に会っていた警察官だった。
「で、どうするこいつら?」
倒れている百鬼達を指さして尋ねる警察官にプリンスが警察に対処を依頼する。
「そりゃ悪い事したんだもの、オマワリサーンが捕まえるんでしょ」
「そうしたいのは山々なんだけどね、隔者はAAAの管轄なんだわ。悪いけどそれまでの間そっちで預かってくれないか? 目を覚ましても対処は可能だろ?」
警察官は申し訳なさそうに依頼を断ると撤収の準備を始める。まことが意識を取り戻したのは丁度その時だった。痛みをこらえ身体を起こし、気遣う仲間を手で制しながら、彼は口を開く。
「混乱が起こっているのはこの場所だけではありません。僕らは、暴力に暴力で対抗する事はできても、それ以外はアマチュアです。貴方達にしかできない、貴方達だからこそできる事がある……行ってください」
笹雪も彼に続く。
「警察には一般の人を避難させたり、隔者の位置情報伝えたりしてくれると助かるんだよね。勿論警察は警察のルールとかあるんだろうけど! よろしくお願いします!」
少年少女の言葉に警察官は顔を見合わせる、そして彼らの方を向くと敬礼し、
「了解した、市民の事は任せてくれ。だがな……これだけは言わせてくれ」
警察官の一人は口端に笑みを浮かべ言葉を続ける。
「ここは俺達の街でもあるし、君達の街でもある。君達も市民であることを、困ったら110番することを忘れないでくれ――よし、それじゃ撤収! 次の現場に行くぞ!」
彼の言葉に従い、男達は車に乗り込み始めた。
「これを機に五麟市内だけでもFiVEと警察で連携取れるといいな」
「そうだな、とりあえずは大物はまだいるのであろうし、一息入れてもよいのであるかな?」
去りゆく警察官達を見送りながら笹雪が呟くのを聞き、刹那が応じながらも提案する。
「余としてはできれば帰ってテレビ見たいんだけど」
「殿、後で駄菓子買ってあげるから飽きたって顔しないで」
駄々をこねるプリンスを紡があやす。
その視線は赤く燃える空へと向けられる。
「大丈夫だよ」
まことが呟いた。
「ここは俺達と……僕達の街なんだから」
