蠱毒
●
一人の男が蠱毒を作った。
その蠱毒は山の洞窟を使った大掛かりな方法で作られた。
百虫と言わずありとあらゆる獣と虫を洞窟に閉じ込めて作った蠱毒。
男が大事に大事に作ったそれはなんとも美しい石になった。
石を抱えて悦に浸っていた男だったが、蠱毒を作っていたことが知られて洞窟の中に閉じ込められてしまった。
しかし、男は笑った。
この洞窟は蠱毒を作るための壺。外から肉を食らう虫を呼ぶためにわざと壁に手を加えなかった。いずれ虫が自分を食らうために涌き、蠱毒は更に強くなるだろう。
次にこの洞窟が開いた時、世にどんな蠱毒が放たれるだろう。
それを考えるだけで男は愉快でたまらなくなった。
飢えと渇きに苦しみ土から湧いて来た虫に食われ、男は石を抱えて笑いながら死んだ。
●
「蠱術、または蠱毒と言う物は非常に古い時代から行われている術式だそうです」
動物や虫を用いて行われる忌まわしい呪いの術であり、名称も様々だがここでは蠱毒と呼ぶ。
桧倉 愛深(nCL2000130)が資料の山から必要な物を抜き出し、スクリーンに表示する。
「この山で昔蠱毒が作られました。洞窟を一つの壺にみたてて作ったようです」
作られた蠱毒は世に放たれる事はなかった。
蠱毒が作られている事を知った者達が製作者の男ごと洞窟を閉じたのだ。
本来なら話はそれで終わっただろう。
しかし……。
「蠱毒のせいか男の執念か、妖が宿ってしまったようです」
そして男の人骨は動き出す。
黒い妖気とでも言おうか、蛇のように動くものに巻きつかれた人骨だ。
その発生源は骨の手に抱えられた石。
「本体が石なのか骨なのかは分かりませんが、妖は怨霊系だと思われます。物理攻撃は効きにくいので、なるべく特殊攻撃を使って戦って下さい」
次に、と愛深が洞窟の図に書かれた三つの点の内二つを指す。
「石を持った人骨の他に大きな百足が二体。こちらは生物系の妖です。非常に硬いのでこちらも物理攻撃よりは特殊攻撃が有効です」
洞窟の入り口は石で塞がれているものの覚者の力ならそれほど苦労せずどかす事ができる。
問題は洞窟内に充満した呪いと妖の能力だ。
「洞窟に入ると長年閉じ込められた呪いが皆さんの体に影響を与えると思われます。これは洞窟から外に出ない限り回復しないようです。妖も石をもった人骨は呪いを、百足は毒を使ってきます。こちらは回復手段があれば大丈夫でしょう」
付箋がどっさりついた冊子をめくりながらの説明だったが、顔を上げた時表情はしっかり引き締まっていた。
「力押しだけで戦うには厄介な相手だと思います。皆さん十分に注意して戦って下さい」
それともう一つ。と愛深がつけ加える。
「蠱毒の源と思われるこの石は危険です。そのままにせず持ち帰って下さい。よろしくお願いします」
一人の男が蠱毒を作った。
その蠱毒は山の洞窟を使った大掛かりな方法で作られた。
百虫と言わずありとあらゆる獣と虫を洞窟に閉じ込めて作った蠱毒。
男が大事に大事に作ったそれはなんとも美しい石になった。
石を抱えて悦に浸っていた男だったが、蠱毒を作っていたことが知られて洞窟の中に閉じ込められてしまった。
しかし、男は笑った。
この洞窟は蠱毒を作るための壺。外から肉を食らう虫を呼ぶためにわざと壁に手を加えなかった。いずれ虫が自分を食らうために涌き、蠱毒は更に強くなるだろう。
次にこの洞窟が開いた時、世にどんな蠱毒が放たれるだろう。
それを考えるだけで男は愉快でたまらなくなった。
飢えと渇きに苦しみ土から湧いて来た虫に食われ、男は石を抱えて笑いながら死んだ。
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「蠱術、または蠱毒と言う物は非常に古い時代から行われている術式だそうです」
動物や虫を用いて行われる忌まわしい呪いの術であり、名称も様々だがここでは蠱毒と呼ぶ。
桧倉 愛深(nCL2000130)が資料の山から必要な物を抜き出し、スクリーンに表示する。
「この山で昔蠱毒が作られました。洞窟を一つの壺にみたてて作ったようです」
作られた蠱毒は世に放たれる事はなかった。
蠱毒が作られている事を知った者達が製作者の男ごと洞窟を閉じたのだ。
本来なら話はそれで終わっただろう。
しかし……。
「蠱毒のせいか男の執念か、妖が宿ってしまったようです」
そして男の人骨は動き出す。
黒い妖気とでも言おうか、蛇のように動くものに巻きつかれた人骨だ。
その発生源は骨の手に抱えられた石。
「本体が石なのか骨なのかは分かりませんが、妖は怨霊系だと思われます。物理攻撃は効きにくいので、なるべく特殊攻撃を使って戦って下さい」
次に、と愛深が洞窟の図に書かれた三つの点の内二つを指す。
「石を持った人骨の他に大きな百足が二体。こちらは生物系の妖です。非常に硬いのでこちらも物理攻撃よりは特殊攻撃が有効です」
洞窟の入り口は石で塞がれているものの覚者の力ならそれほど苦労せずどかす事ができる。
問題は洞窟内に充満した呪いと妖の能力だ。
「洞窟に入ると長年閉じ込められた呪いが皆さんの体に影響を与えると思われます。これは洞窟から外に出ない限り回復しないようです。妖も石をもった人骨は呪いを、百足は毒を使ってきます。こちらは回復手段があれば大丈夫でしょう」
付箋がどっさりついた冊子をめくりながらの説明だったが、顔を上げた時表情はしっかり引き締まっていた。
「力押しだけで戦うには厄介な相手だと思います。皆さん十分に注意して戦って下さい」
それともう一つ。と愛深がつけ加える。
「蠱毒の源と思われるこの石は危険です。そのままにせず持ち帰って下さい。よろしくお願いします」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.妖三体の撃破
2.妖が持つ石の回収
3.なし
2.妖が持つ石の回収
3.なし
場所もとってもいやらしい。
事前準備はしっかりと。よろしくお願いします。
●場所
小さな山の中にある洞窟。向かう時間はいつでも構いませんが、洞窟内部に明かりになる物はありませんので、こちらで準備する必要があります。
洞窟周辺はまばらに木が生えているだけで、季節柄柴や下草が枯れて歩きやすくなっています。
洞窟に到着し入口の石をどかした所から開始になります。
・洞窟内部
土がむき出しになっていますが、術を行っている途中の落盤を防ぐための木枠などはあるので戦闘中生き埋めになる心配はありません。
人が三人ほど横並びになれる道を6m程歩いた先に奥行き、幅が5m、高さ4m程の広さ。
通路側に百足の妖が二体、その後ろに石を持った人骨の妖が一体います。
●特殊ルール
洞窟内で戦闘を行うと毎ターン【BS鈍化】の効果を受けます。
これは回復できず、この効果を回避するには洞窟の外に出るしかありません。
●敵能力
・大百足×2/生物系ランク1/前衛
人の身長程もある大百足。防御力が高く、物理攻撃よりも特殊攻撃の方が効きます。
その分攻撃能力はあまり高くないようですが、毒の効果があります。
・スキル
噛みつき(近単/物理ダメージ+毒)
丸くなる(自単/物理防御、特攻防御に+10/1ターン)
・骨隠者/怨霊系ランク2/後衛
蠱毒を作り出した男の人骨。蠱毒の源と思われる石を持っており、そこから出て来る黒い蛇のような妖気に巻きつかれた不気味な姿をしています。
物理攻撃が効きにくく、その分特殊攻撃がよく効きます。
自身も特殊攻撃能力に優れ、物理攻撃は行いません。
・スキル
怨念(遠列/特攻ダメージ+呪い)
呪縛(遠単/特攻ダメージ+呪い)
情報は以上となります。
皆様のご参加お待ちしております。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年03月07日
2016年03月07日
■メイン参加者 8人■

●
地元民さえ正式名を知らないような小さな山。常緑樹が多く傾斜もなだらかで、景色のいい場所にはハイキングやランニングコースに使う遊歩道も作られている。
そんな山の一角で恐ろしい呪いが蠢いているなど一体だれが想像するだろうか。
「……な、なんだか不気味です……」
重なった石の「蓋」をどかし終わった瞬間周囲の空気まで変わった気がして、阿久津 ほのか(CL2001276)が身を竦ませる。
石の裏にお札に書かれているような文字が刻まれたのを見てしまったのも恐怖を煽った。
昔この洞窟で蠱毒が作られたが、作った男ごと封じられ世に出る事はなかった。
男は洞窟の中で狂い死に、やがて洞窟があった事すら忘れ去られた。
使われた石のいくつかは土や苔に覆われており、長い年月そこにあった事を窺わせる。
「この中で蠱毒が作られたのね」
三島 椿(CL2000061)が洞窟の奥を覗き込むが、明かりもない洞窟の先は真っ暗だで何も見えず、何も聞こえてこない。
「それも今や妖の棲家か」
赤祢 維摩(CL2000884)の皮肉気な声と吹き込む風の音が僅かに反響するのみ。
「蠱毒なんて悲しいモノ、どうして作ったんだろう……」
白枝 遥(CL2000500)は禁断の術を用いた経緯を思い、暗い洞窟の闇を見詰めた。
蠱毒を作り上げる程の知識があれば、それがどれだけ危険な呪いの術かも分かっていたはず。一体何が男をそこまで駆り立てたのか。
「蠱毒を作るほどの想いがあれば、妖が発生するのも無理はないかしら?」
「ここまでの呪術を使って一体誰を呪いたかったのだろうな?」
上月・里桜(CL2001274)が少しばかり物思いに耽り、由比 久永(CL2000540)も蠱毒を作りながらも呪いを使う事無く洞窟に閉じ込められて死んだ男の事を考える。
「そんなに強い重いを抱えたままこんな洞窟の中に一人で……孤独だったろうに……」
夢見から聞いた話を思い出したのだろう。
洞窟に閉じ込められ虫に食われて狂い死ぬと言う壮絶な死に方をした男に、工藤 奏空(CL2000955)がそっと黙祷を捧げる。
「蠱毒だけに?」
が、しんみりしかけた空気はほのかの何気ない一言で壊れた。
「……あ、いやその……言った後に『蠱毒だけに……!』って上手いこと思いついたなんて思ってないから……!」
『蠱毒だけに』を節を付けて繰り返すほのか。赤くなって止めようと追いかける奏空。
そんな二人に洞窟から流れる空気に呑まれかけていた面々も笑ってしまう。
「よーし、それじゃウチ皆のために頑張るよっと!」
戎 斑鳩(CL2000377)が、ぱん!と手を叩いて場の空気を切り替える。
「作戦通りに俺達が囮になる」
「呪いはおっかなそうだけど、私は蛇も百足も大丈夫だから任せて下されだよ~」
懐中電灯を取り出し具合を確かめる維摩が声を掛けると、ほのかも表情を引き締めて洞窟前に戻って来る。
「そ、そうだね……さって、気を引き締めて行かないとね!」
奏空も急いで気分を切り替えたようだ。
「私と上月さんで守りの底上げをするわね。上月さん、また会えてうれしいわ。よろしくね」
「はい。お互いに頑張りましょう。よろしくお願いします」
椿と里桜は軽く挨拶を躱し、それぞれ蒼鋼壁と水衣を囮役に掛ける。
洞窟の中では回復不能の呪いが充満していると言う。
守りだけでなく、維摩の戦之祝詞も全員に掛けられた。
「それじゃ行ってくるよ」
洞窟の外で待つ待機班と別れ、囮役は恐ろしい呪いが蔓延する洞窟の奥を目指して一歩一歩慎重に進んで行く。
●
「うぐぐ……こ、これが洞窟の呪い……」
ほのかがぐっと何かをこらえる。
外の明かりが遠くなったと思った途端、洞窟に入った覚者達の体を鉛のような重苦しさが襲ったのだ。
奏空と維摩も顔をしかめ、力を込めて足を進める。
「この呪いは蠱毒の効果かな……」
「洞窟全体に効果が広がっているのか」
歩く度にのしかかる重苦しさに耐えながら歩く事しばし。
「むむっ」
ほのかの感覚にひっかかるものがあった。
「いたか」
「間違いないと思うよ」
三人は視線を交わし、まずは奏空が暗闇を見通す目でじっと奥を見詰める。
「……まだこっちには気付いてないね」
暗闇の中にぼんやりと佇む人骨。胡坐をかいた足の上で両手を重ね、掌には暗闇の中にあっても艶々とした黒い石。
手前には黒褐色の丸い何かが見える。おそらく百足が丸くなっているのだろう。
静かに詰めていた息を吐き、後ろに控えた二人に目で合図を送る。
奏空が放った雷獣は長い間光の一筋さえなかった洞窟を明るく照らし出し、手前にいた黒褐色の塊二つを薙ぎ払った。
ギチチと軋んだ音をたてて黒い塊が体を伸ばし、大百足の長い体と蠢く足を露わにした。
それと同時に佇んでいた人骨、骨隠者の髑髏がぐるりと動いて侵入者を捉える。
「おお、こっちきたよ~」
「よし走れ!」
いまいち緊張感が伝わってこないほのかを促し、維摩も奏空を援護しつつ洞窟の出口へ後退する。
三人は妖に捉えられないよう距離を保とうとするが、洞窟の呪いがそれを簡単には許さない。
「しまった……!」
ついに奏空が骨隠者の呪いに捕らえられ、動きが止まってしまう。
洞窟の外まであと一息。何とか呪いを跳ね返そうとする奏空に、大百足が迫る。
「届いて!」
椿の声が響いたと思うと、どんと鈍い音を立てて大百足の顎が弾かれた。
韋駄天足を利用して先に洞窟の外に出ていたほのかの報告を聞き、出入り口ぎりぎりまで来ていたのだ。
内心で胸を撫で下ろした奏空の体が不意に動きを取り戻す。
振り向くと骨隠者の呪いを解除した久永がこいこいと手招きしていた。
「ありがとう。助かりました」
「どういたしまして」
「そなたらもようやったの」
洞窟内部に充満する呪いを押し退けるように洞窟の外に飛び出した奏空と、共に囮役を務めたほのかと維摩を労う。
外に出てきた骨隠者と大百足は周囲を囲む八人を敵だと判断したのか、それとも無関係に襲い掛かるだけなのか、その体から怖気が走るような敵意が溢れている。
骨隠者が手に載せた石を掲げるような仕草をすると、石から溢れた黒い蛇のようなものが激しく蠢き、おぞましい気配が迸った。
「禁忌を犯した者の末路か……」
囮役の傷を癒していた遥は不気味な骨隠者の姿に物憂げな顔になる。
「目の前で見ると不気味やね……」
昼間の日の光は骨隠者の虚ろな眼窩や大百足の蠢く足をはっきり照らし出し、逆に気味が悪い。
斑鳩はごくりと息を飲みつつも、敵の動向を注視する。
「……何のために、蠱毒を作ったのでしょうね……?」
里桜は骨隠者の不気味な姿を目の当たりにし、改めて禁忌を犯した男が何を思っていたのかと思ったが、考えに耽る暇もなく解き放たれた妖は呪いの力を以て暴れ出す。
●
「ふん、執念で出来た蠱毒か」
維摩が見るのは骨隠者が持つ黒い石。あれが蠱毒、呪いの塊。
「多少はサンプルになればいいがな」
雷獣を操りながら、頭の中にあるのはあくまで研究者としての興味のみ。
「さっきは散々呪いに悩まされたからね。お返しだ」
奏空の纏霧が大百足と骨隠者に纏わり付く。
骨隠者の様子は全く変わらないが、大百足の方は妖と言っても生物故か、不快そうに足と触角を動かしている。
「ふむ……小さければ、まだ可愛げがあったものを」
足は数えやすくなったがと少々ずれた事を言う久永。戦いの場にあってもおっとりした様子ながら、攻撃そのものは容赦がない。
轟く雷光が大百足の外殻にぴしりと亀裂を付けて行く。
硬い外殻を持つ大百足はその程度では何も感じないのか、ひたすら目の前にいる敵に襲い掛かっては噛み付いた。
大きな顎による傷は思ったよりも深くはないが、蓄えた毒が傷口から体内を蝕む。
「毒も呪いも甘くは見れないね」
遥は癒しの滴で治療をしながら呟く。
回復手段を持つ面々が揃っているが、骨隠者の呪いがその回復役を行動不能にしてしまえば別の回復役が動くまでに体力が削られる。
「この大百足も蠱毒に引き寄せられたのかしら」
エアブリットで大百足を撃った椿の推測が合っているかどうか、妖自信も分かるまい。
大百足はひたすら噛みついて毒を撒き、骨隠者は己にも巻き付く呪いを吐き出すばかり。
黒い蛇のような呪いが振り撒かれ、椿と維摩の体を締めつける。
「動けない……!」
「チ、鬱陶しい……」
行動不能に陥った椿と維摩に大百足の視線が集まる。
「やれやれ、呪う相手が違うであろうに」
久永が作り出した無数の光の粒が大百足と骨隠者に降り注ぐと、大百足の外殻と骨隠者の頭蓋に亀裂が入る。
「回復するまで守りを固めます」
動けなくなった仲間に里桜が蒼鋼壁をかける。
「下手をするとイタチごっこだ」
「こっちもガンガン攻めてこ~!」
奏空の演舞・舞音も万能ではない。
ならばと突撃したほのかの無頼が大百足の外殻の亀裂を大きくし、更に動きを鈍らせた。
「よし行った! 追撃お願い!」
目敏く気付いた斑鳩が久永に填気をかける。
「りくえすとには応えよう」
気力が充填されたならば遠慮は無用と雷獣が大百足にとどめを刺した。
「もう一匹の方も体力は大分減っています。押し切りましょう!」
里桜のエネミースキャンで見えた体力はすでに半分以下。集中攻撃をすれば一気に倒せるだろう。
「やっと動けるわね!」
丁度良いタイミングで椿が呪いから解放される。
自身の危険を感じたのか、残った大百足が体を丸め椿のエアブリットを弾く。
硬い手応え。しかし、その表面にはいくつもの亀裂が入っている。
「追撃するよ!」
遥のエアブリットが亀裂を深め、里桜が降槍を叩き込む。
そこで耐えられなくなったか、大百足が丸めていた体をほどくと最後の置き土産とばかりに奏空に噛みついた。
「このっ……!」
傷口から毒に蝕まれる痛み。
至近距離で放った奏空の雷獣が大百足にとどめを刺すが、奏空もただでは済まなかった。
「工藤さん、後退して下さい!」
「そうだね……一旦下がらせてもらうよ」
「後はお任せだよ~」
里桜の忠告を受け入れた奏空にほのかが手を振る。
「あとは骨隠者だけだからね」
「今度はこっちの番だ」
ほのかの後ろのから、呪いから回復した維摩の雷獣が走り抜ける。
全身の骨を焼き焦がすような雷を受け、骨隠者に巻き付いた黒い蛇のような妖気が激しく蠢く。
だが骨隠者の体そのものは動かない。雷獣による痺れが効いたのだ。
「毒だ呪いだと鬱陶しい真似をしてくれたな。お前も綺麗に潰してもらえ」
「人を呪わば穴二つというが、そなたの場合は一つで十分だったようだなぁ」
久永が放った二匹目の雷獣により、骨隠者の肩の骨が弾け飛ぶ。
「人の想いはとても強いものだけど、歪んでしまった想いは悲しいものね」
椿のエアブリットは外れかけた腕の骨を砕いて片腕を落としたが、手に乗せられた石は小揺るぎもせず艶やかな光沢を放っている。
妄執宿る黒い石は美しく、それでいて恐ろしい。
(禁忌だからこそ魅せられてしまったのかな……)
遥の目から見ても黒い石は美しい。男はこれにどんな呪いと想いを込めたのだろうか。
「貴方が何を成したかったは分からないけれど、貴方の思惑は此処で断ち切らせてもらうね」
人を害し災いとなる妖として世に出た以上、それを食い止めるのみ。
薄氷は生物からかけ離れた骨隠者の身にも凍傷をもたらす。
「あとちょっとだよ。落ち着いて戦えば勝てるから……!」
斑鳩の清風に強化を受けた攻撃は骨隠者の体を砕いて行く。
骨隠者の持つ黒い石はその両腕が砕かれても地面に落ちず、骨隠者の元で黒い妖気を吐き出す。
呪いの力は度々覚者達を苦しめたが、それも骨隠者の頭蓋が半分砕け散った直後が最後の呪いとなった。
「時間をかけた割にその程度か? その様では子供を脅しつけるのが精々だな」
維摩の攻撃で足をなくした骨隠者は、それでも黒い石を掲げて呪いを生み続ける。
「眠るがよい」
かつて何かを恨み憎んだか気が狂ったのか、蠱毒を作るほどの思いすら失った男の骸。
久永がその言葉を送ったのは、骸に宿った妖ではなく、蠱毒を作り出した男に向けてのものだった。
雷獣の牙で真っ二つになるほど衝撃を受けた骨隠者の体が宙を舞う。
「これで終わりよ!」
椿が全力を以て撃った氷礫は宙を舞う骨隠者の背骨を砕き、その時初めて黒い石が骨隠者から離れた。
石から離れた骨は瞬く間に脆く朽ちて行き、地面に落ちると乾いた音を立てて粉々に砕け散った。
その破片も風に吹かれるとさらさらと崩れ、ついには骨の欠片すら残らなかった。
●
「骨すら残さず消え失せたか……」
久永が見詰める先には黒い石だけが残っている。
禍々しい程に黒く艶やかな石だ。
「このような物に目的すら忘れるほど魅入られたか……哀れなものだな」
自分の命まで呪いに注ぎ込んで作られた石は、先程まで荒ぶっていたのが嘘のように鎮まっている。
「ぐぬぬぬ……こういう石は魅入られると怖いので早く仕舞ってないないしちゃいたいんですが……」
ほのかが拾ってきた二本の枝で石を摘まもうとするが、石は滑ってはくるくると回るばかり。
「素手で触るのは、ちょっと避けたいね……」
「ええ、素手で触らないように注意しましょう」
遥と里桜が持ってきた手袋と袋で石を回収している間、奏空達は洞窟を塞ぎ立ち入り禁止にするための準備を進める。
「立ち入り禁止のテープ貼り手伝います~っ」
「それじゃ、そっちの方引っ張ってもらえますか」
維摩はと言えば、戦闘が終わった直後に手際よく準備を終えて洞窟の調査に行っていた。
怨み言の一つや二つあるだろうと向かった訳だが、発見したのは食い荒らされた何かの残骸や骨の欠片ばかりで、洞窟に充満していた呪いも消え去っていたらしい。
それらは洞窟に残しておくわけにもいかないだろうと回収された。
何もなくなった洞窟は供養を行ってから完全に穴を埋め立てる事になり、持ち帰られた黒い石は本部に届けられ解析に掛けられる。
大分後の話になるが、埋め立てられた洞窟の前に作った小さな祠が地元民に発見された。
祠は興味を持った者がお参りを始め、何時しか遊歩道が作られて山を訪れる人々に親しまれるようになる。
その祠が建てられた切っ掛けとなる呪いの事など誰も知らず、小さな祠に供えられた花がただ鮮やかに咲くばかり。
地元民さえ正式名を知らないような小さな山。常緑樹が多く傾斜もなだらかで、景色のいい場所にはハイキングやランニングコースに使う遊歩道も作られている。
そんな山の一角で恐ろしい呪いが蠢いているなど一体だれが想像するだろうか。
「……な、なんだか不気味です……」
重なった石の「蓋」をどかし終わった瞬間周囲の空気まで変わった気がして、阿久津 ほのか(CL2001276)が身を竦ませる。
石の裏にお札に書かれているような文字が刻まれたのを見てしまったのも恐怖を煽った。
昔この洞窟で蠱毒が作られたが、作った男ごと封じられ世に出る事はなかった。
男は洞窟の中で狂い死に、やがて洞窟があった事すら忘れ去られた。
使われた石のいくつかは土や苔に覆われており、長い年月そこにあった事を窺わせる。
「この中で蠱毒が作られたのね」
三島 椿(CL2000061)が洞窟の奥を覗き込むが、明かりもない洞窟の先は真っ暗だで何も見えず、何も聞こえてこない。
「それも今や妖の棲家か」
赤祢 維摩(CL2000884)の皮肉気な声と吹き込む風の音が僅かに反響するのみ。
「蠱毒なんて悲しいモノ、どうして作ったんだろう……」
白枝 遥(CL2000500)は禁断の術を用いた経緯を思い、暗い洞窟の闇を見詰めた。
蠱毒を作り上げる程の知識があれば、それがどれだけ危険な呪いの術かも分かっていたはず。一体何が男をそこまで駆り立てたのか。
「蠱毒を作るほどの想いがあれば、妖が発生するのも無理はないかしら?」
「ここまでの呪術を使って一体誰を呪いたかったのだろうな?」
上月・里桜(CL2001274)が少しばかり物思いに耽り、由比 久永(CL2000540)も蠱毒を作りながらも呪いを使う事無く洞窟に閉じ込められて死んだ男の事を考える。
「そんなに強い重いを抱えたままこんな洞窟の中に一人で……孤独だったろうに……」
夢見から聞いた話を思い出したのだろう。
洞窟に閉じ込められ虫に食われて狂い死ぬと言う壮絶な死に方をした男に、工藤 奏空(CL2000955)がそっと黙祷を捧げる。
「蠱毒だけに?」
が、しんみりしかけた空気はほのかの何気ない一言で壊れた。
「……あ、いやその……言った後に『蠱毒だけに……!』って上手いこと思いついたなんて思ってないから……!」
『蠱毒だけに』を節を付けて繰り返すほのか。赤くなって止めようと追いかける奏空。
そんな二人に洞窟から流れる空気に呑まれかけていた面々も笑ってしまう。
「よーし、それじゃウチ皆のために頑張るよっと!」
戎 斑鳩(CL2000377)が、ぱん!と手を叩いて場の空気を切り替える。
「作戦通りに俺達が囮になる」
「呪いはおっかなそうだけど、私は蛇も百足も大丈夫だから任せて下されだよ~」
懐中電灯を取り出し具合を確かめる維摩が声を掛けると、ほのかも表情を引き締めて洞窟前に戻って来る。
「そ、そうだね……さって、気を引き締めて行かないとね!」
奏空も急いで気分を切り替えたようだ。
「私と上月さんで守りの底上げをするわね。上月さん、また会えてうれしいわ。よろしくね」
「はい。お互いに頑張りましょう。よろしくお願いします」
椿と里桜は軽く挨拶を躱し、それぞれ蒼鋼壁と水衣を囮役に掛ける。
洞窟の中では回復不能の呪いが充満していると言う。
守りだけでなく、維摩の戦之祝詞も全員に掛けられた。
「それじゃ行ってくるよ」
洞窟の外で待つ待機班と別れ、囮役は恐ろしい呪いが蔓延する洞窟の奥を目指して一歩一歩慎重に進んで行く。
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「うぐぐ……こ、これが洞窟の呪い……」
ほのかがぐっと何かをこらえる。
外の明かりが遠くなったと思った途端、洞窟に入った覚者達の体を鉛のような重苦しさが襲ったのだ。
奏空と維摩も顔をしかめ、力を込めて足を進める。
「この呪いは蠱毒の効果かな……」
「洞窟全体に効果が広がっているのか」
歩く度にのしかかる重苦しさに耐えながら歩く事しばし。
「むむっ」
ほのかの感覚にひっかかるものがあった。
「いたか」
「間違いないと思うよ」
三人は視線を交わし、まずは奏空が暗闇を見通す目でじっと奥を見詰める。
「……まだこっちには気付いてないね」
暗闇の中にぼんやりと佇む人骨。胡坐をかいた足の上で両手を重ね、掌には暗闇の中にあっても艶々とした黒い石。
手前には黒褐色の丸い何かが見える。おそらく百足が丸くなっているのだろう。
静かに詰めていた息を吐き、後ろに控えた二人に目で合図を送る。
奏空が放った雷獣は長い間光の一筋さえなかった洞窟を明るく照らし出し、手前にいた黒褐色の塊二つを薙ぎ払った。
ギチチと軋んだ音をたてて黒い塊が体を伸ばし、大百足の長い体と蠢く足を露わにした。
それと同時に佇んでいた人骨、骨隠者の髑髏がぐるりと動いて侵入者を捉える。
「おお、こっちきたよ~」
「よし走れ!」
いまいち緊張感が伝わってこないほのかを促し、維摩も奏空を援護しつつ洞窟の出口へ後退する。
三人は妖に捉えられないよう距離を保とうとするが、洞窟の呪いがそれを簡単には許さない。
「しまった……!」
ついに奏空が骨隠者の呪いに捕らえられ、動きが止まってしまう。
洞窟の外まであと一息。何とか呪いを跳ね返そうとする奏空に、大百足が迫る。
「届いて!」
椿の声が響いたと思うと、どんと鈍い音を立てて大百足の顎が弾かれた。
韋駄天足を利用して先に洞窟の外に出ていたほのかの報告を聞き、出入り口ぎりぎりまで来ていたのだ。
内心で胸を撫で下ろした奏空の体が不意に動きを取り戻す。
振り向くと骨隠者の呪いを解除した久永がこいこいと手招きしていた。
「ありがとう。助かりました」
「どういたしまして」
「そなたらもようやったの」
洞窟内部に充満する呪いを押し退けるように洞窟の外に飛び出した奏空と、共に囮役を務めたほのかと維摩を労う。
外に出てきた骨隠者と大百足は周囲を囲む八人を敵だと判断したのか、それとも無関係に襲い掛かるだけなのか、その体から怖気が走るような敵意が溢れている。
骨隠者が手に載せた石を掲げるような仕草をすると、石から溢れた黒い蛇のようなものが激しく蠢き、おぞましい気配が迸った。
「禁忌を犯した者の末路か……」
囮役の傷を癒していた遥は不気味な骨隠者の姿に物憂げな顔になる。
「目の前で見ると不気味やね……」
昼間の日の光は骨隠者の虚ろな眼窩や大百足の蠢く足をはっきり照らし出し、逆に気味が悪い。
斑鳩はごくりと息を飲みつつも、敵の動向を注視する。
「……何のために、蠱毒を作ったのでしょうね……?」
里桜は骨隠者の不気味な姿を目の当たりにし、改めて禁忌を犯した男が何を思っていたのかと思ったが、考えに耽る暇もなく解き放たれた妖は呪いの力を以て暴れ出す。
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「ふん、執念で出来た蠱毒か」
維摩が見るのは骨隠者が持つ黒い石。あれが蠱毒、呪いの塊。
「多少はサンプルになればいいがな」
雷獣を操りながら、頭の中にあるのはあくまで研究者としての興味のみ。
「さっきは散々呪いに悩まされたからね。お返しだ」
奏空の纏霧が大百足と骨隠者に纏わり付く。
骨隠者の様子は全く変わらないが、大百足の方は妖と言っても生物故か、不快そうに足と触角を動かしている。
「ふむ……小さければ、まだ可愛げがあったものを」
足は数えやすくなったがと少々ずれた事を言う久永。戦いの場にあってもおっとりした様子ながら、攻撃そのものは容赦がない。
轟く雷光が大百足の外殻にぴしりと亀裂を付けて行く。
硬い外殻を持つ大百足はその程度では何も感じないのか、ひたすら目の前にいる敵に襲い掛かっては噛み付いた。
大きな顎による傷は思ったよりも深くはないが、蓄えた毒が傷口から体内を蝕む。
「毒も呪いも甘くは見れないね」
遥は癒しの滴で治療をしながら呟く。
回復手段を持つ面々が揃っているが、骨隠者の呪いがその回復役を行動不能にしてしまえば別の回復役が動くまでに体力が削られる。
「この大百足も蠱毒に引き寄せられたのかしら」
エアブリットで大百足を撃った椿の推測が合っているかどうか、妖自信も分かるまい。
大百足はひたすら噛みついて毒を撒き、骨隠者は己にも巻き付く呪いを吐き出すばかり。
黒い蛇のような呪いが振り撒かれ、椿と維摩の体を締めつける。
「動けない……!」
「チ、鬱陶しい……」
行動不能に陥った椿と維摩に大百足の視線が集まる。
「やれやれ、呪う相手が違うであろうに」
久永が作り出した無数の光の粒が大百足と骨隠者に降り注ぐと、大百足の外殻と骨隠者の頭蓋に亀裂が入る。
「回復するまで守りを固めます」
動けなくなった仲間に里桜が蒼鋼壁をかける。
「下手をするとイタチごっこだ」
「こっちもガンガン攻めてこ~!」
奏空の演舞・舞音も万能ではない。
ならばと突撃したほのかの無頼が大百足の外殻の亀裂を大きくし、更に動きを鈍らせた。
「よし行った! 追撃お願い!」
目敏く気付いた斑鳩が久永に填気をかける。
「りくえすとには応えよう」
気力が充填されたならば遠慮は無用と雷獣が大百足にとどめを刺した。
「もう一匹の方も体力は大分減っています。押し切りましょう!」
里桜のエネミースキャンで見えた体力はすでに半分以下。集中攻撃をすれば一気に倒せるだろう。
「やっと動けるわね!」
丁度良いタイミングで椿が呪いから解放される。
自身の危険を感じたのか、残った大百足が体を丸め椿のエアブリットを弾く。
硬い手応え。しかし、その表面にはいくつもの亀裂が入っている。
「追撃するよ!」
遥のエアブリットが亀裂を深め、里桜が降槍を叩き込む。
そこで耐えられなくなったか、大百足が丸めていた体をほどくと最後の置き土産とばかりに奏空に噛みついた。
「このっ……!」
傷口から毒に蝕まれる痛み。
至近距離で放った奏空の雷獣が大百足にとどめを刺すが、奏空もただでは済まなかった。
「工藤さん、後退して下さい!」
「そうだね……一旦下がらせてもらうよ」
「後はお任せだよ~」
里桜の忠告を受け入れた奏空にほのかが手を振る。
「あとは骨隠者だけだからね」
「今度はこっちの番だ」
ほのかの後ろのから、呪いから回復した維摩の雷獣が走り抜ける。
全身の骨を焼き焦がすような雷を受け、骨隠者に巻き付いた黒い蛇のような妖気が激しく蠢く。
だが骨隠者の体そのものは動かない。雷獣による痺れが効いたのだ。
「毒だ呪いだと鬱陶しい真似をしてくれたな。お前も綺麗に潰してもらえ」
「人を呪わば穴二つというが、そなたの場合は一つで十分だったようだなぁ」
久永が放った二匹目の雷獣により、骨隠者の肩の骨が弾け飛ぶ。
「人の想いはとても強いものだけど、歪んでしまった想いは悲しいものね」
椿のエアブリットは外れかけた腕の骨を砕いて片腕を落としたが、手に乗せられた石は小揺るぎもせず艶やかな光沢を放っている。
妄執宿る黒い石は美しく、それでいて恐ろしい。
(禁忌だからこそ魅せられてしまったのかな……)
遥の目から見ても黒い石は美しい。男はこれにどんな呪いと想いを込めたのだろうか。
「貴方が何を成したかったは分からないけれど、貴方の思惑は此処で断ち切らせてもらうね」
人を害し災いとなる妖として世に出た以上、それを食い止めるのみ。
薄氷は生物からかけ離れた骨隠者の身にも凍傷をもたらす。
「あとちょっとだよ。落ち着いて戦えば勝てるから……!」
斑鳩の清風に強化を受けた攻撃は骨隠者の体を砕いて行く。
骨隠者の持つ黒い石はその両腕が砕かれても地面に落ちず、骨隠者の元で黒い妖気を吐き出す。
呪いの力は度々覚者達を苦しめたが、それも骨隠者の頭蓋が半分砕け散った直後が最後の呪いとなった。
「時間をかけた割にその程度か? その様では子供を脅しつけるのが精々だな」
維摩の攻撃で足をなくした骨隠者は、それでも黒い石を掲げて呪いを生み続ける。
「眠るがよい」
かつて何かを恨み憎んだか気が狂ったのか、蠱毒を作るほどの思いすら失った男の骸。
久永がその言葉を送ったのは、骸に宿った妖ではなく、蠱毒を作り出した男に向けてのものだった。
雷獣の牙で真っ二つになるほど衝撃を受けた骨隠者の体が宙を舞う。
「これで終わりよ!」
椿が全力を以て撃った氷礫は宙を舞う骨隠者の背骨を砕き、その時初めて黒い石が骨隠者から離れた。
石から離れた骨は瞬く間に脆く朽ちて行き、地面に落ちると乾いた音を立てて粉々に砕け散った。
その破片も風に吹かれるとさらさらと崩れ、ついには骨の欠片すら残らなかった。
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「骨すら残さず消え失せたか……」
久永が見詰める先には黒い石だけが残っている。
禍々しい程に黒く艶やかな石だ。
「このような物に目的すら忘れるほど魅入られたか……哀れなものだな」
自分の命まで呪いに注ぎ込んで作られた石は、先程まで荒ぶっていたのが嘘のように鎮まっている。
「ぐぬぬぬ……こういう石は魅入られると怖いので早く仕舞ってないないしちゃいたいんですが……」
ほのかが拾ってきた二本の枝で石を摘まもうとするが、石は滑ってはくるくると回るばかり。
「素手で触るのは、ちょっと避けたいね……」
「ええ、素手で触らないように注意しましょう」
遥と里桜が持ってきた手袋と袋で石を回収している間、奏空達は洞窟を塞ぎ立ち入り禁止にするための準備を進める。
「立ち入り禁止のテープ貼り手伝います~っ」
「それじゃ、そっちの方引っ張ってもらえますか」
維摩はと言えば、戦闘が終わった直後に手際よく準備を終えて洞窟の調査に行っていた。
怨み言の一つや二つあるだろうと向かった訳だが、発見したのは食い荒らされた何かの残骸や骨の欠片ばかりで、洞窟に充満していた呪いも消え去っていたらしい。
それらは洞窟に残しておくわけにもいかないだろうと回収された。
何もなくなった洞窟は供養を行ってから完全に穴を埋め立てる事になり、持ち帰られた黒い石は本部に届けられ解析に掛けられる。
大分後の話になるが、埋め立てられた洞窟の前に作った小さな祠が地元民に発見された。
祠は興味を持った者がお参りを始め、何時しか遊歩道が作られて山を訪れる人々に親しまれるようになる。
その祠が建てられた切っ掛けとなる呪いの事など誰も知らず、小さな祠に供えられた花がただ鮮やかに咲くばかり。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
