《緊急依頼》烏合集いて五麟を喰らう
●
我等が逢魔ヶ時紫雨は言った。
『使える奴は攫え、抵抗する奴は殺せ』
全ては紫雨がこの日本を手に入れる為、まずはその手を京都五麟市へ伸ばす。
●
「みんな! たたた、大変だよ!」
『イエロー系女子』大岩・麦(nCL2000116)は慌てた様子で集まった覚者達に現れた。
ただならぬ事態が起きたことを予感する覚者達に向かって、彼女は発生した事件の説明を始めた。
「この五麟市が攻撃されちゃうの! みんなの力を貸して!」
五麟市を攻撃しようとしているのは『禍時の百鬼』という隔者組織。しかし、夢見の予知はそれだけではなかった。
夢見の予知は覚者組織『黎明』の正体が『禍時の百鬼』であると告げたのだ。『黎明』はFIVEと協力関係にあり、共同作戦を取ったこともある。だが、それは偽りの姿。真の姿は、隔者組織だったということだ。元より裏切るつもりで近寄って来た、ということなのだろう。
今、FIVEは『血雨』と呼ばれる災厄への対応のため、本部が手薄な状況となっている。その間隙を突いて、彼らは動き出したのだ。
こちらの余裕が少ない以上、完全な撃退は困難な状況である。まだ味方の振りをしている『黎明』もいつ裏切るか分からない。まずこちらの戦力を整えるためにも、最初の襲撃を凌ぐ必要がある。
「うん、だからみんなには小泉水川(こいずみがわ)の辺りにいる隔者に向かって欲しいの」
小泉水川は五麟市の南西を流れる川だ。その河川敷近辺に展開している隔者の姿がまず検知された。隔者も全てがまとまって動いている訳ではない。そこを逆手にとって、各個撃破を狙うという訳だ。
幸い『禍時の百鬼』の練度は高い方ではない。このような卑怯な策を取ったことからも明らかである。だから、こうやって数を減らしていく作戦は有効に働くことだろう。
だが、油断も出来ない。覚者の側に組織的な補給を用意できない以上、連戦を意識して戦わなくては途中で息切れしてしまうことになる。また、時間を掛け過ぎれば敵も警戒してしまう以上、作戦そのものが成立しなくなってしまう。連携が勝利の鍵となるはずだ。
「中には強い相手もいるみたいだからそこは不安かも……いや、みんななら大丈夫大丈夫!」
そう言う麦の手はわずかに震えていた。彼女だって五麟市に家族が住んでいるのだ。無理のない所だろう。それでも、説明を終えると麦は覚者達を元気良く送り出す。
「無事に帰って来てね? みんなのこと信じているから!」
●
逢魔ヶ時がやって来る。
それは密やかに、そして不吉を漂わせ。
光の影に隠れていた魑魅魍魎が、五麟を喰らわんと姿を見せる。
こうして、覚者達の長い夜が幕を上げた。
我等が逢魔ヶ時紫雨は言った。
『使える奴は攫え、抵抗する奴は殺せ』
全ては紫雨がこの日本を手に入れる為、まずはその手を京都五麟市へ伸ばす。
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「みんな! たたた、大変だよ!」
『イエロー系女子』大岩・麦(nCL2000116)は慌てた様子で集まった覚者達に現れた。
ただならぬ事態が起きたことを予感する覚者達に向かって、彼女は発生した事件の説明を始めた。
「この五麟市が攻撃されちゃうの! みんなの力を貸して!」
五麟市を攻撃しようとしているのは『禍時の百鬼』という隔者組織。しかし、夢見の予知はそれだけではなかった。
夢見の予知は覚者組織『黎明』の正体が『禍時の百鬼』であると告げたのだ。『黎明』はFIVEと協力関係にあり、共同作戦を取ったこともある。だが、それは偽りの姿。真の姿は、隔者組織だったということだ。元より裏切るつもりで近寄って来た、ということなのだろう。
今、FIVEは『血雨』と呼ばれる災厄への対応のため、本部が手薄な状況となっている。その間隙を突いて、彼らは動き出したのだ。
こちらの余裕が少ない以上、完全な撃退は困難な状況である。まだ味方の振りをしている『黎明』もいつ裏切るか分からない。まずこちらの戦力を整えるためにも、最初の襲撃を凌ぐ必要がある。
「うん、だからみんなには小泉水川(こいずみがわ)の辺りにいる隔者に向かって欲しいの」
小泉水川は五麟市の南西を流れる川だ。その河川敷近辺に展開している隔者の姿がまず検知された。隔者も全てがまとまって動いている訳ではない。そこを逆手にとって、各個撃破を狙うという訳だ。
幸い『禍時の百鬼』の練度は高い方ではない。このような卑怯な策を取ったことからも明らかである。だから、こうやって数を減らしていく作戦は有効に働くことだろう。
だが、油断も出来ない。覚者の側に組織的な補給を用意できない以上、連戦を意識して戦わなくては途中で息切れしてしまうことになる。また、時間を掛け過ぎれば敵も警戒してしまう以上、作戦そのものが成立しなくなってしまう。連携が勝利の鍵となるはずだ。
「中には強い相手もいるみたいだからそこは不安かも……いや、みんななら大丈夫大丈夫!」
そう言う麦の手はわずかに震えていた。彼女だって五麟市に家族が住んでいるのだ。無理のない所だろう。それでも、説明を終えると麦は覚者達を元気良く送り出す。
「無事に帰って来てね? みんなのこと信じているから!」
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逢魔ヶ時がやって来る。
それは密やかに、そして不吉を漂わせ。
光の影に隠れていた魑魅魍魎が、五麟を喰らわんと姿を見せる。
こうして、覚者達の長い夜が幕を上げた。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.隔者チーム3つの早急な撃破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
あなたの街で、KSK(けー・えす・けー)です。
FIVEに緊急の事件です。
●戦場
五麟市内の河川敷です。
バラバラの箇所にいる隔者のチームを攻撃してもらう形になります。
足場や灯りに問題はありません。
別のチームがいる場所に移動する間には、1ターン自由行動を取るだけの余裕があります。それより多くの休憩を取ろうとすると、時間をかけすぎたとして失敗判定となる可能性があります。
強化系のスキルは戦闘毎にリセットされるものとします。
●隔者
・禍時の百鬼
相手にする襲撃チームの数は3つ。
それぞれ体術メインの前衛タイプが4人、術式メインの中衛タイプが2人、術式メインの回復後衛タイプが2人います。
実力は基本的にFIVE覚者に劣ります。ただし最後のチームにのみ、9人目として天行の術式タイプがいます。この人のみ高い実力を持ちます。
●注意!!
・【緊急依頼】タグ依頼は、全てが同時進行となる為、PCが同タグに参加できる数は一依頼のみとなります。
重複して参加した場合、重複した依頼の参加資格が取り消される可能性がありますのでご注意下さい。
・また【血ノ雨ノ夜】に参加しているPCも、同時間帯での行動となるため【緊急依頼】タグの依頼には参加できません。
・【緊急依頼】の戦況結果により、本戦でペナルティが発生する恐れがあります。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
5日
5日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年03月04日
2016年03月04日
■メイン参加者 8人■

●
五麟市に逢魔ヶ時がやって来た。闇の中で獲物を喰らうべく、百鬼共はにじり寄ってくる。
それを止めることが出来る者はいないのか?
悪魔の哄笑が何処かで響く。
だが、闇ある所、光あり。悪ある所に正義あり。そして、隔者ある所には覚者がやって来るものだ。
「『黎明』の正体が『百鬼』か。暁がこっちからいなくなった時点で、そんな事だろうと思ってたよ。こっちに残って正解だったな」
涼やかな声で言い放ったのは、瑠璃色の髪と瑠璃色の瞳を持つ少年。『笑顔の約束』六道・瑠璃(CL2000092)だ。覚者の思わぬ登場に混乱を見せる隔者達。
だが、瑠璃は大鎌を振り上げると、反応する間も与えずいきなり雷を叩きつける。時間が有り余っている訳ではない。今は問答する時間すら惜しい。
閃く雷鳴を開戦の合図とばかり、『浄火』七十里・夏南(CL2000006)は大仰な手振りを見せる。すると、炎の柱が立ち上がり隔者達へと襲い掛かった。彼女の手袋は術符を仕込んだ特別製だ。
「私が掃除した街に勝手に踏み入ってるんじゃないわよ」
『禍時の百鬼』は覚者組織を装いFIVEへと近づき、大規模な約祭を囮に五麟市へと襲い掛かった。だが、そうはさせまじと街に残った覚者達の応戦が始まったのだ。
元々、夏南も『黎明』を怪しいと思っていた口だ。このような状況になっても迷いは一切ない。予想よりも規模が大きかったが、その程度のことは些細な問題だ。
「シンプルで良いわ。皆殺しにすればいいだけだもの。出払っている人達が戻ってくる前に街中綺麗にしてあげるわよ。片っ端から燃やしてあげるわ。さあ、一列に並べ!」
勿論、夏南のように割り切れる覚者ばかりではない。
『ハルモニアの幻想旗衛』守衛野・鈴鳴(CL2000222)のように、まだ『黎明』の裏切りを受け入れることが出来ないものもいた。
「……こんなことって、信じられません。だって黎明の皆さん、襲われて大変そうだったのに、亡くなった方だっているのに」
戦旗を握る手が震えている。
無理も無い。
それなりに経験はあるが、鈴鳴はまだ若い覚者だ。加えて、彼女は普段から人々は分かり合えると信じ、そのために戦っている。ついさっきまで仲間だったはずのものを、簡単に撃てたりはしない。
「それすらも、私たちを騙すための罠だったんですか? 人の命を、何だと思ってるんですか?」
鈴鳴の悲痛な叫びが戦場に木霊する。
しかし、そんな想いも構わずに戦いは進んでいく。
この戦況だけを見るのなら、覚者達にとって不利は無い。『禍時の百鬼』は『七星剣』の中でも練度が低い方だ。FIVEの覚者にしてみると、決して強い相手とは言えない。だが、いやだからこそ、覚者達は否が応にも警戒せざるを得なかった。
(ここまでお膳立てを整えてからの行動なら『彼』にとっては勝算のある行動なのでしょうが。こちらが先手を取って対応が可能というのはある意味怖いですね。どこまで想定の範囲なのか)
『アイティオトミア』氷門・有為(CL2000042)の中に疑念は渦巻いている。疑心暗鬼を生ずとはよく言ったものだ。それでも、暗闇の中を抜けなくては真実は見えない。
有為は脚部と融合した刃で疾風の如き速さで敵を切り伏せて行く。
この先に戦いが待っているからこそ、あえて全力で。結果としてその方が被害を少なく出来ることを彼女は知っていた。
その辺りは五麟大学考古学研究所の警備員として日々を送る赤坂・仁(CL2000426)も似たようなものだ。握るランチャーから気の弾丸を撃ち出して、隔者達に叩きつける。
中途半端な火力で向かえるような真似はしない。全力で潰しにかかっているのだ。
「警備員としての仕事なんでな」
眉根も動かさずに激しい攻撃を畳み掛ける仁の前に敵は倒れていく。
一方、横で鎖を操る『蒼炎の道標』七海・灯(CL2000579)の表情には複雑なものが浮かんでいた。
(いろいろと考えたりショックなことはありますが、全部あとです! 今は五麟市を守るためにとにかく動かなくては!)
地を這うような攻撃で、敵を薙ぎ払う。
内面の当惑は灯を取り巻く炎にも揺らぎとなって現れていた。それでも、ここで立ち竦んでいてはいられない。体術に優れた自分が、戦場を支えなくてはという意志で己の心を満たす。先日まで仲間だった者達を倒すために。
「FiVEはそんなに脆くありません。五麟に残った我々も一線級の戦士だと思い知らせてあげましょう!」
隔者達を吹き飛ばし、残された敵をキッと睨む灯。
灯の口にした通りだ。逢魔ヶ時紫雨の思うほど、この場にいる覚者達は弱くない。隔者の放つ因子の炎が覚者の身を焼く中で、三峯・由愛(CL2000629)は機関銃を構え直す。彼女も怪我が無いではないが、械の因子が与えた力は彼女の身を守ってくれた。
「私達が、この場所を守らなくてはいけません」
五鱗市への同時襲撃が本命なのか、あるいはまだ逢魔ヶ時のシナリオに先があるのか。神ならぬ由愛には分からない。それでも、今やるべきことだけははっきりと分かっている。
「……今やれることをやります。理不尽な力を打ち破る為に、私達が居るんですから」
由愛の機関銃が止まると、最後に残っていた隔者が倒れる。それを見て、覚者達はようやく一息つく。
だが、ここで終わりではない。休む暇もあらばこそ、覚者達は次のポイントへと移動を開始する。由愛もすぐさま、消耗の激しい仲間に対して自分の気力を分け与える。
「まだまだこれから、頑張りましょうッス!」
『猪突猛進』葛城・舞子(CL2001275)もまた、癒しの雫を生成し、仲間に分け与える。しかしそんな中、励ましながらも顔にふと不安の色が浮かんでしまう。
「……とはいえ、三連戦はちょっと厳しいッスね~。いやいや、弱音は吐かないッスよ!」
自分で自分の顔を叩くと、舞子は気合を入れ直すと舞子は真っ先に駆け出した。仲間達も互いの状況を確認すると、その後に続く。
「心強い味方ばかりだし、チームワークでは引けをとらないッス! 病は気から! 勝利は気合からッス!!」
●
この状況は逢魔ヶ時紫雨が作り出した、彼にとって最上の状況だ。事実、戦力の落ちた覚者達は相応の苦戦を強いられている。『禍時の百鬼』の視点に立てば、優勢な状況だ。
しかし同時に、これが逢魔ヶ時紫雨の器と才覚の限界であった。
彼は読み違えていたのだ。覚者達の本当の力を。
「たしかに血雨対応に戦力は割かれている。だが、こういう事態を予想して、ここに残ったオレみたいなやつもいるんだよ」
挑発気味に叫びながら、瑠璃は源素の力を解放する。自身の体力の無さを呪うが、こればかりはどうしようもない。ほぼ休み無しで連戦を通してきたのだから。
対して相手は十分な準備を整えてきた相手だ。オマケに今の瑠璃の行動のお陰で、怒りを覚えているものが多数。どう考えたって有利な状況とは言えない。
それでも、瑠璃は不敵に笑って見せた。
灯もそうだ。
既に彼女を追おう炎には、先ほどまであった揺らぎが無い。鮮やかな朱の色に包まれていた。
五麟市を覆い包まんとする闇の中で、少女は世界に灯りを灯す。光が届かない人々に希望を与えるために、彼女は戦うのだ。
「はぁッ!」
気合一閃、灯は敵に対して鎌で下から切り上げる。怒りで隙だらけになっていた隔者の身を裂いた所で、トドメとばかり鎖分銅を頭に叩きつける。
ぐしゃっと嫌な音がして、隔者がまた1人倒れた。
『禍時の百鬼』の練度はFIVEの覚者と比べると練度が落ちるとは言え、戦力を整えてきた相手だ。覚者達が疲労したまま戦闘を続けるのなら決して分がいい相手とは言えなかった。しかし、そこで覚者達は消耗を最低限に抑えて戦ってきた。少なくとも、戦闘で不利にならない程度に体力は残っている。
状況を理解したリーダー風の隔者は、撤退も視野に入れて周囲を見渡す。その時だった。
「合間に何もしなかった分、ここでは働かせてもらいますよ」
1人ルートを変えて河川の上を駆けてきた有為が、大きく跳躍して戦場に姿を見せた。
この場所は本来、覚者達の縄張りだ。地の利は覚者にある。
そして、蹴りを放つと衝撃で隔者が2人纏めて吹き飛ぶ。
「用意の周到さに比して実際の行動が少々雑ではないでしょうか? そこから導き出されるあなた達の本当の役割は、囮で、捨て駒です。どうせ本当の意図も知らされず端的で雑な命令しか出されていないんでしょう?」
有為の中には誤解もあり、それは必ずしも真実を指したものでは無かったが、自分達の不利を悟った隔者に対してはむしろ効果的だった。目に見えて隔者達の士気が落ちて行く。
リーダー風の隔者も術式が得意なタイプという触れ込みだったが、冷静さを欠いているためか直接的な攻撃に頼って来ている。もちろん、疲労の溜まって来た覚者に対しては決して軽いとは言えない攻撃だ。
だがしかし。
「何なんスか、黎明って! どこが『黎明』ッスか!? 黄昏も通り越して、真っ黒じゃないッスか!!!」
癒しの霧が覚者達を包み込むと、その怪我は癒えていく。
『猪突猛進』葛城・舞子(CL2001275)の仕業だ。
「こっちの優しさに付け込んで襲撃するような卑怯者に、簡単にやられるわけにいかないッス! 返り討ちにしてやるッス! 私達の実力、思い知らせてやるッス!」
頭のネジが足りない所のある少女だが、この場においてそれは一途さとして美点になった。ただひたすらに、愚直に仲間達を信じ、支え続けることで覚者達は多少の怪我をものともせずに戦えるのだから。
「怪我はしてほしくないッスが、万が一の時は全力でお助けするので、主力の皆さんはその辺は気にせず、派手にやってほしいッス!」
「ここで終わりなら出し惜しみ無しだ。手早く終わらせる」
舞子の言葉に答えるように、仁も攻撃の手を激しくする。
鈴鳴もまた、強い意志を湛えた瞳で戦旗を掲げた。
「……私は、皆さんと手を取り合っていたかったです。こんな馬鹿げたことをやめて、一緒に戦ってくれる人がいるなら、私は嬉しいし歓迎します。けれど、無関係な人を、街を襲うつもりなら……私は決して許しません」
あくまでも鈴鳴の戦旗は共に交わり響く人々の旗印となるべく、奮い振るうためのもの。まだ分かり合うことは出来るはずだと信じて。そして、まだ小さな翼から圧縮された空気の弾丸が撃ち出される。
まだ分かり合うことと戦うことのジレンマは止まらない。それでも、自分の理想のために鈴鳴は戦う。
こうして、1人また1人と隔者は数を減らして行った。
最後に残されたのはリーダー格だ。覚者達の士気は高く、逃がすつもりは元よりない。この場はともかく、五麟市全体に目を向ければ紛れも無く窮地に立たされているのだ。
隔者の放つ雷が覚者達の身を焼く。
だが、抵抗もそれまでだ。
「銃器は殴る物ではない。だが、殴るのに使える銃器なら話は別だ」
火行の力を銃器に纏い、仁はそれを思い切り振り下ろす。鈍い音がした。
その横で夏南は痛みを意に介さず、己の中で高まった炎を解放する。悪を排除し秩序を取り戻すための、正義の炎をだ。
「きっちり殺してあげるわ。私はこの後お前たち全員に止めを刺して掃除もしなくちゃいけないからね」
先ほどまでのように派手な炎ではない。
集中し、増幅された炎が連続して隔者にぶつけられた。冷静沈着を装っているものの、実際はかなり攻撃性の高い少女なのだ。
かろうじて意識を保った隔者に対して、血に汚れた姿で由愛はゆっくりと銃を向けた。
その顔はさながら、涙を流さずに泣いているようでもあった。
「この街を……FiVEを守りたいんです。戦うのは好きではないです。この身体に宿った異能の力も、幾度呪ったか分かりません。ですが、ここは漸く見つけることができた『安心できる場所』なんです」
目の前の隔者は由愛がどのような人生を送って来たか知るまい。だが、これは静かな決意表明だった。
異能故に疎んじられ、多くのものを失ってきた彼女にとって、ようやく得た『安心できる場所』を奪われることは戦うことよりも、下手をすれば命を失うよりも恐ろしいことだった。
「だから、あなたたちのように……己の欲望で他人を傷つけるような真似を、私は絶対に許さない……っ!」
由愛が引き金を引き絞る。
すると、無機質な音を立てて弾丸が放たれていった。
そして、弾丸が尽き、隔者が倒れたのを見て由愛はそっと呟いた。
「何度でも守ってみせます。内外に敵が控えていても……必ず」
●
戦いを終えた河川敷で、ようやく覚者達は休息の暇を得た。
先ほどまではタイムアタックのような状況だったのだ。ひとまずは緒戦を終わらせた、と言う所。
その中で、鈴鳴は倒した隔者に対して治療を行っていた。
「例え憎くても悔しくても、敵隔者は決して殺しません。悪いことをしたなら、ちゃんと法律で裁いてもらうべきですから」
覚者達の容赦ない攻撃の前に命を落とした隔者だって少なくない。だが、生き残ったもの、鈴鳴が生かしたものも少なくない。彼女は自身の矜持も守り抜いたのだ。
そして、ある程度休息した所で灯が皆に促す。
「これで終わりではありません、急いで本部に戻って指示を仰ぎましょう。五麟市もFiVEも七星剣の好きにはさせません!」
「『黎明』の時刻には『逢魔が時』が敗れる……皮肉ッスね」
舞子がいつになくシリアスな表情で呟く。状況をどこまで理解しているか、彼女の表情から窺い知ることは出来ない。だが確かなこととして、事態はまだ始まったばかり。本格的な戦いはこれからなのだ。
そして、舞子はくるりといつものように明るい表情に変わり、また一番で駆け出す。
「逢魔が時は魑魅魍魎が現れる恐ろしい時間ッスが……どんな時でも明けない夜はないッス!」
まだ、五麟の夜は長い。
五麟市に逢魔ヶ時がやって来た。闇の中で獲物を喰らうべく、百鬼共はにじり寄ってくる。
それを止めることが出来る者はいないのか?
悪魔の哄笑が何処かで響く。
だが、闇ある所、光あり。悪ある所に正義あり。そして、隔者ある所には覚者がやって来るものだ。
「『黎明』の正体が『百鬼』か。暁がこっちからいなくなった時点で、そんな事だろうと思ってたよ。こっちに残って正解だったな」
涼やかな声で言い放ったのは、瑠璃色の髪と瑠璃色の瞳を持つ少年。『笑顔の約束』六道・瑠璃(CL2000092)だ。覚者の思わぬ登場に混乱を見せる隔者達。
だが、瑠璃は大鎌を振り上げると、反応する間も与えずいきなり雷を叩きつける。時間が有り余っている訳ではない。今は問答する時間すら惜しい。
閃く雷鳴を開戦の合図とばかり、『浄火』七十里・夏南(CL2000006)は大仰な手振りを見せる。すると、炎の柱が立ち上がり隔者達へと襲い掛かった。彼女の手袋は術符を仕込んだ特別製だ。
「私が掃除した街に勝手に踏み入ってるんじゃないわよ」
『禍時の百鬼』は覚者組織を装いFIVEへと近づき、大規模な約祭を囮に五麟市へと襲い掛かった。だが、そうはさせまじと街に残った覚者達の応戦が始まったのだ。
元々、夏南も『黎明』を怪しいと思っていた口だ。このような状況になっても迷いは一切ない。予想よりも規模が大きかったが、その程度のことは些細な問題だ。
「シンプルで良いわ。皆殺しにすればいいだけだもの。出払っている人達が戻ってくる前に街中綺麗にしてあげるわよ。片っ端から燃やしてあげるわ。さあ、一列に並べ!」
勿論、夏南のように割り切れる覚者ばかりではない。
『ハルモニアの幻想旗衛』守衛野・鈴鳴(CL2000222)のように、まだ『黎明』の裏切りを受け入れることが出来ないものもいた。
「……こんなことって、信じられません。だって黎明の皆さん、襲われて大変そうだったのに、亡くなった方だっているのに」
戦旗を握る手が震えている。
無理も無い。
それなりに経験はあるが、鈴鳴はまだ若い覚者だ。加えて、彼女は普段から人々は分かり合えると信じ、そのために戦っている。ついさっきまで仲間だったはずのものを、簡単に撃てたりはしない。
「それすらも、私たちを騙すための罠だったんですか? 人の命を、何だと思ってるんですか?」
鈴鳴の悲痛な叫びが戦場に木霊する。
しかし、そんな想いも構わずに戦いは進んでいく。
この戦況だけを見るのなら、覚者達にとって不利は無い。『禍時の百鬼』は『七星剣』の中でも練度が低い方だ。FIVEの覚者にしてみると、決して強い相手とは言えない。だが、いやだからこそ、覚者達は否が応にも警戒せざるを得なかった。
(ここまでお膳立てを整えてからの行動なら『彼』にとっては勝算のある行動なのでしょうが。こちらが先手を取って対応が可能というのはある意味怖いですね。どこまで想定の範囲なのか)
『アイティオトミア』氷門・有為(CL2000042)の中に疑念は渦巻いている。疑心暗鬼を生ずとはよく言ったものだ。それでも、暗闇の中を抜けなくては真実は見えない。
有為は脚部と融合した刃で疾風の如き速さで敵を切り伏せて行く。
この先に戦いが待っているからこそ、あえて全力で。結果としてその方が被害を少なく出来ることを彼女は知っていた。
その辺りは五麟大学考古学研究所の警備員として日々を送る赤坂・仁(CL2000426)も似たようなものだ。握るランチャーから気の弾丸を撃ち出して、隔者達に叩きつける。
中途半端な火力で向かえるような真似はしない。全力で潰しにかかっているのだ。
「警備員としての仕事なんでな」
眉根も動かさずに激しい攻撃を畳み掛ける仁の前に敵は倒れていく。
一方、横で鎖を操る『蒼炎の道標』七海・灯(CL2000579)の表情には複雑なものが浮かんでいた。
(いろいろと考えたりショックなことはありますが、全部あとです! 今は五麟市を守るためにとにかく動かなくては!)
地を這うような攻撃で、敵を薙ぎ払う。
内面の当惑は灯を取り巻く炎にも揺らぎとなって現れていた。それでも、ここで立ち竦んでいてはいられない。体術に優れた自分が、戦場を支えなくてはという意志で己の心を満たす。先日まで仲間だった者達を倒すために。
「FiVEはそんなに脆くありません。五麟に残った我々も一線級の戦士だと思い知らせてあげましょう!」
隔者達を吹き飛ばし、残された敵をキッと睨む灯。
灯の口にした通りだ。逢魔ヶ時紫雨の思うほど、この場にいる覚者達は弱くない。隔者の放つ因子の炎が覚者の身を焼く中で、三峯・由愛(CL2000629)は機関銃を構え直す。彼女も怪我が無いではないが、械の因子が与えた力は彼女の身を守ってくれた。
「私達が、この場所を守らなくてはいけません」
五鱗市への同時襲撃が本命なのか、あるいはまだ逢魔ヶ時のシナリオに先があるのか。神ならぬ由愛には分からない。それでも、今やるべきことだけははっきりと分かっている。
「……今やれることをやります。理不尽な力を打ち破る為に、私達が居るんですから」
由愛の機関銃が止まると、最後に残っていた隔者が倒れる。それを見て、覚者達はようやく一息つく。
だが、ここで終わりではない。休む暇もあらばこそ、覚者達は次のポイントへと移動を開始する。由愛もすぐさま、消耗の激しい仲間に対して自分の気力を分け与える。
「まだまだこれから、頑張りましょうッス!」
『猪突猛進』葛城・舞子(CL2001275)もまた、癒しの雫を生成し、仲間に分け与える。しかしそんな中、励ましながらも顔にふと不安の色が浮かんでしまう。
「……とはいえ、三連戦はちょっと厳しいッスね~。いやいや、弱音は吐かないッスよ!」
自分で自分の顔を叩くと、舞子は気合を入れ直すと舞子は真っ先に駆け出した。仲間達も互いの状況を確認すると、その後に続く。
「心強い味方ばかりだし、チームワークでは引けをとらないッス! 病は気から! 勝利は気合からッス!!」
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この状況は逢魔ヶ時紫雨が作り出した、彼にとって最上の状況だ。事実、戦力の落ちた覚者達は相応の苦戦を強いられている。『禍時の百鬼』の視点に立てば、優勢な状況だ。
しかし同時に、これが逢魔ヶ時紫雨の器と才覚の限界であった。
彼は読み違えていたのだ。覚者達の本当の力を。
「たしかに血雨対応に戦力は割かれている。だが、こういう事態を予想して、ここに残ったオレみたいなやつもいるんだよ」
挑発気味に叫びながら、瑠璃は源素の力を解放する。自身の体力の無さを呪うが、こればかりはどうしようもない。ほぼ休み無しで連戦を通してきたのだから。
対して相手は十分な準備を整えてきた相手だ。オマケに今の瑠璃の行動のお陰で、怒りを覚えているものが多数。どう考えたって有利な状況とは言えない。
それでも、瑠璃は不敵に笑って見せた。
灯もそうだ。
既に彼女を追おう炎には、先ほどまであった揺らぎが無い。鮮やかな朱の色に包まれていた。
五麟市を覆い包まんとする闇の中で、少女は世界に灯りを灯す。光が届かない人々に希望を与えるために、彼女は戦うのだ。
「はぁッ!」
気合一閃、灯は敵に対して鎌で下から切り上げる。怒りで隙だらけになっていた隔者の身を裂いた所で、トドメとばかり鎖分銅を頭に叩きつける。
ぐしゃっと嫌な音がして、隔者がまた1人倒れた。
『禍時の百鬼』の練度はFIVEの覚者と比べると練度が落ちるとは言え、戦力を整えてきた相手だ。覚者達が疲労したまま戦闘を続けるのなら決して分がいい相手とは言えなかった。しかし、そこで覚者達は消耗を最低限に抑えて戦ってきた。少なくとも、戦闘で不利にならない程度に体力は残っている。
状況を理解したリーダー風の隔者は、撤退も視野に入れて周囲を見渡す。その時だった。
「合間に何もしなかった分、ここでは働かせてもらいますよ」
1人ルートを変えて河川の上を駆けてきた有為が、大きく跳躍して戦場に姿を見せた。
この場所は本来、覚者達の縄張りだ。地の利は覚者にある。
そして、蹴りを放つと衝撃で隔者が2人纏めて吹き飛ぶ。
「用意の周到さに比して実際の行動が少々雑ではないでしょうか? そこから導き出されるあなた達の本当の役割は、囮で、捨て駒です。どうせ本当の意図も知らされず端的で雑な命令しか出されていないんでしょう?」
有為の中には誤解もあり、それは必ずしも真実を指したものでは無かったが、自分達の不利を悟った隔者に対してはむしろ効果的だった。目に見えて隔者達の士気が落ちて行く。
リーダー風の隔者も術式が得意なタイプという触れ込みだったが、冷静さを欠いているためか直接的な攻撃に頼って来ている。もちろん、疲労の溜まって来た覚者に対しては決して軽いとは言えない攻撃だ。
だがしかし。
「何なんスか、黎明って! どこが『黎明』ッスか!? 黄昏も通り越して、真っ黒じゃないッスか!!!」
癒しの霧が覚者達を包み込むと、その怪我は癒えていく。
『猪突猛進』葛城・舞子(CL2001275)の仕業だ。
「こっちの優しさに付け込んで襲撃するような卑怯者に、簡単にやられるわけにいかないッス! 返り討ちにしてやるッス! 私達の実力、思い知らせてやるッス!」
頭のネジが足りない所のある少女だが、この場においてそれは一途さとして美点になった。ただひたすらに、愚直に仲間達を信じ、支え続けることで覚者達は多少の怪我をものともせずに戦えるのだから。
「怪我はしてほしくないッスが、万が一の時は全力でお助けするので、主力の皆さんはその辺は気にせず、派手にやってほしいッス!」
「ここで終わりなら出し惜しみ無しだ。手早く終わらせる」
舞子の言葉に答えるように、仁も攻撃の手を激しくする。
鈴鳴もまた、強い意志を湛えた瞳で戦旗を掲げた。
「……私は、皆さんと手を取り合っていたかったです。こんな馬鹿げたことをやめて、一緒に戦ってくれる人がいるなら、私は嬉しいし歓迎します。けれど、無関係な人を、街を襲うつもりなら……私は決して許しません」
あくまでも鈴鳴の戦旗は共に交わり響く人々の旗印となるべく、奮い振るうためのもの。まだ分かり合うことは出来るはずだと信じて。そして、まだ小さな翼から圧縮された空気の弾丸が撃ち出される。
まだ分かり合うことと戦うことのジレンマは止まらない。それでも、自分の理想のために鈴鳴は戦う。
こうして、1人また1人と隔者は数を減らして行った。
最後に残されたのはリーダー格だ。覚者達の士気は高く、逃がすつもりは元よりない。この場はともかく、五麟市全体に目を向ければ紛れも無く窮地に立たされているのだ。
隔者の放つ雷が覚者達の身を焼く。
だが、抵抗もそれまでだ。
「銃器は殴る物ではない。だが、殴るのに使える銃器なら話は別だ」
火行の力を銃器に纏い、仁はそれを思い切り振り下ろす。鈍い音がした。
その横で夏南は痛みを意に介さず、己の中で高まった炎を解放する。悪を排除し秩序を取り戻すための、正義の炎をだ。
「きっちり殺してあげるわ。私はこの後お前たち全員に止めを刺して掃除もしなくちゃいけないからね」
先ほどまでのように派手な炎ではない。
集中し、増幅された炎が連続して隔者にぶつけられた。冷静沈着を装っているものの、実際はかなり攻撃性の高い少女なのだ。
かろうじて意識を保った隔者に対して、血に汚れた姿で由愛はゆっくりと銃を向けた。
その顔はさながら、涙を流さずに泣いているようでもあった。
「この街を……FiVEを守りたいんです。戦うのは好きではないです。この身体に宿った異能の力も、幾度呪ったか分かりません。ですが、ここは漸く見つけることができた『安心できる場所』なんです」
目の前の隔者は由愛がどのような人生を送って来たか知るまい。だが、これは静かな決意表明だった。
異能故に疎んじられ、多くのものを失ってきた彼女にとって、ようやく得た『安心できる場所』を奪われることは戦うことよりも、下手をすれば命を失うよりも恐ろしいことだった。
「だから、あなたたちのように……己の欲望で他人を傷つけるような真似を、私は絶対に許さない……っ!」
由愛が引き金を引き絞る。
すると、無機質な音を立てて弾丸が放たれていった。
そして、弾丸が尽き、隔者が倒れたのを見て由愛はそっと呟いた。
「何度でも守ってみせます。内外に敵が控えていても……必ず」
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戦いを終えた河川敷で、ようやく覚者達は休息の暇を得た。
先ほどまではタイムアタックのような状況だったのだ。ひとまずは緒戦を終わらせた、と言う所。
その中で、鈴鳴は倒した隔者に対して治療を行っていた。
「例え憎くても悔しくても、敵隔者は決して殺しません。悪いことをしたなら、ちゃんと法律で裁いてもらうべきですから」
覚者達の容赦ない攻撃の前に命を落とした隔者だって少なくない。だが、生き残ったもの、鈴鳴が生かしたものも少なくない。彼女は自身の矜持も守り抜いたのだ。
そして、ある程度休息した所で灯が皆に促す。
「これで終わりではありません、急いで本部に戻って指示を仰ぎましょう。五麟市もFiVEも七星剣の好きにはさせません!」
「『黎明』の時刻には『逢魔が時』が敗れる……皮肉ッスね」
舞子がいつになくシリアスな表情で呟く。状況をどこまで理解しているか、彼女の表情から窺い知ることは出来ない。だが確かなこととして、事態はまだ始まったばかり。本格的な戦いはこれからなのだ。
そして、舞子はくるりといつものように明るい表情に変わり、また一番で駆け出す。
「逢魔が時は魑魅魍魎が現れる恐ろしい時間ッスが……どんな時でも明けない夜はないッス!」
まだ、五麟の夜は長い。
