《緊急依頼》紅蓮が舞い、灯が消える
●緊急依頼
今、この五麟市は、覚者の数が何時もより少ない。というのも、血雨という厄災を倒す為に、選抜された覚者達が出払っているからだ。
そんな中、
「まさか……な」
中・恭介(nCL2000002)は前髪をぐしゃりと掴みながら、溜息を吐いた。
「間違いは、無いのか」
「はい。ありません……残念ながら、あと数時間でこの五麟市は、七星剣幹部逢魔ヶ時紫雨と、その部下禍時の百鬼に襲撃されます」
久方 真由美(nCL2000003)が語るのは紛れもない事実だ。
それも、協力組織として迎えていた『黎明』という覚者組織は、あの逢魔ヶ時紫雨の率いる禍時の百鬼であるという事実と共に。
「くそっ。じゃあ、あのヒノマル陸軍の京都の事件は、俺達が助ける事を踏まえ、あえて黎明を襲わせたっていう事か」
「はい……そうなります。ですが、まだ、彼等は私達が気づいている事に気づいていない。これから、外部より百鬼が五麟市内に侵入してきます。せめて、血雨討伐部隊が戻るまで、それらをここへ近づけさせないように撃退するしかありません」
恐らく、黎明組織はまだ化けの皮を被った状態だ。我々FiVEが百鬼を迎え撃つように行動すれば、一緒に戦うと言うだろうが、どのタイミングで裏切ってもおかしくは無い。
敵は外にも、内にも控えている。
「分った。考えている暇は無いようだ……百鬼を迎え撃つ。この街を奴等にやる事はできない。
五麟市内に伝達しろ!! 緊急依頼だ、五麟市内、FiVE全覚者に告ぐ。総員、速やかに侵入者を制圧せよ。
そして、血雨の部隊を一刻も早く呼び戻せ――!!」
●爆弾
「そっちは準備できたかー? 」
高圧送電線を支える電柱の一角にいた百鬼の若者が反対側にいる仲間に呼びかける。
「こっちもオッケー。それにしても電柱一本落とすのにすごい爆薬ですね雨宿さん? 」
答えを返した百鬼が自分の傍らにいたスーツの男に疑問を投げかける。
彼に目の前には小型のケースに入った爆弾が一つ、電柱の一角に縛りつけられていた。
雨宿と呼ばれた男は頭を掻きながら答える
「彼らは予知能力がすごいですからね、ばれた時も一緒に巻き込んでしまおうという魂胆ですよ」
「流石雨宿の兄貴だぜ、俺達みたいな落ちこぼれのさらに落ちこぼれなんかに構ってくれるだけじゃなくて、こんな風に仕事も回してくれるし」
部下の言葉に照れくさそうにする雨宿。
「能力だけが隔者ってことじゃないってことですよ。さて、来ましたよ。適当にやって爆発する前にトンズラしましょうか? 」
7人の百鬼は向かってくる覚者へと視線を移した。
●同行者
「緊急の任務です」
皆を見つめる真由美の表情は硬い。
「百鬼の一部隊が五麟市につながる送電線を爆破しようとしています。もし爆破された場合は学園とその周辺の送電が遮断されてしまいます。学園及びFiVEは非常用電源などを確保しているので問題ありませんが、周辺住民地域の停電及び消防や警察も動くため、学園周辺での混乱が予測されます」
目標とする地域の地図を出し、言葉を続ける。
「現地にいる百鬼は7名、雨宿と呼ばれる男をリーダー格として行動しています。他の隔者に関しては資料の通りですが、雨宿と呼ばれる男についてはスキルに対する造詣が深いことと敵情の把握を得意としています。気を付けてください。
それと送電線に取り付けられた爆弾ですが、皆さんが到着した時には時限装置が作動しますので、早めの行動を求められます。威力も強力で皆さんを巻き込んで爆発させることを想定しているようです。」
爆弾の資料を出した後、彼女は覚者達に視線を向ける。
「それでは皆さん、よろしくお願いします」
今、この五麟市は、覚者の数が何時もより少ない。というのも、血雨という厄災を倒す為に、選抜された覚者達が出払っているからだ。
そんな中、
「まさか……な」
中・恭介(nCL2000002)は前髪をぐしゃりと掴みながら、溜息を吐いた。
「間違いは、無いのか」
「はい。ありません……残念ながら、あと数時間でこの五麟市は、七星剣幹部逢魔ヶ時紫雨と、その部下禍時の百鬼に襲撃されます」
久方 真由美(nCL2000003)が語るのは紛れもない事実だ。
それも、協力組織として迎えていた『黎明』という覚者組織は、あの逢魔ヶ時紫雨の率いる禍時の百鬼であるという事実と共に。
「くそっ。じゃあ、あのヒノマル陸軍の京都の事件は、俺達が助ける事を踏まえ、あえて黎明を襲わせたっていう事か」
「はい……そうなります。ですが、まだ、彼等は私達が気づいている事に気づいていない。これから、外部より百鬼が五麟市内に侵入してきます。せめて、血雨討伐部隊が戻るまで、それらをここへ近づけさせないように撃退するしかありません」
恐らく、黎明組織はまだ化けの皮を被った状態だ。我々FiVEが百鬼を迎え撃つように行動すれば、一緒に戦うと言うだろうが、どのタイミングで裏切ってもおかしくは無い。
敵は外にも、内にも控えている。
「分った。考えている暇は無いようだ……百鬼を迎え撃つ。この街を奴等にやる事はできない。
五麟市内に伝達しろ!! 緊急依頼だ、五麟市内、FiVE全覚者に告ぐ。総員、速やかに侵入者を制圧せよ。
そして、血雨の部隊を一刻も早く呼び戻せ――!!」
●爆弾
「そっちは準備できたかー? 」
高圧送電線を支える電柱の一角にいた百鬼の若者が反対側にいる仲間に呼びかける。
「こっちもオッケー。それにしても電柱一本落とすのにすごい爆薬ですね雨宿さん? 」
答えを返した百鬼が自分の傍らにいたスーツの男に疑問を投げかける。
彼に目の前には小型のケースに入った爆弾が一つ、電柱の一角に縛りつけられていた。
雨宿と呼ばれた男は頭を掻きながら答える
「彼らは予知能力がすごいですからね、ばれた時も一緒に巻き込んでしまおうという魂胆ですよ」
「流石雨宿の兄貴だぜ、俺達みたいな落ちこぼれのさらに落ちこぼれなんかに構ってくれるだけじゃなくて、こんな風に仕事も回してくれるし」
部下の言葉に照れくさそうにする雨宿。
「能力だけが隔者ってことじゃないってことですよ。さて、来ましたよ。適当にやって爆発する前にトンズラしましょうか? 」
7人の百鬼は向かってくる覚者へと視線を移した。
●同行者
「緊急の任務です」
皆を見つめる真由美の表情は硬い。
「百鬼の一部隊が五麟市につながる送電線を爆破しようとしています。もし爆破された場合は学園とその周辺の送電が遮断されてしまいます。学園及びFiVEは非常用電源などを確保しているので問題ありませんが、周辺住民地域の停電及び消防や警察も動くため、学園周辺での混乱が予測されます」
目標とする地域の地図を出し、言葉を続ける。
「現地にいる百鬼は7名、雨宿と呼ばれる男をリーダー格として行動しています。他の隔者に関しては資料の通りですが、雨宿と呼ばれる男についてはスキルに対する造詣が深いことと敵情の把握を得意としています。気を付けてください。
それと送電線に取り付けられた爆弾ですが、皆さんが到着した時には時限装置が作動しますので、早めの行動を求められます。威力も強力で皆さんを巻き込んで爆発させることを想定しているようです。」
爆弾の資料を出した後、彼女は覚者達に視線を向ける。
「それでは皆さん、よろしくお願いします」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.百鬼の撃退
2.爆弾の排除
3.なし
2.爆弾の排除
3.なし
・【緊急依頼】タグ依頼は、全てが同時進行となる為、PCが同タグに参加できる数は一依頼のみとなります。
重複して参加した場合、重複した依頼の参加資格が取り消される可能性がありますのでご注意下さい。
・また【血ノ雨ノ夜】に参加しているPCも、同時間帯での行動となるため【緊急依頼】タグの依頼には参加できません。
・【緊急依頼】の戦況結果により、本戦でペナルティが発生する恐れがあります。
●詳細
塩見です、大変なことになりましたね。
それでは街を守るために頑張って下さい。
以下、敵のデータ他です
雨宿
20代前半のスーツの男です。
現状知りうる限りのスキルに関しての知識を持ち合わせています。
(FiVEスキルなどは除きます)
前世持ち
天行
エネミースキャン
召雷
纏霧
演舞・清風
演舞・舞衣
日本刀所持
百鬼
合計6名
3名(前衛)
付喪、火行
炎撃、火柱、火炎弾
ナイフ所持
3名(後衛)
変化、水行
水礫
癒しの滴
癒しの霧
ピストル所持
爆弾
・成形炸薬爆弾(3分後爆発)
一方向にエネルギーを集中させて、物質を破壊します。
腹に抱えたら、身体に穴が開くことは確実です。
・対覚者範囲爆弾(3分10秒後爆発)
範囲20mの覚者を対象にした爆弾です。
覚者を戦闘不能に持ち込み、周辺の物質を破壊します。
両方とも時限装置は戦闘開始時にスイッチが入り、ストップボタンはありません。
それでは皆さん、長い夜をお過ごしください。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
5日
5日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年03月04日
2016年03月04日
■メイン参加者 8人■

●長い夜の始まり
「ったくえらいことになっちまったぜ、五麟が火の海なんてシャレにならねえ」
『ゴシップ記者』風祭・誘輔(CL2001092)が苛立ちのあまり、咥えてた煙草を噛んでしまい地面に吐き捨てる。彼が向かう先には高圧電線が懸架された、電柱というにはあまりに大きい鉄骨で出来た建造物。
「黎明は百鬼やった、か。せやけど不思議と怒りとかは沸いてこんな」
隣を走る『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)は対照的に落ち着いている。
「化かし合いは世の常人の常、ひっかかったあたしらがあほやったってだけの事」
言葉と共に黒髪は色を失い赤へと変わる。
「せやけどそれと五麟の街をボロボロにしよって事は話が別や、きっちり思い知らせたるで!」
隠れていた激情を表すようにその瞳も紅に染まった。
「黎明が仲間だったらいいっていうの、利用された、の、ね」
その上空を飛ぶ、桂木・日那乃(CL2000941)は最後の方の言葉を一句ずつ区切る。何かが少女の内面を揺らしているのだろう。
「でも、今は敵として、叩き潰すだけだね」
傍らを飛ぶ指崎 まこと(CL2000087)には黎明に対しての思い入れが無い、故にやるべきことを提示する。それが彼らが何をすべきかを改めて認識する。
「余も勿論気づいてたよ、王家のカンってやつ」
皆から一歩遅れてプリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)がしたり顔で口にする。だが寝坊して出遅れたのは王家に伝わる機密事項。王宮付きのパパラッチが居なかったことが幸いだったのは言うまでもないし、そんなところは今気にしているところではないのだ。
彼らが目標に到達したとき、鉄塔の下にいた男達はすでに爆破の準備を完了し時限装置の火を入れていた。
●逢魔が時の雨宿り
「やあ、どうも初めまして。雨に宿ると書きまして雨宿と申します。みなさんよろしく」
白鞘を持ったスーツの男は鉄塔を背後に陣取って、芝居がかった口調とともに鞘に納めた刀を肩に乗せる。
「甘く見られたものね、私達も」
『溶けない炎』鈴駆・ありす(CL2001269)が不満げな口調で一歩前に出た。
「精鋭部隊が居ないから、今なら楽に五麟を落とせる。いいわ、見せ付けてあげようじゃない」
「そんなことはございません、現にこうやってあなた方が来ることを想定して皆さんが戦線離脱しかねない爆弾を用意しました。火行のお嬢さん」
全てを見透かすかのように雨宿の目がありすをそして皆を捉える。
「いけない! 」
エネミースキャンに気づいたまことが声を上げ前衛に並ぶ。爆弾が高いところにあることを想定していたが幸いにも爆弾の位置は鉄塔の根本、そして今は皆に警告をしないと行けない。
「敵はもう戦闘態勢だ! 」
直後、清風が吹き、鉄塔を背後にした百鬼達は次々と武器を構えた。
「焔陰流21代目焔陰凛、推して参る! 」
名乗りとともに凛が燃え盛る焔のような刃紋の刀を抜く。
構えながらも凛は内心冷汗をかいていた。エネミースキャンに演舞・清風、連続での行動。仲間達の中では自分が一番速いはずだが、雨宿の反応はそれを上回っていることになる。
けれど今はやるべきことをやらなくてはいけない。仲間達の動きに合わせるべく百鬼に対峙し距離を詰める。
誘輔が機化硬で自らの鋼を硬化し、まことが回り込むように動いて大地に力を流し込む
――大震!
大地が揺れ、前衛にいた付喪の百鬼達を吹き飛ばした。そこへ凛が圧撃を打ち込み、残った前衛を吹き飛ばす。
「ふん……悪目立ちは嫌いなんだけど。いくわよ、開眼」
額に第三の眼を開いたありすが醒の炎を顕現し追撃の準備に回る。
「構いません陣形はそのままで」
雨宿は冷静に指示を下すと一歩下がり全員が掌握できるように視界に納める。その中に飛び込んだプリンスがインフレブリンガーを振り上げた。
「そう急がないで、余とゆっくりしていきなよ。王家に伝わるポテチでもどう?」
「申し訳ありません仕事中なんです」
大槌の一撃を抜刀した白鞘でいなすスーツの男。いなされた大槌が大地に叩きつけられグレイブル国硬貨が発行される。
(プロフェッサー、ミュエ姫、マコ姫、聞こえる? じゃまず余のマイブームの話……すいませんちゃんとやります)
ハンマーを構えなおしつつプリンスは事前に仕込んでいた送受心・改のチャンネルを開く、その直後だった。
「全員射撃、目標三つ眼のお嬢さん。水は銃で」
雨宿の指示に従った百鬼達が火炎弾を、ピストルによる射撃を、ありすに向かって一斉に撃ち込む。
合計六発。全てが命中することは無いとはいえ、集中した攻撃はありすを一気に瀕死の状態に持ち込んだ。
「危ない」
待機していた日那乃がすぐに癒しの滴で回復を図るが全ての傷を癒しきることが出来ない。
「彼女だけ、ワンテンポ遅れました。そして翼の君、私達を吹き飛ばすのはいいけれど、その余裕はあるのかな? 」
スーツの男が問いかけると覚者達に霧が纏わりつく。力が抜けていくのを感じるが痛みはない。その瞬間、雨宿が動いた。
「抑えろ」
崩れた陣形が仇になった。ノックバックにより同列に並んだ百鬼が前衛を抑え込み、中衛への道を作る。ガードに動こうとするものも居たが雨宿の反応はそれを上回り、ありすの腹に白鞘を突き刺しそして捻る。
「鈴駆さん! 」
まことが叫び後ろに下がりガードに入る。すぐさま雨宿は距離を取り刀身に付いた血を払った。
「大丈夫……」
刺された腹を抑えてありすが立ち上がる、命を燃やす事と引き換えに醒の炎は消え、纏わりついていた霧も消えている。
「爆弾使わな何もでけんヘタレ連中にあたしらが倒せるんかいな?」
戦況を変えるべく、凛が吠え、後衛だった変化の百鬼に向かって圧撃を叩き込む。
「ぐっ……」
痛みをこらえ、吹き飛ばされる百鬼、その傷は深く口から血がこぼれる。
「ざけやがって」
誘輔が百鬼達に地烈を用いて機関銃の銃床を叩きつける。蔵王と迷ったが強化スキルは重複してかけられない。ブロックする敵を排除したい考えた上の選択肢はこれだった。
「てめえらそこの雨宿ってのに随分懐いてるみてーだが、チンピラ崩れの雑魚にゃ用はねえ。命が惜しけりゃボスんとこに逃げ帰りな」
「逃げていいですか?」
「残業扱いにするから、もうちょっと頑張ってください。水、全体回復2、個別1」
部下の言葉に軽口で返す雨宿に再度プリンスが槌を振るう、受け止めるその重さは踏みしめる大地を削り、先ほど発行した硬貨をも削り取った。
「すいません、指示の途中なので邪魔しないでくれませんか」
「王族が民と話すのは仕事なんだ、そうだよねアリ姫」
「邪魔、よっ!」
誰に向かって言ったのか分からない、ありすの圧撃が雨宿を捉えた。スーツの男は吹き飛びながらも体勢を整えて。
「君、眼鏡を殴り返して、残りは前衛火柱2連」
残りの指示を下した。
前衛を火柱が焼く、纏霧を組み込んでの連続での攻撃は確実性に長け、技量の差を埋める。そして誘輔と対峙した付喪が炎撃で殴り返す。熱傷を負うことは無かったがスキルが生み出すダメージが誘輔を捉え、地烈による消耗も重なり誘輔の膝から力が抜ける。
ありすに続いての誘輔の負傷に日那乃はどちらを回復するか迷うが、今回はありすを選択した。相手の方も完全に回復には至っていない。ありすが戦闘不能になって人数差が出ることを避けての判断だった。
まことが冷汗を流す。エネミースキャンだけでこちらの能力はすべて把握は出来ないだろう、だがスキルの知識がそれを補っている。体術スキルの体力消耗すら計算する判断力。
(大丈夫なのか……)
(安心したまえマコ姫、二人はもう配置についたよ)
彼を気遣ってかプリンスの送受心・改が届く。そういえばどうして自分も姫扱いなんだろう。そんなことを考えながらも安堵の息が出るのを隠せなかった。
●紅蓮を止める者
藪の中を『教授』新田・成(CL2000538)と『罪なき人々の盾』明石 ミュエル(CL2000172)の二人が走っていた。
暗闇の中だが、戦闘の音と光。プリンスが送受心・改で情報をフィードバックして伝達することにより、迷わずに進めむことができた。残念なことに敵側の陣形を崩壊してのルートは確保できなかったため、結局大回りになってしまい、時間を浪費したのが痛い。だが敵側の後方を掌握できたのは幸いというべきであろう。
(仲良くなれた、みんなのこと……守りたい、から……頑張るよ……! )
ミュエルは鉄塔の向こう側で戦っている仲間たちに視線を送る。その頭上では守護使役のレンゲさんが髪の毛を揺らしていた。
(では期末試験と行きましょうか)
成はそんなミュエルの様子に笑みを浮かべた後、鉄塔に向かって走り出した。ミュエルもそれに続く。
(プリンス君、爆弾の位置を)
(成形炸薬は北側、範囲爆弾は南側だよ、プロフェッサー、ミュエ姫)
伝えられる爆弾の位置に二人は別れて動く、ミュエルの脚部ホイールが回転し南側へと走る一方、成は滑り込むようにして爆弾の位置にたどり着いた。
「爆弾の解体ですか。冷戦下の欧州以来ですなあ」
昔取った杵柄とばかりに爆弾に手を触れ、中を透視する。時間はすでに30秒を経過している。
(振動感知は無いようですが……これは)
内部構造を把握しエレクトロテクニカを駆使して爆弾の起爆装置及び回路を把握し、渋面な表情を浮かべる。
一般的な電子機器を使いこなすエレクトロテクニカに対し軍事兵器である爆弾は専門的すぎた。その為解除に時間がかかってしまう。
(ミュエル君、そちらのは? )
(ん……こんなかんじ? )
ミュエルから送られたイメージから爆弾の姿を想像する。
(難しいかい? )
プリンスが送受信を送りながら雨宿達に向かって纏霧を使う。相手の演舞・清風の効果を減じるとともに、爆弾の解除を悟られないためだ。
(いえ、大丈夫です。ミュエル君、事前の作戦通り「食べさせてください」。私の方は1分、稼げますね?)
それだけ伝えると自らの守護使役が照らす灯を頼りにビスにドライバーを当てた。
勿論、それに全員が気づかないわけでは無い。
「雨宿さん、あれを! 」
変化の一人が鉄塔を指さす。そこに見えるのは成の守護使役杉玉のともしび。
「送受信を使ったにしては範囲が広い、FiVEのスキルか!? 」
雨宿は召雷を前衛に落としながら即座に指示を下す。
「水、二名、爆弾解除の人間を射撃。一名は全員回復! 残りは眼鏡を集中攻撃! 」
だが、大人しくやられる覚者達ではなかった。雨宿の指示と百鬼の行動のタイムラグ、今度は覚者が間隙を突く番であった。
まことの紫鋼塞によって防御を確保したありすが炎柱を叩き込む。
「FiVEに一体何人の覚者が居ると思っているのかしら」
その口調は不機嫌そのもの、血雨で持っていかれた人員が居なければどうにかなるであろうという甘さに対しての不満。
続くように凛が地を這い、そこから跳ね上がる斬撃を二連続で切り裂く。
さらに誘輔の鋭刃脚が追い打ちとなり付喪の頭を揺らし、大地に沈める。
「テメエらにゃテメエらの戦う理由とやらがあるんだろうが俺にも任された意地がある」
体力は消耗し、息も荒いがその目に宿る意志は消えない。そこに二人の付喪が炎撃を打ち込んだ。揺れる視界、目の前が暗くなる。命を燃やし視界を照らすと歯を食いしば入り踏みとどまる。
「本戦力が出払ってるだァ? なめんじゃねえ、ここが前線だ! 」
すかさず日那乃がその傷を回復し、そして成達のカバーへと鉄塔に飛ぶ。
傷ついた百鬼にも回復がかかるが負傷を完全に癒しきることは出来ない。だが爆弾の解除は妨害できる。
指示を受けた二人の百鬼が拳銃の引金を引いた。
だが、そこへ爆弾を解除に向かっていたはずのミュエルが飛び出す。二つの弾丸が彼女の両腕をかすめ鮮血が大地を染める。
「爆弾解除とガードを同時にできるとは思えませんが……」
ミュエルの行動に疑問を持つ雨宿、だが彼女に付き添っている使役を見てその理由を理解した。
「なるほど『ぱくぱく』されてしまったのですね」
範囲爆弾を食べきったレンゲさんは自慢げにミュエルの周りを飛んでいる。
「さて黎明、いや百鬼の諸君」
ナイフで起爆装置の絶縁体を切り配線を引き出しつつ成が口を開く、それはまるで科学の実験をする教師のように。
「君達は我々を出し抜いた積りでしょうが、この程度は想定内です。私達がここにいる事がその証左だ」
「爆弾を食べるとは想定外でしたが……まだもう一つあります。それを妨害させてもらいましょう」
雨宿率いる百鬼達の目は成に注がれた。
●最終結果の時間
内部構造を把握しエレクトロテクニカを駆使しても戦闘をしながらできるものではない。故に成は攻撃に対して抗する手段が取れない。
それを逃す雨宿ではなかった、召雷が老練たる紳士に落ち、二重廻しの外套に穴を開け、土蜘蛛の糸で編んだ羽織を露出させる。
百鬼は爆弾を爆発させるために成を止めなくてはいけない。
一方覚者はそれを防がなくてはいけない。
両者の思惑が交錯し、そして戦いはつづく。
「一気に……配線を切って終了……ってわけにはいかない……の?」
ミュエルがカバーするように成の傍に移動する、その二人を日那乃が癒しの霧で回復を行う。
「時限装置というものは不発しないように色々と工夫がされています。なので時間がかかるものなのです」
絶縁されたニッパーで配線を切りながら、成が説明する。まこともすぐに紫鋼塞でシールドを張り成への攻撃がリスクを伴うものに変えていく。
「紫鋼塞!? 」
その様子を見て雨宿の表情が固まる。彼の表情を察してか付喪の一人が作り上げた炎を手に前に出る。
「あんなもの術式で打ち込めば! 」
「よしなさ――」
雨宿の制止を聞かずに放たれた火炎弾が成へと飛ぶ。だが炎はシールドに防がれそして反射した一撃を付喪を襲う。
「弐式の域に達しているとは……」
意識を失った部下を横目につぶやくスーツの男。そこに王子が飛び込んできた。
「自分が一番大事な王の下で働くのは、そのうちつまんない事になるよ。余達と一緒にどう?」
実質の降伏勧告。だが雨宿は固辞する。
「これでも雨の名前を名乗っているんですよ、それとも好待遇で受け入れてくれますか?」
「今なら三食つくとおもうな、王家のカンだけど! 」
横殴りの殴打が腹に叩き込まれる。重い一撃に大地から足が離れるがかろうじてバランスを取り戻り、刀を盾にする。
彼を守るように四名の百鬼が四方につく。
「雨宿さん、今のうちに! 」
部下の献身。
だがすでに作戦は崩壊し、そして人数差が彼らを追い詰める。
「地獄に取材いくから待ってな! 」
誘輔は機関銃のトリガーを引く。薬室に送り込まれた実包の雷管を撃鉄が叩き鉛の塊を発射する。火薬の爆発が遊底を動かして空薬莢を放り出し次の弾を薬室に送り込み撃鉄が再び雷管を撃つ。まるで永久機関のように吐き出されるフルメタルジャケットが百鬼達へと降り注いだ。
その弾丸の雨の中を凛が疾り、刀を振る。変化の百鬼が拳銃で迎え撃つが刹那その腕が飛ぶ。
――飛燕。
目にも止まらない切り返しの二撃目が逆袈裟に打ち込まれ、肉を切り骨を断つ。
切り伏せられた仲間に目が行った直後、視界が炎に包まれた。
「ホント、馬鹿ばっか。人同士で争いあっちゃって」
さらに炎に包まれ倒れる変化の百鬼を見つめながら、ありすはつぶやいた。
「それが人の業というものですよ」
炎を切り裂くように刀を振るい雨宿が答える。
隣に居た最後の付喪もミュエルの棘散舞によって舞う様に倒れる。
「人の業ね……プロフェッサー、答え合わせは?」
「そうですね」
プリンスの言葉に成が答えて何かを投げる、振り向きざまに雨宿が受け取ったのは起爆装置。
「全員、赤点でお返しします」
腰に構えた杖を右手でつかむ。
仕込みの刀身が月光に反射した直後、空気が揺れた。
B.O.T.
抜刀によって放たれた衝撃波がスーツの男を捉える。
「追試は……無しですね」
雨宿はそうつぶやくと投げ渡された時限信管を落とし、そして仰向けに倒れた。
時限装置のタイマーは60秒きっかりで止まっていた。
●夜は終わらない
目を覚ますと星空が見えている。慌てて雨宿は身を起こし激痛で呻いたところで自分の体に応急処置を施されていることを知る。
「…………殺さないんですか? 」
生き残った百鬼にも処置を施すまことに問う。
「殺してもいいんですよ」
笑いながらまことが答える。
「黎明の民はそんなに嫌いじゃなかったのでね」
雨宿の後ろでプリンスが茶化す。
(それに百鬼と紫雨を心理的に引きはがしたいしね)
「私は百鬼ですよ」
「黎明が裏切ったというなら余にとってはどっちも同じ、区別する必要はないのさ」
内心にある考えを隠して王子は道化を演じる。百鬼を率いていた男は苦笑し、そして告げた。
「ならば急いだ方がいい。我々は尖兵に過ぎない、これから本隊が街に突入する」
「なるほど」
成が眼鏡をかけなおす、予想していたかのように。
「五麟に来てから……FiVEの仲間だけじゃなくて、非覚者の友達も、出来たりして……街が……狙われる」
驚いたミュエルが一句一句区切るように言葉を紡ぐ。
「急がないといけないね」
空を飛びながら日那乃が言う、その視線の先にあるのは闇に包まれはじめた五麟の街。
――それが紅蓮に染まる。
「ったくえらいことになっちまったぜ、五麟が火の海なんてシャレにならねえ」
『ゴシップ記者』風祭・誘輔(CL2001092)が苛立ちのあまり、咥えてた煙草を噛んでしまい地面に吐き捨てる。彼が向かう先には高圧電線が懸架された、電柱というにはあまりに大きい鉄骨で出来た建造物。
「黎明は百鬼やった、か。せやけど不思議と怒りとかは沸いてこんな」
隣を走る『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)は対照的に落ち着いている。
「化かし合いは世の常人の常、ひっかかったあたしらがあほやったってだけの事」
言葉と共に黒髪は色を失い赤へと変わる。
「せやけどそれと五麟の街をボロボロにしよって事は話が別や、きっちり思い知らせたるで!」
隠れていた激情を表すようにその瞳も紅に染まった。
「黎明が仲間だったらいいっていうの、利用された、の、ね」
その上空を飛ぶ、桂木・日那乃(CL2000941)は最後の方の言葉を一句ずつ区切る。何かが少女の内面を揺らしているのだろう。
「でも、今は敵として、叩き潰すだけだね」
傍らを飛ぶ指崎 まこと(CL2000087)には黎明に対しての思い入れが無い、故にやるべきことを提示する。それが彼らが何をすべきかを改めて認識する。
「余も勿論気づいてたよ、王家のカンってやつ」
皆から一歩遅れてプリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)がしたり顔で口にする。だが寝坊して出遅れたのは王家に伝わる機密事項。王宮付きのパパラッチが居なかったことが幸いだったのは言うまでもないし、そんなところは今気にしているところではないのだ。
彼らが目標に到達したとき、鉄塔の下にいた男達はすでに爆破の準備を完了し時限装置の火を入れていた。
●逢魔が時の雨宿り
「やあ、どうも初めまして。雨に宿ると書きまして雨宿と申します。みなさんよろしく」
白鞘を持ったスーツの男は鉄塔を背後に陣取って、芝居がかった口調とともに鞘に納めた刀を肩に乗せる。
「甘く見られたものね、私達も」
『溶けない炎』鈴駆・ありす(CL2001269)が不満げな口調で一歩前に出た。
「精鋭部隊が居ないから、今なら楽に五麟を落とせる。いいわ、見せ付けてあげようじゃない」
「そんなことはございません、現にこうやってあなた方が来ることを想定して皆さんが戦線離脱しかねない爆弾を用意しました。火行のお嬢さん」
全てを見透かすかのように雨宿の目がありすをそして皆を捉える。
「いけない! 」
エネミースキャンに気づいたまことが声を上げ前衛に並ぶ。爆弾が高いところにあることを想定していたが幸いにも爆弾の位置は鉄塔の根本、そして今は皆に警告をしないと行けない。
「敵はもう戦闘態勢だ! 」
直後、清風が吹き、鉄塔を背後にした百鬼達は次々と武器を構えた。
「焔陰流21代目焔陰凛、推して参る! 」
名乗りとともに凛が燃え盛る焔のような刃紋の刀を抜く。
構えながらも凛は内心冷汗をかいていた。エネミースキャンに演舞・清風、連続での行動。仲間達の中では自分が一番速いはずだが、雨宿の反応はそれを上回っていることになる。
けれど今はやるべきことをやらなくてはいけない。仲間達の動きに合わせるべく百鬼に対峙し距離を詰める。
誘輔が機化硬で自らの鋼を硬化し、まことが回り込むように動いて大地に力を流し込む
――大震!
大地が揺れ、前衛にいた付喪の百鬼達を吹き飛ばした。そこへ凛が圧撃を打ち込み、残った前衛を吹き飛ばす。
「ふん……悪目立ちは嫌いなんだけど。いくわよ、開眼」
額に第三の眼を開いたありすが醒の炎を顕現し追撃の準備に回る。
「構いません陣形はそのままで」
雨宿は冷静に指示を下すと一歩下がり全員が掌握できるように視界に納める。その中に飛び込んだプリンスがインフレブリンガーを振り上げた。
「そう急がないで、余とゆっくりしていきなよ。王家に伝わるポテチでもどう?」
「申し訳ありません仕事中なんです」
大槌の一撃を抜刀した白鞘でいなすスーツの男。いなされた大槌が大地に叩きつけられグレイブル国硬貨が発行される。
(プロフェッサー、ミュエ姫、マコ姫、聞こえる? じゃまず余のマイブームの話……すいませんちゃんとやります)
ハンマーを構えなおしつつプリンスは事前に仕込んでいた送受心・改のチャンネルを開く、その直後だった。
「全員射撃、目標三つ眼のお嬢さん。水は銃で」
雨宿の指示に従った百鬼達が火炎弾を、ピストルによる射撃を、ありすに向かって一斉に撃ち込む。
合計六発。全てが命中することは無いとはいえ、集中した攻撃はありすを一気に瀕死の状態に持ち込んだ。
「危ない」
待機していた日那乃がすぐに癒しの滴で回復を図るが全ての傷を癒しきることが出来ない。
「彼女だけ、ワンテンポ遅れました。そして翼の君、私達を吹き飛ばすのはいいけれど、その余裕はあるのかな? 」
スーツの男が問いかけると覚者達に霧が纏わりつく。力が抜けていくのを感じるが痛みはない。その瞬間、雨宿が動いた。
「抑えろ」
崩れた陣形が仇になった。ノックバックにより同列に並んだ百鬼が前衛を抑え込み、中衛への道を作る。ガードに動こうとするものも居たが雨宿の反応はそれを上回り、ありすの腹に白鞘を突き刺しそして捻る。
「鈴駆さん! 」
まことが叫び後ろに下がりガードに入る。すぐさま雨宿は距離を取り刀身に付いた血を払った。
「大丈夫……」
刺された腹を抑えてありすが立ち上がる、命を燃やす事と引き換えに醒の炎は消え、纏わりついていた霧も消えている。
「爆弾使わな何もでけんヘタレ連中にあたしらが倒せるんかいな?」
戦況を変えるべく、凛が吠え、後衛だった変化の百鬼に向かって圧撃を叩き込む。
「ぐっ……」
痛みをこらえ、吹き飛ばされる百鬼、その傷は深く口から血がこぼれる。
「ざけやがって」
誘輔が百鬼達に地烈を用いて機関銃の銃床を叩きつける。蔵王と迷ったが強化スキルは重複してかけられない。ブロックする敵を排除したい考えた上の選択肢はこれだった。
「てめえらそこの雨宿ってのに随分懐いてるみてーだが、チンピラ崩れの雑魚にゃ用はねえ。命が惜しけりゃボスんとこに逃げ帰りな」
「逃げていいですか?」
「残業扱いにするから、もうちょっと頑張ってください。水、全体回復2、個別1」
部下の言葉に軽口で返す雨宿に再度プリンスが槌を振るう、受け止めるその重さは踏みしめる大地を削り、先ほど発行した硬貨をも削り取った。
「すいません、指示の途中なので邪魔しないでくれませんか」
「王族が民と話すのは仕事なんだ、そうだよねアリ姫」
「邪魔、よっ!」
誰に向かって言ったのか分からない、ありすの圧撃が雨宿を捉えた。スーツの男は吹き飛びながらも体勢を整えて。
「君、眼鏡を殴り返して、残りは前衛火柱2連」
残りの指示を下した。
前衛を火柱が焼く、纏霧を組み込んでの連続での攻撃は確実性に長け、技量の差を埋める。そして誘輔と対峙した付喪が炎撃で殴り返す。熱傷を負うことは無かったがスキルが生み出すダメージが誘輔を捉え、地烈による消耗も重なり誘輔の膝から力が抜ける。
ありすに続いての誘輔の負傷に日那乃はどちらを回復するか迷うが、今回はありすを選択した。相手の方も完全に回復には至っていない。ありすが戦闘不能になって人数差が出ることを避けての判断だった。
まことが冷汗を流す。エネミースキャンだけでこちらの能力はすべて把握は出来ないだろう、だがスキルの知識がそれを補っている。体術スキルの体力消耗すら計算する判断力。
(大丈夫なのか……)
(安心したまえマコ姫、二人はもう配置についたよ)
彼を気遣ってかプリンスの送受心・改が届く。そういえばどうして自分も姫扱いなんだろう。そんなことを考えながらも安堵の息が出るのを隠せなかった。
●紅蓮を止める者
藪の中を『教授』新田・成(CL2000538)と『罪なき人々の盾』明石 ミュエル(CL2000172)の二人が走っていた。
暗闇の中だが、戦闘の音と光。プリンスが送受心・改で情報をフィードバックして伝達することにより、迷わずに進めむことができた。残念なことに敵側の陣形を崩壊してのルートは確保できなかったため、結局大回りになってしまい、時間を浪費したのが痛い。だが敵側の後方を掌握できたのは幸いというべきであろう。
(仲良くなれた、みんなのこと……守りたい、から……頑張るよ……! )
ミュエルは鉄塔の向こう側で戦っている仲間たちに視線を送る。その頭上では守護使役のレンゲさんが髪の毛を揺らしていた。
(では期末試験と行きましょうか)
成はそんなミュエルの様子に笑みを浮かべた後、鉄塔に向かって走り出した。ミュエルもそれに続く。
(プリンス君、爆弾の位置を)
(成形炸薬は北側、範囲爆弾は南側だよ、プロフェッサー、ミュエ姫)
伝えられる爆弾の位置に二人は別れて動く、ミュエルの脚部ホイールが回転し南側へと走る一方、成は滑り込むようにして爆弾の位置にたどり着いた。
「爆弾の解体ですか。冷戦下の欧州以来ですなあ」
昔取った杵柄とばかりに爆弾に手を触れ、中を透視する。時間はすでに30秒を経過している。
(振動感知は無いようですが……これは)
内部構造を把握しエレクトロテクニカを駆使して爆弾の起爆装置及び回路を把握し、渋面な表情を浮かべる。
一般的な電子機器を使いこなすエレクトロテクニカに対し軍事兵器である爆弾は専門的すぎた。その為解除に時間がかかってしまう。
(ミュエル君、そちらのは? )
(ん……こんなかんじ? )
ミュエルから送られたイメージから爆弾の姿を想像する。
(難しいかい? )
プリンスが送受信を送りながら雨宿達に向かって纏霧を使う。相手の演舞・清風の効果を減じるとともに、爆弾の解除を悟られないためだ。
(いえ、大丈夫です。ミュエル君、事前の作戦通り「食べさせてください」。私の方は1分、稼げますね?)
それだけ伝えると自らの守護使役が照らす灯を頼りにビスにドライバーを当てた。
勿論、それに全員が気づかないわけでは無い。
「雨宿さん、あれを! 」
変化の一人が鉄塔を指さす。そこに見えるのは成の守護使役杉玉のともしび。
「送受信を使ったにしては範囲が広い、FiVEのスキルか!? 」
雨宿は召雷を前衛に落としながら即座に指示を下す。
「水、二名、爆弾解除の人間を射撃。一名は全員回復! 残りは眼鏡を集中攻撃! 」
だが、大人しくやられる覚者達ではなかった。雨宿の指示と百鬼の行動のタイムラグ、今度は覚者が間隙を突く番であった。
まことの紫鋼塞によって防御を確保したありすが炎柱を叩き込む。
「FiVEに一体何人の覚者が居ると思っているのかしら」
その口調は不機嫌そのもの、血雨で持っていかれた人員が居なければどうにかなるであろうという甘さに対しての不満。
続くように凛が地を這い、そこから跳ね上がる斬撃を二連続で切り裂く。
さらに誘輔の鋭刃脚が追い打ちとなり付喪の頭を揺らし、大地に沈める。
「テメエらにゃテメエらの戦う理由とやらがあるんだろうが俺にも任された意地がある」
体力は消耗し、息も荒いがその目に宿る意志は消えない。そこに二人の付喪が炎撃を打ち込んだ。揺れる視界、目の前が暗くなる。命を燃やし視界を照らすと歯を食いしば入り踏みとどまる。
「本戦力が出払ってるだァ? なめんじゃねえ、ここが前線だ! 」
すかさず日那乃がその傷を回復し、そして成達のカバーへと鉄塔に飛ぶ。
傷ついた百鬼にも回復がかかるが負傷を完全に癒しきることは出来ない。だが爆弾の解除は妨害できる。
指示を受けた二人の百鬼が拳銃の引金を引いた。
だが、そこへ爆弾を解除に向かっていたはずのミュエルが飛び出す。二つの弾丸が彼女の両腕をかすめ鮮血が大地を染める。
「爆弾解除とガードを同時にできるとは思えませんが……」
ミュエルの行動に疑問を持つ雨宿、だが彼女に付き添っている使役を見てその理由を理解した。
「なるほど『ぱくぱく』されてしまったのですね」
範囲爆弾を食べきったレンゲさんは自慢げにミュエルの周りを飛んでいる。
「さて黎明、いや百鬼の諸君」
ナイフで起爆装置の絶縁体を切り配線を引き出しつつ成が口を開く、それはまるで科学の実験をする教師のように。
「君達は我々を出し抜いた積りでしょうが、この程度は想定内です。私達がここにいる事がその証左だ」
「爆弾を食べるとは想定外でしたが……まだもう一つあります。それを妨害させてもらいましょう」
雨宿率いる百鬼達の目は成に注がれた。
●最終結果の時間
内部構造を把握しエレクトロテクニカを駆使しても戦闘をしながらできるものではない。故に成は攻撃に対して抗する手段が取れない。
それを逃す雨宿ではなかった、召雷が老練たる紳士に落ち、二重廻しの外套に穴を開け、土蜘蛛の糸で編んだ羽織を露出させる。
百鬼は爆弾を爆発させるために成を止めなくてはいけない。
一方覚者はそれを防がなくてはいけない。
両者の思惑が交錯し、そして戦いはつづく。
「一気に……配線を切って終了……ってわけにはいかない……の?」
ミュエルがカバーするように成の傍に移動する、その二人を日那乃が癒しの霧で回復を行う。
「時限装置というものは不発しないように色々と工夫がされています。なので時間がかかるものなのです」
絶縁されたニッパーで配線を切りながら、成が説明する。まこともすぐに紫鋼塞でシールドを張り成への攻撃がリスクを伴うものに変えていく。
「紫鋼塞!? 」
その様子を見て雨宿の表情が固まる。彼の表情を察してか付喪の一人が作り上げた炎を手に前に出る。
「あんなもの術式で打ち込めば! 」
「よしなさ――」
雨宿の制止を聞かずに放たれた火炎弾が成へと飛ぶ。だが炎はシールドに防がれそして反射した一撃を付喪を襲う。
「弐式の域に達しているとは……」
意識を失った部下を横目につぶやくスーツの男。そこに王子が飛び込んできた。
「自分が一番大事な王の下で働くのは、そのうちつまんない事になるよ。余達と一緒にどう?」
実質の降伏勧告。だが雨宿は固辞する。
「これでも雨の名前を名乗っているんですよ、それとも好待遇で受け入れてくれますか?」
「今なら三食つくとおもうな、王家のカンだけど! 」
横殴りの殴打が腹に叩き込まれる。重い一撃に大地から足が離れるがかろうじてバランスを取り戻り、刀を盾にする。
彼を守るように四名の百鬼が四方につく。
「雨宿さん、今のうちに! 」
部下の献身。
だがすでに作戦は崩壊し、そして人数差が彼らを追い詰める。
「地獄に取材いくから待ってな! 」
誘輔は機関銃のトリガーを引く。薬室に送り込まれた実包の雷管を撃鉄が叩き鉛の塊を発射する。火薬の爆発が遊底を動かして空薬莢を放り出し次の弾を薬室に送り込み撃鉄が再び雷管を撃つ。まるで永久機関のように吐き出されるフルメタルジャケットが百鬼達へと降り注いだ。
その弾丸の雨の中を凛が疾り、刀を振る。変化の百鬼が拳銃で迎え撃つが刹那その腕が飛ぶ。
――飛燕。
目にも止まらない切り返しの二撃目が逆袈裟に打ち込まれ、肉を切り骨を断つ。
切り伏せられた仲間に目が行った直後、視界が炎に包まれた。
「ホント、馬鹿ばっか。人同士で争いあっちゃって」
さらに炎に包まれ倒れる変化の百鬼を見つめながら、ありすはつぶやいた。
「それが人の業というものですよ」
炎を切り裂くように刀を振るい雨宿が答える。
隣に居た最後の付喪もミュエルの棘散舞によって舞う様に倒れる。
「人の業ね……プロフェッサー、答え合わせは?」
「そうですね」
プリンスの言葉に成が答えて何かを投げる、振り向きざまに雨宿が受け取ったのは起爆装置。
「全員、赤点でお返しします」
腰に構えた杖を右手でつかむ。
仕込みの刀身が月光に反射した直後、空気が揺れた。
B.O.T.
抜刀によって放たれた衝撃波がスーツの男を捉える。
「追試は……無しですね」
雨宿はそうつぶやくと投げ渡された時限信管を落とし、そして仰向けに倒れた。
時限装置のタイマーは60秒きっかりで止まっていた。
●夜は終わらない
目を覚ますと星空が見えている。慌てて雨宿は身を起こし激痛で呻いたところで自分の体に応急処置を施されていることを知る。
「…………殺さないんですか? 」
生き残った百鬼にも処置を施すまことに問う。
「殺してもいいんですよ」
笑いながらまことが答える。
「黎明の民はそんなに嫌いじゃなかったのでね」
雨宿の後ろでプリンスが茶化す。
(それに百鬼と紫雨を心理的に引きはがしたいしね)
「私は百鬼ですよ」
「黎明が裏切ったというなら余にとってはどっちも同じ、区別する必要はないのさ」
内心にある考えを隠して王子は道化を演じる。百鬼を率いていた男は苦笑し、そして告げた。
「ならば急いだ方がいい。我々は尖兵に過ぎない、これから本隊が街に突入する」
「なるほど」
成が眼鏡をかけなおす、予想していたかのように。
「五麟に来てから……FiVEの仲間だけじゃなくて、非覚者の友達も、出来たりして……街が……狙われる」
驚いたミュエルが一句一句区切るように言葉を紡ぐ。
「急がないといけないね」
空を飛びながら日那乃が言う、その視線の先にあるのは闇に包まれはじめた五麟の街。
――それが紅蓮に染まる。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
