《緊急依頼》襲撃は内部から
《緊急依頼》襲撃は内部から


●五麟市を守れ!
 京都府五麟市。
 言わずと知れた『F.i.V.E.』の本拠地。
「慌てることなく、最後まで聞いてほしいのじゃ」
 『薄幸の男の娘』菜花・けい(nCL2000118)は神妙な顔で、集まった覚者に説明を行う。中・恭介(nCL2000002)すらも嘆息してしまうほどの事態が、この地で起こり始めているのだと。
「今、血雨の討伐へと多数の覚者が向かっておるのは、皆も知っての通りじゃな」
 しかも、そちらへと向かっているのは、手練れの者達ばかりだ。この地に残っている覚者はいつもよりも少なく、戦闘経験が浅い者も多い。
「ただ、あと数時間でこの五麟市へ、七星剣幹部逢魔ヶ時紫雨とその部下、禍時の百鬼が攻めこんでくるのじゃ」
 けいは念の為にと、他の覚者と話して確認したが、皆同様の事態を予見している。
 同じく、予見しているもう1つの事実。それは、『黎明』という覚者組織は、あの逢魔ヶ時紫雨の率いる禍時の百鬼であるということだ。
「恭介は愕然としておったのじゃ。『ヒノマル陸軍の京都の事件は、俺達が助ける事を踏まえ、あえて黎明を襲わせたのか』と」
 現状、恭介からは緊急依頼が発令されている。まず、血雨討伐部隊を呼び戻すこと。そして、今、戦える覚者を集めて、百鬼を迎え撃つことだ。
 幸運にも、敵はまだ『F.i.V.E.』がこの事態を把握したことには感づいていないようだ。程なく、外部より百鬼が攻めこんでくるが、血雨討伐部隊が戻ってくるまで、百鬼を五麟市へと近づいてこないよう撃退せねばならないだろう。
「黎明はまだ化けの皮を被っておるようじゃが……」
 現状、『F.i.V.E.』に協力してくれている霧山・譲も『黎明』所属。比較的温厚な印象の彼もまた、本性を現すこととなる。
「一旦は百鬼の討伐をと同行を申し出るようじゃが、現場到着時に、譲は敵へと回ってしまうようじゃ」
 けいが予見した百鬼のチーム6人は、残念ながらすでに学園内に潜伏している。その手引きをしていたのも、霧山のようだ。
「大学のキャンパス内に誘い込んでいた仲間と共に、譲は他のチームが暴れ出すタイミングで暴れ出すようなのじゃ」
 狙いは百鬼の長紫雨と同じく、弱者の殺害、そして、強者の捕獲だ。比較的少数精鋭でやってきている所から見ても、それなりの手練れと見ていい。特に、隊長の保住は今の覚者よりも格上だ。
 また、霧山も幾度か共闘をしてはいるが、まだ手の内を見せてはいない。彼もまた、強力な力の持ち主かもしれない。
「ともあれ、今回は万全の状態ではないからの。防衛に徹するのじゃ。下手に相手を追い込もうとすると、痛い目を見るかもしれんからの」
 一通り説明を終えたけい。彼は寒気を覚えていたのか、身を震わせている。
「……皆の無事を祈っておるのじゃ」
 けいを安心させる為にも。覚者達は頷き、大学キャンパスへと移動していくのだった。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:なちゅい
■成功条件
1.禍時の百鬼の撃退(または突破阻止)
2.大学構内の被害を最小限に食い止めること。
3.なし
 初めましての方も、どこかでお会いしたことのある方もこんにちは。なちゅいです。
 逢魔ヶ時紫雨と百鬼による襲撃。戦力の低下した状況で、五麟市を守らねばなりません。皆様のお力、お貸しいただきたく思います。

●敵
○百鬼……隔者の集まりです。強さは個々人によるようですが、この場のメンバーは皆、それなりの力を持っています。
・隊長、保住・智(ほずみ・さとる)……17歳。械の因子、火行。機関銃を所持。中衛に立つようです。
 あまり感情を表に出さない男です。今回も淡々と、百鬼の長、逢魔ヶ時紫雨の命に従い、五麟市を襲撃します。
「霧山さん、お疲れっす」
「任務に感情など、いらないっす」
「これで……終わりっす」

・隊員……5人。いずれも保住と同世代の男女です。
 男×3、(彩×木、暦×水、翼×光)、女×2(現×火、獣(巳)×土)。
 男性は大剣を持ち、前線に出てきます。女性は中衛で和弓を使ってきます。
 女性の1人が送受心を持っているようです。

・霧山・譲(きりやま・ゆずる)……18歳。暦の因子、天行。飛苦無を所持。鋭聴力、面接着を所持。後衛に立つようです。
 『黎明』の覚者。大人しそうな印象の青年ですが、OP情報の通り、彼もまた、『F.i.V.E.』を裏切ることとなります。
「ふ、ふふふ……」
「さて、お楽しみはここからだ」
「悪いね、まだ死ぬわけにはいかないんだよ」

 霧山については、
『【日ノ丸事変】新興勢力の青年』
『<黎明>動き出した雪だるま』もご参照くださいませ。
 確認せずとも、依頼には影響ありません。

●状況
 襲撃は夜に行われます。
 霧山の手引きもあり、すでに大学のキャンパス内の建物に潜んでいます。決起のタイミングから、構内にいる人々の殺害、及び、覚者の確保に当たり始めます。
 構内はあまり人が残っておりませんが、それでも、研究室などには教授、学部生、院生などの姿があります。その全ての避難は間に合いませんので、可能な限り百鬼一行の位置を把握して抑えるべきでしょう。
 百鬼と相対すると、霧山は敵に回ってしまいます。なお、事前に霧山を捕縛しようとすると、彼は逃げ出し、他のメンバーが別箇所で暴れ始めて依頼は失敗となります。

●注意!!
・【緊急依頼】タグ依頼は、全てが同時進行となる為、PCが同タグに参加できる数は一依頼のみとなります。
 重複して参加した場合、重複した依頼の参加資格を剥奪し、LP返却は行われない為、注意して下さい。

・決戦【血ノ雨ノ夜】に参加しているPCは、【緊急依頼】タグの依頼には参加できません。参加した場合は依頼の参加資格を剥奪し、LP返却は行われない為、注意して下さい。

・【緊急依頼】の戦況結果により、本戦でペナルティが発生する恐れがあります

 それでは、今回も楽しんでいただければ幸いです。よろしくお願いいたします!
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
5日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年03月04日

■メイン参加者 8人■

『マジシャンガール』
茨田・凜(CL2000438)
『見守り続ける者』
魂行 輪廻(CL2000534)
『夢想に至る剣』
華神 刹那(CL2001250)

●裏切られた想い
 京都市五輪学園内。
 『F.i.V.E.』の覚者達は襲撃地点となる大学へと向かう。ここで百鬼が暴れ出すという予知に従い、メンバー達はやってきていた。
「馬鹿共が馬鹿騒ぎを起こす気か。騒がしいのは、そこの馬鹿一人で十分だというのにな」
 やや俯き加減に歩く赤祢 維摩(CL2000884)は、ちらりと視線を走らせる。
 それに気づいたのは、四月一日 四月二日(CL2000588)だ。
「そこの馬鹿……、一瞬目合ったけど、俺じゃないよね?」
「研究室で騒ぐ馬鹿も、攻めて来て騒ぐ馬鹿も、迷惑なことに変わりないだろう?」
 維摩と四月二日。彼らは悪友といった関係だ。
「あら、今回の敵よりは、俺のが殴るの気引けるってコトかな。嬉しいー」
「ああ、殴りやすさには随分と差があるがな」
 四月二日が多少おちゃらけた言葉で告げるのに、維摩は素っ気なく返していた。
 そんな中、多くのメンバーの関心はそれとは別のところにある。
「……あらあら。私の可愛い後輩君達が居ない間に、随分愉快な事をしてくれるわねぇ♪」
 『ドキドキお姉さん』魂行 輪廻(CL2000534)は考える。後輩君達が血雨の討伐に出ていないからと言って、別に自分達が弱いわけではないと。
「でもねぇ、後輩君達が居ないからって、別に私達が弱い訳じゃないのよねぇ……♪」
 微笑んでいるようにも見える輪廻だが。その目は笑っていない。なぜなら。
「えっ? あの霧山って人、敵のスパイだったの? そっかー。すっかり騙されちまったぜ、アハハハハ!」
 鹿ノ島・遥(CL2000227)は思いっきり笑っている。戦いを楽しむ彼のこと、相手の素性はさほど詮索していないのだろう。
「せっかくいいオトコを見つけたと思ってたのに、霧山さんが裏切者だったなんて、凜は超ショックなんよ」
 一方、茨田・凜(CL2000438)はお冠である。
(お食事誘ったりしてたのに……、凜は絶対許さないんだからねっ)
 そして、阿久津 ほのか(CL2001276)。彼女はショックを受けてしょげていた。妖となった雪だるまを討伐した際、同行していたメンバーは問うたのだ。『仲良くできるか』と。それに、霧山は答えたのだ。『……できるといいね』と。
「私もそうできたらいいのにって、思ってたのに……」
 だが、しょぼんとしたからといって。このまま好き放題させるわけにもいかない。
「うっし、じゃあ思いっきりぶん殴るか!」
 遥が気合を入れて叫ぶ、が。
「及ばずながら、力になるよ」
 大学の前にはすでに、霧山・譲が待っていた。『黎明』の所属員の1人。そして、『百鬼』の一員。
「お久しぶりー。今度、一緒に映画とかどう?」
 凜は霧山へと挨拶を変わす。
(本気になった乙女の演技力を、ナメたらいけないんよ)
 できるだけ、前回までと同じように。
(あ、でも、こっちが気付いてるって、気付かれないようにしないとな)
 遥だけでなく、覚者達は霧山に気取られぬよう可能な限り本音を隠し、霧山と接する。
「…………」
 淡々と依頼に当たる、『女帝』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)。だが、さすがに厳しい顔を崩すことができない。
 そうして霧山を加えた一行は、百鬼を抑える為に大学の敷地へと入っていくのである。

●構内の探索を
 懐中電灯で前方を照らし、構内を歩くメンバー達。夜の校舎は冷たい雰囲気が漂う。
 このどこかに潜むという百鬼から、今なお残る関係者を助け出さねばならない。
 遥はまず守衛室に掛け合い、人が多く残る場所を聞き出す。その後でメンバー達は構内へと入っていた。
(今は、危険な目に合う学生さん達を助けるほうが優先なんよ)
 凜は感情探査で襲撃者の探索を行うが、思ったよりは数が多い。メンバー達は辺りを付け、固まって探索を開始する。
 遥も同じく、チームの先頭に立ち、スキルを使い人が多い場所を確認する。彼もまた、普段と比べれば口数が少ない。
(……オレ、隠しごととか苦手だから)
 遥が先頭に立つのは、霧山に見られないようにとの配慮の為だ。
「彼らの狙いも黎明かも知れないわ。ユズルは私達の真ん中に居てもらえる?」
「もしかしたら、黎明が狙われてるかも。譲さんを守らなきゃ~」
「悪いが、俺は後ろにいるよ」
 エメレンツィア、ほのかが霧山へとそう提案する。だが、霧山はそれをやんわりと断った。
「分かりました。でも、無理はしないで下さいね~」
 強要はできぬと考え、ほのかはそこで引き下がる。
「……それじゃ、私も後ろにいるわ」
 ただ、エメレンツィアは霧山の横に並んで歩くことにしていた。ほのかも第六感を使い、霧山の出方を伺う。
 維摩、四月二日は囲い込みも考え、2人で軽口を叩きつつ会話し、その前方についていた。
 その際、維摩は送受信を行う。聞こえぬ霧山には、唯一『F.i.V.E.』の覚者達だけで意志共有を行う手段だ。
(喋らずともよいのは楽であるな)
 華神 刹那(CL2001250)は敢えて、戦闘用の人格に切り替えた振りをして堅く口を閉ざし、皆に合わせることにする。
 正直、刹那には、黎明とか百鬼とかよく分からない。なんせ、ろくに見たこともない。
(……が、流石にそれをこの場で言うほど、空気が読めぬわけではないぞ)
 とはいえ、密かに、仕事でなければ、『夜の学校巡りなぞ、良いイベントであろうになぁ』などと考える刹那である。
 だが、それも刹那くらいのもの。皆、ぴりぴりとした空気を全身から滲み出している。
「ずいぶんと殺気立っているね」
 霧山は比較的会話が少ないことを気にしてか、覚者達へとそう告げる。
「大学を襲撃するなんて、ひどいんよ」
 凜は持前の演技力で、不審がられないようにと努める。
「このタイミングを狙ってきた相手が許せないのよ」
 エメレンツィアは淡々と告げる。厳しい顔のままで。
「まるで、血雨に向かった人さえ居なければ、すぐ制圧できるとでも考えているような相手が、ね」
 あくまでも、百鬼に怒りの矛先を向けるような物言いで彼女は語る。
 時折、光がついている部屋を見つけては、残る人々に接触し、避難を促していく。その間も覚者達が余計な会話を行わないのは、霧山の持つ鋭聴力も影響している。
(裏切る気満々の子を攻撃出来ないって、地味にストレスねぇ……)
 輪廻も気取られぬようにと、普通にノリよく接しようとする。そばについて、軽くボディタッチなど行っていた。
「消そうとしているなら、足音とか、聞くことはできると思うのねん♪」
「まー、場慣れした者特有の移動音とかな。武装しているなら金属や火薬の臭いは感じ取れるだろうからなー」
 鋭聴力を使い、輪廻は可能な限り敵の尻尾を掴もうとする。刹那もまた、感じ取ったものに関しては、四月二日に伝え、視てもらうように伝えた。
 そうして、あからさまに固まる数人の姿を捉えた覚者達は、そちらへと向かっていくのである。

●裏切りの霧山
 覚者達はついに、廊下を移動する隔者……百鬼のメンバーを捉える。現状、敵が一般人を襲うことはないようだ。
 メンバー達はそいつらと接触をする前に……第六感を持つほのかが出す一斉攻撃指示を待つ。
 霧山に動きはない。これなら不意打ちはないと判断したほのかは、百鬼の間合いに入る直前で声を上げた。
「今です!」
 その合図でメンバー達は動き出す。狙うは……そばにいた霧山だ。それに、百鬼達も驚き、動きを止める。
 動き出した覚者。遥は振り返り、拳をその腹へと叩き込み、さらに、エメレンツィアが渾身の水礫を放った。
 飛びのく霧山。だが、拳も水礫も、しっかりとその身に叩き込まれてはいる。
「ふ、ふふふ。どうやら気づかれていたようだね」
 百鬼からは、「霧山さん」と声が飛んできた。何らかの関係があるのは疑いようもない。おそらくは、あちらも敵が持つ送受信で、何かの情報をやり取りしていたのだろう。
「……ずっと、私達を欺いて来たのね。一番ヶ瀬の時も、雪だるまの時も」
「そういうことになるね」
「ふん、下手な演技ご苦労なことだ。出し物としてはそこそこだな」
 維摩の言葉に、彼はまたも少し距離を取る。こちらの包囲を警戒しているのだろう。百鬼がいつ襲ってこないとも分からない為、刹那は敵部隊を見て、強襲に備えていた。
「……覚悟するが良いわね、今日の私は笑わないわよ」
 普段は微笑を浮かべる輪廻も真剣な表情で敵を見据え、術式の準備を行う。今日ばかりは、彼女の顔は全く笑っていない。
「私は貴方の事は信じていたわ」
 エメレンツィアの髪が烈火のごとく赤く染まる。そして、敵意に満ちた瞳で霧山を射抜く。
「それを裏切るというのなら、女帝を欺いた罪、その身に刻みなさい!」
 夜の大学に彼女の声が響く。それをかき消すように、互いの怒号が木霊し始めたのだった。

 百鬼が仕掛けてくるのを見て、輪廻は体内の炎を活性化させる。
「さーて♪ 遠慮は必要ないわよねん?」
 攻め込んでくる百鬼、そして、完全に尻尾を出した霧山。それら目掛け、輪廻は地を這うような連撃を繰り出す。霧山は捉えられなかったが、前に立つ3人の男性を巻き込み、斬撃を浴びせかける。
「ふん、騒ぐのも暴れるのも馬鹿の仕事だ。殴り飛ばされる仕事もくれてやる」
 悪態づく維摩は、前にいる四月二日に視線をちらりと走らせる。
「馬鹿に助けられたくなけりゃ、途中で倒れんなよ?」
「はいはい」
 四月二日は、両手を上げて返事した。
「さて、つまらん役者は退場する時間だ」
 維摩はエネミースキャンを行って前の敵の分析を行い、後方から迫る霧山に対して、苛立ちの感情を呼び起こさせる。
「手薄になったトコ、不意打ちしたつもりが返り討ち。とんだ喜劇……キミたちにゃ、悲劇か?」
 口元を吊り上げた四月二日。彼は英霊の力を呼び起こすことで力を高め、銀の刃を持つ『ダーク・レディ』を突き出し、百鬼を狙う。優先的に狙うは、水行、暦の男だ。刃に貫かれても、そいつは身を引いて刃を身体から抜き、大剣を振り上げる。そこで遥がまた、拳に巻いた白い布に力を篭め、床を這うように拳を走らせ、突き出す。
 仰け反る隊員の後ろから、百鬼の隊長、保住が冷静な言葉を発した。
「霧山さんだけだと思ったら、痛い目見るっすよ」
 腕が機械のようになっていた保住。間違いなく械の因子の持ち主。その腕からは機関銃の弾丸が飛び、前列にいる覚者達に浴びせかける。その威力はかなりのもの。前衛メンバーの体力を大きく削り取る。
 この場は、負けないように。凜は機関銃を持つ保住に気を払い、狙撃されないようにと立ち回っていた。
 同時に、仲間が倒れないようにと心地よく感じる空気を生み出し、仲間達をリラックスさせることで、比較的戦闘経験の浅い身体能力の向上を図る。
 そのほのかも土を鎧のように纏って自身を守ってから、大剣の敵へとプレッシャーを与えようと狙っていた。あくまで撃退が狙い。できるなら、命は奪いたくない。
 敵の後方からは、女性の百鬼が火炎弾を放つ。もう1人は、どうやら、保住の援護を図ろうと防御シールドを張っていた様だ。
(組織全体の戦況としては、思わしくないからな)
 だからこそ、真面目に、確実な動きを。刹那は敵の状況を見定める。
 ところで、刹那はなぜか、今回は人格が切り替わらずにいた。
(考えると、むしろ切り替わらぬのが、拙の妙なところである)
 赤茶の髪は銀に、茶色の瞳は金色へと変化した彼女は確かに覚醒している。今回は全力ではないということなのだろうか。
 刹那は一旦構えを取ってから敵に躍りかかり、日本刀『刹那』による斬撃を浴びせかけた。
 そこで、維摩がエネミースキャンを行い、霧山の戦闘能力を分析しようとする。
「隙は作ってやる。精々派手に殴り飛ばせよ」
 さらに、エメレンツィアが水の礫を飛ばす。それを浴びて頬に傷を走らせ、流れる血を舐め取った霧山はにやりと笑ってこう呟いた。
「まあ、奇襲は失敗だったからね」
 さらに飛びのき、壁を駆け上がる霧山。エメレンツィアは、彼が逃げるのだと察する。
「逃げるというのなら、お逃げなさい。ただ、次は無いわ。覚えておきなさい、ユズル」
「そうだね、次は本気でお相手するよ」
 彼はそうして、覚者から背を向ける。
「霧山ー! 次に会うときは全力で勝負なー!! 今回は見逃す!!」
 遥が霧山の背に叫びかけると、霧山は闇の中へと姿を消していった。
「……絶対に、貴方を許さない。私は、絶対に」
 エメレンツィアは表情を全く変えずに小さくそう告げ、残る百鬼の相手をすべく逆側を向き直ったのだった。

●百鬼の撃退を
 残る百鬼は、隊長保住を含めて6人。
 前線で敵の抑えようとする遥。しかしながら、思いの他、敵は強い。振りかざす大剣は遥の身体へと深く食い込み、そこから血が流れ出る。
「いくっす」
 そこで、保住が右腕の銃身に炎を纏わせ、それを直接覚者へと叩きつけてきた。狙うは傷が深くなってきていた遥。
 それを見たほのかが前に出て、遥を庇う。そして、傷つく遥は、凜がすかさず癒しの滴を落として体力を回復させる。回復が足らないと判断した刹那も、同じく滴を振り撒いていたようだ。
「本当は、譲を一発二発と言わずに、殴り蹴り飛ばしたかったのだけれどねぇ♪」
 輪廻は大剣を振るう暦の隊員に迫り、特殊な力を加えて投げ飛ばす。地面へと強かに身体を打ちつけた敵。もはや動くことなく床に転がった。
 仲間が倒れ、百鬼の女性陣が苛立ちげに矢を飛ばしてくる。エメレンツィアは仲間が倒れぬようにと癒しの霧を展開し、前線を援護した。
「キミらは主役にしたくねえな。悪いけどこの舞台、俺達が頂くぜ」
 ともあれ、前線の男性を倒そうと、四月二日は敵陣を駆け抜け、銀の刃を振るう。すると、男性の1人が膝をついたのを、維摩は逃さない。
「さっさとくたばれよ」
 彩の敵目掛け、彼は起こした雷雲から雷を落とす。黒焦げになって倒れる男は完全に白目を向いてしまった。
「俺達を欺けたつもり? あんま大人ナメて貰っちゃ困るぜ、若者達」
 挑発とも取れる四月二日の言葉を聞き、保住が仲間に告げる。
「引くっす」
 2人倒れたが、それほど劣勢というわけでもない百鬼。若干不服そうな隊員達に、彼はまた声に出した。
「このままだと戦力が減るだけっす。体勢整えてから出直すっすよ」
 苦々しい顔をして隊員達は後ろを向き、去っていく。
 大して敵を倒すことはできなかったが。あくまでも撃退が今回の目的。追い払っただけでも上等だろう。
 刹那は思いの他冷静な仲間達を見ながら、手を叩く。
「ほい、そこまで。続きは別の仕事であるぞ」
 深追いして手痛いダメージを受けてもつまらない。熱くなりすぎる場合は止めてくれと本人達からも言われていたようだ。
 メンバー達はすっきりとしない気持ちのまま武器を収め、覚醒状態を解くのだった。

●百鬼が去りて……
 そうして、残されたのは、倒れる隊員のみ。隊長の保住を始め、3人の隊員も逃げて行ったようだ。
 霧山と因縁のあるメンバー達は苦々しい顔をしていたが、2人の男性隊員を捕縛した後、構内の被害状況を確認する。
 百鬼が動いた場所で、傷つく数人の学生や教授を凜が手当てを行っていたようだが、軽傷で済んでいたようだ。
 ここに能力者がいなかったこと、覚者が迅速な発見を行ったこと、何より、敵の不意を付けたことが幸いし、被害は拡大していない。これなら、被害は軽微だったと報告できるだろう。
 余談だが、百鬼が通った経路には残念ながら、維摩の研究室もあったようで、若干の被害に合っていたようだ。
「……俺が置きっぱにしてた酒とかいっぱいあるし、割れてませんように!」
 そう願う四月二日だったが、悲しいかな、そのいくつかは無残に割られてしまっていた。
「馬鹿の後始末までやる気にならん。そこの馬鹿も、置いてった酒ぐらいさっさと始末していけよ」
 維摩は悪態をつき、研究室の掃除を始める。四月二日は割れた酒瓶を目にし、がっくりとうな垂れていたのだった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
『霧の名の鬼を咎める者』
取得者:エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)
特殊成果
なし



■あとがき■

なちゅいです。リプレイを公開いたします。
被害を最小限に食い止めることができ、
依頼としては成功です。
MVPは今回、
心情的な部分を考慮致しました。
ささやかですが、
称号もお受け取りください。

今回は参加していただき、
本当にありがとうございました!




 
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