守護者の居る街
●守護者
それは空から現れた。
翼をはためかせ男たちの前に降りると、まず風の弾丸でリーダー格の男を撃ち抜く。リーダーが絶命し、男達が色めき立つ隙を逃さず、炎によって焼き尽くす。
「あ……ありがとうございます! 」
男達に襲われそうになった女性が一人、翼の生えた男に駆け寄って礼を述べる。
「礼はいい……」
その言葉には熱は無い、彼は女性の方を向き。
「だが、ここが危ない場所だと知って、歩いていたのは良くない、そう正しくない」
そう告げて右手を伸ばす。
恐怖で凍り付く女が最後に見た彼の瞳は狂に囚われていた。
●討伐者
「破綻した隔者を一人、排除してもらいます、名前は通称ガーディアン、破綻深度は1相当」
努めて、感情をこめずに久方 真由美(nCL2000003)は覚者へと告げた。
「彼はとある街を陰から守る覚者でした。しかし数々の戦いの末、人を守ることよりも悪を排除するものへと変わっていきました。そして人々もそれを受け入れるようになりました」
取り出すのはある街の地図。
「彼は深夜にこの区画をパトロールしています。ここを待ち受けて排除してください。ただし、時間がかかったりした場合、『守護者の使徒』を名乗る自警団がやってきて、支援に入ります。こちらは一般人ですので注意してください」
全ての説明を終えた後、真由美は数刻沈黙し、やがて口を開いた。
「ガーディアンに関しての生死は問いませんが、これだけは覚えていてください」
そう言って覚者を見る目には何かの感情がこもっていた。
「これは私達が選ぶ未来の一つの形かもしれません」
真由美が言葉の意味を知るのは、この依頼をどうするかで分かるかもしれない。
それは空から現れた。
翼をはためかせ男たちの前に降りると、まず風の弾丸でリーダー格の男を撃ち抜く。リーダーが絶命し、男達が色めき立つ隙を逃さず、炎によって焼き尽くす。
「あ……ありがとうございます! 」
男達に襲われそうになった女性が一人、翼の生えた男に駆け寄って礼を述べる。
「礼はいい……」
その言葉には熱は無い、彼は女性の方を向き。
「だが、ここが危ない場所だと知って、歩いていたのは良くない、そう正しくない」
そう告げて右手を伸ばす。
恐怖で凍り付く女が最後に見た彼の瞳は狂に囚われていた。
●討伐者
「破綻した隔者を一人、排除してもらいます、名前は通称ガーディアン、破綻深度は1相当」
努めて、感情をこめずに久方 真由美(nCL2000003)は覚者へと告げた。
「彼はとある街を陰から守る覚者でした。しかし数々の戦いの末、人を守ることよりも悪を排除するものへと変わっていきました。そして人々もそれを受け入れるようになりました」
取り出すのはある街の地図。
「彼は深夜にこの区画をパトロールしています。ここを待ち受けて排除してください。ただし、時間がかかったりした場合、『守護者の使徒』を名乗る自警団がやってきて、支援に入ります。こちらは一般人ですので注意してください」
全ての説明を終えた後、真由美は数刻沈黙し、やがて口を開いた。
「ガーディアンに関しての生死は問いませんが、これだけは覚えていてください」
そう言って覚者を見る目には何かの感情がこもっていた。
「これは私達が選ぶ未来の一つの形かもしれません」
真由美が言葉の意味を知るのは、この依頼をどうするかで分かるかもしれない。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.隔者『ガーディアン』の撃退(生死問わず)
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
倒したものが狂ったら、今度は誰が倒すのでしょう。
塩見です。
今回は破綻した、かつての正義の味方を倒す依頼です。
倒すのは簡単です。
ですが、それでいいのかは皆さま次第になります。
以下、敵のデータになります。
隔者『ガーディアン』(破綻者:深度1)
翼人
火の因子
武器:ナックル
スキル
・エアブリット
・火纏
・爆裂掌
・火柱
・圧撃
・樹の雫
・清廉香
・飛行
・威風
一般人『守護者の使徒』
ただの自警団
金属バットや木刀(痛い)
の他、手錠など所持
それでは皆様、覚者が選ぶかもしれない未来を見に行ってください。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年02月19日
2016年02月19日
■メイン参加者 8人■

●街の守護者
これはある街のある夜にあった、ある出来事。
街灯の少ない街角を覚者達は歩く、ある人物に会うために。そして目的はすぐに果たされた。
空から舞い降りる翼の男。
レザージャケットに正体を隠すべく身に着けたミラーシェードのサングラス。グローブやブーツは赤黒い染みが残っていて取れない。
月光を背に、翼の影が覚者を覆う。彼らを捉えるかのように……。
「お前さん、一般人を手にかけそうな面してるが、大丈夫か? いや、大丈夫じゃないのは知ってるけどな。」
『オレンジ大斬り』渡慶次・駆(CL2000350)があえて問いかける。
「罪を犯したもの、悪の心を持ったものなら、力の有無は関係ない。心はいつでも力となりうるからな」
ガーディアンと名乗っていた男はそう答え、覚者の前に降り立つ。
「私は大丈夫だ、むしろそれを疑う君たちが『正しくない』」
破綻した論理、かつて覚者だった男は破綻し隔者となった。
「私が『正してあげよう』守護者の名のもとに!」
●同じ穴の貉の一線
アチャラナータ――不動明王の銘を冠した鉈を若き日の肉体となった駆が片手で構える。それは彼が身に着けた斬・一の構え。
構えのまま駆は他の仲間とともにガーディアンへと距離を詰める。破綻者もそれに倣い、拳を握り、歩を進める。
足音というには小さい地面を踏みしめる音を耳にしながら駆は思考する。
――俺たちが今やってることも微妙なライン、隔者と妖と憤怒者は殺してもやむなし。
しかし実は俺たち、「そうせざるを得ない」っていう大義名分は明確には持ってねえ、闇から闇に葬るばかり。
「けど、法律っていう地盤もなしに殺しの倫理を自分のみに頼り続けて戦い続けりゃ、確かに狂う奴も出るよな」
独白、そして両者は駆けた。
駆の鉈による刺突をガーディアンは跳躍、駆の腕を支点に回転すると羽を広げて、背後の覚者へと迫った。
まるで線が交わるのを拒むように――。
●鉛と闘争が彼の人生
破綻者が翼を羽ばたかせて低空飛行で迫るのは、一人中衛に控えていた藤倉 隆明(CL2001245)
「オラかかってこいやヒーロー、存分に踊らせてやんよ! 」
挑発とともに放たれる機関銃弾、アスファルトを跳ねる薬莢と火薬の炸裂音をBGMとばかりに鉛弾でのダンスを強要する。
「お前は何故戦う? 」
バレルロールで弾丸を回避しながら破綻者は問いかける?
「知らねえな! 語りかけられる言葉なんざ持っちゃねぇ! どうしたよ! 早く俺に正しさってのを教えてくれよなァ!! 」
問いを一蹴し、銃の間合いを抜けられたことを悟った隆明は拳を握る。
振りかぶって放たれる正拳。だが、それよりもガーディアンの飛び蹴りが先に彼の胸板に叩き込まれ、そこから伝達される爆裂掌が隆明の体に炸裂した。
たたらを踏み、倒れまいとする隆明。そんな彼に破綻した男が問う。
「考えも無く、鉛を撃つだけ。お前はそれでいいのか? 」
彼の言葉に隆明は睨み返すのみ。
(こういうやり方しか教えられてきてねぇんだ、それでいいのかなんて知るかよ! )
●戦闘狂の疑問
「そんなこと知ったこっちゃねェよ!
俺は強い奴と戦えればそれで満足だからよォ!俺の名は坂上・恭弥(CL2001321)!いざ、尋常に勝負ってか、『ガーディアン』さんよォ! 」
二人の間に割って入るように名乗りを上げ、錬覇法で英霊の力を引き出した恭弥が銀髪に赤い双眸を漲らせて、トンファーを振るう。飛燕、一撃目を振り払われたが二撃目は鳩尾に叩き込む、硬さが伝わった。腕に通る感触で威力を全て伝えきれないのを確信する。
「あー……でもな、俺一つだけ許せねぇんだわ。あんた守るべき奴も「悪」と断定して殺してるらしいじゃねェか? 」
伸びきらなかった腕を引き、間合いを取ると恭弥は問い続ける。
「何でもかんでも短所見つけて『悪』って断じるのはそれって本当に正義なのか?なあ、教えてくれよ、自称『ガーディアン』さんよォ! 」
彼が成していることへの疑問。その言葉にガーディアンと呼ばれた男はただ一言。
「何かあってからでは遅いのだ」
●独善は思いは肯定し行いを否定する
白いマフラーが舞う。
『独善者』月歌 浅葱(CL2000915)が身に着ける独善と例える正義の証。
「ふっ、悪しきものを倒し正義を貫く姿は好ましいですねっ、断言しましょうかっ その姿は正しいとっ……もっとも、その形に捕らわれたならば話は別ですっ」
一気に距離を詰めた少女が拳を振るう。ガーディアンはそれを目に留め、そして何もしない。それがフェイントだと分かっていたから。
「虚拳……飛燕か?」
破綻者が問う。だが浅葱は答えない、それが意味のないことを知っているから。それより必要なことを知っているから。
「正しい義によって動くのならば、人との義によって変わるは道理っ」
「一貫性のない義は人を迷わすぞ」
虚の拳が引き、実の拳が放たれる前に破綻者が一歩踏み込む。だが彼女はかまわずに拳を振るう。
「何を守りたかったか見失ってるのなら原点に返るべきなのですよっ」
言葉と拳にこもった意と威をその肩を押すことで突き放す。拒絶するかのように。
「私は元から変わっていないのさ」
「正義とは一つでも変わらぬものでもないのですっ。そして本命は仲間の攻撃ですよっ」
浅葱が言い放つ。そして青い瞳の少女が月光を背に跳んだ。
●本当に守りたかったもの
『突撃巫女』神室・祇澄(CL2000017)の刺青が光り、夫婦刀・天地の鯉口を斬る。琴桜発動、肉体硬化。斬るのは物理ではなく心。
「貴方の正義は、貴方が決めた事を、守る人しか認めない、狭いものですか! 」
ガーディアンの思考を断罪するかのように刀を振るう、破綻者は後ろにジャンプしながら翼を展開し、宙を立つ。
「ならば、誰が決めるのだ。力なき警察か? 疲弊したAAAか? 」
破綻者は問いかけ、左手からエアブリットを放つ。夫婦刀が煌き、圧縮された空気を切り払う。
「それで正義を名乗るとは、おこがましいにも程があります! 」
「では君が正義を名乗るか? 」
さらなる問いかけ。少女はそれに答えずに、彼の心に訴える。
「本当に守りたかったものが何だったか、きちんと思い出してください! 」
「守りたかったもの……それは」
破綻者が何かを言いかけたところで、少年の声が響いた。
●機会
「何で、こうなっちゃうんだ……」
御白 小唄(CL2001173)はいつも理不尽に憤る。かつては憤怒者の所業に、そして今は破綻した正義に。
演舞・清爽によって強化された鋭刃脚を確実に当てに行く。
(まずは動きを止めないと話にもならないから……ごめんっ! )
謝罪の言葉を心に秘め、当て止め目当ての蹴りをガーディアンは払いのけ、彼の後ろを取る。
「どうしてかって? 人が望んだからだよ」
背中から聞こえる声、振り向く小唄に伸びる手を顔を捻ってよける。かすめた頬が熱く、そして痛い。
「人は悪い事をしたって、必ずやり直すことができる! 」
「そうだろう」
少年の言葉を破綻者は肯定した。
「その機会を奪う事は、絶対に正義なんかじゃない! そんなのただのエゴだ!! 」
吠える少年、放つは猛の一撃。胸元に叩き込まれる一撃にミラーシェードが外れ、地面に転がる。
「では悪行によって機会を奪われたものはどうやって取り返す? その前に禍根は立つべきではないか?」
その目には白は無く赤に染まった黒があった。
●かつて彼は「正義の味方」だった
ガーディアンの前に炎を醒した『屑鉄』河上・利秋(CL2001308)が立った。彼もまた威風を纏い、そして大剣を握る。
「正義なんて人の数ほどある……不確かで自己満足でしかない醜い代物だ……だからこそ俺はあえて「悪」として君を否定しよう」
「……ほう?」
利秋の言葉に興味深げに破綻者が歩み寄る。同時に利秋も疾る。
(説得、語るべき言葉……かつて「正義の味方」を目指し、理想に溺れ、裏切られた俺に語るべき事があるだろうか……)
走りながら自問自答する利秋、己にその資格があるのか? 今、まさに目の前にいる破綻者にかける言葉があるだろうか?
「だがこれだけは言える……今の君の正義は間違ってる」
疾風斬りが空を薙ぎ、その胴を狙う。破綻者が飛ぶ、翼が舞い、その身を回転させての飛び後ろ回し蹴りが利秋の頭を狙って、空を切る。着地し、ガーディアンが視線を向けると利秋も次の攻撃にかかるために剣を構えている。
「今の君は守るべき対象さえ『悪』と断ずる……潔癖すぎる「正義」だ」
言葉を選ぶかのように区切りつつ話す利秋。破綻者はそれを聞く。
「君に心がまだ残っているならどうか初心を思い出してほしい……君は何故『正義』を求めたのかを」
「君たちは『正しくはない』な、私はガーディアン……正義の味方ではなく守護者だ、故に……」
ガーディアンが右手を振るう。火柱が上がり、覚者達を焼き払う。
●ここで終われ
「……笑えないな」
炎が晴れ、葦原 赤貴(CL2001019)が呟く。夢見が話した覚者の未来の姿、それが目の前にいる存在かもしれないということに。
「FiVE所属、葦原赤貴だ……名を聞こう。オマエは『守護者』か? 『破壊者』か? 」
疾風斬りを叩き込みながら赤貴は問いを投げかける。
「ガーディアン、日本語で言うなら『守護者』だな」
翼の力を借りて跳躍し、剣を避ける。着地と同時に翼を納めて火を纏った拳を放つ。
赤貴は身を屈めることで火纏を避け、身長差を利として鉄甲掌で殴りつける。
「いつまで寝ぼけている?そのまま狂気に飲まれる気か?」
拳には手ごたえを感じた。
「狂気? 私は狂っているのか? 」
ガーディアンが問う。赤貴は答えない。だが彼自身の心に向かって呼びかけは続けた。
(認識は、単に状況の負荷に抗いきれず精神が膝をついてしまっているというもの)
赤貴は仮説を立て、それに基づいて動いていた。どの言葉が有効ということではなく、ガーディアンにとって何が必要かを。それは本来彼が求めた姿を再認識させ、自我の復活を促すこと。
「私は…………」
これまでの積み重ねも手伝って、投げかけられる言葉に揺れるガーディアン。
「立ち上がるのは、今でなくていつだ! できぬなら……ここで終われ」
痛烈な鉄甲掌の一撃がガーディアンの胸元に、破綻した何かに叩き込まれ、彼はビルの外壁に叩きつけられた。
『守護者の使徒』を名乗る武装した市民が現れたのはちょうどそのころだった。
●オリジン
――かつて、彼は街の守護者だった。人を守る覚者だった。
いつしか、彼は街を守る者になった、その理由は彼しか知らない――
「ガーディアンさんが!? 」
武装した一般人が武器を持ち対峙しようとする。
「……離れて、下さい。この人に近づいては、いけません! 」
祇澄の言葉がワーズワースによって力を持ち、人々の動きを止めた。今は彼らを近づけさせるわけには行かない。
遠巻きに覚者が見守る中、ガーディアンはゆっくりと立ち上がる。
「何をしていたんだろうな、私は」
自嘲気味に呟く言葉は破綻した者の言葉ではなかった。
「目を覚まして! その力は人を傷つけるためにあるんじゃないだろ!! 守りたい人がいるんだろ! その人を守るための力で、人を傷つけるんじゃない!! 」
小唄が今にも縋りつきそうな勢いで叫ぶ。
その姿にガーディアンは笑みを浮かべ、足元にエアブリットを放った。
「人には責任というものがあるのだよ少年。咎は背負わなければならない」
翼を広げ、威風と共にかつて破綻した男は叫んだ。
「さあ来い、FiVEの覚者よ! 我が名はガーディアン、『守護者』を語る隔者だぞ! 」
「ハッ! こちとら戦闘狂だっつうの! 戦い楽しめればいいだろ? 」
恭弥が彼の演技とその気持ちを汲んだのか武器を構える。
「ああ、隔者ならば殺す」
赤貴もそれに続く。そして、戦いは再開された。
●人間
隆明の機関銃弾を縫うように避け、守護者は迫る、その右手には熱圧縮された空気。
「自分でその段階に行ったのか!? 」
「鍛えろ、さすれば行き着く」
立ちはだかる恭弥の胸元に圧撃が炸裂し、吹き飛ばされる。失いかける意識を命を燃やし立ち上がったところで浅葱が駆け寄り、命力を分ける。
「君達の中で「ガーディアン」の苦悩を考えた者はいるか? 」
『守護者の使徒』を名乗る一般人に利秋は問い、そして守護者へと剣を振るう。
「この方が道に外れるのを、なぜ貴方達は、止めなかったのですか! 」
祇澄が厳しく言い放ち、夫婦刀を舞わせる。その様子を人々はただ見守ることしかできなかった。
「そこだっ、いくぞっ!」
二人の剣撃をかいくぐったガーディアンの元に小唄の飛燕が叩き込まれ動きが止まる。
「ナウマクサンマンダ・バサラダン・カーン! 」
裂帛の真言、同時に放たれる鉈の一撃が彼の胴を薙ぎ、吹き飛ばした。
「正義とはそれを執行するには周りの理解とサポートが必要不可欠だ」
利秋は尚も人々に問いかける、祇澄もそれに続く。
「貴方達が止めないから、この人は自分で道を正す事ができなかった! 」
隆明の拳とガーディアンの拳がぶつかり、肉の焼ける音がする。
「覚者だって、人間なんです! 自らの心に、負けることだって、あります」
小唄が唇を噛みしめて、拳を振るう。
「君達が彼の正義に甘えすぎた結果が……」
吹き飛ばされた守護者を浅葱の飛燕が追い打ちをかけ、バックステップと同時に走りこんだ恭弥が疾風のように斬る。
「その結果が、これなのです」
祇澄の視線の先には駆の鉈が突き刺さり、膝を着く守護者。
突如、火柱が覚者の目の前を疾る。まるで遮る壁のように。
「……彼は「正義」を執行する機械じゃない、人間なんだ」
利秋の言葉と共に炎の中を赤貴が走り抜け、鉄甲掌をたたきつける。響く一撃が彼の肉体に貫通し、衝撃が走り音がなった。
そして人が倒れた時、人々は武器を捨てた。
●責任
「良いのかい? 」
拘束されたガーディアンに向かって駆が問う、その先には彼が手配を依頼した車が一台。その周りにはガーディアンの使徒と名乗るものが遠巻きに眺めていた。
「これからも、この街のためにその力を……」
小唄の言葉を制してガーディアンは口を開いた。
「今までやってきたことを償わなければならない、でないと私が納得できないし、人々はまた頼ってしまうかもしれない」
言い終えるとガーディアンは駆に頷いた。
「いやぁ、久々に骨のある喧嘩だったぜ! また戦いあいたいもんだぜ! 」
「……ああ、そうだな」
その一方、戦いに満足している恭弥に隆明は不機嫌に答えた。
心にざわめく何かに苛立ちが隠せない。
「ふっ、一見落着ですねっ。ところで殺すって言った割にはどうして最後手心加えたんですかっ? 」
結果に満足しつつも、浅葱は傍らに居る赤貴に問うた。彼の言葉を聞いたとき、いざとなったら止めようと思っていた故に。
赤貴は面倒くさそうに口を開いた。
「覚者が減れば、オレが殺すべき相手が増える、やりあえば、こちらも当然死にかける。そしてオレは死にたがりではない。ただ、それだけだ」
「ふーんっ……分かりましたっ! 」
言い終わると彼は車へと向かい、浅葱もそれを追った。
これはある街のある夜にあった、ある出来事。
街灯の少ない街角を覚者達は歩く、ある人物に会うために。そして目的はすぐに果たされた。
空から舞い降りる翼の男。
レザージャケットに正体を隠すべく身に着けたミラーシェードのサングラス。グローブやブーツは赤黒い染みが残っていて取れない。
月光を背に、翼の影が覚者を覆う。彼らを捉えるかのように……。
「お前さん、一般人を手にかけそうな面してるが、大丈夫か? いや、大丈夫じゃないのは知ってるけどな。」
『オレンジ大斬り』渡慶次・駆(CL2000350)があえて問いかける。
「罪を犯したもの、悪の心を持ったものなら、力の有無は関係ない。心はいつでも力となりうるからな」
ガーディアンと名乗っていた男はそう答え、覚者の前に降り立つ。
「私は大丈夫だ、むしろそれを疑う君たちが『正しくない』」
破綻した論理、かつて覚者だった男は破綻し隔者となった。
「私が『正してあげよう』守護者の名のもとに!」
●同じ穴の貉の一線
アチャラナータ――不動明王の銘を冠した鉈を若き日の肉体となった駆が片手で構える。それは彼が身に着けた斬・一の構え。
構えのまま駆は他の仲間とともにガーディアンへと距離を詰める。破綻者もそれに倣い、拳を握り、歩を進める。
足音というには小さい地面を踏みしめる音を耳にしながら駆は思考する。
――俺たちが今やってることも微妙なライン、隔者と妖と憤怒者は殺してもやむなし。
しかし実は俺たち、「そうせざるを得ない」っていう大義名分は明確には持ってねえ、闇から闇に葬るばかり。
「けど、法律っていう地盤もなしに殺しの倫理を自分のみに頼り続けて戦い続けりゃ、確かに狂う奴も出るよな」
独白、そして両者は駆けた。
駆の鉈による刺突をガーディアンは跳躍、駆の腕を支点に回転すると羽を広げて、背後の覚者へと迫った。
まるで線が交わるのを拒むように――。
●鉛と闘争が彼の人生
破綻者が翼を羽ばたかせて低空飛行で迫るのは、一人中衛に控えていた藤倉 隆明(CL2001245)
「オラかかってこいやヒーロー、存分に踊らせてやんよ! 」
挑発とともに放たれる機関銃弾、アスファルトを跳ねる薬莢と火薬の炸裂音をBGMとばかりに鉛弾でのダンスを強要する。
「お前は何故戦う? 」
バレルロールで弾丸を回避しながら破綻者は問いかける?
「知らねえな! 語りかけられる言葉なんざ持っちゃねぇ! どうしたよ! 早く俺に正しさってのを教えてくれよなァ!! 」
問いを一蹴し、銃の間合いを抜けられたことを悟った隆明は拳を握る。
振りかぶって放たれる正拳。だが、それよりもガーディアンの飛び蹴りが先に彼の胸板に叩き込まれ、そこから伝達される爆裂掌が隆明の体に炸裂した。
たたらを踏み、倒れまいとする隆明。そんな彼に破綻した男が問う。
「考えも無く、鉛を撃つだけ。お前はそれでいいのか? 」
彼の言葉に隆明は睨み返すのみ。
(こういうやり方しか教えられてきてねぇんだ、それでいいのかなんて知るかよ! )
●戦闘狂の疑問
「そんなこと知ったこっちゃねェよ!
俺は強い奴と戦えればそれで満足だからよォ!俺の名は坂上・恭弥(CL2001321)!いざ、尋常に勝負ってか、『ガーディアン』さんよォ! 」
二人の間に割って入るように名乗りを上げ、錬覇法で英霊の力を引き出した恭弥が銀髪に赤い双眸を漲らせて、トンファーを振るう。飛燕、一撃目を振り払われたが二撃目は鳩尾に叩き込む、硬さが伝わった。腕に通る感触で威力を全て伝えきれないのを確信する。
「あー……でもな、俺一つだけ許せねぇんだわ。あんた守るべき奴も「悪」と断定して殺してるらしいじゃねェか? 」
伸びきらなかった腕を引き、間合いを取ると恭弥は問い続ける。
「何でもかんでも短所見つけて『悪』って断じるのはそれって本当に正義なのか?なあ、教えてくれよ、自称『ガーディアン』さんよォ! 」
彼が成していることへの疑問。その言葉にガーディアンと呼ばれた男はただ一言。
「何かあってからでは遅いのだ」
●独善は思いは肯定し行いを否定する
白いマフラーが舞う。
『独善者』月歌 浅葱(CL2000915)が身に着ける独善と例える正義の証。
「ふっ、悪しきものを倒し正義を貫く姿は好ましいですねっ、断言しましょうかっ その姿は正しいとっ……もっとも、その形に捕らわれたならば話は別ですっ」
一気に距離を詰めた少女が拳を振るう。ガーディアンはそれを目に留め、そして何もしない。それがフェイントだと分かっていたから。
「虚拳……飛燕か?」
破綻者が問う。だが浅葱は答えない、それが意味のないことを知っているから。それより必要なことを知っているから。
「正しい義によって動くのならば、人との義によって変わるは道理っ」
「一貫性のない義は人を迷わすぞ」
虚の拳が引き、実の拳が放たれる前に破綻者が一歩踏み込む。だが彼女はかまわずに拳を振るう。
「何を守りたかったか見失ってるのなら原点に返るべきなのですよっ」
言葉と拳にこもった意と威をその肩を押すことで突き放す。拒絶するかのように。
「私は元から変わっていないのさ」
「正義とは一つでも変わらぬものでもないのですっ。そして本命は仲間の攻撃ですよっ」
浅葱が言い放つ。そして青い瞳の少女が月光を背に跳んだ。
●本当に守りたかったもの
『突撃巫女』神室・祇澄(CL2000017)の刺青が光り、夫婦刀・天地の鯉口を斬る。琴桜発動、肉体硬化。斬るのは物理ではなく心。
「貴方の正義は、貴方が決めた事を、守る人しか認めない、狭いものですか! 」
ガーディアンの思考を断罪するかのように刀を振るう、破綻者は後ろにジャンプしながら翼を展開し、宙を立つ。
「ならば、誰が決めるのだ。力なき警察か? 疲弊したAAAか? 」
破綻者は問いかけ、左手からエアブリットを放つ。夫婦刀が煌き、圧縮された空気を切り払う。
「それで正義を名乗るとは、おこがましいにも程があります! 」
「では君が正義を名乗るか? 」
さらなる問いかけ。少女はそれに答えずに、彼の心に訴える。
「本当に守りたかったものが何だったか、きちんと思い出してください! 」
「守りたかったもの……それは」
破綻者が何かを言いかけたところで、少年の声が響いた。
●機会
「何で、こうなっちゃうんだ……」
御白 小唄(CL2001173)はいつも理不尽に憤る。かつては憤怒者の所業に、そして今は破綻した正義に。
演舞・清爽によって強化された鋭刃脚を確実に当てに行く。
(まずは動きを止めないと話にもならないから……ごめんっ! )
謝罪の言葉を心に秘め、当て止め目当ての蹴りをガーディアンは払いのけ、彼の後ろを取る。
「どうしてかって? 人が望んだからだよ」
背中から聞こえる声、振り向く小唄に伸びる手を顔を捻ってよける。かすめた頬が熱く、そして痛い。
「人は悪い事をしたって、必ずやり直すことができる! 」
「そうだろう」
少年の言葉を破綻者は肯定した。
「その機会を奪う事は、絶対に正義なんかじゃない! そんなのただのエゴだ!! 」
吠える少年、放つは猛の一撃。胸元に叩き込まれる一撃にミラーシェードが外れ、地面に転がる。
「では悪行によって機会を奪われたものはどうやって取り返す? その前に禍根は立つべきではないか?」
その目には白は無く赤に染まった黒があった。
●かつて彼は「正義の味方」だった
ガーディアンの前に炎を醒した『屑鉄』河上・利秋(CL2001308)が立った。彼もまた威風を纏い、そして大剣を握る。
「正義なんて人の数ほどある……不確かで自己満足でしかない醜い代物だ……だからこそ俺はあえて「悪」として君を否定しよう」
「……ほう?」
利秋の言葉に興味深げに破綻者が歩み寄る。同時に利秋も疾る。
(説得、語るべき言葉……かつて「正義の味方」を目指し、理想に溺れ、裏切られた俺に語るべき事があるだろうか……)
走りながら自問自答する利秋、己にその資格があるのか? 今、まさに目の前にいる破綻者にかける言葉があるだろうか?
「だがこれだけは言える……今の君の正義は間違ってる」
疾風斬りが空を薙ぎ、その胴を狙う。破綻者が飛ぶ、翼が舞い、その身を回転させての飛び後ろ回し蹴りが利秋の頭を狙って、空を切る。着地し、ガーディアンが視線を向けると利秋も次の攻撃にかかるために剣を構えている。
「今の君は守るべき対象さえ『悪』と断ずる……潔癖すぎる「正義」だ」
言葉を選ぶかのように区切りつつ話す利秋。破綻者はそれを聞く。
「君に心がまだ残っているならどうか初心を思い出してほしい……君は何故『正義』を求めたのかを」
「君たちは『正しくはない』な、私はガーディアン……正義の味方ではなく守護者だ、故に……」
ガーディアンが右手を振るう。火柱が上がり、覚者達を焼き払う。
●ここで終われ
「……笑えないな」
炎が晴れ、葦原 赤貴(CL2001019)が呟く。夢見が話した覚者の未来の姿、それが目の前にいる存在かもしれないということに。
「FiVE所属、葦原赤貴だ……名を聞こう。オマエは『守護者』か? 『破壊者』か? 」
疾風斬りを叩き込みながら赤貴は問いを投げかける。
「ガーディアン、日本語で言うなら『守護者』だな」
翼の力を借りて跳躍し、剣を避ける。着地と同時に翼を納めて火を纏った拳を放つ。
赤貴は身を屈めることで火纏を避け、身長差を利として鉄甲掌で殴りつける。
「いつまで寝ぼけている?そのまま狂気に飲まれる気か?」
拳には手ごたえを感じた。
「狂気? 私は狂っているのか? 」
ガーディアンが問う。赤貴は答えない。だが彼自身の心に向かって呼びかけは続けた。
(認識は、単に状況の負荷に抗いきれず精神が膝をついてしまっているというもの)
赤貴は仮説を立て、それに基づいて動いていた。どの言葉が有効ということではなく、ガーディアンにとって何が必要かを。それは本来彼が求めた姿を再認識させ、自我の復活を促すこと。
「私は…………」
これまでの積み重ねも手伝って、投げかけられる言葉に揺れるガーディアン。
「立ち上がるのは、今でなくていつだ! できぬなら……ここで終われ」
痛烈な鉄甲掌の一撃がガーディアンの胸元に、破綻した何かに叩き込まれ、彼はビルの外壁に叩きつけられた。
『守護者の使徒』を名乗る武装した市民が現れたのはちょうどそのころだった。
●オリジン
――かつて、彼は街の守護者だった。人を守る覚者だった。
いつしか、彼は街を守る者になった、その理由は彼しか知らない――
「ガーディアンさんが!? 」
武装した一般人が武器を持ち対峙しようとする。
「……離れて、下さい。この人に近づいては、いけません! 」
祇澄の言葉がワーズワースによって力を持ち、人々の動きを止めた。今は彼らを近づけさせるわけには行かない。
遠巻きに覚者が見守る中、ガーディアンはゆっくりと立ち上がる。
「何をしていたんだろうな、私は」
自嘲気味に呟く言葉は破綻した者の言葉ではなかった。
「目を覚まして! その力は人を傷つけるためにあるんじゃないだろ!! 守りたい人がいるんだろ! その人を守るための力で、人を傷つけるんじゃない!! 」
小唄が今にも縋りつきそうな勢いで叫ぶ。
その姿にガーディアンは笑みを浮かべ、足元にエアブリットを放った。
「人には責任というものがあるのだよ少年。咎は背負わなければならない」
翼を広げ、威風と共にかつて破綻した男は叫んだ。
「さあ来い、FiVEの覚者よ! 我が名はガーディアン、『守護者』を語る隔者だぞ! 」
「ハッ! こちとら戦闘狂だっつうの! 戦い楽しめればいいだろ? 」
恭弥が彼の演技とその気持ちを汲んだのか武器を構える。
「ああ、隔者ならば殺す」
赤貴もそれに続く。そして、戦いは再開された。
●人間
隆明の機関銃弾を縫うように避け、守護者は迫る、その右手には熱圧縮された空気。
「自分でその段階に行ったのか!? 」
「鍛えろ、さすれば行き着く」
立ちはだかる恭弥の胸元に圧撃が炸裂し、吹き飛ばされる。失いかける意識を命を燃やし立ち上がったところで浅葱が駆け寄り、命力を分ける。
「君達の中で「ガーディアン」の苦悩を考えた者はいるか? 」
『守護者の使徒』を名乗る一般人に利秋は問い、そして守護者へと剣を振るう。
「この方が道に外れるのを、なぜ貴方達は、止めなかったのですか! 」
祇澄が厳しく言い放ち、夫婦刀を舞わせる。その様子を人々はただ見守ることしかできなかった。
「そこだっ、いくぞっ!」
二人の剣撃をかいくぐったガーディアンの元に小唄の飛燕が叩き込まれ動きが止まる。
「ナウマクサンマンダ・バサラダン・カーン! 」
裂帛の真言、同時に放たれる鉈の一撃が彼の胴を薙ぎ、吹き飛ばした。
「正義とはそれを執行するには周りの理解とサポートが必要不可欠だ」
利秋は尚も人々に問いかける、祇澄もそれに続く。
「貴方達が止めないから、この人は自分で道を正す事ができなかった! 」
隆明の拳とガーディアンの拳がぶつかり、肉の焼ける音がする。
「覚者だって、人間なんです! 自らの心に、負けることだって、あります」
小唄が唇を噛みしめて、拳を振るう。
「君達が彼の正義に甘えすぎた結果が……」
吹き飛ばされた守護者を浅葱の飛燕が追い打ちをかけ、バックステップと同時に走りこんだ恭弥が疾風のように斬る。
「その結果が、これなのです」
祇澄の視線の先には駆の鉈が突き刺さり、膝を着く守護者。
突如、火柱が覚者の目の前を疾る。まるで遮る壁のように。
「……彼は「正義」を執行する機械じゃない、人間なんだ」
利秋の言葉と共に炎の中を赤貴が走り抜け、鉄甲掌をたたきつける。響く一撃が彼の肉体に貫通し、衝撃が走り音がなった。
そして人が倒れた時、人々は武器を捨てた。
●責任
「良いのかい? 」
拘束されたガーディアンに向かって駆が問う、その先には彼が手配を依頼した車が一台。その周りにはガーディアンの使徒と名乗るものが遠巻きに眺めていた。
「これからも、この街のためにその力を……」
小唄の言葉を制してガーディアンは口を開いた。
「今までやってきたことを償わなければならない、でないと私が納得できないし、人々はまた頼ってしまうかもしれない」
言い終えるとガーディアンは駆に頷いた。
「いやぁ、久々に骨のある喧嘩だったぜ! また戦いあいたいもんだぜ! 」
「……ああ、そうだな」
その一方、戦いに満足している恭弥に隆明は不機嫌に答えた。
心にざわめく何かに苛立ちが隠せない。
「ふっ、一見落着ですねっ。ところで殺すって言った割にはどうして最後手心加えたんですかっ? 」
結果に満足しつつも、浅葱は傍らに居る赤貴に問うた。彼の言葉を聞いたとき、いざとなったら止めようと思っていた故に。
赤貴は面倒くさそうに口を開いた。
「覚者が減れば、オレが殺すべき相手が増える、やりあえば、こちらも当然死にかける。そしてオレは死にたがりではない。ただ、それだけだ」
「ふーんっ……分かりましたっ! 」
言い終わると彼は車へと向かい、浅葱もそれを追った。
