強妖をみんなでやっつける依頼
強妖をみんなでやっつける依頼



 黒部ダムはダムとか特に詳しくない人でも知ってるくらい有名な観光地である。ダム自体もそれを察してガンガン観光地化を進め、黒部ダムカレーなんていう名物グルメも生まれるほどになった。
 一番人気はもちろん夏場の放水である。タンカー千隻分の貯水量を誇るこのダムから毎秒10立方メートルで放水される水しぶきは爽快で、美しい二重虹や冷風が避暑に最適といわれていた。
 だがしかし、昨今の妖発生に伴って観光事業は停止。黒部ダムカレーはおろか売店の自動販売機すら機能していないありさまである。
 そして今日、大型の妖がダム放水路に発生したことで事態は深刻化してしまった。
 このままでは放水をせき止められ、観光機能はおろかダムとしての機能すら喪失してしまう。
 AAA衰退による現在、妖の討伐もできずに管理組合は頭を抱えるばかり。
 この事態を解決できるのはもちろんそう……君だけなのだ!


「夏は海!? いや、山だろ!」
 久方相馬は拳を握ってニカッと笑った。
 この前は別のこと言ってたのに随分ころころ変わる奴だなあ、とは言うまい。
「涼しい山。広い池、吹き抜ける風と水しぶき! いいよなあ……ダム」
 山と言ったりダムと言ったり、とは言うまいて。
 相馬は頷き、資料をぱらぱらと配った。
「今このダム放水路……つまり川の接続部に大型の妖が発生して貯水管理を脅かしている。今はまだなんとかなっているが、大きさは徐々に増している。このまま妖を放置していては大事故にもなりかねない。皆で協力して、この妖を倒すんだ」

 妖種別はランク2自然系樹水型。『水妖(みずのあやかし)』。
 全長20メートル。巨大な水の塊で、おおまかにヒトの形をしている。
 水といっても表面は硬くて分厚いゼリー状の物体に覆われていて、接触しても飲み込まれるということはない。
「戦闘はダムの上から飛び降りる形で開始する。周囲は壁と山で覆われているから、二次被害の心配もないだろう。みんな、頼んだぜ!」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:簡単
担当ST:八重紅友禅
■成功条件
1.妖の討伐
2.なし
3.なし
 八重紅友禅でございます。
 こちらはビギナー覚者でも安心してお楽しみ頂けるシンプルなシナリオとなっております。
 依頼の感触を掴んだりロールプレイを試したり戦い方を模索したり、お気軽にご参加ください。

●戦闘の流れ
 ダムの上から飛び降りる、もしくは作業員用の階段を通じて下部から接近することで戦闘を開始します。
 妖は1体のみで、巨大かつ凶暴です。
 腕や足は多少の伸び縮みはするものの、過剰には変化しません。
 手足による打撃、強力放水による薙ぎ払い、自己修復などの戦闘能力をもちます。
 みんなで連携して倒しましょう。

●おまけ要素
 黒部ダムは妖関係の事情から観光活動を休止していますが、妖討伐がうまくいけば復興のめどがつくかもしれません。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
(3モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
9/9
公開日
2015年08月28日

■メイン参加者 9人■



「はぇ~、でっかいなぁ~!」
 観察用の防護窓ごしに、『楽しけりゃ何でもいい』ディスティン ミルディア(CL2000758)は水妖の姿を見上げていた。
 本来ならダムから放出された水で川ができる筈の場所には見上げるほどの巨人……もとい水の塊がずんぐりと立っている。
「あの肉体構造には興味こそひかれますが……さすがに死体が残るタイプには見えませんね」
 同じく『研究所職員』紅崎・誡女(CL2000750)。
「今の時点で分かることもあるぞ。巨大なだけに隙も大きいはずじゃ。うまく立ち回れば決して負けぬ相手じゃ」
 同じく『樹の娘』檜山 樹香(CL2000141)。
「カレーたべたい」
 同じく八百万 円(CL2000681)。
「「……」」
 三人が一斉に振り返った。
「んー?」
 見返す円。頭の上でぴーちくいう小鳥。わーいと言ってたわむれはじめるディスティン。
 誡女と樹香はこほんと咳払いすると、話題を強制的に巻き戻した。
「今回は上と下からの連携作戦ということですが、手順は頭に入っていますか?」
「うーん、だいたい?」
 ディスティンが不安なことを言ったが、この手の作戦手順は全体の二割くらいが分かっていれば事足りるものだ。特に五行能力者のチーム戦闘においては。
「なに、単純じゃ。ワシらが妖の足下を集中的に攻撃して、注意を引いた頃合いで上から別働隊が攻撃を仕掛ける。うまくすれば一手分はこちらのものにできるじゃろう」
 これはシステム全体で共通することだが、奇襲の成功はイコールで1ターン分の行動不能を意味している。アンブッシュキルや自動クリティカルといったルールはないので、取り違えには注意したいところだ。
 既に合図は送っているので、上から双眼鏡なりで観測すれば頃合いは計れるだろう。
 ちなみに、鳥系アテンドを上空に飛ばすことで合図とする考えもあったが、距離限界(通常で3メートル、ていさつ時で上空10メートル)もあって廃案になっている。普通に鏡をキラキラやることで合図とした。欲を言えばレーザーライトなんかがあると嬉しいところである。
 一方で、その合図を受け取った桂木・日那乃(CL2000941)たちは手すりから顔を覗かせる形でダムの下を眺めていた。
「大きい妖……でもダムが使えなくなったら、困ることたくさんありそうだから、消す」
「困ることって、人民の生活に打撃を与えて抵抗力を殺せるってことかね」
 冷たい視線を向けられて、緒形 逝(CL2000156)は両手を挙げた。
「冗談さね冗談。ダムのことなんて知らんよホント」
「とにかくっ」
 間に割り込むように入ってくる『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)。無駄に横ピースしながらウィンクした。
「美少女でウルトラ可愛い美少女の酒々井数多ちゃん(美少女)がノリノリで退治しちゃうからもう大丈夫ね! あんしんめされやがれ、ダムの人たち!」
「元気だなまったく」
 帽子を被り直す大島 天十里(CL2000303)。
「まっ、わからないでもない。僕も実際、初陣がデカブツというのがいい感じだ。よーし、ぶったおしてやるぞー!」
「ん」
 一方、岩倉・盾護(CL2000549)は帽子のつばをつまんで頷いた。
「盾護、頑張る」


 係員用の扉をそっと開き、円は野外へと出た。
 木々のざわめきと川の残滓を胸一杯に吸い込んでから、目を開く。
 どこからともなく刀やナイフが飛び出し、そのうちの一本を乱暴に引き抜いた。
「いくよお」
 ゆらん、と身体が前に傾いたかと思われた次の瞬間。円は妖の足下へ既に移動していた。
 身体を異様なまでに捻り、足先を切り上げる。
 痛覚があるわけでもなかろうに、妖は彼女の斬撃にたいして慌てたように足踏みした。
 その隙を突いてディスティンが突撃。円とほぼ同じ箇所を切りつけた。
「よしその調子。小指じゃ、左足の小指を狙うんじゃ!」
 巨人対策として至極まっとうなことを言いながら樹香も参入。
 投げ放った種が足の傷口に入り込み、爆ぜるようにトゲを展開した。こうなってしまえば爆発と似たようなもので、妖の足がめりめりとえぐれていく。
 対する妖とて馬鹿ではない。彼女たちを踏みつけようと足を振り上げてくる。
 だがその途端、周囲を濃い霧が覆った。
 妖が放出したものでも、ましてダムから流れ出たものでもない。いつの間にかスタンバイしていた誡女が発生させたものである。
「では、派手にいきましょうか!」
 闇雲にスタンプする妖の足下を、誡女は無限記号を乱暴に書き続けるような軌道で駆け抜けた。実力差からしてさすがに全弾回避とはいかないが、妖をいらだたせるには十分な逃げ回りである。
 とても失礼なたとえになってしまうが、自分の周りを四匹ほどの蚊が飛び回っていて、確実につぶせるはずの柏手打ちが思いの外かわされる状況……というのはかなりイラつくものだ。それが執拗に足下ばかり狙ってくるのだからひどい。
 このランクの妖にそこまでの知能がないにしろ、目に見えて誡女たちをうっとうしそうにしていた。
 ピッタリとはりついたスーツ姿の誡女は、ブレーキをかけながらターン。
 避けきれないスタンピングを両腕をクロスすることで防御する
 ゼリー状といういかにも軽くて柔らかそうな見た目にもかかわらず、誡女にかかった重圧はかなりのものだ。とはいえ水というのは本来重いもので、圧力の高いものだ。
 前衛チームをまたいで踏みつけられるほどの巨大さなれば、さもあらん。
「ぐっ――」
 歯を食いしばる誡女。足下の石が砕け、足が数センチほど埋まる。
 だが一方で、樹香の表情は不敵なものだった。
「頃合いじゃ」
 種を投げつけてトゲを展開。妖がバランスを崩したところで離脱する誡女。
 逃がすものかと手を伸ばしたその瞬間、空で何かが光った。
 何かとはつまり。
 天十里たちのことである。
「隙ありぃー!」
 両手からチェーンを放つ天十里。
 チェーンは妖の腕へ複雑に絡まり、高熱を伴って締め付ける。
 振り子動作で脇の下をぐるんとくぐり抜け鎖を解いて空中で回転。
 はっとした妖が彼女を見た時には既に、覚醒状態の逝が蹴りの姿勢に入っていた。
 咄嗟に腕を振ってはねのけようとする妖。空中で尚且つ攻撃モーションに入っていた逝に直撃する――ところだったが、途中で割り込んだ盾護がガード。逝の代わりに弾かれ、ダムの壁に激突した。
 一方逝はそうして振り込まれた腕を足場にして更に加速。腕の付け根に鋭い蹴りを叩き込んだ。
 天十里と交差する形で宙を舞い、すたんと着地する逝。妖自体で衝撃を殺していたせいか落下のダメージはないようだ。一方の天十里は妖の首にチェーンを巻き付けることで回り込み、肩の上に着地。
 日那乃そんな天十里と交差するように落下するかと見せかけて、地面すれすれで翼を展開。低空を滑るように妖の股下をくぐり抜けると指鉄砲から空圧弾を乱射。
 ただでさえ執拗に狙われ続けていた足部分を強制的にえぐり取っていった。
 ぐらりと傾く妖。
 そこへ、とどめとばかりに数多が縦回転しながら落下してくる。
 腰の刀に手をかけ、抜刀の姿勢に入った。全身を炎のエネルギーが包み込む。
「櫻花真影流、酒々井数多、いっきまーす! 散華せ――エ゛ンッ!?」
 抜刀のタイミングを誤った。
 頭からいった。
 とはいえ炎のエネルギーはきっちりおでこまで覆っていたようで、ある意味の直撃をくらった妖は崩したバランスを更に崩して転倒。
 仰向けだかうつ伏せだかはいまいち判別がつかないが、ここから急にすくっと立ち上がるとは考えづらい姿勢である。
「あ痛、いたた……」
「大丈夫かい」
 地面を転がる数多を心配した顔で(顔はまるで見えないが)逝がすたすたと近寄ってきた。
 グッと親指を立ててテヘペロする数多。
「うん大丈夫。下に水着を着てるから、パンチラ対策はばっちりよ!」
「そういうことじゃーないが、余裕そうでおっさん安心した」
 その一方で、壁をバウンドする形で地面に落ちてきた盾護が、着地姿勢など全く考えていないフォームで地面にごしゃりとぶつかった。
「……そっちこそ大丈夫かい」
「盾護、硬い、自慢」
 無表情のままむっくりと起き上がる盾護。
「けど過信しない」
「そりゃ結構」
 逝はわざとらしく頷いてから、妖へと振り返った。
 急にメタな視点で解説するようで心苦しいが、奇襲作戦の成功によるスタンであって、部位攻撃によるスタンではないことを補足しておきたい。更に補足すると、二度目はほぼない。
 とはいえスキル使用回数が目に見えて少ない現状、1ターン分の余裕はかなり大きいものである。
 こっくりと頷く樹香。
「うまくいったようじゃな。どれ追撃じゃ」
 樹香や日々乃たちがここぞとばかりに飛びかかり、全身を滅多打ちにしていく。
 滅多打ちというか滅多切りというか、ボディから次々にゼリー状の肉片を切り離していった。
 妖も状況に対応するために手足をばたばたと振り回すが、まるで当たる様子がない。
「ふふー。かわいーい」
 すれ違いざまに切りつけつつそっとバスボムをねじ込んでいく円。
 と、そこで。妖が再び足を生やして立ち上がった。
 『生やす』とは表現したが、実際的には一瞬にして付け根から足が飛び出し、元からキズなど無かったかのように表面が修復されていた。
 一方的なタコ殴りはここまでよとばかりにバックステップで距離をとる数多。
「やっぱり水の要素でできてるだけあって形を取り戻すのも早いのね」
「そうだな。便利なから……だ……んん?」
 天十里は妖を見上げて、小首を傾げた。
「なんだか微妙に縮んでないか?」
「言われてみればそーねー」
 数多に癒しの滴を浴びせつつ、額に手を翳してみるディスティン。
 余計なことだが、びしょ濡れになった人を更にびしょ濡れにすることで回復とするこの不可思議さは五行界隈ならではである。
 一方の妖はと言えば、『遊びはここまでだ』とばかりに胸の辺りから激しい水流を放ち、数多たちを右から左へ薙ぎ払っていく。さながら機動隊の暴徒鎮圧用放水である。
 壁にぶつかり、全身をびしょ濡れにする数多たち。
「水着をきてきて正解! 私天才!」
「まだ言うかい。って、アレ……んー、やっぱり縮んでるねアレ」
 ヘルメットから水滴を払いつつ、逝は確信したように言った。
 タイミングよくジャンプして放水を逃れていた誡女が水浸しの地面に着地する。
「推察するに、体力に応じて体躯が縮んでいくのではないでしょうか。そして放水は威力と範囲が大きい代わりに体力を消費するらしく……」
「ちぢむ」
 同じく空中に逃げることで回避していた日那乃が、小さく頷く。
 ぽむんと手を叩く樹香。
「ふむ、ということはよほどのことが無い限り連発はせんな? 行けるぞ!」
「盾護、盾の役割、得意」
 被害担当は任せろと言わんばかりに突撃していく盾護。
 その後ろを追いかける形で、円と数多が駆けだしていく。
 対する妖は渾身のパンチを叩き込んでくるが、盾護ががっちり盾を構えて割り込みガード。直撃をくらって宙を舞うが、むしろそれが狙いである。
 盾護を打った腕を足場にして数多と円が駆け上がっていく。
「たかが妖風情が人間の観光地をじゃましてんじゃ――!」
「て~や~ぁ」
 ないわよ、と叫びながら斬撃を繰り出そうとした数多のすぐ横で、力の抜けるシャウトと共に斬撃を放つ円。それはそれで雑念が抜けて綺麗に入ったらしく、妖の腕が肘らしき部分からスパンと切断される。
 またバランスを崩して倒れてはたまらないのか、腕を急速に再生させる妖。
 その後ろに回り込みつつ、空圧弾や水礫を背中めがけて連射する日那乃とディスティン。
 妖をロックしての円軸移動なのでよけるのがなかなかに難しい。
 なんとかかわそうと身をよじった先に、誡女の放った雷が直撃した。
 再びごろんと転倒する妖……と見せかけて受け身からの膝立ち。なかなか機敏な動きを見せたものだが、膝立ちした頃には逝と天十里がすぐそばにスタンバイしていた。
「えい!」
 チェーンを激しくしならせ、叩き付ける天十里。
 同時に逝が刀を繰り出し、ボディをすっぱりと切断した。
 バランスは崩――さない! 妖は残ったボディを変形させ、手足を整えて着地!
 これでどうだとばかりにファイティングポーズをとる!
 とってから、頭をあげた。
 巨大な樹香が妖を見下ろしていた。
「……なんとなく、こんな予感はしておったのじゃ」
 いや、樹香が恐るべき急成長を遂げたわけではない。妖のほうが極端に縮んだのだ。
 ばたばたと手足を暴れさせる妖。
 対して樹香は自分や誡女がそうされたように、足を大きく振り上げると。
「さらばじゃ!」
 因子のエネルギーを集中させた脚力でもって、ずしんと妖を踏みつぶした。

 こうして、黒部ダムをせき止めようとしていた水妖は退治された。
 話を聞いたスタッフがもろもろの点検を済ませ、たまっていた水を放出していく。
 その光景を、盾護たちは展望台から眺めていた。
 痛みは残るが、身体はぴんぴんしている。
 山に谷にダムに池にと、景色は恐ろしく広大だ。これを見ているだけで身体の痛みがやわらいでいくかのようだった。
「うーむ、涼み放題じゃのう」
「カレーたべたい」
 手すりによりかかってのんびりと瞑目する樹香と円。
 そこへ数多と誡女がやってきた。さっぱりした顔の誡女に対して、数多はしょんぼりしている。
「おみやげ売ってなかったわ。『難関突破スプーン』、地味に欲しかったのに……」
「観光業が再開すればすぐに買えるようになりますよ。スタッフの皆さんも、やる気のようですし」
「景色だけでもかなりのものだしね。ダムも無傷だったみたいで、安心したよ」
 天十里は足をぶらつかせて笑った。その横で黙ったまま水をこくこく飲む日那乃とディスティン。
 やることも無いから帰ろうと思っていた逝はといえば、一人だけ帰るのもナンなのでベンチでのんびり空を眺めていた。
「さっきパンフレットで見たんだけどね、どうやらこのダムってやつは気合いと根性と血と汗と、あと少なくない犠牲者によってできたんだそうだよ。慰霊碑まで建ってたから、相当なもんだったんだろうね」
「それでも現われた妖が心霊系でなく自然のそれだったということは……」
「出るようなモンがなかったってことだろうねえ。いや結構結構」
 彼らはそれからも暫くの間涼しい風にあたっていた。
 きっとこの場所にはまた、多くの人々が訪れることになるだろう。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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