ヴェンジフルビーンズ
●ヴェンジフルビーンズ
それを最初に見つけたのは誰だっただろうか。両手で包んでややはみ出る程度の黄色っぽい塊が、ピタリと空中に固まっていた。
その近くを通る人はしげしげとそれを眺め、それがやがて無数の炒り豆の集合体だと気付く。そしてたまに落花生が混じっている事にも。
「ん……?」
そしてまた一人、眼鏡をかけたスーツ姿の男性がそれを覗き込む。周囲は何の変哲もない路地であり、道や壁に小さい謎の穴が空いている以外は何もない。いったいこれは何だと観察をし始めた。
―――その次の瞬間、乾いた音と共に男の胸から上が消し飛ぶ。
スーツを赤く染めて倒れ伏す元男性。そして暫くすると元の位置に無数の豆が戻っていく。男性の体の中に豆が残ってしまったのか、ズルズルと引き摺られている。
やがてある程度集まった豆は、男性の体の残りへと何度も何度も何度も何度も撃ち出される。その度に男性の体はバラバラになり、やがて僅かな肉片が残るだけとなった。
そしてまた、路地に誰かが現れる。
●vengeful beans
「……豆、です。そう言えばもうすぐ節分ですね」
久方真由美(nCL2000003)は言い辛い事があったかのように話題を逸らした。事実言い辛いのだろう。豆は植物である以上自然系の妖と考えるのが妥当であるが、果たして炒り豆はそれに当てはまるのかという疑問もある。
とは言え、どんな姿でも妖として脅威に認定されたならばF.i.V.E.が動く理由としては充分である。特に今回は見た目から想像もつかない程に殺傷力の高い妖なのだから。
「確認された攻撃方法は散弾のように自らを撃ち出す事ですが、一方向か全方位かの違いがあるようです。射程が短いようですが威力は相応にあると思われるので、前衛の方は充分に注意して下さいね」
豆の集合体である以上、コミュニケーションを取るのは難しいが殺傷力の高さから何かしらの怨みが原因であると考えられる。
節分であるなら外へ追いやられた鬼の怨みか、それとも投げられた豆自身の怨みか……その辺りは定かではないが、人気のある所ならどれだけの被害が出ていたか。ぞっとする話である。
それを最初に見つけたのは誰だっただろうか。両手で包んでややはみ出る程度の黄色っぽい塊が、ピタリと空中に固まっていた。
その近くを通る人はしげしげとそれを眺め、それがやがて無数の炒り豆の集合体だと気付く。そしてたまに落花生が混じっている事にも。
「ん……?」
そしてまた一人、眼鏡をかけたスーツ姿の男性がそれを覗き込む。周囲は何の変哲もない路地であり、道や壁に小さい謎の穴が空いている以外は何もない。いったいこれは何だと観察をし始めた。
―――その次の瞬間、乾いた音と共に男の胸から上が消し飛ぶ。
スーツを赤く染めて倒れ伏す元男性。そして暫くすると元の位置に無数の豆が戻っていく。男性の体の中に豆が残ってしまったのか、ズルズルと引き摺られている。
やがてある程度集まった豆は、男性の体の残りへと何度も何度も何度も何度も撃ち出される。その度に男性の体はバラバラになり、やがて僅かな肉片が残るだけとなった。
そしてまた、路地に誰かが現れる。
●vengeful beans
「……豆、です。そう言えばもうすぐ節分ですね」
久方真由美(nCL2000003)は言い辛い事があったかのように話題を逸らした。事実言い辛いのだろう。豆は植物である以上自然系の妖と考えるのが妥当であるが、果たして炒り豆はそれに当てはまるのかという疑問もある。
とは言え、どんな姿でも妖として脅威に認定されたならばF.i.V.E.が動く理由としては充分である。特に今回は見た目から想像もつかない程に殺傷力の高い妖なのだから。
「確認された攻撃方法は散弾のように自らを撃ち出す事ですが、一方向か全方位かの違いがあるようです。射程が短いようですが威力は相応にあると思われるので、前衛の方は充分に注意して下さいね」
豆の集合体である以上、コミュニケーションを取るのは難しいが殺傷力の高さから何かしらの怨みが原因であると考えられる。
節分であるなら外へ追いやられた鬼の怨みか、それとも投げられた豆自身の怨みか……その辺りは定かではないが、人気のある所ならどれだけの被害が出ていたか。ぞっとする話である。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.怨みの豆を倒せ
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
・昼間の人気のない路地、怨みの豆の周囲の地面や壁には無数の小さい穴が空いていますが戦闘には支障ありません。人や車通りは少ないですがゼロという訳でもありません。
●目標
怨みの豆:妖・自然系・ランク2:怨みの念によって動き出した豆。外へ追いやられた鬼の怨みか、投げられ続けた豆自身の怨みなのかは解らない。豆なので自然系だが既に炒られている。たまに落花生も混じっている。
・ショットガンビーンズ:A物近単:無数の豆が散弾のように一斉に一方へ発射される。場合によってはコンクリートに穴が開く威力が出る。
・レディエイションビーンズ:A物近列:無数の豆が全方位にばら撒かれる。ショットガンビーンズよりは威力が落ちる。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2016年02月01日
2016年02月01日
■メイン参加者 6人■

●
人気のない、車がすれ違う事も難しそうな幅の路地。そこにポツリと黄色い塊が浮いていた。怨みの豆―――昨今では妖自体は珍しくないが、炒り豆がそうなったのはあまり見られない形である。
と、少し前から人の気配の減った路地に何者かが現れる。
「ピーナッツで豆撒きするのって千葉県辺りだろう、特産品だし。よくは知らないが災いを鬼に見立てて、礫の代わりに豆ぶつける行事って聞いたさね」
ポツリと口にしたのはフルフェイスヘルメットを被ったスーツ姿の男性、緒形 逝(CL2000156)であった。その手には禍々しい雰囲気を放つ直刀が握られている。
「うう……考えてたらおなかすいてきました。これは早く退治して供養の意味も込めて食べてあげるべきでしょう。いやそうしなければいけないのです」
その隣で話を聞いていた少年のような少女、獅子神・玲(CL2001261)がお腹を押さえる。どうやら空腹を訴えているようだ。
現れた六人は怨みの豆へ向かっていたが、玲の他に二人がある程度の位置で立ち止まり、逝の他に二人が更に歩みを続ける。
その歩みを続ける一人、岩倉・盾護(CL2000549)が巨大な盾を自身の守護使役から渡して貰っていた。
「食べ物の恨み、怖い。これ、常識」
「色々なものに、色々な心があって、色々な気持ちがある。そう考えるとちょっと楽しいような、怖いような気がするです」
現れた六人の中でも一際小柄な離宮院・さよ(CL2000870)が術符を取り出して構える。ついた位置は玲と同列。後衛のようだ。
「豆だけにマメに攻撃しねぇとだな……うん、いや、聞かなかったことにしてくれよ」
人払いの結界を設置した奥州 一悟(CL2000076)が零した言葉は自分自身で振り払うように前へ歩み出ていた。
こんな事は言っているが、事前に関係各所に連絡してこの路地自体を通行止めにする等サポートに尽力している少年だ。
「へぇ、最近の豆ってのは人を襲うのかい。物騒なこった。食物の逆襲! ってか? ……B級映画のキャッチコピーみてぇだな。タイトルはそうだな、『Vengeful Beans』でどうだい?」
最後に藤倉 隆明(CL2001245)が愛用の機関銃を取り出し、リアクションの無い怨みの豆との戦端が静かに開かれるのであった。
●
「日本って食べ物に限らず物を大事にする割りに、こう言う所じゃ容赦無く投げるのが不思議なんだよなあ」
人に聞かれればソ連人と答える逝らしい日本人への疑問を浮かべつつ、逝はいち早く土行壱式「蔵王」で身の守りを固める。
「豆、早い……」
直後、展開直後で反応しきれなかった盾護へ怨みの豆が突撃した。装備の重さもあり、怯んだ所へもう一撃食らってしまう。
「一体なんの怨みがあって化けたんだ。解決してやれるか分らねえけど、教えてくれりゃ努力はするぜ」
「豆、沢山、ピンポイント、相性悪い。盾、攻撃、面重視、相性良い?」
予想外の素早さを持っている怨みの豆へ一悟が声をかけ、既に攻撃を喰らってしまった盾護も身の守りを固めながら蔵王を発動させた。
「心があるのが人間だけ……というのは人間の勝手な思い込みなのかもしれません」
声をかけられた怨みの豆に変化はないが、こうして妖として現れている以上は原因があるとさよが考察しながら水行壱式「水衣」で自身の防御力を高める。
「豆の妖……食べたら美味しいのでしょうか?」
そのさよから見て隆明を挟んだ向こう側の玲が癒しの滴で盾護の傷を癒す。サポート担当二人、火力担当一人と充実の後衛である。
「楽しい撃ち合いの時間だ、向こうが鉛弾じゃねぇってのが絵面的に間抜けだがしょうがねぇ」
そして二人に挟まれた隆明も万が一を考え、蔵王を使い自身の防御力を上げた。小脇に抱えた機関銃も電源が入り、回転式のバレルが唸りを上げる。
「文字、作れんだろ? 絵文字ならぬ豆文字だ。やってみろよ」
怨みの豆に対して守りを固めつつ、一悟は声をかけ続ける。声帯を持たないならば成程有効なコミュニケーション手段だが、怨みの豆が声に反応する事はなかった。変わらず一塊のまま浮かんでいる。
「水衣で支援します!」
自身の防御力を引き上げたさよは次に前衛の防御力を上昇させる。最初は防御に徹する一悟だった。
「ショットガンは近い程威力が上がるからな、接近し過ぎないようにしようか」
続いて逝が今度は機化硬で身の守りを固め、平常時でも高い防御力が更に上がる。怨みの豆の攻撃力を相応に警戒しているという事か。
「おっと……まあ、避けられるならそれに越した事は無いかな」
そしてその逝へ向けて一斉に放たれた豆を軽く屈んで躱す。横を通り過ぎた豆もある程度進んだ所でピタリと止まり、また元の位置へと戻っていった。
「さて、この豆の妖…どうして妖化したのでしょうか? どうせ最終的には食べるとはいえ、その理由を知っておくことは必要だと思うのです、供養的な意味で」
「玲、豆、食べる? ……この豆、食べられる?」
玲が再び盾護へ癒しの滴を使い、負傷を完全に回復させる。それに合わせて盾護が怨みの豆へとラージシールドで殴り掛かるが、それは直前で飛散した事で躱されてしまう。
「Let’s Rock! ベイビー! イィィィヤッハァァアアアア!!」
その飛散した怨みの豆が再集結したのと同時、超直観でタイミングを掴んだ隆明の機関銃が火を噴いた。豆の塊に鉛弾が叩き込まれ、幾度となく跳ね回った弾丸は豆の塊の至る所から飛び出していく。
群体故の怪奇現象と見るべきか、無数に飛散した弾丸は元々穴だらけだった壁や地面に新たな弾痕を描いていった。
「この悪食に喰い散らされてしまうがいい、須く平等に喰らうからな」
衝撃に揺れている怨みの豆へ逝の地烈が奔る。が、無軌道に揺れていたのが功を奏したのかその一閃目は空を切ってしまう。
斬り返した二撃目こそ綺麗に切れたものの、逝はフルフェイスヘルメットの下で僅かに口元を歪めるのであった。そしてそこに怨みの豆が襲い掛かる。
「あたっ……食べ物の恨みは世界共通で怖いね」
「豆は貴重なタンパク源、大切な栄養源なのです。捨てるの駄目、絶対」
食べる事に並々ならぬ情熱を持つ玲らしい言葉と共に逝の体力が癒しの滴によって回復する。とは言え本気で妖化した豆を食べるつもりなのだろうか?
「しかしコレは豆自体じゃなくて、豆を投げつけたかったけど投げられなかったヤツの念が妖になったとかなのか?」
前衛にて防御を続ける一悟が首を傾げる。自然系であるならば豆そのものの妖と考えるのが順当ではあるが、果たして炒られた豆はそれに当てはまるのかという疑問であった。
「ちぃっとばかし早い節分かね? どんな怨みがあるのかはしらねぇが、化けて出るんならもうちょい後だとベストだったんじゃねぇか?」
一悟につられたのか隆明もまた思考しながら攻撃を繰り出す。が、それが隙となったのか怨みの豆は飛散して密度を下げる事で攻撃を躱してしまった。
「バラバラになって避ける事もできるんですか!?」
送受心・改によって情報の共有をしていたさよが驚きの声を上げる。とは言え驚きつつも盾護へと水衣をかける事は忘れなかったようだ。
「自然系、術式、有効。盾護、術式、苦手じゃない」
支援を受けた盾護はラージシールドの先端を地面に突き刺して土行壱式「隆槍」を放つ。しかし、見た目からは想像もつかない程軽やかに怨みの豆は突き出た槍を避けてしまうのだった。
「前衛、倒れる、中衛後衛、危ない。盾護、頑張って耐える」
「おっと……何の恨みだか知らんが、主体性を持ったのは駄目だったな」
「へへっ、悪いが効かねえな。その程度かよ」
怨みの豆は集中した方向に飛散するのを止め、広範囲に撒き散らすように散らばる。が、完全に防御を固めた前衛には当たりこそしたがほぼノーダメージで防ぎ切られてしまっていた。
「いただき……ますっ!」
フラフラと元の地点へ戻った怨みの豆へ、謎の掛け声と共に玲のブロウオブトゥルースが放たれる。しかし、集結が想像以上に遅かったのか怨みの豆は集まりきらずに波動弾を凌いでしまった。
「この辺で何か事件か事故でもあったのか……?」
表情も仕草も見えないのに感情を覗かせる怨みの豆をじっくりと観察しながら、一悟は防御を固め続ける。
「豆の塊っぽい形だが小さなサイズにバラけようと殺る事は変わらんよ。十把一絡げで挽き割りか粉にしてやろう」
一方で逝は妖刀を振るう。地を這っていた切っ先が瞬時に跳ねて豆の塊を両断。返す刃は衝撃でバラけてしまったせいか手応えが無いが、もう二回振られた悪食はその内一回に確かな重さを感じていた。
「これで最後……水衣っ!」
さよがその身を盾とする肉体自慢三人、即ち前衛への支援を終える。蔵王の土と水衣の水を被った三人は薄らと泥に汚れていたが、それが逆に肌に光沢を与えているようにも見えた。
「攻撃、当てる、難しい。でも、頑張る」
盾護は先とは逆のラージシールドの先端を僅かに崩れたアスファルトへ突き刺す。その勢いが伝播して怨みの豆の真下から隆槍が飛び出るも、二回目の攻撃も躱されてしまった。
「ま、とりあえずはよく観察だ。ホットになっても頭の一部は常にクールにしてねぇとなァ」
意外なほどに機敏な怨みの豆を前にして冷静さが戻って来たのか、落ち着いた口調になった隆明が的確に攻撃を命中させる。
顔も手足も無いのでイマイチ解り辛いが、どうやら良い箇所に当たったらしい。怨みの豆の動きがやや鈍くなったように見える。
「初歩的な憑き物にも見えるし……それより何よりも、豆撒きはまだ先だ。フライングし過ぎだろう」
そこに二筋の軌跡が走る。地烈による二連撃が「×」を描くように怨みの豆を両断していた。
「こいつらは既にフライされてるが生ものが1つも無いのは、それはそれで不思議さね」
逝はフライングとフライをかけた諧謔を弄しながらも、視線は油断を見せずに怨みの豆を睨み続ける。
「隆槍、今度こそ、当てる」
盾護が今度は両手にそれぞれ持ったラージシールドの先端を両方地面に刺す。そこから一拍置いて地面が隆起するも、重装甲故の速度の低下か攻撃が当たる事は無かった。
「狙い撃ちますっ!」
一通りの支援を終えたさよは剣指の先を怨みの豆へ向ける。そこから放たれたのは圧縮空気砲ことエアブリットだったが、盾護の隆槍を回避した勢いでそれも躱されてしまった。
「ま、とりあえず鬼は外、福は内ってなァ」
続いて隆明が機関銃のトリガーを引く。飛散せずに全体が動いて回避した怨みの豆へ無数の凶弾が飛び、その身を削り取っていった。
「水行壱式『癒しの滴』!」
玲が地烈により消耗した逝の体力を回復させる。まだまだ体力には余裕があるが念には念を入れるという事なのだろう。
「畳みかけます! 皆さん、一斉攻撃を!」
「ハッハァ! 全弾持ってけぇ!」
「狙って、狙って、狙って。今!」
「待ってましたぁ!」
「水礫! いっけぇ!」
「まあ大人しく悪食のおやつになってもらおう。拒否はさせんぞ」
好機と見たさよが送受心・改で位置とタイミングを伝えて一斉攻撃に移る。そして自身も高威力のエアブリットを怨みの豆へと撃ち込んだ。
隆明の機関銃が砲身が赤熱するほど銃弾を吐き出し続け、盾護の渾身の隆槍が遂に怨みの豆を上空へ打ち上げた。
今までずっと守りに徹していた一悟の五織の彩による追撃が決まり、玲の水礫は残念ながら外してしまう。
そしてトドメとばかりに直刀・悪食から発する瘴気で作られた念弾が怨みの豆に直撃。上空で遂に力尽きた怨みの豆は、そのまま花火のように散ってしまうのだった。
●
「わわっ、バラバラになっちゃいました。えと、いただきますっ」
重力に引かれて落ちてくる豆のシャワーに手を合わせ、玲は飛びつくように食べ始める。とは言えそれもすぐに終わり、そのままの勢いで地面に落ちた豆も拾って食べ始めていた。
「流石に地面に落ちたのは汚いから食べない方が良いよ……って、遅かったか」
「妖になった豆って食べても大丈夫なんでしょうか……喜んでは貰えると思いますけど」
逝が流石に止めようとするが、玲は気にせず食べ続ける。さよもこれには苦笑し、後でキチンと売られている豆を食べないかと提案するのだった。
「それにしても、何が原因で出てきた妖だったんだろうな? 節分って言うには少し早い気がするけどな」
「怨みの残りそうな事件とか、この辺で起きてなかったか調べてみるか。必要なら供養もしないとな」
一方で未だ熱を持つ機関銃のチェックをしながら言った隆明の言葉に、一悟が妖の発生原因として多い理由を口にする。
「きっと、食べ物の怨み。一番、怖い」
それに盾護が簡潔な答えを出した。簡潔過ぎる気がしないでもないが、案外そういう所に正解が眠っているものである。
人気のない、車がすれ違う事も難しそうな幅の路地。そこにポツリと黄色い塊が浮いていた。怨みの豆―――昨今では妖自体は珍しくないが、炒り豆がそうなったのはあまり見られない形である。
と、少し前から人の気配の減った路地に何者かが現れる。
「ピーナッツで豆撒きするのって千葉県辺りだろう、特産品だし。よくは知らないが災いを鬼に見立てて、礫の代わりに豆ぶつける行事って聞いたさね」
ポツリと口にしたのはフルフェイスヘルメットを被ったスーツ姿の男性、緒形 逝(CL2000156)であった。その手には禍々しい雰囲気を放つ直刀が握られている。
「うう……考えてたらおなかすいてきました。これは早く退治して供養の意味も込めて食べてあげるべきでしょう。いやそうしなければいけないのです」
その隣で話を聞いていた少年のような少女、獅子神・玲(CL2001261)がお腹を押さえる。どうやら空腹を訴えているようだ。
現れた六人は怨みの豆へ向かっていたが、玲の他に二人がある程度の位置で立ち止まり、逝の他に二人が更に歩みを続ける。
その歩みを続ける一人、岩倉・盾護(CL2000549)が巨大な盾を自身の守護使役から渡して貰っていた。
「食べ物の恨み、怖い。これ、常識」
「色々なものに、色々な心があって、色々な気持ちがある。そう考えるとちょっと楽しいような、怖いような気がするです」
現れた六人の中でも一際小柄な離宮院・さよ(CL2000870)が術符を取り出して構える。ついた位置は玲と同列。後衛のようだ。
「豆だけにマメに攻撃しねぇとだな……うん、いや、聞かなかったことにしてくれよ」
人払いの結界を設置した奥州 一悟(CL2000076)が零した言葉は自分自身で振り払うように前へ歩み出ていた。
こんな事は言っているが、事前に関係各所に連絡してこの路地自体を通行止めにする等サポートに尽力している少年だ。
「へぇ、最近の豆ってのは人を襲うのかい。物騒なこった。食物の逆襲! ってか? ……B級映画のキャッチコピーみてぇだな。タイトルはそうだな、『Vengeful Beans』でどうだい?」
最後に藤倉 隆明(CL2001245)が愛用の機関銃を取り出し、リアクションの無い怨みの豆との戦端が静かに開かれるのであった。
●
「日本って食べ物に限らず物を大事にする割りに、こう言う所じゃ容赦無く投げるのが不思議なんだよなあ」
人に聞かれればソ連人と答える逝らしい日本人への疑問を浮かべつつ、逝はいち早く土行壱式「蔵王」で身の守りを固める。
「豆、早い……」
直後、展開直後で反応しきれなかった盾護へ怨みの豆が突撃した。装備の重さもあり、怯んだ所へもう一撃食らってしまう。
「一体なんの怨みがあって化けたんだ。解決してやれるか分らねえけど、教えてくれりゃ努力はするぜ」
「豆、沢山、ピンポイント、相性悪い。盾、攻撃、面重視、相性良い?」
予想外の素早さを持っている怨みの豆へ一悟が声をかけ、既に攻撃を喰らってしまった盾護も身の守りを固めながら蔵王を発動させた。
「心があるのが人間だけ……というのは人間の勝手な思い込みなのかもしれません」
声をかけられた怨みの豆に変化はないが、こうして妖として現れている以上は原因があるとさよが考察しながら水行壱式「水衣」で自身の防御力を高める。
「豆の妖……食べたら美味しいのでしょうか?」
そのさよから見て隆明を挟んだ向こう側の玲が癒しの滴で盾護の傷を癒す。サポート担当二人、火力担当一人と充実の後衛である。
「楽しい撃ち合いの時間だ、向こうが鉛弾じゃねぇってのが絵面的に間抜けだがしょうがねぇ」
そして二人に挟まれた隆明も万が一を考え、蔵王を使い自身の防御力を上げた。小脇に抱えた機関銃も電源が入り、回転式のバレルが唸りを上げる。
「文字、作れんだろ? 絵文字ならぬ豆文字だ。やってみろよ」
怨みの豆に対して守りを固めつつ、一悟は声をかけ続ける。声帯を持たないならば成程有効なコミュニケーション手段だが、怨みの豆が声に反応する事はなかった。変わらず一塊のまま浮かんでいる。
「水衣で支援します!」
自身の防御力を引き上げたさよは次に前衛の防御力を上昇させる。最初は防御に徹する一悟だった。
「ショットガンは近い程威力が上がるからな、接近し過ぎないようにしようか」
続いて逝が今度は機化硬で身の守りを固め、平常時でも高い防御力が更に上がる。怨みの豆の攻撃力を相応に警戒しているという事か。
「おっと……まあ、避けられるならそれに越した事は無いかな」
そしてその逝へ向けて一斉に放たれた豆を軽く屈んで躱す。横を通り過ぎた豆もある程度進んだ所でピタリと止まり、また元の位置へと戻っていった。
「さて、この豆の妖…どうして妖化したのでしょうか? どうせ最終的には食べるとはいえ、その理由を知っておくことは必要だと思うのです、供養的な意味で」
「玲、豆、食べる? ……この豆、食べられる?」
玲が再び盾護へ癒しの滴を使い、負傷を完全に回復させる。それに合わせて盾護が怨みの豆へとラージシールドで殴り掛かるが、それは直前で飛散した事で躱されてしまう。
「Let’s Rock! ベイビー! イィィィヤッハァァアアアア!!」
その飛散した怨みの豆が再集結したのと同時、超直観でタイミングを掴んだ隆明の機関銃が火を噴いた。豆の塊に鉛弾が叩き込まれ、幾度となく跳ね回った弾丸は豆の塊の至る所から飛び出していく。
群体故の怪奇現象と見るべきか、無数に飛散した弾丸は元々穴だらけだった壁や地面に新たな弾痕を描いていった。
「この悪食に喰い散らされてしまうがいい、須く平等に喰らうからな」
衝撃に揺れている怨みの豆へ逝の地烈が奔る。が、無軌道に揺れていたのが功を奏したのかその一閃目は空を切ってしまう。
斬り返した二撃目こそ綺麗に切れたものの、逝はフルフェイスヘルメットの下で僅かに口元を歪めるのであった。そしてそこに怨みの豆が襲い掛かる。
「あたっ……食べ物の恨みは世界共通で怖いね」
「豆は貴重なタンパク源、大切な栄養源なのです。捨てるの駄目、絶対」
食べる事に並々ならぬ情熱を持つ玲らしい言葉と共に逝の体力が癒しの滴によって回復する。とは言え本気で妖化した豆を食べるつもりなのだろうか?
「しかしコレは豆自体じゃなくて、豆を投げつけたかったけど投げられなかったヤツの念が妖になったとかなのか?」
前衛にて防御を続ける一悟が首を傾げる。自然系であるならば豆そのものの妖と考えるのが順当ではあるが、果たして炒られた豆はそれに当てはまるのかという疑問であった。
「ちぃっとばかし早い節分かね? どんな怨みがあるのかはしらねぇが、化けて出るんならもうちょい後だとベストだったんじゃねぇか?」
一悟につられたのか隆明もまた思考しながら攻撃を繰り出す。が、それが隙となったのか怨みの豆は飛散して密度を下げる事で攻撃を躱してしまった。
「バラバラになって避ける事もできるんですか!?」
送受心・改によって情報の共有をしていたさよが驚きの声を上げる。とは言え驚きつつも盾護へと水衣をかける事は忘れなかったようだ。
「自然系、術式、有効。盾護、術式、苦手じゃない」
支援を受けた盾護はラージシールドの先端を地面に突き刺して土行壱式「隆槍」を放つ。しかし、見た目からは想像もつかない程軽やかに怨みの豆は突き出た槍を避けてしまうのだった。
「前衛、倒れる、中衛後衛、危ない。盾護、頑張って耐える」
「おっと……何の恨みだか知らんが、主体性を持ったのは駄目だったな」
「へへっ、悪いが効かねえな。その程度かよ」
怨みの豆は集中した方向に飛散するのを止め、広範囲に撒き散らすように散らばる。が、完全に防御を固めた前衛には当たりこそしたがほぼノーダメージで防ぎ切られてしまっていた。
「いただき……ますっ!」
フラフラと元の地点へ戻った怨みの豆へ、謎の掛け声と共に玲のブロウオブトゥルースが放たれる。しかし、集結が想像以上に遅かったのか怨みの豆は集まりきらずに波動弾を凌いでしまった。
「この辺で何か事件か事故でもあったのか……?」
表情も仕草も見えないのに感情を覗かせる怨みの豆をじっくりと観察しながら、一悟は防御を固め続ける。
「豆の塊っぽい形だが小さなサイズにバラけようと殺る事は変わらんよ。十把一絡げで挽き割りか粉にしてやろう」
一方で逝は妖刀を振るう。地を這っていた切っ先が瞬時に跳ねて豆の塊を両断。返す刃は衝撃でバラけてしまったせいか手応えが無いが、もう二回振られた悪食はその内一回に確かな重さを感じていた。
「これで最後……水衣っ!」
さよがその身を盾とする肉体自慢三人、即ち前衛への支援を終える。蔵王の土と水衣の水を被った三人は薄らと泥に汚れていたが、それが逆に肌に光沢を与えているようにも見えた。
「攻撃、当てる、難しい。でも、頑張る」
盾護は先とは逆のラージシールドの先端を僅かに崩れたアスファルトへ突き刺す。その勢いが伝播して怨みの豆の真下から隆槍が飛び出るも、二回目の攻撃も躱されてしまった。
「ま、とりあえずはよく観察だ。ホットになっても頭の一部は常にクールにしてねぇとなァ」
意外なほどに機敏な怨みの豆を前にして冷静さが戻って来たのか、落ち着いた口調になった隆明が的確に攻撃を命中させる。
顔も手足も無いのでイマイチ解り辛いが、どうやら良い箇所に当たったらしい。怨みの豆の動きがやや鈍くなったように見える。
「初歩的な憑き物にも見えるし……それより何よりも、豆撒きはまだ先だ。フライングし過ぎだろう」
そこに二筋の軌跡が走る。地烈による二連撃が「×」を描くように怨みの豆を両断していた。
「こいつらは既にフライされてるが生ものが1つも無いのは、それはそれで不思議さね」
逝はフライングとフライをかけた諧謔を弄しながらも、視線は油断を見せずに怨みの豆を睨み続ける。
「隆槍、今度こそ、当てる」
盾護が今度は両手にそれぞれ持ったラージシールドの先端を両方地面に刺す。そこから一拍置いて地面が隆起するも、重装甲故の速度の低下か攻撃が当たる事は無かった。
「狙い撃ちますっ!」
一通りの支援を終えたさよは剣指の先を怨みの豆へ向ける。そこから放たれたのは圧縮空気砲ことエアブリットだったが、盾護の隆槍を回避した勢いでそれも躱されてしまった。
「ま、とりあえず鬼は外、福は内ってなァ」
続いて隆明が機関銃のトリガーを引く。飛散せずに全体が動いて回避した怨みの豆へ無数の凶弾が飛び、その身を削り取っていった。
「水行壱式『癒しの滴』!」
玲が地烈により消耗した逝の体力を回復させる。まだまだ体力には余裕があるが念には念を入れるという事なのだろう。
「畳みかけます! 皆さん、一斉攻撃を!」
「ハッハァ! 全弾持ってけぇ!」
「狙って、狙って、狙って。今!」
「待ってましたぁ!」
「水礫! いっけぇ!」
「まあ大人しく悪食のおやつになってもらおう。拒否はさせんぞ」
好機と見たさよが送受心・改で位置とタイミングを伝えて一斉攻撃に移る。そして自身も高威力のエアブリットを怨みの豆へと撃ち込んだ。
隆明の機関銃が砲身が赤熱するほど銃弾を吐き出し続け、盾護の渾身の隆槍が遂に怨みの豆を上空へ打ち上げた。
今までずっと守りに徹していた一悟の五織の彩による追撃が決まり、玲の水礫は残念ながら外してしまう。
そしてトドメとばかりに直刀・悪食から発する瘴気で作られた念弾が怨みの豆に直撃。上空で遂に力尽きた怨みの豆は、そのまま花火のように散ってしまうのだった。
●
「わわっ、バラバラになっちゃいました。えと、いただきますっ」
重力に引かれて落ちてくる豆のシャワーに手を合わせ、玲は飛びつくように食べ始める。とは言えそれもすぐに終わり、そのままの勢いで地面に落ちた豆も拾って食べ始めていた。
「流石に地面に落ちたのは汚いから食べない方が良いよ……って、遅かったか」
「妖になった豆って食べても大丈夫なんでしょうか……喜んでは貰えると思いますけど」
逝が流石に止めようとするが、玲は気にせず食べ続ける。さよもこれには苦笑し、後でキチンと売られている豆を食べないかと提案するのだった。
「それにしても、何が原因で出てきた妖だったんだろうな? 節分って言うには少し早い気がするけどな」
「怨みの残りそうな事件とか、この辺で起きてなかったか調べてみるか。必要なら供養もしないとな」
一方で未だ熱を持つ機関銃のチェックをしながら言った隆明の言葉に、一悟が妖の発生原因として多い理由を口にする。
「きっと、食べ物の怨み。一番、怖い」
それに盾護が簡潔な答えを出した。簡潔過ぎる気がしないでもないが、案外そういう所に正解が眠っているものである。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『豆』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
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