<漆黒の一月>鼓 動
<漆黒の一月>鼓 動



 それはある、一人の少女をきっかけに始まった。

 禍時の百鬼とは、七星剣の一派である。
 首魁に逢魔ヶ時紫雨という人物を置き、彼を護り護られる寄り集まった集団。
 その、一人の少女がある日失踪した。
 禍時の百鬼はこれを捜索し、とある人物へと辿り着く。

 『東小路・財前(あずまこうじ・ざいぜん)』。

 彼は日本の大企業の大幹部である。他に、日本で妖被害にあった人達の救済を行っていたり、慈善活動が多く見受けられ、支持が高い人物。
 妻子持ちではあるものの、時折、女性とのスキャンダルで報道されるときもあるが、それを退ける程、彼の慈善は高く評価されていた。
 スポーツ界、芸能界、政界、企業までに圧倒的権威を誇る彼。
 だが、彼に無いものとは。
 単純な力だ。
 彼も一般人のカデコリである身の上、妖や能力者は脅威の対象。
 故に、こう思った。
「七星剣させ手に入れてしまえば、俺に怖いものはない。ヒョーヒョッヒョッヒョッヒョ!!」
 そうだ、金で雇った馬鹿な能力者が『禍時の百鬼』の一人を手に入れて来たらしい。
 まずは彼等七星剣の玄関口を探すべきだ。
 例え、どういう方法を使っても。


 少女は、逢魔ヶ時紫雨の下へ帰ってきた。
 それは、紫雨が財前の情報を掴んだのと、ほぼ同時。
 どうやら日本に蔓延る百鬼の情報網も虚しく、少女は好き勝手されてしまったようだ。
 少女は紫雨の足下で泣きながら、
『財前が、七星剣を探ろうとしている』
 と訴えていた。何をされても決して七星剣の情報を吐かなかった彼女は、実に優秀ではあったが。そうじゃない。
「東小路……?
 あー……どこかで聞いた名前!! 忘れたのは、どうでもいいからだと思うケド。
 だが財前の方じゃねーんだ。もっと、俺よりもクソの塊みてぇな奴がいたはずだ……。けどけどそうじゃなーーーくて!!」
 それよりも、紫雨が遥かに許せない事が起きていた。
「俺の……俺様の……百鬼に」
 震える両拳の爪が、皮膚を抉り血を流す。

「俺様の百鬼に、手ぇぇぇ出しやがってええええええええええええええ!!!」

 彼は、紫雨は、自分の所有物が傷つく、壊れる、欠損するのを嫌う独占欲の塊である。
 たった一人の少女でも。紫雨のものは紫雨のもの。
 紫雨の、逆鱗に触れた東小路・財前へ。
 復讐劇が始まった。


 今日は楽しい楽しい一日!

 とある企業の新製品お披露目会! 子供も大人もこぞって、来てね。
 だから人はいっぱいで、その中央舞台で東小路・財前は手を振って笑っていた。子供たちの英雄みたいで、小さい子達は御菓子食べながらキャッキャッキャ!
 けれど、あれあれ。
 おかしいな。
 異物が混ざったよ、大変だ。
「東小路財前に、逢魔ヶ時は訪れたのですぅ! 紫雨様、直属の部下……風魔凛!! 只今見参!!」
 忍者服の少女が一人、そう言った。
「好き勝手やんな、財前に到達した奴が優勝だよ、いいね?」
 スタイリッシュなスーツ姿の女性が、そう言った。
 瞬間、イベント会場を囲う様に一斉に何かが始まる。わー! とか、きゃー! とか、BGMが響いてゆく。世の中大変だよね、不在の紫雨は高らかに状況を楽しんでいるに違いない。
 財前は訳も分らず、全身から大量の汗を吹き出して。
「な、ななななんだあいつらは、お、おい!! お前等俺を守れ!! 金ならくれてやる!!」
 群衆から武器を持った誰かが、少女たちに襲い掛かっていく。
 そして最後に、青年は中指を立てた。
「禍時の百鬼、舐めんなよ。それよりも、七星剣を舐めんじゃねえぞ。
 アアァァァズマコォォオジイイイ、ザーーーーーーーイゼンクゥゥゥーン!!!」


「依頼だ! 宜しく頼むんだぜ。緊急だ!!」
 久方 相馬(nCL2000004)は資料を急ぎ足で配りつつ、説明を開始した。
「東小路財前。
 こいつは良い奴で有名だが、裏で何やってるかわかんねえとんでもないやつだ!
 こいつ、寄りによって七星剣に手を出して、返り討ちにされる。それは、莫大な被害が出るんだ。だからそれを止める!!」
 その日、とある企業のお披露目会が野外で行われている。新製品イベントで、多くの人々でごった返す場所だ。
「ここで、逢魔ヶ時紫雨の部下たち。禍時の百鬼と財前の部下が衝突する。百鬼も……こんな行動を起こす理由はあって……なんだけど、方法が荒々しすぎて困る。
 俺達、ファイヴはどっちの味方もしないけど、一般人の被害は抑え込まないといけないし、それに、財前は奴等に制裁を受けるんじゃなくて、ちゃんと司法で裁かれるべきだって、中恭介が言ってた! そっちは恭介がなんとかするみたいだから、俺達はまず、被害を止める事と、百鬼の復讐を止める事。それを、宜しく頼むよ!!」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:難
担当ST:工藤狂斎
■成功条件
1.一般人への被害を抑える
2.禍時の百鬼の突破阻止
3.なし
 連動依頼です。紫雨不在。

●状況
 東小路財前という大企業の重鎮が、力欲しさに七星剣の禍時の百鬼の少女に手を出した。自分のものを傷つけられるのが嫌いな禍時の百鬼を率いる逢魔ヶ時紫雨は、それにぶち切れる。彼は東小路財前へ復讐するべく、禍時の百鬼を仕向けた。

●敵情報

・禍時の百鬼×3人

・風魔・凛(暦×天行)
 忍者服姿の斧を持った少女。紫雨曰く全く忍ぶ気が無い忍者。
 3人の中では一番手練れです。前衛も後衛も熟し、ファイヴのPC平均レベルよりも高いです。

・春風・粋(獣憑×火行)
 猫の獣憑の、格闘家。どちらかというと特攻撃に長けています。
 だからといって物理攻撃に弱い訳でも無い模様。

・由谷・明楽(械×土行)
 腕がブレードになる青年。気性が荒く、無差別に攻撃します。


・東小路財前部下×4人
 金で雇われた隔者です。その為、チームワークはほぼありません

・グレネードランチャー持ちの現×土行
・マシンガン持ちの暦×木行
 上記の二人は確認されていますが、残り二人は未だ一般人に紛れており未確認。
 未確認の二人は能力値不明だが、上記二人と同じく範囲攻撃に長けた武装をしている。
 ファイヴと禍時の百鬼が一番来て欲しく無いタイミングで介入すると思われます。

 力量は、禍時の百鬼>財前部下。
 百鬼はファイヴを第3勢力として判断しますが、財前部下はファイヴと百鬼を見極める方法が無いので両方とも敵として攻撃してきます。
 百鬼は戦闘よりも、突破する事を目的に動いてきます。
 突破された場合、20m以上離れた瞬間依頼の失敗とします。

●その他
 時刻は昼。

 場所は、イベント会場手前の大通り。
 連動依頼がイベント会場へと繋がる道道で発生している為、逃げるに逃げられない人々でごった返しております。
 一般人は、騒ぎが起きたらそこから逃げようとはするでしょう。

 財前はイベント会場の舞台上で、まさか一般人を置いて逃げる事も出来ずに慌てております。
 彼まで到達するには一般人の壁を超えないといけない為、そのまま突き進めば時間がかかります。

 百鬼は一般人を殺してでも通ろうとする為、一般人の多いイベント会場内から少し離れた場所で突破を阻止する作戦となります。この大通りは比較的一般人が少ないですが、突破されると人ごみが邪魔で追う事が不可能となります。
 財前本人の近くで庇って戦闘は、そこまでに到達するまでに一般人の壁が厚く、到達するのに時間がかかり、その頃には百鬼と部下によって一般人に被害が出る為に不可能です

 介入するタイミングはお任せですが、PCが到着したときには百鬼が財前部下と鉢会う所となっております

●東小路・財前
 とある企業の重鎮。ここまでのし上がったのは、ワイロや金の力で裏から手を回してきた為。
 傍から見れば善人だが、裏では女癖悪く、自分がのし上がる為ならなんでもするし、してきた悪い奴。
 また、この情報は中恭介が掴んだものとする。

●注意
 『<漆黒の一月>』に参加するPCは、同じタグの依頼に重複して参加する事はできません。同時参加した場合は参加資格を剥奪し、LP返却は行われないので注意して下さい。

 それではご縁がございましたら、よろしくお願いします
状態
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
5日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年01月25日

■メイン参加者 8人■

『水の祝福』
神城 アニス(CL2000023)
『雷麒麟』
天明 両慈(CL2000603)
『F.i.V.E.の抹殺者』
春野 桜(CL2000257)
『想い重ねて』
蘇我島 燐花(CL2000695)


 ざあ、と舞い上がる砂煙。
 紙や木の葉やビニール袋さえ一緒に巻き上げる風は、お世辞にも美しいとは言えぬ。
 眼下で忙しく動く人々。朝の通勤ラッシュや、デパートのバーゲンセールのような楽しさは髪の毛程にも秘めてはいない。
 皆、予期せぬ客の不運な襲来により逃げ惑うただの子羊たちである。
 人間の波に逆らい立つのは、『水の祝福』神城 アニス(CL2000023)。彼女は後方を見やり、怒鳴っている東小路財前を瞳に映した。彼は、あの檀上で守られていい人物では無い。
 それは、重々分っているのだが。アニスは前方を見て、両腕を広げるのが仕事だ。
「お願いです! もうこんなことはやめてください!」
「紫雨様の命令が下ったですよぉ!」
 人ごみから飛び出した風魔・凛が、身の丈よりも巨大な斧を振りかぶり、アニスの直上に降り注ぐ。
 降下する彼女を野放しにすればアニスの脳天はスイカ割りされていただろうが、深緋・幽霊男(CL2001229)のジキルハイドが空中より出現し、それを横へスライドさせつつ凛の斧を弾き返す。
 回転しながら後退し、着地した凛だが前方を剥けば幽霊男の連撃攻撃が開始されている。
「キャハッ☆ 紫雨様に逆らうのなら、わかってんでしょーね!!」
「どうせやるなら一番強い奴が良い。まぁ、役得だ」

 赤子を抱えた女性が、騒ぎの中で行き場を失い右往左往していた。
 『イノセントドール』柳 燐花(CL2000695)は彼女をお姫様だっこの形で抱き上げてから、比較的人が少ない方へ走っていく。
「ここはこれから戦場になります。振り返らずに逃げてください」
「ありがとう。その……貴方は、逃げなくていいの?」
「ええ。この騒ぎを止めに来たので」
「そ、そう……? 気を付けてね、能力者さん」
 頷いた燐花。即座に女性を降ろしてから、彼女の後ろ姿を見送った。
 そして振り向く。そこには男が一人、くつくつと笑いながら立っていた。憎たらしい程に嫌味を感じる笑みだ、燐花の両拳は無意識に強く握られていく。
「人助けたぁ、余裕だな。涙ぐましいお話なことで」
「貴方の相手は私です。お相手願いましょう」
「それもそうしてぇ事だが、てめーらは『序』だ」
 男、由谷明楽は親指で横を指差す途端。その、横から弾ける音がしたかと思えば燐花たちの真隣が爆ぜ、黒煙が天へと上っていく。
「ヒャーハハハハ! やったか!!」
 財前部下だ。
「やってねーです、よく狙いなさいよグズ」
 春野 桜(CL2000257)は雇われ覚者の背後から忍び寄り、綿貫を逆手に持ち上から下へと振り落した。
「邪魔よ邪魔邪魔邪魔なのよ私の歩く道端に誰の許可を得て立っているのよ死になさいよ邪魔」
 何度も、何度も、執念深い嫉妬にも似た憎悪を秘める笑みを浮かべながら。
 男はすぐにミンチにはならぬ。相手も覚者、一定の防御の抵抗がある。けれど桜が男を攻撃するでは無く、それは襲っているという言葉に違い程に殺戮を極めていた。

「はあ、それで。アタシの相手は餓鬼って事になんの?」
 イラついた言動を隠さずに春風・粋は、『笑顔の約束』六道 瑠璃(CL2000092)の手前、構える。対して瑠璃はクレセントフェイトの刃を身体の後方へ隠し、あとは半月を描いて振り落すだけの状態で構えた。
「お前らをここから先には行かせない」
 瑠璃としては背後で怒鳴る男の存在など、生きようが死のうがどうでも良かった。だが、中恭介が法で裁けと言うのだから、仕方が無い。従うのだ、FiVEとして。
「はぁん? 知ってんだろ、あの男がどんなものか」
「好き嫌いは別だがな……東小路財前に死んでもらっちゃ困るって事だ」
「はーん、あの男がFiVE様的には必要ってこと?」
「違う!」
 瑠璃は振りかぶられた大鎌を解放する。瞳の中の、悲しみに満ちたような青色が、辿る軌跡に淡い光として残像を描いていく。
「それよりもだ……関係ない一般人を巻き込もうってのが気に食わない!」

「私は秋津洲財閥会長の孫です。こちらにいるのは仲間の方々。いのり達がきっとお守りしますから落ち着いて行動して下さい!」
 『誇り高き姫君』秋津洲 いのり(CL2000268)は称号に恥じぬ動きで、高らかに声を大とした。しかし、それが届くのはほんの僅かである。
 いのりが小さいから、という事では無いが。流動的に流れゆくパニックの渦で、少女一人の声を聞きとれるかと言えば難しかった。確かに威風により些細な人数は頷いてくれた模様ではあるのだが。
「ど、どうしたら」
 迷う暇は無い。
 いのりは覚醒し、冥王の杖を地面に突き刺した。狙うは百鬼、そして見えるだけの財前部下へ妨害の水蒸気を従わせる為。

 三島 椿(CL2000061)と天明 両慈(CL2000603)はほぼ同時に振り向いた。共に後衛という立ち位置に君臨していた二人だが、だからこそ感じるのが早かっただろう。
 マシンガンを持った暦の覚者が大笑しながら、銃弾を散発させていたのだ。もちろん、二人の背中に穴があいていく。
 一般人を含めた虐殺は、同じ意味として、一般人らしい覚者(FiVE)も同じく魔の手にかけるのだ。故に、二人は容赦ない一撃が着弾してしまう。
 既に仲間への付与により手番を追えていた両慈だが、くそったれと歯噛みしてから片腕に紫雷を従わせる。
 椿は頭を打ち抜かれて動かなくなった子供を抱えながら、謝罪の言葉をひとつぽつりと落した。どうして、救えないものか。周囲の水気に呼びかけて、生者の傷を癒せた所でも、この子は既に帰って来ない。
 哀色に染まる羽がひとつ、少年の胸に落ち、そしてまだ温かい液体で赤く染まった。


 燐花の苦無が明楽のブレードを捕える。至近で鍔迫り合いのように睨みあいながら、互いの言葉を混じらせる。
「仲間が害された、というのは怒る理由になりますが、一般人を巻き込むのは遠慮願いたいものです」
「ああ、俺達の戦う理由はそうかもしれねえが、俺は理由がありゃぁなんでもいい!」
 一層強い力で燐花が弾かれたとき、貫通の激動が明楽より放たれ一般人の列より一人が爆ぜて消える。
「おおーっと手が滑っちまった!」
「貴様……ッ!!」
 大笑する明楽の頬を、撓る鞭が風を切り裂きながら穿った。鞭は血に濡れ、主の元へ戻っていく中も周囲に彼等敵の血を振り撒いてゆく。
 ほのかに香る、季節外れの狂い咲桜が冷酷至極に微笑む。
「七星剣何て言ったところで下らない事してるのね。スマートに暗殺もできないの? さすがクズね、死んでよ私達の為に」
「ははは!! 正義を盾に殺すやつよりよっぽどてめぇは分かりやすくて面白い!!」

 タタタタタタと小刻みに轟音を響かせながら、財前部下のマシンガンは唸っていた。
「死ね! 死ね死ね死ね!!」
 最早巻き込みたいから一般人ごと巻き込んでいく、と言わんばかりの無差別さに両慈のあまり感情を出さない口元もひん曲がる。
「いい加減に……しろッ!!」
 右手に乗せた、静電気を大きく育て放つ。蛇か龍が如くに急角度で曲がりくねりながら、部下の立ち位置をなぞり行動を縛っていく。この行動が、後まで大きな役割を果たす。彼が部下を抑えることで、燐花は後衛のフォローに出向くことなく目の前の敵を集中して相手取る事が可能であった。
「あ……ぎ?」
「そこで暫く、そうしていろ!!」
 マシンガンの銃弾に倒れ伏した一般人。そこは正に戦場と呼ぶに相応しい背景を作り出していた。
 泣き喚く子供が動かない大人に重なり、歩むのが遅い老人は静かに地面に寝そべるばかり。恋人を抱きかかえる男に、血を流し続ける女。
 奥歯を噛みしめた両慈。何故罪も無き彼等がこのような仕打ちを受けねばならないのか。
「なんとか、なりそうか」
 アニスと椿は手を繋ぐ。
「「なんとか、してみます!!」」
 二人の立つ周囲から、瑠璃色の帯が舞っていく。繋いだ手には優しさを、繋がずに力を集中させる手には、悲しみを。せめても癒す優しさに変えて。仲間もそうなのだが、何より一般人を救う為。絞り出す精神からの力を、癒しの力に変え。どこか遠く、遥か遠くの近くの場所で、赤色の三白眼が二人を視界に移してから背を向けた。
 その時負傷せし一般人の合間から人間が飛び出し薙刀を守護使役より出現させ、そして振り上げた。狙いは後衛、列として一斉に巻き込むまでのタイミングで。
 いち早く気づいたのは椿と、両慈だ。だが二人の手番は回復と雷獣に終了を迎えていた。
「私が相手ですわ!!」
 いのりだ。
 力の止まらぬ薙刀はいのりの身体さえ容赦無く切刻んでいく。血が溢れ、痛みに脳が警告をあげ、そして魂が燃やされた。
 仲間を傷つけるのは許さない。そして、罪なき人々をも傷つけるのは更に許せない。両目の黄金は、光輝き止まらない。
 杖に衝撃を乗せて振り上げる。それだけで敵の身体は吹き飛び、それが百鬼の凛を貫いた。凛は驚きながらも、目の前の幽霊男の得物を足で受け止め、地面へ力を流す。
「思ったよりも有意義な時間になりそうですう!」
「ぶっちゃけもう帰りたいがの」
「凛は、貴方様のおめがねに叶わない相手ですぅ?」
「そういう事じゃあない」
 幽霊男を蹴り飛ばした凛は、成るべく死なないようにと首を横に振りながら斧を担ぎ上げ力任せに振り落したそれは、幽霊男の肩から腰にかけて一気に叩き切った。
 魂を燃やして立ち直る幽霊男。
「んで、お前さん。『剣』て何か知ってるか?」
「紫雨様の剣ですう? 紫雨様、剣ならいっぱいもってるですよぉ、血吸とか?」
「血吸?」
「現代にあてハメれば姿が見えない快刀ですぅ、しゅんしゅんって動くですぅ、まさにカマイタチ」
 凛が饒舌に語った時、粋の拳が凛を殴り飛ばした。
「オマエ何やってんの!」
「ハッ、喋り過ぎたですか! これじゃあ紫雨様のお近くにいる忍失格ですぅ!!」
 頭を抱えて唸る凛に、幽霊男はさり気なく飛燕を仕掛けていく。最中、瑠璃は粋の背中を追いかけて、大鎌を振り上げる。
「ええい、しつこいんだよアンタ!!」
「お前等さえ倒せば、この戦いは終わるんだ!」
 瑠璃の身体は未だ空中にありながらも刃は粋の身体を串刺した。刹那、衝撃波ひとつ、瑠璃と粋を巻き込んで現場が爆ぜた。
 高笑いしながら、群衆より男がどこから徴収したか知れないロケットランチャーを構えていた。
 この攻撃により、瑠璃は命を燃やしてしまうが、粋も一気にぼろぼろの姿になり、負傷した右腕を抑えていた。
「チッ、凛!」
「一人でも財前に行ければ、良いのですよねぇ」
 粋は瑠璃を炎の拳で吹き飛ばし、空中で回転しながら後方に着地した瑠璃。即座に前へと走る為、足に力を溜めながら大鎌を肩に担ぐ。
 されど壁の枚数は、それを助ける回復の枚数も、十分にFiVEの有利であった。粋は犬歯で口端をブチィと噛み切った。


 既に一般人は消え去り、最早覚者だけになった戦場。
 お互いに体力を擦り減らし、だがぶつかり合う。譲れないのだ、お互いに。この戦場に楽しんでいる者がいるとすれば桜と財前部下くらいであろうか。
「いつまで立っているつもりゴキブリよりもしぶとい設定はいらないのよ死になさいよ死ね死ね死ね!」
 投斧に毒を混ぜて、桜は明楽の首を狙う。血管から毒を侵入させ、激痛で縛るのだ。彼女の、桜の瞳は、狂気に濡れていた。最早それが、心地好いと思わせる程に。
「目がイっちゃってるぜ、このねーちゃん!!」
 瑠璃に追われる粋であるが、立ち位置は前衛距離。爆風を飛ばして桜の身体を後方に押しやれども、代わりに燐花が明楽を止める。
 拳を握り締める程に、燐花の心は凍り付いてしまう。トラウマというものにも似た、根強い闇が燐花を蝕んでいくのだ。かの祖父のせいか、強さだけを極めるうちに少女として大切な何かを失ってしまったか、思いやられるも今は想いふける時でも無い――かと結論つけて。
 そして、苦無を振るう。
 黒猫の苦無が明楽を狙い、そして桜の作った首の傷を更にこじ開けてゆく。そこで横やりを入れるのは財前部下だ、ここぞと撃たれた爆砲が燐花と明楽を巻き込んでいく。
 一歩の所で足を奮い立たせた燐花であるが、桜の毒が廻った明楽はそこで倒れゆく。
 そこでいのりは言葉を紡いだ。
「東小路様が何か紫雨の逆鱗に触れる事をしたのは解ります。でもいのりは私刑を認める事はできません。ましてや関係ない方々を巻き込む等! あの人は我々がきっと罪を償わせますからここは退いてくださいませ!」
「凛たちはー紫雨様がやれっていったらやらなあかんのですわー」
「例えそれが、仲間一人犠牲にしたとしてもね」
 凛は、幽霊男を捕える。斧が彼女の右肩を切り落とし、後衛のアニスがそれを修復する中。だがそこで幽霊男は前線を離脱した。
「凛に飽きちゃったかにゃ」
 やれやれと首を振る凛。だが彼女の目的は、明楽の護衛である。彼へのトドメを狙う部下の薙刀を止め、そして蹴って押す。
「やりすぎるなよ、血雨が降るかもしれんぞ」
 幽霊男は警告を落した。
 早速自分の発言の愚かさに気づいた凛が、どうしたものかと頭を抱えた。
「何故、敵を助けるのですぅ、理解にクルシミマスデス」
 首を振る凛は瑠璃を相手取る。瑠璃は大鎌を抱え、大斧を受け止めつつ。粋がおして出て来た所で、大斧を弾いて後退しながら粋の拳を空ぶらせる。
「言ったじゃん、あんたたちが帰れば終るって」
 瑠璃に続き、椿が言う。
「貴方たちがいなくなったら紫雨はとても悲しみ怒るわ。貴方たちにとって紫雨は特別なんでしょう。そんな人を悲しませて良いの?」
「むぅ」
「帰りなさい。紫雨のもとへ」
「いやですぅ!!」
 椿は物言わぬ少年を抱えていた。少なくとも、最少の犠牲は発生してしまっている。全部を救うのは今回としては厳しかったもの。
 凛はそこから目を逸らしながら、明楽から変わって抑えにきた燐花の苦無を突き刺されながら斧を振るう。燐花が、明楽よりも遥か威力の高い攻撃を身体で感じながら、構える。
「やる気ですか、それでもやるというのですか」
「はいですぅ!」
 アニスは続く。
「復讐は……貴方の心に暗い影を落とします。こんな事をしたら今度は紫雨様が狙われる……それはきっと紫雨様を困らせてしまいます。それに……自由を謳う隔者様であるのなら……こんな事はやめてください!!」
「聞けないね」
 粋は同じく燐花を狙った。二人の追撃に押されていく燐花の身体。だが奮い立たせた暴力は守る為のもの、言い聞かせた燐花だが次の凛の攻撃で意識は闇へと消えていく。
「貴様等も、貴様等だ!!」
 両慈は後方から狙って来る財前部下を止め続ける。だが彼の雷獣は今回の依頼としては欠かせないものであった。
 何より、財前部下だろうと野放しにするということは、無差別攻撃を黙認する事となってしまう。それを、麻痺という形で止めていた彼の役割は大きく貢献していた事だろう。
「ぎ、ぎ……!!」
 身体が痺れて動けぬ部下に、両慈は更に言葉を選ぶ。
「こんな騒ぎを起こせば俺達の様な敵を増やし、自分達の首を絞めるという単純な事が何故解らんと言うのだ……!」
 至近距離の椿も、麻痺で動けぬ財前部下に言った。
「貴方たちは命よりお金が大切なの? 折角もらったお金も使えないのでは、この仕事を受けた意味がないのではないかしら?」
 それでも戦いは続く。
 粋は瑠璃を抑え、そして凛が抜け出す。だが桜が待っていましたと言わんばかりに凛を止めるのだ。
「もういっそ死になさい」
「うふふ」
 桜の斧は地面を叩き割りながら凛の腕を傷つけた。対して凛は嗤いながら桜の肩を抉る。
 血で、血を洗い。お互い譲れぬ思いに分かりあえず。そして、少年は怒りをぶつけた。
「いい加減に……しろーーーッ!!!」
 咆哮に似た叫びと共に、瑠璃は大鎌を振り上げた。音の波動にびくりと震えた粋は一歩下がる。
 ましてや、今までも、戦線を引いた者に勝利は訪れぬ。言葉通りに、大鎌は粋の胸上部を狩りとるのだ。血飛沫が瑠璃の青色の髪を染め、粋が力無く倒れていくとき。
「ん? 知ってる臭いがするぞなもし」
 幽霊男の鼻がぴくりと揺れた。
 遥か遠くの民衆から回転しながら飛んできたのは、赤色の刀。それが百鬼とFiVEとの間に突き刺さり、蠢く鬼火が炎を噴き荒しながら壁を作った。
「まだ……まだっ、凛は、やれるですよぅ紫雨様ぁぁ!! くぅぅ!!」
 炎の中、凛の叫び声だけが木霊したが、鎮火した時に正面には明楽も、粋も、凛も、刀さえも消えていた――――。

 だが、終らない。

 麻痺を抜け出した薙刀が後衛を巻き込んで攻撃を開始した。
「な……戦いは、終ってるでしょ……」
 椿は胸から流れる血を抑えながら、言うのだが。気づく。彼等財前部下は未だ百鬼との区別がついていない。確かに財前部下を背にして戦っていたものの、例えばそれが敵を騙す作戦を取っていると勘違いしていたら? いや、もしかれすれば、彼等財前部下は理由など、どうでもいいのだ。ただ、目の前で息細く殺せそうな獲物がいるのなら、それでいいのだ。
「お前等、狂ってるな」
 両慈は獣のように鼻の上に皺を寄せながら犬歯を剥き出した。
「なら、殺しちゃいましょう」
 終始己のペースを突き通した桜は、投斧を振りながら言った。彼女にしてみれば、百鬼などウォーミングアップに過ぎないか。
「どうしても、退いて下さらないのですか。百鬼は、去りましたのに」
 ならばやるしか無い。非常に無駄な消化試合に、幽霊男は溜息を吐いたのであった

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
ここはミラーサイトです