ただ、それだけの理由で彼女は死にます
●コンテナ
金属の動く音が鳴り、光が差し込む。
縛られていた少女はまぶし気に光の方向を向くと人影が二つ、逆光で形づくられているのを確認できた。
「何もしてないか? 」
「はい、縛っておいてそのままです。ですが、隊員の士気や市民への影響を考えたら行ってもよかったのでは? 」
「それだと別の犯行に疑われる、彼女はただAAAの職員の家族というだけで死ぬという効果を狙いたい」
男達の言葉に少女はこれから起こることを想像し、逃げようと這いずり回る。
男の一人はその様子を見ながら拳銃を抜くと。
「そういう事だ、残念だったな」
告げて、引き金を絞った。
●誘拐
夢見の久方 相馬(nCL2000004)は何かをこらえたような表情で全員が集まるのを待っていた。そして集まったのを確認すると努めて冷静になろうと言葉を選んで、説明を始めた。
「ある少女、といっても高校生だが誘拐されて憤怒者の手によって殺される」
最初に述べたのは夢見の結果、そしてその詳細が続く。
「事件は学校が終わって帰り道に同級生と帰っているところを堂々と複数の男たちにバンに押し込められてさらわれるところから始まる。
それから数時間後、とある倉庫にて殺される。理由は家族がAAAの職員だから、ただそれだけだ」
相馬は会議室の机にマップを広げると、介入できるチャンスを話し始めた。
「みんなが介入できるのは倉庫に捕らえられたところから、殺されるまでの数時間。倉庫は荷物用の入り口とそれに併設する通用口、あとは非常口になっていて。中にはコンテナが6つ、3つずつ壁の左右に押し込められている」
マジックで倉庫の中を書き込んでいく。
「少女はコンテナのどこかにいて、そして監視その他で憤怒者が10名中に居る。全員がライフルと手榴弾で武装している。
戦闘が開始されたら8人が攻撃、1人が人質の確保、もう一人が退路の確保に動く。
それと、時間がかかったら敵の援軍が来るが正直彼らとやりあうのは勧められねえ。物量と対覚者用の武器で押し切りにかかる」
そこまで言ってから相馬は顔を上げて、皆を見る。
「人間相手は面倒だと思うが、こんな理由で彼女が死ぬのはつまんねえ、みんなよろしく頼む」
金属の動く音が鳴り、光が差し込む。
縛られていた少女はまぶし気に光の方向を向くと人影が二つ、逆光で形づくられているのを確認できた。
「何もしてないか? 」
「はい、縛っておいてそのままです。ですが、隊員の士気や市民への影響を考えたら行ってもよかったのでは? 」
「それだと別の犯行に疑われる、彼女はただAAAの職員の家族というだけで死ぬという効果を狙いたい」
男達の言葉に少女はこれから起こることを想像し、逃げようと這いずり回る。
男の一人はその様子を見ながら拳銃を抜くと。
「そういう事だ、残念だったな」
告げて、引き金を絞った。
●誘拐
夢見の久方 相馬(nCL2000004)は何かをこらえたような表情で全員が集まるのを待っていた。そして集まったのを確認すると努めて冷静になろうと言葉を選んで、説明を始めた。
「ある少女、といっても高校生だが誘拐されて憤怒者の手によって殺される」
最初に述べたのは夢見の結果、そしてその詳細が続く。
「事件は学校が終わって帰り道に同級生と帰っているところを堂々と複数の男たちにバンに押し込められてさらわれるところから始まる。
それから数時間後、とある倉庫にて殺される。理由は家族がAAAの職員だから、ただそれだけだ」
相馬は会議室の机にマップを広げると、介入できるチャンスを話し始めた。
「みんなが介入できるのは倉庫に捕らえられたところから、殺されるまでの数時間。倉庫は荷物用の入り口とそれに併設する通用口、あとは非常口になっていて。中にはコンテナが6つ、3つずつ壁の左右に押し込められている」
マジックで倉庫の中を書き込んでいく。
「少女はコンテナのどこかにいて、そして監視その他で憤怒者が10名中に居る。全員がライフルと手榴弾で武装している。
戦闘が開始されたら8人が攻撃、1人が人質の確保、もう一人が退路の確保に動く。
それと、時間がかかったら敵の援軍が来るが正直彼らとやりあうのは勧められねえ。物量と対覚者用の武器で押し切りにかかる」
そこまで言ってから相馬は顔を上げて、皆を見る。
「人間相手は面倒だと思うが、こんな理由で彼女が死ぬのはつまんねえ、みんなよろしく頼む」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.少女の保護
2.憤怒者の撃退
3.なし
2.憤怒者の撃退
3.なし
関係者ってだけで殺されるのは在りうることですが、どうするかはお任せします。
倉庫の場所、移動手段は確保されていますが、現地でブルトーザー等の重機を手に入れてダイナミックなエントリーをする時間は無いと思ってください。
相手の武装はライフルと手榴弾、手榴弾はグレネードランチャーのデータを参考にしてください。
また相手も人間なのでコンテナを上手く使って行動してきます、その辺りご留意していただけると幸いです。
それでは皆さん、夢は夢で終わるように健闘を祈ります。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年01月12日
2016年01月12日
■メイン参加者 8人■

●見透かす瞳、伝える心
日の落ちた倉庫街の一角。そこに8人の男女が集っていた。
「ただ、それだけの理由で殺される。テロリストの手法としては、実に理に適っている」
インパネスコートに杖を持った老紳士然とした男、『教授』新田・成(CL2000538)は普段の仕事である大学教授の振る舞いで口を開く。
その横で『約束』指崎 心琴(CL2001195)は言葉を拒むかのように獣と化した耳を伏せ、倉庫に視線を向ける。
「憤怒者、ただそれだけの理由で君達は死にます……と言いたいね」
代わりに口を開いたのは『感情探究の道化師』葛野 泰葉(CL2001242)身に着けている仮面は怒り、だが実際どう考えているのかは彼女自身も分からない。
(……関係者である事に殺害、か)
『鴟梟』谷崎・結唯(CL2000305)は一人、皆から離れたところで考察を重ねていた。
その理論で行けばこちらも同じことをすればいいと……それはある意味自らが殺めようとするものと同じ考えであるが、沈黙故に窘めるものもいない。
「見つけた。真ん中にテーブルを置いて10人、少女は4番のコンテナ」へ視線を向けていた心琴が口を開く。
彼が行っていたのは透視、物質を透過し倉庫の中の人員配置と人質となる少女の位置を確認していたのだ。
「桂木、頼む」
「うん」
心琴の言葉に桂木・日那乃(CL2000941)は頷きを返し送受信を発動、全員に配置を伝え情報を共有させる。
(AAAの家族だから?憤怒者の考え方、よく分からないけど。女の子助ければいい、の、ね)
全員に情報を共有させながらも日那乃の心は俯瞰的に物事をとらえていた。そこには相手の行動原理などは無く、ただ任務を成そうとする感情だけがあった。
「それにしても憤怒者って言ってもやってることは教授が言ったとおり正しくテロリストって奴だね」
細いフレームの眼鏡をかけた石和 佳槻(CL2001098)が頭の中に送られた配置図を脳内で認識しながら落ち着いた様子で口を開いた。少年の言葉はさらに続く。
「っていうか発想幼稚すぎ。始まりが正義だったからって何をやってもいいって訳じゃないと思うんだけど」
「そうです、テロリズムでは恐怖を与える事はできても、共感を得ることはできないのです。そして世界は、テロリストには容赦しない」
佳槻の言葉に教師のように回答すると成は眼鏡の位置を直すと
「故に、世界標準を教育して差し上げましょう」
泰葉を伴い、反対側にある倉庫の非常口へと回った。
●覚者による教育の時間
「本人でなく、家族まして子どもである娘を狙うってところが、まったくクズすぎるなぁ。こういうクズはその性根を叩き直してやらねぇとな」
『家内安全』田場 義高(CL2001151)の身体が蔵王、土纏、醒の炎、蒼鋼壁によって次々と強化されていく。
「んじゃあAAAの代わりに俺達が頑張らないとな!! 」
その横で日ノ本 紫亜(CL2001270)が第三の目を開き、能力を覚醒させる。
全員の準備が出来たのを確認すると心琴は深呼吸をしてから通用口を蹴破り、そして覚者達は突入を開始した。
「僕らは覚者だ! そこの女を返してもらいにきた!
お前らにAAAが何か悪いことをしたのか?
力を持っていることがそんなに悪いことなのか? 」
少年の叫び、自分たちへと攻撃をひきつけ、そして少女を安心させるための叫び声。しかしその声に何か別の物が籠っているのは気のせいだろうか?
同時に放たれる艶舞・寂夜が憤怒者達を眠りへといざなう。
「覚者!? 」
男達がすぐさま反応して四方に散る。4名は眠ってしまったが残りはコンテナの陰に隠れ、そして非常口へと走った。
「力を持っている? ああ、悪いことだ」
答えはすぐに帰ってきた……手榴弾とともに。
轟音と爆風、そして無数のベアリングが覚者を襲う。佳槻のかけた水衣が無ければ覚者と言えど心琴のダメージは大きかったろう。
「おいおい、痛ぇじゃねぇか」
だが事前に防御と強化を固めた義高にはダメージは少ない。笑みを浮かべ、すぐにコンテナに向かって走りこむとその中に吸い込まれるように消えていく。
物質透過を利用したショートカット。抜けた先には憤怒者がライフルを構えて追撃に備えていた。
「おめぇらの腐った性根たたきなおしてやるぜ」
声に気付いた憤怒者が義高にライフルを向けるより速く、半月斧がその肩を小銃ごと叩き割っていた。
●人質救出の壁は無きに等しい
一方、非常口。
爆音とともに戦闘が発生したことを認識した成は蔵王を顕現、泰葉も因子を覚醒し戦闘に備える。
ピッキングマンが発動し非常口の扉を開けると、丁度退路を確保しようと動いていた憤怒者がライフルを構える。
だが事前の透視にて把握していた、泰葉が放つ苦無が憤怒者の肩を抉り、銃弾は壁に穴を開けるのみ。
「少女はあそこのコンテナです」
追撃のB.O.T.を放った老紳士の指さす方向へ道化師は走る。
――物質透過、無機物を通り抜けるスキルがコンテナという障壁をものともせずに、囚われの少女の元へとたどり着く。
「ひっ……! 」
暗闇に突然現れた気配にしぃーっと静かにするように促す。
「俺の名は葛野泰葉。君を屑共から助けにきた。さあ、一緒に脱出しよう」
光無き漆黒の場にて泰葉が名乗り、彼女の戒めを解こうとする。しかしその細い身は硬く、そして未知の恐怖に震え始めている。
泰葉もそれを見越してか、まず少女の名前を聞き、名前を誉め、名前を呼ぶ。そうすることで少しずつ警戒を解き信頼を得ようと試みたのだ。
その結果、拘束が解けるころには少女も彼女に対して信頼を持つようになった。
――扉が開いたのはその時だった、最初は成と思った泰葉だったが逆光に移るシルエットに違う人物だと気づく。
「化け物め! どうやってここに!?」
憤怒者は疑問の声を上げながらも躊躇いなく行動を起こした。それは銃による射撃ではなく、閉所での破壊力が最大限に生かされる武器――手榴弾の投擲であった。
「――っ!」
耳を打つ轟音に対して内心にあるものを隠し、成が仕込み杖からの抜剣から放たれるB.O.T.で扉を開けた憤怒者を切り伏せる。
他に敵が来ないようにコンテナの前に立ちふさがると入り口に視線を移す。
「お姫様を守るのも大変だね」
声の主は手榴弾の上に覆いかぶさるようにした泰葉だった。
「手榴弾に対する最大の防御法の実践ですか、もっとも私達にしかできませんが」
手榴弾はその威力に比べ貫通力に乏しい、その為人体を盾にすることで十分防ぐことが可能であった。
「そういうこと、花丸はもらえるかな?」
教授が苦笑する。
それを見た道化師は立ち上がり、傷だらけの身体についた塵芥を払うと少女に向き直り。
「さ、お姫様、ここから脱出しましょう」
手を差し伸べた。
●覚者とは憤怒者とは
「あっちは何とかなったみたいだね」
幻影で惑わしつつスリングショットを放ちながら佳槻が声を上げる。
戦闘は覚者優位で進んでいたが、必ずしも一方的ではなかった。
最初の手榴弾投擲や戦闘での喧噪に寝ていた男達も起き上がり、戦線に加入していたからだ。
結唯や義高が動くもスタンドアローン中心となり、コンテナの陰に隠れた男に対して近接攻撃を仕掛ける以外の選択肢を選ばす、物質透過を活かした義高はまだしも結唯の選択は白兵戦か魔眼による催眠。お世辞にも効率的とは言い難い。
もしB.O.T.による貫通攻撃を活かしていれば、戦闘はかなり効率的に進んでいたであろう。
それを補うかのように心琴が迷霧を放ち、召雷を落とし、人質確保後のフォローに艶舞・寂夜を使う。
日那乃も自らの翼を使いコンテナ上部へ飛び上がると、上から狙い打とうとした憤怒者への攻撃を行い、コンテナから叩き落とし、そして倉庫の奥側へと飛翔していく。
「コラァ!! 日本にゃ、銃刀法違反ってんがあるんだぜ!! あ、それって俺達もやべーじゃんかあ!! 」
本気か冗談か分からない言葉で紫亜が破眼光で追い打ちをかけていく。
「人の命ってのはなぁ、皆平等に神様から与えられてんだよ!! だからなあ、大切にしてやらねーとバチあたんだよ! そこらへんちゃんと理解させてやる! 」
紫亜が攻撃を続けながら、話し始める。
「なに、あんたらだってちょっとくらいやんちゃしたいときだったんだろ!気にすんな! 誰だって反抗期はあるってもんよ! けどいつまでも反抗期はいけねーぞ!だからその心、叩き直す!」
次々と紡がれる言葉、それは彼自身の考えからくるある種の独善。それは彼にとっては正しいが……
「反抗期、叩きなおす……まるで選ばれた人間みたいだな! 」
ライフルから銃弾が吐き出される。それは憤怒者が憤怒した証。
「それがお前達の正体さ、化け物。人を人と思わず、管理していこうとする。だからこそ……」
「だが、君達の行動はテロリストと変わらないのだよ」
その言葉が最後まで語られる前に成のB.O.T.が憤怒者の背後に叩き込まれる。
「それでは、テロリスト諸君。最後の講義を始めましょう」
翼持った少女を伴った教授はまるで授業を始めるかのように言い放った。
そこから戦況は覚者へと一気に傾いた、成と結唯、義高による前後からの挟撃、佳槻や紫亜の確実な攻撃支援と日那乃の回復。
そして最後の力を振り絞った心琴の艶舞・寂夜が戦力を集中しようと固まった三名を眠らせて戦闘は終わった。
「おめぇらみたいのに負けるほど、体なまっちゃいねぇんだよ」
倒れた憤怒者に向かって義高が言い放つ、だがもう一つ終わっていないものがあった。
「よせ、殺すな!」
成と結唯が動けなくなったものへ止めを刺そうとした時。
制止する心琴の声が倉庫に響き渡った。
●それでも殺さない
不殺することを前提に動いていた心琴に対し、命を奪うことに躊躇の無い結唯、そしてテロリストに対しての行動として捕縛でなく殺害を前提としていた成。
考え方の違う三人の間に緊張が走る。
「心琴君、私は言ったはずですよ、テロリストに対しては容赦はしてはいけないと」
成が諭すように戦う前に言った言葉を繰り返した。
「……こいつらは同じことを繰り返すかもしれない」
少年は答えを探すように思案し、そして口を開いた
「けれど、たとえ殺しても同じことは繰り返される、もっと強い憎しみで! ……そっちのほうがもっと嫌だ」
報復の連鎖、テロがテロを生む一つの要因、それを止めることもまた答えの一つ。少年の言葉はまさしくそれだった。
だが、それは平行線の考え。沈黙が場を支配しようとした時、日那乃と佳槻が次々と口を開いた。
「あ、時間がかかったら敵の援軍が来るみたいだから」
「敵増援が来るなら長居は禁物です」
敵援軍の示唆、事前に伝えられていた情報。正確な時刻は分からない以上は長居は出来ない。
「よろしい、では宿題としましょう」
優先すべきことを理解した成が仕込みを納刀し、その場から離れようとする。それに続く覚者達。
心琴も後に続くが途中で振り返り。
「僕はお前らみたいな見境のない奴らは嫌いだ。それでも殺さない」
呟くように告げると、倉庫を後にした。
●ただ、それだけの理由で
「こいつが例の少女、か」
泰葉の与えたクッキーを食べ、幾分落ち着きはじめた少女へ結唯が吐き捨てるように言った。
「お前が狙われた理由、それはお前の身内がAAAの職員だから、だそうだ……
「君は身内がAAAという理由だけで殺されかけた…その理不尽を恨むなとは言わない」
さらに続く言葉に少女は身をこわばらせ涙を浮かべるが、泰葉がそれを遮った。
「けど、君にはあの屑共の同類にはなって欲しくない。俺達覚者は君達みたいな一般人を護る為に居る」
「悪いのは忿怒者の連中で君の家族じゃないんだから、家族に八つ当たりしないで欲しい」
佳槻がさらになだめるように台詞をつないだ。
結唯は不満の表情を浮かべ何かを言おうとしたが、目の前に立った心琴の瞳と肩に乗せられた仕込み杖の前に断念し、先にその場を後にした。
「だから、今日はただ元気に家に帰ってあげて」
「……はい、ありがとうございます」
佳槻の願いに少女はコクリと頭を下げ、そして礼の言葉を述べた。
覚者と憤怒者、殺害に対しての是非、同じ人であっても相容れ無いことはいくつもあるだろう。
隔てる溝は深く、埋まることはいつか分からない。
けれど覚者が戦った結果、少女が死ぬことは無くなった。
人によってはそれだけの結果、一人の少女にとっては大きな結果であったと言えるかもしれない。
日の落ちた倉庫街の一角。そこに8人の男女が集っていた。
「ただ、それだけの理由で殺される。テロリストの手法としては、実に理に適っている」
インパネスコートに杖を持った老紳士然とした男、『教授』新田・成(CL2000538)は普段の仕事である大学教授の振る舞いで口を開く。
その横で『約束』指崎 心琴(CL2001195)は言葉を拒むかのように獣と化した耳を伏せ、倉庫に視線を向ける。
「憤怒者、ただそれだけの理由で君達は死にます……と言いたいね」
代わりに口を開いたのは『感情探究の道化師』葛野 泰葉(CL2001242)身に着けている仮面は怒り、だが実際どう考えているのかは彼女自身も分からない。
(……関係者である事に殺害、か)
『鴟梟』谷崎・結唯(CL2000305)は一人、皆から離れたところで考察を重ねていた。
その理論で行けばこちらも同じことをすればいいと……それはある意味自らが殺めようとするものと同じ考えであるが、沈黙故に窘めるものもいない。
「見つけた。真ん中にテーブルを置いて10人、少女は4番のコンテナ」へ視線を向けていた心琴が口を開く。
彼が行っていたのは透視、物質を透過し倉庫の中の人員配置と人質となる少女の位置を確認していたのだ。
「桂木、頼む」
「うん」
心琴の言葉に桂木・日那乃(CL2000941)は頷きを返し送受信を発動、全員に配置を伝え情報を共有させる。
(AAAの家族だから?憤怒者の考え方、よく分からないけど。女の子助ければいい、の、ね)
全員に情報を共有させながらも日那乃の心は俯瞰的に物事をとらえていた。そこには相手の行動原理などは無く、ただ任務を成そうとする感情だけがあった。
「それにしても憤怒者って言ってもやってることは教授が言ったとおり正しくテロリストって奴だね」
細いフレームの眼鏡をかけた石和 佳槻(CL2001098)が頭の中に送られた配置図を脳内で認識しながら落ち着いた様子で口を開いた。少年の言葉はさらに続く。
「っていうか発想幼稚すぎ。始まりが正義だったからって何をやってもいいって訳じゃないと思うんだけど」
「そうです、テロリズムでは恐怖を与える事はできても、共感を得ることはできないのです。そして世界は、テロリストには容赦しない」
佳槻の言葉に教師のように回答すると成は眼鏡の位置を直すと
「故に、世界標準を教育して差し上げましょう」
泰葉を伴い、反対側にある倉庫の非常口へと回った。
●覚者による教育の時間
「本人でなく、家族まして子どもである娘を狙うってところが、まったくクズすぎるなぁ。こういうクズはその性根を叩き直してやらねぇとな」
『家内安全』田場 義高(CL2001151)の身体が蔵王、土纏、醒の炎、蒼鋼壁によって次々と強化されていく。
「んじゃあAAAの代わりに俺達が頑張らないとな!! 」
その横で日ノ本 紫亜(CL2001270)が第三の目を開き、能力を覚醒させる。
全員の準備が出来たのを確認すると心琴は深呼吸をしてから通用口を蹴破り、そして覚者達は突入を開始した。
「僕らは覚者だ! そこの女を返してもらいにきた!
お前らにAAAが何か悪いことをしたのか?
力を持っていることがそんなに悪いことなのか? 」
少年の叫び、自分たちへと攻撃をひきつけ、そして少女を安心させるための叫び声。しかしその声に何か別の物が籠っているのは気のせいだろうか?
同時に放たれる艶舞・寂夜が憤怒者達を眠りへといざなう。
「覚者!? 」
男達がすぐさま反応して四方に散る。4名は眠ってしまったが残りはコンテナの陰に隠れ、そして非常口へと走った。
「力を持っている? ああ、悪いことだ」
答えはすぐに帰ってきた……手榴弾とともに。
轟音と爆風、そして無数のベアリングが覚者を襲う。佳槻のかけた水衣が無ければ覚者と言えど心琴のダメージは大きかったろう。
「おいおい、痛ぇじゃねぇか」
だが事前に防御と強化を固めた義高にはダメージは少ない。笑みを浮かべ、すぐにコンテナに向かって走りこむとその中に吸い込まれるように消えていく。
物質透過を利用したショートカット。抜けた先には憤怒者がライフルを構えて追撃に備えていた。
「おめぇらの腐った性根たたきなおしてやるぜ」
声に気付いた憤怒者が義高にライフルを向けるより速く、半月斧がその肩を小銃ごと叩き割っていた。
●人質救出の壁は無きに等しい
一方、非常口。
爆音とともに戦闘が発生したことを認識した成は蔵王を顕現、泰葉も因子を覚醒し戦闘に備える。
ピッキングマンが発動し非常口の扉を開けると、丁度退路を確保しようと動いていた憤怒者がライフルを構える。
だが事前の透視にて把握していた、泰葉が放つ苦無が憤怒者の肩を抉り、銃弾は壁に穴を開けるのみ。
「少女はあそこのコンテナです」
追撃のB.O.T.を放った老紳士の指さす方向へ道化師は走る。
――物質透過、無機物を通り抜けるスキルがコンテナという障壁をものともせずに、囚われの少女の元へとたどり着く。
「ひっ……! 」
暗闇に突然現れた気配にしぃーっと静かにするように促す。
「俺の名は葛野泰葉。君を屑共から助けにきた。さあ、一緒に脱出しよう」
光無き漆黒の場にて泰葉が名乗り、彼女の戒めを解こうとする。しかしその細い身は硬く、そして未知の恐怖に震え始めている。
泰葉もそれを見越してか、まず少女の名前を聞き、名前を誉め、名前を呼ぶ。そうすることで少しずつ警戒を解き信頼を得ようと試みたのだ。
その結果、拘束が解けるころには少女も彼女に対して信頼を持つようになった。
――扉が開いたのはその時だった、最初は成と思った泰葉だったが逆光に移るシルエットに違う人物だと気づく。
「化け物め! どうやってここに!?」
憤怒者は疑問の声を上げながらも躊躇いなく行動を起こした。それは銃による射撃ではなく、閉所での破壊力が最大限に生かされる武器――手榴弾の投擲であった。
「――っ!」
耳を打つ轟音に対して内心にあるものを隠し、成が仕込み杖からの抜剣から放たれるB.O.T.で扉を開けた憤怒者を切り伏せる。
他に敵が来ないようにコンテナの前に立ちふさがると入り口に視線を移す。
「お姫様を守るのも大変だね」
声の主は手榴弾の上に覆いかぶさるようにした泰葉だった。
「手榴弾に対する最大の防御法の実践ですか、もっとも私達にしかできませんが」
手榴弾はその威力に比べ貫通力に乏しい、その為人体を盾にすることで十分防ぐことが可能であった。
「そういうこと、花丸はもらえるかな?」
教授が苦笑する。
それを見た道化師は立ち上がり、傷だらけの身体についた塵芥を払うと少女に向き直り。
「さ、お姫様、ここから脱出しましょう」
手を差し伸べた。
●覚者とは憤怒者とは
「あっちは何とかなったみたいだね」
幻影で惑わしつつスリングショットを放ちながら佳槻が声を上げる。
戦闘は覚者優位で進んでいたが、必ずしも一方的ではなかった。
最初の手榴弾投擲や戦闘での喧噪に寝ていた男達も起き上がり、戦線に加入していたからだ。
結唯や義高が動くもスタンドアローン中心となり、コンテナの陰に隠れた男に対して近接攻撃を仕掛ける以外の選択肢を選ばす、物質透過を活かした義高はまだしも結唯の選択は白兵戦か魔眼による催眠。お世辞にも効率的とは言い難い。
もしB.O.T.による貫通攻撃を活かしていれば、戦闘はかなり効率的に進んでいたであろう。
それを補うかのように心琴が迷霧を放ち、召雷を落とし、人質確保後のフォローに艶舞・寂夜を使う。
日那乃も自らの翼を使いコンテナ上部へ飛び上がると、上から狙い打とうとした憤怒者への攻撃を行い、コンテナから叩き落とし、そして倉庫の奥側へと飛翔していく。
「コラァ!! 日本にゃ、銃刀法違反ってんがあるんだぜ!! あ、それって俺達もやべーじゃんかあ!! 」
本気か冗談か分からない言葉で紫亜が破眼光で追い打ちをかけていく。
「人の命ってのはなぁ、皆平等に神様から与えられてんだよ!! だからなあ、大切にしてやらねーとバチあたんだよ! そこらへんちゃんと理解させてやる! 」
紫亜が攻撃を続けながら、話し始める。
「なに、あんたらだってちょっとくらいやんちゃしたいときだったんだろ!気にすんな! 誰だって反抗期はあるってもんよ! けどいつまでも反抗期はいけねーぞ!だからその心、叩き直す!」
次々と紡がれる言葉、それは彼自身の考えからくるある種の独善。それは彼にとっては正しいが……
「反抗期、叩きなおす……まるで選ばれた人間みたいだな! 」
ライフルから銃弾が吐き出される。それは憤怒者が憤怒した証。
「それがお前達の正体さ、化け物。人を人と思わず、管理していこうとする。だからこそ……」
「だが、君達の行動はテロリストと変わらないのだよ」
その言葉が最後まで語られる前に成のB.O.T.が憤怒者の背後に叩き込まれる。
「それでは、テロリスト諸君。最後の講義を始めましょう」
翼持った少女を伴った教授はまるで授業を始めるかのように言い放った。
そこから戦況は覚者へと一気に傾いた、成と結唯、義高による前後からの挟撃、佳槻や紫亜の確実な攻撃支援と日那乃の回復。
そして最後の力を振り絞った心琴の艶舞・寂夜が戦力を集中しようと固まった三名を眠らせて戦闘は終わった。
「おめぇらみたいのに負けるほど、体なまっちゃいねぇんだよ」
倒れた憤怒者に向かって義高が言い放つ、だがもう一つ終わっていないものがあった。
「よせ、殺すな!」
成と結唯が動けなくなったものへ止めを刺そうとした時。
制止する心琴の声が倉庫に響き渡った。
●それでも殺さない
不殺することを前提に動いていた心琴に対し、命を奪うことに躊躇の無い結唯、そしてテロリストに対しての行動として捕縛でなく殺害を前提としていた成。
考え方の違う三人の間に緊張が走る。
「心琴君、私は言ったはずですよ、テロリストに対しては容赦はしてはいけないと」
成が諭すように戦う前に言った言葉を繰り返した。
「……こいつらは同じことを繰り返すかもしれない」
少年は答えを探すように思案し、そして口を開いた
「けれど、たとえ殺しても同じことは繰り返される、もっと強い憎しみで! ……そっちのほうがもっと嫌だ」
報復の連鎖、テロがテロを生む一つの要因、それを止めることもまた答えの一つ。少年の言葉はまさしくそれだった。
だが、それは平行線の考え。沈黙が場を支配しようとした時、日那乃と佳槻が次々と口を開いた。
「あ、時間がかかったら敵の援軍が来るみたいだから」
「敵増援が来るなら長居は禁物です」
敵援軍の示唆、事前に伝えられていた情報。正確な時刻は分からない以上は長居は出来ない。
「よろしい、では宿題としましょう」
優先すべきことを理解した成が仕込みを納刀し、その場から離れようとする。それに続く覚者達。
心琴も後に続くが途中で振り返り。
「僕はお前らみたいな見境のない奴らは嫌いだ。それでも殺さない」
呟くように告げると、倉庫を後にした。
●ただ、それだけの理由で
「こいつが例の少女、か」
泰葉の与えたクッキーを食べ、幾分落ち着きはじめた少女へ結唯が吐き捨てるように言った。
「お前が狙われた理由、それはお前の身内がAAAの職員だから、だそうだ……
「君は身内がAAAという理由だけで殺されかけた…その理不尽を恨むなとは言わない」
さらに続く言葉に少女は身をこわばらせ涙を浮かべるが、泰葉がそれを遮った。
「けど、君にはあの屑共の同類にはなって欲しくない。俺達覚者は君達みたいな一般人を護る為に居る」
「悪いのは忿怒者の連中で君の家族じゃないんだから、家族に八つ当たりしないで欲しい」
佳槻がさらになだめるように台詞をつないだ。
結唯は不満の表情を浮かべ何かを言おうとしたが、目の前に立った心琴の瞳と肩に乗せられた仕込み杖の前に断念し、先にその場を後にした。
「だから、今日はただ元気に家に帰ってあげて」
「……はい、ありがとうございます」
佳槻の願いに少女はコクリと頭を下げ、そして礼の言葉を述べた。
覚者と憤怒者、殺害に対しての是非、同じ人であっても相容れ無いことはいくつもあるだろう。
隔てる溝は深く、埋まることはいつか分からない。
けれど覚者が戦った結果、少女が死ぬことは無くなった。
人によってはそれだけの結果、一人の少女にとっては大きな結果であったと言えるかもしれない。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
