クリスマス・イブに降る雪に ~祈りよ届け
●
イブの朝。
久方・相馬(nCL2000004)に呼ばれて会議室に顔をだすと、広いテーブルの上に一枚の紙が置かれていた。
夢見の姿はどこにもなかった。
●
『あるショッピングモールで、人工雪で作られた巨大雪ダルマが妖化した。
幸せそうなカップルを羨んだ『ぼっち』たちの怨念が乗り移ったらしい。
今の時期、どこへ行ってもカップルであふれかえっている。
正真正銘の恋人たちから、イベントを乗り切るための急造カップルまで。
分かっているならそんなところへ出かけて行かなければいいのに……。
ともあれ、巨大雪ダルマはイベントステージを降りて人々を襲いだす。
簡単に倒せる相手なので、さっと行ってさっと倒して欲しい。
あとが少々面倒くさいけど。
なに、たった一日、バラバラになって小さくなった雪だるまと過ごすだけだ。
0時を回ると勝手に溶けて、『ぼっち』の怨念ごと消えてしまうよ。
じゃあ、頼んだぜ』
イブの朝。
久方・相馬(nCL2000004)に呼ばれて会議室に顔をだすと、広いテーブルの上に一枚の紙が置かれていた。
夢見の姿はどこにもなかった。
●
『あるショッピングモールで、人工雪で作られた巨大雪ダルマが妖化した。
幸せそうなカップルを羨んだ『ぼっち』たちの怨念が乗り移ったらしい。
今の時期、どこへ行ってもカップルであふれかえっている。
正真正銘の恋人たちから、イベントを乗り切るための急造カップルまで。
分かっているならそんなところへ出かけて行かなければいいのに……。
ともあれ、巨大雪ダルマはイベントステージを降りて人々を襲いだす。
簡単に倒せる相手なので、さっと行ってさっと倒して欲しい。
あとが少々面倒くさいけど。
なに、たった一日、バラバラになって小さくなった雪だるまと過ごすだけだ。
0時を回ると勝手に溶けて、『ぼっち』の怨念ごと消えてしまうよ。
じゃあ、頼んだぜ』

■シナリオ詳細
■成功条件
1.巨大雪だるまの撃破
2.チビ雪だるまをお持ち帰り。一日を一緒に過ごす
3.なし
2.チビ雪だるまをお持ち帰り。一日を一緒に過ごす
3.なし
●時間と場所
・朝。
晴れていますがとても寒いです。
なお、天気予報によると夕方から雪が降る模様。
・遊園地あとに作られた、大阪にある巨大ショッピングモールの広場。
開店直後です。
●巨大雪だるま(ランク1)
頭に赤いバケツをのせて、首にマフラーを撒いている。まんま、よくある雪だるま。
『ぼっち』たちの怨念が乗り移て妖化したらしい。
炎系の攻撃にすこぶる弱い。
逆に水系の攻撃を受けると回復したり、強くなったりする。
体力がゼロになると6つのチビ雪だるまに分裂する。
●チビ雪だるま
攻撃力なし。
ただし、ぼっちにすると拗ねて相手を呪う。
呪いの内容は「そうすけ」なるものが好き勝手に決めるらしい。
25日になると自然消滅する。
●その他
家族や友だち、恋人と過ごす場合はチーム名をプレイングの冒頭に記載してください。
もちろん、『ぼっち』参加も大歓迎です。
なお、イベシナではありませんが……。
!!-----------------
クリスマスプレゼントの交換やクリスマスケーキを食べるシーンは、クリスマスケーキ(各種)とプレゼントボックスをアイテム装備している人に限らせていただきます。
●STより
巨大雪ダルマは冒頭千文字以下でサクッと倒される予定。
ただし、イベシナではないのできちんと作戦立てて倒してください。
戦闘に関する指定がまったくない、または少ないな、とそうすけが判断したら依頼失敗です。
戦闘終了後、24日をチビ雪だるまとどう過ごすかは各自ご自由に。
次の戦いへチビ雪だるまと赴くもよし、そのままショッピングモールでチビ雪だるまを連れて買い物するもよし、家に連れ帰って飾るもよし。
その日一日の行動をまるっと書くよりも、時間とシチュエーションはある程度絞ったほうがいいですよ~。
それではご参加お待ちしております。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2016年01月10日
2016年01月10日
■メイン参加者 6人■

●まずは妖退治
上月・里桜(CL2001274)は小さくため息をついた。
「まあ、妖化の責任までは問えないでしょうから……」
「私も雪だるまに責任はないと思います」
返事は隣に座った三峯・由愛(CL2000629)だった。
まさか独り言を聞かれていたとは思わなかったため、里桜は驚いた。
「寂しい思いを受けとめてあげただけですし」
ブリーフィング後、覚者たちは光邑組の業務用バンに乗って件のショッピングセンターに向かっていた。
「優しいな。オレは迷惑としか思わなかったぜ。このクソ忙しい時に、て」
前の席に座る奥州 一悟(CL2000076)が話に入ってきた。一悟は光邑 研吾(CL2000032)と、光邑 リサ(CL2000053)の孫だ。
「アラ、イチゴは部屋の大掃除もやらずに何が忙しいノ?」
助手席のリサが茶目っ気たっぷりに問いただすと、一悟は慌てて言い訳を始めた。
「い、いろいろあるんだよ」
「いろいろってなんや。ポテチ食べながらベッドでマンガを読むことか?」
運転しながら研吾がまぜっかえす。
ひとしきり笑ったら、一悟の隣の三島 椿(CL2000061)も会話に加わった。
「雪だるまの妖……ね」
椿は昔、兄妹で雪だるま作ったことを思い出していた。
「でも何日かして溶けて消えてしまったのよね……」
思い出と重なる今度の依頼もまた、最後に切ない気持ちにさせられそうな予感がする。
「雪は暖かくなると溶けるもんや。チビ雪だるまたちのハートもせいぜい、みんなであっためてやろうやないか」
開店前だというのに駐車場が埋まっていた。なんとかスペースを見つけてバンを止めた。
万博記念公園に建てられたショッピングセンターの大観覧車が見える。
「私たちも行きましょう」
由愛と椿、里桜が並んで歩きだす。光邑家が後に続いた。
「たぶんイベント広場みたいなところにおるんちゃうかな? 雪だるま」
「私、朧に頼んで見てきてもらいます」
里桜の守護使役が戻ってくるまで館内案内図を見て暇をつぶした。
生きているミュージアムとか、観覧車以外にも遊べる場所があるようだ。
「ちぇ、別の日に来たかったぜ」
「また友だちと来たらええ。で、お嬢ちゃんたちはどないする? 俺らは買い物済ませたらすぐ帰るけど」
「私はゆっくりしてから帰るわ」と椿。
「じゃあ、私も。電車で帰ります。上月さんはどうします?」
里桜は少し考えてから、私も、と言った。
朧が戻ってきた。
巨大雪だるまはやはりイベント広場にあるらしい。
「まもなく開店のお時間です。朝早くからのご来――え、あの?」
リサが従業員を、横へ引っ張って行った。と、手招きでみんなを呼び寄せる。
「事情をお話ししたら入っていいって。ワタシはモップを借りに行くワ」
開店まであと五分しかないが余裕だろう。
「よし、行くぜ!」
イベント広場に着くと、巨大雪だるまが動きだしたところだった。覚者たちを見下して、ふんす、とニンジン鼻から水蒸気を勢いよく出した。
「きゃあ!」
「ちょっと!」
「いやぁ!」
強風に悲鳴を上げながら、女性陣が一斉にスカートの前を押さえた。
一悟と研吾が揃って巨大雪だるまへ親指を立てた。
リサが見ていたら激怒していただろう。妖より先に退治されていたに違いない。
代わりに椿が怒鳴った。
「なにニヤケているのよ! 早くしないと人が来ちゃうわよ!」
椿は癒しの霧を広げながら後ろへ下がった。水行なので元々攻撃には加わるつもりはなかったのだが、前にいてまた鼻息を吹きかけられてはたまらない。
「せやな。さっさと済ませてしまおうか」
研吾は表情を引き締めると刀に炎を這わせた。下から上へ、斜めに妖を切り上げるとジュッ、という音とともに丸い体が溶けだした。
「アラアラ、やっぱりすごく水が出るわネ。借りてよかったワ」
駆けつけて来たリサが、床の水をモップで拭きとりながら雪だるまを突く。
「早かったな、リサさん。人数分、借りられた?」
一悟が炎の拳を倒れてきた雪だるまの頭に叩き込む。盛大に水しぶきを飛ばしながら、頭の半分が吹き飛んだ。
バランスを崩した雪だるまが大きく揺れる。
「モチロン。みなさん、悪いけどお掃除手伝ってネ」
「はい。水拭き、私もお手伝いしますね」
里桜は妖がツリーを倒してしまわないように、地面から土の槍を突き上げて動きを止めた。
「ボォォォッチ!」
巨大雪だるまが雄叫びを上げる。
やってきた人々の中からカップルを見つけたようだ。凍てつく鼻息をかけようとして、ニンジン鼻を膨らませる。
「羨ましいのは分かりますが、人に危害を加えるのはめっ、ですっ」
由愛は因子の力で基礎耐性を高めると前へ躍り出て、雪だるまに機関銃をぶっ放った。
「雪だるま、小さくなって可愛くなりましたね」
里桜たちの前で、六体の小さな雪だるまが、濡れた床の上で滑って遊んでいる。
「さっさと捕まえて、みんなで掃除しようぜ」
一悟はため息をついた。
「そうね。皆でやれば早く終わるわね。リサさん、モップを」
覚者たちは苦労してチビ雪だるまを捕まえると、掃除を始めた。
●お買い物&お茶会
「メリークリスマスだぜ、みんな。よいお年を!」
一悟に手を振り返すと、椿は傍らのチビに微笑みかけた。
「おいで、今日は一緒に遊びましょう」
光邑家は食品売り場へ移動したらしく、すでに姿が見えない。
特に計画があったわけではない。ただ、なんとなく一家の邪魔はしたくなかったから電車で帰ることにしたのだが、このまま一人で時間を潰す気にもなれなかった。
(そうだわ!)
椿はチビを抱きあげると、ツリーの横にいた二人に声を掛けた。
「今日が初対面だけど、良かったら一緒に遊ばないかしら?」
声を掛けられた由愛と里桜も、実は夜中までどうやって時間を潰そうかと悩んでいたらしい。ほっとした顔をしていた。
「え、えっと、よろしくお願いしますっ」
「では、私もご一緒させてもらいます」
「よかった。じゃあ、チビたちはバックの中に隠れて」
小さくなったとはいえ、妖は妖だ。一般人にとっては動き回る雪だるまなんて気味が悪いたけだろう。
無用のトラブルを避けるための提案だったが、これには三体のチビたちが揃って抗議の声を上げた。
「私たちが保護しているのだし、大丈夫じゃないでしょうか?」
ずっとバックの中は可哀想、と由愛がチビたちに味方する。
「そうですね。いい子にしているって約束してくれるなら、バックに入れなくてもいいと思います」
里桜のフォローにチビたちは、頭が転げ落ちそうな勢いでうなずいた。
「しょうがないわね」
三人はチビと手を繋ぐと、連れ立って歩きだした。
ショーウィンドウを冷かして回る。
「あの……お二人とは初対面で……何を話せばいいんでしょうか……」
三人は今朝、ブリーフィングルームで顔を合わせたばかりだった。
当然、共通する話題など有るはずがない。
「ん~。あらためて言われちゃうと……」
「まだまだ時間はあります。ゆっくりと仲良くなっていきませんか? あ、このお店。素敵なアクセサリーがたくさん飾ってありますよ」
中に入って見ましょう、と里桜。
「そうね。そうしましょう」
椿と由愛も後に続いた。
「ねえねえ、三人でお揃いのネックレスを買わない。今日の記念に」
椿は棚から自分の翼や目と似た明るい青色のネックレスを取り上げた。
棚には他にも主張しすぎず、でも首元を可憐にかざってくれそうなデザインで、雪の結晶の真ん中にはめ込まれた小さな石の色違いが六つもある。
「ステキ。いいですね。私はちょっと椿さんとかぶってしまうけれど、藍色のやつにします」
「私は……朧の羽の色と同じ石のネックレスにする。あ、でも、勾玉の色と揃えるほうがいいかしら?」
守護使役にあわせてコーディネイトするのは素敵なアイデアね、と椿と由愛がほめた。
朧がぱたぱたと翼を動かして、勾玉と同じ翡翠色の石がはめ込まれたネックレスを示した。
「じゃあ、朧のおすすめにする」
「うーん……水丸は水色だから、私はやっぱり青かな」
椿の顔の横で守護使役の水丸がふあふあと揺れた。
君には明るい青が似合うよ、と言っているようだ。
由愛は自分の守護使役に語りかけた。
「てんこはいま葉っぱが一枚だけど、成長したらどんな姿になるのかしら?」
緑色は里桜が選んだものとかぶってしまう。藍も椿が選んだ青に色が近い。もし、成長したてんこが花を咲かせたなら、どんな色の花になるのだろうか。
悩んでいると、てんこが葉っぱの先で金色の石がはめ込まれたネックレスを指した。
「あ、なるほど。由愛さんの目と同じ色の石ね。うん、いいと思う」
「とても素敵です」
二人に勧められて、由愛は金色の石がはまったネックレスを手に取った。
「そうそう、チビ雪だるまたちにも何か似合うものを探してあげたいです」
「じゃあ、チビも御揃いのネックレスを買ってあげましょう」
せっかくだしね、と椿。
「でも、この子たちの首……っていうか、くびれ? 意外と太いですよ。つけられないような気が……」
試しにつけてみた。が、やっぱり鎖の長さが足りない。
「チビたちには、こっちの雪の結晶をモチーフにしたブローチとかどうかしら?」
ネックレスの雪の結晶と同じデザインだし、これなら胸に留められる。
一緒に小さなクリスマスリースの飾りを買い、チビ雪だるまの体を飾った。鏡に姿を映すと、飛び跳ねて喜んでくれた。
「よかった。喜んでくれて」
「私たちまで嬉しくなってきますよね。ところで、そろそろお茶にしましませんか?」
由愛はいい雰囲気の喫茶店を見つけると、二人を連れて行った。
「えっと、私は紅茶を……チビたちも何か食べたいものがあるでしょうか?」
自分たちもご相伴に預かれると知り、チビたちはチャイルドシードの上で飛び跳ねた。
「……アイス、とかでしょうか?」
目を輝かせてこくこくと頷く。
「じゃあ、苺サンタのミニパフェなんてどう? わたしはこっちの抹茶ツリーパフェにする。里桜さんは?」
「温かい緑茶と、このサンタとトナカイの上生菓子をお願いします」
「あ、私も。紅茶のお茶請けに同じ和菓子をください」
注文の品が揃うと、美味しいわよねと、笑いながら食べた。最初はぎくしゃくしていた雰囲気もお喋りしているうちに和み、閉店まで楽しい時間を過ごした。
「12時までどうしよう?」
クリスマスは特別に観覧車が一晩営業していることを知った三人は、ショッピングモールの隣のホテルに部屋を取った。
今日使ったお金のうち、いくらかはファイブが必要経費として出してくれるはず……。
「きちんと見送るまでが、私たちの仕事ですから」
「そ、そうよね」
「荷物を置いたら観覧車へ行きましょう」
●光邑家のイブ
「リサは買い物で忙しいし、一悟には荷物を持ってもらわんとあかんし……」
消去法で研吾が三体のチビを抱えるとこになった。
「うーん。赤い服を着ていたら、じいちゃん、痩せたサンタクロースに見えなくもないぜ」
「やかましい。しっかりリサの手伝いせえ」
じゃれ合う男たちをしり目に、リサは長いリストとにらめっこしながらどんどん食品をカゴに放り込んでいく。その量は去年と比べて倍だ。
「今日はイチゴのバースデーだもの。腕によりをかけてお料理を作るから、しっかり食べて頂戴ネ」
そう、今年から孫と三人で暮らしだしたのだ。去年は夫婦二人だったので、今年はずいぶん賑やかなクリスマスになりそうだ。
一悟が発現した、と娘から電話で聞いたときは、夫婦で心配した。まだまだ、覚者の数は一般人に比べて少ない。理解の浅い地域では憤怒者たちが幅を利かせ、覚者(または隔者)たちを手あたり次第攻撃していると聞いていたからだ。
案の定、一悟は地元で浮いた存在になった。
五麟市に転校させたい、と娘に相談されたときは、二つ返事で同居を承諾した。
「せや。きょうは一悟の誕生日やからな。家でチビらと一緒にクリスマス&バースデーパーティーや」
パーティーという言葉に、チビたちも楽しそうにはしゃぎだした。
途中、短いながらも各自自由行動の時間(じつはそれぞれ相手に送るプレゼントを買いに走っていた)を挟み、バンの後部座席を倒したスペースが満杯になるまで買い物を続けた。
「よっしゃ、帰るで。忘れもんはないか?」
「ケンゴ、おチビちゃんたちを乗せ忘れているわヨ。ちょっと荷物を整理してスペースを作ってあげないと……」
忘れとった、といって慌ててバンを降りる。
研吾は後部ドアの前で並んで膨れている三体のチビたちに謝った。
「オレの膝の上に乗せればいいよ。ちょっと冷たいけどな、家までなら我慢できるぜ」
「チビらと一緒にシートベルト、締められへんやろ。お巡りさんに怒られるで」
「妖は別にいいんじゃないノ?」
愛妻の意見に、そやな、とあっさり同意して、研吾は運転席に戻った。
五麟市の家に戻ると、夕食までそれぞれ用事を済ませることになった。
「よし、やるか。大掃除。誕生日だしな。うん、誕生日だし……って、おい! 人のマンガを勝手に読むなよ!」
一悟はあわててチビからちょっぴりムフフなマンガを取り上げると、一緒に部屋の掃除を始めた。今朝、車の中で言われたことを気にしていたようだ。
(あ、こいつのプレゼント。これにするか)
ずいぶんと適当な……。
一悟はチビが後ろを向いている隙に、適当な紙袋にムフフなマンガを入れた。
研吾は自宅横の事務所兼作業場にいた。
「これをここにはめ込んだらたら完成や。どや、木槌で叩いてみるか?」
リサにダメ出しされるまで、一悟へのプレゼントに、とコツコツ作っていたソリ(完全和風)をチビとふたりで仕上げていた。
宮大工の棟梁が最高級の材木で作ったソリである。ネットに出せばすぐ買い手がつきそうだが、どうやらチビたちへのプレゼントにするつもりらしい。
リサはチビに手伝ってもらって大急ぎでチキンとケーキを焼きあげると、居間のこたつに入って小さなマフラーを編みだした。
「お手伝いアリガトウ。プレゼントあるわヨ。ちょっと、待ってネ」
寒かったが、チビのために縁側の障子は開けていた。ふと、庭に目を向けると白いものがふあふあと降りだした。
「アラ、雪が……」
こたつを出て、障子をしめに行った。
研吾ができたばかりのソリを持って戻ってきていた。庭の池の前にソリを置くと、玄関へ回った。 リサは障子を閉めると、こたつの上でうたた寝しているチビに微笑みかけた。
「メリークリスマス。そんで一悟は誕生日おめでとうさん」
「ハッピーバースディ・イチゴ。来年も良き年でありますように」
一悟は研吾からはランニングウェアを、リサからは新しい陸上シューズをプレゼントされた。
「実家のパパとママからもサプライズが。はい、欲しがっていた赤のデジタルオーディオ。あとで電話しなさいネ」
「じいちゃん、リサさん、ありがとう。母ちゃんと父ちゃんにもお礼をいっとくよ。あ、オレからも2人にプレゼントがあるんだ」
研吾とリサもそれぞれ一悟からプレゼントを貰った。
「さて、ちょっとみんなで記念写真でも撮ろか? 一悟、食後の運動や。チビたちの為に庭で雪のトナカイを作ったってくれ」
チキンを頬張っていた一悟が、へっ、と顔を上げた。
「何を作っているのかと思ったら、ソリだったのか。……て、オレが雪でトナカイを作んの?!」
「ほかに誰がおるんや。頑張って夜中までに作ってや。クリスマスのミサに行かなあかんからな」
オレ、信者じゃないんだけど、と一悟。
俺もちゃうで、と研吾。
日頃、神道仏教に付き合わせているので、クリスマスだけは毎年リサの信仰に合わせているのだと言う。
なんとか雪をかき集めてトナカイを作りあげると、チビたちをソリに乗せて写真をとった。
一悟はトナカイの角を頭につけ、研吾とリサはサンタ風のケープを肩にかけて。チビたちはリサが編んだ色違いのマフラーをそれぞれ首に巻いて。
「さあ、教会へ出かけましょう」
●さよなら。また来年?
二組はそれぞれの場所で、チビ雪だるまたちと別れの時を迎えていた。
女子三人組は観覧車の上で。てっぺんに達したゴンドラから、イルミネーションに輝く街を眺めて楽しんでいる時にそれは始まった。
淡く黄金色に輝きだしたチビ雪だるまたちが、キラキラと光る雪の結晶となって雪の降る空へ少しずつ帰っていく。
「寂しいわ」
椿は膝の上でチビの頭を撫でてやった。
「私の水の力で維持は……。出来ないのよね。仲良くなれたのに……」
「わ、私と……お友達になってくれませんか……?」
由愛は小声でチビに囁きかけた。由愛を見上げるチビの顔はとても悲しげだ。
「さよなら。できればまた来年、お会いしたいです」
里桜の言葉に、チビたちが微かに頷いたような気がした。
「約束よ」
最後の煌めきとともに、星の結晶のブローチと小さなリースも消えた。
「アーメン」
光邑家はクリスマスミサの最中に、チビたちの昇天の時を迎えた。
オルガンと讃美歌が聖堂に響くなか、一悟の膝に乗っていた三体のチビたちがキラキラと光る雪の結晶に変わっていった。ステンドグラスを背景に三本の光の柱が立ち昇る。
「これがクリスマスの奇跡ってやつか」
研吾とリサも、このクリスマスの奇跡を一悟の両脇から暖かなまなざしで見つめる。
――メリークリスマス。
――素敵な時間をありがとう。
――また、雪降る日に。
上月・里桜(CL2001274)は小さくため息をついた。
「まあ、妖化の責任までは問えないでしょうから……」
「私も雪だるまに責任はないと思います」
返事は隣に座った三峯・由愛(CL2000629)だった。
まさか独り言を聞かれていたとは思わなかったため、里桜は驚いた。
「寂しい思いを受けとめてあげただけですし」
ブリーフィング後、覚者たちは光邑組の業務用バンに乗って件のショッピングセンターに向かっていた。
「優しいな。オレは迷惑としか思わなかったぜ。このクソ忙しい時に、て」
前の席に座る奥州 一悟(CL2000076)が話に入ってきた。一悟は光邑 研吾(CL2000032)と、光邑 リサ(CL2000053)の孫だ。
「アラ、イチゴは部屋の大掃除もやらずに何が忙しいノ?」
助手席のリサが茶目っ気たっぷりに問いただすと、一悟は慌てて言い訳を始めた。
「い、いろいろあるんだよ」
「いろいろってなんや。ポテチ食べながらベッドでマンガを読むことか?」
運転しながら研吾がまぜっかえす。
ひとしきり笑ったら、一悟の隣の三島 椿(CL2000061)も会話に加わった。
「雪だるまの妖……ね」
椿は昔、兄妹で雪だるま作ったことを思い出していた。
「でも何日かして溶けて消えてしまったのよね……」
思い出と重なる今度の依頼もまた、最後に切ない気持ちにさせられそうな予感がする。
「雪は暖かくなると溶けるもんや。チビ雪だるまたちのハートもせいぜい、みんなであっためてやろうやないか」
開店前だというのに駐車場が埋まっていた。なんとかスペースを見つけてバンを止めた。
万博記念公園に建てられたショッピングセンターの大観覧車が見える。
「私たちも行きましょう」
由愛と椿、里桜が並んで歩きだす。光邑家が後に続いた。
「たぶんイベント広場みたいなところにおるんちゃうかな? 雪だるま」
「私、朧に頼んで見てきてもらいます」
里桜の守護使役が戻ってくるまで館内案内図を見て暇をつぶした。
生きているミュージアムとか、観覧車以外にも遊べる場所があるようだ。
「ちぇ、別の日に来たかったぜ」
「また友だちと来たらええ。で、お嬢ちゃんたちはどないする? 俺らは買い物済ませたらすぐ帰るけど」
「私はゆっくりしてから帰るわ」と椿。
「じゃあ、私も。電車で帰ります。上月さんはどうします?」
里桜は少し考えてから、私も、と言った。
朧が戻ってきた。
巨大雪だるまはやはりイベント広場にあるらしい。
「まもなく開店のお時間です。朝早くからのご来――え、あの?」
リサが従業員を、横へ引っ張って行った。と、手招きでみんなを呼び寄せる。
「事情をお話ししたら入っていいって。ワタシはモップを借りに行くワ」
開店まであと五分しかないが余裕だろう。
「よし、行くぜ!」
イベント広場に着くと、巨大雪だるまが動きだしたところだった。覚者たちを見下して、ふんす、とニンジン鼻から水蒸気を勢いよく出した。
「きゃあ!」
「ちょっと!」
「いやぁ!」
強風に悲鳴を上げながら、女性陣が一斉にスカートの前を押さえた。
一悟と研吾が揃って巨大雪だるまへ親指を立てた。
リサが見ていたら激怒していただろう。妖より先に退治されていたに違いない。
代わりに椿が怒鳴った。
「なにニヤケているのよ! 早くしないと人が来ちゃうわよ!」
椿は癒しの霧を広げながら後ろへ下がった。水行なので元々攻撃には加わるつもりはなかったのだが、前にいてまた鼻息を吹きかけられてはたまらない。
「せやな。さっさと済ませてしまおうか」
研吾は表情を引き締めると刀に炎を這わせた。下から上へ、斜めに妖を切り上げるとジュッ、という音とともに丸い体が溶けだした。
「アラアラ、やっぱりすごく水が出るわネ。借りてよかったワ」
駆けつけて来たリサが、床の水をモップで拭きとりながら雪だるまを突く。
「早かったな、リサさん。人数分、借りられた?」
一悟が炎の拳を倒れてきた雪だるまの頭に叩き込む。盛大に水しぶきを飛ばしながら、頭の半分が吹き飛んだ。
バランスを崩した雪だるまが大きく揺れる。
「モチロン。みなさん、悪いけどお掃除手伝ってネ」
「はい。水拭き、私もお手伝いしますね」
里桜は妖がツリーを倒してしまわないように、地面から土の槍を突き上げて動きを止めた。
「ボォォォッチ!」
巨大雪だるまが雄叫びを上げる。
やってきた人々の中からカップルを見つけたようだ。凍てつく鼻息をかけようとして、ニンジン鼻を膨らませる。
「羨ましいのは分かりますが、人に危害を加えるのはめっ、ですっ」
由愛は因子の力で基礎耐性を高めると前へ躍り出て、雪だるまに機関銃をぶっ放った。
「雪だるま、小さくなって可愛くなりましたね」
里桜たちの前で、六体の小さな雪だるまが、濡れた床の上で滑って遊んでいる。
「さっさと捕まえて、みんなで掃除しようぜ」
一悟はため息をついた。
「そうね。皆でやれば早く終わるわね。リサさん、モップを」
覚者たちは苦労してチビ雪だるまを捕まえると、掃除を始めた。
●お買い物&お茶会
「メリークリスマスだぜ、みんな。よいお年を!」
一悟に手を振り返すと、椿は傍らのチビに微笑みかけた。
「おいで、今日は一緒に遊びましょう」
光邑家は食品売り場へ移動したらしく、すでに姿が見えない。
特に計画があったわけではない。ただ、なんとなく一家の邪魔はしたくなかったから電車で帰ることにしたのだが、このまま一人で時間を潰す気にもなれなかった。
(そうだわ!)
椿はチビを抱きあげると、ツリーの横にいた二人に声を掛けた。
「今日が初対面だけど、良かったら一緒に遊ばないかしら?」
声を掛けられた由愛と里桜も、実は夜中までどうやって時間を潰そうかと悩んでいたらしい。ほっとした顔をしていた。
「え、えっと、よろしくお願いしますっ」
「では、私もご一緒させてもらいます」
「よかった。じゃあ、チビたちはバックの中に隠れて」
小さくなったとはいえ、妖は妖だ。一般人にとっては動き回る雪だるまなんて気味が悪いたけだろう。
無用のトラブルを避けるための提案だったが、これには三体のチビたちが揃って抗議の声を上げた。
「私たちが保護しているのだし、大丈夫じゃないでしょうか?」
ずっとバックの中は可哀想、と由愛がチビたちに味方する。
「そうですね。いい子にしているって約束してくれるなら、バックに入れなくてもいいと思います」
里桜のフォローにチビたちは、頭が転げ落ちそうな勢いでうなずいた。
「しょうがないわね」
三人はチビと手を繋ぐと、連れ立って歩きだした。
ショーウィンドウを冷かして回る。
「あの……お二人とは初対面で……何を話せばいいんでしょうか……」
三人は今朝、ブリーフィングルームで顔を合わせたばかりだった。
当然、共通する話題など有るはずがない。
「ん~。あらためて言われちゃうと……」
「まだまだ時間はあります。ゆっくりと仲良くなっていきませんか? あ、このお店。素敵なアクセサリーがたくさん飾ってありますよ」
中に入って見ましょう、と里桜。
「そうね。そうしましょう」
椿と由愛も後に続いた。
「ねえねえ、三人でお揃いのネックレスを買わない。今日の記念に」
椿は棚から自分の翼や目と似た明るい青色のネックレスを取り上げた。
棚には他にも主張しすぎず、でも首元を可憐にかざってくれそうなデザインで、雪の結晶の真ん中にはめ込まれた小さな石の色違いが六つもある。
「ステキ。いいですね。私はちょっと椿さんとかぶってしまうけれど、藍色のやつにします」
「私は……朧の羽の色と同じ石のネックレスにする。あ、でも、勾玉の色と揃えるほうがいいかしら?」
守護使役にあわせてコーディネイトするのは素敵なアイデアね、と椿と由愛がほめた。
朧がぱたぱたと翼を動かして、勾玉と同じ翡翠色の石がはめ込まれたネックレスを示した。
「じゃあ、朧のおすすめにする」
「うーん……水丸は水色だから、私はやっぱり青かな」
椿の顔の横で守護使役の水丸がふあふあと揺れた。
君には明るい青が似合うよ、と言っているようだ。
由愛は自分の守護使役に語りかけた。
「てんこはいま葉っぱが一枚だけど、成長したらどんな姿になるのかしら?」
緑色は里桜が選んだものとかぶってしまう。藍も椿が選んだ青に色が近い。もし、成長したてんこが花を咲かせたなら、どんな色の花になるのだろうか。
悩んでいると、てんこが葉っぱの先で金色の石がはめ込まれたネックレスを指した。
「あ、なるほど。由愛さんの目と同じ色の石ね。うん、いいと思う」
「とても素敵です」
二人に勧められて、由愛は金色の石がはまったネックレスを手に取った。
「そうそう、チビ雪だるまたちにも何か似合うものを探してあげたいです」
「じゃあ、チビも御揃いのネックレスを買ってあげましょう」
せっかくだしね、と椿。
「でも、この子たちの首……っていうか、くびれ? 意外と太いですよ。つけられないような気が……」
試しにつけてみた。が、やっぱり鎖の長さが足りない。
「チビたちには、こっちの雪の結晶をモチーフにしたブローチとかどうかしら?」
ネックレスの雪の結晶と同じデザインだし、これなら胸に留められる。
一緒に小さなクリスマスリースの飾りを買い、チビ雪だるまの体を飾った。鏡に姿を映すと、飛び跳ねて喜んでくれた。
「よかった。喜んでくれて」
「私たちまで嬉しくなってきますよね。ところで、そろそろお茶にしましませんか?」
由愛はいい雰囲気の喫茶店を見つけると、二人を連れて行った。
「えっと、私は紅茶を……チビたちも何か食べたいものがあるでしょうか?」
自分たちもご相伴に預かれると知り、チビたちはチャイルドシードの上で飛び跳ねた。
「……アイス、とかでしょうか?」
目を輝かせてこくこくと頷く。
「じゃあ、苺サンタのミニパフェなんてどう? わたしはこっちの抹茶ツリーパフェにする。里桜さんは?」
「温かい緑茶と、このサンタとトナカイの上生菓子をお願いします」
「あ、私も。紅茶のお茶請けに同じ和菓子をください」
注文の品が揃うと、美味しいわよねと、笑いながら食べた。最初はぎくしゃくしていた雰囲気もお喋りしているうちに和み、閉店まで楽しい時間を過ごした。
「12時までどうしよう?」
クリスマスは特別に観覧車が一晩営業していることを知った三人は、ショッピングモールの隣のホテルに部屋を取った。
今日使ったお金のうち、いくらかはファイブが必要経費として出してくれるはず……。
「きちんと見送るまでが、私たちの仕事ですから」
「そ、そうよね」
「荷物を置いたら観覧車へ行きましょう」
●光邑家のイブ
「リサは買い物で忙しいし、一悟には荷物を持ってもらわんとあかんし……」
消去法で研吾が三体のチビを抱えるとこになった。
「うーん。赤い服を着ていたら、じいちゃん、痩せたサンタクロースに見えなくもないぜ」
「やかましい。しっかりリサの手伝いせえ」
じゃれ合う男たちをしり目に、リサは長いリストとにらめっこしながらどんどん食品をカゴに放り込んでいく。その量は去年と比べて倍だ。
「今日はイチゴのバースデーだもの。腕によりをかけてお料理を作るから、しっかり食べて頂戴ネ」
そう、今年から孫と三人で暮らしだしたのだ。去年は夫婦二人だったので、今年はずいぶん賑やかなクリスマスになりそうだ。
一悟が発現した、と娘から電話で聞いたときは、夫婦で心配した。まだまだ、覚者の数は一般人に比べて少ない。理解の浅い地域では憤怒者たちが幅を利かせ、覚者(または隔者)たちを手あたり次第攻撃していると聞いていたからだ。
案の定、一悟は地元で浮いた存在になった。
五麟市に転校させたい、と娘に相談されたときは、二つ返事で同居を承諾した。
「せや。きょうは一悟の誕生日やからな。家でチビらと一緒にクリスマス&バースデーパーティーや」
パーティーという言葉に、チビたちも楽しそうにはしゃぎだした。
途中、短いながらも各自自由行動の時間(じつはそれぞれ相手に送るプレゼントを買いに走っていた)を挟み、バンの後部座席を倒したスペースが満杯になるまで買い物を続けた。
「よっしゃ、帰るで。忘れもんはないか?」
「ケンゴ、おチビちゃんたちを乗せ忘れているわヨ。ちょっと荷物を整理してスペースを作ってあげないと……」
忘れとった、といって慌ててバンを降りる。
研吾は後部ドアの前で並んで膨れている三体のチビたちに謝った。
「オレの膝の上に乗せればいいよ。ちょっと冷たいけどな、家までなら我慢できるぜ」
「チビらと一緒にシートベルト、締められへんやろ。お巡りさんに怒られるで」
「妖は別にいいんじゃないノ?」
愛妻の意見に、そやな、とあっさり同意して、研吾は運転席に戻った。
五麟市の家に戻ると、夕食までそれぞれ用事を済ませることになった。
「よし、やるか。大掃除。誕生日だしな。うん、誕生日だし……って、おい! 人のマンガを勝手に読むなよ!」
一悟はあわててチビからちょっぴりムフフなマンガを取り上げると、一緒に部屋の掃除を始めた。今朝、車の中で言われたことを気にしていたようだ。
(あ、こいつのプレゼント。これにするか)
ずいぶんと適当な……。
一悟はチビが後ろを向いている隙に、適当な紙袋にムフフなマンガを入れた。
研吾は自宅横の事務所兼作業場にいた。
「これをここにはめ込んだらたら完成や。どや、木槌で叩いてみるか?」
リサにダメ出しされるまで、一悟へのプレゼントに、とコツコツ作っていたソリ(完全和風)をチビとふたりで仕上げていた。
宮大工の棟梁が最高級の材木で作ったソリである。ネットに出せばすぐ買い手がつきそうだが、どうやらチビたちへのプレゼントにするつもりらしい。
リサはチビに手伝ってもらって大急ぎでチキンとケーキを焼きあげると、居間のこたつに入って小さなマフラーを編みだした。
「お手伝いアリガトウ。プレゼントあるわヨ。ちょっと、待ってネ」
寒かったが、チビのために縁側の障子は開けていた。ふと、庭に目を向けると白いものがふあふあと降りだした。
「アラ、雪が……」
こたつを出て、障子をしめに行った。
研吾ができたばかりのソリを持って戻ってきていた。庭の池の前にソリを置くと、玄関へ回った。 リサは障子を閉めると、こたつの上でうたた寝しているチビに微笑みかけた。
「メリークリスマス。そんで一悟は誕生日おめでとうさん」
「ハッピーバースディ・イチゴ。来年も良き年でありますように」
一悟は研吾からはランニングウェアを、リサからは新しい陸上シューズをプレゼントされた。
「実家のパパとママからもサプライズが。はい、欲しがっていた赤のデジタルオーディオ。あとで電話しなさいネ」
「じいちゃん、リサさん、ありがとう。母ちゃんと父ちゃんにもお礼をいっとくよ。あ、オレからも2人にプレゼントがあるんだ」
研吾とリサもそれぞれ一悟からプレゼントを貰った。
「さて、ちょっとみんなで記念写真でも撮ろか? 一悟、食後の運動や。チビたちの為に庭で雪のトナカイを作ったってくれ」
チキンを頬張っていた一悟が、へっ、と顔を上げた。
「何を作っているのかと思ったら、ソリだったのか。……て、オレが雪でトナカイを作んの?!」
「ほかに誰がおるんや。頑張って夜中までに作ってや。クリスマスのミサに行かなあかんからな」
オレ、信者じゃないんだけど、と一悟。
俺もちゃうで、と研吾。
日頃、神道仏教に付き合わせているので、クリスマスだけは毎年リサの信仰に合わせているのだと言う。
なんとか雪をかき集めてトナカイを作りあげると、チビたちをソリに乗せて写真をとった。
一悟はトナカイの角を頭につけ、研吾とリサはサンタ風のケープを肩にかけて。チビたちはリサが編んだ色違いのマフラーをそれぞれ首に巻いて。
「さあ、教会へ出かけましょう」
●さよなら。また来年?
二組はそれぞれの場所で、チビ雪だるまたちと別れの時を迎えていた。
女子三人組は観覧車の上で。てっぺんに達したゴンドラから、イルミネーションに輝く街を眺めて楽しんでいる時にそれは始まった。
淡く黄金色に輝きだしたチビ雪だるまたちが、キラキラと光る雪の結晶となって雪の降る空へ少しずつ帰っていく。
「寂しいわ」
椿は膝の上でチビの頭を撫でてやった。
「私の水の力で維持は……。出来ないのよね。仲良くなれたのに……」
「わ、私と……お友達になってくれませんか……?」
由愛は小声でチビに囁きかけた。由愛を見上げるチビの顔はとても悲しげだ。
「さよなら。できればまた来年、お会いしたいです」
里桜の言葉に、チビたちが微かに頷いたような気がした。
「約束よ」
最後の煌めきとともに、星の結晶のブローチと小さなリースも消えた。
「アーメン」
光邑家はクリスマスミサの最中に、チビたちの昇天の時を迎えた。
オルガンと讃美歌が聖堂に響くなか、一悟の膝に乗っていた三体のチビたちがキラキラと光る雪の結晶に変わっていった。ステンドグラスを背景に三本の光の柱が立ち昇る。
「これがクリスマスの奇跡ってやつか」
研吾とリサも、このクリスマスの奇跡を一悟の両脇から暖かなまなざしで見つめる。
――メリークリスマス。
――素敵な時間をありがとう。
――また、雪降る日に。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
