《聖夜2015》虹色羊とクリスマス
《聖夜2015》虹色羊とクリスマス


●小さな祝福
 ぱらぱらと、白い空から粉砂糖に似た六花が落ちてくる。
 昼にこの量だったら、夜になればうっすらと周辺に白い絨毯が敷かれる程度に積もるだろう。
 でも、それ位がきっと丁度いいと思ったのは今はもう使われない廃教会の中で未だ美しく輝き続けるステンドグラスの付喪神で。
 淡いパステルカラーの毛を纏った、一匹の古妖――虹色羊。

 ねぇ、シスター。
 もしあの人達が言ったことが叶うなら。
 今夜はきっと賑やかになるね。

 虹色羊は教会内の祭壇前でゆっくりと頭を下げる。
 最期まで、自分の傍に居てくれた優しいシスターが眠る場所へ語りかけた。
 凛と立つ十字架が、微笑んでくれている気がして羊は柔らかな毛をもふもふ揺らす。
 生前彼女が暖かな手で自分を撫でてくれた、その時を思い出して。

 ふと、頭においてあるものがずれそうになって慌てて顔を上げる。
 だいじょうぶかな、大丈夫だった。よかった。
 ちょこんと羊の頭に乗っていたのは、小さな小さなサンタクロースの赤い帽子。
 もう一度だけふわふわの身体がもふんと揺れた。

●廃教会で聖夜を共に
「初めましての人が多いかな」
「そらそうだろうよ、私なぞ多分大凡全てに置いて初めましてだ」
 F.i.V.E内での告知を見て集まってきた覚者達に2人の男女が出迎えたのは昼過ぎの玄関前。
 一人は優しそうな顔をした大男で、もう一人がどうにも胡散臭い笑みを浮かべた凡そ女。
 一通り参加者を待った後、男の方『豹紋の儚』末樹 彪文(nCL2000124)が口を開く。
「来てくれて有難う。告知の通り、クリスマス会をしようと思って」
 ただ場所が此処ではないからと微笑むと、女の方『裏銀屋』末樹 小灰蝶(nCL2000053)が前に出る。
 その肩にはこの時期を連想させる白くて何やら色々入った大きな袋が担がれていた。
「ちぃと前に『古妖狩人』共が荒らそうとした所が今回のパーティ会場だ」
「姉さん、それは余り伝わらないと思うよ……あのね。久方 真由美(nCL000003)さんが担当した古妖の仕事があったんだ」
 それは郊外にあるもう誰も通わなく成った古い教会で起きた一つの事件。
 人は誰も居らずとも、一匹の無害な古妖がずっと住み着いていて。
「憤怒者達がその古妖を捕らえようとしたのを、此処の覚者の人達で防いでくれてね」
 そうして今も、古妖――ステンドグラス色の瞳と角を持った虹色の羊が其処で暮らしている。
「久方さんからその子の件、俺が引き継いでたまに様子を見に行くことにしたんだ」
 勿論あの件に関わった覚者達も見に行ってくれているから、今の所虹色羊が再び襲われると言った夢は観ていないと夢見が告げる。

「でだその羊……アルカンシエルと言ったな。長いからアシエルと私は呼ぶ」
 小灰蝶が当然のように言えば本題はこれからだと付け加えた。
「アシエル一匹と教会に埋葬されているシスターだけでは聖夜も味気ないと思ってな。我々もどうせ二人きりだ。然し折角パーティするなら人が多い方が面白いだろう?」
 愉快そうに笑う女の魂胆は読めないが、ようは廃教会で古妖と一緒にクリスマスを過ごそうと言っているに他ならない。
 ちなみに事前に羊に聞いたらもふもふと二つ返事でOKを貰ったそうだ。
「早めに行って軽く教会を綺麗にして軽く飾り付け、からのパーティ開始だ。ま、余り暴れてくれるなよなんせ築ン十年じゃ効かない建物だ」
 墓もあるしな、と愉快そうに笑う女が歩き出せば男もじゃあ行こうかと穏やかに後を付いて行く。

 雪は夕方頃に止むだろう。
 満点の星明かりの下、少しだけ明るい廃教会にして。
 やわらかもこもこ、ふわふわな虹色羊とささやかなクリスマスを共に過ごそう。


■シナリオ詳細
種別:イベント
難易度:楽
担当ST:緑歌
■成功条件
1.教会を飾り付ける
2.虹色羊と一緒にクリスマスを楽しむ
3.お片づけはきちんとする
宜しくお願いします緑歌です。
初イベントでクリスマスです。

▼イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。

▼会場
 郊外の廃教会。周囲には花畑もあります。
 こじんまりとしてますがそれなりの広さ。
 中はそのまま放置されてる長椅子が幾つか、と一番奥は祭壇が一つ。
 祭壇前には教会に最後迄従事していたシスターが眠る十字架を立てたお墓があります。

▼虹色羊
『【古妖狩人】廃教会と虹色の羊』で登場した古妖です。
 廃教会のステンドグラスから生まれた付喪神で大人羊程度の大きさ。
 優しかったシスターと共に過ごし、今は一匹で暮らしています。
 パステルカラー色のふわふわな毛に包まれた丸っこいフォルム。
 巻角と瞳はステンドグラスのようにキラキラ極彩色で輝いています。
 人懐っこい性格の為優しく接すればすぐに懐いてもふもふできます。
 名前がありますがプレイングは羊と書いて頂ければ古妖宛と判断します。
 甘いものが好きなようです。

▼流れ
 夕方迄会場飾り付けと準備。
 夜にパーティ開始の流れです。
 メインはパーティなので準備は軽い描写にする予定です。

 飲んで食べて楽しむもよし。
 虹色羊を構い倒してもふもふするのもよし。
 お友達とプレゼント交換とかもいいかもしれません。

 飾りや軽食、飲み物はある程度用意しておりますが持ち込み歓迎。
 ただしケーキに関しては神具庫のクリスマスケーキを所持してる方のみ描写となります。
 また同じく神具庫のプレゼントボックスを所持されていると羊サンタが何かするようです。

▼NPC
 末樹 小灰蝶(nCL2000053)と末樹 彪文(nCL2000124)が参加します。
 飾り付け手伝いの後は隅の方でシャンメリー飲んでます。
 お声をかけて頂ければ彼等なりに返事します。
 この二人は何でも食べます。

▼諸注意
 未成年の飲酒・喫煙。
 また教会の破壊行動等行き過ぎた内容は描写されません。

皆様のプレイングお待ちしております。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
(1モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
50LP
参加人数
20/30
公開日
2016年01月01日

■メイン参加者 20人■

『ママは小学六年生(仮)』
迷家・唯音(CL2001093)
『イランカラプテ』
宮沢・恵太(CL2001208)
『月下の白』
白枝 遥(CL2000500)
『五行の橋渡し』
四条・理央(CL2000070)
『ホワイトガーベラ』
明石 ミュエル(CL2000172)
『行く先知らず』
酒々井・千歳(CL2000407)
『在る様は水の如し』
香月 凜音(CL2000495)
『白い人』
由比 久永(CL2000540)
『桜火舞』
鐡之蔵 禊(CL2000029)
『月下の黒』
黒桐 夕樹(CL2000163)
『使命を持った少年』
御白 小唄(CL2001173)
『Queue』
クー・ルルーヴ(CL2000403)

●待ちきれない幸福
 何時かの時と同じように、ゲイルがそっと廃教会の扉を開いた。
「おっ……っと」
 突然大男が止まるもので、後続が驚き少々詰まって。
「何だぁ? ……嗚呼、居たのか」
 後ろから顔を出した小灰蝶が呆れた声を上げる。
 扉の前でずっと待っていたのだろうふわふわの塊が見上げて皆を出迎えた。
 何処と無くその瞳と角が、キラキラと嬉しそうに輝いている。
「羊さんだ!」
 唯音が顔を輝かせ叫ぶと同時に、今日の参加者達が教会の扉を抜け入ってくる。
 友達の顔も、初めましての人達も虹色の羊は一人一人の前に来てもふもふと身体を揺らした。
 それが挨拶だと識れば、皆も古妖へ挨拶を返す。
「教会じゃ騒がしいパーティーよりミサとか静かな方が似合いそうだけど、今年は騒がしい方で勘弁してね」
 顔を見せた理央の言葉に、虹色羊が見上げてふるふる尻尾と首を横に振った。
 うれしいよ、と言わんばかりに柔らかな身体を動かし思いを伝えて。
「良かった、それじゃ飾り付け前に掃除だね」
 友達を撫でた後、先ず彼女は祭壇前の十字架に黙祷を捧げた。
 シスターに挨拶を済ませ、日が暮れる前に終わらせようと理央の号令に皆も動き出す。
 22名が作業をすれば掃除もあっという間。
 埃を粗方取り、飾り付けで教会内を明るく彩る。
 古びた長椅子に綺麗なテーブルクロスを敷いて、雪だるまのランプを沢山置けば日が沈んでも皆の顔がよく見えた。
「テーブルは持参した人も居るのかな。料理とか、置ききれない分は長椅子を代わりに使おうか」
 ランプ片手に彪文が告げる。
 皆の持ち込み料理や甘い香りに、虹色羊の鼻が忙しなく動いていた。
「あともう少しかな、冬佳さん。その飾りをとってくれるかい?」
 折角のクリスマスだからと千歳が飾り付けているのは子供サイズのミニツリー。
 煌めくラメ入りモールを巻き付けて、色とりどりの玉飾りにクッキーもぶら下げる。
「これで良いでしょうか、酒々井君」
 冬佳が大きな星を千歳に差し出せば、小さな樅木の天辺に金色の輝きが飾られた。
 完成したツリーと、教会内のささやかなデコレーションに虹色羊も満足そう。
 これで準備は、万端だ。

●クリスマスナイト
「メリークリスマス!」
 今宵を祝う言葉が廃教会に響き渡り、パーティが始まった。
「今回はクリスマス会だから、いっぱいお料理をつくったよ!」
 ちょっと作りすぎたと笑う禊が次々に並べる甘いお菓子や軽食達。
 最後に用意した20号のケーキにも古妖は驚いた様子で禊を見上げた。
 これはなに?と視線で尋ねる虹色羊をもふっと抱きしめ禊は甘いモノだよと教えてあげる。
 途端にふわふわの身体を揺らして喜ぶから、早速一口差し出した。
 頬張ってその美味しさを全身で表現する毛玉に禊も笑顔が溢れ出る。
 折角だから皆が楽しめるようにと、周りの人にも料理を奨めた。
「うちのケーキも……食べる? クッキーも……持ってきたよ」
 【アル缶】の皆で逢いに来たミュエルも持参した白いブッシュドノエルを差し出す。
 先程と違うケーキに鼻を寄せ興味を示す虹色羊を見やれば、一切れ切り分けた。
「クッキーはジャムを乗せて焼いたよ……ステンドグラスみたい、でしょ……?」
 折り畳みテーブルの上にケーキとクッキーを乗せると一つずつもにもに平らげていく。
 嬉しくて揺れる柔らかい毛を撫でながら、もう一切れはシスターにあげるねと微笑んだ。
「俺も羊さんと同じカラーリングの金平糖を用意したんだ」
 秋人が別の皿にキラキラ光る星屑の菓子を零したら虹色羊と共に久永もじっとそれを見て。
「秋人、余も食べたい」
 袖を引いて欲しがる素直さに和みながらどうぞと一人と一匹に差し出した。
「久しいな、元気にしておったか?」
 一緒に頬張り、序にもふもふも堪能して再会を喜ぶ。
 久永の手土産はベル鈴が付いた首輪だった。首につけてみるともこもこ揺れた後に一つ涼やかな音色が聞こえる。
 ありがとうと、お礼を聞いた気がして。
「トナカイのベルが似合うと思ってな。所でサンタは白くて赤い年寄りと聞いたが……余の事か?」
 髭がないから駄目かと首傾げたら、鏡のように同じく小首傾げる虹色羊。
「まぁよい。そうだ、シスターには手向けにリースを用意したぞ」
「俺もシスターにお供えしたいです」
 お菓子を持って続く恵太に秋人もクリスマスカラーの花束を手に祭壇の前へ。
 付いてきたアルカンシエルと一緒に皆で十字架を飾って祈りを捧げた。
(これからは俺達が、貴女の大事な羊さんを守っていきますね)
 こっそり恵太が撫でていた虹色羊が、何処か幸せそうに毛玉の身体をふわりふわり。
「よし、余からも皆に蜜柑を贈ろう。そなた等もどうだ、礼はシャンメリーで良いぞ」
「喜んで。んじゃ、乾杯するかね」
 久永に小灰蝶がグラスに注いだシャンメリーを差し出す。
 カチンと澄んだ音が響いた。
「紙皿に箸とか、足りなかったら此処にあるよ。後ゴミ袋はこれ」
 【青刻】で遥と参加した夕樹は周りに気配りを見せていて。
 その間に遥はシスターの墓標に十字架のペンダントを飾っていた。
「貴女も、楽しんで下さいね……アシエルくんにもお揃いだよ」
 大人しく虹色羊は傍に寄り、角へ飾って貰うとお揃いを理解したか燥いでいる。
「ユウちゃんにもはい、メリークリスマス!」
 次に幼馴染へ渡したプレゼントはルビーが輝くイヤーカフ。
「メリークリスマス、ハル……俺からはまぁ、お守りみたいなもんだよ」
 合わせて差し出したのは彼の誕生石を嵌め込んだ腕輪の贈り物。
 喜ぶ遥が虹色羊に腕輪を見せ、もふもふもさせて欲しいとお願いすると二つ返事で了解貰って。
 目一杯柔らかな弾力を抱きしめ戯れる姿を夕樹が写真に収めていたら古妖が寄ってきた。
 触りたかった子が自分からやってきて、自らふわふわを擦り寄せてくれる。
 暖かくむず痒い気持ちになった夕樹に遥が微笑ましそうにトライアングルを差し出した。
「余興くらいにはなるかな……?」
 白い少年が蝋燭を手に、羽を広げて歌う賛美歌が教会内に響き渡る。
 黒い少年が矢張り照れながら、演奏で歌声に華を添えていた。
 目を閉じて聴き入るアルカンシエルの背に、もふんと小さい身体がひっつく。
「ゆいね羊さんにこれあげる!」
 顔を見合わせ方や不思議そう、方や笑顔で見せたのは唯音が編んだ花の首飾り。
 そっとかけるとパステルカラーの毛玉が更に華やかになった。
「かわいい! とっても似合ってる!」
 ケーキも見せれば古妖は直ぐ様あーんの構え。
 一切れ与えおいしい?の問いに何度も体を揺らして頷いた。
「羊さんはひとりぼっちで教会を守ってるんだよね、えらいね」
 大好きなシスターはきっと天国から見守ってるから。
 安心させたくて目一杯撫でると擦り寄ってくれた。
「ウール100%はあったかいねえ。メリーメリークリスマス!」
 更に虹色羊の後ろから、椿花がもふりと飛びついて。
「凜音ちゃん、羊さん! もふもふー!」
 身体全体で感じた感動的感触を大声で報告する様子に、凜音は和やかに見つめて頷く。
「羊さん乗ってみたいけど、ちょっと高いんだぞ……」
「椿花。こういう時は素直に思ってる事を言えばいいんだぞ」
 でかい羊と悩み顔の少女に小さく微笑み提案すると、おにぃの言葉に凜音の顔もぱあと輝いた。
 素直に乗せて欲しいとお願いする姿、そしてその小さい頭を撫でながら乗せて欲しいと頼む大きな背を交互に見て虹色羊はふわふわ頷く。
 差し出されたクッキーをもりもり頬張る古羊の背へ、凜音は椿花を姫抱っこしてもふっと乗せた。
「凜音ちゃん、ありがとう! 大好きー!」
 感激を伝える椿花に小首傾げたがあんまりにも気持ちよさそうに抱きついているのでやっぱり微笑ましさに変わっていく。
 うとうとし始めた少女を凜音は羊ごと撫でて、もう少しだけこのままお願いとお菓子片手にあっさり交渉成立させた。
 目覚めた椿花が大好きなお兄ちゃんにクリスマスプレゼントを差し出したのはもう少し先のお話。
「もふもふいいじゃない! もふもふ羊よ!」
 次にアルカンシエルへ声をかけたのは、否千聖はもう手招き序にふわふわを堪能していた。
「こんな古妖もいるものねー、中々可愛いじゃないもっふもふしてるしっ……って、何撮ってんのよ!」
 暫しもこもこに魅了されていたがカメラのシャッター音に気付いて同行者に抗議する。
「食い気の方が勝ってそうとか思ってたけど、明日見はもふもふが良いんだな」
 鷲哉のマイペースな返事に千聖が憤慨したがやっぱり彼は飄々としていて。
「古妖にも色々いるよなー……」
 パステルカラーの色は兎も角形は普通の羊と大差ない。それでも古妖だと憤怒者に狙われた。
 脅威が去って今はすっかり落ち着く眼前の光景が、自分達覚者だけでなく一般人にもあればいいのにと願わずにいられない。
 ふと、鷲哉の脳内に別の意識が浮上した。
「……明日見明日見。はい」
 何を思ったか両手を広げる男に、怒っていた千聖が更にヒートアップする。
「あんたをもふるワケないでしょーが! ったくもー油断もスキもあったもんじゃないわ!」
「だよなー。まぁそう言われるとは思ってたけど、明日見がここで飛び込んできたらちょっと驚くわ」
 緩やかな笑顔に、最初こそツンツンしていた千聖の熱が段々落ち着いてくる。
「…………まぁ、気が向いたらね」
 物凄く空いた間の後の言葉に、彼が小さく笑いかける。
「つか……ありがとな。付き合ってくれて」
 二人のやり取りを温かい気持ちで見守った後、自分を呼ぶ声に気付いてゆっくりと虹色羊が頭をそちらへ向けた。
「これがアルカンシエルかー。わ、ほんともふもふしてる!」
「初めまして。羊さん」
 奏空と一緒にやってきたたまきが暖かそうなレッグウォーマーを古妖に見せる。
「羊さんが喜んでくれそうなプレゼントを私なりに考えたのです」
 初めて目にする贈り物をまじまじと見つめるのでたまきが実際に履かせてあげると全体のもこもこ度が上がった気がした。
 古妖も気に入ったようで興奮気味にふわふわの身体をすり寄せ礼を告げている。
 二人揃って柔らかさを堪能した後はお菓子も一緒に食べ始め。
 ケーキが美味しいと頬張る奏空にたまきが目元を緩ませた。
「わ、先輩ありがとう!」
 小唄もクーが持参したフルーツケーキを食べようと言ったら満面の笑みを浮かべている。
「クーでいいですよ。一口どうぞ」
 フォークで掬ったクリーム塗れのフルーツは、いただきまーす♪の元気な声が聞こえ少年の口内へ消えていく。
「おいしいー♪ あ、僕のチョコケーキもあげるね!」
 お返しに差し出した一口もクーが同じようにあーんで食べて。
 美味しいの素直な感想に無邪気な笑顔が返ってくる。でも彼は勢いよく食べてしまったからか、鼻先には頬張った際についたクリームが。
「少し動かないでください。……取れました」
 つい指先で拭ってから、どうしようかと悩む。
「え、あ……ありがとうございます」
 恥ずかしそうな小唄を見て、何となくクリーム塗れの指をぱくりと食べて片付けた。
「たまにはこういう事も、いいですよね」
 笑い合えば友達のような、姉弟のような気がして。
「えへへ、メリークリスマスです、クー先輩!」
 楽しい気持ちはケーキに込めて、虹色羊にもおすそ分け。
 どの味も美味しそうに食べ尽して古妖の口周りもクリーム塗れになっていた。
「やあ、今日はお誘いありがとう。サンタの帽子、似合ってるね」
 千歳に褒められ、羊サンタが照れた仕草を見せると先程追加された鈴もチリンと鳴り響く。
「こんにちわ、アルカンシエル。お邪魔させていただきますね」
 隣の冬佳も改めてご挨拶。虹色羊も丁寧に頭下げたがうっかり帽子を落としそうになって。
 二人で直してあげたらまた鈴が鳴った。
 少し触っても良いかい?の問いにはむしろ向こうが柔らかく突撃してきてくれる。
「絵本にでも出て来そうな子だねえ、それにふかふかだ。ほら、冬佳さんも」
 彼が堪能した後、彼女に促す。
 伸ばした手は何の抵抗も無く柔らかな毛の中に埋まっていく。
「……大丈夫だって見せてあげないとですね」
 長い時を教会と共にしたステンドグラスを見上げる。
 視線戻すと先の付喪神が二人を円らな瞳で見詰めていて。
 大人しい姿に虹色羊いかに大切にされていたのかを実感する。
 だからと何度も撫でて古妖を励ますとふわふわ弾んで応える虹色の毛玉。
 その様子を眺め千歳が可愛いねえと恰好崩して微笑んだ。
「君は此処で良いのかい?」
 少し離れた場所でパーティを眺める理央に彪文が声をかける。
「お祭りを盛り上げるのは苦手だし、こうやって皆が盛り上がってるのを見て楽しむのも楽しみ方の一つだよ」
 飲み物片手にゆるりと笑う。成程、と返した後傍にケーキを見つけた。
「お、ケーキ持ってきてるじゃないか」
 身を乗り出す小灰蝶にいつの間にか虹色羊までやってきて物欲しそうにそれを見ていて。
 どうぞと差し出せば、一緒に食おうと誘いの声とグラスが傾けられた。
 乾杯の音色が、また一つ鳴り響く。

●虹色の贈り物
 ふと、アルカンシエルはゲイルが自分に何かの機械を向けているのに気付いて。
 それなあにと覗き込むように見上げても、彼は笑って後で解ると返した。
 首傾げた虹色羊だがあっと何かを思いつき、とことこ身体を揺らし皆の中心にやってくる。
 集まってくれた皆を見渡して、沢山の飾りですっかり綺麗になった十字架を見て。
 最後に自分を見上げた後、くるんと一回転した。
 くるんくるん、まるで大きな毛玉が弾むように何度も跳ねる。
 最後に一回り身体が膨らんでポップコーンのようにぽんと弾けた。
 古羊の毛が小さく飛んで、それは廃協会の中で降る虹色の雪の様に柔らかく落ちていく。
 気が付けば皆が手にしているプレゼントボックスにふわりとくっついた。
 きょうはきてくれてありがとう。
 幸せそうな瞳がまた、皆を見渡した。

●またねの思い出
 終わりは誰かが言い出さなくても片付ける為に動き出す。
 思い出をしまう気がして少しだけ寂しいけれども、元通りにしていった。
「でも少しは形に残したいでしょ。これは何となく……オマケだよ」
 夕樹が教会の一角に飾ったのは今日の時間を切り取った写真立てとすねこすりぐるみ。
 中でも遥が用意した虹色羊や覚者達のマジパンを乗せたケーキを共に食べる一枚が一番良く撮れていて。
 形に残る思い出と、新しい友達ができたと思ったアルカンシエルは食い入るように見つめている。
「俺からも、羊サンタさんにプレゼントだ」
 ゲイルも先程動かしていた機械を見せた。
 記録されたムービーは沢山の人に撫でられ、お菓子を頬張る古妖の姿が映っていて。
 どのシーンにも虹色羊は再び毛玉を飛ばさんばかりに喜んだ。
「勿論シスターの分もあるぞ」
 とっておきの写真達を十字架へ一緒に供えた後、祈りを捧げる。
 天国の彼女に彼の幸せを少しでも伝えて安心させられたら。
 願ったと同時にぼふりと大きな毛玉がゲイルにくっつき顔を上げる。
 これもおこう、と口に咥えた彼のケーキを一緒に食べている一枚を見て男は笑った。
 そっと禊も虹色羊の隣にしゃがんで、目を閉じ手を合わせる。
「シスターさん。あなたの大切なお友達は、もうひとりじゃないよ」
 最後迄優しい時間が流れていく。
 片付けも済んで、名残惜しいけれどもお別れの時間。
 それぞれが帰り支度をしていると、たまきがお疲れ様と奏空に暖かいマフラーを差し出した。
 購入したものだったけれども、彼女なりの気遣いに少年は自然と笑顔になる。
 心の準備もままならない侭覚者として過ごした日々に感じた疲れを見抜かれたのだろう。
 優しい言葉と好意を受けて、小さなお礼と共に彼はそっと手を差し出した。
 たまきは笑って応えて手を繋ぐ。心も冷やしそうな寒さを、手から温めるかのように。
「あとね、これ、プレゼント……」
 照れながら差し出された贈り物は今宵の星空を閉じ込めたトンボ玉付きのタッセル。
 髪に飾っても綺麗だよとはにかむ笑顔がやはり暖かかった。

 空はすっかり晴れていて、うっすらと積もった雪が月明りに煌めいている。
 何度も手を振って、さようならよりまたねの声が明るく弾む。
 覚者達が見えなくなる迄、廃教会の虹色羊は入り口でずっと見送っていた。
 また、あそびにきてね。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『虹彩毛玉守』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:迷家・唯音(CL2001093)
『虹彩毛玉守』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:白枝 遥(CL2000500)
『虹彩毛玉守』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:四条・理央(CL2000070)
『虹彩毛玉守』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:ゲイル・レオンハート(CL2000415)
『虹彩毛玉守』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:鈴白 秋人(CL2000565)
『虹彩毛玉守』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:明石 ミュエル(CL2000172)
『虹彩毛玉守』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:酒々井・千歳(CL2000407)
『虹彩毛玉守』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:神楽坂 椿花(CL2000059)
『虹彩毛玉守』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:香月 凜音(CL2000495)
『虹彩毛玉守』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:由比 久永(CL2000540)
『虹彩毛玉守』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:鐡之蔵 禊(CL2000029)
『虹彩毛玉守』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:黒桐 夕樹(CL2000163)
『虹彩毛玉守』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:工藤・奏空(CL2000955)
『虹彩毛玉守』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:御白 小唄(CL2001173)
『虹彩毛玉守』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:クー・ルルーヴ(CL2000403)




 
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