毛玉サルベイション
毛玉サルベイション


●蔵の中に棲む黒毛玉
 ――今年ももう、残すところあと僅かとなった。五麟大学の考古学研究所とも関わりのある、とある神社の古びた蔵では、数年ぶりとなる大掃除が行われようとしていた。
 其処には判読の難しい古文書やら、年代不明の骨董品やらが無造作に詰め込まれていて、関係者もその存在を忘れかけていたらしいのだが――流石にまずいだろうと言うことで、今回重い腰を上げて蔵を開けることになったらしい。
「……うむ。人手が足りないと言うならば、仕方ないだろうな」
 しかし、暫くひとの立ち入ることの無かった蔵の掃除となると、尻込みする者多数であり、仕方がないのでF.i.V.E.の方から手伝いを寄越すという話で纏まっていた。――で、やって来たのは、偶々暇そうにしていた『銀閃華』帯刀 董十郎(nCL2000096)であったのだ。
 ぎぃ、と如何にもな音を立てて分厚い扉が開き、差し込む陽光に埃がふわりと舞い上がった。やはりと言うかかび臭いが、腹を括って掃除をしなければと、彼が決意したその時だった。
(……もきゅー)
 ――蔵の奥、薄闇に紛れるようにして何かが居る。それは黒く煤けたような毛玉のような物体で、何やらもぞもぞと一杯に蠢いているようだった。
「何、だ……?」
 訝しむ董十郎が、奥へと向かって一歩を踏み出した時、『それ』は動いた。埃塗れで薄汚れていたが、それは確かにふかふかでもふもふしていたのだ!
「ぬ、ぬおおお……ッ! むぎゅ」
 董十郎の悲鳴が、其処で不意に途切れる。何と神社の古びた蔵の奥には、まんまる毛玉の古妖――ケサランパサランがいつの間にやら住み着いていたのだった。

●ケサランパサラン再び
「そんな訳でね、ちょっと人手が欲しいと言うことで、みんなに声を掛けてみたんだけど……」
 複雑な表情で苦笑いを浮かべつつ、『月茨』浮森 瞑夜(nCL2000119)が仲間たちへ向けて両手を合わせる。何でも大掃除のお手伝いに行った董十郎が、蔵の中で古妖――ケサランパサランに遭遇、元々沢山住み着いていたのか蔵の中で増えたのかは分からないが、数が多すぎて一時撤退してきたらしい。
「多分何年も蔵の中に居たから、煤とか埃ですごく汚れちゃってるみたい。本来は白い毛玉みたいなんだけど、黒毛玉っぽくなってて……仕方なく神社の庭で洗って汚れを落として、乾かすことにしたみたいなんだ」
 数十匹ものケサランパサランが、もきゅもきゅ言いながらビニールプールで泡だらけになるのは微笑ましい光景かもしれないが、何せ数が多い。なので、古妖――特にふわもこ系が好きなひとが居るのなら、是非手伝いに行って欲しいのだと言う。
「なんか、董十郎さんは変な顔で殺気だって『蔵を綺麗にするまでは死ねない』とかぶつぶつ言って、沢山掃除用具を抱えて向かったから、蔵の方は任せても問題ないと思うけど……」
 どうやら彼は潔癖症なところがあるようだから、汚れは我慢できないのだろう。そんな訳で蔵掃除は彼に任せて、皆にはケサランパサランの相手をして欲しいのだと瞑夜は言った。
「泡だらけになって彼らを綺麗にしてあげるのもいいし、神社の縁側でケサランパサランを乾かしついでに日向ぼっこするとか、ゆっくり楽しんでも大丈夫だと思うよ。その子たちもずっと暗がりに居たから、久しぶりに見る外の世界を楽しみたいと思うし」
 それに、ひと恋しさもあるようだから、スキンシップついでにもふもふしてあげれば喜んでくれるかも、とのこと。神社の神主さんが、お茶やお菓子も差し入れしてくれるようだから、午後のひとときをのんびり過ごすのも良いだろう。
「その後、ケサランパサランはF.i.V.E.の方で、ちゃんと山に帰してあげるみたい。年末も迫っているし、今は忙しい時期だとは思うんだけど……」
 ――たまには、のんびりと古妖と戯れて日頃の疲れを癒して欲しい。幸運をもたらす存在とも伝えられる彼らと、今年最後の思い出を作るのはどうかな――そう言って、瞑夜は手伝いに行ってくれる仲間たちを「いってらっしゃい」と言って見送ったのだった。


■シナリオ詳細
種別:イベント
難易度:楽
担当ST:柚烏
■成功条件
1.神社の大掃除のお手伝いをしつつ、楽しむ!
2.なし
3.なし
 柚烏と申します。気が付けば今年も残すところ僅かですね。色々な事件がありましたが、締めくくりには古妖さんと戯れ、もふる思い出もひとつ作ってみるのは如何でしょうか。

●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。

●こんな事ができます
・古妖ケサランパサランと水遊び(洗ってあげる)
・古妖ケサランパサランと日向ぼっこ(乾かす)
・お茶とお菓子でのんびりと過ごす
・せっかくなので蔵の大掃除に協力なんかも

●古妖ケサランパサラン×たくさん
神社の蔵に住み着いていた古妖です。ふかふか、もふもふの白い毛玉につぶらな瞳のついた、手のひらサイズをしています。ずっと蔵の中に居たので黒毛玉になっており、また人恋しさもあってスキンシップをしてあげると喜ぶみたいです。もきゅー、と鳴きます。
※綺麗にしてあげた後、責任を持って彼らは住処に帰します。また、皆さんと一緒に居れば何処かへ逃げ出すと言うこともないので、安心して触れ合ってください。

●神社の蔵のお掃除
お昼過ぎから任務開始です。鬼気迫る様子の董十郎が掃除を頑張りますので、ケサランパサランの面倒を見る方に集中して問題ありません。もしかしたら未だ、蔵の中に数匹いるかも位です。
庭先にビニールプール、縁側はぽかぽかです。神主さんがお茶やお菓子の差し入れもしてくれます。

●NPC
董十郎が同行します。基本、蔵掃除は彼任せで問題ありませんが、お手伝いが居れば早く終わりそうです。白の割烹着に三角巾スタイルで、「消毒、消毒……」と呟きながらずっと掃除をしています。

 是非、寒さに負けずふわもこを堪能して頂ければと思います。それではよろしくお願いします。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
(0モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
50LP
参加人数
34/50
公開日
2015年12月25日

■メイン参加者 34人■

『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)
『BCM店長』
阿久津 亮平(CL2000328)
『希望を照らす灯』
七海 灯(CL2000579)
『落涙朱華』
志賀 行成(CL2000352)
『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)
『調停者』
九段 笹雪(CL2000517)
『名も無きエキストラ』
エヌ・ノウ・ネイム(CL2000446)
『ヒカリの導き手』
神祈 天光(CL2001118)
『桜火舞』
鐡之蔵 禊(CL2000029)
『偽弱者(はすらー)』
橡・槐(CL2000732)
『インヤンガールのインの方』
葛葉・かがり(CL2000737)
『月々紅花』
環 大和(CL2000477)
『ホワイトガーベラ』
明石 ミュエル(CL2000172)
『凡庸な男』
成瀬 基(CL2001216)
『イランカラプテ』
宮沢・恵太(CL2001208)
『マジシャンガール』
茨田・凜(CL2000438)
『五行の橋渡し』
四条・理央(CL2000070)
『天を舞う雷電の鳳』
麻弓 紡(CL2000623)
『裂き乱れ、先屠れ』
棚橋・悠(CL2000654)
『可愛いものが好き』
真庭 冬月(CL2000134)

●はじめは蔵の大掃除
 その日は、師走の空とは思えぬほどに晴れ渡っており――神社の境内には、ぽかぽかとあたたかな陽光が降り注いでいた。今年も残すところあと僅か、さっぱりとした気持ちで新たな年を迎える為、繰り広げられるのは年末恒例の大掃除だ。
 ところが神社の蔵には、いつの間にやら可愛らしい黒毛玉が住み着いていて。積もりに積もった埃を洗い流し、彼らもぴかぴかにするべく、うららかな午後の毛玉救済計画がスタートしたのだった。
「ええと、帯刀さん。人手があったほうがいいだろう。手伝わせてもらうよ」
 そう言って、先ず蔵の掃除に加わったのはシキ。彼女の申し出に董十郎は感謝しつつ、けれどシキ自身は蔵の中身に興味があるようだ。普段入ることがない場所――それに骨董品に溢れているなんて、ちょっとした探検みたいじゃないかと思いながら。
「新しい発見もあるかもしれないけど……まぁ、そんなことはわかりきったうえで、なお放置されているのだろうけどね……」
 面白いものが見れるかと思ったけれど、これは真面目に掃除してからでないと手がつけられなさそうだ。やれやれとシキが吐息を零したその時、物凄いスピードで蔵の中を駆け回る少女が居た。
「せっかくだから、私はこの赤の……もとい、蔵の大掃除を手伝うのです!」
 それは覚醒した槐であり、彼女は未だ蔵に残っていた黒毛玉――埃まみれのケサランパサランをひょいひょいと掴み、外に置かれたビニールプールへ鮮やかにシュートを決めていく。その後も槐は縦横無尽に蔵を回り、的確に掃除のサポートを行っていった。
「なぜ直接掃除に参加しないのか……それは私の目的が、滅多に開かれない蔵の中の探検だからです」
 ふふ、と意味ありげな笑みを浮かべた槐は、謎の古文書やら骨董品やらを見て回り目を養う。流石に曰くありげな銃は見つからなかったが、次に蔵を開いた人へのメッセージを落書きして、彼女は掃除を終えたのだった。
「明るい気持ちで掃除しないと、綺麗になるものもならないよね」
 一方、冬月は和やかな雰囲気を纏って掃除のお手伝いを頑張っている。と、彼の癒し空間に惹かれたのか、すみっこの暗がりからころころと、黒毛玉が転がって来た。
「……もきゅー」
「か、可愛いいいい!!」
 ひと恋しさに切なげな声を上げる古妖をすくい上げ、可愛いもの好きの冬月の心が、きゅんとときめく。
「小さいっ、もふもふしてるっ。可愛すぎるっ!! あああケサランパサラン可愛いよおおお!!!」
 ――と、ひとしきり彼らを愛でた後、冬月は我に返ってこほんと咳払いをした。
「……ごめん、つい取り乱しちゃった」
「じぃじー! 俺も手伝うよ! 帯刀さんも宜しくねー!」
 手分けして蔵掃除を行うじぃじ――夜司と董十郎に声を掛けて、奏空もお揃いの三角巾と割烹着姿(ひよこの刺繍入り)で、パタパタとはたきで埃を落としている。が、積もった埃は凄まじく、彼は直ぐに「げっふげふ……っ」と咳き込んでしまっていた。
「あれー? こんな所にも居たよ」
 そんな中、埃に紛れるように隠れていたケサランパサランを見つけて、奏空はそっと抱き上げて外へと放しに行く。その姿を微笑ましく見守る夜司は目尻を下げ、何気ない様子で世間話を始めた。
「思い出すのう、息子と孫娘も小さい頃はよく、蔵でかくれんぼをして遊んでおった」
 帯刀殿はどうじゃ――と穏やかなまなざしを向ける夜司へ、董十郎は少し照れたように口を開く。自分はこんな薄暗い場所に、秘密基地を作って遊んでいたと。
「……どうもおぬしは他人とは思えん。この機会に胸襟を開き、茶呑み友達になれたら嬉しいのじゃが」
「こちらこそ、是非。とっておきの茶葉を持って遊びに行くので、昔の話を聞かせて貰えたら」
 ――こうして和やかな雰囲気の中、皆の協力もあって蔵の掃除は無事に終了した。縁側で一息吐いてお茶を飲む奏空は、隣で寛ぐ夜司へ向けて労わりの言葉をかける。
「はー、結構疲れるね。じぃじ、大丈夫? 無理すんなよ? いくら覚醒すると若くなるからって、中身はじぃじなんだからさ」
「ほっほ、年寄り扱いするでない。まだまだ若い者には負けんぞい」
 おぬしが一人前になるのを見届けるまで死ねんからな、と。夜司が呟く言葉は、温かな湯気に溶けていった。

●毛玉きれいきれい計画
 さて、こうして蔵から救出された黒毛玉――古妖ケサランパサランは、F.i.V.E.の皆の手によって積もり積もった汚れを落として貰っていた。
「あらあら、こんなに汚れちゃって……きれいきれいにしなくちゃね」
 温かな湯を張ったビニールプールに、ぷかぷかと気持ちよさそうに浮くケサランパサラン――そんな彼らを御菓子が、自身も泡だらけになりつつ綺麗に洗う。以前廃校舎で会ったもの達とは別の子だろうが、歌を歌いながら頬擦りすると、彼らも嬉しそうに「もきゅー」と返してくれた。
(ああ、そうか、愛情を注ぐってこういう感じなんだなぁ)
 かつて自分が、親とお風呂に入っていた時のことを思い出し、御菓子の心は幸せで一杯になる。それでもやっぱり、言わずにいられなかったのは――。
「……ほんと、あの時も思ったけど、だれか一匹でいいからうちの子にならない?」
 そして、百はペット用のシャンプーを使って、やさしい手付きで黒毛玉の汚れを取り除いていく。どれだけの間蔵に居たのだろう――真っ黒になった毛玉はごわごわになってしまっており、ちゃんと綺麗にしないと、と百は気合を入れた。
「こらお前、暴れるなよ! 泡が目に入ると痛いぞ?」
 そう言う間にも、涙目になったケサランパサランがひしっと百に抱きつく。それでも何とか、彼らは元の白さを取り戻してご満悦のようだ。
「ケサランパサランは幸せを呼ぶっていうけど……これだけたくさんきれいにしてやったら、オイラにもいいことあるかな?」
 その隣では百からシャンプーを借りた凛が、毛玉を丁寧に洗いながらもスキンシップを図っていた。赤ちゃんを慈しむように、胸元で抱っこ――そのふわもこの感触を味わう。
「ちょこっとだけ我慢したってなぁ、ええ子やで……」
 一緒に洗うかがりが手にしたのは、大人しい子のようだ。目に水が入らないよう、ぎゅっと目をつむったケサランパサランは、こうして見ていると本当にまんまる毛玉そのものだった。その可愛らしい姿を見た凛が、ふるふると首を振って自分に言い聞かせる。
「お持ち帰りしたくなったけど、ここはガマンなんよ」
 別に年末が近くても忙しくない、と呟く日那乃は、守護使役のマリンと一緒に毛玉洗いだ。
「……マリンも、洗ってほしい、の?」
 ふわり宙を泳ぐ魚は、日那乃の周りをくるりと漂って。とりあえず彼女は石けんを手に、プールの中で泡だらけになったケサランパサラン達と格闘する。
(洗う時、目や口に泡とかが入らない様に、気をつけた方がいいよね)
 そんな日那乃の心遣いに彼らも気付いたようで、次々にぷかりと水面に顔を出し、ぷるぷる震えて石けんの泡に耐えているようだった。そうして、こしこしと洗った後は別のプールに運んでいき、綺麗にすすいで完了だ。
「……ケサランパサラン、濡れて毛並みぺったりしたら、どう、なる、の?」
 ぽつり呟いた日那乃の前に、その時ばばーんと登場して、華麗にポーズを決めたのは悠である。
「もこふわ在るところに悠在り! ふふり、みんなきれいきれいしてあげるんだからー!!」
 そうして洗い終えたケサランパサラン達を受け取った悠は、早速ツヤツヤのふわふわにするべく毛玉のお手入れを開始していった。先ずは手櫛でふわふわとすいて、このままでも十分さらふわなのだけれど――。
「じゃーん! この充電式ブラシアイロンで、ツヤふわケサパサになるんだよ!」
 私物のブラシアイロンを取り出し、にっこりと微笑む悠に「もきゅ!」と、ケサランパサランもびっくりの様子。なら、と理央も名乗りを上げ、電池式のドライヤーを手にずずいと近づく。
「この寒空の下だし、なるべく早く乾かした方が良いよね」
「そうそう、ダイジョブ、怖くないよー? 温かいだけだからねー♪」
 ふふふふ~と理央が嬉しそうに、それでも驚かない程度の強さでドライヤーの温風を当てて乾かして。それからタオルで水気をふき取った後に、今度はブラシを使って毛の奥まで温風であたためてあげる。
(早くフカフカになってくれたら、ボクも嬉しいからね)
 そうして理央によってすっかりモフモフになった彼らに、遊び心を出した悠がヘアアレンジを施していった。ちょっとカールさせたり、靡かせてみたり――うん、ばっちりだ。
「董十郎さんみて! イケメンさん!」
「……もきゅ……!」
 その余りの素晴らしさに、董十郎も古妖みたいな呟きを零すのが精一杯だったようだ。――と、それはさておき。汚れていると気分もすぐれないことが多いからと思う禊は、次々に運ばれてくる洗った毛玉さん達を、タオルでごしごしと拭いて水気を払っていた。
「濡れたままだと、風邪を引いちゃうかもしれないからね。ちゃんと綺麗にしたら、一緒に遊ぼう」
 元気一杯の禊に向かって、ケサランパサラン達も「もきゅ!」と力一杯頷いて。くしで毛並みを整えて完成したところで、禊はそわそわと彼らを抱きしめて呟いた。
「そ、それと、少しくらいもふもふしたりぎゅーってしても、良いよね?」
 ――遊んでまたぼさぼさになるかもしれないけど、抱きしめたりできるなら役得。そんな禊の腕の中で、毛玉たちは楽しそうにもきゅもきゅ鳴いていたのだった。
「ふわふわもこもこでころころ……ほんとうにかわいいわね、この子たち……」
 ケサランパサランを乾かしがてら、のんびりと日向ぼっこをするのは棄々。それでも、みゃーたんが一番かわいいのだと、傍らの守護使役に声を掛けて――陽光を浴びて気持ちよさそうにしている毛玉に和む、彼女の瞳に微かな光が差す。
「そういえば、ケサランパサランはおしろいが好きって聞いたけど……」
 手に載せて撫で回す彼らをそっと見つめて、棄々が懐から取り出したのはおしろいの粉だ。それを見つけたケサランパサラン達は瞳をきらきらさせて、もきゅーと一声鳴いてぽふんとおしろいに顔を埋めた。
「……食べたりするの?」
 ――何となく、毛艶が増したような気がする。古妖の神秘に棄々が瞬きを繰り返していた一方、ゲイルはお茶とお菓子を楽しみながら、ケサランパサランとのもふもふタイムを満喫していた。
「今年は色々な事があって、来年もきっと色々あるだろう」
 猫舌故に、必死に息を吹きかけて熱々のお茶を冷ましつつ――ゲイルは己の着流しの懐に入り込んだ毛玉に微笑み、入りたそうにもじもじしている子もそっと招いたりする。
「こんな穏やかな日々が無くなってしまわないように、頑張っていかないとな」
 そう呟いて、白粉を乗せた指を近づけると――ふわり。ゲイルの指先にはまるで淡雪のような、ふんわりしっとりしたケサランパサランが触れて、もきゅと頷くように嬉しそうにからだを震わせたのだった。

●もふもふ毛玉日和
「大和さんがどうしてもって言うから、仕方なく来たのよ! 私ふわもことかどうでもいいし、妖怪なんて大嫌いだから!」
 どうしても、と言うところを殊更に強調しつつ、数多は黒毛玉の群れと対面して「んもー!」と唸り声を上げた。そんな彼女へ大和は、大丈夫と言うように静かに微笑んでみせる。
「以前も触れ合った事があるのだけれども、とても良い子達よ。本当は真っ白で雪のように綺麗なのだけれども」
 それでも真っ黒だから、先ずは洗ってあげないと――そう言った大和にしぶしぶ頷き、数多はゴシゴシと乱暴に毛玉を洗い始めた。
「暴れないでよね! 時間がかかって面倒でしょ!」
(ちょっと荒っぽいところもあるけれど、彼女、本当はとても優しいのよ)
 めんどくさいと言いつつも確りと洗う数多、そんな彼女をフォローするべく、大和はそっとケサランパサランに囁く。
「数多さん、怖くないわ。彼らは噛んだりしないのよ。ふわふわであたたかいわ、なでてあげると喜ぶのよ」
 そんな会話をしている内に、無事毛玉たちは真っ白になって――仕上げにタオルで優しく拭いた後にドライヤーを使って乾かす。
(数多さんも気に入ってくれたようね。口ではああ言っているけれど、撫でる手つきは優しいわ)
 と、そんな大和のまなざしに気付いたのか、数多は顔を赤らめて、ぶんぶんと首を振って宣言した。
「いい、大和さん誤解しないでよね!! 今ちょうど寒いし、防寒用具としてはそれなりに役に立つからさわってるだけであって、別に可愛いなんて思ってないんだからね!」
 一方、和やかな雰囲気でふたり仲良くケサランパサランを洗うのは、八重とリーネだ。動物用のシャンプーを使って、優しくごしごしとマッサージをしつつ綺麗にしていくリーネに、毛玉も「もきゅ」と嬉しそうにはしゃいでいる。
「ふふ、気持ち良いデスカー?」
「ふふ、なかなか汚れたまって……水が真っ黒になっちゃいますね」
 汚れたお湯をすすいで、ホースを使って新鮮なお湯を足していって。すっかり綺麗になった彼らを見て、ふたりは満足そうに微笑みつつ――リーネの頬にちょっぴり汚れが跳ねていることに気付いた八重が、そっと彼女の顔を拭いてあげる。
「ふふ、いつも通りの綺麗なお顔ですね」
「わっ!? い、悪戯は止めるのデース! くすぐったいデース♪」
 さて、最後はケサランパサランを乾かすついでに日向ぼっこだ。ずらりと一列に並んだ彼らの毛が乾いたか確かめる為、八重はもふもふしながらのんびりと穏やかな午後を過ごす。
「ふふ、乾かすついでに日向ぼっこしてたら、少し眠たくなってキマシタネ」
 すっかり乾いていい感触、と八重が差し出したケサランパサランを受け取ったリーネは、その柔らかさにうっとりと目を細めて――もふりつつも八重の手を握り、いつしかすやすやと眠りに落ちていった。
「んー、ケサランパサランさんに囲まれてると、眠くなっちゃいますね……ふあぁ……」
 ――不可思議な生き物だが、汚れているのなら洗ってやらねば。そう決意した天光は早速ケサランパサランと泡に包まれ、洗い終えた彼らとはエヌが一緒に日向ぼっこと洒落こんでいる様子。
(エヌ殿は、水に触りたくなさそうであるが故でござろうが……なんだかそれだけで終わるとは到底思えぬでござるなあ)
 そんな天光の予感は見事に的中して――エヌは少々ばかりの悪戯をしてみようと天光の背後に近づき、彼の髪の毛におしろいをこっそりふりかけたのだった。
(……何やら面白い光景になればよいのですが、ね)
 一体何を、と天光が問いかける間も無く、彼の頭目掛けてすりすりとケサランパサラン達が集まってくる。もふん、もふんと彼らは天光の頭に次々とダイブし、パニックになった天光は思わず叫んだ。
「エヌ殿、一体何をしたでござるか!?」
「いや、はや。ほんの小さじ程度のお茶目心というものですよ。害は特にない、楽しいだけの代物ですとも」
 確かに害はないかもしれないが、エヌがやる事はちょっと怖いと天光は思う。おっかなびっくり、彼がぽつりと零したのは。
「……本当に、毒やその辺の代物ではないのでござろうな……?」
 張り切って綺麗にしないと、そう決意する浅葱が目指すのは、輝く純白の毛玉みたいなケサランパサラン。クーも一緒に彼らを日向に並べ、ぽかぽか陽気でしっかりと乾燥させていく。
「これだけ毛玉が集まると、寒くても温かいです」
 冬でも日向ぼっことなるとそれなりに温かいのだが、浅葱は大丈夫だろうかと、ふとクーは尋ねてみた。
「マフラーがあるので、寒さには強く見えましたが」
「ふっ、寒さには強いのですよっ。あっ、クーさん寒いなら、一緒にマフラーでくるまりましょうかっ」
 それなら、とクーは浅葱のお言葉に甘えて、一緒にマフラーにくるまってあったまる。二人でも三人でもどーんとこいな長さ、と言うのは嘘ではないらしく――すっぽりとくるまって、ぬくぬくだ。
「ふっ、クーさんの尻尾も毛玉さんも合わせて、いいモフモフなのですよっ……とうっ」
 お返しにクーも、自分の戌尻尾を浅葱に巻いて。まるで押しくらまんじゅうのように密着しながら、ふたりは毛玉の手触りを堪能している。
「手触りよくて、飽きないですね」
「ふふふっ、お持ち帰りして抱き枕にしちゃいたいぐらいですねっ」
 ついでに自分の尻尾ももふもふする浅葱に、クーは毛玉とどっちがモフモフでしょう、とそっと尋ねてみたのだった。

●みんなと過ごすひとときを
 ゆっくりするのはいいかもしれない――そう言って神社の縁側に腰掛けた行成と亮平は、ふたりでケサランパサランを乾かしつつブラッシングを行っていた。
(うわぁ、可愛いなぁ可愛いなぁ)
 もふもふ感を堪能する亮平は、毛玉のふわふわ感に頬が緩みっぱなしだ。そっと撫でてやると、にっこり笑って「もきゅー」と鳴いてくれたので――亮平は行成の方を振り返って、切実な表情でぼそっと呟く。
「可愛すぎて死ぬかもしれない……」
「……そう言えるうちは、死なないだろう」
 亮平が可愛いモノに目がないとは知っていたが、予想以上のめろめろっぷりに、行成は冷静に突っ込みを返しつつ落ち着くよう肩に手を置いた。
「あぁ、ごめん。落ちつかないとな、そうだよな……」
 それでも、そわそわとしている亮平に向かって、行成はタオルで拭いたケサランパサラン――長いので略してケパさんをパスしていく。
「……濡れてしぼんだ姿も、これはこれで可愛いモノではあるな」
 そんな彼らの傍では、暖を取る為にぱちぱちとたき火が燃えていて。乾きも早くなったケパさんにブラシをかける亮平へ、その時椿と灯が遠くから手を振った。
(あ、二人も来てたのか)
 顔見知りの姿に、彼はもふもふで緩みきった顔を元に戻し、笑顔で手を振り返す。そんな亮平の頭のてっぺんで、ケパさんも「もきゅ!」と一緒に挨拶だ。
(……それにしても、阿久津さんは本当に幸せそうだな……)
 幸せを呼ぶとは聞いていたが、確かに見るだけで癒されて幸せだと、行成は思った。
(ケサランパサラン、逢うのは初めて)
 一方、挨拶を終えた椿と灯は、真っ黒なケサランパサランをお湯で綺麗に洗っていく。椿がそっと手で包みあげて、優しく撫でてみると――きゅー、と心底幸せそうな声が、ほっこりした毛玉から聞こえてきた。
(かっ、可愛いっ)
「もふもふですねぇ……うー、可愛いです! ね、三島さ……」
 掌に乗せた灯も、すりすりと頬でもふもふを堪能するが――ふと隣に目をやれば、椿が彼らの可愛さにやられて無心でなでなでをしている様子だ。
「……可愛い。あ! いえ、その! ケサランパサラン可愛いですよねーもふもふですよ、もふもふ!!」
 めろめろになっていた椿が可愛いとは言えず、灯は慌てて毛玉を握りしめた。ところが、ぎゅむーと力を入れ過ぎた所為で、ケサランパサランがくったりとしてしまい、灯はごめんなさいと頭を下げる。
「ええ、可愛いわよね。……七海さんも可愛い」
「あ、そうだ、よかったら一緒に写真撮りませんか? ケサランパサランも一緒に」
 ふと思いついて灯が誘うと、椿は微笑んで頷き早速記念撮影を開始することになった。毛玉に囲まれ、少し照れながら灯は椿と密着するように寄り添って――カメラを使って自撮りする。
「有難う……ねぇ、七海さんの事、灯って呼んでも良いかしら?」
 ――その椿の申し出に、灯は一も二も無く頷いていた。同年代の子と接する機会が余り無かった彼女にとって、友達と触れ合うことは凄く嬉しいことだったから。
「さぁてと……準備はこんなもんで良いべか」
 恵太がケサランパサラン達の為に準備したのは、動物用の無香料・天然由来成分のシャンプーとトリートメントだ。更に無香料の粉白粉や櫛も用意して、彼らのケアもばっちりだ。
「じゃあ私は、ケサランパサランさんの体をキレイにする事にしますね!」
 と、早速恵太からシャンプー等を借りたたまきは、温かいお湯を満たしたビニールプールの中で彼らをごしごし。目や口に泡が入らないよう注意しながら、丁寧に手洗いを行っていった。
「はい、完了です!」
 濡れてぺったりとなった毛玉たちは、縁側に居る紡とミュエルに手渡しして。彼女らふたりは、のんびり日向ぼっこをしながらタオルで水気を拭き取っていく。
「ミュエちゃんもいるし、見知った子達も多いし、肩の力抜けまくりだなぁ……」
「暖かい日向で、のんびり……だね」
 ふあふあのタオルを手に、紡が心地よい空気を生み出し毛玉を乾かすと――ミュエルはマイナスイオンを漂わせながら、丁寧にブラッシングを行った。その間大人しくしてくれていた毛玉さんには、ご褒美に恵太から分けてもらった白粉をプレゼントする。
「……もふもふ」
 ――両手でもふもふしてた子が羨ましかったのか、気付けば紡の頭や膝にまでケサランパサランが乗っかってきていて。その微笑ましい光景に、ミュエルもにっこりと笑ったのだった。
「あたしは、更なるふわふわの高みを追求する職人となる!」
 一方で笹雪は、毛玉をふわふわのもこもこにする為、ブラシを使って優しく丁寧に毛を梳いていった。毛のもつれは許さずに、けれど気持ちよく過ごしてもらうことも忘れずに――マイナスイオンを放ってマッサージしつつ、スキンシップも忘れない。
「よし、ふわっふわの毛玉の完成だ!」
 根本もしっかり乾いて綺麗に梳けて、毛玉はつやつやの白毛玉へと生まれ変わった。他の職人たちも頑張っているかな、と笹雪が辺りを見渡したところ、其処でふと見学していたたまきと目が合った。
「とってもツヤツヤでキレイですね! ケサランパサランさん達も、とっても嬉しそうです」
「加茂ちゃん……この職人芸が気になるなら、その身で味わうのが一番!」
 にっこりと微笑むたまきに手招きをして、笹雪はあれよあれよと言う間に、彼女の髪もサラサラのふわふわにすることに決めたようだ。わ、わと慌てふためくたまきは、笹雪によって華麗に変身――ふらふらと縁側に辿り着いたたまきを、紡とミュエルが出迎える。
「たまちゃん、ふわふわだね」
 にこにこしながら紡が頭を撫でて、白粉を食べる毛玉たちを見守っていたミュエルも、ふんわりしたたまきの髪におずおずと手を伸ばした。
「……髪の毛、ちょこっと編み込んでも、いい……?」

●思い出は、ずっと
「毛玉と遊ぶって聞いたから来てみたー!」
 元気一杯に手を上げる翔だが、恵太からお手伝いだと苦笑されて急いで気持ちを切り替えた。
「……ま、いっか! じゃあオレ毛玉達洗うのやるっ!!」
 ジャージの袖をまくって、翔はケサランパサラン達と一緒にビニールプールに浸かって――濡れるのも気にせずに、恵太から借りたシャンプーを使ってごしごしと毛玉を洗っていく。
「ほらほら、今綺麗にしてやるからな! おとなしくしててくれよ! ……ってすっげー、お前達ホントは、こんなに白かったんだなー」
「ほうほう、どんどん泡立ってくるなぁ……痒い所はないだべか?」
 愛用の農作業用のつなぎを着用した恵太も、優しく丁寧に、声をかけつつ汚れを取っていって。そうして洗い終えた毛玉を乾かすのは、翔の叔父である基の役割だ。
「さーて。僕は毛玉ちゃん達を乾かすぞー!」
 次々にやって来る濡れ毛玉を、基は一生懸命タオルで拭きつつ、拭き終わった子は順番に縁側で日向ぼっこをさせて乾かしていく。いくら日和が良くても風邪を引いちゃうかもしれない――そう思った基は、念入りにじっくりと、ケサランパサラン達の水気を払っていった。
「すっごくふかふかしてるなぁ。しかもこの子達……ものすごくなつっこいし……」
 もきゅ、と大人しく毛玉は基の手の中に納まり、タオル越しにどんどんフカフカしていく毛がたまらなくて――しかも、もきゅもきゅ言うのがめっちゃ可愛いのだ。
(しかもこんな大量に……うわぁぁぁ……)
 ああ、一匹一匹に顔を埋めて頬擦りしたい。いやいっそ、この子たちの中に埋もれたい……! うららかな日差しの中、毛玉に囲まれて萌え死んでしまう……!
「あぁぁぁぁ……! しあわせ!」
 もう死んでもいい――ある種の悟りの境地に達した基の元へ、洗い終わった毛玉を持ってきた翔は、其処で叔父が至福の表情で力尽きているのを発見した。
 ――彼のダイイングメッセージは、「けだま もふ」
「叔父さん、死んでる場合じゃねーだろ、何やってんだよーあははっ」
 そんな基の姿を見た翔は無邪気に笑い、折角だから自分もと、すっかりふわふわになった毛玉たちと遊ぶことにする。
「ふわふわで手触り良いよなー。なんか眠くなってきた……」

 ケサランパサランのお世話を終えた恵太は、神主に挨拶をして日向でお茶を。其処で遊び疲れて毛玉と一緒にうとうとしている翔を見つけて、にこやかに微笑んだ。
 ――さて、自分もふわもこ感と可愛い鳴き声を堪能したら、名残り惜しいけれど山に帰さねばならない。最後まで彼らを見送った恵太は、冬の夕暮れの中ゆっくりと手を振り続けた。
「山さ帰っても元気で暮らすんだど、またいつか皆で遊ぶべな」

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
ここはミラーサイトです