【古妖狩人】強襲ヒノマル陸軍
【古妖狩人】強襲ヒノマル陸軍


●ヒノマル派義勇軍・古妖タザブロウ
 夜闇の静まる午前二時。
 一匹のタヌキが草むらの間から顔を出した。
 タヌキは自らの姿を小太りな老人男性へと変化させると、懐から紙切れを取り出した。
 『憤怒者組織古妖狩人。小玉鼠ノ確保ニ成功セリ』
 手の中でかすみのように消える紙切れ。
 タヌキの老人はフンと鼻を鳴らした。
「小癪な者どもじゃあ。どれ、面倒をみてやるかの」
 手をくるりと回すと、どこからともなく一握りの小豆が現われた。
 これをまき散らすやいなや、小豆は赤い法被を着た男衆へと変化する。
 男衆はひざまずき、口々にこう述べた。
「タザブロウ殿。ご命令を」
「うむ――今から憤怒者組織の中継基地を襲撃する。古妖小玉鼠が五匹とらわれておるようじゃから、これを奪取。できぬ場合はまるごと削除せよ」
 老人タザブロウは大きく息を吸い、自らの身体に力を込める。
 すると服が軍服へと替わり、腰に軍刀が生まれた。
「我はタザブロウ! 義によってヒノマル陸軍に味方するものである。ものども、進めィ!」
「「応!!」」

●古妖狩人中継基地襲撃作戦および古妖小玉鼠救出作戦およびヒノマル義勇軍撃退作戦
 F.i.V.E会議室。久方 相馬(nCL2000004)は厳しい表情で語った。
「みんな、聞いてくれ。大変な事態になってきた。古妖狩人のことは知っているよな」
 古妖狩人。各地の古妖を捕獲しては覚者への襲撃や非道な実験に利用している人間主義者の集団だ。
 F.i.V.Eからは憤怒者組織として強く認知されている。
 これまで多くの古妖を利用した悪事を阻んできたが、ついに調査や夢見予知によって彼らへの攻撃作戦が可能になったのだ。
「今回発見したのは中継基地だ。ここには捕らわれた古妖が一時的に収容されたり、周辺地域へ派遣される戦力の補給に使われている。予知した限りでは現在、古妖『小玉鼠』が収容されているらしい」
 ならばこの基地を襲撃し、古妖を救出すればよいのでは。
 覚者たちは直感的にそう考えた。
「いや、そう簡単な話じゃないんだ。小玉鼠は緊張状態にあって、ある程度のダメージを受けると爆発してしまう。ダメージから庇いながら救出するのは簡単なことじゃない」
 ならばと早くも作戦を考え始めた覚者たちに、待ったをかける相馬。
「それだけじゃない。現地にはヒノマル陸軍も現われるんだ」

 状況はこうである。
 古妖『小玉鼠』を収容した古妖狩人は武装して基地内に集まっている。
 そこへ古妖を奪取ないしは削除するべくヒノマル派の古妖『タザブロウ』が襲撃。
 これを放置すれば古妖狩人とつぶし合いになってくれるかもしれないが、『小玉鼠』は間違いなく奪われるか全滅するかだ。
「『タザブロウ』は百年以上前から存在する強力な古妖だ。武力も高く倒すことは不可能だが、今回は派兵に専念するらしい」
 『タザブロウ』の能力のひとつが、小豆を兵隊に変化(へんげ)させるというものだ。これを使って低コストでいくらでも兵隊を運用できるのが最大の強みである。
 そのため『タザブロウ』は小豆の兵隊『小豆衆』を継続的にけしかけ、基地に襲撃をしかけるようだ。
「当然古妖狩人との戦闘が始まる。そのドサクサに紛れれば『小玉鼠』を一匹くらいは確保できるだろうが……全て救いだそうとするなら古妖狩人と小豆衆の両方と戦い続け、尚且つ『小玉鼠』を庇い続けるというデリケートかつ大胆な作戦が必要になる」
 最後に相馬は資料を渡し、覚者たちに頭を下げた。
「この作戦がうまくいけば、古妖狩人の戦力を直接削れるだけでなくヒノマル陸軍への牽制にもなる。リスクと相談しながら、作戦を立ててくれ」


■シナリオ詳細
種別:通常(EX)
難易度:普通
担当ST:八重紅友禅
■成功条件
1.小玉鼠を一匹以上救出する
2.古妖狩人の基地戦力を十人以上戦闘不能にする
3.タザブロウを撤退させる
 八重紅友禅でございます
 古妖狩人に対する直接攻撃の機会が回ってきました

●基地の地形について
 中継基地は広いグラウンドヤードにコンテナハウスを等間隔に置くことで形成されています。
 地面だけを進む場合きっちり格子状になった道を進むことになります。
 『小玉鼠』が収容されているコンテナは中央あたりと見られていますが正確な位置は分かりません。透視スキル等があると見つけやすいでしょう。
 タザブロウは戦場範囲外から小豆衆を放ち続け、基地北側から襲撃します。

●各戦力について
・古妖狩人
 確認できているだけで50人。使用武装とスペックは以下の通りです。
 ナイフ 物近単 〔出血〕
 電磁警棒 物近単 〔鈍化〕〔弱体〕
 機関銃 物遠列 
 火炎放射 特遠貫2 〔火傷〕
 手榴弾 物遠敵全 〔溜め1〕

・小豆衆
 棍棒や鉈などで武装した男衆です。タザブロウが小豆に妖力を込めて作った人形のようなもので、数が多いのが強みです。小豆はいくらでも持ち歩けるので実質兵力は無限ですが、一ターンにつき二十粒ずつ作るので一度に相手する数は少ないでしょう。(古妖狩人とも当たるので、もっと少ない筈です)
 個体戦力は憤怒者(今回で言う古妖狩人)とほぼ同等。
 ろくな武装が無いので近接単体物理攻撃のみ。

・小玉鼠×5
 身体を膨らませて爆発する妖怪。
 五匹収容されています。おそらくみんな同じコンテナだと思われます。
 特攻兵器としての実用実験を受けており、既に爆発しそうな状態にあります。爆破すると死亡するほか、近くの相手に物理ダメージが入ります。
 爆発するかどうかは毎ターン判定がかかり、それまで受けた累計ダメージ数に比例して爆発確率が上がります。
 なので、回復しても爆発は収まりません。確保したら味方ガードでしのぎつつ一目散に逃げるしかないでしょう。

●戦術について
 成功条件を達成するのに一番楽な方法は、南側(小豆衆とは逆方向)からステルスなどを使って慎重に接近、侵入。時間はかかりますが確実です。
 実験していないのでわかりませんが小豆衆にはバレると思うので適度に戦闘していなしつつ目的のコンテナへ到達。
 その頃には既に小豆衆が小玉鼠を確保し始めている筈なのでこれと戦闘。いくつか爆破されてしまうとは思いますが、一点集中からの全力離脱で一匹くらいは確保出来るはずです。
 戦闘のドサクサで古妖狩人を十人くらいは倒れるでしょうし用が済めば小豆衆も撤退します。これで成功条件は満たせます。
 ちなみに、これが難易度『普通』の作戦です。
 これ以上の成果を望む場合徐々にプレイングの難易度があがるのでご注意ください。

●重要な備考
 この依頼の成功は、憤怒者組織『古妖狩人』の本拠地へのダメージとなります。
 具体的には古妖狩人との決戦時に出てくる憤怒者数や敵古妖数が、成功数に応じて減少します。

●重要な備考2
 EXプレイングに『今後狙われるかもしれない古妖』を書き込むことで、今後ヒノマル陸軍が古妖を狙った際に先回りできる可能性があります。(一人三つまで)
 参考までに、ヒノマル陸軍はがしゃどくろやタザブロウなど戦争に由来する妖怪とつながりが深く、見つけやすいようです。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
5日
参加費
150LP[+予約50LP]
参加人数
10/10
公開日
2015年12月06日

■メイン参加者 10人■

『炎の記憶の』
天王山・朱(CL2001211)
『F.i.V.E.の抹殺者』
春野 桜(CL2000257)
『想い重ねて』
蘇我島 恭司(CL2001015)
『想い重ねて』
蘇我島 燐花(CL2000695)
『戦場を舞う猫』
鳴海 蕾花(CL2001006)
『五行の橋渡し』
四条・理央(CL2000070)
『赤き炎のラガッツァ』
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)

●第三者介入
 木刀と警棒がぶつかり合う。
 顔を赤い布で覆い赤い法被を着た男と、特殊警棒で武装したシャツの男が激しい打ち合いを繰り広げていた。ぶつかるたびにスパークが起こる。一瞬の隙を突いた所で無骨なナイフを抜いて切りつける男。
 赤法被の男は腹を切り裂かれ、煙となって消えた。一粒の小豆と細い木の枝が地面へ転がった。
「こいつ、データにあった小豆衆か」
「一匹ずつは弱いが無尽蔵に来るぞ。機関銃と火炎放射器を持ってこい!」
 仲間が引っ張ってきた電話線を受話器に繋ぎ、基地中央へと知らせを出す。
 と、そこへ。
「楽しくやってるじゃないか古妖狩人ども」
 激しいパンチによって古妖狩人の憤怒者と小豆衆が同時に吹き飛ばされ、コンテナの壁に激突した。
 反射的に振り返る男。
「あたしも混ぜな。全員まとめて潰してやるよ」
 ファイティングポーズの『狂気の憤怒を制圧せし者』鳴海 蕾花(CL2001006)。
 蕾花は小指を立てると、くいくいと手招きをした。
「お前は……」
 蕾花の頭にある獣の耳を見て、憤怒者は吐き捨てるように叫んだ。
「覚者が乱入してきたぞ! 北側だ、小豆衆とまとめて潰――」
 受話器に向かって叫ぶ男の声が途切れた。
 なぜなら、後ろから仕込み杖によって切り裂かれたからだ。
 崩れ落ちた憤怒者を見下ろす『教授』新田・成(CL2000538)。
 受話器を拾い上げると、『お電話変わりました』と言って耳へ当てた。
「なかなか統制のとれた兵隊のようですね。ですが私たちの法が、一手早かったようです」
 受話器を放り投げ、刀で切断。
 更にコンテナの上から飛びかかってきた兵隊へと翻り、半月斬りでカウンターした。
 その様子に小豆衆たちも気が機では無い。
 タザブロウからの指示が直接伝わっているのか、顔を見合わせて横を通り抜けようとする……も。
「聞こえていますかタザブロウ」
 槍をどこからともなく取り出した『炎の記憶の』天王山・朱(CL2001211)が、自らを中心にぐるりと槍を振り回した。
 日本槍術で言う大上段の構えをとると、しっかりと立ち塞がる。
「何があったって、誰かを殺していい理由なんてないよ。あなたたちを、止めるから!」
 鋭く小豆衆の腹を貫き小豆に戻すと、杖術の要領で槍を返して横合いから殴りかかる憤怒者にこじりを打ち当て、反射的にそれを押さえ込んだ憤怒者と小豆衆を利用するように逆上がり。正面から来た相手の顔面を蹴りつけ、槍の上を一回転すると自らを中心にコマのように槍を振り回して憤怒者たちを吹き飛ばした。
 地面に重なった円をいくつも描くように両足でブレーキをかけ、再び大上段に構え直す。
「かつてこの国を守ったかも知れない。人間を大事に思ったかも知れない。それでも、なんとしても、誰も殺させたりなんてしない!」
「おっと、そうこうしているうちに増援ですよ」
 基地の奥から無数の憤怒者たちが駆けつけてくる。彼らはパイナップル上の物体を腰から外し、安全ピンを引き抜く。破片手榴弾というやつだ。
 回転しながら飛んできた爆弾へ居合い斬りの構えをとる成。
 破裂の一瞬前、刀を返してスイング。天空に打ち上がった爆弾は醜い花火となって広がった。
 が、それに続いて無数の爆弾が飛んでくる。
「おっと、これは荷が重い」
「大丈夫、任せて」
 構えた成を遮るように、四条・理央(CL2000070)と『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)が半歩前へ出た。
 眼鏡を外す理央。
 飛来した爆弾が次々に爆発する。
 彼女たちはたちまち爆発に巻き込まれた。吹き飛び、小豆に戻っていく小豆衆たち。
「やったか!」
 憤怒者の一人が呪いの言葉を唱えた途端、爆煙の中から巫女装束の理央がゆっくりと歩み出た。護符を指の間に立て、風を薙ぐように降る。すると煙が一瞬にして張れ、仲間たちが現われた。肉体には一切の傷がついていない。
「無傷だと!? くそ、もっともってこい! 山ほど投げつけてやる!」
「投げつけられるのはあなたたちです!」
 走り出し、理央を追い抜くラーラ。
「『良い子には甘い焼き菓子を。悪い子には石炭を』」
 国の言葉でおまじないを唱えると、魔女の姿へとチェンジ。
「イオ・ブルチャーレ!」
 手をくるりくるりと翻しながら天空に翳す。すると凄まじいスパークが走り、空中に生まれた炭が着火。無数の弾となって憤怒者たちに降り注いだ。
「ふう」
 手で自分の顔をぱたぱたとあおぐラーラ。
「大騒ぎは、得意じゃ無いんですけど」

 一方その頃、タザブロウ。
 戦場から大きく離れた場所にゴザを敷きあぐらをかいてあずきのアイスバーを囓っていた。
「なんじゃあ? 覚者がおるなんて聞いとらんぞ」
 湯飲みを翳すと、ヤカンと携帯コンロで湯を沸かしていた小豆衆がそこへゆっくりと湯を注いだ。
「暴力坂のヤツぁ昔っからこうじゃ。情報を雑に扱いおる。現場に出るわしらもひと苦労じゃわい。どれ、何か武器は持ってきたかのう……」
 これこれと手招きすると、小豆衆が荷台を引いてやってきた。大量の木の枝が積み上げられている。
 上から下まで全部木の枝。子供が振り回して遊ぶようなシロモノである。
「ダメじゃこりゃあ。憤怒者連中なら棒きれを化かして戦えるがあの練度の覚者じゃのう……まあしゃあないわい。奴らの狙いは憤怒者つぶしじゃろうし、隙を見て小玉鼠をかっさらって……ムム?」
 はたと気づいて大粒の小豆を取り出すと、小豆を片目でじーっと覗き込んだ。
 小豆の表面のつやが戦っている小豆衆たちの視界のひとつとリンクする。
「もしやこいつ、大村の言ってた連中じゃなかろうな。もしそうなら…………」
 タザブロウは顎の髭を撫でながら暫く唸り、大きく息を吐きだした。
 湯を一気に飲み干す。
「ええい何が分かったところで今更じゃい! 小豆を増やして大増援じゃ! ゆけい!」
 懐に手を突っ込み、周囲に小豆をばらまく。
 ばらまかれた小豆は小豆衆へと変化し、それぞれ木の棒を木刀や角材に化かして突撃していった。

●影の救出班
 コンテナの壁に背を突け、巡回するスポットライトをさけるように進む『狗吠』時任・千陽(CL2000014)。
「タザブロウ……恐らく軍隊狸のひとつでしょうか。太平洋戦争では記述がありませんでしたが」
「記述が無いから存在しないってのは早計じゃあないかい」
 同じくコンテナの隅を進む『ベストピクチャー』蘇我島 恭司(CL2001015)。
 既にここは基地内。憤怒者たちは慌ただしく行き交い、殆どの兵隊が武器をとって北側へと向かっている。
 小豆衆が突入する北側で陽動をはかるという作戦はかなりうまくいっているようだ。憤怒者がへたに通信手段を持っていたのもよかった。
 火の付いていない煙草をくわえる恭司。
「暴力坂のことを調べたときもそうだったけどね、書類や口伝に残るってことはそれだけ秘密じゃなかったってことなのよ。ホンキの秘密は人の口ごと消すからね」
 今のような高度情報化社会であっても、ある一定の情報を完全に秘匿させることは可能だ。恭司は職業柄そいったものの気配を感じることも少なくないが、そういうときは必ずこうすることにしてる。
「おっと危ない!」
 千陽の腕を引っ張り後ろに投げると、前方に向けて召雷。
 コンテナの影から奇襲を謀ろうとしていた憤怒者がのけぞり、その隙をついて春野 桜(CL2000257)が急接近。喉に包丁を押し当て、ゆるやかにスライド。
 気管を切断。憤怒者は声を上げようにも血の泡しか出ては来ない。
 顎を掴んで捻る桜。
「なんでもいいじゃない。今日もいつも通り。いつも通りに、いつも通りよ」
 包丁をくるりと逆手に持ち替え、憤怒者の胸に突き立てる。
「どう? 拷問でもしておく?」
「そんな時間はないでしょう。慎重かつ素早く侵入し、即座に撤退する。捕虜をとっておく余裕はありまあせん」
「そーそー。あいつらの場所ならもう見つけたしな」
 コンテナの反対側から百目鬼 燈(CL2001196)が現われた。
 気絶した憤怒者を引きずって。
「基地の照明があるからだろうな。暗視スコープとかは装備してねーみたいだ。こっそり進めば奇襲もできそうだぜ」
「いや、そうとばかりは行かなそうだ」
 上を見上げる恭司。
 高台からこちらを見る憤怒者が、受話器に何かを叫んでいる。
「バレたよ、どうする? 燐ちゃ……ああ、いや」
「問題ありません」
 振り返った恭司に、千陽は頷いて手袋をはめ直した。
 地面に強く手を打ち付ける。
「完全隠密行動は不可能。いずれ見つかるなら、迎撃しながら進むまでです!」
 コンテナの脇から飛び出してこようとした憤怒者に牽制としての隆槍。
 更にコンテナの扉を盾にした恭司が召雷を放ち、飛び出した燈が炎の跳び蹴りを叩き込んだ。
「ぐあ!?」
「っしゃ、急ぐぞ! ついてこい!」
 走り出す燈。
 回り込もうと急ぐ憤怒者たち。
 基地南側でもまた、本格的な戦闘が始まった。

●影の影の救出班
 さて。
 一人お忘れでは無かろうか。
「蘇我島さん、すみません。お先に失礼します」
 戦闘が始まったであろう方角に手を合わせ、『イノセントドール』柳 燐花(CL2000695)はゆっくりとコンテナの上を進んでいた。
 足音を立てないように慎重に、しかし時には大胆に渡っていく。
 普通に進んでいるだけでは何かのひょうしに接近がばれてしまうだろう。覚者戦闘に慣れていない一般人やビギナー覚者であれば目の前で歌いながら反復横跳びしていても気づかないなんてこともあるが、ステルスというスキルを知っている人間からすれば『見えない=いない』ではない。
 姿が見えにくいことに慢心せず、燐花は目的の場所へと進んでいた。
 その足取りに迷いはない。予め燈から教えられているからだ。
 コンテナには鍵がかかり、外と中には武装した憤怒者が張り付いている。
 武装はナイフか警棒だが、一人で相手にするのは難しそうだ。
 小豆衆の狙いが小玉鼠であることを察したのか、それとも元々ここを警備する担当者なのか。この非常時なのでまさか煙草休憩のために離れてくれはしないだろう。
 どうしたものかと考えていると、憤怒者の一人が入り口の鍵を開けて中へ入った。
「おい、覚者も出たぞ。北側と南側だ。南の方はすぐ近くまで来てる。一人残して全員迎撃に当たれとさ」
「わかった」
 コンテナの中にいた何人かが外へ飛び出していく。
 好都合。燐花は開いた扉が閉まるまでの間に滑り込んだ。
 コンテナ無いは明かりが効いていて、中央にはイヌやネコを収容するためのゲージが設置されていた。
 中ではネズミというかなんというか、ヤマネという小動物に似た五センチ前後の生き物が五匹。ゲージひとつずつに収容されている。
 ゲージごと持ち去ったら流石にまずい。あともう目の前で警棒を持って立っている憤怒者がいるので絶対にバレる。
 しかたないか。
 いいアイデアが浮かぶのを待つ暇はない。
 燐花は覚悟を決め、ゆっくりと憤怒者の背後へと回り込んだ。
 クナイを抜く。

●北方激戦区
 時系列にしてやや後。
 成はぴくりと耳を動かした。
「皆さん、合図です!」
 ナイフ持ちの憤怒者を逆手の抜刀術で斬り、逆手のまま背後から迫る敵に突き刺す。刀を返し、杖へ納めた。
 周囲の様子を確認。憤怒者と小豆衆が所々でぶつかり合い、そのうちの半分ほどが成たち覚者へ襲いかかってきているといった具合だ。
「そろそろ頃合いでしょう」
「逃げるのか!」
「ええ逃げますとも」
 手榴弾を抜こうとした憤怒者の手首を切りつけ、背後に回って杖で後頭部を打つ。
「この基地をまっすぐ突き抜けてね。行きますよ!」
 前傾姿勢で駆け出す成。
 丁度奥からは機関銃が引っ張り出されてきた頃のようで、成めがけて射撃が開始される。
 杖を回転させて弾を弾き、跳躍。
 コンテナの上に飛び乗ると、機関銃とそれを操縦する憤怒者に目をこらした。
「なるほど、そんなところですか」
 兵器の型と手入れの具合から耐久度や使用者の腕を見極める。むろん一瞬ではない。これが引っ張り出された時点からずっと観察し続けての看破である。
「覚者風情が調子に乗るなよ! この秒速二千発の――!」
「機関銃を十メートル距離で使用しますか」
 成はコンテナの上をジグザグに走る。適当なタイミングで転げ落ちるようにコンテナの下へ移動。
「その機関銃は左右の振りは早くても上下は遅い」
「ぐっ――!」
 着地した途端、まるで振動が通じたかのように機関銃の足下が隆起。機械を貫いて憤怒者を撥ね飛ばした。
「獲得した力に頼りすぎましたね。では、失礼」
 成はコートの裾を翻すと、基地の『中央めがけて』駆けだした。
 当然といえば当然だが、中央に進めば進むほど敵の密度は濃くなっていく。
 小豆衆が浸透してあちこちで戦闘を起こしたせいでこちらが戦闘する機会は減っているが、だからと言って突っ切ることに集中していると救出班の負担が増える。
 彼らを追撃するために投入される兵器を一つでも多く潰しておかねば、小玉鼠が彼らもろども爆破されてしまう。
「そうはさせないんだから!」
 槍を持って走る朱。
 警棒を繰り出す憤怒者をステップでかわし、木刀を繰り出す小豆衆をスライディングでかわし、ナイフを突き出してくる憤怒者の前で槍を棒高跳びのようにつっかえてジャンプしてかわす。
 コンテナの上にどすんと着地すると、槍を中国槍術でいうところの背槍(ベイチィァン)で構えた。槍が激しく熱を帯び、炎の三つ叉を生やす。
 ジープコンテナの横を走り、荷台の機関銃を発射してくる。
 迫り来る機関銃の弾を槍のスイングで一旦打ち払うと、ジープと併走するようにコンテナの上をダッシュ&ジャンプ。
 しびれをきらした憤怒者が彼女を横薙ぎにしようと銃身を振った所で、急速にカーブをきってジープへ接近。コンテナから柱地棍(チュディグン)のフォームでジープの荷台へ飛び移ると、機銃を握っている憤怒者を肘打ちでもって突き落とした。窓から槍のこじりを突き込んで運転手を昏倒させ、コンテナの壁へ突っ込ませる。衝突の瞬間にジャンプし、コンテナの上を転がる朱。
 背後でおこる爆発。
 あおられる髪をそのままに、朱は呟いた。
「あいつら……なんで戦争なんてするんだろう」

 足下でぶつかり合っている小豆衆と憤怒者を横目に、蕾花と理央はコンテナの上を駆け抜けていく。
「雑魚に構ってる暇は無いね」
「主要な兵器を狙って破壊していこう――右!」
 理央は素早く癒しの霧を発射。
 手榴弾による爆発が起きるも、焼けただれるはずの肌細胞が死ぬそばから代謝していく。
 灰だけを周囲に散らし、理央は填気術式を発動。自らの氣力を増幅させると再び霧を散布しはじめる。
 理央がこうして回復空間を展開し続けていることで、仲間の被害はかなり低い所に留まっている。
 憤怒者にしろ小豆衆にしろ、一発ずつの威力は小さいのでこまめに回復していけば致命傷には至らないのだ。
「ほんっと助かる」
「でも攻撃に転じてる余裕はないの。頼んだよ」
「言われなくても! とりあえず……あいつからだ!」
 蕾花は周囲を見回し、拠点防衛用に設置されたとみられる火炎放射器に狙いを定めた。
 放射器が蕾花たちに狙いを定める。放射開始。
 蕾花的火事の三原則。
 お前を。
 確実に。
 死なす。
「待ってたんだよ、このときをォ!」
 吹き付けられる炎の中をまっすぐに駆け抜け、火炎放射器の高温に加熱した銃身を直接殴りつけた。
 粉砕する火炎放射器。勢いでそのまま操縦者が吹き飛び、地面へ転げ落ちていく。
 そんな彼女の周囲を、小豆衆がぐるりと囲んだ。
「『御用!』」
 小豆衆の口がカタカタと動き、妙な声が漏れ出る。遠くからタザブロウが呼びかけているのだろうか。
 ファイティングポーズでゆだんなく見回す蕾花。
「こっちに用は無いんだよ。っつうか、あんたがタザブロウだね」
「『いかにも。それ以上名乗ってやる義理はないがの』」
「フン、義理ね。義理といえばあんたら、なんだってヒノマル陸軍に味方してんのさ。あいつらは略奪と殺戮を繰り返す屑どもじゃないか!」
 蹴りを繰り出し小豆衆を瞬殺。別の小豆衆が木刀でホールドしてくる。
 喋る小豆衆をいちいち切り替えているようだ。
「『そう見えるんじゃろうな。おぬしらには』」
「誰にだってそう見えるよ」
 肘を打ち付けて解除し、正面の小豆衆を蹴り飛ばす。
「『非国民どもが……なにが平和じゃ。上手に洗脳されくさりおって!』」
「あぁん?」
「『これ以上敵と話しても無駄じゃ。少々痛い目にあってもらうぞ』」
「さぁて、できるかね」
 ほれ、と言って天空を指さす。赤い稲妻が走り、小豆衆たちへ降り注いだ。
 小豆にかえる小豆衆たち。
「大丈夫ですか、蕾花さん!」
 着地するラーラ。先程の稲妻は彼女のものだ。
 理央も追いついてくる。
「ここが基地の中央だと思う。あともうひとがんばりだよ」
「それなら……」
 ラーラが、コンテナの下を覗き込んだ。
「アレを借りちゃいましょうか」

●小玉鼠救出
 足を怪我した燐花はおぼつかないながらも基地の外を目指して走っていた。
 ダイジェストで救出の様子を回想しよう。
 まず燐花は室内見張りの憤怒者をアンブッシュキルで黙らせた。
 (補足しておくと『奇襲=即死』ではない。こちらだけ二回行動できるというのが公式ルールである。燐花が二回連続で飛燕を打ち込んで戦闘不能にしたのである)
 のびた憤怒者を物音を立てないようにそっと寝かせると、ゲージを開いて小玉鼠を手に取った。
 相手が爆発物だからという以前に、恐い想いをした相手への配慮として、優しく手のひらへ乗せた。
「あなたたちを安全な所へ連れて行きます」
 小玉鼠は震えていた。以心スキルを通じて恐怖心が伝わってくる。既に軽いパニック状態になっているようだ。燐花を敵か味方が判別しかねているようでもある。
「もう、心配いりませんよ」
 指先で額を撫でてやると、小玉鼠はきもち落ち着きを見せた。
 頷き、他のゲージを開く燐花。
 そこで。
「貴様、何をしている!」
 戻ってきた兵士が燐花に気づいた。こうなってはステルスも意味が無い。スキルに集中力を割いている暇も無い。小玉鼠五匹を全て手の中に納めると、燐花は素早く兵士のそばを駆け抜けた。
 突然のことで対応が遅れた兵士は叫び声をあげて追いかける。
 幸いなのはこの兵士が銃器を持っていなかったことだ。憤怒者が咄嗟に振り込んだナイフで足を切られるだけで済んだのだ。
「機関銃……いや火炎放射器をもってこい! 小玉鼠が奪われた!」
 回想終了。
「それにしても、咄嗟の判断でまず足を狙うだなんて……」
 素人ではない。どういう経緯で集められたどういう集団なのかは、そういえばハッキリしていないが、もしかしたら近いうちに相当手強い敵として現われるかもしれない。
 そうこうしていると、発炎筒を振った燈が見えた。
「よく頑張った、パスパス!」
 小玉鼠を攻撃された場合、彼らに巧みな回避性能があるとは思えない。誰かが庇ってやらないとどんどんダメージがたまり、やがて爆発してしまうだろう。燐花がこれまで敵を迎撃できずにいたのは、ずっと味方ガードをし続けてきたからなのだ。
 それでも守れて一匹。五匹全部を守るには五人がかりでガードしないとならない。
「二人以上をいっぺんに守れる技術があればいいんですけれどね」
「贅沢言ってらんねーだろ。ほらっ」
 燈は急いで投げられた小玉鼠を優しくキャッチ。
「もう少し我慢しろ! お前も死にたくねーだろ!」
 両手で包むようにすると、燈は一目散に走り出した。
 だが今は二人。迎撃しにきた憤怒者たちと交戦した結果分断されてしまったのだ。
 幸い千陽の送受信でお互いの無事を確かめていられる上、桜が木の心で把握したコンテナの詳細配置、さらには燈が透視と暗視で把握した敵のおおまかな配置がが頭に入っているので各個撃破(よく覚者戦闘で使われる集中砲火の代名詞ではなく、孫子の兵法にある正しい意味の方である)を受けてはいない。
 そして流石に、フリースルーとはいかない。
「そいつを返せ! さもなくば――!」
 ジープに乗った憤怒者が荷台から機関銃を向けてきた。向けると同時に射撃開始。
「うおおおおおおおおお!」
 燈に出来ることと言えば銃撃から小玉鼠を庇うことのみだ。
 二匹はともかく、残り三匹が危ぶまれる――というところで。
「おまたせ、燐ちゃん」
 火の付いた煙草をくわえた恭司が、小玉鼠を庇って立ちはだかっていた。
 無表情ながら微量にうるんだ目を向ける燐花。
「蘇我島さん……」
「ん?」
「火気厳禁です」
「おっとごめん!」
 煙草を捨てて足で踏みにじる恭司。
「それより聞いてくれないの? なんでここにって」
「いえ……」
 『やばそうだと思ったら身体が勝手にね』か、『燐ちゃんが危ないときは必ずそこにいるんだよ僕ぁ』のどっちかだと思ったので燐花はあえてスルーした。
 今はそういうシーンではない。
「邪魔な兵器を壊していきたいところだけど、今はそれどころじゃないよね。小玉鼠ちゃん?」
 手の中の小玉鼠を見る恭司。
「安心してよ、僕らは助けに来たんだ。実験に使わないし、危害も加えない。でもちょっとばかし危ないから、ここ入っててね」
 シャツの胸ポケットに小玉鼠を入れ、恭司は走り出した。
 そういえば。あまりにピッタリの現われ方をしたのであえて触れていなかったが、勿論駆けつけていたのは恭司だけではない。千陽も駆けつけ、素早く小玉鼠を機関銃の弾から守っていた。
 牽制射撃を仕掛けながら小玉鼠を手に乗せる。
「もうすぐ楽になります。ご辛抱ください」
 ちらりと見てみるが、まだ平気そうだ。
 が、視線を追ってへ移したところで流石に顔をしかめた。
「火炎放射器だ」
 彼らに火炎放射器を乗せたジープが追いついてきたのだ。
 すかさず炎を放ってくる。コートで庇うが、流石に熱まで遮断できない。小玉鼠たちはキューキューと悲鳴をあげた。最初は五センチほどだったのに、いまは心なしか膨らんでいる。
「おいおいやべー! やべーって!」
 燈が呼びかけてくる。憤怒者たちを斬り殺していた桜が退路はこちらだと言って催促してくる。
「一匹よこしなさい。特に危ないやつを」
「た、たのむ!」
 燈が小玉鼠を一匹桜に手渡した。
 目を見開く恭司。
「危ない、それは爆発す――」
「でしょうね」
 桜は、美しいフォームで小玉鼠を敵へ投擲した。
 機関銃と火炎放射器の間で爆発する小玉鼠。
 流石に激しい爆発だったようで、ジープはそのまま近くのコンテナにぶつかって停止した。機関銃も沈黙している。どちらも操縦手がダウンしたのだろう。
「残念ね。大切な命がまた一つ喪われてしまったわ。これもすべて愚かな憤怒者たちのせいね。殺さなくちゃ」
 息をするように殺意を放つ桜。『お先にどうぞ』と燈たちを促すと、後続の憤怒者や小豆衆たちへと斧を投擲。包丁を逆手に持って突撃した。
 時間稼ぎのための抗戦を始める桜。
 一方で千陽たちは状況を切り抜けた……かと思えばそんなことはない。
「そこまでだ! まとめて死ねェ!」
 基地エリアから出て走る彼らに、火炎放射器を積んだジープが追いついてきたのだ。
「くっ……」
 千陽にこの場を切り抜けるカードはないだろう。
 恭司は脳内でチャートを展開させた。
 火炎放射器の届かない範囲まで逃げるか。無理だ、逃げ切れない。
 コンテナの中に隠れるか。無理だ、蒸し焼きにされて終わりだ。
 庇うのをやめて火炎放射器を破壊するか。無理だ、その前に小玉鼠が爆発してしまう。
 今できることと言えば、彼らを庇って少しでもダメージ減衰を起こさることと、彼らが爆発しないように訴えかけること。
 あとは祈ることのみか!
「と、見せかけて」
 にやりと笑う恭司。
 千陽が、ジープのさらに向こう側を指さした。
「『良い子には甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を』」
 異国の言葉を唱えるその声は。
「イオ・プルチャーレ!」
 別のジープの荷台に陣取ったラーラ・ビスコッティその人である。
 火炎放射器と併走したジープの運転席には成。
 荷台で移動砲台と化したラーラは、火炎放射器めがけて凝縮した石炭を発射。
 弾丸のように機械を貫く石炭が、火炎放射器を小爆発させる。
 さらには操縦者とジープの運転手を巻き込んで赤い稲妻を走らせるラーラ。
「お待たせしました! 乗ってください!」
 追撃してくる敵に火炎弾を乱射しながら、ラーラは手を伸ばした。

 こうして、F.i.V.Eの覚者たちは小玉鼠の救出と古妖狩人の基地破壊。さらにはヒノマル派古妖の作戦阻止を達成させた。
 ジープの荷台で呟く千陽。
「これは古妖狩人に対する攻撃の、ほんの一部。いずれ……いいえ、近いうちに彼らへの大規模な攻撃作戦が起こるでしょう。その時は、必ず」
 ジープは夜闇を裂き、日常の中へと消えていく。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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