【古妖狩人】隧道に響くのは
【古妖狩人】隧道に響くのは



 山を通る道を走っていると、古びたトンネルや坑道のような物を見かけた事がないだろうか。
 それらはかつて鉄道や物を運ぶトロッコの通り道であり、使われなくなってからは完全に潰された物や入口を封鎖されている物もあるが、放置されて当時の形を留めた状態の物もある。
 今三人の男が入って行ったのも、そんな放置されたトンネルの一つだった。
「向こうの奴らもやられたのか」
「ああ。古妖も奪われたらしい」
「クソッ! 何なんだ一体」
 三人の男が苛立たし気に話ながら奥に進む。その先はコンクリートで塗り固められ塞がれていたが、男の一人は特に戸惑う事もなく懐を探る。
「どうもこちらの行動がばれているらしい。念のため拠点を移せとさ」
「ここを引き払うのか?」
「ああ。勿体ないが、本拠地に送る古妖以外は施設ごと埋めるぞ」
 男はさも当然のように言い終えると、経年劣化のためか誰かが崩そうとしたのか、いくつもついた亀裂の一つに取り出したカードを差し込んだ。
 するといかにも重そうなコンクリートは自動的に上昇し、整備された廊下と奥に並ぶ見るからに頑丈そうな鋼鉄製の扉が現れた。
 扉には狸、獺、猫、鷺などの動物の名前以外にも、傘、壺、鐘など無機物の名前が書かれおり、微かに物音が聞こえて来る。
「やれやれ、苦労して集めたんだがなあ」
「下っ端はつらいな」
「爆弾と輸送費もこっちもちだし」
 肩をすくめて笑う男達の顔にはただ収集物が無駄になってしまうなと言う苦笑しかなかった。
 古妖がどんな目的で使われようと、破棄されようと、大した問題ではない。古妖狩人の中でも下っ端である男達にとって、古妖と言うのは少々厄介な消耗品に過ぎないのだ。


「古妖狩人の拠点が分かったぞ!」
 ブリーフィングの開始早々、久方 相馬(nCL2000004)が快哉を叫ぶ。
 ここ最近続いた古妖狩人の事件でを解決する中で集まった情報や、逮捕した古妖狩人から得られた証言を元に調査を続けた結果、中継点として使われている場所が判明したのだ。
 スクリーンに映し出されたのは山の中にある古びた隧道。地面にレールの跡らしきものが残っているが、電車が通るための物ではない。トロッコに乗せた物を運ぶためのレールだ。
 トンネルの直径は二メートルあるかないかと言ったところだ。
「このトンネルの先は行き止まりになっているんだが、そこで鍵を使うとカモフラージュの壁が動くようになって中に入れるそうだ」
 その先が古妖狩人の拠点になっており、捕まえた古妖は一旦ここに集めてから本拠地に輸送していると言う。
 中継地点に集められた古妖は実験用や戦闘用で分けられて運ばれる事もあれば、設備が揃っている場所なら実験や戦闘用の調整を行う事もあるらしい。
「今回見つかった中継点は捕まえた古妖を戦闘用と非戦闘用にわけて本拠地や別の中継点に送るためのものらしい。従って設備は最低限だが、捕まっている古妖は多い」
 この拠点にいる古妖狩人は十二人。
 全員古妖狩りの経験が豊富で、そこらの憤怒者より戦闘に長けていると見られる。
 彼らはここ最近の古妖狩りの失敗や覚者との遭遇・逮捕が続いた事で拠点を引き払うため、拠点に集まっている。
「奴らは本拠地に送る古妖をトンネルの分かれ道から運び出し、利用価値の低い古妖は拠点ごと爆破するつもりだ」
 中継拠点を潰すだけならわざわざこちらから襲撃しなくても古妖狩人自身が爆破する。
 だが、古妖をすべてを救出するのなら爆破される前に拠点にいる古妖狩人達を倒し、爆破を阻止しなければならない。
「爆弾は時限爆弾だが、どうやら遠隔操作でも停止と爆破ができるらしい。緊急事態があった場合に備えたんだろうな」
 今回の依頼の目的は古妖救出だが、状況次第では本拠地に送られる古妖の救出を優先し、牢の中にいる古妖は諦める事も考えなければならない。
「言い方は悪くなるが、本拠地に送られる古妖を奪還すればだけでも本拠地への戦力増強を阻止できるんだ。無理をして爆発に巻き込まれたら無事では済まないぞ」
 当然古妖狩人達は古妖奪還を阻止しようとするだろう。彼らも倒して捕縛する事ができれば、古妖狩りを専門とする人数も一気に減らせる。
「皆でよく話し合って優先順位を決めてくれ。危険な場所に送り出しておいてなんだが、皆の命も大事にしてほしいんだ」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:
■成功条件
1.本拠地に送られる古妖の奪還
2.古妖狩人の全撃破
3.なし
 みなさまこんにちは、禾(のぎともうします)
 古妖狩人の拠点の一つが判明しましたが、向こうもここ最近の状況から拠点を引き払う事にしたようです。
 場合によっては非常に危険な目に遭いますのでご注意下さい。


●重要な備考
 この依頼の成功は、憤怒者組織『古妖狩人』の本拠地へのダメージとなります。
 具体的には古妖狩人との決戦時に出てくる憤怒者数や敵古妖数が、成功数に応じて減少します。

●補足
 成功条件1と2の条件を満たす事が絶対条件です。
 牢の中にいる古妖の奪還は成功条件には入っていません。
 万が一爆発時に施設内にいた場合は命の保証ができかねませんので、その時は同行NPCの海棠 雅刀が中にいる覚者を退避させます。

●注意事項
 爆弾は皆様が最初の憤怒者と戦闘を開始してから40分後に爆発すると考えて下さい。
 専門知識がなければ解除できない上に、破壊しようと強い刺激を与えても爆発します。
 確実に止めたい場合、爆弾を設置している古妖狩人の誰かが持っている遠隔操作用のリモコンから停止命令を送るしかありません。
 古妖狩人も何かの拍子に爆発されては困るので、リモコンには厳重にカバーをかけ破損や誤作動を防いでいるようです。

●場所
・外側
 山の中にある破棄されたトンネル。日中ですが一般人は入ってきません。
 山と言ってもトンネル周辺の傾斜はほとんどありません。一度道を敷くために拓かれた名残で戦闘の邪魔になるような木が生えておらず、地面も安定しています。

・内部
 古妖狩人の出入りのためにカモフラージュの扉は開かれています。照明があるので中は明るい。
 内部は入口からまっすぐのびて奥に進めるトンネルと、途中整備用に設置された脇道を利用した輸送用トンネルがあります。
 入口からまっすぐ奥に進めば古妖が閉じ込められた牢があります。牢の鍵はカモフラージュの壁の鍵と共通のようです。
 通路は全てトンネルを利用したためか天井が高く、幅も5m近くあります。拠点としてしっかり整備されているので、中で戦闘を行っても崩落する危険はありません。

●敵情報
古妖狩人×12人/憤怒者
 外側の見張り、内部で古妖を輸送する準備、爆弾の設置確認でグループごとに別れています。
 全員が古妖狩りを行える戦闘員でもあり、武器の扱いにも戦闘にも慣れています。
 入口と牢のカードキーは全員が所持しているので、万が一入口が閉じられたとしても一枚奪っておけば開く事が来ます。

・外側、見張り×4人
 ナイフ(近単/物理ダメージ+毒)
 機関銃(遠列/物理ダメージ)

・内部脇道、古妖運搬×4人
 電磁警棒(近単/物理ダメージ+痺れ)

・通路奥、爆弾設置班×4人(この中の誰かが爆弾のリモコンを所持)
 ナイフ(近単/物理ダメージ+毒)


 情報は以上となります。
 皆様のご参加お待ちしております。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/8
公開日
2015年12月07日

■メイン参加者 6人■

『ブラッドオレンジ』
渡慶次・駆(CL2000350)
『涼風豊四季』
鈴白 秋人(CL2000565)
『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)


 それなりに密集して生えている藪や木が突然姿を消し、ぽっかりと拓けた場所の先。山の斜面に開けられたトンネルがあった。
 一見するとすでに廃棄されたトンネルだ。実際このトンネルがかつて利用されていた事を知っている人間はほとんどいない。
 そして昔は人々の生活のために利用されていた物が人の負の感情のために利用されている事を知るのは、利用している古妖狩人と彼らの動向を偵察する阿久津 亮平(CL2000328)をはじめとする覚者達くらいだろう。
 亮平は送受心を使い、無音のまま背後にいた五人に報告する。
『他の連中が出て来る様子はない。思ったより距離もありそうだ』
 トンネル入り口で見張りに立つ四人の古妖狩人とその背後に長く伸びるトンネル内部を偵察能力と鷹の目で確認した亮平の報告を受け、残り五人が戦闘態勢に入った。
『オレは初参戦だ。よろしく頼むぜ?先輩方よぉ』
 今回がF.i.V.E.に入って初の依頼だと言う藤倉 隆明(CL2001245)だが、ふてぶてしいくらいの口調だ。
 何人かが苦笑しつつも任せろと言うように頷く。
『海棠君はサポートを頼めるか?』
『良かろう』
 この場に同行した海棠 雅刀(nCL2000086)の同意を確認し、亮平は演舞・清風が全員の身を包むのを待って号令をかける。
『行くぞ!』
 障害物のない拓けた場所は覚者達の接近を隠せる物もない。見張りの古妖狩人四人が振り向く。
「櫻火真陰流、酒々井数多。往きます!」
 一斉に駆け出した覚者の中で一番槍となったのは酒々井 数多(CL2000149)。一足飛びに見張りの前に到達し、速度を緩めず斬り抜けて行く。
 斬り付けられた古妖狩人が痛みに顔をしかめながらも武器を構えるが、機関銃を発砲する前に亮平の召雷が落ちて引き金から指が離れる。
 そこに五十絡みの恰幅の良い体を見事な逆三角形の若い体に変化させた渡慶次・駆(CL2000350)が、追い打ちの地烈を叩き込んで四人の古妖狩人を山の斜面に叩きつけた。
 今回は時間との勝負。すべての古妖を救い出すためには、仕掛けられた時限爆弾の停止と運び出される古妖の運搬の両方を阻止せねばならない。
 気の毒だったのは見張りをしていた四人の古妖狩人だろう。警告もなく襲い掛かられたかと思ったら覚者達の集中攻撃に晒されたのだ。
 鈴白 秋人(CL2000565)が自身の強化のため醒の炎を使い、長く伸びた彼の髪を巻き上げる勢いで、横を成瀬 翔(CL2000063 )が走り抜ける。
 二十代の青年のものとなった足は瞬く間に古妖狩人に迫ったが、その時点で斜面に叩きつけられた古妖狩人達は体勢を立て直していた。
 内二人はいち早く翔が放った雷に気付いて回避行動を取る。
「ここも嗅ぎ付けられたか」
「時間を稼げ!」
 攻撃を回避した二人が機関銃を乱射する。ばら撒かれた弾丸は前に出ていた全員に命中し、地面に積もった落ち葉を舞い上げた。
「ハッハァ! 機関銃の撃ち合いなら大歓迎だぜ!」
 舞い散る落ち葉の中、隆明の機関銃が呻る。変化した両腕は機関銃と融合したかのような武骨な鋼鉄。
その銃撃は反撃として残り二人の古妖狩人が撃ち返す機関銃の音と重なり、周囲に耳が痛い程の轟音が響き渡った。


「チッ、機関銃でもこれかよ!」
 隆明の機関銃と古妖狩人の機関銃の被害を見比べると、古妖狩人が受けた被害の方が目立つ。
「このやろ、グハッ!」
「先を急いでいるんだ。恨み言なら後にしてくれ」
 醒の炎によって強化された秋人の攻撃が古妖狩人の一人を貫く。
「お灸はきっちり据えてやるがな!」
 駆はそう言ったが、四人の古妖狩人達にとって覚者六人の攻撃はお灸どころの騒ぎではない。駆の攻撃は骨まで響く。
「邪魔よ!」
 数多の刀が一閃すれば冗談のように斬れ、亮平と翔の雷のせいで体が痺れるように痛い。
 いくら古妖狩りを専門として経験を積んだとは言え、基本的には一般人。数の有利さえない状態では不利だ。
「くそったれ! ただでやられるかよ!」
「タァリホー! この銃撃の音と反動がたまらねぇ!」
 やけくそになって乱射する機関銃も、同じく機関銃を乱射しトリガーハッピー状態の隆明をますます滾らせる有り様だ。
 更には同行者の雅刀が攻撃以外に傷を回復させるから始末が悪い。
 それでも機関銃の威力と古妖を相手にしてきた古妖狩人の戦意は馬鹿にしたものではない。
 一人二人と倒れて行き、それでも抵抗を続ける古妖狩人に思う所がある者もいたが、今はそれに気を取られている場合ではないと思い直す。
「俺は古妖を全員助ける。ここで手間取ってられないんだ!」
 翔の一撃が四人目を倒し、その余韻を味わう間もなく亮平が持ってきたロープで縛り上げて行く。
「まずは第一関門突破、と」
「カードキーは……これですね」
 駆が縛り上げた見張りのポケットから秋人がカードキーを取る。
 トンネルの中に設置されているはずの壁は見えないが、音が反響しやすい内部に戦闘音が届いていないとは考えにくい。
「急ぎましょう」
 数多は前もって用意していた時計のタイマーを確認し先へと急ぐ。
 他の五人と同行者一人もトンネル内部へ駆け出す。
 七人分の足音が反響する中、まだ少し離れているが別の作業の音や人の声が聞こえてきた。反響が強くて会話の内容までは分からないが、何となく慌ただしく感じる。
『みんな、あのレールを見てくれ! あの先の脇道にコンテナっぽいのがあるぞ!』
 念のために送受心を使った翔が道の先を指す。
 内部を透視していた翔が指差した先には運搬用に敷かれたと思われるレールがあった。その先は壁に消えているように見えたが、近付くと道が続いているのが分かる。
『獣っぽい臭いと人の臭いがするわね』
『そっちが本拠地行の古妖か』
 数多も鋭敏化させた嗅覚にひっかかったものを伝える。
『俺と鈴白君、海棠君、藤倉さんで古妖運搬班を足止めしておく。何かあれば連絡しよう』
 亮平が伝えると、数多と翔が頷く。
『それじゃ、私達は奥の方に行くわね』
『爆弾を止めたら連絡する。そっちはよろしくな!』
『お互い上手くやろうぜ』
 最期に駆が言い残すと、三人は韋駄天足を使ってあっと言う間に通路の奥へ走り去った。
『俺達もゆっくりはしていられませんね。先行します』
『気を付けろよ』
 秋人が韋駄天足で一足先に出る。
 それを追う形で、同行者含む三人も通路の奥へと向かう。


 韋駄天足で走り抜ける三人が目指すのは、奥で爆弾を設置しているはずの古妖狩人達だ。
 時限爆弾さえ止める事ができれば任務のネックである時間制限は格段に楽になる。
『古妖狩人が来るぞ。もうこっちに気付いてる』
『構うもんですか』
『このまま突っ込む!』
 透視を続けていた翔の報告に、二人が迷いなく答えた。
「来たぞ、覚者だ!」
「表の奴等はやられたか」
 通路から出てきた四人は明らかに戦闘用と思われる大振りのナイフを手にしている。
 銃器を持っていないのは流れ弾による誘爆を防ぐためだろうが、覚者達にとってもありがたい事だった。
「お前らも古妖を助けに来たってわけか。物好きな奴等だ」
 古妖狩人の一人が鋼鉄製の扉を指して嘲笑う。
 その目に挑発の意思より強い緊張と一種の覚悟を見た駆は、無意識の内に頭の中で印を結ぶ。
 見張りをしていた四人も勝てない事は承知の上で戦っていた。単に欲望のみに従っていたならそんな事はしないだろう。
 彼等には彼等の理由や信念があるのかも知れない。
 だが、今はそれを探る場面でもなく、そんな事をする義理も時間もない。
 やる事はただ一つ。
「ナウマク・サンマンダ・バサラダン・カン!」
 祈りを捧ぐ明王の如く、活性化した炎が立ち昇る。
 来るかと構えた古妖狩人の前に躍り出たのは数多だった。
 朱塗りの鞘に納められた刀を抜き払って一閃。
 ギャリンと耳障りな金属音と火花が散り、ナイフでの防御に失敗した古妖狩人からは血の飛沫が散る。
「防御してもこれか……」
 ナイフで防御した一人が浅く切れたベストに触れる。
「そこだ!」
 それを見た翔が古妖狩人に攻撃を仕掛ける。
 一見するとただ攻撃しただけだが、数多と駆はその行動に思い当たる物があった。
『あいつが持ってるの?』
『さっき見た。間違いない』
『よっしゃ、それじゃあさっさと頂いちまうぞ』
 翔が透視していたのは何も敵の居場所や通路だけではない。古妖狩人の一人が持っている爆弾のリモコンを探して透視を続けていたのだ。
 リモコンを持っていた古妖狩人は訳もわからぬままに三人の覚者に集中攻撃を受けあえなく倒れてしまう事になる。
「俺らで残りを押さえとく。爆弾を止めろ!」
「わかった!」
 翔と駆、二人のカケルがそれぞれ目当ての古妖狩人に向けて走る。
「しまった、こいつらリモコンを!」
「邪魔はさせないわよ!」
 翔の目的に気付いた古妖が駆の横を抜けようとしたが、数多が素早く回り込んだ。
 古妖狩人達が使うナイフは大振りと言ってもリーチが短く数多と駆が持つ武器と比べても不利ではあったが、古妖を相手にしているだけあって度胸があった。肉を切らせて骨を断つとでも言うのか、血飛沫を飛ばしながらも懐に飛び込み、ナイフを突き立てて来る。
 大振りなナイフの傷は時に毒ももたらしたが、数多の視線は鋭いままだ。 
「私はね、妖も古妖も大嫌いだけど、それを利用して迷惑をかけようとする奴らの方がもっと嫌いなの!」
 最初の一撃は何とか防御していた古妖狩人達も、翔に気を取られていてはそれも叶わない。
 数多の斬撃と駆の重い一撃が古妖狩人達を押し戻し、翔の手が目当てのリモコンを探り当てた。
「古妖は絶対、全員助ける!」
 リモコンのカバーを取り外すと、翔は迷いなく停止ボタンを押す。
「これでじっくりお灸を据えられるな」
 ごきごきと関節を鳴らしながらにんまり笑う駆。
 朱塗りの鞘と白刃を手に瞳を鋭く光らせる数多。
 一番ましに見えた翔までも、雷光を纏って迫って来る。
「おまえらがひでー事を続けるなら、オレは戦うのをやめねーぜ。ヒーローは悪い奴らを止めなきゃなんねーんだから!」
「散華なさい! 下郎共!」


 爆弾を設置している古妖狩人と四人の覚者が戦っている頃、脇道に入った三人も奥から戦闘音が響くのに気付いた。
 先行した秋人が古妖狩人と接触したのだろう。
『急ぐぞ!』
 更に走る速度を上げて奥に行くと、トロッコに載せられたコンテナが並んでいた。
『あのコンテナか……』
 一見するとごく普通の貨物用コンテナに見えるが、僅かにガタガタと動く音が聞こえる。
 コンテナが並ぶ奥の方に運搬班らしい古妖狩人と秋人が戦っているのが見えた。
 古妖狩人は様子を見る限り武器は警棒のみだ。コンテナとトンネルの壁による跳弾を嫌っての事だろう。
 秋人が放つ遠近自在の攻撃に苦戦している。
『待たせたな』
『挟み撃ちだ』
 亮平が送受心で声を掛ける。
 戦闘中のためか端的な口調の秋人に三名は同意を返し、先手必勝と襲い掛かる。
「おい後ろ!」
「遅い!」
 亮平が最初の一人に召雷を打ち付ける。警告を発した一人は素早く離れたが、三人が巻き込まれた。
「ハッハッハー! 踊れ踊れェ!」
「なっ、このイカれ野郎が!」
 隆明が遠慮なくバラ撒く機関銃の弾が時折跳弾する。
 構うことなく乱射される銃弾に悪態をついた古妖狩人は更に盛大に舌打ちした。隆明を止めようにも前には亮平、背後には秋人、隆明の側には雅刀も控えていた。
 しかし、どうせ背後から攻撃を受ける羽目になるなら一人の方がましだと言うのか、四人は亮平と隆明に向かって突撃する。
 手にした警棒は下手に受け止めればそれだけで痺れが来るのではないかと思ほどスパークが発生しており、実際に当たると覚者の体すら痺れさせた。
 特に秋人と亮平の被弾はこの場にいる他二人に比べれば格段に多くなり、度々亮平自身の演舞・舞風と雅刀の癒しの滴が飛び交う事になる。
 しかし古妖狩人もただではやられんと集中攻撃に切り替えてひたすら警棒を叩きつけて来る。
 そしてついに、三人の古妖狩人の集中攻撃が亮平に決まってしまった。
「ぐっ……」
 トンネル内に感電した時特有の音とスパークが走り、構えていた亮平の腕がだらりと下がる。
 間近でその表情を見た古妖狩人はにやりと笑ったが、同じ表情を亮平が返してきた事に気付いてぞっとする。
「狙え!」
 亮平がその場から飛び退いた瞬間、秋人と隆明の攻撃が丁度十字砲火のように古妖狩人達を捕らえた。
 跳弾も恐れぬ隆明の機関銃が呻りを上げ、秋人の水礫が容赦なく貫いて行く。
 それだけでも古妖狩人にとっては耐え難い苦痛だったろうが、攻撃はまだ残っている。
「古妖を救出するため力を尽くすと決めていた。手加減はしない」
 パシンと亮平の掌でスパークするのは電磁警棒とは段違いの威力を持つであろう雷光。
 その時、爆弾処理に向かった翔からの送受心が届いた。
『爆弾は止めた! 後はこいつら全部やっつければ終わりだ!』
 亮平はその報告を聞いて口の端に笑みを浮かべたのだが、送受心が届いていない古妖狩人達の目にどんな風に映っただろうか。
 その先は非常にあっけなく終わってしまった。
 幾度か亮平や秋人に傷を負わせた古妖狩人の攻撃も、冷静に対処すればけして脅威ではかったのだろう。
 時に受け流し、時に裂け、秋人は先行して戦っていたとは思えないほどの身のこなしで古妖狩を翻弄し、亮平の攻撃は問答無用で古妖狩人四人を巻き込んだ。
 とは言え、古妖狩人達がもっとも神経をすり減らしたの隆明ではないだろうか。
 彼は始終トリガーハッピー状態と言ってもいいハイテンションで機関銃を乱射していたのだ。
 耳の側を跳弾の音が通過する度、哄笑が上がる度、古妖狩人はびくりと身構えた。
「そろそろ向こうも終わる頃だろうな」
 しかしとどめの言葉は亮平の方からもたらされる事になった。
「終わる、だと……?」
「ああ。おかしいと思わないか。もうだいぶ時間が経っていると言うのに、爆発の一つもない」
 はっと気付いた古妖狩人に向かって、亮平が神罰を下すかのようにすっと手を上げる。
「お前たちの企みは、俺達が潰してやったぞ」
 トンネル内部を更に明るく照らす雷光に、古妖狩人達の意識は刈り取られていく。
『本拠地行きの古妖は全て確保した。そっちは大丈夫か』
 所々まだ帯電している古妖狩人を見下ろしながらの亮平の送受心に返って来たのは、勝利を叫ぶ翔の声だった。 


「思ったより古妖の数が多いな」
「手分けした方がいいんじゃない?」
「連中のカードキー全部置いてあるし、手分けするか」
 戦いが終わり、時限爆弾も止まったトンネル内では六人の覚者が忙しく動き回っていた。
 同行者の雅刀は一足先に捕縛された古妖狩人達を連れて行ったためにこの場にいない。
「悲しみだけが満ちる虚に炎の手向けを送るなら、俺はそれを寿ぐだろう(訳:このトンネル内に重要な物はないようですから爆破オッケーです。やっちゃってください)」 
 最後にそう言い残して行った雅刀も今回は戦闘に参加したためか疲れていたようだが、スピード優先で駆け回った覚者達の疲労も軽くはない。
 助け出した古妖もほとんどが弱って自力では動けなくなっていたし、動けるものの中には覚者達の姿を見ると怯えたり怒り狂って牙を剥いてくるものも少なからずいた。
「人間が酷いことしてごめんな。でも、仲良くしたい人間もいるんだよ」
 今は無理かも知れないが、いつか彼らの傷が癒えた時に少しでもいい関係が築けるようにと思いを込めて、翔は弱った古妖を檻から出して行く。
 多くは覚者達にたいしていい感情を示さなかったが、例外もあった。
「あんた動けるみたいね。ほら、さっさと出なさい」
 数多が檻を開けると、中にいた化け猫がさっと起き上がり、嬉しそうに数多の足に頭を擦り付けたではないか。
「何するのよ!」
 思わず飛び退き、見上げて来る化け猫に険悪な表情を向ける数多。
「勘違いしないでよね! あんた達からも情報が欲しいから助けるだけなの! あんたたちなんかどうでもいいんだからねっ!」
 化け猫に向かって叫ぶ数多の姿を他の覚者が生暖かく見守っていたと知ったら、彼女はどんな顔をするだろうか。
 ちなみに化け猫は人の言葉を話せなかった上に一通り罵られた後はにゃあと一声鳴いて去って行ったが、数多は特に文句も言わずにそれを見送っていた。
 そして覚者たちに怒りを向ける古妖の中にも例外がここに一匹。
「よーし、じっとしてろよ。足枷外してやるからな」
「すみません、俺もご一緒していいですか?」
 駆がコンテナの中で足枷に繋がれていた獺にゆっくり近付いていると、秋人が声を掛けて来た。
 構わないと迎え入れれば、秋人は獺の前に膝をついて話し始める。
「以前女性に変化した獺の妻と会いました。彼女は古妖狩人に夫を奪われたと言っていましたが、心当たりはありませんか?」
 秋人の言葉に対する反応は顕著なものだった。どうやら秋人と、秋人が出会った獺の妻の探しものは無事見付ける事ができたようだ。いずれ夫を捜してさまよう妻の元へ帰るだろう。
 この後、数多くの古妖を捕らえていた古妖狩人達の城は、彼らが設置した爆弾を覚者達が再び起動させた事によって崩れ去る。
 黄昏時に消え行くその情景が近い内に古妖狩人そのものの黄昏へと繋がるだろう。
 その場にいた覚者達の胸にはそんな予感が満ちていた。
 

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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