山奥の土蜘蛛住まう安土村
【古妖狩人】山奥の土蜘蛛住まう安土村


●少年覚者と憤怒者二人
「さて。そろそろ村に帰るとするか」
 塗り壁との話を終え、少年は帰路についていた。昨今古妖を狩るために暗躍する古妖狩人という者たちがおり、それに注意するために知り合いの古妖を回っていた。そして最後の古妖の塗り壁との話を終えたところだ。
 少年――安土八起は周囲を警戒しながら街を歩く。街から一日二本のバスで山まで向かい、そこからは徒歩。今日のバスはもう出てしまっているため、公衆電話から村に電話をかける。迎えの車が来るまで、しばらく待機だ。
 そんな彼を見る二つの目があった。
(あれは……我々の邪魔をしてくれた覚者じゃないか?)
(古妖と通じているらしいな。……方角から察するに安土村の人間か)
(おそらくな。安土村の土蜘蛛伝説と関係があるのかもしれない)
(うまくいけば、覚者をせん滅して土蜘蛛を狩れるぞ)
 憤怒者組織『古妖狩人』。彼らは偶然安土の姿を見つけたのだ。古妖とつながりのある彼の村の位置を探り襲撃を仕掛けることができれば、彼らの持つ古妖の情報を得ることができるだろう。
 そして『安土村』には有名な伝承がある。時の権力者に追い立てられてこの地を去った土蜘蛛。安土村はその土蜘蛛が逃げた村の名だ。噂によれば、古妖に支配された人が住むという。
 憤怒者達は息をひそめて少年の後を追う。レンタルカーを用意し、安土村まで尾行するために。

●FiVE
 夢見が捕らえたのは、そんな未来だ。
 この後古妖狩人に場所を知られ、村は襲撃されてしまうという。古妖狩人たちが予想していた土蜘蛛の反抗もなく、村はあっさり制圧されてしまう。
 被害を最小限にするには、二人が少年に気づく前に追い返すのが一番だ。
 そして、安土村。土蜘蛛がいると伝えられる小さな村だ。件の少年は、そこを拠点としているらしい。見知らぬ因子の覚者が住むと言われている小さな村。
 古妖狩人と対抗する彼らのことを知るために、その村と交流を深めるのもいいだろう。



■シナリオ詳細
種別:シリーズ
難易度:普通
担当ST:どくどく
■成功条件
1.憤怒者二名の戦闘不能。
2.安土村で一定数の情報を手に入れる。
3.なし
 どくどくです。
 メインは調査パートです。田舎の観光程度に。

●敵情報
・憤怒者(×2)
 憤怒者組織『古妖狩人』の一員。偶然安土を見つけ、その尾行を開始します。そうなると夢見の見た悲劇が起きますので、見つける前に追い返してください。
 武装は何も持っていないため、誰かがどうにかする旨をプレイングに書けば、一行でその通りになります。

●NPC
・安土八起(あづち・やおき)
 正体不明の因子を持つ少年覚者。蜘蛛の巣を意匠とした服を着ています。
 安土村と呼ばれる村出身です。FiVEの覚者のことを信用しており、態度はおおむね好意的です。聞かれればなんでも答えるでしょう。

●安土村
 山の中にある人口五〇に満たない小さな村です。
 かつて権力者に追い出された土蜘蛛が逃げ込んだといわれており、村にはFiVEが知らない因子の覚者がいます。むしろ、その因子の覚者しかいません。
 安土を憤怒者から救ってくれたという話をすれば、好意的に話をしてくれるでしょう。 彼らもまた、自分たち以外の覚者のことを知りたがっていますので、情報交換は望むところです。
 調べるポイントは、大きく分けて四か所。それ以外も発想次第で調べることは可能です。

一:安土村村長宅。この村で一番年を取った人です。なお村長は覚者です。
二:安土村:村を見て回り、人や地形的な面も含めて情報を得ます。
三:安土神社:安土村にある神社です。逃げた土蜘蛛が住むと言われています。
四:書庫:歴代の村長がまとめた村の記録をまとめた倉庫です。
 
 村に入る時間が午後二時ごろ、一泊して次の日の昼には帰還する形です。
 それまでに『FiVEが知らない因子』を中心に、多くの情報を仕入れてください。覚者達は『憤怒者から古妖や村の若い子を救ってくれた恩人』です。ある程度の礼節さえ守れば、村人は協力的に接してくれるでしょう。

※前回のシナリオでわかっていること。
・村にはFiVEの知らない因子を持つ覚者がいる。むしろ、その因子以外いない。
・古妖とある程度のつながりがある。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年12月04日

■メイン参加者 8人■

『落涙朱華』
志賀 行成(CL2000352)
『白い人』
由比 久永(CL2000540)
『在る様は水の如し』
香月 凜音(CL2000495)
『独善者』
月歌 浅葱(CL2000915)


 憤怒者二人は安土の方を振り向こうとした時、
「とっとと帰りな!」
 寺田 護(CL2001171)の稲妻に焼かれた。何事かと振り返ると、そこには二人の覚者がいた。
「二人とも、ちゃんと蛙さんに謝らないといけないんだぞ!」
 叫んだのは刀を手にした『天衣無縫』神楽坂 椿花(CL2000059)だ。二人の覚者に怯えるように憤怒者達は撤退していく。
「あれ? 皆さんどうしたんですか?」
 その騒ぎに気づいたのか、安土が覚者の方にやってくる。間一髪で憤怒者たちは気づかなかったようだ。
「久しいな、八起。おぬし、狙われておったのだぞ」
『白い人』由比 久永(CL2000540)が大具で口を隠しながら安土に語り掛ける。え、と周囲を振り返る安土。
「安心しろ。連中はもう追い払った。それよりも聞きたいことがあるのだが」
 そんな安土に『浅葱色の想い』志賀 行成(CL2000352)が落ち着くように声をかける。そして安土村のことを尋ねた。
「聞けば土蜘蛛様が住んでいると。本当なのですか?」
「矢代様のことですね。ええ、いますよ」
 問いかける『水の祝福』神城 アニス(CL2000023)に頷く安土。あっさり答えたのは覚者達を信用してのことか。
「実は先日の古妖狩人の件でいろいろとお話がありまして。純粋な興味というのもありますが」
「ああ、それは良かった。実はじーちゃん……村長も皆さんに興味を持たれまして」
『教授』新田・成(CL2000538)の言葉に、安土が歓迎の意を示す。元々同じ『古妖狩人』を敵としている。連携や情報交換は望むところのようだ。
「さあっ、調査ですねっ。張り切っていきましょーかっ」
 饅頭の入った紙袋を運びながら『独善者』月歌 浅葱(CL2000915)は元気よく口を開く。土蜘蛛って饅頭食べるかな? そんなことをふと思った。
「今回の調査、いったい何が出るのやら。折角の機会だ。新しい発見があればいいな」
 香月 凜音(CL2000495)は未知の因子の謎に思いを馳せる。新たな因子、新たな出会い。それはどのような未来を紡ぐのだろうか。
 安土村からの車が来る。まさかの来客に笑みを浮かべる運転手。
 町を離れ、車は山道を進む。単調な景色に飽きてきたころ、覚者達は安土村看板を見つけた。


 安土村。
 某県山奥の県境のに位置する村で、人口は五十四名。農業がメインの村である。特産品などはなく、どこにでもある排他的な過疎の村――
 成が事前に調べた情報は、そんな所だった。まさか古妖の秘密を守るため、人との交流を絶っていたとは思いもしまい。
「初めまして。由比久永と言う。よしなに」
「ああ、八起から話は聞いておる。まあかけなされ」
 安土村の村長は、成と久永を笑顔で迎え入れた。その傍らには、少年覚者と同じく人魂が浮いている。彼を五十年老けさせたらこうなるだろう老人だ。
「ご縁あって罷り越しました。新田と申します。京都にある五麟大学の教授……そして、その考古学研究所にある、覚者組織に属するものです」
 成はFiVEのことや昨今の自分達の知る情報を説明する。村の外の出来事を知らない村長は驚きながら話を聞いていた。
「そうですか。して、この老人に聞きたいことがあると。正直、貴方達ほど聡いわけではありませんので」
「余も全知というわけではない。むしろ知らぬことの方が多い」
 久永は言って村長に問いかける。
「まずこの村に覚者が何人いるかを教えてほしい」
「三人じゃよ。私と八起と、あとは二つ向こうの家に住む三村さんのお嬢さん」
「なるほど。その力に目覚めた……因子発現のことを覚えていますか?」
 成の問いかけに、何かを思い出すように思案する村長。
「ふぅむ……二十年ほど前かのぅ。ふ、と矢代様の存在を身近で感じるようになったんじゃ。あんたたちの言う守護使役もその時一緒に気づいたの」
「古妖達とはいつ頃から、どうやって繋がった?」
「貴方達の言う『発現』後からじゃよ。古妖のいる場所が、なんとなくわかるようになっての」
「古妖の居場所が……?」
 村長の言葉に疑問を返す久永。基本的に人と交わらない古妖達。その居場所がわかるというのは……?
「おそらく……因子の力ですね」
 成がその疑問に推測を立てた。暦因子の超絶的な動体視力や、獣因子の動物との感応能力のように、彼ら特有の能力。おそらくは、特定範囲内の古妖の居場所を知ることができるのだろう。
「お知り合いの古妖達は人間に友好的なのですか?」
「様々じゃよ。貴方達が癒した河内の様に昔は暴れておった者もおる。それでも彼らは私達の良き隣人じゃ。
 ま、迷惑を受けることもあるがの」
 成の質問に破顔する村長。まるで台風にあったかのように古妖の災害を笑い飛ばした。彼らにとって、古妖とは生活の一部のようだ。


 安土村にある唯一の学校。その校庭。
「術式の得意な村人を集めてくれねえか? それと他の因子に興味ある奴。俺も翼の因子特性と持っている一通りの術式を見せるぜ」
 と、護が安土村の人達に言えば、瞬く間に人が集まってきた。殆どが珍しいもの見たさの一般人だが、その中に一人の女性がいる。高校生なのだろう、少し古風なセーラー服を着ていた。
「三村恵と言います。あの、この村で術式が使えるのは村長と私と八起君だけなので……」
 覚醒した三村。だがその姿に護は驚いていた。
「アンタの目は腕にあるのか?」
 安土が覚醒した時に額に開く瞳。三村のは右の腕に開いていた。どうやら精霊顕現の紋様のように、瞳が開く場所は個人により異なるようだ。
「まあいいや。そんじゃ、行くぜ!」
 翼を広げ、風を放つ護。第三の瞳から光線を放つ三村。
「始まっていたか」
 懐中電灯を手に行成が校庭に足を踏み入れる。行成は村の地理や地名などから因子の謎を探っていた。村人に洞窟など神秘的な場所がないかを聞いて足で調べていたが……結果としてはすべて空振りに終わった。
(だが逆に『未知の因子』の原因として考えられるのは、土蜘蛛の事が原因なのだろうな)
 そう割り切って、護と三村の方を見る。源素の術自体は当たり前だがFiVEの扱うものと変わらないようだ。それを見ながら近くにいた村の人に問いかける。
「古妖と知り合いなのは安土だけなのですか?」
「そうですね。八起クンのお友達で、その縁で村に来る古妖がいる、ぐらいです」
「なるほど。古妖と言えば安土神社の土蜘蛛というのは貴方達の信仰なのですか?」
「いやいや。敬いはするけど、拝むほどじゃないです。なんていうか……ずっと生きているおじいちゃんみたいな感覚で」
 ふむ、と頷く行成。どうやらこの村は自分達よりも古妖が身近にいる生活をしているようだ。
「私たちのような村の外から来た人のことはどう思っています?」
「んー……何をしに来たんだろう、と最初は思いましたね。まさか安土さんや三村さんがそこまで珍しがられるとは思ってませんでしたので。
 ……ああ、そういえば金江村の人もそうでしたね?」
「金江村?」
「ええ。少し離れたところに金江村っていうのがあるんですが、そこは先祖が山彦という古妖だという家がありまして。そこの三男が覚者なんですが彼も八起クンみたいだったような……」
「本当ですか?」
 思わず問い返す行成。もしそれが本当なら、この因子はおそらく……。
「見てたらちょっと戦いたくなってきたな。いっちょやるか!」
「ええええええ!?」
 三村の術式を見て血が滾ったのか、護がその矛先を三村に向ける。
「落ち着け」
 そんな護の頭を小突く行成。調査に来て戦闘を仕掛けてどうする、と瞳で語っていた。
「おおっと。いや悪い悪い。つい熱くなってしまって」
 手にしたカメラを確認する。そこにはしっかりと未知の因子の情報が映っていた。
(おそらく、この因子は古妖と何か関係がある)
 行成の視線は、仲間が調べるため避けていたこの村の最大の神秘スポットに向けられていた。
 安土神社。土蜘蛛の住む社。


「土蜘蛛はどのような存在なのですかっ? ハロウィンに遊びに行くお茶目さんとかっ」
「ああ、おじいちゃんのような存在だよ」
 浅葱が宮司に質問すれば、このような回答が返ってきた。自分が生まれた時からいる存在で、いろいろお世話になった存在。
「土蜘蛛さんっいらっしゃいますかーっ」
 そういう前情報を得たアニスと浅葱。いざ社の前で一礼して中に足を踏み入れた第一声は、
「って、ちっさっ」
 そこには朱色の三宝の上にちょこんと鎮座する蜘蛛がいた。握りこぶし程度の大きさの土蜘蛛は、その声に笑うように答える。
「かっかっか。小さくてすまんな。ワシが安土神社の土蜘蛛、矢代だ。身なりが小さいのは、いろいろあってな」
 伝承にある時の権力者との抗争。その時に力の大半を削がれ、この大きさまで縮んでしまったという。
「風船みたいですねっ。それ以上大きくならないんですかっ。ごはん食べるとか不思議パワーとかでっ」
「霞を食う程度ではなぁ。人を喰らえばそれなりに力は戻るのだろうが」
 浅葱の問いかけにさらりと恐ろしい単語を混ぜて返す古妖。だが、体が小さいままということはそれを行っていない証左であった。
「あの。この村の特殊な因子は矢代様によるものなのですか?」
「それはわからん。人間の事だからな」
「少なくとも矢代様が力を与えた、ということではないのですね」
 アニスの問いにうむ、と頷く土蜘蛛。あくまで目覚めるのは人間の方、ということか。
「あとこの村の起源はどういったものなのでしょうか?」
「普段どうやって過ごしていて人間をどう思っているんですかっ」
 アニスと浅葱の問いに、しばし考えるように沈黙する土蜘蛛。
「この村自体はワシが来る前からあった村でな。血気盛んだったワシは人間の都に攻め入り、そして敗れ去った。力が衰えたワシをかくまってくれたのがこの村人たちだ。
 そんな経緯だ。村人は家族であり、仲間だ。そんな仲間の一人を助けてくれたオヌシ達も同等だ」
「人を襲う……土蜘蛛」
 アニスは引っかかる部分があり、沈黙する。そして意を決したかのように胸に手を当てて口を開いた。
「ここでこんな事を言うのもあれかもしれないのですが……土蜘蛛の古妖様を討伐してしまったことがあります。
 人間を襲う古妖様とはいえ、もうちょっと何か手がなかったのか……ただ、ただ謝りたかったのです。何か罪滅ぼしをしたいのです」
 罪の意識。それに耐えきれずアニスは告白する。
「それを悔いているのなら、それを行動で示せ」
「行動で……?」
「そうすることが、殺した命に対してできる唯一の弔いだ」
 矢代の言葉がアニスにどう響いたか。それはまだわからない。


「凜音ちゃんと一緒に書庫で調べ物!」
「慌てて本を破いたりするなよ」
 椿花と凜音は書庫に足を踏み入れた。村長から撮影の許可はもらっている。ある程度年代別に整理されているとはいえ、数が多いため一苦労だ。
「椿花、両手出してくれるか?」
「ん?」
 凜音は手袋を出し、椿花に渡す。その後て自分の手にも手袋をはめた。本を直手で触らず保存状態を守るための措置だ。
「直接触れて汚したりしないように、念のためにな」
「椿花の手、汚れて無いけど直接触っちゃダメなのか……わかったんだぞ!」
 元気良く頷き椿花は守護使役の『リドラ』に炎を吐かせる。その明かりが書庫を照らした。守護使役の炎は熱を持たず、何かに燃え移ることもない。
「よほど昔のものじゃなければ読めるとは思うが……まだまだ知識不足だな」
「凜音ちゃんは何を調べるの?」
「権力者に追われてこの場に流れ着いた土蜘蛛が、何を思い何を信じて今日まで生活してきたのか。それを受け入れた村人はどういう思いだったのか……かな」
「椿花は土蜘蛛さんや、八起の因子みたいな情報を中心に調べるんだぞ。……読めない漢字もあるけど」
 かくして凜音は過去の資料を。椿花は二十年前からの資料を中心に見ていくことになった。昔の文体と表現に悪戦苦闘しながら文章を読解していく。
「土蜘蛛自体はたまたまこの村にやってきたみたいだな。それを古妖と知らない少女が匿ったのが始まりか。
 最初は気味悪がられたが、土蜘蛛は助けてもらったお礼に古妖の知恵を授けることで信用を得て、この村を発展させていったらしい」
「ふーん。例えばどんな?」
「天候を読む知識、土を見る知識……源素ではなく自然と共に生きていく知識だな。古妖と人間の共存が書かれてある」
 それは稀なケースなのだろう。別の種族が手を取り合い生きてきた。だが確かに存在していた。
「八起みたいな因子は、二十年前ぐらいに出たみたいなんだぞ」
「覚者が現れた時期と、ほぼ同じか。その辺りは俺達と変わらないみたいだな」
「三つ目の目が開いたり、なんとなく古妖の居場所がわかったり……あとはビームが出たりするみたいだぞ。
 なんでも傍の魂から土蜘蛛の絆を感じるとかそんなことも書いてるんだぞ」
 日記形式で書いてある冊子を読みながら椿花がそう纏める。時々わかりにくい感じがあったが、絵でまとめてある部分もあり意味は理解できる。
「まとめると……土蜘蛛は長年かけてこの村の人達と共存してきた」
「そして三つ目になった人は、その土蜘蛛との絆を感じているってことだぞ。やっぱり何か関係あるのかな?」
「あるんだろうな。それはこれを読めばわかるかもしれないが……」
 書庫の中を見る凜音。このすべてに目を通すのは骨だ。徹夜をすればなんとか……。
「ん? どうしたんだぞ?」
 凜音の視線に首をかしげる椿花。どうやら無意識に彼女の方を見ていたらしい。
(止めよう。こいつも付き合うって言い出し兼ねん)
 小腹も空いてきた。切り上げの意味も含めて、腰を上げる凜音。椿花もそれに倣うように立ち上がった。


 夜。村長の家で泊めてもらうことになった覚者八人は、各々が得た情報を纏めていた。
「安土村の覚者数は三人。村人総数五十四名中の三人ですから、割合としては約六パーセント。一つの集落としては多い方ですが、異常というレベルではありません」
「むしろ余達の知らない因子が多く出ていることが問題だな。だがこれはこの村の状況を見れば推測はつく」
 成と久永の言葉に、アニスと浅葱が頷き応える。
「土蜘蛛……矢代様ですね」
「でもあの土蜘蛛さんは自分は村人たちに何もしていない、って言ってましたよっ」
 その疑問に答えたのは、凜音と椿花だった。
「土蜘蛛が自発的に力を与えているんじゃなくて、土蜘蛛がいることが因子発現の要因なんじゃないか?」
「日記にも魂から土蜘蛛との絆を感じる、って書いてたんだぞ」
 頭を掻きながら護がまとめ上げ、行成がそれを補足した。
「つまりあれか。土蜘蛛と一緒に暮らしているとその因子になりやすい、ってことか」
「おそらく土蜘蛛だけではない。古妖を先祖に持つ者も同じ因子が発現していたようだ」
 覚者の中では、安土八起達の因子についてほぼ確信に近い答えが出ていた。

『古妖との絆により発現する因子』

 それは交友関係という精神的な繋がりの場合もあれば、祖先に古妖を持つという遺伝的な繫がりの場合もある。もしかしたら当人が知らずとも絆が存在していることもあるのだろう。
 この因子発現が希少だったのは、古妖と深く付き合いのある人間が多くなかったからだろう。或いは絆があったとしても、別の因子に目覚めてしまったのかもしれない。
 だが、彼らは確かに存在しているのだ。そして神秘探求をつづけ、古妖との繋がりを続けていけば、その因子と交わることもある。FiVEにもいずれ、その因子を持つ者がやってくるだろう。


「これは提案なのですが」
 覚者達が村を出る前、成は村長と話をしていた。
「我々が連帯することで互いに有益な情報を提供し合える。何より、例えば先日の『古妖狩人』のような輩から、村や古妖を護る事に協力ができます。
 今後共継続的な交流をご提案したいのです」
「それは嬉しい限りです。何分我々では手が回りませんので」
「あと……安土君が良ければ五麟市に招待したいのですが、どうでしょうか?」
「え? いいんですか?」
 戸惑う安土に、歓迎の意を示す覚者達。村長も頷き、安土は覚者と一緒に村を出ることになった。
「これは皆様への友好の証としてお送りいたします」
 村を出る前、村長から渡されたのは、作りの古い羽織だ。だが思った以上に強靭で、重さを感じさせない。
「矢代様の糸を編んで作った物です。ささやかですが、皆様の身を守ってくれるでしょう」
 
 未知の因子の情報。その因子を持つ安土八起。そして土蜘蛛の糸で編んだ羽織。
 それを得て五麟市に戻る覚者達。道すがら、FiVEのことを安土に説明すれば、彼は瞳を輝かせて、話を聞いていた。
「皆さんのような覚者が沢山いるなんて、想像もできません」
 FiVEの話を聞いて胸躍る安土。千人を超える覚者など、想像すらできないといった顔で。
 
 古妖狩人との戦いで出会い、そして交わった未知の因子。
 この結果が古妖狩人との事態を大きく進展させることになろうとは、この時誰もが想像できなかった。


■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

 どくどくです。
 調査お疲れさまでした。

 田舎でのんびりしたということも踏まえて、イベシナ程度に命数が回復しています。
 戦いの合間の保養ということで。

 この出会いが如何なる物語を生むのか。それは皆様次第です。
 お帰りなさい。五麟市で仲間が待っています。

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特殊取得物ゲット!
種別:防具
名称:矢代の羽織
取得者:志賀 行成(CL2000352)
由比 久永(CL2000540)
神城 アニス(CL2000023)
寺田 護(CL2001171)
香月 凜音(CL2000495)
月歌 浅葱(CL2000915)
神楽坂 椿花(CL2000059)
新田・成(CL2000538)




 
ここはミラーサイトです